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医療薬学 Jpn. J. Pharm. Health Care Sci. 塗布量は実際に必要な量と比べて少なくなると考えられ, 日本人患者固有の塗布量の算出基準を新たに作成することが有用と考えられる. 現在までに各ステロイドの製剤別に FTU の本来の量, すなわち製剤を 2.5 cm 取り出した場

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一 般 論 文

緒   言

 アトピー性皮膚炎に対する薬物治療ではステロイド軟 膏による療法が広く用いられており1),その治療効果には 軟膏の使用法・使用量が影響する2).治療を行う際,患者 は自分自身で軟膏を適量取り出し患部に塗布することに なるが,ステロイドの塗布量は添付文書には「適量」と 示されているだけであり,定量的に明確な規定はなされ ていないのが現状である.また,患者は各種メディア等 から得られる情報をもとに独自の判断を行い,ステロイ ドの副作用を過剰に心配することもあり3),これらの結果 としてステロイド軟膏製剤の適切な塗布量を正しく理解 しないままに使用し,患者自身の判断で必要以上に塗布 し,あるいは中止してしまう場合がある4, 5).このよう に,ステロイド剤を用いた治療では患者がステロイド軟 膏製剤に関して正しい知識をもった上で治療を行うこと が望ましく,そのためのひとつの対策としてステロイド 軟膏製剤の塗布量に関する基準を明確に定めることが必 要である.  日本皮膚学会が発行するアトピー性皮膚炎診療ガイド ライン6) にはステロイド軟膏製剤の塗布量の設定方法とし

て Finger Tip Unit (FTU) と呼ばれる基準が推奨されてい る.FTU 基準は 1991 年に米国で初めて作成されたもので あり,軟膏の取出し口の口径を 0.5 cm,第 2 指の先端か ら第 1 関節部までの長さを 2.5 cm と固定した値を用いて いる7, 8).1FTU に相当する軟膏製剤の量 (約 0.5 cm3 ) は成 人の体表面積の約 2%9) に相当する成人の掌 (手のひら) 2 枚 分に塗布するのに適しているとされ,FTU 基準に従い体 の各部位に薬剤を塗布する場合には,塗布する部位の体 表面積に対する割合を考慮して体の各部位における FTU に換算した場合の必要量を算出する方法10­13) がある.  この方法をそのまま日本国内で適用する場合,ステロ イド軟膏製剤の口径の大きさが製品によって異なる,患 者の体表面積や各部位の塗布面積の個人差については考 慮されていない,といった欠点もあり14) 適切な指標とは いえない.特に,日本のステロイド軟膏製剤の口径は米 国と比べて小さい場合が多く,FTU 基準により得られる

ステロイド軟膏製剤の塗布量に関する新規基準の提案

地嵜悠吾,中村暢彦

,松村千佳子,矢野義孝

京都薬科大学臨床薬学教育研究センター

Proposal of New Standard for Setting Doses of Steroid Ointments

Yugo Chisaki, Nobuhiko Nakamura

*

, Chikako Matsumura and Yoshitaka Yano

Educational and Research Center for Clinical Pharmacy, Kyoto Pharmaceutical University



Received April 18, 2011  Accepted September 15, 2011

 Regarding the dose amount of steroid ointments, package inserts gives no precise direction and it is necessary to clearly determine the standard method for dose setting. For this purpose, a method called ‘Finger Tip Unit (F T U)’ has been proposed in a guideline for atopic dermatitis, but this method has some demerits that it assume the same caliber of ointment tubes’ head among different drugs’ formulations and also it does not consider inter-patients’ variability of body surface area. In order to establish a new dose setting strategy instead of F T U, we propose a new standard method which is based on the calculated sur-face area of body regions that drugs are applied. This method uses the published data of age, body weight, height, and sursur-face area ratio of each body region to whole body surface area. Consequently, an equation to calculate the length of ointment to be squeezed out of a tube is presented for each body region, and we also propose the length for a unit area which is useful for ap-plying to small area on any body regions. These results would be useful in the points that it clearly determine dose amount of steroid ointments and also it lead to an improvement of patients’ adherence as well as improving clinical efficacy of steroid ointments.

Key words ─ Finger tip unit (F T U), steroid, ointment, dose setting, Monte Carlo simulation, Lund & Browder’s formula

京都府京都市山科区御陵中内町 5

医療薬学

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医療薬学 Jpn. J. Pharm. Health Care Sci. 塗布量は実際に必要な量と比べて少なくなると考えられ, 日本人患者固有の塗布量の算出基準を新たに作成するこ とが有用と考えられる.現在までに各ステロイドの製剤 別に FTU の本来の量,すなわち製剤を 2.5 cm 取り出した 場合の質量を測定したもの15) や製剤ごとの吸収率等から 必要量を算出したもの16) はあったが一般的な基準は作ら れていなかった.そこで本研究では,各種ステロイド軟 膏製剤の口径の違いや身体各部位の体表面積の個人差を 考慮したステロイド軟膏剤の塗布量を決定する基準を構 築することを目的とした検討を行った.また,患部が狭 い範囲に限局している場合の適用方法についても検討を 加えた.

方   法

1. ステロイド軟膏製剤の口径測定  日本国内ではステロイド軟膏製剤の口径が製品によっ て異なることから,国内で用いられているいくつかの製 剤について取り出し口の直径を口径 (r) と定義しデジタル ノギスを用いて 0.1 mm の単位まで測定した (n=3).今回 調査した製剤 (商品名) は,デルモベート,フルメタ,ア ンテベート,ネリゾナ,ボアラ,リンデロン V,リンデ ロン VG,アルメタ,キンダベート,ロコイドの 12 種と した.これらの薬剤はいずれも日本国内でアトピー性皮 膚炎治療に汎用されているものであり,またいろいろな 口径の値を得ることを意識して選択した.なお,内蓋に 銀紙が貼付してある製剤の場合には蓋に付属している銀 紙を潰すための尖った部分の直径を測定しその製剤の口 径とした. 2. 日本人の部位別体表面積に関するデータ調査  厚生労働省ホームページ (http : // www. mhlw. go. jp / index. shtml ) 「平成 19 年国民健康・栄養調査報告」に掲載され ている平成 19 年時点での男女別,年齢別の身長,体重の 平均値および標準偏差の値を用いた.さらに藤本らによ り報告されている次式で与えられる体表面積の算出式17) をもとに全体表面積を算出した.    (0 ~ 5 歳) (1)    (6 歳以上) (2)  ここで, は体表面積 (cm2 ), は体重 (kg), は身長 (cm) を示す.

 次に,熱傷面積の算定法の一つである Lund & Browder の公式 12) を用いて各部位別の表面積を算出した.この公 式は四肢を細かく区分し年齢を加味して各部位の表面積 を全体表面積に対する比率 ( ) で示したものであり,例 え ば 掌 (片 手) で は, 年 齢, 性 別 に か か わ ら ず = 0.0125,上腕部 (片腕) では年齢によって, は 0.0325~ 0.0475 といった値が定められている.これにより特定部 位における表面積は で得られる.  さらに,体表面積あるいは各部位の表面積を求めるに あたり,各年齢における点推定値だけでなくその信頼区 間を得ることで推定誤差を算出した.すなわち,男女別, 年齢別の身長および体重のデータについて得られている 標準偏差,さらには (1),(2) で示される体表面積算出式 の予測誤差を考慮したモンテカルロシミュレーションを 行い最終的に推定される体表面積について信頼区間を算 出した.ある年齢におけるランダム誤差を考慮した体重, 身長をそれぞれ,   , (3) で得た.ここで , , , はそれぞれ,ある 年齢における体重,身長の平均値および標準偏差で,添 字 はある患者固有の値であることを示す.さらに体表 面積算出式の誤差項の標準偏差を として,文献 17) 記載されている誤差不偏分散 (%) の定義およびその値を 参考に,   (4) によってすべての誤差を考慮した体表面積のシミュレー ション値を得た. ここで は (1) あるい は (2) 式を示し, には文献 17) に記載されている誤差不 偏分散 (%) の値(3.55) を参考にその平方根 (1.88) を (1), (2) 式共通で用いた.すべての誤差には正規分布を仮定 し,1000 個の体表面積についてのシミュレーションデー タを生成し,さらに各部位での表面積比率 を考慮した 上で信頼区間を算出した.これらの計算には Excel マク ロを使って作成した独自のプログラムを用い, 乱数 は Box-Muller 法で発生した. 3. 年齢別,部位別,口径別の必要量の算出  薬剤を塗布する各部位の表面積を得たのち,実際に塗 布する薬剤量 (体積) を算出することが必要になる.軟膏 の最大塗布可能面積は薬剤 1 cm3あたり 583 cm2とされて いること7)を考慮すると,体表面積が の患者で表面積 比率 の部位に塗布するために必要な薬剤の体積 ( V ) は 次式で計算できる.   (5)  さらに,(5) 式および軟膏製剤の口径 (r (cm)) から求め られる断面積を考慮することで当該部位面積の塗布に必 要な軟膏のチューブから絞り出す長さ (L) を次式で算出 した.         (6)  ここで,軟膏を絞り出すときの力の強さ,および軟膏 製剤間での伸び率の違いは絞り出す長さに依存しないと

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仮定した.また各製剤が実際にどれだけの塗布が可能な のかを知るため,各製剤の容量から最大に取り出せる長 さを計算した.  患部が狭い範囲に限局している場合,ある単位面積あ たりの取り出し長さを指標とすると便利である.ここで は名刺大 (5.5 cm×9.1 cm) の面積を塗布するのに必要な L を次式により算出した.   (7) 4. 規定量取り出した場合の質量の測定  各製剤を 2.5 cm 取り出した場合の質量 (g) について,電 子天秤を用いて小数点以下 2 桁で測定した (n=3).なお, 取り出し長さはデジタルノギスを用いて確認し,また, 取り出した後の製剤の太さが取り出し口の口径とほぼ変 化がないことを確認した.

結   果

1. ステロイド軟膏製剤の口径  表 1 に今回調査対象としたすべてのステロイド軟膏製 剤について,口径 (平均値および標準偏差,n=3),およ び口径の平均値から計算される断面積,さらには一例と して,チューブから 2.5 cm 取り出したときの体積の計算 値を示す.  標準的な 1 FTU 基準による軟膏製剤の体積は約 0.49 cm3 となる.一方,今回実際に測定した各製剤の口径は0.28 ~ 0.44 cm と全体的に 0.5 cm よりも小さく,また体積の計 算値は 0.15 ~ 0.37 cm3と標準的な 1 FTU での体積 (0.49 cm3) よりも小さな値であった. 2. 日本人の体表面積および部位別表面積  年齢別の各部位の表面積を算出した結果について,例 として下腿部 (片腿) の表面積 ( =0.025 ~ 0.035) の計算 値を 95% 信頼区間とともに図 1 に示す.  モンテカルロシミュレーションにより得た 95% 信頼区 間から,図 1 の場合であれば同じ年齢でも体表面積にあ る程度の個人差があることがわかるが,10 歳以下の小児 ではその幅は小さく,年齢ごとの平均値を用いることで ほぼ適切な塗布量を算出することができると考えられる. 3. 各年齢,部位,口径別の必要量  (6) 式に基いて必要量を塗布するための製剤を取り出す べき長さ (L) を算出した結果について,例として男性の 下腕部 (片腕) を想定した結果を図 2 に示す.  製剤の口径により L は大きく異なることがわかる.こ こでは上腕部の例を示したが,今回提案する方法により 任意の年齢,性別,部位の L を簡単に計算することがで きる.  名刺大の面積に薬剤を塗布するために必要な取り出し 長さを (7) 式により計算した結果を表 1 に示す.あわせて 最大の取り出し可能な長さを表 1 に示した. 4. 規定量取り出した場合の質量の測定  質量の測定結果を表 1 に示した.体積の数値と質量の 数値とは必ずしも一致せずその比は製剤によって異なっ ていた. No. ステロイド製剤名 口径 (r) 1) (cm) 断面積 (cm2) 2.5cm 分の 体積2)(cm3) 名刺大塗布に 必要な長さ(cm) 最大可能 長さ 3) (cm) 2.5cm 分の 実測質量4) (g) 1 ネリゾナユニバーサルクリーム 0.28 (0.001) 0.06 0.15 1.39 81.2 0.23 (11.5) 2 ボアラクリーム0.12% 0.28 (0.003) 0.06 0.15 1.39 81.2 0.39 (2.6) 3 メサデルム軟膏0.1% 0.29 (0.000) 0.07 0.17 1.27 74.2 0.20 (0.0) 4 マイザー軟膏0.05% 0.32 (0.001) 0.08 0.20 1.08 63.0 0.22 (0.0) 5 キンダベート軟膏0.05% 0.34 (0.006) 0.09 0.21 1.00 58.5 0.25 (8.2) 6 デルモベート軟膏0.05% 0.33 (0.003) 0.09 0.21 1.00 58.5 0.25 (11.7) 7 アンテベート軟膏0.05% 0.36 (0.001) 0.10 0.25 0.86 50.3 0.24 (6.5) 8 ロコイド軟膏0.1% 0.38 (0.005) 0.11 0.28 0.76 44.1 0.25 (2.3) 9 リンデロンVG 軟膏 0.12% (5g) 0.42 (0.003) 0.14 0.35 0.62 35.9 0.32 (1.8) 10 アルメタ軟膏 0.42 (0.002) 0.14 0.35 0.61 35.6 0.32 (6.4) 11 リンデロンVG 軟膏 0.12% (10g) 0.42 (0.003) 0.14 0.35 0.61 71.2 0.31 (5.6) 12 フルメタ軟膏 0.43 (0.001) 0.15 0.37 0.58 33.8 0.35 (4.3) 13 リンデロンV 軟膏 0.12% 0.44 (0.001) 0.15 0.37 0.57 33.4 0.33 (5.2) No. ステロイド製剤名 口径 (r) 1) (cm) 断面積 (cm2) 2.5cm 分の 体積2)(cm3) 名刺大塗布に 必要な長さ(cm) 最大可能 長さ 3) (cm) 2.5cm 分の 実測質量4) (g) 1 ネリゾナユニバーサルクリーム 0.28 (0.001) 0.06 0.15 1.39 81.2 0.23 (11.5) 2 ボアラクリーム0.12% 0.28 (0.003) 0.06 0.15 1.39 81.2 0.39 (2.6) 3 メサデルム軟膏0.1% 0.29 (0.000) 0.07 0.17 1.27 74.2 0.20 (0.0) 4 マイザー軟膏0.05% 0.32 (0.001) 0.08 0.20 1.08 63.0 0.22 (0.0) 5 キンダベート軟膏0.05% 0.34 (0.006) 0.09 0.21 1.00 58.5 0.25 (8.2) 6 デルモベート軟膏0.05% 0.33 (0.003) 0.09 0.21 1.00 58.5 0.25 (11.7) 7 アンテベート0.05% 0.36 (0.001) 0.10 0.25 0.86 50.3 0.24 (6.5) 8 ロコイド軟膏0.1% 0.38 (0.005) 0.11 0.28 0.76 44.1 0.25 (2.3) 9 リンデロンVG 軟膏 0.12% (5g) 0.42 (0.003) 0.14 0.35 0.62 35.9 0.32 (1.8) 10 アルメタ軟膏 0.42 (0.002) 0.14 0.35 0.61 35.6 0.32 (6.4) 11 リンデロンVG 軟膏 0.12% (10g) 0.42 (0.003) 0.14 0.35 0.61 71.2 0.31 (5.6) 12 フルメタ軟膏 0.43 (0.001) 0.15 0.37 0.58 33.8 0.35 (4.3) 13 リンデロンV 軟膏 0.12% 0.44 (0.001) 0.15 0.37 0.57 33.4 0.33 (5.2) リンデロンVG 軟膏以外はすべて 5g 製剤を想定した。 1) 平均値(標準偏差)、n=3 2) 体積の一例を示すために 2.5cm 絞り出した場合を想定した 3) 製剤の全体積と取り出し口の口径から計算した最大の取り出し可能な長さ 4) 平均値(変動係数(%))、n=3 表 1. 各種ステロイド製剤の口径,各種計算値,および実測質量

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考   察

 本研究では,海外で用いられているステロイド軟膏製 剤の塗布量設定の目安となる FTU 基準について,日本国 内でもそのまま適用することは不適切であることを考察 し,新しい必要最適塗布量を算出する方法を提案するこ とを目的とした検討を行った.表 1 に示したように,日 本国内で販売されているステロイド軟膏製剤の口径には 0.28 ~ 0.44 cm とばらつきがあった.もともとの FTU 基 準では,標準的な口径の値として 0.5 cm を想定しており 日本国内でのステロイド軟膏製剤の口径は FTU の基準に 比べて小さいことが確認できた.このような口径の差は, チューブから取り出される製剤の体積に直接影響するた め,日本国内の製剤を FTU の標準値である 2.5 cm の長さ で取り出した場合の体積は 0.15 ~ 0.37 cm3と FTU 基準の 0.49 cm3よりも小さい.このように日本国内で FTU 基準 をそのまま適用するには製剤の口径が統一されているこ とが望ましいが,現状ではそのようにはなっていない. また,実際には患者の体表面積には年齢による違いやそ の他の個人差がある.FTU 基準では患者の体表面積に関 係なくその塗布量は一定となっているが,図 2 に例示し たように必要な塗布量を定めた場合の製剤の取り出すべ き長さは年齢だけでなく口径に大きく依存するため,す べての製剤について取り出す長さを統一することは適切 ではない.すなわち,口径と体表面積の製剤間あるいは 患者間での差を考慮しない従来の FTU 基準は簡便である 一方で精度が低いことが欠点となる.  FTU 基準の問題点をさらに具体的に考えてみると,例 えば口径の小さいネリゾナユニバーサルクリームやボア ラクリーム (0.12%) といった薬剤の場合,今回得られた 必要取り出し長さ算出法の結果と比較すると 5 歳でちょ うど 2.5 cm であり,それ以上の年齢では男女ともに 2.5 cm の取り出しでは十分ではないことがわかり,十分な治療 効果が得られない可能性が示唆される.患者はステロイ ドによる副作用に対して過剰に心配する場合があり,な るべく塗布量を少なくしようと考えている場合も想定さ れる.こういった場合には,患者が納得でき,また客観 的な数値に基づいた精度の高い外用ステロイドの必要量 を提示するべきであり,そのためには今回提案する製剤 の口径と患者の体表面積を考慮に入れた塗布量の設定方 法は臨床的にも有用であると考える.  一方で,今回提案する方法にはいくつかの問題点も残 されている.まず,今回提案する方法を臨床現場で活用 する場合には,製剤を取り出す長さをできるだけ正確に する必要があるという点である.たとえ必要な取り出す べき長さがわかったとしても,今までのように患者が目 分量で取り出している場合には誤差が大きくなる.対策 としては,製剤を提供したり使用方法を説明したりする 際に簡易の「ものさし」を同封し,必要な長さを測定し ながら取り出す方法が考えられる.こういった方法を患 者に正しく説明することで,患者としても自分自身で根 拠のある塗布量について理解を深めることができ,結果 としてアドヒアランスの向上に役立つものと考えられる. もうひとつの問題点は,日本国内のステロイド軟膏製剤 の取り出し口が銀紙で密封されている場合があるという 点である.患者はこれを自分自身で破ることになるが, 十分に破らずに穴が小さいままであるとさらに口径は小 さくなり取り出し長さだけを正確にしたとしても塗布量 は減少することになる.本研究ではこのような銀紙は製 剤の蓋に付属している先の尖った部分で完全に穴を開け た場合を仮定し口径の測定値としてこの部分の最大直径 を用いており,実際に利用する場合でも銀紙を十分に取 り除くように説明することが必要である.  今回提案する算出式 ((6) 式) を用いることで任意の年 22 0 2 4 6 8 0 10 20 30 40 50 60 70 80 Sur face Ar ea (c m 2) Age (y) 23 0 2 4 6 8 0 5 10 15 20 Leng th ( cm) Age (y) 図 1. 計算された年齢別の下腿部 (片腿) の表面積およびその 95% 信頼区間 実線:男性 (●),点線 (○):女性 図 2. いくつかの口径の値ごとに求めた年齢と必要量を取り 出す長さ (L) との関係 塗布する部位の例として男性の上腕部 (片腕) を想定し, 20 歳までの値を示した. ○:r=0.28 cm,△:r=0.42 cm,□:r=0.50 cm

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齢,口径といった条件において,正確な塗布量,塗布に 必要な製剤取り出しの長さを計算することができるが, 実際の臨床現場でこのような計算をすることは,電卓あ るいは Excel のような表計算ソフトウェアが必要となり 煩雑になることも考えられるため,より簡便な説明書を 利用することが望ましい.ひとつの例として作成した説 明書案を図 3 に示す.ここでは就学前の児童を対象とし, 藤本らによる式 (1) の年齢範囲を対象とした.  今回さらに,患部が狭い範囲に限局している場合を想 定して名刺大の面積に薬剤を塗布するために必要な取り 出し長さを計算した.この結果を用いることにより,上 腕や下腿部といった部位全体へ塗布するのではなく,そ の一部分に塗布する場合に有用である.  今回の検討においては,部位別の薬物の吸収率の違い に関して考慮していない.その理由は,ステロイド軟膏 製剤は一般にその強さによって,「weak」から「strongest」 までの 5 段階に分類されており,部位の吸収率と重症度 に応じて強さのことなる製剤を選択する18­20)という方法 がとられているためである.すなわち,薬物の吸収率の 違いによって薬物の塗布量を調整するわけではなく,吸 収率の違いも含めて最適な薬剤が選択されるため,吸収 率の違いは塗布量算出の上で考慮する必要がないと判断 した.  今回は,平均的な患者の体重や身長に関する文献値を 用いて体表面積を算出したが,実際には薬剤を適用する 患者本人の体重,身長の実測値を用いることも可能であ り,その値をそのまま (1) 式あるいは (2) 式に代入し,さ らには (6) 式から塗布に必要な取り出し長さを算出でき る.本検討においては,文献値を用いて日本人の典型的 な場合を想定したシミュレーションを行い,またそこか らノモグラムを得ることを目的としたため,患者個人の 体重,身長には文献値を用いた検討を行った.実際には 患者本人の体重,身長を代入して塗布量や製剤から取り 出す長さを定めることも可能である.  今回の検討結果は,口径および体表面積といった数値 を用いて理論的に導いたものであって,臨床現場での有 用性を検証するには至っておらず今後の検討課題である. また,臨床現場では病気の進行等により塗布面積が変化 し,図 3 に示したノモグラム表ではその変化に対応でき ないといった問題点が考えられるが,塗布面積が限局さ れる場合や変化する場合には表 1 に示した名刺大面積の 塗布量をもとに適切な比例換算を行うことで適切な取り

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口径      年齢 1 2 3 4 5 0.42cm(例:リンデロンVG) 1.5 0.36cm(例:ロコイド) 2.0 0.28cm(例:ボアラ) 2.0 0.42cm(例:リンデロンVG) 5.0 6.0 6.5 7.0 6.0 0.36cm(例:ロコイド) 7.5 8.5 9.0 10.0 8.0 0.28cm(例:ボアラ) 12.0 13.5 14.5 16.0 13.0 0.42cm(例:リンデロンVG) 0.36cm(例:ロコイド) 0.28cm(例:ボアラ) 0.42cm(例:リンデロンVG) 8.0 9.0 10.0 11.0 11.5 0.36cm(例:ロコイド) 11.0 12.5 13.5 15.0 16.0 0.28cm(例:ボアラ) 18.0 20.5 22.0 24.5 26.0 0.42cm(例:リンデロンVG) 1.0 2.0 0.36cm(例:ロコイド) 1.5 0.28cm(例:ボアラ) 3.0 3.5 4.0 1.0 1.5 2.0 1.5 2.0 2.5 頭部 頚部 背中・胸 上腕(片側) 1.0 2.5 0.5 1.0 3.0 下腕(片側) 1.5 図 3. 外用ステロイド軟膏製剤用の説明書の一例

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医療薬学 Jpn. J. Pharm. Health Care Sci. 出し長さを算出できる.  製剤を 2.5 cm 取り出した場合の質量を測定し表 1 に示 したが,今回の検討は製剤の取り出し長さあるいはその 体積に関する議論であり理論的には質量は直接関係しな い.今回の測定では,取り出した製剤の体積はほぼ理論 値に近いと考えているが,質量の数値は体積の数値とは 必ずしも一致していない.製剤の有効性の評価を質量と 関連づけて議論する場合には,FTU の基準だけで判断す るのではなく各製剤の取り出し体積と実際の質量との関 係についても把握しておくことが必要である.なお,表 1 に示した質量の測定値に関する変動係数は取り出し体積 にも近似的に適用でき,取り出し体積の誤差は変動係数 として多くて 10% 程度含まれる場合があると考えられる.  以上,本研究における一連の検討の結果,海外で提案 され用いられてきたステロイド軟膏製剤の塗布量設定基 準である FTU 基準は,簡便な方法であるものの,(i)日本 国内の製剤の口径がいろいろな値をとること,(ii)この方 法では体表面積の患者間での個体差を考慮していないこ と,という点で日本国内の製剤にはでそのまま適用する ことは困難であることを示した.そこで FTU 基準に代わ る塗布量設定方法を確立するために,日本人の体表面積, 年齢,各部位の表面積の値を活用した新たな基準を構築 し,製剤の口径と患者の年齢だけから塗布に必要な製剤 を取り出すべき長さを得る算出式を構築した.さらに, 患部が狭い範囲に限局している場合を想定して,名刺大 の面積を単位面積としてその範囲に塗布するための取り 出し長さについても提案した.これらの結果を臨床現場 で適切に用いることで,ステロイド軟膏製剤の塗布量を より正確に患者に提示することができ,患者のアドヒア ランスおよび治療効果が向上するものと考える.

引 用 文 献

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参照

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