感の検討
著者
岸 俊行
雑誌名
福井大学教育・人文社会系部門紀要
巻
4
ページ
197-207
発行年
2020-01-17
URL
http://hdl.handle.net/10098/10827
本研究では、看護学校を対象に学生が教師に抱く信頼感に関して、教師への信頼の 強さ(信頼度)を変数に取り上げて、学生の教師の行動態度認知との関連の検討を 行った。予備調査として、33名の学生に信頼する教師を何故、信頼するのか自由記 述を求めた。その結果をもとに教師の行動態度認知尺度の作成を行い、看護系の専 門学校生 157 名を対象に調査を行った。その際に教師の信頼度および学校享受感尺 度の回答も求めた。教師の行動態度認知尺度に対して因子分析を行った結果、「学生 尊重・ケア」「教師の真摯さ・安心」「教師としての資質」「教師の教授行動」の4つ の因子が抽出された。教師の信頼度を従属変数とし教師の行動態度認知尺度の 4 因 子を独立変数とした重回帰分析を行った結果、「学生尊重・ケア」因子と「教師とし ての資質」因子が、教師の信頼度に正の関連を示していた。また学校享受感の高い 学生の方が、教師への信頼度が高いことも明らかとなった。 <キーワード> 信頼感 教師の信頼度 学校享受感 教師の態度 看護学生 1.問題 近年、不登校や学級崩壊といった教育現場の問題が多数報告されている。また、教師と児童生 徒との信頼関係に起因する問題も多く報告されている。今年(2019 年)1 月には、都立町田総合 高等学校において、生徒からの執拗な挑発を受けた教師が生徒を殴ってしまう動画がWeb上に拡 散され大きな問題になった。また授業中の教師の問題行動(および子どもを不安にさせるような 事案)も後を絶たない。今年に入ってからも授業中に誤答した生徒に体罰を行った高校教諭や小 学 3 年生に「馬鹿じゃないの」と言い放った女性教諭などの言動が報道されている。また 9 月に は、「死ぬのは5人か1人か」という思考実験を岩国の小中学校で行い保護者からの苦情で学校側 が謝罪したという事案が報道された。更に岐阜県の中学 3 年生の男子生徒が自殺した事案におい * 福井大学教育・人文社会系部門教員養成領域
岸 俊 行
*(2019年9月30日 受付)
ては、担任教師がいじめメモを紛失していたことが明らかになり、香川県の小学校教諭は児童の 卒業アルバム用のメモを紛失し改ざんしていたことが報道された。このように2019年の9か月間 だけでも様々な学校現場における問題事案が報道されている。このような問題は学校現場におけ る子ども(被教授者)と教師(教授者)との信頼関係の問題につながると考えられる。教育現場 で起こっている数々の問題は、子どもを起因とする問題だけではなく、教師をはじめとする大人 の側を起因とする問題も多くみられるのである。 学校教育において教師と子どもの信頼関係が重要であることは論を俟たない。学校教育の中心 は授業であり、子どもは学校という空間にいる大半の時間を授業という形式で過ごしている(藤 岡 1998)。教室という場は、相互作用論の立場から Wilkinson & Calculator(1982)が指摘して いるように、教師と子どもとが情報を交換し合う相互作用文脈が根底にあり、その日々の相互作 用の結果として教師と子どもとの信頼関係も築かれていると解することが出来る。特に、授業の 過程そのものが教師と子ども両者の関わりによって生み出される社会的行動からなるものとして 理解されている(坂西、1995)。以上のような観点から、学校現場における教師側を起因とする 問題を考える際には、まず教師と子どもとの信頼関係がどのように構築されているのかという視 点を持って考えることが重要である。 そもそも子どもの教師への信頼感はどのように形成されているのだろうか。多くの学校では、 新学期の4月に初めて担任教師(担当の教師)と出会い、これ以降、子ども達は教師の様々な事象 への対応や言動、表情などからどの様な教師なのかを見極めようとしている(三島・渕上 2010)。 そのような子どもの教師への認知過程を経て教師の信頼感が形成されていると考えられる。実際 に、教師の授業内での行動が子どもへ影響を及ぼしているとされる研究は多くみられる(例えば 岸・野嶋 2006、坂本・内藤 2001)。特に坂本・内藤(2001)は教師の授業内の行動が「児童から 教師への信頼感」を媒介にして教師と子どもとの関係のあり方に影響を及ぼしていることを明ら かにしている。 子どもの教師への信頼感を取り上げた研究はいくつかみられる。中井・庄司 (2006)は、中学 生を対象に教師に対する信頼感尺度を作成した。その結果、教師への信頼は「教師がいる安心感」 「教師に対する不信」「教師に対して期待する正当性」の3因子構造であることを示唆している。村 上・坂口・櫻井(2010)は担任教師に対する信頼感を「小学生が担任教師に対して一方向的に感 じている、信じ頼ることができるという主観的判断とそれに基づく担任教師が自分を幸福にする ような行動をしてくれるであろうという期待」と定義した上で、小学生用の担任教師に対する信 頼感を測定する尺度の作成を行い信頼性および妥当性の検討を行っている。村上ら(2010)で作 成された尺度は 5 項目からなる一次元構造の尺度であり、十分な信頼性および妥当性も確認され ている。 先述した通り、教師の授業内の行動が子どもの教師への信頼関係構築に影響を及ぼしている可 能性が示唆されている。実際に教師の教授行動と信頼感を検討している研究も見られる。佐竹
(2003)は、信頼感を個人の特質ではない一般的に用いられる定義(「相手を信頼し、頼ることが 出来る気持ち」)を用いて捉えて、高校生の教師に対する信頼感を生起させる教師の行動の検討 を行った。その結果、生徒に信頼感を生起させるような教師の行動として「尊重」「肯定的特質」 「安定性」「受容性」「明朗性」「親密性」の 6 つの因子の関連が、さらに生徒が教師に信頼感を生 起するための活動として「安心感」「被受容感」「好感」「被尊重感」の4つの因子が関連している ことが示唆された。また村上・鈴木ら(2013)は、小学生の担任教師に対する信頼感と担任教師 の行動・態度との関連の検討を行った。その結果、子どもの信頼感形成に影響を及ぼしている教 師の行動として、「肯定的評価」「安心感」「親近感」「適切な叱り」の4因子を明らかにしている。 さらに中井(2015)は、中学生の教師との関係の形成維持に対する動機づけと担任教師に対する 信頼感とを検討した。その結果、教師との関係の形成・維持に対する動機づけ 4 因子がすべて低 い生徒の担任教師への信頼感が低いことを明らかになった。この研究知見より、教師と生徒の信 頼関係は教師側の要因と生徒側の要因の相互作用の繰り返しであることが示唆される。 このように教師の行動をはじめとした資源が子どもへ影響を及ぼし、教師への信頼感が形成さ れているという研究が多く行われており興味深い知見も積み重ねられている。しかし、これらの 先行研究の問題点として下記を指摘できる。同一の教師への信頼感においても、評定対象によっ て変わってくることが想定される。信頼感が先述されている通り、信頼対象の経験や行動から形 成されているのであれば、その信頼対象者の経験値との関連で相対的に評価する必要がある。つ まり教師に対して「とても信頼できる」としている子どもであっても、両親への信頼感と同等の信 頼感を抱いているのか、両親程の信頼感は抱いていないのかはわかりかねない。学校現場におけ る教師への信頼感形成を考えていく際には、このような子どもが教師へ抱く信頼度が重要になっ てくるといえる。教師側の要因と子ども側の要因が子どもの教師への信頼関係構築に影響を及ぼ していることが明らかであるために、実際に子どもの教師への信頼度と教師の行動との関連を検 討する必要があるといえる。 また教師の行動と信頼感との関連は十分に検討されているが、同じ教師の行動に対しても、そ の行動の対象である子どもの受け取り方は異なる。教師の行動が子どもの信頼感に影響を及ぼし ているという事は、すなわち教師の行動を子どもがどう認知するかが信頼感形成に影響を及ぼし ているという事と捉えることも可能である。 そこで本研究では、子どもの教師の行動認知と教師への信頼の強さ(信頼度)との関連につい て検討することを目的とした。本研究では、信頼の強さを測定するために、信頼を佐竹(2003) と同様に一般的に用いることが可能な「相手を信じて頼ることが出来る気持ち」とした。また本 研究では看護系専門学校生を対象とした。その理由として以下が挙げられる。小中学生を対象に した場合、担任教師への評価懸念が想定される。評価をする事への不利益を過度に想定すること により正確な回答がなされない可能性がありうる。また高校生の場合、教師との関わりは比較的 大学に近く、担任教師や各教科担当の教師との関わりは生徒によりかなり濃淡が異なる事が想定
される。同じ条件での関わりとして教師との信頼関係を測定する際には不適と考えられる。また 多くの研究で見られるような大学生を対象に小中学校時代の教師との関係性を回想させる回想法 の研究も見られるが、信頼は他者への印象に基づいて形成されるものであり、印象は時間経過と ともに変化することが指摘されている。そのため、数年前の人物への信頼度を現在測定すること が妥当とは言えない。それに対して看護系専門学校はクラス制を採用しており、1年生から3年生 まですべての授業をクラス全員で受ける。また実習が多くあり担任教師との関わりも非常に密接 である。また質問紙への回答に関して学校関係者には一切明かさないことを明言することで、小 中学生ほどには評価懸念が起きるとは考えられない。このような点を鑑みて、本研究では看護系 専門学校の学生を対象に行った。 2.方法 2.1 予備調査 専門学校の学生(1 クラス)33 名を対象に、現在の学校において信頼できる教師を 1 人思い浮 かべてもらい、その教師に対して以下の2点について自由記述を求めた。1.どういう経緯でその 教師に対して信頼を抱くことになったのか、2.その教師のどういう点が信頼できると感じてい るのか。その際に、ここでの信頼は一般的に他者に対して抱く「相手を信じて頼ることが出来る 気持ち」であると明記した。 得られたデータを教育心理学と教育工学をそれぞれ専門としている大学教員 2 名と教育工学を 専攻する学生 1 名の計 3 名で整理・分類を行った。その際に、教師への感情や教師の表情に関す る記述ではなく、「信頼できる」と感じる契機になった教師の行動に焦点を絞って分類を行った。 その結果、教師の行動を30項目にまとめることが出来た。 2.2 対象 看護系専門学校 4 校の学生 157 名(年齢 18 ~ 32 歳:男性 9 名、女性 147 名、未記入 1 名)。全学 校とも、1 回生のクラスを対象とした。なお調査は 10 月~ 12 月にかけて行われた。4 月に初めて 当該学校の教師と会い、8、9月に初めての短期間の実習を経た後の時期であり、学校の教師への 認知がある程度形成されている時期であり、それぞれの学生が関係する教師とある程度の信頼関 係が形成された時期といえる。 2.3 質問紙の構成 調査票は、初めに本調査票における信頼の定義として「相手を信じて頼ることが出来る気持ち」 であることを明記したうえで、以下の3つの指標で構成された。 1.教師の信頼度 現在、学校で最も信頼している教師を一人思い浮かべてもらい(その教師をA先生とする旨を 明記する)、その教師の信頼度に関して相対的な評価を求めた。すなわち、日常生活で最も信頼し ている人を10とした時の当該教師の信頼度を10段階で評定してもらった。
2.教師の行動態度尺度 予備調査の回答をもとに、教師への信頼が形成される要因となる教師の行動や態度に関する30 項目からなる尺度を作成した。なお尺度への回答は、現在、学校で最も『信頼』している先生(前 項の質問項目でのA先生)についての項目に対して、「当てはまらない」~「当てはまる」の5件 法による回答を求めた(内容に関してはTable2参照)。 3.学校享受感尺度 古市(1994)が作成した学校享受感尺度(10項目)に対する回答を5件法で求めた。10項目の 合計得点を学校享受感得点とした。 3.結果と考察 3.1 教師の信頼度と学校享受感との関連 学生の教師への信頼度の分布はFigure 1の通りである。最大値は10で最小値は1であり、平均 は 5.75(N = 151, SD = 2.139)であった。現在、一番信頼している人を 10 とした時の学内にお ける最も信頼できる教師の信頼度であり、5.75 という平均はある程度、理解できる信頼度といえ る。まず初めに、教師への信頼度と学校享受感との関連の検討を行った。学校享受感得点の平均 は 28.03(N = 155, SD = 8.363)であったため平均を考慮し、28 点以上を学校享受感高群、以下 を学校享受感低群とした。学校享受感の 2 群を独立変数に、学生の教師への信頼度を従属変数と したt検定を行った(Table1)。分析の結果、学校享受感高群は低群よりも教師への信頼度が有意 に高いという結果であった。この結果より、学校への親和性とその学校の教師への信頼度とは関 連しており、学校への親和性の高い学生はその学校の教師に対しても高い信頼度を有していると いうことが明らかとなった。 Figure1 信頼度のヒストグラム
3.2 教師の行動態度認知尺度の検討 教師の行動態度認知尺度の 30 項目に対して因子分析(最尤法・Promax 回転)を行った。因子 負荷量が絶対値0.4に満たない項目5項目を除き、再度、因子分析を行った。解釈妥当性を考慮し て、4因子25項目を採用した(Table 2)。各因子を.40以上の因子負荷量を示す項目を中心に解釈 を行ったところ、第 1 因子(10 項目)は、「A 先生は私によく声をかけてくれる」「A 先生は私の ことをよく見てくれる」「A先生は私に何かるとすぐに対処してくれる」「A先生は自分のことを よく私に話す」「A 先生は私の個性を大切にしてくれる」などの項目の負荷量が高い。これらの 項目は、学生のことを気にかけ、学生主体の関わりを心掛けている項目であることが分かる。こ のことから「学生尊重・ケア」因子とした。第 2 因子(7 項目)は、「A 先生は私が何度同じこと を聞いても怒らない」「A先生は忙しい時でもいつも笑顔でいる」「A先生は自分の意見を私に押 し付けない」などの項目の負荷が高く、「A 先生は私にどんな時でも厳しくしてくれる」が逆転 項目となっている。これらの項目は、学生が教師に対して安心感や親しみやすさを抱いている項 目、教師の真摯な対応を認知している項目と理解することが出来る。このことから「教師の真摯 さ・安心」因子とした。第3因子(5項目)は、「A先生は自分が言ったことに責任を持つ」「A先 生は私の質問に的確に分かりやすく答えてくれる」「A 先生はいろいろと多くのことを知ってい る」などの項目の負荷が高い。これらの項目はどれも教師の教職に対する安心感や責任感に対す る信頼と捉えることが出来る。このことから「教師としての資質」因子とした。第 4 因子(3 項 目)は、「A先生の授業は教え方が上手である」「A先生の授業は退屈しない」「A先生は授業の時 と、休み時間でメリハリがある」の項目で構成されている。これらの項目は、教師の授業技能の 上手さに対する信頼であるといえる。このことから「教師の教授行動」因子とした。尺度の信頼 性を検討するため、Cronbachのα係数を算出した。その結果、第1因子が.833、第2因子が.738、 第3因子が.790、第4因子が.731であり、一応の信頼性は保証されたといえる。各因子に含まれる 項目の得点を合計し、それぞれ「学生尊重・ケア」得点、「教師の真摯さ・安心」得点、「教師と しての資質」得点、「教師の教授行動」得点とした。 Table1 信頼度と学校享受感との関連
3.3 信頼度と教師の行動態度認知尺度との関連 次に、教師への信頼度と教師の行動態度認知尺度との関連の検討を行った。行動態度認知尺度 の 4 因子を、平均値を基準に高群と低群とに分割した。各因子の群分変数を独立変数に教師への 信頼度を従属変数とした t 検定を行った(各群の基礎統計量および t 検定の結果の概要は Table 3 参照)。検定の結果、「教師の真摯さ・安心」因子以外の3つの因子において高群と低群の間に1% 水準で有意に平均値の違いが見られた。どの因子においても高群の方が低群よりも有意に教師へ の信頼度が高いという結果であった。この結果より、教師が自分のことを考えてくれていると感 じる行動や教師の資質を感じられる行動をとっていると認知することや教師の授業技術の上手さ を感じる行動を認知することが当該教師への信頼感形成に寄与している可能性が示唆された。そ れと同時に、教師の行動から感じる真摯さや安心は、当該教師への信頼感と関連がないことが示 唆された。 Table3 教師への信頼度と教師の行動態度認知尺度の各下位因子との関連 次に、教師への信頼感形成に寄与する要因を検討するため、教師への信頼感を従属変数に、教 師の行動態度認知尺度を独立変数とした重回帰分析(強制投入法)を行った(Table 4)。その結 果、「学生尊重・ケア」(β=.295, p<.01)、「教師としての資質」(β=.249, p<.01)が正の関連を示 した。この結果は、先の t 検定結果とも合致するものである。以上の結果より、学生の教師の行 動態度認知が教師への信頼感形成にある程度、寄与していることが示唆された。
Table4 重回帰分析結果 4.結論 4.1 総合考察 本研究では、教育現場における学生の信頼感形成に着目し、学生が学校生活で認知する教師の 行動態度と教師への信頼の強さ(信頼度)との関連について検討することを目的に行った。検討 にあたっては、調査対象者の当該学校における信頼できる教師を一人思い浮かべてもらい、その 教師の相対的信頼度を分析変数として用いたことに本研究の特徴があるといえる。分析の結果、 大きく以下の二つのことが明らかとなった。第一に、学校内での信頼できる教師への信頼度と学 校享受感とが関連していることである。学校に対しての親和性の高さが教師への信頼の強さに寄 与していることが示唆された。第二に、学生の教師の行動態度認知と教師の信頼の強さとの間に 関連が見られたことである。特に教師の行動を自分のことを考えて行っていると認知すること、 および教師の行動の背景に教師の資質を認知することが、当該教師への信頼の強さに関連してい ることが明らかとなった。さらに教師の真摯さや教師に対する安心感は、信頼の強さと関わりが ないことも示唆された。このことは従来の研究ではあまり取り上げられていない点であり重要な 事であるといえる。この因子には「同じことを聞いても怒らない」や「いつも笑顔でいる」「自分 の意見を押し付けない」などの項目が含まれており、本研究の結果は、当該教師への信頼度が高 い学生も低い学生においても差が見られないということである。すなわち、学生にとってこれら の行動は教師にとって特別な行動ではなく、教師として当然の行動と捉えていることが示唆され る。学生にとって、教師は常に身近な存在であり、自分に安心を与えてくれる存在であるという 認識を有しているということであろう。 4.2 本研究の限界と今後の課題 本研究では、教師への信頼感形成に関して質問紙調査のみにおいて分析を行った。調査票の中 に教師の行動態度を明らかにするための認知尺度を作成したため、実際に取っている教師の行動 を変数に取り上げているわけではない。そのため教師の行動とその行動の認知の因果関係が明
らかではない。すなわち 2 人の学生の教師の行動態度認知が異なっている際に、教師は同じ行動 を 2 人の学生に取っているにもかかわらず認知が異なっているのか、教師が 2 人の学生に異なる 行動をとっているため行動態度認知が異なっているのか本研究では明らかではない。これまでの 教育現場における教師との信頼感形成に関する研究もほとんどが質問紙調査法を用いて行われて いるが(例えば中井・庄司 2006 2008、村上・坂口・櫻井 2012、佐竹 2003、児玉・川本 2015)、 今後は実際の教師の行動とその結果の信頼感の形成との関連に関して、インタビュー的手法を用 いて事例研究的に分析していく研究が求められる。また「信頼」という概念の曖昧さという点 も挙げられる。本研究では一般的に用いられる広義の定義を用いた。しかし実際の「信頼」は、 人間一般に対する信頼感と特定の他者に対する信頼感で異なることが指摘されている(例えば Rempel, Holmes & Zanna 1985、山岸 1988)。また児童期における重要な他者への信頼感を検討 した Rotenberg (2001)によると、この時期の児童にとって信頼対象によって信頼感の構造が異 なってくることを指摘している。実際に、教育現場における子どもの教師への信頼感について分 析を行った研究においても、「信頼」そのものに対する定義は一意ではなく、それぞれの研究ごと に定義が行われている。今後は「教育現場における信頼」についての研究も行っていく必要があ るといえる。 引用文献 坂西友秀(1995)学級の雰囲気と動機づけ 新井邦二郎編 教室の動機づけの理論と実践 金子書房,東京. 藤岡完治(1998)授業をデザインする 浅田匡・生田孝至・藤岡完治(編)成長する教師 金子書房,東京. 古市裕一(1994)学校生活の楽しさとその規定要因 日本教育心理学会総会発表論文集,36:169. 岸・野嶋(2006)小学校国語科授業における教師発話・児童発話の分析 -授業実践の記述の試み- 教育心理学 会研究,54(3),322-333. 児玉真樹子・川本竜太郎(2015) 教師の行動と児童の教師に対する信頼感との関係-発達段階に着目して- 学 習開発学研究,8,81-88. 三島美砂・淵上克義(2010) 学級集団,児童 ・ 生徒個人に及ぼす教師の影響力や影響過程に関する研究動向と今 後の課題 岡山大学大学院教育学研究科研究収録,144,39-55. 村上達也・坂口奈央・捜井茂男(2012) 小学生の担任教師に対する信頼感尺度の作成 筑波大学心理学研究,43, 63-69. 村上達也・鈴木高志・坂口奈央・捜井茂男(2013) 小学生における担任教師に対する信頼感と担任教師の行動・ 態度についての評価の関連 筑波大学心理学研究,45,91-100. 中井大介・庄司一子(2006) 中学生の教師に対する信頼感とその規定要因 教育心理学研究,54, 453-463. 中井大介・庄司一子(2008) 中学生の教師に対する信頼感と学校適応感との関連 発達心理学研究,19,57-68. 中井大介(2015) 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対売る信頼感の関連 教育心理学研 究,63,359-371. Rempel, ]. K., Holmes, ].G., & Zanna, M.P. (1985). Trust in close relationships. Journal of Personality, 57, 257-281. Rotenberg, K.]. (2001). lnterpersonal Trust across the lifespan. ln P.B. Batles & ]. Smester (Eds.), International
encyclopedia of social and behavioral sciences, pp.7866-7868, New York: Progamon.
坂本美紀 ・ 内藤満江(2001) 小学生が持つ担任教師への信頼感に関する要員 -指導行動,自己開示,スクール ・ モラールとの関係- 愛知教育大学研究報告 (教育科学篇),50,143-151.
佐竹圭介(2003) 教育現場における教師に対する生徒の信頼感の研究 九州大学心理学研究,4,195-201. Wilkinson, L.C. & Calculator, S. (1982). Effective speakers:Students’ use of language to request and obtain
information and action in the classroom. In L.C. Wilkinson (ed.) Communicating in the classroom. Academic Press.