• 検索結果がありません。

2019 年度修士論文 関東地方における閉店した百貨店の跡地利用の現状とその決定要因 首都大学東京大学院都市環境科学研究科 地理環境学域 村上和輝 指導教員矢部直人准教授

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "2019 年度修士論文 関東地方における閉店した百貨店の跡地利用の現状とその決定要因 首都大学東京大学院都市環境科学研究科 地理環境学域 村上和輝 指導教員矢部直人准教授"

Copied!
56
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

関東地方における閉店した百貨店の跡地利用の現状とその決定要因

首都大学東京大学院都市環境科学研究科 地理環境学域

18850511 村上 和輝

(2)

これまで,商業施設の立地や新規出店といった研究は多くみられてきた.それは企業が考 える商品戦略には二つの規定要因があることが関係している.一つは集積間競合,もう一つ は商業集積内における業態間あるいは業態内の競合である.しかし企業は自由に立地場所 を決めて良いわけではない.それは 1998 年以降に施行された,「まちづくり三法」によっ て,大型店舗の立地などのコントロールが図られてきたからである.しかし,跡地利用に関 しては特段規制されていない.つまり,閉店した店舗の跡地にどのような施設が立地するか 決められていないのが現状である. そこで本稿は,百貨店の跡地にどのような業態が立地するかを研究することを目的とす る.対象地域は関東地方である.対象とする店舗は,「原則,衣食住に関する各商品を扱う 小売業を営み,主として対面販売方式をとるもの.」,つまり百貨店である.そして,閉店し た百貨店の抽出方法として,2000 年に大型小売店総覧に百貨店として記載されている関東 地方の全 147 店舗から,2017 年までの間に百貨店としての記載がなくなったものを閉店店 舗とみなした.結果,閉店店舗が 75 店舗あり,この店舗の跡地利用がどのようにされてい るのか,またなぜこのような跡地利用を行うのか研究を行った. 研究手法は,内的要因と外的要因を把握するための分析を行う.そして,内的要因と外的 要因の中でどの要因が跡地利用に影響を与えるのか,多項ロジスティク回帰分析を用いて 考察を行う.分析に用いる使用データは,大型小売店総覧に記載されている開設年次,店舗 面積,延べ床面積を使用した.また,周囲の環境に関するデータとして,商業統計 1km メ ッシュデータと,国勢調査 1km メッシュデータを使用した. 内的要因の項目は,店舗の規模,店舗の場所,店舗の経営母体,経営母体の出店形態,そ して店舗の閉店年代である.結果として,店舗規模では,店舗の大小によって商業施設かそ れ以外の跡地利用となるか判断できた.都心からの距離では,それぞれの距離帯によって跡

(3)

ることも分かった.最後に,元の百貨店が閉店した年代では,まちづくり三法改正による大 型商業施設の出店規制がある程度跡地利用にもきいていることが分かった. 外的要因は,周囲の環境が跡地を利用する施設にどのように影響を与えるのか考察する. その際には 2000 年から 2009 年にかけて跡地利用を行った店舗と 2010 年以降に跡地利用 を行ったものに分けて考察する.結果として,2010 年以降のものは,都心に近づいた場所 に跡地を利用するケースが多くなった.またこの結果が,施設名≠店舗のものの周囲の環境 が 2009 年のものと比較して逆の結果になった要因であると考えられる.また,企業の戦略 や商業地域の考え方として,2009 年までは周囲に競合店舗が少ない場所に商業施設として の規模が大きいものを立地させることによってその商業地域を成立させていたが,2010 年 以降は周囲に競合店舗が多く立地している場所に跡地を利用することによって,競合しな がらその商業地域を高めていくという考え方に変化したのではないかと考えられる. これらの結果をもとに多項ロジスティック回帰分析を行い,どの要因が跡地利用に影響 を与えているのかを考察したい.結果として店舗面積と出店形態に有意性があることが分 かった.また店舗面積に関しては強い有意性がみられた.しかし,判別的中率は約 65%と なった.なぜ実測値と予測値がずれたのかを個別事例でみていく. 丸広百貨店飯能店,丸井横浜関内店,三越新宿店,そしてマルイミニ立川店の四店舗の事 例を検討していきたい.その結果,経済状況や土地の所有権者が跡地利用に関わっているこ とが分かった.しかしそれぞれの跡地利用を行う時期ごとに,経済状況や戦略は異なるため, 個々の事例ごとに局所的な特徴が出てきているのではないかと考えられる. 結果として,跡地利用には元の百貨店の店舗面積や新しい店舗の出店形態が大きく関わ っていることが分かった.また,元の百貨店の経営母体が百貨店の閉店後にどのような戦略 をとるかも跡地利用に大きく影響を与えていることも分かった.また,百貨店業から不動産 賃貸業へと新たなビジネスを開拓する企業もみられた.

(4)

18850511 Kazuki Murakami

Abstract

Until now, there have been many studies on the location of commercial facilities and new store openings. It is related to the fact that there are two defining factors in the product strategy that companies consider. One is competition between accumulation, and the other is competition between business category or within business category within a commercial accumulation. However, companies are not free to decide their location. This is because the "town development three laws" that dispensed since 1998 have been trying to control the location of large stores. However, the use of the site is not regulated. In other words, it is currently undecided what kind of facility will be located on the site of the closed store. In this paper, I would like to study what kind of business is located on the site of a department store. The target area is the Kanto region. The target stores are, in principle, department stores that operate a retail business that handles various products related to clothing, food and shelter, and take the face-to-face sales method. Then, as a method of extracting department stores that were closed, from 147 stores in the Kanto region, which were listed as department stores in the large retail store overview in 2000, those that were no longer listed as department stores by 2017 were called closed stores. I considered it. As a result, 75 stores were closed, and we researched how to use the former site and why such a site is used.

(5)

of establishment, store area, and total floor area described in the large retail store directory. In addition, 1km mesh data of commercial statistics and 1km mesh data of census were used as data on the surrounding environment.

Items to be considered for the internal factors are the size of the store, the location of the store, the management body of the store, the opening style of the management body, and the store closing age. As a result, in terms of store size, it was possible to determine whether to use commercial facilities or other sites based on the size of the store. From the distance from the city center, it was found that the characteristics of the store using the site differed depending on the distance zone. In addition, it was found that the type of store using the former site differs depending on the original department store company. It turned out that it depends on the company's strategy. Finally, in the age when the original

department store closed, it was found that the regulation of the opening of large-scale commercial facilities due to the revision of the Three Laws on Town Planning was also appropriate for the use of the former site. External factors consider how the surrounding environment affects facilities using the site. When we consider, we consider separately the stores that used the site from 2000 to 2009 and those that used the site after 2010. As a result, after 2010, the ruins were often used near the city center. In addition, it is considered that this result is the factor that the environment around the facility name ≠ ore was opposite to that in 2009. Until 2009, the company's strategy and commercial area concept was to establish a commercial area by placing a large commercial facility in a location with few competitors nearby, but since 2010 It is thought that the idea of using a former site in a place where many competitors are located in the surrounding area has changed to the idea of increasing the commercial area while competing.

(6)

and the opening style were significant. In addition, the p-value was less than 1% for the store area, indicating strong significance. The discriminative predictive value was about 65%. Let‘s look at individual cases to see why the measured and predicted values deviated.

Let's look at four examples: Maruhiro Department Store Hanno, Marui Yokohama Kannai, Mitsukoshi Shinjuku, and Maruimini Tachikawa. The results showed that the economic situation and land ownership were involved in the use of the site. However, since the economic situation and strategy differ depending on when each site is used, it is thought that local characteristics have emerged in each case.

As a result, it was found that the use of the former site was largely related to the store area of the original department store and the opening style of the new store. It was also found that the strategy of the former department store's management body after the department store was closed had a significant effect on the use of the site. As a result, some companies developed new businesses from department store business to real estate leasing business.

(7)

目次

I. 序論 ... 3 1. はじめに ... 1 2. 先行研究と研究目的 ... 2 II. 使用データと研究手法 ... 2 1. 研究対象の定義と分布 ... 2 2. 研究手法 ... 3 3. 使用データ ... 3 III. 内的要因と外的要因の特徴 ... 4 1. 内的要因 ... 4 1) 閉店した百貨店の店舗面積と跡地利用の業態 ... 4 2) 閉店した百貨店の都心からの距離と跡地利用の業態 ... 5 3) 閉店した百貨店の経営母体と跡地利用の業態 ... 6 4) 閉店した百貨店の経営母体と跡地利用の出店形態 ... 10 5) 閉店した百貨店の閉店年代と跡地利用の業態 ... 13 6) 内的要因のまとめ ... 14 2. 外的要因 ... 14 1) 2000 年から 2009 年の外的要因 ... 16 2) 2010 年以降の外的要因 ... 17

(8)

3) 外的要因のまとめ ... 18 IV. 多項ロジスティック回帰分析 ... 19 V. 個別事例 ... 21 1. 丸広百貨店飯能店 ... 21 2. 丸井横浜関内店 ... 22 3. 三越新宿店 ... 23 4. マルイミニ立川店 ... 24 5. 本章のまとめ ... 25 VI. 結論 ... 27 謝辞 ... 30 参考文献 ... 31

(9)

図目次

図 1 関東地方における閉店した百貨店の分布図 図 2 三越伊勢丹ホールディングスを跡地利用する業態 図 3 丸井の跡地を利用する業態

(10)

表目次

表 1 元の百貨店の店舗面積×跡地利用の業態 表 2 元の百貨店の都心からの距離と跡地利用の業態 表 3 元の百貨店の経営母体と跡地利用の業態 表 4 三越伊勢丹ホールディングスの跡地を利用する施設 表 5 J フロントリテイリングと高島屋の跡地を利用する施設 表 6 丸井の跡地を利用する施設 表 7 エイチ・ツー・オーリテイリングの跡地を利用する施設 表 8 セブン・アイ・ホールディングスの跡地を利用する施設 表 9 電鉄系の跡地を利用する施設 表 10 元の百貨店の経営母体と跡地利用の出店形態 表 11 跡地利用の出店形態と跡地利用の業態 表 12 元の百貨店の閉店年代と跡地利用の業態 表 13 2000 年から 2009 年における跡地を利用する商業施設と商業施設以外の周囲の集積 指標 表 14 2000 年から 2009 年における跡地を利用する施設名=店舗と施設名≠店舗の周囲の 集積指標 表 15 2010 年以降の跡地を利用する商業施設と商業施設以外の周囲の集積指標 表 16 2010 年以降の跡地を利用する施設名=店舗と施設名≠店舗の周囲の集積指標 表 17 多項ロジスティク回帰分析の決定係数 表 18 多項ロジスティク回帰分析の変数の有意性 表 19 多項ロジスティク回帰分析の偏回帰係数の有意性 表 20 多項ロジスティク回帰分析の判別的中率 表 21 丸広百貨店飯能店および丸井横浜関内店とオフィス・住居の平均値との比較

(11)

表 22 三越新宿店と施設名=店舗の平均値との比較 表 23 マルイミニ立川店と雑居ビルの平均値との比較

(12)

I. 序論 1. はじめに これまで,商業施設の立地や新規出店といった研究は多くみられてきた.それは企業が 考える商品戦略には二つの規定要因があることが関係している.一つは集積間競合,もう 一つは商業集積内における業態間あるいは業態内の競合である(荒井・箸本 2004).つま り,立地した場所がファクターとなり,企業はそれに合わせた企業戦略をとるのである. しかし企業は自由に立地場所を決めて良いわけではない.それは 1998 年以降に施行され た,「まちづくり三法」などによって,大型店舗の立地などのコントロールが図られてき たからである.しかし,跡地利用に関しては特段規制されていない(川嶋 2017).つまり, 閉店した店舗の跡地にどのような施設が立地するか決められていないのが現状である. 2020 年現在,百貨店は全国に約 200 店舗以上あり,売上高は約 6 兆円である.全盛期 は 1990 年代で約 300 店舗近く全国にあり,売上高も約 10 兆円近くあった.いかに百貨 店が衰退していることがわかる.そもそもわが国における百貨店の始まりは,1904 年に おける三越百貨店である.当時の百貨店は小売施設としてではなく,西洋の文化・情報の 発信源としての役割を担う,都市を代表する施設であった(初田 1993,西沢・山本 1999). その後百貨店は,1920 年代にターミナル型百貨店の副都心進出により,これまでの百貨 店のイメージを覆し,一気に大衆化させた.高度経済成長期以降には,百貨店の郊外化が 本格化し,1980 年代後半からのバブル経済期において百貨店は小売業の顔として,売り 上げが 10 兆円近くにも及んだ.しかし,バブル経済期が終わった後経済不況や,競合す る業態の登場により百貨店の経営が悪化している.そして現在,大手百貨店の郊外店舗だ けではなく,都心の店舗も不採算店舗の整理により,閉店が相次いでいる.百貨店という 一時代を築いた商業施設の跡地に立地する施設の傾向を掴むことで,百貨店に代わる業態 の台頭をみることができると考えられる.

(13)

2. 先行研究と研究目的 そこで本稿は,百貨店の跡地にどのような業態が立地しているのか,またどのような要 因によってその跡地利用が決定づけられているのかを研究していきたい.百貨店の立地に 関する既往研究は,中心商店街との関係をもとに,売場面積や顧客圏などを地域ごとに考 察した杉村(1966),都市間の結合関係として都市システムに着目して,百貨店の立地展開 を検討した森川(1993),東京大都市圏における百貨店を店舗特性ごとに分類した岩間 (2001)がある.そして跡地利用の既往研究は,大型店撤退に関して行政の対応に着目した 井上・中山(2002),地方都市における商業集積地や中心市街地と跡地利用の関連を研究し た浅野(2002・2007),地方都市における撤退店の周囲の土地利用と跡地利用との関連に重 点を置いた川嶋(2017)がある.既存の研究の特徴としては,地方都市に着目した研究や, 跡地利用と行政との関連に着目したものが多いことが挙げられる.一方で,都心も対象地 域に含めた関東地方を対象地域として研究を行う点や,店舗自体を要因と考える内的要因, 店舗の周囲の環境を要因とする外的環境の二つの観点から考察する点で,本稿は新規性が あるのではないかと考えられる. II. 使用データと研究手法 1. 研究対象の定義と分布 百貨店の定義は,東洋経済新報社『大型小売店総覧』に記載されている,「原則,衣食住 に関する各商品を扱う小売業を営み,主として対面販売方式をとるもの.」を用いて百貨 店と定義する.そして,閉店した百貨店の抽出方法として,2000 年に『大型小売店総覧』 に百貨店として記載されている関東地方の全 147 店舗のうち,2017 年までの間に百貨店 としての記載がなくなったものを閉店店舗とみなした.つまり,店舗自体が存続していた としても業態が変わっている場合は閉店したものとして扱う.結果,閉店店舗が 75 店舗 あり,この店舗の跡地利用がどのようにされているのか,またなぜこのような跡地利用を 行うのかについて分析を行った.

(14)

閉店した 75 店舗の分布は図 1 になる.これを見ると,2000 年以降 23 区内でも多くの 百貨店が閉店していることが分かる.また,東京駅を都心として,そこから 35km 圏内に, 今回取り扱う店舗数の半分以上に相当する 50 件が立地していることが分かる.これは, この 35km 圏内に元々多く百貨店が立地しており,それが 2000 年以降に次々と閉店して いき,新しい施設に生まれ変わっていることを表している.35km 以遠では,鉄道沿線の 主要駅に隣接している百貨店が閉店していることや,北関東では県庁所在地である宇都宮 市や水戸市で百貨店が閉店している事が分かる. 2. 研究手法 研究手法は,百貨店跡地に立地する施設の傾向を見て,それらのデータを踏まえた上で 立地や,元の百貨店が跡地を利用する施設に与える影響,つまり内的要因を把握するため の分析を行う.次に跡地を利用する場所の周囲の環境が跡地を利用する施設に与える影響, つまり外的要因を把握するための分析を行う.そして,内的要因と外的要因の中でどの要 因が跡地利用に影響を与えるのか,多項ロジスティック回帰分析を用いて考察を行い,デ ータ上の予測値と実測値の比較を行う.この比較をもとに予測と実測のずれが生じている 部分を個別事例として取り上げ,どのような原因でずれが生じたのか,跡地を利用するに 至るまでの流れをみて,その跡地利用に至った要因を考察していく.最後に,どのような 要因が跡地利用の決定要因となっているのか考察を行う. 3. 使用データ 分析に用いる使用データは,閉店した百貨店の店舗情報として東洋経済新報社『大型小 売店総覧』に記載されている店舗面積,住所,企業グループ,跡地利用の出店方法そして 閉店年代を使用した.また,周囲の環境に関するデータとして,2004 年と 2014 年の商業 統計 1km メッシュデータから事業所数,従業者数,年間商品販売額,そして売場面積(全 体,最寄品,買回品)を算出し,2005 年と 2015 年の国勢調査 1km メッシュデータから

(15)

人口総数を算出した. 本稿では,これらのデータをもとに,閉店した百貨店の特徴が跡地を利用する店舗と関 連があるかを考察した. III. 内的要因と外的要因の特徴 1. 内的要因 ここでは元の百貨店が跡地利用にどのような影響を与えるか考察する.考察する項目 は,店舗の規模,店舗の場所,店舗の経営母体,経営母体の出店形態,そして店舗の閉店 年代である.考察手法は,それぞれの項目ごとにクロス集計を行い,その結果どのような ことが特徴としてあげることができるのかをみていく.また,店舗の場所は東京駅からの 距離を示している. 1) 閉店した百貨店の店舗面積と跡地利用の業態 表 1 は閉店した百貨店の店舗面積と跡地利用の業態の関係を表したものである.表側 が閉店した百貨店の店舗面積,表頭が跡地を利用した業態となっている.この表を見ると, 元の百貨店の規模別に,跡地利用の業態の棲み分けができていることが分かる.商業施設 以外の跡地利用は,店舗面積が 20000 ㎡以下までとなっている.商業施設の跡地利用も その業態によって特徴が異なっており,食品・総合スーパーの跡地利用は,30000 ㎡以下 まで,専門店・ショッピングセンター・百貨店の跡地利用は 40000 ㎡以下までとなって いる.このように,閉店した百貨店の店舗面積によって,ある程度まで跡地利用の業態が 決まってくることが分かる.またこの結果から,大店法による面積の規制が,跡地を利用 する商業施設にも影響していることが分かる.また,閉店した百貨店が小規模なものから 大規模なものまで,店舗面積が多岐にわたることからこのように跡地利用に差異が出て きたのではないかと考えられる.

(16)

2) 閉店した百貨店の都心からの距離と跡地利用の業態 都心と郊外では顧客の指向は変化し,商業施設は自店の商圏特性に適したマーチャン ダイジングを展開している(岩間 2001).そこで,都心からの距離によって跡地利用の差 異をみることができないか考察したものが表 2 となる.表 2 は,表側が元の百貨店の都 心からの距離となっており,表頭に関しては,表 1 と同様の業態である.まず 23 区内(約 15km 圏内)に関しては,専門店・百貨店・寄合百貨店の跡地利用が多くなっていることが 分かる.これは専門店,特に家電量販店の都心進出時期と,百貨店が閉店した時期が同一 だったことが関係していると考えられる.また,百貨店から百貨店への跡地利用のように, 元の業態と同じ業態のものが跡地を利用している場合が多い.これは都心における顧客 の指向は,年代を通じてあまり変化していないことや,企業側が都心の百貨店業により力 をいれたため,このような同業態への跡地利用が行われたのではないかと考えられる. 次に郊外に当たる 15~45km 圏内では,専門店・ショッピングセンター・寄合百貨店の 跡地利用が多くなっている.逆に百貨店の跡地利用は都心に比べ少なくなっている.これ は,郊外の顧客の指向が変わったことや,ロードサイド型の商業施設の台頭がこのような 結果をもたらしたことが考えられる.また,商業施設以外の住居の跡地利用も目立ってい る.これは,この範囲内に横浜市や千葉市といった都市が含まれていることが関係してい ると考えられる. また,23 区内と 15~45km 圏内では跡地利用が未定のところがみられる.これは 2015 年から 2017 年にかけて,この範囲内での百貨店の閉鎖が相次いでいることから,いまだ 跡地利用が決定していないことを表している. 次に 45~75km 圏内を見ていきたい.ここではあまり商業施設の跡地利用は見られず, 商業施設以外,特に雑居ビルの跡地利用が多くなっている.これは企業側の要因が大きく 関わっている.それはこの圏内に,多くの丸井系列の百貨店が立地していたが,2003 年 のグループ一体化の大再編を行った際に閉店した店舗が多くあったからである.また,そ の跡地を利用する際に,新たな商業施設を展開するのではなく,ビルと土地だけを他の企

(17)

業に貸し与える,賃貸業に重きを置いた結果として雑居ビルの跡地利用が多くなってい る. 最後に 75km 以遠を見ていきたい.ここでは 23 区内での跡地利用の特徴を述べて以来 特徴として出なかった,百貨店の跡地利用が目立つ.これは,この範囲内に宇都宮市など の北関東における中核都市を含んでいることが関係していると考えられる.つまり,都心 の百貨店の商圏としての影響力が及ばなくなっており,北関東独自の百貨店の商圏を作 り上げているのではないかと考えられる.それは跡地を利用した百貨店の特徴からも読 み取れる.宇都宮市で百貨店跡地を利用した百貨店の一つに,東武宇都宮百貨店というも のがある.これは池袋に本社を置く,株式会社東武百貨店とは別法人となっており,より 北関東の特色を取り入れた,地元の百貨店となっている.このことから,この範囲では独 自の商業形態があり,特に地元に根付いた百貨店(自店の商圏特性に適したマーチャンダ イジングを展開しているもの)が跡地を利用していることが分かった. このように距離帯によって跡地利用の特徴に差異が出てきていることが分かった.ま とめると,23 区内では高次の商業施設による跡地利用,15~45km 圏内ではロードサイド 型の跡地利用,これはこの圏内で跡地を利用した寄合百貨店やショッピングセンターの 全ての店舗が,駐車場台数が 500 台以上と車での来店を見越した出店になっているため である.45~75km 圏内では商業施設以外の跡地利用,最後に 75km 以遠では独自の商圏 に基づいた跡地利用が行われていた.このように差異が出る要因として,顧客の指向であ ったり,企業の戦略であったりと様々な要因が絡み合っていることも分かった. 3) 閉店した百貨店の経営母体と跡地利用の業態 百貨店は経営する企業ごとに戦略が異なり,前の節でも丸井系列は跡地利用に特徴がみ られた.そこで,元の百貨店の経営母体が跡地利用にどのような影響を与えているのか考 察した.表 3 は,表側が閉店した百貨店の経営母体,表頭は表 1・2 と同様である.また, この分析では元の百貨店を経営している企業を取り上げ,そこに特徴が出るのかどうか考

(18)

察したいと考えている.そこで,大規模な百貨店の経営を行っている企業を対象に考察を 行いたい.そのため,百貨店としての経営がその百貨店 1 店舗のみしか経営していないも のは傾向をとらえることができないと判断し,除外した. 最初に,三越伊勢丹ホールディングスの跡地利用を見ていきたい.表 3 を見ると,専門 店の跡地利用と跡地利用が未定のところが多くなっていることが分かる.専門店の跡地利 用に関しては,図 2 をみると 23 区内で多くなっていることが分かる.これは,三越池袋 店と三越新宿店がそれぞれ,家電量販店へと変化したことを表している.つまり,距離の ところでも述べたが家電量販店の都心進出時期と,三越伊勢丹ホールディングスが合併し 不採算店舗を閉店した時期が同一であったことが関係しているのではないかと考えられ る.また,表 4 は三越・伊勢丹がどのような店舗に変化したのかを表したものである.23 区内以外でも,三越横浜店がヨドバシカメラに変化していることから,家電量販店の跡地 利用が多いことが分かる.また,元の三越伊勢丹ホールディングスとは全く異なる店舗が 跡地を利用していることも特徴の一つである. 次に J フロントリテイリングと高島屋の跡地利用を見ていきたい.表 3 を見ると,J フ ロントリテイリングの全ての店舗が寄合百貨店に変化しており,高島屋の閉鎖店舗はショ ッピングセンターに変化していることが分かる.表 5 は J フロントリテイリングと高島屋 の店舗がどのような施設に変化したのかを表したものである.まず J フロントリテイリン グの施設を見ていくと,この中の GINZA SIX とカトレヤプラザ伊勢佐木に関しては J フ ロントリテイリング自ら主導して業態を変えたものになる.特に GINZA SIX に関しては, 旧来の百貨店像からの脱却を図る目的のもと跡地を利用したものになる.つまり,店舗自 体は完全に別店舗だが中身の経営母体に関しては変わっていないことが特徴としてあげ られる.次に高島屋の施設を見ていくと,高島屋柏店が名前と業態を変えてリニューアル オープンという形をとったことが分かる.これは店舗自体があまり変わっておらず,もち ろん経営母体も変わっていないことが特徴としてあげられる. 次に丸井の跡地利用を見ていきたい.表 6 は丸井の店舗がどのような施設に変化したか

(19)

を表したものである.他の百貨店と比べて,雑居ビルに変化しているものが目立つことが 丸井の特徴である.これは距離のところでも述べたが,再編による不採算店舗の整理と, 不動産賃貸業に力を入れたことが関係していると考えられる.ほかの要因として,他の百 貨店に比べて丸井系列は店舗面積が小さいことも考えられる.また寄合百貨店に変化して いる店舗も多い.これは図 3 を見ると,都心から約 35km のところに立地していたものが, 跡地利用として寄合百貨店になっているものが多い.これは表 6 のモディという店舗にあ たっている.モディに変化した要因として,丸井という店舗は,全国どの店舗でもコンセ プトを同じにしなければならないが,モディという店舗は店舗ごとにコンセプトを変える ことができる.つまり,都心の店舗と同様のコンセプトでは生き残ることができないと考 え,その地域の顧客の指向に合わせることのできるモディという店舗に変更したのではな いかと考えられる.つまり高島屋と同様の特徴をもつものとして考えられる. 次にエイチ・ツー・オー・リテイリングの跡地利用をみていきたい.表 7 はエイチ・ツ ー・オー・リテイリングの店舗がどのような施設に変化したかを表したものである.すべ ての店舗が商業施設に変化しているが,その中でまとまった特徴はない.しかし中身の店 舗を見てみると,店舗の業態は変わっているが,経営母体自体は変わっていない店舗が多 いことがわかる.また,この傾向をみせているのが都心に立地していた店舗であることか ら,都心に立地している百貨店が,新たな業態へ変わる転換期を迎えているのではないの かと考えられる.また,このような業態を変える傾向は,J フロントリテイリングと同様 の特徴をもつものとして考えられる. 次にセブン・アイ・ホールディングスの跡地利用をみていきたい.表 8 はセブン・ア イ・ホールディングスの店舗がどのような施設に変化したかを表したものである.全ての 店舗が商業施設に変化しており,中でも専門店と寄合百貨店に変化するものが多くなっ ていることが分かる.中身の店舗を見ていくと,専門店になっているものだけでも,家電 量販店や雑貨屋のように様々な店舗に変化していることが分かる.これは跡地を利用す るどの業態の店舗にも当てはまっており,とりわけ共通した特徴がないことがあげられ

(20)

る.要因として考えられるのが,この会社が,ほかの会社と合併や吸収を多くしているこ とが考えられる.そのため,このように特徴が多岐にわたってしまったのではないかと考 えられる.図 4 はその分布を表している.35km 圏内に多くの跡地利用が見られ,それ以 外は宇都宮市において 2 店舗が跡地を利用しているのが分かる.また,跡地を利用する 業態の立地には,それぞれの業態で目立った特徴は見られなかった.つまり,セブン・ア イ・ホールディングスに関しては,場所で跡地を利用する業態を決めるよりも,それ以外 の要因で跡地の利用が決まるのではないかと考えられる.その中でも,跡地を利用する店 舗の多くが,元の店舗とは全く異なっており,また経営母体も異なっていることが一つ特 徴としてあげられる.そのため,三越伊勢丹ホールディングスの特徴と同様のものである と考えられる. 最後に電鉄系の跡地利用をみていきたい.表 9 は電鉄系の百貨店がどのような施設に 変化したかを表したものである.オフィスへと変化した一つの店舗を除いて,他の店舗は 商業施設へと変化していることが分かる.中身の店舗を見てみると,業態は変わっている ものの,経営母体が変わっていない店舗が多いことが分かる.特にオフィスに変わったも のに関しても,京成百貨店であったものが京成電鉄の本社へと変化していることからも 経営母体自体の変化がないことが分かる.要因として考えられるのが,電鉄系の店舗は, その電鉄の沿線の駅と併合して立地している店舗が多い事があげられる.その土地自体 をもっているため,顧客の変化に合わせて商業施設を変化させることが可能であるから である.つまりこの特徴は,業態転換のみを行う高島屋に近い特徴をもっていると考えら れる. このように,企業によっても跡地利用の方法に違いが表れることが分かった.また,そ の跡地利用の方法には大きく三パターンに分かれていることも分かった.まず一つ目が, 全く異なる店舗と経営母体が跡地を利用するパターンである.本稿では,このパターンを 三越伊勢丹型と呼ぶ.三越伊勢丹ホールディングス以外にこれに該当するものが,セブ ン・アイ・ホールディングスである.次に二つ目が,店舗を完全に建て替えてはいるが,

(21)

経営母体は同一であるパターンである.本稿では,このパターンを J フロントリテイリン グ型と呼ぶ.J フロントリテイリング以外でこれに該当するものが,エイチ・ツー・オー・ リテイリングである.最後に三つ目が,店舗と経営母体が同一で,業態転換のみの跡地利 用パターンである.本稿では,このパターンを高島屋型と呼ぶ.高島屋以外でこれに該当 するものが,丸井と電鉄系である.これらの違いは,その企業がどこに力を入れているの かで差異が出ているのではないかと考えられる.三越伊勢丹型はより百貨店業に重きを 置いたものであり,J フロントリテイリング型と高島屋型は不動産業に重きを置いたもの と考えられる.それは,賃料回収方法に違いがある.三越伊勢丹ホールディングスなどは, まずその土地を入手してそこに自店舗を構える.そして,閉店した際にはその土地を貸し て,賃料を回収している.元来の百貨店業というものは,このようにその土地を入手して から,そこに店舗を立地させ,自社の店舗ですべてをまかなうものであった.一方,J フ ロントリテイリングや高島屋のように,経営母体は変わらず,業態を転換させたものは, 土地ではなく建物を入手し,店舗の中に入っているテナントから賃料をとっている.この ため,三越伊勢丹型は全く異なる店舗が跡地を利用することが多く,J フロントリテイリ ング型や高島屋型は同じ経営母体の店舗が跡地を利用することが多くなっている.つま り力を入れる場所に違いがあり,それが跡地利用の差異にもつながっていることが分か った. 4) 閉店した百貨店の経営母体と跡地利用の出店形態 次に,百貨店の経営母体ごとの戦略が,閉店後の跡地を利用する店舗にも影響を及ぼし ているのかどうかを考察していきたい.表 10 は閉店した百貨店の経営母体と跡地を利用 する店舗の出店形態を表したものになる.表側が閉店した百貨店の経営母体となってお り,表頭が跡地を利用する店舗の出店形態となっている.なお,居抜き型とは,百貨店閉 鎖後,新しい施設がそこに立地する際に,元の百貨店の内装や外観そのままに新規立地す るものである.またこの際に,新たに立地する施設は元の百貨店の経営母体とは全く異な

(22)

るものである.完全リニューアルとは,百貨店閉鎖後,新しい施設がそこに立地する際に, 元の百貨店の建物を完全に取り壊し,新しい建物に新規立地するものである.業態転換と は,新たな施設が立地する過程は居抜きと変わらないが,新規立地した施設が元の百貨店 の経営母体と同じもののことである. まず,三越伊勢丹型に該当するもの(三越伊勢丹ホールディングス,セブン・アイ・ホ ールディングス)は居抜き型の出店が多くなっていることが分かる.居抜き型の出店のメ リットとして,閉店する側とそこに新しく出店する側,双方のコストを抑えることができ る.つまり三越伊勢丹型の店舗に家電量販店が進出する要因として,都心に進出するとい うだけではなく,コストを抑えての出店が可能であるということも考えられる. 次に,J フロントリテイリング型に該当するもの(J フロントリテイリング,エイチ・ ツー・オーリテイリング)は,完全リニューアルでの出店が多くなっていることが分かる. つまり,新しい店舗を立地させる際に元あった百貨店のイメージをなくすために外観か ら変えたかったのではないかと考えられる.例を挙げると,松坂屋銀座店の跡地に立地し た GINZA SIX がそうである.前述したように,旧来の百貨店像からの脱却を図る目的で 作られたこの店舗は,松坂屋銀座店とは外観から全く異なる店舗として立地している. 最後に,高島屋型に該当するもの(高島屋,丸井,電鉄系)は業態転換での出店が目立 っていることが分かる.これは,元ある店舗の建物はそのままで業態転換のみを行ったも のとなっている.まさに高島屋型の特徴をそのまま述べたような出店形態になっている. また,居抜き型の出店が多くなっているのは,丸井がここに含まれているからである.丸 井は商業施設として跡地を利用する場合には,高島屋型の跡地利用,すなわち業態転換を 行っている.しかし,商業施設以外の跡地利用,特に雑居ビルとして跡地を利用するもの はすべて,居抜き型の出店形態をとっている.これは,三越伊勢丹型の時に述べたように, コストを抑えることができるからではないかと考えられる.雑居ビルに入店する店舗は, 居酒屋やパチンコ店といった,そのビルの一角にしか出店できない小規模なものである. つまり,ビル一つを買い取るのではなくビルの一角を借りる形で出店している.そのため

(23)

雑居ビルの跡地利用は居抜き型の出店が多くなっている. 次に出店形態と跡地利用の業態に関係があるかどうかをみていきたい.表 11 がその結 果を表したものとなる.表側が跡地を利用する店舗の出店形態を表したものになる.表頭 は表 1 などと同様の業態である. 元の建物が百貨店という商業施設であったことから,閉店後跡地を利用する商業施設 の多くが居抜き型の出店形態となっている.また、商業施設以外でも多くが居抜き型の出 店形態をとっている.特に,雑居ビルの居抜き型の出店が多くなっていることが分かる. これは,丸井の跡地利用の多くが雑居ビルでありその雑居ビルの出店形態の多くが,居抜 き型の出店形態をとっていることが関係している.居抜き型は元の百貨店の店舗構造を そのまま使うことから,出店コストを抑えることができる.しかし一方で,元の百貨店の 雰囲気が残ることから,元の百貨店のイメージを変えづらい一面もある.そのため,イメ ージを変える必要のない業態が多くこの出店形態をとっており,反対にイメージを変え たい場合は他の出店形態をとっているのではないかと考えられる. イメージを変えたい店舗がとる出店形態が完全リニューアルと業態転換である.業態 転換という出店形態を特にとっているのが,ショッピングセンターである.これは,前述 した高島屋型に該当する店舗が多くこの出店形態をとっていることが関係している.こ れは,元の百貨店からの流れを持ちつつ新たな業態としての特徴を出すための出店形態 である.一方で,元の百貨店からの流れを一切持たず完全に新しく出店したものが完全リ ニューアルである.この出店形態をとる要因として大きく二つ挙げられる.一つ目は,百 貨店からの流れを持つ必要がないことである.これに該当するものが,専門店である.専 門店は,衣・食・住を取りそろえる百貨店とは異なり一つのジャンルに特化した店舗であ る.そのため,元の百貨店の店舗構成とは全く異なるため完全リニューアルという出店形 態をとることが多いのではないかと考えられる.二つ目が,元の百貨店からの脱却を図る ためである.これに該当するものが,寄合百貨店である.例えば,松坂屋銀座店の跡地に 立地した GINZA SIX は旧来の百貨店像からの脱却を図る目的で建てられた.つまり,経

(24)

営母体側が経営戦略によって他の施設に跡地を利用させる際に完全リニューアルという 出店形態をとっているのではないかと考えられる. このように,三つのパターンによって出店形態も変わってきていることがわかる.また, 企業がその経営の特徴を生かすための出店形態をとっており,跡地を利用する施設は元 の百貨店を経営する企業の影響を受けていると考えられる.また,元の百貨店のイメージ を残した場合跡地を利用する施設に影響が出るのかどうかによって,跡地を利用する業 態が変わってくることが分かった. 5) 閉店した百貨店の閉店年代と跡地利用の業態 内的要因の最後に,閉店年代によって跡地利用が変化しているかを見ていきたい.2000 年に入ってからは,閉店した百貨店の多くが郊外に立地していたものであったが,2010 年に入ってからは都心の店舗も閉店するようになった.このように閉店した年代によっ て地域が異なることが分かっており、それが跡地利用に影響を与えているのかどうかを みていきたい.また,2006 年にまちづくり三法の改正が行われた.それによって跡地利 用に影響が表れたのかどうかもみていきたい.表 12 がその結果を表したものになる.表 側が閉店した百貨店の閉店年代を表したものになる.表頭は表 1 などと同様の業態であ る. 2006 年のまちづくり三法の改正前後に注目したい.結果としては,改正前に比べて改 正後 10 年は跡地を利用する施設自体が減少していたが,2016 年以降は急激に増加した ことが分かる.増加した原因として,近年の百貨店の衰退があげられる.閉店している店 舗が増加しており,いまだ跡地利用が未定であるものが多くなっている.そのため 2016 年以降閉店店舗が増加はしているが,その跡地利用の施設が決定したときにまちづくり 三法改正の効果が出ているのか見ることができるのではないかと考えられる.また,寄合 百貨店の跡地利用は毎年一定の数を保っていることが分かる.寄合百貨店とは,百貨店の ように衣食住をある一定数取り扱う必要がなく,ショッピングセンターのように核とな

(25)

るテナントもないものである.言い換えると,セレクトショップの集合体のようなもので ある.近年,セレクトショップが台頭していることや,商業施設の中をある程度自由にで きる点で,寄合百貨店が一定の店舗数を毎年跡地に利用できているのではないかと考え られる.それは,駅ナカに立地できるルミネであったり,ロードサイドに特化したアウト レットモールであったり,立地に制限がないことも特徴の一つであると考えられる. このようにまちづくり三法改正によって,跡地を利用する店舗に規制がある程度はた らいていることが分かった.その中でも,立地に制限がなく,セレクトショップの台頭と いった恩恵を一番に受けている,寄合百貨店の跡地利用が毎年目立っていることが把握 できた.また,年代によって閉店した百貨店の立地場所が異なってはいるが,立地に制限 のない寄合百貨店が多く跡地を利用していることから,地域差があまりみられないこと が分かった. 6) 内的要因のまとめ 以上が内的要因の結果となる.店舗規模では,店舗の大小によって商業施設かそれ以外 の跡地利用となるか判断できた.都心からの距離では,それぞれの距離帯によって跡地を 利用する店舗の特徴が異なることが分かった.また,元の百貨店の企業によって,跡地を 利用する店舗の出店形態が異なることが分かった.それはその企業の戦略によって異な ることも分かった.最後に,元の百貨店が閉店した年代では,まちづくり三法改正による 大型商業施設の出店規制がある程度跡地利用にもきいていることが分かった.このよう に内的要因が跡地利用に与える影響が存在することが分かった. 2. 外的要因 ここでは百貨店跡地の周囲の環境が,跡地を利用する施設に与える影響を考察する.周 囲の環境として本稿で取り上げるのが,周囲の人口,商業施設数,従業者数,年間商品販 売額,売場面積,買回り品店舗数そして最寄り品店舗数である.周囲の商業施設に関する

(26)

データをもとに,周囲の商業施設の集積具合がいかに跡地を利用する施設の特性に影響 を与えているのかを考察する.また,周囲の人口をもとに人口の大小によって跡地利用に 特徴が出てくるのかどうかを考察する. そして,その特性の分類として商業施設になるかそれ以外になるかと,商業施設の中で も施設名とその施設内の店舗名が同一か否かで分類を行う.以降,施設名と店舗名が同一 の場合を「施設名=店舗」,同一でない場合を「施設名≠店舗」と表記する.施設名≠店 舗に該当するものを,ショッピングセンター,寄合百貨店そして百貨店とする.これらを 施設名≠店舗としたのは,店舗構成に理由がある.例えば,百貨店を代表して三越,ショ ッピングセンターを代表してららぽーとという名前は商業施設名であり,その中の店全 てが三越ではなく,施設内には様々な小売業の店が出店している.しかし,専門店に代表 される家電量販店はその施設名がその店舗自体となっている.そのため,商業施設の中で も百貨店のような店舗構成を行っているこの三つの業態(ショッピングセンター,寄合百 貨店,百貨店)を施設名≠店舗とする.また,考察する際には 2000 年から 2009 年にか けて跡地利用を行った店舗と 2010 年以降に跡地利用を行ったものに分けて考察する.表 12 を見ると,閉店した百貨店がショッピングセンターに変わっているものが 2009 年ま でになっていることや,商業施設以外の跡地を利用する場合でも 2009 年というのが一つ の区切りになっているため,この二期間に分けて分析を行った. 分析に使用するデータは,商業統計と国勢調査の 500m メッシュのものである.跡地を 利用する施設の場所に該当するメッシュデータを使用したいが,必ずしもその場所がメ ッシュの中心に位置することはないため,場所によってはデータの不確実性が生じるこ とになる.その不確実性をなくすため,施設の場所から 500m バッファーを作成し,バッ ファー内に該当する 500m メッシュのデータを面積按分したものを,その施設の周囲の 集積に関わるデータとして使用する.

(27)

1) 2000 年から 2009 年の外的要因 表 13 は 2000 年から 2009 年にかけてのもので表側が跡地を利用する施設が商業施設 か否か,表頭が周囲の集積に関する指標となっている.なお,集積に関する指標は,跡地 を利用する施設すべての値の平均となっている.この表を見ると,商業施設が跡地を利用 する場所は,周囲に多くの商業施設が立地しており,またその規模も大きいことが分かる. 一店舗あたり平均何人の従業員が働いているか計算したところ,跡地利用が商業施設で あったものが約 9.3 人であったのに対して,商業施設以外は約 7.1 人であったことからも 読み取れる.一方で商業施設が跡地を利用した店舗の周囲の人口は,少なくなっている事 が分かる.これには三つの理由が考えられる.一つ目は,都心からの距離がより遠い場所 に立地していることだ.商業施設以外が平均 40km であるのに対して,商業施設が平均 44km となっている.都心から 40km 圏に横浜市や千葉市といった政令指定都市が含まれ, また八王子市などといった都心のベッドタウンが存在する.40km 以遠はあまり大きな都 市が見られないことから,平均してこの圏内に立地している商業施設以外の跡地利用の 周囲に,人口が多くなっているのではないかと考えられる.二つ目は,商業施設以外の跡 地利用に住居が含まれていることである.住居というものはある程度人口が供給される ところに新しく立地する傾向がある.そのため,商業施設以外の跡地利用の周囲の人口が 多くなっているのではないかと考えられる.三つ目が,商業施設が立地する場所である. 最初に述べたように,商業施設が跡地を利用したものの周囲は商業施設が多く立地して いる.つまり,商業地域に立地していることが考えられる.さらに周囲の商業施設の種類 を見ていくと,商業施設が跡地を利用した周囲には,買回り品に特化した店舗が多く,商 業施設以外が跡地を利用した周囲には最寄り品に特化した店舗が多くなっている事が分 かる.最寄り品が生活雑貨品を取り扱うのに対して,買回り品は耐久消費財や趣味品を取 り扱い,消費者が価格を比較するために買い回っている.つまり,最寄り品を扱う店舗が 多い事は,周囲に人が多く住んでいることを表し,買回り品を扱う店舗が多い事は,周囲 に商業施設が多い事を表している.以上のことから,商業施設が跡地を利用した周囲の人

(28)

口が少ないことがわかる. 次に表 14 は,商業施設中で施設名=店舗のものか施設名≠店舗のものの集積の特徴を 表したものである.表側が施設名=店舗か施設名≠店舗かを表しており,表頭が周囲の集 積に関する指標となっている.施設名≠店舗,つまり百貨店のような店舗構成をとってい る跡地利用店舗の周囲の方が,人口が多くなっている.これは都心からの距離が近く,ま た前述したように平均して 38km 圏での跡地利用が多くなっているからであると考えら れる.また,施設名=店舗のものに比べて,周囲の商業施設に関する指標が軒並み低くな っていることが分かる.これは,施設名=店舗のものに比べて施設名≠店舗のものは商業 施設としての規模が大きいためであると考えられる.つまり,施設名≠店舗に該当する店 舗は,その一店舗を立地させることで衣・食・住の全てがまかなえるため周囲に商業施設 はそれほど必要ではないが,施設名=店舗のものは衣のみに特化したものや,食のみに特 化したものなど,一店舗ではすべてをまかなうことができないため周囲に商業施設が多 く立地する場所を選んでいるのではないかと考えられる. 2000 年から 2009 年にかけて,周囲の環境が跡地利用に与える影響はまず商業施設に 跡地を利用するものの周囲では人口が少なく,商業施設数が多い商業地域に立地してい ることが分かった.その中でも,施設名=店舗となっているものの周囲に商業施設数が多 くなっており,それは一店舗のみでは衣・食・住をまかなうことができず,一個一個の店 舗でそれをまかなうことによって,商業地域としての機能を成立させているのではない かと考えられる. 2) 2010 年以降の外的要因 表 15 は 2010 年以降のものとなっている.表側が跡地を利用する施設が商業施設か否 か,表頭が周囲の集積に関する指標となっている.2009 年までのものと比較すると,2009 年までは人口と最寄り品の店舗数に関しては商業施設以外のものが上回っていたが,こ ちらは商業施設に跡地を利用するものが,全ての指標において上回っていることが分か

(29)

った.これは立地している場所が大きく関係していると考えられる.それは商業施設以外 が跡地を利用する場所が,平均して都心から 60km 近く離れた場所にあるのに対して,商 業施設に跡地を利用する場所は平均して都心から 25km の場所にある.つまり,周囲の商 業地域としての規模の違いが結果として表れたのではないかと考えられる.しかし,商業 施設が跡地を利用する場所の周囲には最寄り品に特化した店舗より,買回り品に特化し た店舗が多いことなど 2009 年と同様な部分もあることから,年代による変化はあまりみ られないことが分かる. 次に表 16 は,2010 年以降の商業施設の中で施設名=店舗のものか施設名≠店舗のも のの周囲の集積の特徴を表したものである.こちらは,2009 年までのものと比較してみ ると施設名≠店舗のものの周囲の人口が施設名=店舗に比べて少なくなっていることは 同様であるが,周囲の商業施設数に関しては 2009 年のものと結果が逆になっていること がわかる.これは年代により跡地利用場所が変化していったためであると考えられる.特 に 2010 年から施設名≠店舗の跡地利用場所として 23 区に跡地を利用するケースが多く なっている.2009 年までは 19 店舗中 2 店舗のみであったのに対して,2010 年では 13 店 舗中 4 店舗になっている.より周囲に商業施設が立地する場所に跡地を利用するケース が増えたことによって,2010 年以降は施設名≠店舗のものの商業施設に関する指標が施 設名=店舗のものを上回る結果につながったのではないかと考えられる. 3) 外的要因のまとめ 2010 年以降のものは,商業施設が跡地を利用する周囲の環境に関しては 2009 年のも のと同様の結果になったが,唯一変わったことはより都心に近づいた場所に跡地を利用 するケースが多くなったことである.またこの結果が,施設名≠店舗のものの周囲の環境 が 2009 年のものと比較して逆の結果になった要因であると考えられる.また,企業の戦 略や商業地域の考え方として,2009 年までは周囲に競合店舗が少ない場所に商業施設と しての規模が大きいものを立地させることによってその商業地域を成立させていたが,

(30)

2010 年以降は周囲に競合店舗が多く立地している場所に跡地を利用することによって, 競合しながらその商業地域を高めていくという考え方に変化したのではないかと考えら れる.また,買回り品とは顧客が様々な店の価格などを比較しながら購入するものである ことから,2010 年以降の跡地利用の仕方が本来の買回り品のあるべき姿なのではないか と考えられる. IV. 多項ロジスティック回帰分析 ここまで,内的要因と外的要因をそれぞれ個別に見ていき考察を行ってきた.では実際 にどの要因が主に跡地利用の決定に関わっているのかを把握するために多項ロジスティ ック回帰分析を行う.この分析を採用した動機として,求めたいカテゴリー(業態)が三 つ以上存在し,説明変数(内的要因・外的要因)の数値によって,跡地利用の業態がどの ように異なってくるのか,関連を見られるためである.また,説明変数の数値によって出 された予測値と実測値を比較することも行える.目的変数には跡地を利用した施設の業 態,説明変数には内的要因・外的要因として取り上げてきた項目を使用する.説明変数を 取り上げる際には多重共線性を考慮して,あらかじめ似ている変数は除去していく.また, 目的変数を前述したように細かく分類したものでは分析を行うことができないため,似 た特徴をもった業態同士のグループにまとめて分析を行う.結果として目的変数は,1) 行政施設・オフィス・住居,2)雑居ビル,3)食品スーパー・総合スーパー・専門店(施 設名=店舗),4)ショッピングセンター・百貨店・寄合百貨店(施設名≠店舗)とし,説 明変数は,1)出店形態,2)閉店店舗の店舗面積,3)都心を 1,郊外を 0 としたダミー 変数,4)経営母体(グループを 1,その他を 0 としたダミー変数),5)閉店年代,6)周 囲の人口,7)周囲の事業所数,8)周囲の買回品店舗数,9)周囲の競合店とした.なお, 出店形態は居抜き型,完全リニューアル,業態転換の 3 パターンあり、これをそれぞれダ ミー変数にして扱った.出店形態 1 では居抜き型を 1,完全リニューアルを 0,業態転換 を 0 とし,出店形態 2 では居抜き型を 0,完全リニューアルを 1,業態転換を 0 とした.

(31)

次に都心と郊外の定義は、東京駅から 20km の距離を都心とし,それ以外を郊外とした. 経営母体の定義は,その百貨店 1 店舗のみしか経営していない企業をその他とし,1 店舗 以上の百貨店を経営しているものをグループとした.最後に周囲の競合店は,周囲に立地 する店舗の業態がショッピングセンター,寄合百貨店,百貨店に該当するものとした.抽 出方法は,メッシュデータのバッファー内に該当するものを競合店店舗数とした. この目的変数と説明変数を用いて分析を行った結果が表 17 以降である.表 17 が回帰 式の精度を表したもので,決定係数は 0.5252 となった.次に表 18 は,変数の有意性を表 したもので,店舗面積と出店形態に有意性があることが分かった.また店舗面積に関して は p 値が 1%以下であることから強い有意性がみられた.また表 19 は,偏回帰係数の有 意性を表したもので,目的変数ごとに説明変数の有意性を表したものとなる.オフィス・ 住居に関しては店舗面積が 5%水準で有意となった.雑居ビルは出店形態と店舗面積が 5%水準で有意となった.また,施設名=店舗は出店形態に 5%水準で有意となった. 最後に表 20 は,説明変数をもとに予測して導き出した目的変数の業態が,実際の業態 に的中しているかどうかを表したものとなる.全体の的中率は約 65%となった.中でも, 施設名≠店舗の的中率が高く,比較的店舗面積の大きいものが集まったことや,経営母体 の跡地利用の仕方がある程度傾向をもっていたことがこの結果につながったのではない かと考えられる.次に的中率が高いものが雑居ビルであり,これは丸井の跡地利用の出店 形態において,居抜き型が多かったことが関係しているのでないかと考えられる.一方で, オフィス・住居や施設名=店舗の的中率が全体のものに比べて低くなっている.特にオフ ィス・住居に関しては 40%と低い的中率になっている.要因として,有意である変数が 出店形態と店舗面積だけでは,商業施設であるかないかを判別する指標にはならなかっ たのではないかと考えられる.また,施設名=店舗の判別した数値を見ると,誤った判別 の大半が施設名≠店舗に流れていることが分かる.この結果から,施設名=店舗と施設名 ≠店舗の判別が今回分析に用いた説明変数ではかなり難しいものになってしまったので はないかと考えられる.しかし,計算上はこのような結果になったとしても,実際の跡地

(32)

利用のプロセスには様々な力が加わることもある.そこで,この判別的中率の結果,判別 が的中しなかった跡地利用店舗に関して個別に見ていき,外れた要因や詳しい跡地利用 のプロセスを把握していきたい.特に判別的中率の低かったオフィス・住居のものと,施 設名=店舗のものを中心に取り上げたい. V. 個別事例 1. 丸広百貨店飯能店 最初に,観測値がオフィス・住居であったにも関わらず,予測値では異なったものを 2 店舗取り上げてみていきたい.1 店舗目が丸広百貨店飯能店の跡地利用の事例を取り上げ たい.丸広百貨店飯能店が立地していた跡地に埼玉りそな銀行飯能店が立地した.つまり 観測値はオフィス・住居だが,予測値では施設名=店舗の業態になっている例である.オ フィス・住居と予測されたものと各変数の数値を比較したものが表 21 になる.オフィス・ 住居と予測されたものの数値は,予測された店舗の平均の値となっている.オフィス・住 居と予測されたものに関しては,元の百貨店の店舗面積があまり大きくないことがわか る.また人口が多いところで跡地を利用していることもわかる.これと元丸広百貨店飯能 店を比較すると元の百貨店の店舗面積は大きいが,周囲の人口や商業施設が少ないこと からオフィス・住居と予測されなかったのではないかと考えられる.では,実際にどのよ うな要因でこのような跡地利用を行ったのかみていきたい. 予測値と観測値が異なる要因として,飯能市における丸広百貨店の立地とリーマンシ ョックが関わっていることが分かった.まず,飯能市における丸広百貨店の立地から要因 を述べたい.2000 年,飯能市には丸広百貨店が二つ立地していた.一つがここで取り上 げている丸広百貨店飯能店で,もう一つが東飯能駅の近くに立地している丸広百貨店東 飯能店である.この小さな商圏内では互いの相乗効果による売り上げの倍増ができず,両 店舗同士で売り上げを奪い合った結果 2009 年に飯能店が閉店した.そしてそこに新たな 商業施設を立地させる計画が出ていたが,リーマンショックの影響で土地を買収した企

(33)

業が出店を断念したことにより,しばらく跡地利用が未定のままになっていた.そこに埼 玉りそな銀行飯能店が 2013 年に跡地を利用した形となる.計算的には商業施設が跡地を 利用する条件がそろっていたが,このように当時の経済状況や,企業の立地場所の選定に よって跡地利用が商業施設ではなくなったことが分かる. 2. 丸井横浜関内店 二店舗目は丸井横浜関内店の跡地利用の事例を取り上げたい.元々,丸井横浜関内店が 立地しており,閉店後に横浜シティータワーという高層マンションが建っている.つまり 観測値はオフィス・住居だが,予測値は施設名≠店舗のものである.表 21 は,オフィス・ 住居と予測されたものと各変数の数値を比較したものとなる.オフィス・住居と予測され たものの特徴は前述した通りである.それと比較すると店舗規模に関しては,近い値を取 っているが,周囲の環境は人口が少なく商業施設が多いことが分かる.この数値の結果か ら,跡地利用がオフィス・住居とは予測されなかったのではないかと考えられる.ではど のような過程で跡地利用がオフィス・住居となったのかをみていきたい. 元々この土地は三丸興業株式会社が 1978 年から所有しており,そこに三丸馬車道ビル が建っていた.そして 1980 年に丸井がそのビルを賃貸する形でそこに丸井横浜関内店を 立地させた.その際に契約期間が決められており,2000 年までとなっていたことからそ の期間が満了した際に丸井が撤退した.それと同時に,三丸興業株式会社も土地の所有権 を三井不動産株式会社に売却した.そして,三井不動産株式会社が株式会社大和地所と共 同で横浜シティータワーを竣工させた.このように,土地の所有権者がどのような企業に なるかによって跡地利用の方針が変わっていくことが分かった.また,三丸興業株式会社 はビルの建設や賃貸事業を展開している会社であるため,その後の所有権者も不動産関 連の会社になったのではないかと考えられる. このように当時の経済状況や土地の所有権者の業種によって計算値とは異なる結果が 出たのではないかと考えられる.しかしリーマンショックによる経済不況の中,商業施設

(34)

が跡地を利用したものもあれば,所有権者が不動産業関連であっても商業施設が跡地を 利用した場合もある.このように一概に言えないため,外れ値を個別事例で見ていく必要 があると考えられる. 3. 三越新宿店 次に,観測値が施設名=店舗であったにも関わらず,予測値では異なったものを 2 店 舗取り上げてみていきたい.最初の店舗は三越新宿店の跡地利用の事例を取り上げたい. 三越新宿店の閉店後の跡地を利用したのが,ビックロ(ビックカメラとユニクロの複合型 商業施設)となる.つまり,観測値では施設名=店舗であるが,予測値では施設名≠店舗 となっている例である.施設名=店舗と予測されたものの各変数の平均値と比較したも のが表 22 である.施設名=店舗と予測されたものと比較して,店舗規模にあまり差はな いが,都心に立地していることが分かる.また,周囲の商業施設数が多く,さらに買い回 り品に特化した店舗が多い事から,施設名≠店舗と予測されたのではないかと考えられ る.では,実際にどのような要因でこのような跡地利用を行ったのかみていきたい. 三越新宿店が閉店した背景には企業の戦略があったと考えられる.それは,三越と伊勢 丹の合併の影響である.2008 年に両社が合併したことにより三越伊勢丹ホールディング スが誕生した.その後すぐに行われた不採算店舗の処理によって,三越は都心にある池袋 店とこの新宿店を閉店することになった.しかしただ閉店するわけではなく,土地を賃貸 させる外部一括賃貸のための閉店である.そこに目を付けたのが当時都心進出をうかが っていたビックカメラであり,閉店することを発表した同日に 10 年間の賃貸借契約を結 んだ.その後ユニクロの親会社であるファーストリテイリングが余ったテナントに入居 することになり,ビックロとして出店することとなった.当時の不動産登記簿ではいまだ に土地の所有権は株式会社三越がもっていることからも,百貨店業として収入を得るの ではなく不動産業としての収入を得ている.元来の百貨店というものは,土地を所有しそ こに店舗を構えることである.この土地を持っていた強みを,企業側が生かして跡地利用

参照

関連したドキュメント

青年団は,日露戦後国家経営の一環として国家指導を受け始め,大正期にかけて国家を支える社会

工学部の川西琢也助教授が「米 国におけるファカルティディベ ロップメントと遠隔地 学習の実 態」について,また医学系研究科

Vilkki, “Analysis of Working Postures in Hammering Tasks on Building Construction Sites Using the Computerized OWAS Method”, Applied Ergonomics, Vol. Lee, “Postural Analysis of

鈴木 則宏 慶應義塾大学医学部内科(神経) 教授 祖父江 元 名古屋大学大学院神経内科学 教授 高橋 良輔 京都大学大学院臨床神経学 教授 辻 省次 東京大学大学院神経内科学

Instagram 等 Flickr 以外にも多くの画像共有サイトがあるにも 関わらず, Flickr を利用する研究が多いことには, 大きく分けて 2

講師:首都大学東京 システムデザイン学部 知能機械システムコース 准教授 三好 洋美先生 芝浦工業大学 システム理工学部 生命科学科 助教 中村

学識経験者 品川 明 (しながわ あきら) 学習院女子大学 環境教育センター 教授 学識経験者 柳井 重人 (やない しげと) 千葉大学大学院

Photo Library キャンパスの夏 ひと 人 ひと 私たちの先生 文学部  米山直樹ゼミ SKY SEMINAR 文学部総合心理科学科教授・博士(心理学). 中島定彦