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問題解決と問題設定の思考過程

ドキュメント内 数学学習における問題設定の研究 (ページ 56-74)

 本章では、第5章で述べる 問題設定を生徒に促進させるための手だでを明ら かにすることを目的に、証明領域を対象にして問題設定での思考過程について考察 する。第1章で述べたように、問題解決と問題設定は不可分の関係にある。そこで、

§1では問題解決の思考過程について考察する。問題解決の思考過程については、

SilverやGreenoらの先行研究をもとに考察する。§2では問題設定の思考過程につ いて考察する。そこでは、まず問題設定の調査をもとに、生徒によって設定された 問題め分析をすることで、生徒が問題設定をするときに使っている問題設定方略が、

①What if not方略②Solution方略③Proposition方略の3つのパターンに分類で きることを明らかにする。次に、それぞれの方略での思考過程について考察する。

§■問題解決の思考過程

 Polya(1957)は、問題解決の過程を「問題を理解すること」、「計画を立てるこ と」、「計画を実行すること」、「振り返ってみること」の4つの段階に分けてい る。また、Polyaと同じように、 Schoenfeld(1987)も問題解決の過程について「問 題を分析(理解)すること」、「計画を立てたり、探求すること」、 「計画を実行 すること」、「検証すること」の4つの段階を示している。

 以下では、これら4つの段階に沿いながら証明問題を解くときの思考過程につい て考察する。

 PolyaやSchoenfeldが示したように、問題を解くために、まず行われなければな らないことは「問題を理解する」ことである。Silver(1987)は、問題解決は与えら れた問題に対する問題解決者による問題表象の構成、及びその変容過程であると述 べ、問題解決は問題表象の構成から始まるととらえている。また、Greeno(1987)は、

「理解」とは対象についての何らかの表象を作り上げていく構成過程であると述べ ている。すなわち、問題解決過程の最初の段階である「問題を理解する」とは、問 題表象を構成することである。我々が「問題を理解した」と言うときには、少なく とも適切な問題表象を、自分の既有知識と問題に含まれている情報をもとにして構

成したことを指している。したがって、問題の解決過程は、問題解決者がどのよう な問題表象を構成するかによって違ったものになる。適切な問題表象が構成された ときは、問題解決は非常にやさしくなり、逆に、間違ったあるいは不完全な問題表 象が構成されたときは、問題解決は難しくなったり、不可能になったりする。

 これらのことについて、次の問題をもとにして考えてみる。

問題 △ABCと△ECDとは,ともに正三角形で,線分BCの同じ側にあるとき,

  AD=BEであることを証明せよ。

 この問題に与えられた条件は、△ABCと△ECDとは、 A

      E

 (1)ともに正三角形である。

 (2)線分BCの同じ側にある。

の2つの条件である。       B   C

 この問題は、普通、上の(1)、 (2)の条件を満足す る右上に描かれた図のような内容をもつ問題表象を構成す ることによって、証明することができる。

(描かれた図が構成された問題表象、すなわち、問題の理 解内容を表していることの説明は後述する。)

しかし、右に描かれた図のような内容をもつ問題表象を   A        D

構成した場合はどうだろうか。

この図も(1)、(2)の条件の両方とも満足している

が、△ABCと△ECDの対応する点の順序が違ってい B   C

るため証明ができなくなってしまう。

D

E

 このように、構成される問題表象によっては、証明が不可能になったりするので

ある。

 ところで、問題解決者がどのような問題表象を構成するかは、その人がもってい る知識の量や質による。もし、我々が与えられた問題領域の不十分な知識しかもっ ていなければ、不完全な問題表象が構成され、したがって与えられた問題を適切に 解決することはできないであろう。

 以上のような考えをもとにして具体的に、次の幾何の証明問題の理解、すなわち 問題表象の構成について考えてみよう。

例題二等辺三角形ABCでAB=ACとする。∠B,∠Cの二等分線がAC.

   ABと交わる点をそれぞれD, Eとするとき、 BD−CEであることを証

   明せよ。

 この問題を理解することは、問題に含まれている幾何学的対象や幾何学的対象間 の関係を抽出し、既有知識(数学的知識)を適用して問題表象を構成することであ る。この場合、問題に含まれている幾何学的対象は、 「二等辺三角形ABC」、

∠B,∠C」、 「二等分線」、「交わる点」などである。幾何学的対象間の関係は、

「AB=AC」「BD, CEは∠B,∠Cの二等分線」、「BD==CE」などであ

る。また、問題表象を構成するために適用される数学的知識は、「二等辺三角形」、

「二等分線」、「交わる点」などの概念、すなわち「二等辺三角形とは2っの辺が 等しい三角形である」、「二等分線とは、1つに角を等しく分ける半直線のことで ある」などの定義、あるいは「証明問題において AならばBであることを証明せ よ という形の文(あるいはその形に直した文)においては、Aが仮定(条件)で あり、Bが結論である」、「証明とは、あることがらの正しいことを、確かな根拠 をよりどころにして筋道正しく説明することである」などの証明問題の領域に固有 な数学的知識である。

 安西(1980)は、平面幾何の問題の理解過程、すなわち問題表象を構成する過程は 幾何学的イメージを構成する過程であることを示唆している。ここで言う幾何学的 なイメージとは、物理的に眼前に存在しないものについて、人の心の中に生じる表 象である。与えられた証明問題が、問題文とともにその問題状況を表す図が示され ている場合は、問題文と問題状況を表した図を対応させながら、視覚的に問題を理 解(幾何学的イメージを構成)していくことができる。中学校の教科書の幾何の証 明問題の多くは問題文とともにその状況を表す図が示されている。しかし、問題状 況が図示されていない問題の場合は、問題文に適する幾何学的イメージを自分で構 成する必要がある。いずれの場合でも、適切な幾何学的イメージを構成することが できるかどうかが、その後の問題解決の結果に大きく影響してくる。例題の場合、

最終的に構成される問題表象は、図1のような幾何学的イメージの内容になる。

       A        E/ XD

 B Nc

図12 例題の表象の例

 先に述べた問題表象を構成するために適用される数学的知識は、例題から図12 のような表象を構成するための知識である。

 ところで、図12のような問題表象がつくられたとしても、それだけで証明がで きたことにはなならない。実際に証明をするには、構成された問題表象をもとにし て証明のためのプランを立てて、そして、立てたプランをもとに証明を記述してい かなければならない。この最初の段階をプランニング、後の段階を証明の実行と呼 ぶことにする。実際に証明を行っているときには、この2つが交互に現われる。つ まり、生徒は少しプランニングをして証明の一部を書き、困難に突き当たるともう 少しプランニングをし、さらに書き進むというように証明を行っている。

 証明問題の解決過程におけるプランニングの方法には、「トップダウン的な方法」

と「ボトムアップ的な方法」がある。トップダウン的な方法とは、既有知識に基づ いて、目標から解法を探索する情報処理の方法である。トップダウン的な方法は問 題解決者が持っている既有知識に依存した方法であることから「概念駆動型」とも 呼ばれる。ボトムアップ的な方法とは、主として与えられたデーター(与えられた 条件)に基づいた情報処理の方法である。ボトムアップ的な方法は与えられたデー ター・一(与えられた条件)に依存した方法であることから「データー駆動型」とも呼 ばれる。以下では、上の例題の問題解決過程におけるプランニングの方法を考えて

みる。

 下の図13の(a)は例題の図を、(b)あるいは(b )はプランを表している。

このような図をAnderson(1983)は「証明木(proof tree)」と呼んでいる。証明木は、

証明問題を解くための知識の表象内容を図で表現したものと言える。

(a)

A

D

条件(仮定)=AB ・A C,∠ABD=∠CBD,

       −BCErZDCE 結論:BD=CE

B c

(b) プラン

   BD=CE

     i

 ABDC1iiZNCEB

      /

 1辺とその両端の角の相等

−BCD=ZCBE ZDBC=−ECB BC=CB

AB=AC     AB=AC       共通な辺(反射律)

      BDとCEが∠B、∠Cの2等分線

(b ) プラン

    BD=:CE

      /

  AABDEAACE

      s

1辺とその両端の角の相等

      s>xt

AB ==AC, ZABD == −ACD, −A .= −A

iL. k .n .一 

^ .一 tT 一!)

       共通な角 与えられた条件

         AB±AC

         BDとCEが∠B、∠Cの2等分線

      矢印↓:トップダウン的な方法

矢印↑・ボトムア・プ的な方法

   図13 例題の証明木を使ったプランニングの例

 例えば、プラン(b)を選択した場合、BD=CEを証明するという目標から、

△BDC≡△CEBを証明する下位目標が設定される。そして、この下位目標は、

三角形の合同条件の「1辺とその両端の角の相等」によって達成される。この場合

の合同条件の3つの要素は∠BCD=∠CBE、∠DBC=∠ECB、BC=CB

である。このような方法は、目標(ゴール)から階層的に下位目標を作り、それら を達成することによって最終的な目標に到達することをねらう 後ろ向き な方法 であり、既有知識に基づいて、目標から解法を探索する情報処理がなされているこ

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