〔綜 説〕’ (東京女医大誌第26巻第2号頁59−70昭和31年2月)
骨折治 療 の 趨勢
ま え が き 東京女子医科大学 整形外科学教室教授 森
モ.1 崎 サキ 直 ナオ 木 キ (受付 昭和31年1月20’日) 我が国の医学が主として独逸医学を基にして発 達したこと,全国40余の医育機関口約3/4は戦時 中乃至戦後に整形外科の講座が新設されたと言う 新しい歴史をもつこと,整形外科なる名称が,や やもすると美容外科と誤解されるおそれのあるこ となどの理由から,整形外科に於て占める骨折の 重要性が,一般医家に充分に理解されて居ない傾 向が窺われる。独逸の整形外科に於ては一般に骨折を扱わす,有名なLangeのLehrbuchにも
骨折に関する記載が見られないのに反して,英・ 米・仏の整形外科は,古くかち骨折をその重要部 門として取扱い,殊にフランスに於ては,その学会名を,La Soci6t6 Frangaise d’Orthop二die et
de Traumatologieと称して居る位に外傷学を重 視して居る。この外傷とは勿論骨折脱臼など運動 器官の外傷の意味であって,内臓の外傷を含むも のではない。 一方我が国に於ては,明治39年故田代義徳先生 が,東大に整形外科の講座を開設された当時よ り,独逸の整形外科以外に,英仏のそれをも取り 入れて,骨折をその重要部門とされたのである が,整形外科こそ骨折の治療を専門とする科であ るとの一般的理解は,上述の理由から充分ではな い。この機会に骨折治療の趨勢を申し述べて,我 々整形外科医が現在行V・つつある骨折の取扱V、に ついて,一般医家の御参老に供したい。 当教室に於ける骨折患者の状態は,表1に示す 如く,最:近は大体患者数の10%たらすであD,増 加の傾向も認められなV・が,これはこのまま世の 表 1 械痢無k教EeMk$数 ■念感轍聡警鞠三紋 624 中の骨折患者の動向を示すものとは受取りがた く,むしろ整形外科に対する一般の認識不足によ るものではあるまいか。 骨折発生部位は図1の通りで,肋骨が圧倒的多 図 1
Naoki Morisaki:General trend of the treatment of bone fracture.
3.盗聞節
4聞酒蜘障害
s.γρ伽の拘蕎
6靴三族(三三蜘,
1
表 3骨折治森の’w・精え
生命の係持
皿 幽幽の保特伽断の回鋤
皿
鰍峨能回復
図 さて骨折の治療は,優秀なる技能を有する専門 医が充分なる人員,治療材料を駆使して,細心の 注意を以て行わなければ,nc k’表2にあげた様な 我A一は骨折患者の治療に際しては,B6hlerの 言った様に,(表3)先ずその患者の生命の保持 に対して意を用い,次に三島の保持に努力し,初 めて骨折本来の治療目的たる患肢の機能回復を計 るのである。この論文に於ては主としてこの皿に ついて述べるのであるが,その前にHに関して一 2 言述べたいのは,高度の軟部組織の損傷を伴った 開放骨折に対して,軽卒に混晶の切断を行うこと を戒めたV・。極端に言うなら,1血管神経さえつな がって居れば,如何にブラブラになった開放骨折 でも切断の必要はない。ただ生命の危険の確実な る場合にのみ切断は行われるべきであって,現今 の如く抗生物質,化学療法更には輸血輸液療法の 発達の中にあっては,切断を必要とする開放骨折 ばないと称しても過言ではあるまV・。 骨折治療の順序は,転位の整復,骨折片の固定 関節運動の練習であることは申すまでもなV・。整 復は解剖学的完全整復を理想とすべきであるが, 図3にかかげた諸種の転位中,最:も意を用いて整ズ
,側k x ’Nl ち S〈x 1 ’x i ,x s・ / ,.ft・・戴 総懸 翻転 ‘縣櫨) 図 3 tx 1 N ,A
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復すべきは,離開性縦転であって,側転は最:も重 要性すくなく,他はその中間に位すると解してよ い。又固定は骨硬着(Konsolidation)の起るま で,中断せすに一定期間行うべきものであるが, 従来の教科書にはGurltの表(表4)として各 表 4Gurltの:敷字
指趾骨
中:瓶艇言及鋤骨鎖 骨
前腕骨
上一骨
雁 骨
雨下腿骨
大脇骨
知邑骨恥部 2週, 3週, 4週,5毘
6週, ワ週, 7−8遍. lo:愚 t2pt 骨について成人に於ける癒合期間を示してある。 然しながら,現在の整形外科医ぽ,この表の数値 は短きにすぎる一善意に解して言えば,最短期 間を示して居るものと考えて居る。実際は20−30 %,時には50%以上も割増して固定すべきもので あることは注意を要する。 骨折の整復法には,非観血的及び観血的の整復 法があり,観血的とは手術的に骨折部を露出し て,直接整復する方法であることは申すまでもな い。その意味で夫k聞接的及び直接的整復と呼び たV、。 骨折の整復固定は一般に間接的に行われるべき ものであって,間接的整復不能のものに対しての み,直接的方法を用うるのが原則である(表5)。 表 5骨:‡年の向平妾的整復
1徒手整復
2.牽弓1整そ夏5去 α,向接牽8じ去(癩叩廻章引法)b.直接翻1箔 .
藍島季引金冒子動1 ’ ,,
3.・今“ストラク4・∂ン壌置.にSbj整儀 徒手整復は最も簡単なる整復法で,:先ずその前 処置として恵愛による筋緊張をのぞく必要があ る。即ち適当なる無痛法を講じて後行うべきもの である。これは徒手整復に限らす一般骨折整復に は必ず前以て行われるべぎ問題であるから,この 際骨折整復時の麻酔につV・て述べよう。 骨折整復の際に,特に他の場合と変った麻酔法 があるわけではなV・が,2,3の特長をあげる。 先ず,局麻としてBδhler等が提唱しtc骨折血腫 図 4一61一
総
門Procain注入法がある。近時はProcainに
Hyaluronidaseを混合して麻酔薬の浸潤を速か ならしめる方法が行われる。上肢の骨折に対して Kuhlenkampffその他の伝達麻酔を用うる機会 が多のいのは,・一一一つの特長とも言える。この際に もHyaluronidaseの混合が試みられる。全麻の 場合レ線暗室透視下に整復が行われる関係上,爆 発の危険のなV・Barbiturates静注が賞用される が,Barbituratesによる全麻は,筋弛緩が充分 でない欠点があるのは,我々の筋電図による研究 によってもうなすかれることである。 ここに徒手整復による整復例をレ線で示すと, 図4,図5は夫々上腕骨早上骨折及び,両前腕骨 折である。 徒手整復の中脊椎骨の圧迫骨折に対しては,近 年B6hlerの:方法と称して患者を過度前虚位とす る優秀なる方法がある。図6に示す第1腰椎の圧 図 6 迫骨折に対して,本法を施行した所図7に示す様 な見事な整復が得られた。整復後はギブスコルセ ッhを装着して,早期に体操療法を行わせるごと 5難曲
毒蟻露撲 が出来る。本法が考案されるまでは,脊椎の圧迫 骨折による変形は回復不能と目されて居たもので ある。 図 7 牽引整復法は(表5)比較的近時の発達に属 し,整形外科医の好んで用うる便利な整復方法で ある。ことに斜骨折の間接整復法としては,その 最:たる適応となる。本療法に際しては,終始ポー タブルレ線装置によるコントロールを行い,殊に 過牽引をさける注意が疹要がある。 これに間接牽引法と称して(図8)絆創膏等に より皮膚を介して牽引する方法と,骨自身に鋼線 なり鉗子を通して直接牽引する:方法(図9)があ るが,後者の方が前者に比して強力なのは言うま でもない。 Distraktion装置とは,図10の継ぎもので,言 はば鋼線牽引の理を,上下骨片に同時に反対方向図 8 に応用したもので,整復後直ちに鋼線を挿入せる まま,双鋼線ギプス包帯(図11)を行う。本装置 を駆使すれば,1個の装置によって多数の骨折患 者を次々に整復固定することが串来る利点があ る。本装置による整後例を示すと,図12の如くで ある。即ち左から整復前,整復直後,2カ月後の レ三一である。 玉
鴫吊1
4鯵
魅1聰 lj/」 図 9 図 10 図 11 間接整復法としては,表5には出さなかった が,踵骨々折に対して,最近Westhuesの方法 が行われる様になったが,詳細ぱ省略する。 骨折の固定法も,整復法と同様,間接法,直接 法をわけることが出来る。間接固定法(表6)が 表 6骨折の向接固定活
」.副子固定法
2.ギブ入固定活
α.下下欠ギ7。入セ帯
b.下豪くなしギブ入セ帯
3.又ヌ su線ギブ入セ・帯
直接固定法に比して固定力が劣ることは言うまで もないが,間接整復後の固定は之によるしかない わけである。間接固定法としては副子・絆創膏に よる固定法もあるが,最:も優秀にしてよく用いら れるのはギプス包帯である。この整形外科の象徴 一一 63 一図 12 る。(図113の右脚が下敷ギプス包帯,左脚が下敷 なしギブス包帯を示す。)骨折の治療としては原 則的には下敷なしギプス包帯を用,5べぎものであ る。 Bdhler一派は極端な下敷なしギプス包帯の支 持者であるが,私も彼等に賛意を表するものであ る。1血行障害の有無などが論議の中心であるが, 下敷無しの方が,少くとも材料が下敷だけすくな くてすむこと出来Eりが美的であること,は何人 も否定出来まい。
憾盈灘
鯉
禽蘇。
図 とも言うべきギプス包帯は,今日の発達した直接 固定法によっても,伺その光を失っては居なV・。 下に下敷なしギプス包帯と,下敷ギプス包帯があ 13 双鋼線ギプス包帯については,Distraktion装 置の項ですでに述べた所である。 ヒ腕骨幹部骨折に対して,近時Hanging Cast図 14 (図14)なる方法によって,上肢の重量と,積桿 作用により,自然の整復固定を期醸したものがあ る。 表 7
’骨新の直稜固定法
1.針金による骨盤合 糊置舌i去, 鋼締し固定 2!金属ネジ止め法 GOPOY−1》10尺EIRAのオ、ジ金T 3,全属畠’1う・とネジ北め法gcaERS’ PLATE , 6thN−nAre
4色骨髄L{訂;云(門ARKNA臼ELUN6) SNITH PEτERSEN NAIしと茎の変尋形
5. FEDEROSTEOS¥NTHEsE 6,骨移樋ラ去 7:創外固定法 金属による直接固定法は,確実なる固定法とし て,最近最も発達した方法で,之による最:大の収 穫は骨接治療期間の短縮である。然し原則的に は,骨折が横骨折であるか,斜骨折であるかによ って,機械的に図18に示す様な固定法の差が生れ
最郷軍な骨縫合・
図 15 てくることは,当然うなすかれる所である。勿論 斜骨折に対しても金属副子とネジ釘による方法も 行われ,斜の程度が軽ければ,骨髄釘をも用いう るのである。上述の各種固定法の実例を図19から 図 骨折の直接固定法は,言はば骨折の手術的療法 であって,手術台として,術中のレ線透視撮影が 自由で,術後固定肢位をうこかすことなくギプス 包帯が出来,術中にも四肢の牽引を自由に行v・得 るものであることが必要である。 簡単なる骨縫合は(図15)必ずしも金属でなく とも,絹糸,腸線も応用しうる。この様な方法に よる整復例を,図16と図17で示しておく。 16 図22までにお目にかける。 骨髄釘法は1940年KUntscherの考案になるも ので,本法は大腿骨幹部骨折に対して最も適応性 直なるもので,Kiintscherは之によってギブス 包帯不用なりとさえ称えたのであるが,その後あ まりにも過信すべきでないことが注意されて来 fc。然しながら本法は,骨折治療に新紀元を劃し たものであることは疑ない所である。骨髄釘の金一6S一
図 17
骨折固定法
横町析と斜骨竹
金口子斜
締結 図 18測
骨髄釘村
ネジ釘 属は殆ど骨髄をみたす太さをもってはV・るが,横 断面はV,U,或は三翼形を呈して居る。この様 な大きな長V・金属を骨髄内に挿入する為に生する 生物学的影響は一応考えられるが,只今までの成 績では,血液検査により造血機能に対する影響も なく,脂肪栓塞のおそれもな V・。感染に対しても 化学療法によって防止可能であり,ことに本来の 目的たる骨折の治療に対して,仮骨形成に障害を あたえるごとは認められては居ない。 図23は飯野式の骨髄釘及びその打込装置の一式 である。 これによる治療の例を図24に示す。左は受傷 時,中が骨髄釘による整復直後のものである。 骨髄釘法の一種に大腿骨頸部骨折に対して, Smith−Peterεe:ユの三論釘なるものがある。 図25は三翼釘と打込み装置の一式である。大腿 図 19図 20
図 21
図 22
図 23 図 24
図 25 図 図 24 る大腿骨頸部骨折の治療例を図26に示す。 又骨髄釘の最:も簡単なのはKirschner鋼線に よる方法で,指骨A・折に応用した例を図27に示 す。
ごく最近MaatzはFederosteosyntheseと称
して,バネによる骨折片の固定をはかった。その 26 図 26 頸部内側骨折は,偽関節や骨頸の壊死を起しやす いが,本法によればこれを救い得る。三翼釘によ 詳細は省略するが,その原理は骨折部に対して働 く圧力が骨形成に有用に働くことを利用したもの図 27 Dyuc k
G
T ,M Zae s ti 骨箭都に凹くカど骨形〕ボ㎞鳳静
一) v
Pdw ft
図 28 図 29 図 である。 骨移植は一般に新鮮骨折よ1)は,骨癒合障害の みとめられる遷延治癒や偽関節の治療に主として 29 応用される。図29は不良金属の固定により生じた 上腕骨偽関節に対し,金属除去後,22A鋼と骨移 植によって治療した症例である。 創外固定法なる方法は,整形外科医は現在殆ど 用いて居ない。 次に最近著しい発達をとげた骨折治療材料とし ての金属の問題について述べる。この様な金属と しては,適当なる強度を有し,しかも腐蝕をうけ す,組織に障害を与えす,体内に於て全くindif・ ferentのものである∼二とがその条件となる。然る に従来の骨折治療材料たる金属にはこの条件を満 足しないのみならす,生体に有害で,骨折治癒を 害するものがある。故に充分なる注意を要する。 最近の骨折治療用の金属は,一般にstainless の合金であって,その構成元素たる金属は,主としてCr, Mo, Co, Niよりなり, Fe, Cuなどは
殆ど含まなV・所は注目に価する。又極めて最近に Leventha1はTitanの有用性をとりあげ,極め て優秀なる満足すべき金属であると称して居る。