数学学習における問題設定の研究
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(2) 平 成. 7 年 度. 学 位 論 文. 数学学習における問題設定の研究. 兵庫教育大学大学院学校教育研究科 教科一領域教育専攻自然色コース. M94555C. 新里孝雄.
(3) こまじめ0こ 従来の数学教育では、生徒が主体的に考えていくプロセスよりも、数学の内容面 での基礎・基本を大切にし、数学の知識の習得、技能の習熟に指導のウエイトがお かれていたように思える。もちろん、問題を解決していく際、その土台としての知 識・技能を定着させることは重要である。しかし、最近、数学学習では主体的な学 習を重視する教育への方向転換を受けて、学習者の数学に対する興味・関心・意欲 などの情意面への働きかけを大事にするようになってきた。生徒の主体性、自主性 を育成するためには、ただ単に知識や技能を吸収するという受け身的な学習ではな く、自らが主体的に考えていくプロセスを大事にした学習が大切である。そのため には、生徒が興味をもって積極的に取り組み、また、主体的な追及が最後まで持続 するような授業であることが必要である。. ところで、生徒の実態を見てみると、多くの生徒は、「問題は与えられたもの」. と思っており、1つの問題を解いてそれで終わりと考えている。そのために、他の 考え方やより良い解き方を見つけようとせず、発展的に考えようともしない。また、. 問題が与えられることに慣れているので、問題が与えられないとやらないという生 徒も多い。このように、多くの生徒はどちらかと言えば、「やらされている」とい う気持ちで問題を解いているので、意欲に乏しく、自ら問題を求めて取り組もうと しないというのが実情である。. このような生徒の実態から見ても、与えられた問題を解決してそれで終わりとい うような従来、しばしば見られた数学教育では、「問題を解く能力」を高めること はできるかもしれないが、「自ら求めようとする意欲・態度」を高めることは難し い.と思われる1。自ら求めようとする意欲・態度を喚起するためには、生徒の主体的. な学習を中心に、生徒自らがもっている豊かな創造性・発想が生かせるような授業 の展開が必要であると考える。生徒が意欲的、主体的に学習するようになれば、そ れにともなって問題解決能力も向上していくものである。生徒自身が問題を作成し、 それを解決していく問題設定の授業はこうした目的を達成できるものと考えられる。. 平成7年12月 新里孝雄. 一1一.
(4) 修士論文目次 はじめに・…・……………・…・・……・……・・………__1. 第1章問題設定とその意義___….・__._._..4 §1問題解決と問題設定……………・…・……・・…………・・…4 (1)問題解決前の問題設定…・・…………… ……・……。…・5 (2)問題解決過程での問題設定・………………・・…・…・…・・9. (3)問題解決後の問題設定……・…………・・…………・…・11 §2問題設定の意義………………・・……。・・………… …。…・16 (1)問題の理解と問題解決能力(証明能力)の育成……・………17. (2)創造性の育成・……………・…・・……・…………・・…19 (3)数学学習に対する関心・意欲の向上・……・…………・・…・19. 第2章問題設定と問題の類似性の認識……・…・…・23 §1問題の類似性の認識……………。…… ………………・。…23 (1)問題の類似性の認識と悶題解決能カ………・・……。… …・・23 (2)問題の類似性の認識に関する先行研究・・…………・・……・。24. §2証明問題の類似性の認識と問題設定の調査・…………・……・・…26. (1)調査の目的………………・・…・・……………・・……26 (2)調査方法・………………・…………・・……・…・…・・26. (3)結果と考察・………………・・………………………30. 第3章問題設定と創造性の関係……………・…・・…37 §1創造性の概念。……………・…。…。…………・…・………37. §2数学学習における創造性…………………………………・・39 (1)問題解決における創造性・…・…………・・。……・……・・。39. (2)問題設定における創造性………………・・…・・……ee…41 (3)逐次明確化における創造性。……………・…・一……一…43. §3創造性の評価方法…・…。…………… ………………・…・・45. 一2一.
(5) §4問題設定の調査と創造性の評価・・…・…………・・……・…・…・49. (1)設定された問題による創造性の得点化…………・・……・…49. (2)結果と考察……………。…・・………………………50. 第4章問題解決と問題設定の思考過程……………54 §1問題解決の思考過程・………………・…。……………・・…・54. §2問題設定の思考過程……………ee…。……・………・…・…66 (1)Vhat if not方略と思考過程……・…・………・…………66. (2)Solution方略と思考過程・………………・…・…………67 (3)Proposition方略と思考過程…………・・……・…………69. 第5章問題設定の授業過程と教師の手だて………72 §1原問題の解決・・………・………・・…………・…・…・……・72. (1)原問題の提示………・………・・………………・・一t…73 (2)原問題の解決………・・………・・……………。…・…・75. §2原問題からの問題設定… …………・……・・………・………76 (1)発問の仕方・……・・…………・・……・…………・…・・76 (2)つまづきとその対策………・・…・・…・……・………・…77. §3問題設定後の活動……………・…・…・・……………・……82 (1)作った問題の発表と分類・整理・■一。……………・……・…82. (2)作った問題の解決…………・……・………………。… 83 (3)まとめと発展……・∵・………。……。…………… …・83. おわりに…・…・…………・・………・………・………・・…85. 引用・参考文献………・……・…・……………・…・……88. 一3一.
(6) 第1章. 問題設定とその意義. 本章では、問題設定とその意義について、先行研究をもとに考察する。まず、 §1では、問題設定を問題解決と結び付けて、問題解決の前、中、後のいずれの場 面においても問題設定を行うことができることをSilver(1994)らの先行研究を参照. しながら述べる。本研究では、問題解決後の問題設定である、“与えられた問題を 解決した後、その問題をもとに新しい問題を作る活動”に焦点をあてている。また、. 問題設定の対象としている領域は、図形の証明問題である。そこで、§2では、図 形の証明の学習において問題設定を取り入れることの意義として次の3っをあげ、 それらについて考察する。. (1)問題の理解と問題解決能力を向上させるのに有効である。 (2)創造性の育成に有効である。. (3)数学学習に対する関心・意欲を高めるのに有効である。. §■問題解決と問題設定 問題設定(proble皿posi㎎)という言葉を「問題を作ること」、あるいは「問題を 設定すること」という意味で使い始めたのは、BromとValter(1970)である。この ことは、次の引用の中に見ることができる。. 《長い間、研究者や教師、カリキュラムの執筆者たちの間では、数学カリキュ ラムにおける問題解決(proble皿solvi㎎)の領域に一般的な関心があったた め、数学カリキュラムの新しいもう一つの側面である問題設定(problem posing)は無視されてきた。このことは、特に驚くべきことである。なぜな. ら、大方の問題解決においては、与えられた問題をもとに別の適切な問題 を設定することが問題解決者に要求されるからである。》(p.4) この引用から問題設定(proble皿pOsing)が問題解決(Proble皿solving)と関わっ. ていることが示唆される。. Silver(1994)は、問題設定は新しく問題を作ったり、与えられた問題を再形式化 (refomulation)したりすることであり、それは問題解決の前、中、後で行うこと ができると述べている。. 一4一.
(7) 以下では、問題設定を問題解決と結び付けながら、問題解決の前、中、後で行わ れる問題設定のいろいろな側面について考察する。. (1) 問題解決前の問題設定. 問題解決前の問題設定とは、与えられた場面(situation)から問題を作ることで ある。このような問題設定は、問題の形式化(formulation)とも言われる。. さて、与えられた場面から問題設定をする場合、与えられる場面として、さまざ まな場面が考えられる。BrownとWalter(1984)は場面として、定義、定理、具体物、. データーなどをあげている。また、平林(1978)は与えられた場面として、教具・学. 習具、遊技・ないしゲーム、劇としての実演、お話し・紙芝居、おとぎ話などをあ げている。. それでは、与えられた場面からの問題設定の例を考えてみよう。与えられた場面 から問題設定をする場合、以下のような方法が考えられる。. まず、1っ目は、例1のような日常場面からの問題設定である。. 例1あなたが、公園で遊んでいるときのことを思い出して、いろいろな問題を作っ て下さい。. 2つ目は、例2、例3、例4のように表、図、映像などで表されたデーターから の問題設定である。. 例2 下の表から思い付く問題をいろいろ作って下さい。. 国. 0. xO. xO. 語. xxO. xO. XX. XX xxO. xO. 00. の. 0. 成. 0. 績. X. 00. 0. 1 2 3 4 5. 0…男,x…女. 数学の成績. 一5一.
(8) 例3 下の図を見て思い付く問題をいろいろ作って下さい。. A E. B. D c. 例4 下の図で,四角形ABCDは常に平行四辺形であり, CEは∠BCDの, CGは∠DCKのそれぞれ2等分線であり,可動点はA, B, Dである。こ の図を変形して不変な関係や性質を発見してみよう。. E. D K. B. 例4は、飯島ら(1995)が提案している作図ツール(Geometric Constructorやカ. プリなど)を使った問題設定の例である。作図ツールを使った問題設定は、「与え られた図の一部を動かして不変な性質を発見する」といった活動を、コンピュータ ーなどのメディアを使って行う方法である。. 3つ目は、場面として数学の概念や原理・法則、問題解決に必要な知識などを与 えてそれを使って問題を設定する場合である。. 例5 正負の数に関する問題を作りなさい。. 例6 連立方程式を使って解く文章題を作りなさい。. 一6一.
(9) 例7 三平方の定理を使って解く問題を作りなさい。. 例8国回回囚回の5枚のカードがある・この場面から繍・関する問題 を作りなさい。. 例9 下の図は、2つの水槽での時間と水量の関係を示したものである。A, Bの. 2種類の水槽は、それぞれ50リットルで満水になる。Aでは注水し、 Bでは 排水している。この場面から、関数に関する問題を作りなさい。 (リットノレ)50 44・・… ... .N.. rl m Hl”””””1 50リ ッ トノレ. 1 ●・・●●・. ●. la/ ・ ・ 10リットハノ. A. ・. B. ・. 2 3 (分). 例10 線分の長さの相等を証明する問題を作りなさい。. 例11 三角形の合同条件(例えば、3辺相等)を使って証明することができる問 題を作りなさい。. 与えられた場面からの問題設定を図で示すと以下のようになる。. (s、)∠蹴. S;場面 P;問題. (s2). _::謬. 図1 場面からの問題設定. 一7一.
(10) ところで、B rown(1984)は、上で述べた場面からの問題設定の3つ目の方法、す. なわち数学の概念や原理・法則,問題解決に必要な知識などを与えてそれを使って 問題を設定する場合、それらをすぐに受げ入れないで、逆に与えられた数学の概念 や原理・法則,問題解決に必要な知識などを問い直したり、批判したりして問題を 設定していく方法を示唆している。この方法は逆設定(de−posing)と呼ばれている。 また、逆設定から「What if not方略」(lhat if not方略の詳細な説明は第4章で. 行う)などを用いて問題設定をしていく姿勢を、Brownは(1984)「青年の反乱 (adolescent rebellion)」と呼んでいる。これは、学習者がこのような姿勢をも. ちながら、主体的・活動的に問題設定や問題解決に取り組んでいくことの重要性を 示唆しているものである。逆設定による問題設定の方法を図で示すと次のようにな る。. ,,,,//一(Fg,1,ilrfxx[Sl,1,i],. 図2 逆設定による問題設定. 次の例は、Brown(1984)が示している素数の定義への逆設定からの問題設定の例 である。. 例12 素数の定義(2つの異なる約数のみをもつ自然数)をもとにして、問題を 作りなさい。. 上の素数の定義への逆設定により次のような問題が設定される。. ①なぜ自然数に注目しているか。自然数でなく奇数や偶数にしたらどうか。 ↓. (逆設定). 2っの異なる約数をもつ奇数を求めよ。 (問題設定). ②なぜ2つの違った約数に注目しているか。3っの違った約数にしたらどうか。 ↓. (逆設定). 一8一.
(11) 3っの違った約数をもつ自然数を求めよ。 (問題設定). (2) 問題解決過程での問題設定. 問題解決過程での問題設定は、問題の再形式化(reformulation)とも言われる。. 一般に、問題の再形式化は複雑な問題の解決の過程で行われる。問題解決者は問題 を解決するために、さまざまな方法で与えられた問題を作り直したりする。このよ うな与えられた問題を再形式化していく活動は、問題設定の一種と考えられる。な ぜなら、問題を再形式化していく活動は、問題解決者が問題解決のために問題に与 えられた条件(要素)を新しい条件へと変えたり、あるいは言い換えたりする活動 であるからである。. Silver(1994)は、与えられた問題を解決する過程で行われる問題設定は問題の再 形式化であり、問題の再形式化を通して、与えられた問題は個人化(personalized) されると述べている。また、BrownとWalter(1977)は、問題の再形式化は問題解決 と同様に大切であると述べている。. このように問題の再形式化は問題設定の一種と考えられ、それは問題解決と関連 している。. Kilpatrick(1987)は、1から2001までの奇数の和を求める問題で、問題の中 の条件を変えることによって新しく再形式化された問題がもとの問題を解くための. 手段となっていくことを示している。例えば、この問題の2001を順に3、5、 7、9… 2n+1と変えることによって、すなわち、一つの違った問題を順に 作って解決することによって問題解決者はパターンを見付けることができ、もとの 問題を解決することができる。また同時に、一般化された解法を得ることもできる。 BrownとWalter(1977)は、次の問題を解いていく過程で、問題の再形式化(設定 される問題)の例を示している。. 問題 2っの正三角形が与えられているとき、これらの三角形の面積の和に等し い面積をもつ正三角形を求めよ。. 上の問題は、最初の2つの三角形については、1辺の長さも面積も与えられてい ないが、自分で具体的な数値を与えて考えていくことができる。例えば、1辺の長. さを3,7にしたとする。すると、もとの問題は「1辺の長さが3と7である2つ の正三角形の面積の和に等しい面積をもつ正三角形の1辺の長さを求めよ。」と言. 一9一.
(12) い換えられる。 (図3). 13. 一.. 7. 図3. この問題をピタゴラスの定理を使って解くと(h1,. h2, h3は高さを表す)、. h・一3炉,h・一7炉. そして、それぞれの面積をA1, A2, A3とすれば、. A,,.!}一:・Al}LI}一3Nn3,A,,.,Z:.Z4L3.74v/一ii−A,=A,+A,...一v/rh{i3’(49+49). N./す●58. 4. 29>/吾一. 2. 求める正三角形の1辺の長さ13を見付けるために、正三角形の面積の公式を使っ て、以下のように進む。. A,一二一品 したがって、. 29∼ズぼ 4. 132===’S4L’,;.ts =29 ・ 2 == 58. ゆえに、. 13=漉 これが求める正三角形の1辺の長さである。. 次に、変数を使って1辺の長さをt1, t2としたとする。すると、もとの問題は 「1辺の長さがtl、 t2である2つの正三角形の面積の和に等しい面積をもつ正三角. 一10一.
(13) 形の1辺の長さをt3を求めよ。」と言い換えられる。(図4). t3. ,A 図4 この問題も具体的な数値を与えて解いたときと同じように、ピタゴラスの定理を 使って次の式を得ることができる。. A・一. aEA2=準・舳+雌薦去薦 t32、/冨. 4,. したがって、t3 =、/酊となる。.’. 上の問題解決の例のように、問題解決の過程で問題に与えられた条件(要素)を 新しい条件へと変えたり、具体的な数値や変数などを使って言い換えたりすること は問題の再形式化、すなわち問題設定をしていることと同じである。. (3) 問題解決後の問題設定. 問題設定は、与えられた問題(原問題)を解決した後にも行うことができる。こ の種の問題設定は、Polya(1957)によって示された「振り返り(Looking Back)」と. も関連している。BrownとWalter(1977)は、次のような与えられた問題を解いた後、. 問題に与えられた条件や制限に対して、「What if not(もし∼でなければ)」と 問うことで興味深い問題が設定されることを示唆している。. 問題 直角三角形の斜辺上の正方形の面積は他の2辺上の正方形の面積の和に等し い。このことを証明せよ。. 一一. @11 一一.
(14) 上の問題を証明した後、問題に与えられた関係について、少し別の角度から振り. 返ってみることにする。例えば、直角三角形の3辺の上の正方形の代わりに、他の 図形を考えてみてはどうだろうか。実際に、正方形の代わりに、半円や正三角形な どにしても三平方の定理が成り立つことが分る。そこで、三平方の定理(直角三角. 形の斜辺上の正方形の面積は他の2辺上の正方形の面積に等しい)を次のように一 般的な形で言い換えることができるのではないかということが推測される。. 「直角三角形の3辺上に相似な図形を作図すると、直角を作る2辺上の面積の 和は斜辺上の面積に等しい。」 そして、“上の推測が正しいことを証明せよ”という問題を設定することができ. る。もし、この問題を証明することができれば、上に述べた推測は正しいことにな る。. 上の例のように与えられた問題の条件や制限に対して、「What if not(もし∼. でなければ)」と問うことによって、問題の条件や制限を自由に変えて多様な問題 を設定することが可能である。. 与えられた問題(原問題)の解決後、その問題をもとにして新しい問題を設定す る方法を図で示すと以下のようになる。. /(P111). (P、)∠二:躍\::;1二::. 図5 原問題からの問題設定. ところで、竹内と沢田(1984)が提唱している「問題から問題へ」、あるいは「問 題の条件換え」という考え方も与えられた問題を解決した後、「What if not方略」. を使って、与えられた問題の場面や条件などを変えて問題設定をすることと同じ意 味である。彼らは、この「問題から問題」という考えを次のように説明している。. 《最初の問題Poを解決して、ある知見(知識)Koが得られた。次にPoとKo から、新しい問題P11, P 12が立てられ、それらを解決して知見K11, K 12・ ・・. ェ加えられた。以下このように進行する。’(図6). 一12一.
(15) /P211 Pll−P212. (Po, K,)/Pii. / .i71:. P21. (pii, Kn)!. XX>“P 12. \P1乙;:::. xX:ii. 図6 「問題から問題」への図式. 〉 (p. 16). 上の図式では、最初の問題Poは教師によって提示され、生徒によって解決され. る。そして、次にはPoを解決することによって得られた知見Koなどをもとにして 問題設定がなされいく。. ところで、このような過程で常に新しい知見が得られるかという疑問が生じる。 このことに関して、彼らは次のように述べている。. 《問題を発展させ、それらを解くことによって得られた知見は、それぞれ先行 する知見と比べて、必ずしも新しいものとは限らないが、一般的には先行の ものより一般化された、あるいはより深められたものであろう。》(p.16) 続けて、彼らは次のようにも述べている。. 《また、同じ問題を出発点としても、その発展のさせ方は一通りではなく多様 であろう。またより意義のある(数学的により価値のある)発展のさせ方は その人の数学的力量や数学的洞察力、あるいはまた偶然性によることであろ う。》 (】P.16). 次に、彼らは「問題から問題へ」の指導で期待できることとして、次のことをあ げている。. (1)すべての児童・生徒が積極的に授業に参加する。 (2)自分の力に応じてだれもが精いっぱいに学習に励む。 (3)算数・数学に興味を感ずる。 (4)発見の喜びが味わえる。. (5)いつでも「問題を発展させる」態度がっくられる。 (6)個別学習と集団学習の調和した授業が展開できる。 (7)多様な観点からの評価を可能にしてくれる。. 一13一.
(16) これらは、.問題設定の意義でもある。問題設定の意義については、本章の§2で 考察する。. 以下は、竹内と沢田が「問題から問題へ」の指導の中で示している与えられた問 題の解決後の問題設定の例である。. 問題1 下の長方形は縦6cm,横10cmである。点PがAから毎秒2cmの速 さで、この長方形の周囲をB,C, Dの順にDまで動く。 PがAを出発して. から、x秒後の△APDの面積をycm2とするとき、 yをxの式で表し、 そのグラフをかけ。. A. D. P ,. B−C この原問題の解決後、ある生徒は、問題に与えられた長方形の代わりに正方形、. そして三角形APDの代わりに、四角形PQRSの面積をyとして次のような問題 作った。. 問題2 正方形ABCDは1辺が20cmの正方形である。. A. 点PはAから毎秒1cmの速さで,また点QはBか. P. ら毎秒2 cmの速さで、点RはCから毎秒3cmの速. 一e−S D. ,. さで、点SはDから毎秒4cmの速さで同じ方向に. T. 動く。点P,Q, R, Sが同時に出発してからx. R. 秒後の四角形PQRSの面積をycm2とする。 xと. B Q一一〉. c. yの関係を式に表せ。ただし、0≦x≦5とする。. 問題1をもとにして設定された問題2では、問題1を解くことによって得られた 知見である変域の考えなどが利用されている。実際、問題1でyをxの式で表すと. y==10x (OSxS3), y=6x+12 (3SxS8), y==110−10x (8≦x≦11),y・・O(11≦x≦16)となり、 xの変域によって関数が変 わっていくことが分かる。そして、問題1をもとに設定された問題2では、正方形. の1辺が20cmであることと最も速い点Qの速さが4cmであることからxの変域を. 一14一.
(17) 0≦x≦5としている。 また、問題2を解くことによって、時間と面積の関係でも1次関数でなく2次関 数になるものがあるという知見に気付くこともできる。. 以上、問題解決の前、中、後に行われる問題設定について述べてきたが、実際に 生徒に問題設定をさせる場合、問題設定のための教師の方向づけや手だてが必要に なってくる。特に、生徒に問題設定の経験がなかったり、少なかったりした場合な どは、教師の手だてが必要である。生徒に、問題設定を促進させるための教師の手 だてについては、第5章で述べることにする。. 一15一.
(18) §2問題設定の意義 ほとんどの数学科の授業では、教師によって提示された問題を解いた後、練習問 題を解いて、それで終わりというパターンが多い。それに対して、問題設定の授業 とは、「与えられた場面から、あるいは与えられた問題の解決後にその問題から新 たな問題を設定し、さらに設定された問題を吟味したり、解決したりしていく活動」 をいう。本研究で考察の対象としている問題設定は、与えられた問題を解決した後、. その問題の構成要素あるいは属性を類似なものやより一般的なものなどに置き換え て新しい問題を作っていく活動である。また、問題設定の対象としている問題は図 形の証明問題である。 山本(1994)は図形の証明における問題作りは代数(特に方程式の応用)における問. 題作りより問題解決能力を向上させるのに効果的であったと報告している。そして、 その理由について次のように述べている。. 《原問題(図形の証明問題)をもとにして新しい問題を作るとき、原問題と類 似な悶題だけでなく、何時間か後の授業で学習するような発展的な問題を先 取りして作ることができる。これに対し、代数(特に方程式の応用問題)の 問題作りでは、何時間か後の授業で学習するような発展的な問題ということ にはそれほど意味はない。》(p.11). 確かに、代数における問題づくりでは原問題の理解は深められるが、発展的な問 題であっても多くは同じような解き方になる場合が多い。しかし、図形の証明問題 における問題作りでは、原問題と類似な問題だけでなく原問題からの発展的な学習 内容に気付く可能性も大きいと思う。. 例えば、「相似な図形」の学習で、「△ABCでAB, AC上に, AP:AB− AQ:AC 一=1:3となるようなP, Qをとるとき,△APQ。。△ABCであるこ とを証明せよ」を原問題として問題作りをするとき、P, Qを中点とした場合、生 徒にとっては、 「中点連結定理」のような何時間も後で学習する発展的な内容を早 い時期に学習する機会にもなる。. そして、問題設定を通して、図形学習への面白さを感じさせることができれば、 それにともなって証明能力の向上も可能になってくるものと思われる。. 以下では、図形の証明において問題設定を取り入れることの意義について考えて みたい。. 一16一.
(19) (1)問題の理解と問題解決能力(証明能力)の育成. BrownとWalter(1990), Silver(1994)らは、問題設定活動が問題の理解を深める. ことができ、また、問題解決能力を向上させるのに有効であることをさまざまな先 行研究をもとに指摘している。 例えば、三平方の定理の証明の後で、「What if not方略」などを使って、この定. 理を変形した、またはこの定理から予想される次のような問題を作ることで三平方 の定理への深い理解が期待できる。. 問題1 直角三角形において、斜辺を直径とする半円の面積は、他の2辺をそれぞ れ直径とする半円の面積の和に等しい。このことを証明せよ。 (半円の代わりに他の相似な図形でもよい). 問題2 三角形ABCにおいて、∠A>90。(または∠A<900)であるとき、 BC2とAB2+AC2の大小を比べよ。. 問題3 三角形ABCで、BC2=AB2+AC2が成り立てば、三角形ABCは、 ∠A=gooの直角三角形である。. 山本(1994)は、「△ABCでAB, AC上にAP:AB冒AQ:AC=1:3と なるような2点P,Qをとるとき,△APQ。。△ABCであることを証明せよ」を 証明した後、それを原問題とした問題作りを取り入れた授業を経験した学級(実験 群)と、問題作りを取り入れなかった学級(対照群)とに評価テストを実施した。. 評価テストは3問題から構成されており、問題1は原問題そのもの、問題2は中点 連結定理に関する証明問題、問題3はより複雑な図形に中点連結定理を応用する証 明問題であった。表1は各群の全員を対象にした問題別の平均得点、及び各群の(普 段の数学の)成績下位の10人だけを対象にした問題別の平均得点を示したもので ある。. 表1 評価テストの結果の事例 全. 成績下位10人. 員. 岬町1 問題2 問題3 合計 湖題1 問題2 問題3 合計 実験群. 8.2. 6.6. 5.5. 20.2. 5.5. 3.5. 3.0. 12.0. 対照群. 7.1. 5.7. 4.7. 17.4. 3.1. 1.2. 1.0. 5.3. 一 17一.
(20) 表1に示した結果は、図形の証明の学習において、問題作りを取り入れた授業が 問題解決能力(証明能力)を向上させるのに有効であったということを示している。 特に、この事例では、成績の下位の生徒に有効であった。. また、山本は、問題作りの授業は、図形の証明では上述のように問題解決能力を 向上させるのに有効であったが、代数(方程式の応用)では、通常の授業と同程度 という意味で、問題解決能力の向上にはそれほど効果をあげていないとも指摘して いる。. ところで、中学校の図形学習において証明問題として出題されている問題は、そ れぞれが独立してばらばらに存在しているというよりは類似な問題である場合が多 い。しかし、生徒自身は類似な問題であっても、問題を解く場合に問題の類似性に 目を向けながら解こうとしていることが少ない。それは、類似な問題の一方は解け ても他方は解けない生徒が多いことでもよく分かる。これは、学習活動そのものが、. 一つ一つの問題を解決することのみに目がゆき、問題間の類似性について考える余 裕がなかったり、そのような経験をしていないためであろうと思われる。与えられ た問題を解決することが困難なときに、与えられた問題と類似な問題を想起し、類 似な問題の解き方を与えられた問題に適用して問題解決をしていく方法、すなわち 類推による問題解決の方法は、第2章で述べるように問題解決の有効な方法のひと つである。生徒一人ひとりに、一つの問題からそれと類似な問題を作る経験をさせ ることは、問題間の類似性について考える機会になり、類推による問題解決能力の 育成にもつながっていくと思われる。. 次の①∼③の問題はいずれも、中学2年の「相似と図形」の単元にある問題で、. ①はPQ〃BC, PQ・・BC/2,②は△DEFは正三角形,③はAD〃EF〃 BC, EF=(AD+BC)/2を証明する問題である。. ①P,Qは辺の中点. ②△胡Cは正三角形、 D,E,Fは辺の中点. A. A. ③四角形ABCDは台形、. E,Fは辺の中点. A. D. E B. C. B. D. c. 一18一. B. F c.
(21) 教科書では、①が例題として提示され、②や③は練習問題として提示されている 場合が多い。しかし、これらの問題を解く場合、①、②、③を独立した問題と考え. ている生徒が多い。すなわち、①を解決した後、①の解き方あるいは解いた結果 (中点連結定理)を使って②、③が解けると予想できる生徒が少ない。これは、上. で述べたように、学習活動そのものが一つひとつの問題を解決することのみに目が ゆき、問題間の類似性について考える余裕がなかったり、そのような経験をしてな いためであろうと思われる。①を解決した後、①と似た問題を作る経験をさせるこ とで、問題間の類似性に気付かせることも可能になると思われる。. (2)創造性の育成. 生徒一人ひとりに数学的知識を身につけさせ、それを活用していろいろなアイディ アや考え方を生み出していく創造的な資質や能力を育成することは、数学教育の重 要な目的である。このことは、数学を学ぶことが創造性の育成と結び付いていなけ ればならないということである。尚、第3章で述べるように、本研究では数学にお ける創造性を次のようにとらえている。. 『数学における創造性とは、与えられた場面や問題をもとに、既有の数学的知 識を使って新しい、しかも価値ある問題を作り出す能力である』. 渡辺(1988)は問題設定の経験させることは創造性の発揮につながるとして次の ように述べている。. 《学校教育において創造的な経験をさせ、創造性の目を持たせることは難しい ことではない。自分で問題を作ること、発見を経験させること、新しいもの を創造する経験が創造性の発揮につながる。》(p.247). また、Haylock(1987)は創造性が顕著に発揮できる場面の一つとして問題設定の 場面をあげている。Silver(1994)も、さまざまな研究をもとに問題設定が創造性の. 育成に有効であることを指摘している。すなわち、問題設定では、いろいろなアイ ディアにもとづいて多種多彩な問題を作ることができる所に創造性が発揮される。 そのことが、問題設定が創造性の育成にもつながっていく。. (3)数学学習に対する関心・意欲の向上. 竹内と沢田(1984)は、問題設定では、個々の生徒が、自分の既習事項や発想を出. 一19一.
(22) 発点として、数学をする楽しみを味わうことができると述べている。また、Brown とWalter(1990)は問題設定が数学不安に対処できる一つの方法であるとして次のよ うに述べている。. 《数学不安は問題設定を通して軽減することができる。それは、問題設定は 問題に解答するほど怖くないからである。》(p.163). また、Winograd(1991)は友達を意識した問題設定についての研究の中で、友達が. 興味をもったり、あるいは難しいと考えるような問題を設定することで、数学学習 に対する関心・意欲が高められたと報告している。Silver(1994)も問題設定は数学 学習への生徒の興味・関心を高める一つの方法であると述べている。また、誰でも、. 教師から与えられた問題、あるいは教科書の問題よりは、自分の作った問題や友達 の作った問題の方が興味を持って解くことができるものと思われる。. このように、問題設定は、先に述べた問題解決能力(証明能力)などの認知面だ けでなく、興味・関心・意欲などの情意面を高めるためにも意義ある方法であると 言える。. また、問題設定は、自分の興味ある事象を、設定しようとする問題に取り入れる ことで学習の個性化にもつながると考えられる。このことについて、次の問題を原 問題として設定された問題をもとに考えてみよう。. 問題 直角三角形ABCで,直角の頂点Aから斜辺BCにおろした垂線の足をD とするとき,△ABC。。△DBAを証明せよ。. B. A. D. C. この問題をもとにして次のような問題を設定した生徒は、自分の興味ある事象 (野球)を問題設定に取り入れている。このように、問題設定ではその生徒のもち. 味、その生徒らしさ(個性)を発揮することも可能であることから、学習の個性化 にもつながると考えられる。. 問題 太郎(A)は野球チームの内野手である。ある日の試合で打者(B)が打つ た強いゴロのボールに対して、太郎は打者がボールを打った瞬間に右の矢印の. 方向に走って、C地点でボールを押さえることができた。しかし、捕ったボー. 一20一.
(23) ルを一塁に投げることができず、これが原因で太郎のチームは負けてしまった。. もし、太郎がボールが進む方向に対して垂直に走っていればボールを1塁に投. げることができたのであろうか。ただし、AC=9「m, BC篇27m,. ∠BAC=90。とする。 A(太郎)→ C i]一一一一r7. 7 1 ボ i 2 B(打者). この問題の答は、「太郎はボールに間に合わない」である。その理由は、三角形 の相似を使って次のように説明できる。. 下の図のようにAからBCに垂線ADを引く。. A. C. D −. B. AC=9, BC=27であるから、 AB =V’BC2−AC2 一一V 72 9−8 1. −V−61ts−1sf2 △ABD co△CBAより AD : BD=CA : BA == 9 : 187,1”一2一 =1 : 2M一 1 : 2. 828…. 太郎とボールの速度の比が1=2.828…ならば、太郎とボールは同時にD に着く。ところが、実際の太郎とボールの速度の比は9:27・・1:3であり、 太郎はボールに間に合わない。. 以上に述べたように、問題設定は、認知的にも情意的にも大きな意義をもってい る。そこで、そのような意義をもつ問題設定を生徒に促進させるための手だてを考 えなければならない。そのためには、どのような思考過程を経て問題設定がなされ るかを明らかにする必要がある。このことについては、第4章で述べることにする。. 一21一.
(24) 第2章では、問題設定の意義として最初に述べた「問題の理解と問題解決能力(証 明能力)の育成」に関連して、問題設定と問題の類似性の認識について考察する。. 一22一.
(25) 第2章 問題設定と問題め類似性の認識 前章では、問題設定とその意義について述べた。その中で、問題設定の意義の一 つとして、問題の理解と問題解決能力の育成をあげた。. 本章では、この問題設定の意義との関連で、問題設定と問題の類似性の認識の関 係について考察する。問題が解けなかったとき、その類似問題を考えてみることは、. 問題解決の有効な方略のひとつである。そこで、§1では、問題の類似性の認識と. 問題解決能力との関係について考察する。また、問題の類似性の認識に関する Chartoff, Silver, SchoenfeldとHemann, Glinerらの先行研究を取り上げる。そして、. §2では、生徒が図形の証明問題の類似性をどのような観点から認識するのか、ま た、問題解決能力(証明能力)あるいは図形の証明問題の類似性の観点と設定され た問題の間にはどのような関係があるのかについて、問題設定の調査をもとに考察 する。. §■問題の類似性の認識 (1)問題の類似性の認識と問題解決能力. 問題が解けなかったとき、類似問題を考えることは、問題解決の有効な方法のひ とつである。そのとき、Polya(1968)が、「発見法のストラテジー」の中で示して. いる“あなたは関連した問題を知っていますか”という方略がよく用いられる。こ れは、問題解決の計画を立てるときに、類似問題を考えることによって類似問題の 構造や解き方を解こうとする問題に転移させて、問題解決に取り組んでいく方略で ある。確かに、問題が解けなかったとき、それと類似な問題の解法から、問題を解 決するために必要な情報を収集することは効果的な方法である。しかし、第1章で も述べたように、実際の問題解決場面において、問題が解けなかったとき、その問 題と類似な問題を思い出し、問題の類似性に目を向けながら解こうとしている生徒 は少ない。また、過去に解いた問題の中から類似問題を探していて、その問題を目 にしながら類似品に気付かない生徒や教師が類似問題を指示しても類似性が理解で きない生徒も多い。これらは、問題の類似性について考える余裕、あるいはそのよ うな経験をしていないためであろうと思われる。. 一23一.
(26) ところで、問題の類似性の認識に関する研究は、国内外のいろいろな文献で見ら れる。後で述べるように、Silver(1979)は、生徒の問題の類似性の認識と問題解決. 能力との関連について調べている。Silverの調査の結果では、問題解決能力の高い 生徒は、問題の類似性を問題の数学的構造をもとに認識するが、問題解決能力の低 い生徒は、問題の表面的な特徴をもとにそれを認識することが明らかになった。ま た、崎谷(1991)は、問題の類似性の認識が問題解決能力の向上に大きく貢献するこ. と、また、問題の構造を抽象的にとらえる能力が類似性の認識に関わっており、そ のような能力を伸ばす教師の意図的な指導が大切であると述べている。. これらのことから、問題の類似性の認識を高めることは、類推による問題解決能 力の育成、ひいては問題解決能力の向上になると思われる。 以下では、類似性の認識に関するChartoff, Silver, SchoenfeldとHemam, Gliner. らの先行研究を概観する。. (2)問題の類似性の認識に関する先行研究. 代数の文章題の類似性の認識に関連した先行研究として、Chartoff, Silver, SchoenfeldとHermann, Glinerなどの研究がある。 Chartoff(1976)は代数の文章題. に関する類似性の認識を調べた。その結果、多くの子供は次の4つの観点から問題 の類似性を認識することを見出した。それは、(a)問題の解法 (b)問題の文脈 (c)問題の属性比較 (d)問題の質問形式の4つの観点である。. Silver(1979)は、問題問の類似性を生徒が認識をするときに用いる観点として、 数学的構造(皿athe皿atical structure)、場面(context)、質問形式(question. for皿)、擬構造(pseudo structure)という4つの観点を明らかした。数学的構造. の観点とは問題の表面的な特徴ではなく問題の数学的な内容であり、問題の解き方 と本質的に関連している。場面とは、例えば、階段の問題、平行四辺形の問題など のように問題に与えられた場面の類似性に着目して問題の類似性を認識する観点の ことである。擬構造とは、例えば、問題の答えとして求められている量が年齢、速 さ、あるいは重さなどであれば、それらの類似性に着目して問題の類似性を認識す る観点のことである。質問形式の観点とは、例えば、問題の質問形式が「何々です か」、あるいは「何々を求めよ」となっている場合、これらの質問形式の類似性に 着目して問題の類似性を認識する観点のことである。ChartoffとSilverはそれぞれ 異なった調査問題を用いているが、類似性の認識の観点として得られた結果は非常. 一24一.
(27) に似たものであった。. ところで、Silverは数学的な能力と問題間の類似性の認識との関連についても調 べている。その結果は、次の引用からも分るように、Krutetskii(1976)の研究結果 を裏付けるものであった。. 《この研究はK rutetskiiの研究の写しではないが、結果は数学的な能力のあ. る生徒は問題を解く前に、問題の数学的構造を把握する能力があるという彼 の研究に一致している。》(1979,p.208). また、Gliner(1989)も、問題解決の熟達者は問題間の類似性を認識するとき、数 学的構造をもとにして問題の類似性を認識することを示唆している。 SchoenfeldとHermann(1982)は、問題解決のコースの後では、初心者もエキスパ ートのように、問題の数学的構造をもとにした問題の類似性の認識に変わっていく ことの展望を示唆している。. ところで、上述の先行研究で使用している問題は、ほとんどが代数の文章題であ り、図形領域の問題を使用した類似性の認識の研究はなされていない。代数の文章 題での研究結果がどの領域にも一般化されるとは限らない。そこで、筆者は図形の 証明問題に対して生徒が、どのように類似性を判断するかを明らかにするため、次 節で述べるような調査を行った。. 一25一.
(28) §2証明問題の類似性の認識と問題設定 eこ関する調査. (1)調査の目的. 調査の目的は、“中学生が図形の証明問題の類似性ををどのような観点から認識 するか”また、“証明能力あるいは類似性認識の観点と生徒が作った証明問題の間 にどのような関係が見られるのか”を調べることである。. (2)調査方法. ※被験者. 被験者は沖縄県のN中学校の3年生の62人(男子29人、女子33人)の生徒 である。被験者の調査時に学習している内容は、円周角の定理である。. ※調査問題. 調査は以下の2つからなっている。調査問題は中学2年生から中学3年生までの 教科書の図形領域にある証明問題である。. 調査A ★次の問題を似ている問題どうしに分類して下さい。ただし、問題はいくつのク ループに分類してもよい。1つの問題を1っのグループとして分類してもよい。 また、できるだけ分類の観点も書いて下さい。. 問題1 平行四辺形ABCDにおいて, AB=DC, AD=BCを証明せよ。. b. B. 一’. 一26一.
(29) 問題2. 二等辺三角形ABCにおいて,AD=AEならばBE=CDを証明せよ。 A E. C. AD:AB=AE:ACならばDE〃BCであるこ. 問題3 △ABCにおいて, とを証明せよ。. A D. E c. 問題4 四角形ABCDにおいて,AB・CD,AD=・BCならば四角形ABCD は平行四辺形になることを証明せよ。. A. D. B. 問題5. ’. C. 平行四辺形ABCDにおいて,∠A=∠C,∠B・・=∠Dを証明せよ。 A. r. B. D. C. 問題6 四角形ABCDが円に内接している。∠BAD+∠BCD=180。で あることを証明せよ。. D. o B C. 問題7 長方形ABCDにおいて, AC=BDを証明せよ。 A. D. B. c. 一27一.
(30) 問題8 △ABCの辺BC上の点をDとするとき, DA ・DB=DCならば, ∠BAC=gooである。このことを証明せよ。 A. D. B. C. 問題9 四角形ABCDの辺AB, BC, CD, DAの中点をそれぞれE, F, G,Hとするとき,四角形EFGHは平行四辺形になる。このことを証明 せよ。. A ,., H .,, D. G c. F. B. 問題10 点Pで外接する2つの円O,0’がある。Pを通る直線が2円と下の 図のようにA,BおよびC, Dで交わるとき, AC〃BDとなることを 証明せよ。. D o’ .. .. c. B. ★問題1を証明して下さい。. 一28一.
(31) 調査B ★下の問題のいろいろな部分を変えたりして、似た問題をできるだけたくさんの 問題を作って下さい。. 問題 平行四辺形ABCDにおいて, AB == DC, AD・・BCを証明せよ。. A. B. J. D. C. Silverは、文章題の類似性の認識の観点として、数学的構造、場面、質問形式、擬. 構造の4っを用いたが、筆者は予備調査をもとに図形の証明問題に関する類似性の 認識の観点として次の3つを設定した。すなわち“証明方法(解き方)”,“場面”,. “証明内容”の3つの観点である。ここで言う“証明内容”の観点は、Silverが代 数の文章題の類似性の認識の観点として用いた擬構造と質問形式をまとめた観点に 相当している。. 例えば,問題3,問題9は三角形の相似条件を使って証明できる問題であり“証. 明方法”において類似している。問題2,問題3,問題8は問題の“場面”が三角 形である点で類似している。問題1,問題2,問題7は証明する内容が辺の長さの 相等に関する問題で“証明内容”が類似している。筆者が設定した3つの観点から の問題の分類は表2のようになる。. 表2 仮定した3つの観点からの問題の分類 証明方法. 場面. 証明内容. {1,2,4,5,7}. {1,4,5,7,9}. {1,2,7}. {3,9}. {2,3,8}. {3,10}. {6,10}. {6,10}. {4,9}. {8}. {6,8} {5}. ※調査手順 調査時期は、. 1994年12月、調査に要した時間は調査Aが30分、調査Bが. 一29一.
(32) 40分である。調査の実施にあたっては調査Aの終了後、調査Bに進むという方法 をとった。ただし、調査Bは調査Aの2時間後に実施した。. (3)結果と考察. 調査Aで問題を分類した後、問題1の証明問題を解かせたが、完全な証明ができ. た生徒は16人、途中までの証明ができた生徒は28人、無答あるいは証明になっ てない解答をした生徒は18人であった。途申までの証明は、合同条件が少なくと も一つ解答に含まれているものを基準にした。以下、完全な証明ができた生徒をA. 群、途中までの証明ができた生徒をB群、それ以外をC群と呼ぶことにする。 図7は、被験者群の分類の結果と筆者が仮定した問題の分類(表2参照)との一致 度(渡辺,1988)を示したものである。. 〈証明方法〉 6. 6. 6. −5. 5. 5. 致4. 4. 4. 度3. 3. 3. (%)2. 2. 2. 1. 1. 1. A群B群C群. A群B群C群. A群B群C群. 図7 仮定した問題の分類との一致度 また、被験者の分類のようすを詳しく調べるために、A群とB群、C群のクラスタ ー分析(Jo㎞son,1967)を行った。. 一30一.
(33) A群のクラスター分析の結果を示すと以下のようになる。. “場面”. 口. “証明内容”. “証明方法”. 1. 平行四辺形. 辺の長さが等しい. 合同条件,補助纏,平行縁の性質●.●・●・●●●●●. 4. 四角形,向かい合う辺. 平行四辺形になる. 合岡条件,補助練,平行纏の定義や性質・・・・…. 7. 長方形,. 辺の長さが等しい. 直角三角形の合同条件,長方形の定義や性質・…. 2. 二等辺三角形,等しい辺. 辺の長さが等しい. 合同条件,二等辺三角形の定義や性質●●・●●・・。・. 5. 平行四辺形. 角の大きさが等しい. 合同条件,補助練,平行四辺形の定義や性質●…. 3. 三彫,辺の比. 平行である. 盤難:灘:葡繭1磁::]. 9. 四彫,中点. 平行四辺形になる. 6. 四角形,円,内接,. 魚の和が180。である. 1. 2円,外接,三角形. 平行である. 8. 三角形,3辺の長さ. 角度が90。である. ●. ●●. ●・. 灘:1灘瀦lll::::コ ニ等辺三角形の性質,三角形の内角の和,円麗角の定理●. およその近接度. 1. O. 5. 図8 A群の問題分類のクラスター分析. 図8から分かるように、A群の被験者は問題間の類似性の認識は問題の“証明方 法”にもとづいていると考えられる。例えば、問題1と問題4は三角形の合同を使っ て証明できるのでこれらの問題を類似問題として認識している。同様に問題7や問 題2も三角形の合同を使って証明できるので類似問題として認識している。また、. 問題3と問題9は三角形の相似を使って解けるので類似問題として認識している。. 問題6と問題10のクラスターの近接度が低いのは、現在、学習している内容が円 に内接する四角形の性質や接弦定理の途中であることから、学習が不十分であった ことによるかもしれない。問題8は円周角の定理を使っても解ける問題であるが、. A群のほとんどの生徒は二等辺三角形の性質と三角形の内角の和が180。である ことを用いて証明できる問題であるとして、問題6や問題10と解き方に関して類 似性があまりないと認識したと考えられる。. 筆者が仮定した“証明方法”による問題の分類(表2参照)との一致度は図7に見 られるように60%を越えている。次いで“証明内容”,“場面”となっている。. 一31一. o.
(34) 次に、B群のクラスター分析の結果を示すと以下のようになる。. “場面”. “証明内容”. 2. 二等辺三角形,等しい辺. 辺の長さが等しい. 1. 平行四辺形. 辺の長さが等しい. 7. 長方形,. 辺の長さが等しい. 4. 四角形,向かい合う辺. 平行四辺形になる. 9. 四彫,輔. 平行四辺形になる. 3. 三彫,辺の比. 平行である. 1. 2円,外接,三角形. 平行である. 6. 四角形,円,内接,. 角の和が1800である. 8. 三角形,3辺の長さ. 角度がgooである. 5. 平行四辺形. 角の大きさが等しい. “証明方法”. 熱i礁1灘1;ヨ 灘欝齢ll愚::] 徽1欝轍最ll::::]. 璽聖灘認1繍1巌:] 合同条件,補助纏,平行四辺形の定義や性質。。・●・・. およその近接度. 1. O. 5. 図9 B群の問題分類のクラスター分析. B群では、図9から分かるように上位群の“証明方法”の観点による問題の分類 と違って、問題間の類似性の認識は“証明内容”にもとづいていると考えられる。. 例えば、問題1と問題7は長さの相等に関する問題であるのでこれらの問題を類似 問題であると認識している。また、問題4と問題9は証明すべきことが平行四辺形 であることから1つのグループに分類している。筆者が仮定した“証明内容”によ. る問題の分類と同様に問題5は、問題6と問題8の両方にあまり類似していないと 認識している。. 筆者が仮定した“証明内容”による問題の分類との一致度はおよそ60%であり、 次いで“証明方法”,“場面”となっている。. 一32一. o.
(35) 次に、C群のクラスター分析の結果を示すと次のようになる。. “場面”. 問. “証明内容”. “証明方法”. 1. 平行四辺形. 辺の長さが等しい. 合同条件,補助綴,平行纏の性質・●・●・・●●●●・. 5. 平行四辺形. 角の大きさが等しい. 合同条件,補助縁,平行四辺形の定義や性質●・…. ●. 4. 四角形,向かい合う辺. 平行四辺形になる. 合同条件,補助練,平行綴の定義や性質。●・●…. ●. 9. 四彫,輔. 平行四辺形になる. 相似条件,中点連結定理,補助纏,平行四辺形の定義●●. 7. 長方形,. 辺の長さが等しい. 直角三角形の合同条件,長方形の定義や佳質●●・…. 2. 二等辺三角形,等しい辺. 辺の長さが等しい. 3. lll藷ll灘漏illiヨ. 三三,辺砒. 平行である. 8. 三角形,3辺の長さ. 角度がgooである. 6. 四角形,円,内接,. 角の和が1800である. 1. 2円,外接,三角形. 平行である. 灘灘ll誌lll::::] およその近接度:. 1. O. 5. 図10 C群の問題の分類のクラスター分析. C群の場合、図10から分かるように問題間の類似性の認識は“場面”にもとづ いていると考えられる。例えば、問題1と問題5は問題に与えられている図が平行. 四辺形であることから1つのグループに分類している。また、問題2と問題3は問 題に与えられた図が三角形であることから、これらの問題は類似問題として認識し. ている。問題4と問題9のように“場面”と“証明内容”の2つの観点が同時に関 連している場合は、どのクラスターと近接度が高いかによって調査結果を解釈した。. この場合は、問題1と問題5のクラスターとの近接度が高いことから“場面”によっ て分類したと考えられる。. 筆者が仮定した“場面”による問題の分類との一致度は、およそ60%であり、 次いで“証明内容”,“証明方法”の順になっている。. 以上見てきたように、証明問題の分類に関して、A群、 B群、 C群の間に違いが. 見られた。A群は問題の“証明方法”の観点から問題を分類する傾向が見られた。 このことは、A群は“証明内容”や“場面”の違う問題に対しても“証明方法”が 類似している問題であれば、それらを類似問題として認識すると考えられる。 B群の場合、全体的には、 “証明内容”の観点から分類する傾向が見られた。こ. 一33一. o.
(36) うした傾向は、生徒が行う自然な傾向かもしれない。なぜなら、証明問題の指導に おいては“証明内容”に着目させるような指導は、一般によくなされているからで ある。. C群の場合、全体的には、 “場面”の観点から分類する傾向が見られた。証明問 題の“証明内容”や“証明方法”はあまり意識されていない。証明問題においては、. 問題に与えられた図が類似していても“証明内容”や“証明方法”は違う場合が多 い。このことから、 “場面”をもとに問題問の類似性を認識しても証明問題を解決 する能力はあまり養われないと思われる。少なくとも、 “証明内容”に着目させる ことが必要であると考えられる。. 次に証明能力あるいは問題の類似性の認識の観点と生徒が作った問題との関係を. 調査Bの結果をもとに考察する。問題1に関して生徒が作った類似問題を場面と証 明内容をもとに分類した結果は表3の通りである。. 表3 作った問題の種類とそれぞれの群の人数 証 明 内 容. 場 面. ①平行四辺形 ∠A=∠C,∠B罵∠D,∠A+∠C=∠B+∠Dなど ②平行四辺形 △ABD…≡△CDB,△AOD≡△COBなど ③平行四辺形 AB//DC, AD//BCなど ④平行四辺形 ⑤平行四辺形 ⑥. △ABD=△CDB,△AOD=・△COBなど AO=CO, BO=DOなど 与えられた証明問題の逆. ⑦平行四辺形 各辺の中点を結んでできる四角形は平行四辺形である。. A B. C. 16 28 15 7 3 14. 9 0. 1. 4. 8 5. 11. 3 6 0. 1. 1. 1. 0 0 0 0 7. 2. 4. ⑩平行四辺形. AD〃EF〃BC. ⑪正方形,長方. AB=DC, AD=BC. 3. 0 0 0 2. ∠A=・∠C,∠B=∠D. 1. 4. 1. 5 2. 0 0. ⑮2等胃三角 ∠B=∠C. 1. 1. ⑯正三角形. 1. ⑰等脚台形. ∠A=∠B=∠C AC=・BD. ⑱円. 内接四角形の向かい合う角は180。. 1. 0 0 0. 1. 4. 0 0 0 0 0 0 7. ⑧平行四辺形. ∠A+∠B+∠C+∠D=360。. ⑨平行四辺形 4っの角あるいは辺を等しくするとどんな四角形になるか. 2 1. @菱形など ⑫正方形,長方. @菱形など ⑬. ⑭台形. ⑲. ②,③,④の逆. △AOD。。△COB. 1. その他. 一34一.
(37) 生徒が作った問題の総数は、A群が69問題で1人平均およそ5問題、B群は78 問題で1人平均およそ3問題、C群は37問題で1人平均およそ2問題であった。 問題づくりが初めてであったが、いろいろな視点から問題を作ろうとしている傾向 が見られる。しかし、問題の中には、解くことが不可能な問題も何回か含まれてい る。. 生徒が作った問題の種類を見てみると“証明内容”(長さの相等)を変えて問題 を作った生徒がどの群も多かった。中でも、角の相等を証明する問題を作った生徒 はどの群でも最も多かった。与えられた証明問題から、問題づくりをするとき“証 明内容”を変えた問題が作りやすいと考えられる。. 各群が作った問題を見てみると、表3から分るように、A群の場合、①の角の相. 等の証明問題(例えば、平行四辺形ABCDで,∠A=∠C,∠B=∠Dを証明せ よ。)が16人で最も多く、次いで②の合同の証明問題(例えば、平行四辺形AB. CDにおいて対角線ACを引いたとき,△ABD≡△CBDを証明せよ。)が15 人、⑤の対角線の長さの相等の証明問題(例えば、平行四辺形ABCDで, AO= CO, BO ・= DOを証明せよ。)が8人、⑥の逆の証明問題(四角形ABCDにお. いて,AB−DC, AD=BCならば,四角形ABCDは平行四辺形になる。この ことを証明せよ。)が5人となっている。このことは、A群が、①や⑤のような “証明内容”を変えた問題だけでなく、②や⑥に見られるような与えられた証明問. 題の“証明方法(解決に使われている知識)”や“解いた結果(定理)”を使った 問題を作る傾向があることを示している。. B群の場合も、①の角の相等の証明問題が28人で最も多く、次いで③の平行四. 辺形の対辺の平行の証明問題(例えば、平行四辺形ABCDで, AB〃DC, AD //BCを証明せよ。)が14人、⑤の対角線の長さの相等の証明問題が11人、② の合同の証明問題が7人となっている。このことからB群は、②のような“証明方 法”を使った問題を作ることもできるが、どちらかといえば①や③、⑤のような与 えられ証明問題の“証明内容”を変えて問題を作る傾向があると考えられる。. C群の場合も、①の角の相等の証明問題を作った生徒が9人で最も多い。次いで、 ⑪の与えられた問題の図を他の図形に変えただ嫡の証明問題(例えば、長方形AB. CDで, AB=DC, AD=BCを証明せよ。)が7人、⑤の対角線の長さの相等 の証明問題が6人となっている。このことからC群は、与えられた証明問題の“証 明内容”や“場面”を変えて問題作りをする傾向があると考えられる。. 一35一.
(38) 以上見てきたように、証明問題の類似性の認識の観点と生徒が作った問題の間に は少なからず関係があることが分った。すなわち、“証明方法”の観点から問題を 分類する生徒は、問題作りにおいても“証明方法”に着目して問題作りをする傾向. がある。一方、B群やC群のように“証明内容”や“場面”の観点から問題を分類 する生徒は、問題作りにおいても“証明内容”や“場面”などの問題の表面的な特 徴に着目して問題を作る傾向がある。. これらの結果から実際に生徒に問題を設定させる場合、与えられた問題の表面的 な特徴だけでなく、問題の証明方法(解決に使われている知識)、あるいは問題を 解決することによって導かれた図形の性質や定理などを活用した問題も作れるよう な指導が必要であることが示唆される。. 本章では、証明問題の類似性の認識の観点についての調査と問題設定の調査をも とにして、証明問題の類似性の認識の観点を明らかにし、そして、証明能力あるい は類似性の認識の観点と問題設定の関係について考察した。ただ、問題の類似性の 認識の調査に用いた問題の適切さ、生徒が解いた問題の数や種類、被験者の違いな どは調査の結果を左右すると思われるので、更に検討する必要がある。. 第3章では、問題設定の2つ目の意義である「創造性の育成」に関連して、創造 性と問題設定の関係について考察する。. 一36一.
(39) 第3章問題設定と創造性の関係 本章では、第1章で問題設定の意義の2つ目にあげた「創造性の育成」に関連し て、前章で述べた問題設定の調査をもとにして、証明能力と創造性の関係について 考察する。まず、§1では、数学における創造性の概念について述べる。次に、§2 では、皿aylockの先行研究をもとに、数学学習において創造性が発揮される場面に. ついて考察する。§3では、数学学習における創造性の評価方法について、Balka らの先行研究をもとに考察をする。そして、§4では、実際に生徒によって設定さ れた問題をもとに創造性の評価を行う。. §■創造性の概念 創造性の定義は、人によってさまざまであるが、教育心理学辞典(辰野千寿,高 野清純,加藤隆勝,福沢周亮編,1989)にある次の定義が一般的である。. 《創造性とは、新しく、しかも価値あるものを作り出す能力。創造的思考とそ の背後にある創造的人格を含んでいる。思考の流暢性、柔軟性、独創性など がその特徴としてあげられる。》(p.255). これは、創造性についての一般的な定義であるが、Jensen(1973)は数学における 創造性を次のように定義している。. 《数学における創造性とは、数学的なシッエーションが図やグラフ、問題など. の形式で与えられたとき、自分自身の新しい方法でさまざまな多くの質問 (question)を作る能力である。》(p.61). これらの定義をもとに、本研究では数学おける創造性を次のように定義する。. 『与えられた場面や問題をもとに、既有の数学的知識を使って新しい、しかも 価値ある問題を作り出す能力である』. ところで、上記の創造性についての一般的な定義にあるように、創造性は創造的 思考とその背後にある創造的人格を含んでいる。恩田(1971)は》創造的思考は発散. 的思考(拡散的思考とも言われる)と収束的思考(集中的思考とも言われる)が統 合されたものととらえている。発散的思考とは与えられた、限られた少数の情報か ら、新しいさまざまな着想、情報を生み出すときに中心となる思考である。たとえ. 一37一.
(40) ば、答がいくとおりもあるオープンエンドな問題を解いているときは発散的思考が 中心になっている。また、収束的思考とは与えられた情報からあらかじめ定められ た妥当な情報を導き出すときに中心となる思考である。たとえば、答が一つに限定 されたクローズドな問題を解いているときは収束的思考が中心になっている。 申山(1989)は、創造性の発揮には発散的思考が欠かせないものであるとしてその 理由を次のように述べている。. 《発散的思考は知識の組み合わせを担当しており、新奇な発見がそれによりな されるからである。逆に収束的思考は理論的な思考であり、新奇なことを生 み出す可能性は少ない。しかし、創造性を発揮するにはある程度の収束的思 考も必要である。》(p.15). 恩田は、創造性の人格特性すなわち創造的人格として、自主性、自発性、熱中性、. 積極性、冒険性、固執性、機敏性、興奮性、精力性、自己主張、決断力、関心の広 さ、好奇心、好みの複雑さ、あいまいさ、寛容さ、解放性、攻撃性、支配性、独立 性、自己統制、柔軟性などをあげている。そして、創造性は創造的思考と創造的人 格の総合的概念としてとらえられると述べている。以下では、創造的思考をもとに して数学における創造性について考察する。. Guilford(1959)は、創造性の発揮には、創造的思考の中でも発散的思考が重要で. あることを指摘している。また、彼は発散的思考の特性として、多くのアイディア を生み出す思考すなわち流暢性、異なった種類のアイディアを生み出す思考すなわ ち柔軟性、他の人が生み出すことがまれなアイディアを生み出す思考すなわち独創 性などをあげている。これらの特性は、先に引用した、教育心理学辞典にみられる 創造的思考の特徴と一致している。. これらのことら考えると、創造性は主として発散的思考が中心になっている場面 において発揮され、その特徴として、流暢性、柔軟性、独創性といったことがあげ られる。. 一38一.
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