• 検索結果がありません。

本稿では,閉店した百貨店の跡地利用を決定づけている要因を内的要因と外的要因に 着目して考察した.その結果,以下の点が明らかとなった.

まず内的要因は,店舗規模によってある程度,どのような跡地利用を行うか決定するこ とができ,距離帯によってどのような業態が跡地を利用しやすいのか把握することがで きた.また,元の百貨店の経営母体が跡地利用に与える影響は大きく,その店舗が閉店後 どのような戦略をとっていくかで,跡地利用の店舗の出店形態や業態が異なることも分 かった.

次に外的要因は年代によって跡地利用の特徴に違いが出ることが分かった.2009 年ま での跡地利用は,周囲に商業施設数が少ない場所に商業施設の中でも大規模な商業施設 が跡地を利用する場合が多かった.それは,都心から離れた場所での跡地利用が多かった ことや,その都市の商業地域としての機能を一店舗で独占しようとしていたのではない かと考えられる.しかし 2010 年以降では,周囲に商業施設が多く立地している場所で跡 地を利用する場合が多かった.2009 年までとは変わって,より都心に近い場所での跡地 利用が多かったことが関係している.それは 2009 年までの考えとは逆で,その都市の商 業地域としての機能を,お互いの店舗の相乗効果によって高めていこうという考えにな ったのではないかと考えられる.

内的要因と外的要因それぞれの特徴を述べ,最終的にどの要因が跡地利用を決定づけ ているのか把握するために多項ロジスティック回帰分析を行った.結果として店舗面積 と出店形態が跡地利用の決定要因としてより重要なものであることが分かった.これに 関しては,前述したように店舗規模によってある程度跡地を利用する施設を判別できる ことや,元の百貨店の経営母体によって出店形態が異なり,その経営母体が跡地利用にど のような施設を立地させるかに大きく関わっている場合が多い事が関係しているのでは ないかと考えられる.しかし判別的中率をみると約 65%であり,中でもオフィス・住居 と施設名=店舗の的中率が低くなっている.つまりこれら二つには,今までの要因以外に

決定づけている要因が存在しているのではないかと考えられる.そこで個別事例で見た ところ,当時の経済状況や土地の所有権者であるかどうかが,個々の跡地利用に大きく関 わっていることが分かった.

以上を踏まえて,跡地利用を行う施設を決定づけている要因には,大きく言うと元の百 貨店の店舗規模と,跡地利用を行った際の出店形態というものが関わってくることが分 かった.確かに施設名=店舗の判別的中率は低かったが,内訳を見ると誤答した多くが施 設名≠店舗であることが分かる.つまり,商業施設か否かはある程度的中していることに なる.業態を細かく分けると個別事例で取り上げたような要因も絡んでくると思うが,大 きく商業施設か否かで分けると,その跡地利用を決定づけているのは,元の百貨店の店舗 規模と跡地利用を行った際の出店形態であることがいえる.また,一つ一つの店舗で見て いくと,その当時の経済状況や,土地の所有権者であるかどうかが,跡地利用には大きく 関わっていることも分かった.

最後に,今回の研究において衰退している百貨店業の新たなビジネスが不動産賃貸業 になるのではないかと考えられる.それは,前述したように百貨店業は土地を持つことか ら始まる.そしてその百貨店が閉店したとしても,土地は自社のものとして残っている.

この土地を経営母体がどのように扱うかが、跡地利用の差異となって表れているのでは ないか.仮に他の経営母体の施設を立地する際には,その土地を貸すことで賃貸収入を得 ることができる.また、自社の施設を立地させたとしてもそこに入店する会社から賃貸料 をとることができる.そしてこの流れをうまく使っているのが丸井ではないかと考えら れる.それは,百貨店を閉店させてからまだ商業施設として経営できそうなものは、周囲 の環境に合わせた自社の商業施設に跡地を利用させ,商業施設として経営が難しそうな ものは雑居ビルとして,その土地や建物を貸し出す流れができているからだ.今後も百貨 店の閉店は相次ぐと考えられる.その時に,百貨店の経営母体がその土地を持っているか どうかで大きく跡地利用の流れが変わってくると考えられる.

課題として,今回企業側のヒアリング調査を行うことができなかったため,分析には組

み込めなかったが,企業の経営戦略が実際にあったかどうかや,詳しい跡地利用の過程を 把握することができれば,本稿をより太くすることができたのではないかと考えられる.

また,本稿では全ての店舗について詳細な過程を取り上げてはいないが,全ての店舗につ いて詳細に見ていくことが今後できれば,それを行うことでまだ見えていない部分の要 因を把握することができたのではないかと考える.そして他の業態の商業施設の跡地利 用の特徴と比較することで,百貨店ならではの特徴が浮かんできたのではないかと考え られる.これらのことは今後の課題としたい.

謝辞

首都大学東京地理環境コース都市・人文地理学研究室の若林芳樹教授,滝波章弘准教 授,矢部直人准教授,そして坪本裕之助教には,貴重なアドバイスを多々いただきまし た.最後に,地理環境学域の同期である 11 名とは,共に助け合い,時には競い合うよ い仲間として,お互いに支えあい,励ましあいました.以上記して感謝申し上げます.

参考文献

浅野純一郎 2002. 地方都市中心市街における大規模商業施設の閉店や郊外移転の実態 とその後活用・跡地利用の方向性ー北陸甲信越地方の地方自治体担当部局への調査か らー. 日本建築学会計画系論文集. 557. : 257-264.

浅野純一郎 2007. 地方都市郊外に形成された商業集積地の成熟過程と衰退に関する実 態と課題ー長野県における事例分析からー. 日本建築学会計画系論文集. 622. : 105-112.

荒井良雄・箸本健二 2004. 『日本の流通と都市空間』古今書院

荒木俊之 2016. 1990 年代以降における小売店の立地変化と立地規制の影響. E-journal GEO. 11(1). : 56-69

井上芳恵・中山 徹 2002. 大型店撤退に関する研究ー撤退大型店の特徴及び行政の対 応策ー. 都市計画論文集. 37. : 739-744.

岩間信之 2001. 東京大都市圏における百貨店の立地と店舗特性. 地理学評論 Ser.

A 74:117-132.

川嶋祥之 2017. 地方都市における大型小売店の撤退とその跡地利用に関する研究.

都市計画論文集. 52(3). : 921-928.

杉村暢二 1966. 日本における百貨店の考察:中心商店街との関連において. 人文 地理 18:535-544.

西沢 保・山本武利 1999. 『百貨店の文化史―日本の消費革命』世界思想社 初田 亨 1993. 『百貨店の誕生』ちくま学芸文庫

森川 洋 1993. 都市システムとの関連からみた大型小売店の立地展開. 経済地 理学年報 39:116-135

図表

図 1 関東地方における閉店した百貨店の分布図 東洋経済新報社『大型小売店総覧』より作成.

図 2 三越伊勢丹ホールディングスを跡地利用する業態 東洋経済新報社『大型小売店総覧』より作成.

図 3 丸井の跡地を利用する業態 東洋経済新報社『大型小売店総覧』より作成.

図 4 セブン・アイ・ホールディングスの跡地を利用する業態 東洋経済新報社『大型小売店総覧』より作成.

表 1 元の百貨店の店舗面積×跡地利用の業態

東洋経済新報社『大型小売店総覧』より作成.

表 2 元の百貨店の都心からの距離と跡地利用の業態

東洋経済新報社『大型小売店総覧』より作成.

表 3 元の百貨店の経営母体と跡地利用の業態

東洋経済新報社『大型小売店総覧』より作成.

表 4 三越伊勢丹ホールディングスの跡地を利用する施設

東洋経済新報社『大型小売店総覧』より作成.

表 5 J フロントリテイリングと高島屋の跡地を利用する施設

東洋経済新報社『大型小売店総覧』より作成.

表 6 丸井の跡地を利用する施設

東洋経済新報社『大型小売店総覧』より作成.

表 7 エイチ・ツー・オーリテイリングの跡地を利用する施設

東洋経済新報社『大型小売店総覧』より作成.

表 8 セブン・アイ・ホールディングスの跡地を利用する施設

東洋経済新報社『大型小売店総覧』より作成.

表 9 電鉄系の跡地を利用する施設

東洋経済新報社『大型小売店総覧』より作成.

表 10 元の百貨店の経営母体と跡地利用の出店形態

各店舗の Web サイトなどより作成.

関連したドキュメント