業務監査知識の吟味 (10)
― 内部監査報告書―
I 序 工 監 査報告書の作成 田 監 査報告書草案 に対する被監査者の同意 IV 監 査報告書の発行 V フ ォロー ・アップ (追跡調査),お よび,ま とめ I 序 監査人 には監査上の発見事項 を報告す る責任があるを組織の職員はすべて厳 選の精鋭揃いであるとして も,人 としてそれぞれに弱 さをもっているものであ るが故 に,そ の為 しているところにも所々に誤 りが存在 している可能性はある と言わなければな らない。 このことが監査上の発見事項 となる場合 もあれば, 誤 りは何 も存在 していないが故 に,“誤 りな し"と い うことが監査上の発見事 項 となる場合 もあ りうるであろう。いずれにせ よ,監 査上の発見事項につ き監 査 人が報告 を為す ときの報告 は, ともか く,“書かれた ものルでなければなら ない。それは,“書かれた報告"と い うものは,時 が経過 し,さ まざまな人々 が これに接 して も不変不動であるのに対 し,“口頭 による報告"と い うものは, 時間の経過 とともに忘れ られ,曖 味 にな り,人 か ら人へ と伝 えられるにつれて 曖味な ところに尾 ひれがつけ られ,取 捨選択 による省略が生 じ,情 報伝達 。是 正措置 ・分析 ・記録の基礎 とはな り得 ないことに因っている。報告が書かれる ことになる画面は紙面であって もパ ソコン画面であっても構わなぱ告1)-2)G・ W・Parker, 77らθr//2けθ?物aιム切αガけづヶ“ヮてアコ″化し%`玖9θttθ%けSグsけθttS, Gower House, 1995,p。103.
叡 居 ヤ酉
2 彦 根論叢 第 330号 監査 人 は,少 な くとも,未 済 の是正措置 がすべ て完 了 し,そ の確認 を行 うま 3 ) で監査に関与するものであ り,ま た,外 部監査の如 く1回 限 りの監査報告です べて終 りというわけでもない。しかしながら,監 査全体 という観点から見れば, 監査報告は矢張 り終 りに位置する作業であることに変わ りはないといえるであ ろう。人生の終 りに等 しく,監 査の終 りも終 りであって,担 当監査人に直ちに 次の監査が予定されているわけでは決 してない。それにもかかわらず,こ のこ とを承知 したうえで,次 の監査 を待ち望みつつの終 りであ り,監 査報告である ということでなければならないであろう。そうでなければ,後 に続 く者を全 く 顧みることのない勝手気儘な監査であったということにならざるを得ないであ ろう。本稿は,こ のような観点から,余 り多 くはないかもしれない監査報告上 の留意点を吟味 しようとしたものである。 工 監 査報告書の作成 「発見事項が如何 に重要なものであろうとも,そ れが報告書受領者の最 も重 4 ) 要 な関心事 となる見込 み はない。」 とす るG . W . P a r k e r 氏の発言の真意 は,明 瞭表示の原則 こそ第一義的なものであることを指す と解 してよい。すなわち, 「報告書 は明瞭 に して正確 ,そ して,偏 見 な く簡潔,不 確かなところな く,何 かが欠落 していることもなば」 とい うものでなければならない。 また,「なる 6 ) だけ素早 く作成 されなければならない」 というところにあると解 してよいであ ろう。 しか しなが ら,報 告書受領者にとって “きわめて重要ル,“組織の存立に かかわること"と 思われる監査上の発見事項が明瞭表示の原則に優先 されるが 如 くに余 りにも字面通 り解釈することは,こ の場合,誤 解に通 じるものと観て よいであろう。実質に関わること ・内面に関わることが外見に関わることより 軽視 されるべ きものであろうとは筆者には到底考え難い。同様のことは 「監査 の 報 告 書 は必 ず し も推 敲 され た もの で あ る必 要 は な い」 とい う こ とにつ い て もあ 3 ) 乃 ぢ冴,p.107. 4 ) - 5 ) 乃ぢα,p.103. 6 ) r b ぢ冴, p.104. 7 ) - 9 ) 乃づα,p.103.
業務監査知識の吟味Q 0 3 てはまるであろう。如何 にも,監 査報告の受領者は組織内部の人間に限 られて い る。 しか しなが ら,報 告書受領者 は作成者 としての監査人にとっては他者で あることに変わ りはない。監査報告書 は監査人 自ら用いるための備忘録ではな い。報告書 を読む人 ・受領者は真剣 ・真面 目にこれに対時 しているというのに, 正式 に整えられていない報告書であって差支えない とは筆者には到底考 え難い。 働 かつまた,報 告書は記録 として保管されるというのであれば,整 理不行届 きの ままの監査報告書が芳 しくない監査報告書の見本 としていつの日にか他者の目 に曝される可能性 もあることを否定することはできないであろう。字面通 りG. W.Parker氏の言葉に従 ったとして,氏 が而後の事 ども一切の責任 まで取って くれると考えてよいものであるかどうかは,読 者諸賢個々の判断すべ き問題 と いうべ きである。G.W.Parker氏が言わんとしているところは,む しろ,監 査 報告書の推敲に心配 りする余 り,監 査報告書がズバ リ的を射たものでなくなっ ては困る ;素直さが犠牲にされて しまっては困るということを指す と解すべ き 9 ) ものである。監査報告書が目的適合性 を失ったものであるならば,そ れが如何 に推敲 されたものであろうとも,あ るいは,明 瞭表示の原則に適ったものであ ろうとも,そ のような監査報告書が無益なものであることは論を侯たない。 し か しなが ら,監 杢報告書が目的適合性 を有するということと,そ れが推敲され たものであること,あ るいは,明 瞭表示の原則に適ったものであることとは両 立 し得ないような性格の ものであるとは考え難い。“必ず しも推敲 されたもの である必要はない"と いうGo Wo Parker氏の表現はこのように解すべ きもので ある。 (1)監 査報告書への記載事項 監査報告書に記載すべ き事項およびその内容は,外 観的形式に関わるもので ある限 りにおいて,明 瞭表示の原則から演繹 され,か つ,規 制されるべ きもの と考えてよいであろう。すなわち,前 掲Go W.Parker氏の表現から,明 瞭表示 の原則 を構成 している要件 としての明瞭性 ・正確性 ・不偏性 ・簡潔性 ・確実性 ・完全性 ・目的適合性 ・素直さ ・適時性に照らして導き出されるべきものと考 lo)rbゥα,pp.104-107.
4 彦 根論叢 第 3 3 0 号 え る こ とが で きる。G . W . P a r k e r 氏 に よって識 別 され てい る監査 報告 書 記載事 項 は以下 の如 きものであ るが, こ の 中の ( 工) に 関 して は 目的適合性 の下位 要 1 1 ) 件 5 W l H の 面 か ら少 く と も 3 点 の追 加 的 識 別 が 必 要 で あ る。 す な わ ち , (イ)監 杢範囲 (領域 ・局面 ・課題等) (口)監 査 の行 われた年月 日 (ハ)監 査 人氏名,お よび,被 監査者氏名 (工)矛 盾,お よび,そ れについての分類 -1.矛 盾の精密 な性質 -2.矛 盾の発見 された場所 -3.矛 盾発見の状況 (ホ)監 査実施の拠 り所 となっている基準 ・統制文書 ・要件等 1 2 ) 同様 に,(ホ )に 関 しては,参 照番号 ・発行番号 ・節 ・パ ラグラフ ・条項が, そ して,監 査報告書その ものに関 しては,発 行番号 ない し通 し番号が付 されて 1 3 ) い るべ きといえるであろう。 この ように,監 査報告書への記載事項が識別 されたならば,次 にはそれぞれ の記載事項 に対する記入上の注意如何 とい うことにならざるを得 ない。監査報 告書記載事項 に対す る記入 に関 し,記 入者 (監査人)の 自由裁量が許 される範 囲 には 自ず と一定 の制約が あ るこ とは言 うまで もない こ となが ら,例 えば, (二)-1,(工 )-3に 関 して 自由裁量の余地が ないわけではない。 この よう な記載事項 に対す る記入上の留意点 としてGo W.Parker氏が識別 しているとこ 1 4 ) ろ は下記 の如 きものであ る。 ( 1 ) 誰 か に罪 を着せ た り, 無 能 で あ る こ とをほのめ か した りす る こ とを避 け る こ と (il)是正措置がどういうものであるか明白であ り,か つ,是 正措置の識別が 監査人の役割 と権限の範囲内のものであるとき,是 正措置の識別を促進す 1 1 ) - 1 2 ) r b あd , p 。 1 0 3 . 13)rbづα, p.107. 1 4 ) 乃 ガα,pp.103-104.
業務監査知識 の吟味00 ること (lil)事実 と意見 とを区別すること 先ず (1)に ついて : どうして誰かに罪 を着せた り,無 能であることをほのめか した りすることが あってはならないのか ?そ れは,監 査報告書の受領者は,そ の有 している倫理 観 の故 に,か くの如 き報告書 を作成 し提 出 して きた監査人に対 し怒 りを発 し, 罰 を下す ことになるであろうことを恐れてのためであろうか ?成 程,組 織 に在 籍 している職員 は,一 人残 らず,そ の時々の最高経営責任者が良 しと認め採用 す るところ となった者であるが故 に,そ の中の誰かが他者 (監査人)に よって 罪 に落 とされ ようとしていることは許 し難 しと考 えること,大 いにあ り得 るこ とと認め ざるを得 ない。 しか しなが ら,た とえば,(二 )-1,(二 )-3に 関 し てなされることになるか もしれないこの ような記述は,少 な くとも,確 実性の 要件 を充足 しない もの,そ れ故,明 瞭表示 の原則 に反す る ものであるが故 に “ 避 けるべ し"と 勧 め られている旨理解することもで きる。 (11)に ついて : G.W.Parker氏が他 の箇所 で示 している ところによれば,必 要な是正措置 を 識別 し,是 正措置完了の手筈 を整 え,監 査 プログラム担当部長 と是正措置遂行 の 目標期 日を調整する責任 を負 っている者,そ れは,矛 盾が発見 された領域 を 管轄 している部 門の長であると この ことと,“是正措置が どういうものである か明白であ り,か つ,是 正措置の識別が監査人の役割 と権限の範囲内の もので あるとき"と の関係 はどの ように解すべ きものであろうか ?少 な くとも,こ の (11)前段の文言は明瞭性 に反 した前提であると言 うことがで きるであろう。 明瞭表示の原則か らこのような前提 を伴 う勧告が導出されているということは, それ 自体,矛 盾 と解すべ きものである。それ故,(11)に 関 しては,そ こに何 等 の意義 をも認めることがで きない故 に,こ れを無視 して差 し支えな しと言 う ことがで きるであろう。 1 5 ) 乃 ケα,p。107.
6 彦 根論叢 第 330号 ( 1 1 1 ) につ い て : 1 6 ) 事実 とは観察 された事実 に限定 されるべ きものであ り,こ れに対す る監査人 の意見 とは唆別 されるべ きものであることは論 を侯たない。それにもかかわ ら ず,こ の ような注意がG.W.Parker氏 において為 されなければならない とい う ことは,氏 をしてこのように言わ しめざるを得 ない現実が身近 にあるとい うこ とを指 し示す もの と解 される。 (2)監 杢報告書の書式 (判型) G.W,Parker氏 が推奨 している最終版監査報告書の書式 (判型)は 以下の如 きものである。 内部監査報告書 領域 または局面 監 査 人 被 監 査 者 監 査 実 施 日 ABCDE社 (S事業所) S I Yr l Nnnn 署 名 N : 基 準違反D : A B C D E 社 の文書に照 らして欠陥あ り O : 要 観察 項 目 細 矛盾の 類 型 是 正 措 置 氏 名 完了期 日
出所 :G.W.Parker,。 pc枕 ,p.106.Figure9:2 Audit report format
ここに紹介 している書式 には明瞭表示のための工夫が所々に施 されているこ とを認め得 る。そ こに発行番号 ない し通 し番号が付 されていることを認め得 な いけれ ども,発 行番号 ・通 し番号 を付 してお くことの方が賢明である旨勧め ら
業務監査知識の吟味Q0 7 れ てい る こ とは前述 の通 りであ る。それ は,監 査 報告書 と監杢 予定表 との照合 ・後刻生 じることになるか もしれない監査報告書 の修正 ・最新情報の追加 を見 1 7 ) 越 しての ことである。引用紹介 している書式では,右 辺上部 に配布先が印字済 み になっている。 このことの意味 は,監 査報告書の配布先 は限定 された もので あることを監査人 自身が確認 し,報 告書受領者の了解 を得 る働 きをなす もの と 解す ることがで きるであろ う。矛盾の類型記入欄 にはN(基 準違反)・ D(社 内文書,た とえば規程等,に 照 らして欠陥あ り)・ 0(要 観察)い ずれかの記 号で記入す ることが求め られている もの と想像 される。 これによって,監 査報 告書の受領者 にとって重要度の判別 は きわめて容易 になる利点 を認めることが で きるであろう。是正措置欄 の氏名 は,矛 盾が発見 された領域 を管轄 している 部門の長の氏名であって,監 査 プログラム担当部長 と共 に是正措置完了の予定 期 日を調整 し,必 要な是正措置 を識別するとともにその手筈 を整 え,是 正措置 の進捗状況 を点検 し,是 正措置の完了 を監査 プログラム担当部長 に報告すべ き 1 8 ) 者である。但 し,是 正措置 をどの ように進めるかは,全 く,是 正措置欄 に記 さ れる部長任せであるか といえば,そ うではな くて,そ の背後 に監査 プログラム 担当部長が控 えている。ただ,そ の氏名 は隠 されているとい うのである。すな わち監査 プログラム担当部長は,是 正措置監督の責任 を負 う者ではないけれ ど も,必 要な是正措置 を積極的に進行 させ る蔭の責任者 として位置づけられてい 1 9 ) る。報告書最下欄の署名 とは監査人の署名であ り,時 によっては,被 監査者 に 2 0 ) 連署 させ る署名である。監査人が ここに署名することの意味,そ れは矛盾発見 時 に用 いたの と同 じや り方で証拠 を見,“取 り繕い" そ の他 の弱点がなお存在 しておればこれに気付 く最良の立場 にある “矛盾の存在 を発見 した監査人" 自 身が,是 正措置の完了 を確認 した とい うことに他 ならなしt告他方,被 監査者連 署の意味 は,監 査報告書 に記載 されていることはすべて真実であ り間違いない ものであるとい うことを認めた もの,言 わば,鎖 につながる憐 れな罪人如 き者 としての同意署名 と解す る他 ないであろ う。 この ように,G.W.Parker氏 によ 1 7 ) - 1 9 ) r b 勉,p。lo7` 2 0 ) 乃 あα,p。104. 2 1 ) 乃 づα,p.107.
8 彦 根論叢 第 330号 り紹介 され てい る監査 報告書 の書式 につ いて吟味 して くる ときには, チ ェ ック ・リス トない しチ ェ ック ・シー トを直接 に監査報告書 として用 いることに否定 的 な氏 の見解 は首肯 すべ き もので あ る こ とが解 る。 皿 監 査報告書草案に対する被監査者の同意 前 工節 の(2)において紹介 している監査報告書の書式 は,最 終版の書式 として のみならず,監 査人署名の意味合いを変えることによつて,速 報版の書式 とし て用いることも可能である。ここに,監 査人署名の意味合いの変更 というのは, 速報版監査報告書作成時 に是正措置が完了 しているとは限 らず,そ れ故,是 正 措置完了の確認 とい う意味合い を監査 人署名 にもたせ ることには無理があるこ とに因っている。担当監査人が誰であるかは監査報告書上部の監査人氏名欄の 印字 を見れば明 らかなことである とはいえ,そ れだけでは当該監査報告書が真 実,担 当監査人によって作成 された正式 なものであるか どうかは不明 とい うベ きであろう。 この ように,速 報版監査報告書 に関 しては,そ れが正式 なもので あることの証拠 としての意味合いを監査人署名 にもたせたうえで,前 節紹介の 監査報告書書式のままこれを用いることは可能であると言 うべ きである。 この ような速報版監査報告書 の必要性 はG.W.Parker氏 によ り以下の如 く要 約 されてい ると この中の (b)(c)に 関 しては,監 査報告書の受領者 におけ る意志決定根拠の明確性が背後の要件 になっていることを確認 し得 るであろう。 す なわち, (a)詳 細が未 だ誰 もの心 に明 らかであるとい うこと (b)是 正措置の必要性 を識別 し,ま た,是 正措置 をとり,あ るいは,必 要 な 専 門家 とか一段上級の経営陣と問題 について話 し合 うについて時機 を失 し 22)rbぢα,p.70.詳 細 については下記 を参照 されたい。 拙稿 「チ ェ ック ・リス トー 今 日の環境 下 にお けるその意義論一 」,桜 井久勝 ・加藤恭彦編 著 『財務公 開制度論 の新展 開』,中 央経済社,平 成12年,158-172頁。 なお,監 査報告書 の 一部分 として,使 用の完了 したチェツク ・シー トを含めることについてはG.W.Parker氏 も是認 している。 G.W.Parker.op.づ け,p.104. 23)乃 づ溺,p.104.
業務監査知識の吟味Q 0 9 てしヽることはない とい うこと (c)他 の領域 あるいは他 の商談 に対 し直接 的な衝撃か,あ るいは,影 響 を及 ぼすか もしれない結果 については,す ぐに対応策が講 じられるとい うこと 監査報告書の発行 に先立 って,報 告書草案 を被監査者 に示 しその同意 を取 り つけてお くこと,あ るいは,監 査人の側 に何 らかの誤解があ り,報 告書草案の ままでは真実 な情報伝達がで きない とい う場合 においては,報 告書草案の修正 2 4 ) を行 うことが必要であるが,そ の根拠は上記の如 く,意 志決定根拠の明確性に 求めることができるであろう。この監査報告書の受領者における意志決定根拠 の明確性 という強力な後盾がなければ,報 告書草案に対する同意を被監査者に 求めようとしても気後れしてしまう場合 も数多 くあるであろうことが想像 され る。Go W.Parker氏が掲げている以下の如 き事例 に見 られる判断 も,こ のよう な理由にもとづ くものとしてこれを理解することができるであろう。 「(休日前の金曜 日に監査が行われた場合のように)被 監査者が監査報告書 草案を読 もうとしても,こ れを入手 し得ないという場合 もあるであろう。この ような場合,何 としても監査報告書草案が被監査者に届けられるようにすべ き である。〔監査報告書草案の入手が阻止 されるというが如 きことは決 してあっ 2 5 ) てはならない。〕」 「被監査者が “監査報告書の草案をお預か りします。私 としては今 日これに ついて吟味することはできません。とにか く,私 たちの見たものの中に不適切 なところはなかったかどうか定かでないのです"と いう意見を述べたとしても, これは被監査者の側の時間稼 ぎの策略であるとか,被 監査者はこちらと交渉 し 2 6 ) ようとしているのであるなどと考えてはならない。」 このように,意 志決定根拠の明確性 という観点から,監 査報告書に記載 され ている事項および内容について,そ れらはすべて真実である旨の同意署名を被 監査者 より取 り付けることの必要性は解るとしても, しか しながら,そ のよう な同意署名を叙上の如 き書式の監査報告書に徴することは常に可能であろうか 24)乃 勉 。この場合 には,修 正 に先 だって証拠 の再吟味 を行 うこと,そ して,十 分 な納得 を 得 る ことが どうして も必要であ る。 25)-26)乃あ冴.
10 彦 根論叢 第 330号 とい う疑間は残 らざるを得 ないであろう。その ような同意署名 を確保する担保 は何 も存 していない とい うところに上記引用監査報告書書式の弱点 を認めるこ とがで きる。仮 に,被 監杢者が監査人の退去後 に証拠 を勝手 にい じって,矛 盾 は当初か ら存在 しなかったかの ように細工 をす ることが可能であ り,監 査人 と して も,こ れに対処する術 を持 ち合わせていない とすれば,監 杢報告書記載の 矛盾事項 についてそれが真実である旨の同意署名 を被監査者 より徴することは 2 7 ) 不可能 とならざるを得 ないであろう。 この ような弱点 ・面倒 な事態 を回避する ため の工 夫 と して “監査 に よって発 見 された矛盾 を記載 す るための ノー ト
(“Audit Discrepancy Note" :以 下 “矛盾 ノー トルと略称す る)を 理解する ことがで きる。すなわち,監 査人は矛盾 を発見す るや,直 ちに,矛 盾 ノー トを 取 り出 して詳細 を記録 し,記 録 されていることは事実である旨の同意署名 を被 監査者 よ り徴す とい う工夫である。 これは,言 わば,現 行犯 に対する措置 に近 い ものであるが故 に,被 監査者は同意署名 を拒否 し難い状況下におかれている ことを活用 した方策であると理解することがで きる。矛盾 ノー トに署名 した被 監査者の同意 していることは,単 に,矛 盾存在の事実は記録 されている通 りの 2 8 ) ものであるということであるにす ぎないとしても,こ のような同意署名の即時 徴収によって,矛 盾は当初 より存在 しなかったかのように装おうとする被監査 者への誘惑は除去 され,記 憶上の疑間が後刻発生することもなくなることは権 かと言 うべ きであろう。矛盾ノー トには,こ のように,監 査報告書に不可欠な 要素 (被監査者の同意署名)を 確保する利点を認めることができる。それにも かかわらず,G.W.Parker氏は何故か矛盾ノー トの活用に消極的である。氏日 く。「このようなや り方をとっていたのでは,監 査人はあたかも駐車違反カー ドを差 し出している交通巡視員のように思われて しまうし,是 正措置は再び処 罰の意味合いをもってしまうことになる。このようなアプローチは建設的なも のと言えない。叙上の如 き状況下における監査報告 というものは単に矛盾ノー 27)rb勉 .これはG.W.Parker氏の表現 「被監査者 に矛盾 ノー トに署名 させ るこ とによ り,監 査 人の退去後 ,証 拠 を勝手 にい じつて矛盾 は存在 しなかったかの ように装お うとす る誘惑 は除去 されることになる。」 を逆の観点か ら表現 し直 した命題である。 28)-29)乃ぢα.
業務 監査 知 識 の吟味0 0 1 1 2 9 ) 卜の集合物であるにす ぎない。」 と。 しか しなが ら,監 査報告書の一部分 とし て “使用 の完了 したチェ ック ・シー トルを含めることは全 く差 し支 えないこと としなが ら,矛 盾 ノー トに関 しては然 らず とい うのはどうい う理由によるもの であるのか不可解 と言わざるを得 ないであろう。G.W.Parker氏が紹介 してい る “矛盾 ノー トルの書式 は以下の如 きものである。 監査 によつて発見 された矛盾 に関するノー ト S I Y r l N n n n 作成 日│ 監査領域/局 面 監 査 人 被監査者 矛 盾 監査人署名 被監査者署名 上記詳細 について同意 した 是正措置 に関する提案 是正措置完了期 日 是正措置完了確認日 署 名 署 名 裏面 にフォロー ・ア ップ行動 について記録せ よ 出所 :GoW.Parker, 9p.cケ,p.105.Figure9:l Audit Discrepancy Note
Ⅳ 監 査報告警の発行 「監査報告書の発行がなされるまでは,監 査人の最 も重要な役割は未だ完成 3 0 ) していないのであるということを監査人は真に理解 していなければならない。」 ここに,「真に理解 していなければならない」 という表現によってG.W.Parker 氏が特 に注意を喚起 しているのは “安全の確保 (security)1ということであ ると解することができる。重大な商業上の秩序 とか国家の安寧にかかわるデリ 30)-32)乃 あα.,p.107.
業務監査知識の吟味Q0 13 ・ 監杢人 ・ 被監査者 ・ 被監査者が所属 している部門の長 先ず,“安全の確保"と い うことが優先的考慮事項 となっている領域で職務 に従事 している職員 とかそのような課題 に取 り組んでいる職員 (被監査者)は , 最高経営責任者の信任 を得 てその職務 に従事 している者であるとい うことが確 認 されなければな らない。何故 にか ような者が,そ の直属上司 (被監査者が所 属 している部門の長)を も含めて,“守秘義務 ・安全確保の義務 に違反 しない 者であることを条件 として"と い うが如 き限定 を付 けられなければならないの か不審 とい うべ きである。内部監査報告書 によって新 たに付加 される情報 とい うものは,こ れ らの職員 にとって,監 査結果 に関する情報だけであると考 えて よい。 この監査結果 に関する情報が守秘義務 ・安全確保の義務 に関わ りをもつ 情報であるようには, どうして も,考 えられない。仮 に被監査者,あ るいは, 被監査者が所属 している部門の長の行動 に守秘義務違反 ・安全確保の義務違反 が認め られ,そ の ことに関する被監査者の同意 を徴することがで きなかったと して も,監 査人が被監査者 における安全確保の義務違反 を認定 した証拠がある な らば,そ の旨の監査報告書の作成 と発行 には何等の支障 もない と解すべ きで ある。安全確保の義務違反あるいは守秘義務違反 を理由 とした被監査者宛監査 報告書 の配布 中止が,監 査報告書提 出先 としての最高経営責任者 より指示 され ている場合 はいざ知 らず,そ のような指示 もないのに監査人あるいは監査 プロ グラム担当部長の判断で,“監査報告書の配布先決定"と い う一種 の処断 を下 し得 るものであるのか否か筆者 には解 らない。 “ 中央の監査書類整理箱"と い うのは,“最高経営責任者気付で提出されて くる書類の受け皿ルとで も解すべ きであろうか。最高経営責任者の もとには 日 毎 に多種多様 な書類が多数提 出されて くるであろうが故 に,最 高経営責任者 に 対す る報告書類の取 り次 ぎは専任職員が これを為す とい うシステムになってい る とすれば,こ の職員 に対する安全確保 の義務違反の誘惑 を,“その可能性 な し"と 否定することはで きないであろう。最高経営責任者の信任厚い ものであ
業務監査知識の吟味Q0 15 にこれを処理することがで きなければ,早 晩,そ の組織が存続の危機 に陥るこ とは確実 と考 えてよい。すなわち,未 解決の矛盾は,そ の範囲を拡大 させるに 至 り,組 織内部か らの崩壊 を招 くのみならず,い ずれ組織外部の利害関係者の 知 る ところとなって登録の取 り消 し ・仕事の喪失 ・外部的信用の喪失 ・監視の 強化 といった組織外部か らの措置にさらされざるを得ないことになるであろ野告 まことに,合 意 された 日,あ るいは,命 じられた 日, も しくは,延 期 された 日 に是正措置が とられなかった とすれば組織 はか くの如 く重大な状況 に追い込 ま れることになるとい うことを被監査者 も課長 も部長 も知 らされることな く,か つ また,こ れ ら組織内部の職員に矛盾拡大の意図 もな く,矛 盾の拡大が生 じる 3 7 ) ことはないと言 うべ きである。G . W . P a r k e r 氏が 「プログラム倫理 という言葉 によって意味 されるところは,こ の場合,内 密の意図 ・画策があるか否かとい
うことに関しては,その疑いなしということでなければならなば告
」と述べて
いることの意味,そ れは要するに,組 織内部の職員 には矛盾拡大の意図な しと 考 えて よい とい うことに他 ならない。それ故,残 る道はただ一つ,是 正措置 を とることがで きなければ どうい うことになるか とい う“嚇 し"を 被監査者ある いはその上司 にかけるとい うことであ り,こ れで十分であるとい うことでなけ ればならない。 これは第 田節 において論 じた “監査報告書 に対する被監査者の 同意署名の担保 はこの ような “嚇 しルに求めることがで きることを認めた もの と理解す ることがで きるであろう。すなわち,場 合によっては最高経営責任者 まで もが陣頭指揮 をとらざるを得 ない ような問題 とい うものは,こ の場合,是 正措置の不執行 とい うことであ り,矛 盾存在の事実は監査報告書 に記録 されて いる通 りの ものであることに同意 しない,従 って,同 意署名 しない被監査者の 存在 とい うことにならざるを得 ないのであろ うけれ ども,Go W.Parker氏 の提 唱するこの ような “嚇 し"の 前 に被監査者,あ るいは,そ の上司は必ず降伏す るであろうなどと考 えることはで きないのではないか と筆者は考 える。 このよ うな対応 は,あ たか も火 に油 を注 ぐ行動 に似 て,そ こまで言 うならば組織全体 を道連れに破減 に至 らん との選択 をする被監査者 も現れる可能性 を否定するこ とはで きない と考 えるか らに他 ならない。 これは “嚇 しルの裏 にある組織の弱16 彦 根論叢 第 330号
点 を被 監査 者 が知 って しまってい る こ とに大 い に関 わ りが あ る と考 えて よい。 そ れ故 ,監 査 報告書記載事項 に対 す る被 監査 者 の同意署名 を得 る担保 ・手段 と してGo W.Parker氏の言 う “嚇 しルを用 い る こ とは,賢 明であ る どころか,危 険 な こ とであ る と言 わなけれ ばな らない。