種類株式の市場外買付けと公開買付の免除 : 最二
判平成二二年一〇月二二日金判一三六〇号二九頁(
カネボウ少数株主損害賠償請求事件)《商事法研究
会報告(第1回)》
著者名(日)
楠元 純一郎
雑誌名
東洋法学
巻
55
号
2
ページ
193-204
発行年
2011-12
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000837/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止《商事法研究会報告(第1回) 》
種類株式の市場外買付けと公開買付の免除―
最二判平成二二年一〇月二二日金判一三六〇
号二九頁(カネボウ少数株主損害賠償請求事
件)
―(判決研究)
楠元 純一郎【事実の概要】
訴 外 A 社 (カ ネ ボ ウ 株 式 会 社) は 経 営 の 多 角 化 に 失 敗 し、 その経営再建のため、平成一六年五月三一日には株式会社産 業 再 生 機 構 (以 下、 「再 生 機 構」 と い う) の 支 援 決 定 を 受 け、 平成一八年一月三一日時点では、A社の株式には普通株式と C種類株式があった。普通株式 (議決権割合三〇・八%) には 多数の保有者がいたが、本件Xもその一人であり一五〇〇株 を 保 有 し て い た。 C 種 類 株 式 の 保 有 者 は 訴 外 B 社 (株 式 会 社 カ ネ ボ ウ 化 粧 品) (六 二 五 〇 万 株 で 議 決 権 割 合 三 七・ 六 %) と 再 生 機 構 (五 二 六 三 万 一 五 〇 〇 株 で 議 決 権 割 合 三 一・ 六 %) の 二 名のみであった。なお、このC種類株式は、議決権はあるも の の 利 益 配 当 請 求 権 が な か っ た が (劣 後 株) 、 平 成 一 八 年 一〇月一日以降は普通株式への転換が可能とされていた。 A社の新たなスポンサーに名乗り出たファンドが設立した Y 社 (ト リ ニ テ ィ・ イ ン ベ ス ト メ ン ト 株 式 会 社(以 下、 「ト リ ニ テ ィ」 と い う) ) が、 平 成 一 八 年 一 月 三 一 日 に B か ら、 同 年 二 月二一日に再生機構から、それぞれの同意を得た上で、C種 類株式の全部を公開買付けによらずに買い付けた (以下、 「本 件買付け」という) 。 そこで、XがYに対して不法行為に基づく損害賠償を請求 したのが本件である。Xは、 「「株券等の所有者」及び「当該 株券等のすべての所有者」にいう「株券等」とは、種類株式 の 購 入 の 場 合 に は、 当 該 購 入 に か か る 種 類 株 式 の み で は な く、議決権を有する全ての種類の株式というべきであるとこ ろ、 原 告 を 含 む 議 決 権 を 有 す る 株 式 の 株 主 数 は、 前 記 基 準 (二 五 名 未 満) よ り は る か に 多 く、 ま た 同 意 も し て い な い か ら、公開買付け例外にはあたらず、市場外買付けについては 公開買付けによらなくてはならなかった。 」「YはC種類株式 をB社とC社から買い受ける際、普通株式と共に公開買付け によらねばならなかったが、これによらなかったため、Xが 保 有 し て い た 普 通 株 式 を 売 却 す る 機 会 を 逸 し、 損 害 を 被 っ た」と主張した。 第 一 審 (東 京 地 判 平 成 一 九 年 五 月 二 九 日 金 判 一 二 九 七 号 三 六 頁) は次のように判示し、Xの請求を退けた。 「証 券 取 引 法 が、 有 価 証 券 提 出 会 社 の 株 券 等 の 市 場 外 買 付 けについて、原則として公開買付けによることを要求したのは、有価証券報告書提出会社について、その会社の支配権等 に影響を与えるような株券等の買付け等がされた場合、株券 等の価値に対する影響が大きいことから、原則として、そう した買付けは、…取引所有価証券市場において行わせること により、買付けの公正性を確保するとともに、自己の所有す る株券等の価値に影響を与え得るような買付けにおいて、株 券 等 を 売 却 す る 機 会 を 担 保 す る こ と に あ る と 解 さ れ る と こ ろ、 「株 券 等 の 所 有 者 が 二 五 名 未 満 で あ」 っ て そ の 全 て の 所 有者が「当該株券等に係る特定買付け等を公開買付けによら ないで行うことにつき、当該株券等のすべての所有者が同意 している場合、株券等の所有者が少数であることから、類型 的に株券等の買付けによる影響が少ない上、同意をしている 株券等の所有者については、売却の機会を担保すべき必要性 が低いことにある。そうであれば、このような場合に要求さ れる特定買付け等を公開買付けによらないで行うことについ ての同意は、当該市場外買付けによって、自己の所有する株 券等の価値に影響があるのみならず、株式を売却する機会か らも疎外される株主、すなわち買付けの対象となる種類株式 の株主に限定して要求されると解するのが相当である。 」 こ れ に 対 し、 控 訴 審 (東 京 高 判 平 成 二 〇 年 七 月 九 日 金 判 一 二 九 七 号 二 〇 頁) は 逆 転、 X の 請 求 を 認 容 し、 次 の よ う に 判示した。 「本 件 で 問 題 と な る の は、 こ の う ち (平 成 一 七 年 法 二 七 条 の 二 第 一 項) 六 号 の「そ の 他 政 令 で 定 め る 株 券 等 の 買 付 け 等」 である。…この規定を受けて平成一七年施行令七条五項四号 は、 「株 券 等 の 所 有 者 が 少 数 で あ る 場 合 と し て 内 閣 府 令 で 定 め る 場 合 で あ つ て」 (以 下 こ れ を「施 行 令 前 段 部 分」 と い う。 ) 、 「当 該 株 券 等 に 係 る 特 定 買 付 け 等 を 公 開 買 付 け に よ ら な い で 行うことにつき、当該株券等のすべての所有者が同意してい る場合として内閣府令で定める場合における当該特定買付け 等」 (以 下 こ れ を「施 行 令 後 段 部 分」 と い う。 ) と の 定 め を 置 い て い る。 … な お、 「特 定 買 付 け」 と は、 六 〇 日 間 に 一 〇 人 以 下 の 者 か ら 買 付 け 等 を 行 う 場 合 を い う も の で あ る (平 成 一 七 年 施 行 令 七 条 五 項 一 号、 四 項 参 照) 。 そ し て、 施 行 令 前 段 部 分 を 受 け て、 平 成 一 七 年 他 社 株 府 令 三 条 の 二 の 四 第 一 項 は、 「株 券 等 の 所 有 者 が 少 数 で あ る 場 合 と し て 内 閣 府 令 で 定 め る 場 合 は、 株 券 等 の 所 有 者 が 二 五 名 未 満 で あ る 場 合 と す る。 」 と定める。…また、施行令後段部分を受けて、平成一七年他 社 株 府 令 三 条 の 二 の 四 第 二 項 は、 「す べ て の 所 有 者 が 同 意 し ている場合として内閣府令で定める場合は、当該株券等に係 る特定買付等を公開買付けによらないで行うことに同意する 旨を記載した書面が当該株券等のすべての所有者から提出さ れ た 場 合 と す る。 」 と 定 め る …。 こ の よ う に、 平 成 一 七 年 施 行 令 及 び 同 他 社 府 令 に お い て は、 「株 券 等 の 所 有 者 が 二 五 名 未 満 で あ る 場 合」 で 特 定 買 付 け を 行 う 場 合 (す な わ ち 著 し く 少 数 の 者(六 〇 日 間 で 一 〇 名 以 下) か ら 株 券 等 の 買 付 け を す る
場 合) に お い て、 「公 開 買 付 け に よ ら な い で 行 う こ と に 同 意 する旨を記載した書面が当該株券等のすべての所有者から提 出された場合」に公開買付けによらないことができるとされ ている。ここで「株券等の所有者」という場合の「株券等」 に つ い て 特 に 限 定 は 加 え ら れ て い な い (な お、 「当 該 株 券 等」 の「当 該」 は、 冒 頭 の「株 券 等 の 所 有 者 が 少 数 で あ る 場 合 と し て の 内 閣 府 令 で 定 め る 場 合 で あ つ て」 を 受 け る も の で あ る。 ) 。 こ の ような文理に照らすと、株券等の所有者が二五名未満の場合 で、そのうちの一〇名以下の者から株券等を買い付けるとい う と き は、 そ の す べ て の 所 有 者 (す な わ ち、 買 付 け 対 象 株 券 等 の所有者のみならず、 買付け対象外株券等の所有者も含めたもの) から公開買付けによらないことの書面による同意がある場合 に限り、公開買付けによらないことができるということにな ると解される。…平成一八年法令と平成一七年法令とは、前 記のように、法、施行令のレベルでは文言としてはすべて同 じで、そこでは実質的には改正がなされていない。施行令前 段部分を受けた他社株府令も同じである。ただ、施行令後段 部 分 を 受 け た 平 成 一 八 年 他 社 株 府 令 二 条 の 五 第 二 項 の 定 め は、 以 下 の よ う な も の で あ り、 改 正 が 加 え ら れ た。 … 平 成 一八年他社府令は、施行令後段部分の「当該株券等のすべて の 所 有 者 の 同 意」 の 内 容 を 具 体 化 す る に あ た り、 「当 該 株 券 等 の 所 有 者」 の 中 か ら「買 付 等 の 対 象 と な る 株 券 等 の 所 有 者」と「買付け等対象外株券等の所有者」とを分け、公開買 付けによらないことにつき、①買付け等対象株券等の所有者 に関しては、その全員の同意を要求するとともに、②買付者 の所有割合が買付けにより三分の二以上になる場合には、こ れに加え、買付け等対象外株券等の所有者のすべての同意か (た だ し、 二 五 名 未 満 の 場 合) 、 な い し は 当 該 買 付 け 等 対 象 外 株 券等に係る種類株主総会の決議を要することにしたものであ る。…このような規定ぶりからすると、平成一八年他社株府 令の「当該株券等のすべての所有者の同意」にいう「当該株 券等」には、買付け等対象株券等及び買付け等対象外株券等 の す べ て (そ こ に は 種 類 の 異 な る 株 式 も 含 ま れ る。 ) が 含 ま れ て いることが前提とされていることは明らかである。…公開買 付けによらなければならないか否かの判断の基準となる株券 等は、当該買付けの対象とされた種類株式に係る株券等だけ ではなく、買付け対象外株券等をすべて含めたものであると 解することは、上記のような公開買付制度の趣旨に適合する ということができる。すなわち、上記のような公開買付制度 は、 会 社 支 配 権 に 影 響 を 及 ぼ し 得 る よ う な 証 券 取 引 に つ い て、 透 明 性、 公 正 性 を 確 保 す る こ と を そ の 趣 旨 と す る も の で、取引所有価証券市場外において株券等を大量に買い付け て 会 社 支 配 権 に 影 響 を 及 ぼ し 得 る よ う な 証 券 取 引 に つ い て は、買付者をして情報を開示させ、一般の株主にも公平に売 却の機会を付与しようというものであるところ、たとえ買付 者 が 特 定 の 種 類 株 式 を 買 付 け の 対 象 と し て 企 図 し た と し て
も、その買付けが会社支配権に影響を及ぼすようなものであ るとすると、それは株価を変動させ、買付け対象外の株券等 の 所 有 者 (一 般 の 株 主) に も 大 き な 影 響 を 及 ぼ す も の で あ る から、透明性、公正性を確保する必要があり、公開買付けを 強制する必要があることに変わりはないと考えられるからで ある…。…平成一七年法二七条の二第一項が公開買付けを要 求する趣旨は、前期のとおり、一般の株主にも、売却の機会 を付与して、平等にプレミアムを取得できるようにしようと する趣旨を含むものであるから…、その違反は、カネボウの 株主である控訴人との関係でも、違法なものとして、不法行 為を構成するというべきである。 」
【判旨】破棄自判
上告審は、Xの請求を認容した原判決を破棄し、次のよう に判示した。 「旧 証 取 法 二 七 条 の 二 第 一 項 は、 株 券 等 の 買 付 け 等 を 行 う 者が特定の種類の株券等のみを買付け等の対象とし得ること を前提として、買付け等の対象としようとする種類の株券等 の買付け等についての公開買付けの要否を規律したものであ るから、同項五号の規定を受けて定められた二五名未満要件 及び同意要件も、買付け等の対象としようとする特定の種類 の株券等の特定買付け等について、これを公開買付けによら ず に 行 う た め の 要 件 を 定 め た も の と 解 す る の が 合 理 的 で あ る。そして、事業の再編等のためには、その再編等のために 発行された特定の種類の株券等のみの特定買付け等をするこ とが必要な場合がある上、有価証券報告書の提出義務を負う のは、証券取引所に上場されている有価証券を発行する会社 等 (旧 証 取 法 二 四 条 一 項) で あ る か ら、 一 般 に、 そ の 会 社 が 発 行 す る 株 券 等 の 所 有 者 が 多 数 に 及 ぶ こ と は 明 ら か で あ っ て、このような実情や上記改正の目的をも考慮すると、上記 各要件は、買付け等の対象としようとする特定の種類の株券 等の特定買付け等を前提として定められたものというべきで ある。上記各要件にいう「株券等」を当該特定買付け等の対 象 と な ら な い 種 類 の 株 券 等 (普 通 株 式 に 係 る 株 券 を 含 む。 ) も 含めたすべての株券等を意味するものであると解すると、上 記各要件が充足される余地は実際上極めて限定されたものと なり、事業再編等の迅速化及び手続の簡素化のために上記の 各規定が設けられた趣旨がおよそ没却されることになる。 以上に加え、特定買付け等が公開買付けにより行われるか 否かは、当該特定買付け等の対象となる特定の種類の株券等 の所有者の利害に直接影響するものであるものの、その株券 等の所有者において当該特定買付け等を公開買付けによらな いで行うことにつき同意しているのであれば、その株券等の 所有者にその株券等の公開買付けによる売却の機会を保障す る必要はないことから、同意要件を設けたものであって、特定買付け等を行う者において買付けの対象としない他の種類 の株券等があるとしても、その所有者の利害に重大な影響を 及 ぼ す も の で は な い も の と し て、 そ の 同 意 は 必 要 と さ れ な かったものと解するのが相当である。…以上によれば、施行 令七条五項四号、他社株府令三条の二の四第一項及び第二項 所定の「株券等」には、特定買付け等の対象とならない株券 等が含まれると解する余地はないものというべきである。… そして、前記事実関係によれば、上告人が特定買付けの対象 と し た C 種 類 株 式 に 係 る 株 券 の 所 有 者 は、 B と C の み で あ り、その買付けを公開買付けによらないで行うことにつき両 名の同意を得ていたというのであるから、本件各買付けを公 開買付けによる必要はなく、本件各買付けを公開買付けによ らずに行ったことは、証取法二七条の二第一項に違反するも のとはいえず、普通株式の株主である被上告人との関係で、 不法行為法上違法なものであるということはできない。 」
【評
釈】
結
論
に
は
賛
成
で
あ
る
が、
理
由
付
け
に
若干の疑問。
一 はじめに 本件の主たる争点は、公開買付義務の適用除外を定める改 正前の証取法施行令八条五項四号の「当該株券等のすべての 所有者が同意している場合として内閣府令で定める場合」に おける「当該株券等の所有者」が、買付け対象株券等の所有 者に限定されると解すべきか (以下、 「限定説」という) 、買付 け対象外の株券等も含めたすべての株券等の所有者と解すべ きか (以下、 「非限定説」という) か、である。 本 判 決 は、 最 高 裁 と し て 初 め て 公 開 買 付 規 制 の 解 釈 を 示 し、 全 て の 株 券 等 の 所 有 者 の 数 が 二 五 名 以 上 で あ る 場 合 に も、公開買付けの適用除外を受けられることを明らかにし、 現 行 法 (平 成 一 八 年 改 正 後 の 金 商 法 で は、 買 付 後 の 株 券 等 の 所 有 割 合 が 三 分 の 二 以 上 と な る と、 全 部 買 付 義 務・ 全 部 勧 誘 義 務 が 生 じ る) の 下 で も 重 要 な 意 義 を 有 す る と さ れ る (黒 沼 悦 郎「本 件判批」金融商事判例一三六六号、二〇一一年、四頁) 。 なるほど、本件の場合、公開買付けによらないでYが買い 付けたC種類株式の議決権割合は六九・二%であり、三分の 二を超えていたため、平成一八年改正後の現行金商法の下で は、公開買付けにより、残りの普通株式の全部を買付けなけ ればならなかったような事例であるが、今日でも、買付後の 株券等の所有割合が三分の一超、三分の二未満の場合で、株 券等の所有者の数が二五名以上であっても、種類の異なる買 付け対象株式の所有者が二五名未満であり、かつ、その所有 者の同意があれば、強制的公開買付けが免除されうるのであ る。 したがって、買付後の株券等の所有割合が三分の一を超え るような、ある意味で支配権の移動が認められるような場合であっても、買付対象株式の種類が少しでも異なれば、残り の株式につき、公開買付けによる、少なくとも全部勧誘義務 は買付者に発生しないことになるが、これでは、公開買付の 趣旨からしていかがなものかとの疑問も呈せられよう。 ま た、 本 件 C 種 類 株 式 は、 後 に 普 通 株 式 に 転 換 さ れ て お り、また、経営難のため利益配当もなされない状況にあった ことから、普通株式と実質的には同じものであったとも考え られるが (以下、 「実質説」という) 、その種類が異なるという だ け で 買 付 け 対 象 か ら 形 式 的 に 除 外 す る 考 え 方 (以 下、 「形 式 説」という) もある。 この点、本判決は限定説に加え、一見、形式説を採用した か の よ う に も 見 え (若 林 泰 伸「本 件 判 批」 ジ ュ リ ス ト 一 四 二 〇 号、 二 〇 一 一 年、 一 四 六 頁、 松 岡 啓 祐「本 件 判 批 評」 T K C ロ ー ラ イ ブ ラ リ ー 速 報 判 例 解 説・ 商 法 四 五 号、 二 〇 一 一 年、 四 頁) 、 公開買付けによらずに特定の種類株式だけを買い付けること によって事業再編の促進を期待する実務界に与えた衝撃・混 乱に終止符を打った格好となった。 二 限定説の当否 控訴審は平成一八年他社株府令二条の五第二項の規定ぶり から、平成一八年他社株府令の「当該株券等のすべての所有 者の同意」にいう「当該株券等」には、買付け等対象株券等 及び買付け等対象外株券等のすべて (そこには種類の異なる株 式 も 含 ま れ る。 ) が 含 ま れ て い る こ と が 前 提 と さ れ て い る こ と は 明 ら か で あ る と し て、 非 限 定 説 に 立 っ て い る が、 最 高 裁 は、 「株 券 等」 に は、 特 定 買 付 け 等 の 対 象 と な ら な い 株 券 等 が含まれると解する余地はないものと言い切っており、限定 説を採用することを明確に示している。 平成一八年他社株府令二条の五は、買付後の株券等所有割 合が三分の二以上となる特定買付等を公開買付けによらない で行う要件の一つとして、当該株券等の所有者が二五名未満 で あ り (一 項) 、 か つ、 買 付 け 等 対 象 株 券 等 の 所 有 者 が 二 五 名未満であって、そのすべての所有者から書面同意を得てい る 場 合 (二 項 一 号 ロ) を 定 め て お り、 こ こ で、 も し、 「株 券 等」をすべての株券等の意味に解すると、その所有者が二五 名未満である場合には、常に買付け等対象外株券等の所有者 も二五名未満となるから、買付け等対象外株券等の所有者が 二五名未満であるという要件を定める意味がなくなってしま い、また、平成一八年他社株府令二条の五第二項二号の要件 は、改正前の他社株府令三条の二の四第二項の要件と実質的 に同じであるが、そのためには前者にいう「当該特定買付け 等の対象となる株券等」の範囲と後者にいう「当該株券等」 の範囲とが一致しなければならないため、平成一八年他社株 府令との整合性からは株券とは買付け対象株券等を意味する こ と が 導 か れ る か ら (黒 沼・ 前 掲、 五 頁) 、 最 高 裁 の 採 用 し た 限定説は妥当であろう。
ただ、最高裁は、特定買付け等の対象とならない株券等が 含まれると解する余地はないとして、買付け対象外株券の中 に買付け対象株式と実質的に同じ株券等が含まれている場合 にそれらを一切排除するかのような言い回しをしているが、 それは本件事案においてたまたまそのような結果になったに すぎず、最高裁がいわゆる形式説に立ったものとは必ずしも 断定できない。実際に最高裁は、実質説か形式説かの区別に ついては明示的にはなにも述べておらず、いずれの見解に立 つ の か は 明 ら か で は な い (黒 野 葉 子「本 件 判 批」 監 査 役 五 八 二 号、二〇一一年、七〇頁) 。 三 公開買付け制度の趣旨 須藤裁判官の補足意見によれば、公開買付規制の趣旨につ い て、 「公 開 買 付 け は、 会 社 支 配 権 や 株 価 に 重 大 な 影 響 を 及 ぼし得る取引所有価証券市場外での大量の株券等の取得に際 して、情報を開示させ、一般株主にも保有株式の売却の機会 を公平に与え、そのことによって証券取引市場の信用を確保 しようとする制度」とされている。原審もそれとほぼ同様に 解しており、より具体的な趣旨として、①支配株式の取引に 関する情報開示を保証するという透明性・公正性の確保、② 公平な売却の機会・プレミアムの分配の保証を挙げている。 本件の場合、C種類株式の買付価格が一株当たり二〇一円 で、その直後に実施された普通株式の公開買付けの価格は一 株当たり一六二円であって、普通株式の株主も売却の機会に は恵まれているものの、その価格の開きが支配権プレミアム の有無による価格の違いであれば、プレミアムの分配の平等 性に問題もあり、すべての株式に対して同一の公開買付けが な さ れ る こ と に 合 理 性 が な い と は 言 い 難 い と の 指 摘 が あ る (松岡・前掲、三頁) 。 最高裁がもし非限定説あるいは限定説を前提にした上での 実質説を採っていれば、もちろんこのような価格の開きは存 在しなかった可能性が高いが、仮にそうであったとしても、 本件の買付け割合では、全部勧誘義務はあっても全部買付義 務はないため、結局、すべての株主が株式を売却できるわけ ではなく、また支配権プレミアムの分配も受けられるわけで はない。 もしディスカウント買付けが行われれば、少数株主等の保 護 に は 役 に 立 た な い (太 田 洋 = 中 山 達 也「本 件 判 批」 金 融 商 事 判例一三五一号、二〇一〇年、二頁~四頁) 。 また、本制度で確保されるのは株式の均一価格での売却の 機会にすぎず、いずれの場合でも全ての株主が救済を受けら れるわけでもない。要するに、買付者に全部勧誘義務を課し つつ全部買付義務を課さないという仕組みはうまく機能しな いのである (黒沼・前掲、六頁) 。 さ ら に、 公 開 買 付 規 制 を い ろ い ろ な 潜 在 株 式 ま で「株 券 等」として一律に対象とし、対価の平等、機会の平等等を機
械的かつ厳格に適用するとすれば、公開買付け前には当該対 象 上 場 会 社 の 全 て の 未 公 表 重 要 事 実 を 公 表 し な け れ ば な ら ず、交渉中の業務提携話があれば、場合により破談にせざる を 得 な く な る と い う 公 開 買 付 制 度 の 硬 直 性 も 問 題 で あ る と し、関係当事者がもっと近い距離で対話する「柔軟な」利害 調整のインフラを議論すべき時期にきているのではないかと の指摘もある (武井一浩「本件判批」金融商事判例一三五三号、 二〇一〇年、一頁) 。 四 事業再編等の迅速化の要請 判旨は、 「「株券等」を当該特定買付け等の対象とならない 種 類 の 株 券 等 (普 通 株 式 に 係 る 株 券 を 含 む。 ) も 含 め た 全 て の 株券等を意味するものであると解すると、上記各要件が充足 される余地は実際上極めて限定されたものとなり、事業再編 等の迅速化及び手続の簡素化のために上記の各規定が設けら れた趣旨がおよそ没却される」と述べているが、おそらくこ の点が、本判決の結論に至った背景にあると思われる。 補 足 意 見 と し て 須 藤 裁 判 官 も、 「経 営 難 に 陥 っ た 企 業 の 事 業 再 編 等 の 成 就 の た め に は 当 該 企 業 の 株 式 (種 類 株 式) の 取 得による資金投入がしばしば必要とされるところ、上記の原 審 の よ う な 解 釈 は、 出 資 者 (本 件 に お け る 産 業 再 生 機 構 な ど) をして、後日、当該企業の経営が健全化したなどの時点で取 得株式を相対で売却して投下資金をスムーズに回収すること の見通しに不安を抱かしめ、出資を差し控えさせることにも なりかねないから避けねばならない」と述べている。 ま た、 「平 成 一 八 年 施 行 令 六 条 の 二 第 一 項 七 号 に い う「当 該株券等のすべての所有者」とは「買付等の対象とすべき株 券 等 の す べ て の 所 有 者 を 指 し ま す」 (平 成 一 八 年 一 二 月 一 三 日 公 表 の パ ブ リ ッ ク コ メ ン ト「提 出 さ れ た コ メ ン ト の 概 要 と コ メ ン ト に 対 す る 金 融 庁 の 考 え 方」 四 頁) と い う 金 融 庁 の 見 解 も 裁 判 所の結論を後押ししている。 最高裁も述べるように、旧証取法二七条の二第一項は、株 券等の買付け等を行う者が特定の種類の株券等のみを買付等 の対象とし得ることを前提として、買付け等の対象としよう とする種類の株券等の買付け等についての公開買付けの要否 を規律したとされることから、限定説は疑う余地はないと思 われる。 このように、特定の種類株式だけを公開買付けによらずし て取得させることを許容することを、事業再編等の促進に求 めることには一定の合理性を認めることができ、そもそも種 類株式制度それ自体が事業再編等をし易くするために設計・ 導入されたふしがある。 も っ と も 金 融 庁 の 担 当 者 は、 株 券 等 の 種 類 を 区 別 す る 基 準、 す な わ ち、 ① あ る 内 容 の 株 券 等 に つ い て は 現 在 も、 ま た、 将 来 に 向 け て も、 買 い 付 け る 予 定・ 意 思 が 一 切 な い こ と、②当該株券等に係る議決権、配当、普通株式への転換条
件等の内容が、他の内容の株券等と明確に区別できること、 を 示 し て お り (池 田 唯 一 = 大 来 志 郎 = 町 田 行 人 編 著『新 し い 公 開 買 付 制 度 と 大 量 保 有 報 告 制 度』 商 事 法 務、 二 〇 〇 七 年、 九 七 頁) 、 こ の こ と か ら、 金 融 庁 は、 実 質 説 の 立 場 を 採 っ て い る と思われる。 実質説は個別具体的な妥当性を追求するという点では優れ ているが、その限界が不明確である点、強制公開買付規制に 違反した場合には買付者に罰則が適用される点が難点ではあ る (黒 野・ 前 掲、 七 〇 頁、 太 田 洋「本 件 判 批」 金 融 法 務 事 情 一八五四号、二〇〇八年、四二頁) 。 ちなみに、実質的同一性の判断基準としては、同一の価格 が付されるべきであると判断される場合には実質的な種類の 同 一 性 を 認 め る べ き と の 考 え 方 (中 東 正 文「公 開 買 付 制 度」 金 融 商 品 取 引 法 研 究 会 編『金 融 商 品 取 引 法 制 の 現 代 的 課 題』 、 日 本 証 券 経 済 研 究 所、 二 〇 一 〇 年、 一 五 三 頁) が 参 考 に な ろ う が、 今 後、 こ の 基 準 の さ ら な る 明 確 化 が 求 め ら れ て い る (黒 野・ 前掲、七〇頁) 。 もし、本裁判所が実質説を採った場合、たしかに本件の場 合、結局、本件各買付後に普通株式に対しても別途、公開買 付けがなされていたことなどを考慮すれば、上記①の要件は 満たされていなかったように思われ、また、上記②の要件に つ い て、 両 株 式 は い ず れ も 利 益 配 当 が な さ れ て い な か っ た (そ も そ も 配 当 が な さ れ る 状 況 に は な か っ た) こ と、 C 種 類 株 式 は 後 に 普 通 株 式 に 転 換 さ れ る こ と が 予 定 さ れ て い た こ と か ら、C種類株式と普通株式は実質的に同一のものであったと 解 す る こ と が で き る も の の (田 中 信 隆「本 件 判 批」 商 事 法 務 一 八 五 二 号、 二 〇 〇 八 年、 一 〇 頁 ~ 一 一 頁、 加 藤 貴 仁「本 件 判 批」 ジ ュ リ ス ト 一 四 〇 三 号、 二 〇 一 〇 年、 一 八 五 頁) 、 本 件 の よ うに経営難に陥った企業にせっかく事業再編の引受け手が現 れているような場合には、C種類株式と普通株式とを同時に 買付勧誘義務を負わせるような公開買付を強制しても、引受 け手が出資を差し控えることも予想され、事業再編自体が実 現不能となることから、本件のような特段の事情がある場合 には、実質説を採ったとしても結論は変わらないように思わ れる。 ただし、経営難に陥ってはいない企業の場合には、買付対 象株式以外の株式も公開買付の対象とならなければその株式 の保有者に損害が発生することも考えられるため、理論的に はやはり実質説が妥当であろう。 最高裁の立場である限定説と形式説の組合せは、少数株主 等への支配権プレミアムの分配といういわゆる三分の一ルー ル (旧 証 取 法 二 七 条 の 二 第 一 項 五 号、 現 金 商 法 二 七 条 の 二 第 一 項 二 号) の 考 え 方 と 相 容 れ ず、 買 付 後 の 株 券 等 所 有 割 合 が 三 分 の一超に達する場合には、公開買付けを強制するのが一貫し ており、二五名未満要件および同意要件についてもこれにで き る だ け 反 し な い よ う に 解 す る 必 要 が あ り (若 林・ 前 掲、
一 四 六 頁) 、 最 高 裁 の こ の 立 場 は、 三 分 の 一 ル ー ル を 容 易 に 潜 脱 で き る 事 態 を 生 む (上 村 達 男 コ メ ン ト「日 本 経 済 新 聞 朝 刊」 、二〇〇八年一一月二四日付、一四面) 。 もっとも、理論的には実質説が正しいとしても、それに対 応して今後の実務が、株式の種類ごとに巧妙に性質を変えて くることは容易に想定されうるし、少しでも種類が異なれば 株 式 の 価 格 差 が 生 じ る の は 当 然 で (黒 沼・ 前 掲、 七 頁) 、 そ れ らを同一の公開買付けの手続に含めることにより公平に扱う ことは困難であるため、実質説で救済される場面は、実際に はほとんどないのかもしれない。 五 本件少数派株主の損害 判 旨 は、 「特 定 買 付 け 等 を 行 う 者 に お い て 買 付 け の 対 象 と しない他の種類の株券等があるとしても、その所有者の利害 に 重 大 な 影 響 を 及 ぼ す も の で は な い」 と し て い る が、 こ れ は、本件のように経営が破綻か再生かの瀬戸際にあるような 状況下で、本件普通株式に実際には支配権移転に伴うプレミ アムの分配を受けるほどの価値が認められないような場合に 限られるのではないかと思われるため、これを一般化すべき ではない。 事業再生の引受け手であるスポンサーが現れて初めて株式 の価値が高まり、移転する支配株式にはプレミアムがつくわ けであって、本件において、一般の普通株主にも公開買付け により支配権プレミアムを分配せよということになれば、む しろ、フリーライド (只乗り) の弊害も生じかねない。 少数株主の本件普通株式も公開買付けの対象としなければ ならないのであるならば、資金制約などのため、想定される 公開買付価格が本件各買付けの買付価格を下回る可能性が十 分にあり、控訴審の認定では、民法七〇九条によってXに損 害填補以上の利益が与えられる可能性があるとの指摘もある (加 藤 貴 仁「本 件 判 批」 ジ ュ リ ス ト 一 四 〇 三 号、 二 〇 一 〇 年、 一八七頁) 。 もっとも、逆に、普通株主の側からすれば、スポンサーで ある再生機構の資金と再生支援によりその株式の価値が回復 した部分があるとしても、それ以前の株式併合と第三者割当 増資により、その価値は相当に希釈化されていたため、それ 以上に本来の価値が失われてきたのではないかという主張も たしかにありうる (田中・前掲、一〇頁) 。 しかしいずれにしても、本件のような場合、普通株主の損 害の存在を認識するのが相当困難であるがゆえに、事業再編 等の迅速化という価値判断を優先させたものと捉えることが できるのである。 よって、判旨は結論を導くために、二五名未満で全員同意 の場合の公開買付適用除外規定でいう「株券等」には「特定 買付け等の対象とならない株券等が含まれると解する余地は ない」とか、一般論として「買付けの対象としない他の種類
の 株 券 等 (の) … 所 有 者 の 利 害 に 重 大 な 影 響 を 及 ぼ す も の で は な い」 な ど と、 あ え て 判 示 す る 必 要 は な く、 単 に、 「本 件 普通株主が主張するような損害について立証が尽くされてい ない」との理由で、Xの請求を退けてもよかったのではない かと考える。 六 おわりに―本判決の射程― 最高裁は、文理解釈上、限定説に立つのは妥当であるとし て、さらに形式説に立つかのような言い回しをしているが、 たまたま結果的にそうなっただけで、形式説を採用したもの と読むべきではない。 本判決は、上述のように、結論を導く上でとくに必要はな かったと思われる解釈論を明確に示したのであるが、これに は原判決以降の実務の混乱に終止符を打とうとする最高裁の 強い意志の表れを感じる。しかしこの判例法理の一般化には 注意が必要である。 特 定 種 類 株 式 の 相 対 取 引 直 後 の 普 通 株 式 へ の 公 開 買 付 け が、実は巧妙に仕組まれた一連の取引であるかもしれず、い わゆる三分の一ルールを容易に潜脱できる事態が生じること は極力避けねばならない。 そのためには、実質的に同一の株式につき種類が異なるが ゆえに形式的には同一の株式ではないと解釈を示したとも受 け 取 れ る 本 判 決 の 射 程 は、 本 件 の よ う に 会 社 が 経 営 難 に 陥 り、再生途上にあるような事例に限られると解すべきである と考える。 最 高 裁 が「株 券 等」 に は、 「特 定 買 付 け 等 の 対 象 と な ら な い株券等が含まれると解する余地はない」と法令解釈として 言い切っていることから、事案の特殊性によって射程を限定 するという意図を判旨から読み取ることはできないとの見方 も あ る が (飯 田 秀 総「本 件 判 批」 商 事 法 務 一 九 二 三 号、 二 〇 一 一 年、 一 五 頁) 、 種 類 株 式 を 用 い た、 公 開 買 付 の 趣 旨 に 反 す る 脱法の危険があり、他方、現行の公開買付規制にも限界が見 え て い る 中、 最 高 裁 の こ の 形 式 論 的 法 令 解 釈 は 時 期 尚 早 で あったように思われる。 なお、本件に関連した興味深い立法論として、種類株式に 限らず、救済的な局面において引き受けた株券等を売却する 場合には公開買付規制の適用除外とすべきとするものがある (宮 下 央「本 件 判 批」 金 融 法 務 事 情 一 九 一 六 号、 二 〇 一 一 年、 七 五 頁) 。 ま た、 欧 州 型 の 義 務 的 公 開 買 付 制 度 の よ う に、 支 配が移転した際に、買収者に全株式に対する公開買付けを義 務 付 け て 少 数 株 主 に 会 社 か ら 退 出 す る 権 利 (退 出 権) を 与 え る 制 度 も 注 目 を 浴 び て い る よ う で あ る が (奈 須 野 太「経 済 産 業省意見 『今後の企業法制の在り方について』 」 商事法務一九〇六 号、 二 〇 一 〇 年、 四 二 頁、 太 田 洋 = 山 本 憲 光「支 配 株 主 の バ イ ア ウ ト 権 と 少 数 株 主 の セ ル ア ウ ト 権(上) (下) ― そ の 論 点 と 課 題 ―」 商 事 法 務 一 九 一 〇 号、 二 〇 一 〇 年、 四 五 頁、 商 事 法 務
一 九 一 二 号、 二 〇 一 〇 年、 三 四 頁) 、 む し ろ、 強 圧 性 の 問 題 に対応することがより重要であるとし、退出権の考え方に否 定 的 な 見 方 も あ る (飯 田 秀 総「公 開 買 付 規 制 の 改 革 ― 欧 州 型 の 義 務 的 公 開 買 付 制 度 の 退 出 権 の 考 え 方 を 導 入 す べ き か ―」 商 事 法 務一九三三号、二〇一一年、二一頁) 。 (本 稿 は 平 成 二 三 年 六 月 一 八 日 に 企 業 法 理 研 究 会 で、 お よ び、 同 年七月二二日に東洋大学商事法研究会で報告したものである。 ) (くすもと・じゅんいちろう 東洋大学法学部教授)