本章では、第1章で問題設定の意義の2つ目にあげた「創造性の育成」に関連し て、前章で述べた問題設定の調査をもとにして、証明能力と創造性の関係について 考察する。まず、§1では、数学における創造性の概念について述べる。次に、§2 では、皿aylockの先行研究をもとに、数学学習において創造性が発揮される場面に ついて考察する。§3では、数学学習における創造性の評価方法について、Balka
らの先行研究をもとに考察をする。そして、§4では、実際に生徒によって設定さ れた問題をもとに創造性の評価を行う。
§■創造性の概念
創造性の定義は、人によってさまざまであるが、教育心理学辞典(辰野千寿,高 野清純,加藤隆勝,福沢周亮編,1989)にある次の定義が一般的である。
《創造性とは、新しく、しかも価値あるものを作り出す能力。創造的思考とそ の背後にある創造的人格を含んでいる。思考の流暢性、柔軟性、独創性など がその特徴としてあげられる。》(p.255)
これは、創造性についての一般的な定義であるが、Jensen(1973)は数学における 創造性を次のように定義している。
《数学における創造性とは、数学的なシッエーションが図やグラフ、問題など の形式で与えられたとき、自分自身の新しい方法でさまざまな多くの質問 (question)を作る能力である。》(p.61)
これらの定義をもとに、本研究では数学おける創造性を次のように定義する。
『与えられた場面や問題をもとに、既有の数学的知識を使って新しい、しかも 価値ある問題を作り出す能力である』
ところで、上記の創造性についての一般的な定義にあるように、創造性は創造的 思考とその背後にある創造的人格を含んでいる。恩田(1971)は》創造的思考は発散 的思考(拡散的思考とも言われる)と収束的思考(集中的思考とも言われる)が統 合されたものととらえている。発散的思考とは与えられた、限られた少数の情報か ら、新しいさまざまな着想、情報を生み出すときに中心となる思考である。たとえ
ば、答がいくとおりもあるオープンエンドな問題を解いているときは発散的思考が 中心になっている。また、収束的思考とは与えられた情報からあらかじめ定められ た妥当な情報を導き出すときに中心となる思考である。たとえば、答が一つに限定 されたクローズドな問題を解いているときは収束的思考が中心になっている。
申山(1989)は、創造性の発揮には発散的思考が欠かせないものであるとしてその 理由を次のように述べている。
《発散的思考は知識の組み合わせを担当しており、新奇な発見がそれによりな されるからである。逆に収束的思考は理論的な思考であり、新奇なことを生 み出す可能性は少ない。しかし、創造性を発揮するにはある程度の収束的思 考も必要である。》(p.15)
恩田は、創造性の人格特性すなわち創造的人格として、自主性、自発性、熱中性、
積極性、冒険性、固執性、機敏性、興奮性、精力性、自己主張、決断力、関心の広 さ、好奇心、好みの複雑さ、あいまいさ、寛容さ、解放性、攻撃性、支配性、独立 性、自己統制、柔軟性などをあげている。そして、創造性は創造的思考と創造的人 格の総合的概念としてとらえられると述べている。以下では、創造的思考をもとに
して数学における創造性について考察する。
Guilford(1959)は、創造性の発揮には、創造的思考の中でも発散的思考が重要で あることを指摘している。また、彼は発散的思考の特性として、多くのアイディア を生み出す思考すなわち流暢性、異なった種類のアイディアを生み出す思考すなわ ち柔軟性、他の人が生み出すことがまれなアイディアを生み出す思考すなわち独創 性などをあげている。これらの特性は、先に引用した、教育心理学辞典にみられる 創造的思考の特徴と一致している。
これらのことら考えると、創造性は主として発散的思考が中心になっている場面 において発揮され、その特徴として、流暢性、柔軟性、独創性といったことがあげ
られる。
§2数学学習における創造性
生徒の創造性を育成するには、授業において創造性が発揮できるような場が与え られなければならない。しかし、従来、しばしばみられた教師主導型の授業の中で は、生徒が創造性を発揮するような場はあまり与えられていなかった。
Haylock(1987)は、数学学習における創造性は問題解決、問題設定、逐次明確化 の3つの場面で顕著に発揮され、また、こうした場面で創造性を評価することがで きると述べている。以下ではこれら3つの場面における創造性の発揮について述べ
ていく。
(1)問題解決における創造性
問題解決の場面における創造性の発揮には、与えられたクローズドな問題からい ろいろな解法を見つけていく方法と与えられたオープンエンドな問題からいろいろ な答を見つけていく方法があると考えられる。クローズドな問題とオープンエンド な問題の違いは、問題解決の結果(答)がクローズドであるか、オープンであるか ということであり、与えられた問題の解法がオープンであることに関しては共通し
ている。
生徒が自分の能力に応じていろいろな証明方法を見つけていくことができるクロ ーズドな問題の例として次のような証明問題が考えられる。
問題1 5角形ABCDEの内角の和は5400であることを A
vuist:firkz ffBAttatoC D
この問題を解決するときのように、生徒が既有の知識を使って多様な解法を見つ けていくことができる探求的な問題解決活動の場を与えることは、創造性の発揮の ために必要なことである。この問題は普通、図10の(1)のように1っの頂点か
ら出る2本の対角線によって、3個の三角形に分け、三角形の内角の和が180。
であることを使って証明される。他の証明方法として図1の(2)、(3)、(4)
ように線を引く点の位置を辺上、内部、外部などに取って証明することができる。
(1) A (2) A
心EB◎E
c D
(3) A
C D C
図10 問題1の証明方法
(4) A
B諭EB〈㌶
この場合は、解法(証明)の量と種類、すなわちどれだけ多くの証明方法を考え 出すことができるかが創造性の特記である流暢性や柔軟性と関わってくる。例えば、
線を引く点の位置を頂点だけでなく、辺上に取ったり、あるいは内部や外部に取っ たりして証明する生徒などは、証明のアイディアの量や種類が多いという意味で流 暢性や柔軟性が高いと言えるだろう。また、他の生徒があまり気付かないような解 法が独創性と関わってくる。例えば、上の図の(4)などの方法で証明する生徒の 独創性は高いと言えるだろう。
オープンエンドな問題として、島田(1977)は関係や法則を発見する問題、分類す る問題、数量化する問題の3種類をあげている。証明問題でよく見られる関係や法 則を発見するオープンエンドな問題は、結論の部分を伏せて、そのかわりに「…
・の間にはどんな関係があるか」という問いに書きかえることで作ることができる。
次のような問題は関係や法則を発見するオープンエンドな問題と考えられる。
問題2 平行四辺形ABCDで,対角線ACとBDの交点を0とする。このとき,
線分,角,三角形の間にはどんな関係があるか。また、見付けた関係をいろ いろな方法で証明してみよう。
A . D
X
B C
この問題の特徴は、生徒がオープンな思考(自由な発想)を働かせて、図形のい ろいろな性質や定理を見付けていくことができることである。この問題では、例え ば、線分、角、三角形の間の関係として,AB=CD, AD ・= BC,∠A==∠C,
∠B=∠D,△ADO≡△CBO,△ABO≡…△CDO,△ADO=△CBOなど
を見付けることができる。この場合、見付けた関係の量、あるいは見付けた関係の 証明方法の量が流暢性と関わってくる。また、どれだけ多くの種類の関係を見付け
出すことができるか、あるいは証明方法の質などが柔軟性と関わってくる。例えば、
AB〃CD, AD〃BCは2つとも流暢性に関わっていくが、2つとも 線分の平
行の関係 で同じ種類であることから柔軟性としては2つで1つとして見なされる だろう。また、他の生徒があまり気付かないような関係や証明方法を見付け出すことができるかが独創性と関わってくる。
(2)問題設定における創造性
問題設定の場面における創造性の発揮にも2つの方法があると考えられる。1つ は与えられた場面から問題を設定していく方法であり、もう1っは与えられた問題 を解決した後で、その問題から新たな問題を設定していく方法である。次の例は、
与えら乳た場面から証明問題を設定していく場合の場面の与え方の例である。証明 問題を設定する場合、与える場面としては場面(図)、証明内容、証明方法(解き 方)あるいは定理などが考えられる。
例1 右の図から思い付く証明問題を いろいろ作って下さい。(図)
A N
B C
例2 2つの角度の相等を証明する問題を作って下さい。 (証明内容)
例3 三角形の合同条件(3辺がそれぞれ等しいとき)を使って証明する問題を作っ て下さい。(証明方法)
例4 2等辺三角形の底角の定理を使って証明する問題を作って下さい。 (定理)
例1の場合、与えられた図のさまざまな属性(線分や角、面積の相等、あるいは 三角形の相似の関係など)に着目しながら問題設定をすることができるb例えば、
与えられた図の線分の関係に着目した場合、「MN〃BC, MN ・O.5BCを証 明せよ。」などの問題を作ることができる。この場合、どれだけ多くの問題を設定