教育講演 〔東女医大誌 第56巻 第2号頁 203∼209 昭和61年2月〕
CT,超音波 診断の要点
3)腹部消化器超音波診断
東京女子医科大学 アキ モト秋 本
消化器外科 シン 伸 (受付 昭和60年10月7日)Diagnostic Abdominal Ultrasonography Shin AKIMOTO
Department of Gastroenterology, Tokyo Women’s Medical College
Dlagnostic accuracy of the ultrasonic examination highly depend on examiner’s experiences and techniques. Therefore the examiner should be well trained and realize principles on the ultrasonics,
limitations of the diagnost孟。 procedure using sound wave and characteristics of several different scanning
methods available now. Furthermore he should have a thorough knowledge of normal three dimensional
anatomy of organs and vessels.
Basic histopathological knowledge is also demanded to him, because ultrasonic images show good correspondence with submacroscopic structures in many cases. With these knowledges(acoustic physics, ultrasonic hardware, anatomy and histopathology)and keen sense reacting to faint abnormal findings, accurate ultrasonography can be accomplished.
はじめに コウモリやイルカが,対象物との距離を測るの に超音波を使っていることはよく知られている. 一方われわれ人間が超音波を利用したのは,第1 次世界大戦中ソーナーとして海底探査を行なった のが最初とされている.これを医学に応用したの はさらに下って1942年,Dussikが脳腫瘍を超音波 透過法によって描出したのを初めとする.その後 魚群探知器や金属探傷装置の開発が進むのと相 侯って医用超音波も透過法から反射法へと方式が 転換され,表示方式もAモード注1)からMモー ド注2),Bモード注3)へと進んで行なった.さらにドプ ラー,グレイスケール注4),実時間表示注5)と言う 様々な新しい技術が導入され,大変大きな情報量 を得るに至った訳である.現在では他の画像診断 法からは得難い情報の獲得も可能であり,その役 割も多岐を極めている(表1). しかしながら,超音波診断を有効かつ確実に行 程1 腹部超音波検査の役割 1丘rst choiceの検査として (1)無症状患者に対するスクリーニングとして (2)腹痛等有症状患者に対する 〃 (3)腹部腫瘤等有所見時の臓器同定 (4)黄疸の鑑別 II精査目的の検査として (1)病変の性状判定 (2) 〃 良悪性判定 (3)手術適応判定 III穿刺による診断的応用 (1)造 影 (2)細胞診,生検 iV外科的応用(interventional) (1)穿刺ドレナージ ‘(2)術中使用 V新しい試み (1)内視鏡的超音波検査 (2)組織特性(定量的組織診断)へのアプローチ なうためには,超音波検査法の持つ特長とともに その欠陥にも十分な理解が必要であることは言う
表2 超音波検査の特色 1.侵襲がない 2. targetカミ広し・ 3.実質と管状構造(血管・胆管・膵管)双方の情報が得られ る 4.実時間性が高い 5。自由な断面が得られ易い 表3 超音波検査の欠点(落し穴) (1)空気・骨・Ba等による画質の低下 (2)Artifactの存在 (3)断層面の厚みによる虚像 (4)音速の差による像の歪み (5)ある環境下での相対的表示 までもない(表2,3). 現在,超音波診断の利点や有用性については余 りに多くのことが語り,記されているので,本稿 では診断の要点としで心得ておくべき“pitfall”を 中心に記してみたい. 音響学的な制約 超音波診断に利用される周波数は現在,通常3.5 MHz∼7.5MHz程度である.これは,周波数の低 写真1 アーティファクト 肝臓,胆嚢の矢状断像であるが,浅部には腹壁層構 造に由来する多重反射が3本の横線として出現.胆 嚢内にもモヤモヤした一見d6bris様のサイドロー ブ注6)アーティファクトがみられる.細い2本の縦線 は電源から入ったノイズである. 写真2 ゴースト 肝左葉横断像で,2cm大の嚢胞とその深部に弧状の門脈左枝膀部がみられる.左は 1本,右は嚢胞の影響で,超音波の屈折が起り,一見2本並んで存在しているよう にみえる,
いものでは分解能が悪く,一方周波数の高いもの では減衰が強いと言う事実に基づいて選ばれた帯 域であると言えよう.つまりある程度の深さまで 極めて高い分解能を得ようとすることには原理的 なムリがあると言うことである.ちなみに,距離 分解能には使用超音波の2∼3波長を要すると考 えると,生体内での分解能限界は0.4∼0.6mmと 言うことになる.実際には生体組織内での散乱, 屈折等が加おり分解能はさらに低下することにな る.又この非直進性は得られた画像情報の歪みの 原因ともなり,本法の欠点の1つと言える.さら に最も重要な点は,超音波反射法を用いた現在の 表示法が,常に周囲環境の影響を受けた相対的表 示であると言う事実である.これはさまざまの アーティファクトの発生や,同一(類似)病変の 多様性の要因であり,画像の解釈を困難なものに しかねない.画像はあくまでも超音波が通過した 各組織における固有音響インピーダンス(すなわ ち密度と音速の積)に支配されたものであると言 う点を忘れてはならない.空気や骨が描出の邪魔 になると言うこともこの点に起因する訳である. 又,本法は他の画像診断法と比較して極めて アーティファクトの出易い診断法であることにも 留意すべきである.すなわち,電源からの電気的 アーティファクトのほか,振動や,生体内の正常 構造すらがアーティファクトの原因となり得る. 又,いわゆるゴーストの出現も時にみられる(写 真1注6),2). これらさまざまな,超音波画像の持つまやかし 性を忘れて,その有用性のみにとらわれてはなら ない. 各種診断装置の得失 超音波診断装置開発の歴史には2つの大きな飛 躍がみられる.グレイスケール装置と,リアルタ イム装置の開発である. 白黒表示から階調性画像の表示(グレイスケー ル表示)へと進展することにより微細な病変の描 出が極めて正確になった.一方手動装置からリア ルタイム装置の実用化により,血管等管状構造の 追及をはじめ走査の簡便化がなされ,検査の普及 に大いに貢献した.さらにリアルタイム装置の走 査方式にもリニア,セクタ,コソベクスの各種が 腹部検査用に実用化された.これら各装置の特徴, 弱点を十分理解して活用することが必要である. 手動装置は通常,接触複合走査に用いられる. 得られる画像が静止像であるのは言うまでもない が,広範囲の描画が可能であり,従って,病変の 位置や範囲について説得力ある情報を提供するこ とができるのが最大の利点と言える代りに描出操 作に経験と時間を要するのが難点である. リアルタイム装置は画像描出にほとんど技術を 必要とせず,連続的に自由な断面の変換が可能で あり,この動態観察のなかから拾い上げられる情 報の量と質は手動装置による静止画像から得られ るものと比べ,はるかに勝るものである.しかし, 同時にそれは,時々刻々変化する画面から正確な 3次元的情報をくみとる理解力を必要とし,又短 時間に広汎な検索が要求されることにもつなが る.そしてリアルタイム装置の最大の欠点は,装 置の原理に起因する視野の制限である.リニアは 矩形,セクタは扇形の視野を持ち(図1),最近実 用化されたコンペクスはその中間形の視野を示 す。リニアは浅∼深部まで安定した良質の画像が 得られる反面,視野の広がりや接触面走査方向へ の自由度が少く,死角の存在をさけ難い.これに 対しセクタは深部視野の広がりと接触面の自由な 傾ぎが特長で,死角が極めて少い反面,浅部の視 野が狭い点と,走査線が広がることによる深部の 画質劣化とが問題となる(写真3,4).コンベク sector 奄撃獅?≠ 51015 図1 リニア走査とセクタ走査の視野
写真3 電子リニア走査画像(肝右葉肋間断層) 向って左端の肺のガス像に隠れて,高エコーレベル の肝癌は,そのごく一部が描出されているに過ぎな い.画質は腰部から深部までほぼ一定で良好である. 》
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写真4 電子セクタ走査画像(肝暴騰肋間断層) 写真3と同一症例で,こちらでは横隔膜直下までの 十分な視野が得られ,肝癌の全貌が捉えられている. 但しごく浅部の視野と画質が不良であり,又深部は 十分な視野は得られるものの,横流れ像がみられる。一一_一_一
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図3 胆道と門脈 ス走査は双方の長所をとり入れた方式で,扇形角 度と接触面の大きさが選択可能なことから,将来 は腹部検査の中心的な走査法になるものと推測さ れる.熾諜’
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図4 膵と周辺血管など Kid,超音波解剖 超音波画像から読みとるべき,臓器と血管・胆 管・膵管等の立体的な相互関係は,“超音波解剖” と表現され,その把握は,検査および診断上最も 実際的かつ重要とされる.超音波画像は矢状断, 横断,前額断,さらにさまざまな斜め断として得 られる.それらは,従来ある解剖書からは全く読 みとり困難な像の場合が少なくなく,超音波検査 を通して初めて理解できる点も多々ある.臓器の 同定やその部位の決定には臓器内外の血管等管状 構造が重要な役割を果す.参考となる肝・胆・膵 の模式図を図2∼4に示す. 肝では門脈枝と肝静脈が区域の決定に不可欠で あり,胆道では胆管と門脈の位置関係がポイント となる.膵の同定には上腸間膜動静脈,脾静脈が 特に重要である. 肝胆膵について(とくにリニア走査で)見落し 易いあるいは死角となり易い部位を以下に示す, 肝では右葉宥窪部,左右最外側,左葉内側区域 写真5 肝細胞癌 特徴的な所見を備えた典型的な肝癌像.被膜に由来 する辺縁低エコー帯,線維性隔壁に由来する内部線 状低エコー,これらに区切られた島田配列のいわゆ るモザイクパターン,後方エコーの増強,外側陰影 がみられる. 下面が見落され易い.いずれも肺又は肋骨弓と重 り易い位置である. 胆道では総胆管下部が十二指腸あるいは横行結 腸のために見えにくい部位として注意を要する. 膵では頭部,尾部の端付近が消化管こしの描出 となりがちで良好な像を得にくい. これらに対して体位変換,排ガス処置,飲水, さらにはセクタ装置の利用が行なわれる. 超音波画像と組織構築との対応 超音波反射法は,音響インピーダンス(すなわ ち一種の音響学的硬さ)の異る2つの媒質の境界 面からはね返ってくるエコーをスポットとして描 出する方法である.従って音響インピーダンスの 近似した環境からは反射は少く,物理的な硬さと 無関係にインピーダンスにムラの強い環境からは 多数の(あるいは強い)反射が得られる. このことは組織構造の均一性,不均一性,とく に結合織成分と細胞成分の混在程度や,凝固壊死 巣の存在,液状部分の存在等を超音波画像から類 推することを可能にしてくれるものである. 写真6 肝細胞癌(低エコーレベル) 信順葉深部に2.5cm大のほぼ均一な内部エコーを 示す低エコーレベルの腫瘤がみられる.2cm以下の 小肝癌では,しばしば見られる所見である,写真5 の例とは異なり特徴的な所見に乏しい.
写真7 肝血管腫 典型的な血管腫像(7。5cm大).高エコーレベルで, 内部には淡いぬけの部分がみられる.辺縁や境界部 分には,低エコー帯はみられない.基本構造である 海綿状部分が高レベルの部分に相当する. 注意しなけれぽならないのは,組織学的な均一 性の度合いが病変の良悪性など病理学的な態度と は一致しないと言う,至極当然の事実である.あ くまでも組織構造の均一性が低エコーレベル(反 射が少くかつ弱い),不均一性が高レベル(反射が 多くかつ強い)を示唆するというに留まる訳であ る.そして,それらの組合せによって生ずる病巣 の各種パターン(図柄)から病変の種類を推定し て診断が下されることになる訳である. 異なる組織像を示す病変が類似画像を呈する場 合もある反面,類似組織像を示す病変で異なる画 像を呈することもあり得ることを念頭に置いてお 写真8 肝血管腫(低エコーレベル) 4cm大で,周囲と比べて明らかにエコーレベルが低 い.むしろ,低エコー型の肝細胞癌との鑑別が問題 となる.この例では血管腫の血洞が広いことと,周 囲肝組織に脂肪沈着が存在することの2つの要因が このような所見を呈すもとになったと考えられる. かねぽならない(写真5∼8). おわりに 超音波検査によって得られる情報が,環境に影 響を受ける,あくまでも相対的なものであり,極 めて鋭敏に検者の経験や能力に左右される診断法 であることを考慮すれば,本法の診断の要点は以 下の如きものと考える.すなわち,1)各疾患の示 す超音波所見の理解は当然のこととして,2)診断 装置も含めた,本法の原理的な特色と制約を十分 に踏まえた上で,3)正常立体解剖を念頭におき, 4)広い標的に対処し得る,いわぽ全方位型の注 意,関心を払うこと,である.提供される情報が 多いにも拘らず(あるいは余りにそれが多いから) 1点のみに注意が集中すると他の有用な情報が カットされてしまうことがあり(フィルター効 フィルター効果 選択的注意は 注意が向けられていない方の情報を カットするフィルターのはたらきをする (1958Broadbent1969Treisman) カクテルパーティー効果 注意を向けていない 雑然とした情報の中からでも 関心のある情報は拾い出される (1959Moray) 図5 フィルター効果とカクテルパーティー効果
果),超音波検査を有効に行なうためには雑然とし た一見無意味な情報の中からでも必要な(関心の ある)情報を鋭敏に拾い上げる能力が必要と言え る(カクテルパーティー効果)(図5). 煎じ詰めれば,音響学的制約,診断装置,解剖 と病理,に関する知識あるいは理解と言う,基本 的要件を満たすことこそが,超音波診断の要点で あると結論づけることができよう. 本論文は昭和60年9月28日,東京女子医科大学学会 第51回総会において発表した, 注1)Aモード 超音波反射波の強さを振幅におきかえて,スパイ ク状の波形として表示する方法(Amplitude mode) 注2)Mモード 超音波反射波の強さを輝度におきかえてスポッ トとして表示し振動子と反射源との距離の変化 を時間軸上に連続描画する方法(Motion mode) 注3)Bモード 超音波反射波の強さを輝度におきかえてスポッ トとして表示し,かつ振動子を2次元的に移動さ せることにより,その軌跡に相当する断層像とし て描出する方法(Brightness mode) 注4)グレイスケール 反射の強さを対数圧縮して受波することにより, 輝度の強さを段階的に表示することができるよ うになり,中間調に秀れた階調性画像,すなわち グレイスケール画像を作ることが可能となった. 注5)実時間表示 振動子を平面上を高速で移動させることにより, それに対応した動面像を作る技術.機械的に動か す方法と,エレクトロニクスによるスイッチ切換 えで行う方法とがある. 注6)サイドローブ(写真1の説明文) 指向性を有する中心音圧上の音束すなわち主極 (メインローブ)と別に斜め方向に放射される弱 い副極(サイドローブ)が存在する.サイドロー ブ方向に強い反射源があると,あたかもメイン P一ブ上にあるようにゴースト様アーティファ クトを生ずることになる.