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立法論の観点からみた物権行為と中国民法

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(1)立法論の観点からみた物権行. と中国民法. 襟. 建遠. (市川英一. 訳). 日本国横浜国立大学国際経済法学研究科円谷峻教授は,民法の領域に造詣が 深く,かつ中日両国の民法学の交流に一貫して尽力してこられた。とりわけ, 横浜国立大学国際経済法学研究科と清華大学法学院との協力に情熱を注いで大. きな成果を収められ,敬服に耐えない。私個人も円谷唆教授から数々のご配慮 を受け,大きなご助力を賜り,このことに私はたいへん感激し,心に銘記し続 けてきた。. このたび円谷峻教授が栄誉ある退職をされるという報に接して,無限の感慨. が心に沸き起こり,小文を献上して,気持ちを表す次第である。 雀. 建遠. 2005年12月25日. (目次) -. 二. はじめに. 物権行為肯定論に対する7つの疑問 1客観的な存在の境界付けと立法の客観的存在に対する態度 107.

(2) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月) 2. 物権法と債権法および物権と債権の二つに分けることは,必然的に物権行為 を生ぜしめるものか?. 3. 債権法上の当事者の意思は物権変動を生ぜしめる効果意思ではなく,物権行 為があって物権変動を含む効果意思となるのか?. 三. ー. 4. 所有権留保は物権行為の付帯条件以外にはなり得ないものか?. 5. 譲渡担保は物権行為と解釈するほか道はないのか?. 6. 同時履行の抗弁権の有無に対する影響をどのように取り扱うか?. 7. 取引の安全の必要性は?. ・. 結語. はじめに. 立法論の観点からみて,中国の物権法典もしくは民法典の制定に際し,物権 行為制度を確立すべきか否か?. 論争は俄烈を極めている。これは,民法学ひ. いては法哲学上の様々な問題にかかわることである。立法は,耽美主義を実行 すべきか,それとも実用主義を実施すべきか?. 客観的な存在を直接反映させ. るべきか,それとも選択の余地もしくは融通を利かせる余地を残すべきか?. 「内容は深いが表現はごくわかりやすく」するべきか,それとも複雑になるの をいとわないべきか?. ドイツ民法の物権行為理論のみを認める道を選ぶべき. か,それともローマに通じる・道を承認すべきか?一等々の問題が存在する。 これらの一つ-つの疑問について,回答が与えられなければならない。. 物権行為肯定論に対する7つの疑問 1客観的な存在の境界付けと立法の客観的存在に対する態度 物権の放棄,債権の放棄,知的財産権の放棄等の現象は,それぞれに相違が あるものの,法律行為の側面において,同一の本質を有するものである。叙述 をわかりやすくするため,本稿では,債権の放免知的財産権の放棄等の類型 はしばしわきに置き,物権の放棄のみを討論の対象にLしたい。 108.

(3) 立法論の観点からみた物権行為と中国民法. これにつし.、て,物権行為肯定論者は次のように主張する。物権の放棄は客観 的に存在することであり,すなわち物権行為は客観的な存在であるから,立法 がこれを承認しないのは明らかに不当であると。こうした見解についていかに 認識すべきか?. なるほど,物権の放棄は客観的に存在することではあるが,. 物権の放棄が物権行為を構成するというのは,客観的な道理であろうか?. 物. 権行為が人為的産物であり,ある種の理論であり,ある種の法律制度であると すれば,結論は必ずしもそのように単純なものとはならない。 法律行為は,法律が意思表示を承認することにより,法的世界において,行 為者が欲する法的判断を実現することである1)。法概念は,生活に対する抽象 化であって生活そのものではなく,意思表示および法律行為制度も,法律の現 実生活に対するある種の抽象化であって,規範の側面に属するものである2)。. 取引の過程において存在する物権変動をめぐる意思的要素は,民法の世界にお いて,必ず自らの居場所を見出せるとは限らない。立法者の選択は多様であり, これらの意思的要素を無視することもできれば,これらの意思的要素に法的意 義を付与することもできる。さらには,実際には意思的要素のないとこZ,に当 事者の意思を擬制して,これに法的意味を付与することも可能である3)_。そう だとすれば,立法者は,物権等の放棄を物権行為という法制度として抽象的に 設計することもできれば,そのような抽象化を行わずに,.こうした現象を法律 行為としてのみ設計し,もはや「物権行為」か「債権行為」かの区別を行わな いことも可能である。後者の案を採用する場合には,. 「物権の放棄は物権行為. であり,客観的な存在ですらある」ということはできない。 実際,立法論上,法律およびその理論が物権放棄の性質を法律行為としそこ. でとどめるか,それともそれを基礎にしてさらに物権行為として境界付けする かということは,法律行為理論を更に細分化すべきか否かの問題であって,是 非の問題ではない。民法上すでに物権行為理論が採用されているという背景の 下で,物権の放棄が物権行為を構成することを承認するか否かという問題が,. 正誤問題となるのである。そうでなければ,以下の現象を解赦することは困難 109.

(4) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). である。. ① 「故意」 「過失」は「客観的存在」であるが,結果責任が原則の時. 代においては,それらに関する理論は存在せず,法律もそれらを行為者に法的 責任を負わせるための帰責事由とはしていない。. (参「地役権」 「居住権」等は. 「客観的存在」であるが,わが国の物権法ではそれらは物権として規定されて いない背景の下では,それらは物権ではなく,大半は債権である。. ③契約,遺. 贈等は客観的存在でありかつ法律行為とされなければならないが,法律行為理 論が生まれるまでは,立法例もしくは学説中に契約もしくは遺贈の概念がある か否かにかかわらず,. 「法律行為」の範時には入らない。. ④一組の男女が登記. を経ることなく共同生活を行いかつ愛情が深ければ,互いに配偶者とみなされ る。その実質に基づき考慮すれば「客観的に存在する」婚姻関係であるが,鰭. 姻登記という手続き要件が特に強調され為わが国の婚姻法の下では,婚姻関係 は存在しない,等々。. なるほど,立法に規定がない制度についても,理恵上詳しく説き明かすこと は可能である。ただし,こうした解明は,解釈面で現行法を適用するために行 われるものではなく,哲学面での仕事に属するものであって,注釈民法学では ない。民法の注釈の仕事は,現行法の規定に解釈を加え,その意味を明らかに し,それにより個別案件の解決のニーズを満たすことにある。この意味におい て,現行法は物権行為制度を承認しておらず,民法理論は法律行為をさらに債. 権行為と物権行為に区別しているとは限らない。物権行為が現行法上の制度で あることが承認されていないのだとすれば,このことは許容されなければなら ないものである。もし現行法上の制度であることが承認されているのだとすれ ば,これは民法注釈の規則に違反しており,明らかに適切さを欠く。. 2. 物権法と債権法および物権と債権の二つに分けることは,必然的 に物権行為を生ぜしめるものか? 「物権法が私法において独立した地位を有するのに鑑み,立法は,物権の取. 引という法律行為を,その体系における他の法律行為から独立させることせ促 110.

(5) 立法論の観点からみた物権行為と中国民法. す必要がある。この法律行為の独立性は,歴史的基礎を有するものである。ロ ーマ法における要式売買,法律上の引渡し(cessioinjure)および譲渡の留保, とりわけドイツ法における_アウフラッスング(Auflassung)の制度がその例で ある」 4_'。換言すれば,物権行為を承認することは,物権法と債権法および物 権と債権の二つに分けることにある5)。 この点について,筆者は次のように考える。物権と債権を区別しなノい法制に おいては,他の法律行為と区別する必要がないのは自明である。物権行為を法 律事実とする説からすれば,物権と債権を二分することにより物権行為が生じ るというのは,一定の説得力を持つ。しかし,実際上,ドイツ民法においても,. 物権行為も物権変動を引き起こす法律事募の一つにすぎず,このほかに,生産, 没収,収用,相続,取得時効,先占,建物の新築,加工,附合,混合,遺失物 拾得,埋蔵物発見等の多くの法律事実が存在する。もし債権は債権行為から坐 じることを要し,それに応じて物権も物権行為から生じることを要するという 論理に従わないというのであれば,途方もなく大きな過ちを犯すことになり, 容認することができない。それなら,生産,没収,収用,相続,取得時効,L先 占,建物の新築,加工,附合,混合,遺失物拾得,埋蔵物発見等は,なぜ物権 行為が物権変動を引き起こす法律事実として擬制されず,それらが物権変動を 引き起こすことが容認されないのか?. 実は,物権行為論者も,自らこうした. 事実を承認しているのである。すなわち,物権行為の独立性および無因性原則 は,適用面で.も一定の制約があり,すなわち,およそ当事者の意思表示によら ず成立し,効力要件が発生する物権変動,たとえば法律の直接.の規定もしくは 事実行為から引き起こされる物権変動も,物権を生ぜしめる原始取得の事由で あり,法理上,直接物権変動を生ぜしめ得る結果であり,それに物権行為の原 則は適用されないのは自明であると。 これについての筆者の考えはこうである。これは科学的な態度であるが,法 律の直接の規定,相続,事実行為等を物権変動の法律事実としているのは一部 の物権行為論者にすぎない。物権行為は通常みら れる現象ではなく,ある種の 111.

(6) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 例外的な観点にすぎず,事実に基づいて真実を求める態度ではない。なぜなら, 物権変動を引き起こす法律事実の中で,物権行為は生産,没収,収用,相続, 取得時効,先占,建物の新築,加工,附合,混合,遺失物の拾得,埋蔵物の発 見等に比べれば,個別的地位にとどまっており,むしろまれな現象であること は明らかだからである。物権変動を生ぜしめる回数を計算したとしてち,物権 行為はまれな現象である。 物権と債権を二つに分けることは,物権行為制度を確立するために前提を提 供するにすぎないものであって,必然的に物権行為を導き出すものではな}、。 すべての物権変動が物権行為を法律事実とするというのであれば,こうした理 由と論理は非常に説得力を持づものであるが,実際のところ,それほどま でに 多くの物権行為以外の法律事実が物権変動を引き起こしていることは,物権変 動が物権行為をもって法律事実としていないことの表れである。・要するに,物 権と債権を二分することには理由がある・ものの,それは非常に強固で有力な理 由ではないのである。. 3. 債権法上の当事者の意思は物権変動を生ぜしめる効果意思ではな く,物権行為があって物権変動を含む効果意思となるのか?. 法律行為に基づき物権変動が生じるためには,二つの要件を備える.ことが必 須である。第一は主観的要件であり,これは当事者による物権変動を生ぜしめ ることを願う意思表示のことである。第二は客観的要件であり,目的物が現存 しかつ特定の独立物であり,当事者に少なくとも物権変動を生ぜしめる権限等 が備わっており,客観的に物権変動を生じさせる上での障害が存在しないこと である6)。法律行為の効力は行為者が表示する意思と切り離せないものである ため7),第一の主観的要件が極めて重要である。なぜなら,売買等の契約に基 づき生じる物権変動は,物権変動を生ぜしめる意思表示を要するため,意思表. 示は効果意思と切り離せ卑いからである。物権行為の独立性および無因性の理 論からみれば,売買等の契約のような「債権行為」には,まぎれもなく,物権 112.

(7) 立法論の観点からみた物権行為と中国民法. 変動を生ぜしめる効果意思は含まれておらず,それゆえ,売買等の契約は,そ れがいかなるものであれ,物権変動を生ぜしめることができないものであるか ら,単に所有権移転義務を負う法律上の効果意思に基づきなぜ物権変動が生じ るのかというという追及がなされるであろう8)。明々白々なことであるが,売 買等の契約が物権変動を生ぜしめるとすれば,売買契約における意思表示の内 容が,何ゆえに物権変動を生ぜしめる要素となるのかという問いに対する回答 がなされなければならないのではないか?. 換言すれば,売主の効果意思は,. なぜ債権債務を_発生させる効果意思にすぎず,物権変動を生ぜしめる効果意思 とはなり得ないのか? まさにある学者が指摘しているように,売買等の契約になぜ物権変動を引き 起こす効果意思が含ま■れるかを追及することは,物権行為と債権行為を区別す るドイツ民法の発想に基づく論理的反映であり,ドイツ民法および中国台湾地 区の民法においては,、これらの追及は道理に適うものである。問題は,.わが国 の現行法の構造の下で,すなわち物権行為制度およびその理論を採用しない背 景の下で,なお中国大陸の民法に対してもこのような追及をする学者の議論は, 時宜に合わない概念法学であることを露呈しているのではないかということで ある9)。. この点について,筆者は次のように考える。物権行為制度お・よびその.理論を 採用しない背景の下では,当事者は売買等の契約を通じて物権変動を実現する ことを欲するが,その物権変動を生ぜしめる別個の物権契約は存在しないため,. 売買等の契約は物権変動を生ぜ しやるという二重の責任を担うことになる。 「売買契約は,売主が目的物の所有権を買主に移転し,買主が代金を支払う契 約のことである」という「中華人民共和国契約法」第130条の定義は,この点 を表すものである10)。売買等の契約がその任務を完了するためには,二つの道 があり得る。第一は,意思表示の領域において,売買等の契約における意思表 示には物権変動を生ぜしめる効果意思が含まれると解釈する道である。第二は, 一方では,なおドイツ民法の思考形態に従って,債権行為を構成する意思表示 113.

(8) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). には債権債務を生ぜしめる効果意思のみが含まれると解釈しつつも,他方では, ドイツ民法の物権行為理論によらずに,物権変動は契約履行の結果であると考 える道である。.特定の動産の売買契約においては,当該物の所有権移転が約定 されることにより,契約成立時に権利が移転する場合がある。日本民法につい て言えば,たとえ不動産の売買であっても,売買契約が成立しさえすれば,不. 動産の所有権が当事者間で移転し(第176条),登記は第三者対抗要件にすぎ ない11)。それゆえ,第二の道により物権変動を解釈することは法理上筋か通ら ない。第二の道により物権変動を解釈する任務を全うする場合もないわけでは ないが,法理上は任務を完遂したとは言い難い。そこで筆者は,第二の道を放 棄して,第一の道を選択したい。 なぜなら,売買等の契約における意思表示を,債権債務を生ぜしめる効果意 思のみならず,物権変動を引き起こす効果意思をも含むと解釈すれば,売買等. の契約における効果意思にも二つの構成要素一債権債務を生ずしめる効果意思 と物権変動を引き起こす効果意思-が含まれているというこ■とができるからで ある。これは以下の事実と理論のためである。. 琴-は,それが一般大衆によるこれらの契約締結に対する認識の状況に適合 していることである。一般大衆がこれらの契約締結に際して希望することは, 売買目的物の所有権等の物権を取得することである。その脳裏には物権行為の 概念などないため,これらの効果意思は自ずから物権行為における意思表示の 構成部分とはなりえず,むしろそれは売買等の契約における意思表示の構成部 分となるのである。. 第二は,取引に限って言えば,物権行為は債務の履行において技術的なもの にすぎず12),債権行為に基づき生じる債務の履行現象に対するある種の法理解 釈であり,それが物権変動を引き起こす機能を備えているというのは実は幻の 言であり,実際には債権行為およびそれにより生じる債務の履行の功績を掠め 取るものである。物権行為理論ですら,物権行為は物権的合意がなされた後に 当然に効力が生じるわけではなく,合意と同時に動産の引渡しもしくは不動産 114.

(9) 立法論の観点からみた物権行為と中国民法. 登記が完了しない限り,処分の効力は生じないことを承認しているのである。 物権的合意に拘束力があるというのは,すでに効力が生じ履行を待つだけの取 引については,まったく実益がか、。物権的合意の機能は,物権者を拘束する 点にあるのではなく,財産権の処分には必ず財産権者の自由意思に基づかなけ ればならない点にあるのである13)。物権変動は必ず債権行為とは別個の物権行 為によらなければならないという観点は,履行される契約の拘束力を軽視し,I 自然な経験上の占有の意義を重視するものである14)。われわれが売買等の契約 における息監表示を,物権変動を引き起こす効果意思を含むものと解釈すると き, 「財産権者の自由意思」は売買等の契約の中に含まれ,物権的合意による. 「財産権の処分」機能は,自然に売買等の契約の役割に変化しているのである。 観点を前に戻すと,いっそう徹底した結論が得られる。もし物権行為は物権的 合意のみで動産の引渡しもしくは不動産登記は含まれないとするならば,われ われが売買等の契約における意思表示を,物権変動を引き起こす効果意思が含. まれると解釈するとき,物権行為は売買等の契約に吸収され独立性を失い,物 権変動を確実にするのは,物権行為ではなく売買等の契約となる。もし物権行 為に物権的合意と動産の引渡しもしくは不動産登記が含まれるとするならば,. われわれが売買等の契約における意思表示を,物権変動を生ぜしめる効果意思 を含み,動産の引渡しもしくは不動産登記を売買等の契約履行の構成部分とみ なすとき,物権変動を引き起こすのは同じく物権行為ではなく売買等の契約お よびその履行である。たとえドイツ民法においても,物権行為そのものは,牽 引を行わないトレーラーのごとく,物権変動を引き起こす原動力は存在せず, 物権変動を引き起こす源泉は,実際には債権行為およびそれにより生じる債務 の履行である。. 第三に,物権行為と債権行為を区別しない中国の法制の下では,売買等の契 約は,当事者による物権もしくは/および物権の価値に相当する権利の取得と いう二重の任務を独自に負っており,それらが物権変動を引き起こす唯一の法 律事実(特定の動産売買においては,当事者による契約締結の約定時に当該動 115.

(10) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 産の所有権が移転する),もしくは法律事実を構成する重要な構成部分■. (不動. 産売買においては,売買契約,当該契約の履行および登記がセットとなって,. 当該不動産所有権が移転する)となっているのである。フランスおよび日本の 民法においては,売買等の契約は,当事者間で物権変動を引き起こす唯一の法 律事実である.これらの制度背景の下では,物権変動を,生ぜしめる当事者の効. 果憲一即ま,売買等の法律行為における意思表示の中にのみ繰り入れられ,それ 以外のところには組み込まれない。そこで,必然的に,売買等の契約における 意思表示の中に,物権変動を含む効果意思が表れるのである。 第剛こ,物権行為制度■ぉよびその理論を採用せず,売買等の契約を物権変動. ■を引き起こす法律事実もしくはその構成要素の一つとするのであれ∈ゴ,そのう ちの効果意思が債権債務を生ぜしめる効果意思に限定される理由はない。観点 を変えて言えば,売買等の契約における意思表示は,債権債務を生ぜしめる効 果意思を含むこともできるし,債権債務を生ぜしめる効果意思と物権変動を引 き起こす効果意思を同時に兼ね備えることもできるのである。哲学の観点から 見れば,この間題に関してドイツ民法が採用するのは「分析」的手法である。. すなわち,一つの取引を一つの債権行為(売買契約)とこらの物権行為(売買 目的物の所有権移転行為と代金の所有権移転行為)に分解し,同時に効果意思 -も債権債務を生ぜしめる効果意思と物権変動を引き起こす効果意思に分解し, ・かつそれぞれを分割して,債権債務を生ぜしめる効果意思を債権行為の中に操 り入れ,物権変動を引き起こす効果意思を物権行為の中に組み込むのである。. これと異なり,中国民法が採用するのは「総合」的手法で奉る。すなわち,一 つの取引を一つの法律行為と捉え,例えば一つの売買契約は,債権債務を生ぜ しめる効果意思と物権変動を引き起こす効果意思が一括して一つの法律行為の 中に組み込まれたものである。ドイツ民法の物権行為理論を用いて事物を観察 -する基準によらなければ,中国民法のこうした手法は何ら筋の通らぬ点はない。 こうした解釈の道については,物権行為の区別原則と物権行為の抽象原則を完 全に擁護し唱道するドイツの民法学者ウオルフ教授ですら,外国法の規定の紹 116.

(11) 立法論の観点からみた物権行為と中国民法. 介に際して,否定的態度を取っていない。. 「フランス法において,土地の所有. 権の移転は,形式を問わない合意のみにより完了し,当該合意は売買契約の構 成部分である(Art.1138,1583C.c.)。売買契約と物権的合意は分離されない。」 「イタリア法-. ・. ・土地所有権の移転は,売買契約における合意にのみによ. り生じる(抽象原則は承認せず)」. 15)。物権行為に賛成する中国台湾地区の学. 者蘇永欽教授も,英米契約法の批評に際して,反対の意を表明していない。 「一つの法律行為により無から有-と売買関係が創設され,. ・かつ直接物権移転. の効果(Translative Wirkung)が生じるのだとすれば,その唯一の合理的な説. 明は,当該法律行為は全取引をその内容とし,負担行為と処分行為の分割は存 在しないというものである。英米法における契約はまさにそのようなものであ る」. 16)0. 1811年6月1日に公布された「オーストリア民法典」は,物権変動に. おいて債権形式主義を採用し(第426条および第431条),債権を生ぜしめる意 思表示が物権変動の意思表示であり,二者は統一されており区別は存在しな_い と考えている17)。これに対し我妻条教授も,. 「物権の設定及び移転は当事者の. 意思表示のみに因りてその効力を生ず」という「日本民法典」第176条の解釈 に際して,物権変動を引き起こす意思表示と債権を生ぜしめる意思表示は完全 に同一の形式によっており,それについて外形上識別しない日本民法の下では,. 両者を区別する必要はなく,意界表示における効果意思の内容に基づき、,当事 者が願う効果意思を承認しさえすれば十分であると考える18)。物権変動におい ては物権行為の助けを借りる必要はなく,債権行為がその任に堪えうるという 点で筆者と我妻発散授の上述の観点は一致している。ただ,我妻条教授は物権 変動を引き起こす一つの債権行為の中に二つの意思表示,すなわち物権変動を 生ぜしめる意思表示と債権変動を引き起こす意思表示が含まれており,形武上 両者を区別して いないのに対し,筆者は一つの意思表示の中に二つの要素から 構成される効果意思,すなわち債権債務を生ぜしめるものと物権変動を引き起 こす.ものが含まれると主張する点に差があるのみである。言わんとしていると ころは同一に帰する。興味深いのは,すでに特定物売買契約を締結した場合に 117.

(12) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). おける我妻筆数授の意思表示の解釈に,変化が生じている点である。我妻教授 はいう。履行について特別な障害(例えば,他人物売買,無権代理人の契約に. 基づく・場合等)がな・ければ,その意思表示の中には所有権の移転を有効にする という効果意思が含まれていると,一般に解釈することが可能である19)。筆者 はこうした解釈に全面的に賛成する。ここで星野英一教授の以下の主張を取り 上げる必要がある。特定物売買においては,事情の異なる様々な人々の大半は, 観念上,債権を生ぜしめる意思と所有権を移転させる意思を結合してセットに して効果意思の中に包含して.いるので,二つの意思表示をする必要はない20)。 この見解と筆者の観点は似ており,筆者は特定物売買に限定しない点に差があ るにすぎない。高島平蔵教授も次のように述べられる。日本においては,一つ. の意思表示(債権契約)に基づき債権関係と物権変動が同時に生じると考えて, 何ら差し支えない21)。. 4. 所有権留保は物権行為の付帯条件以外にはなり得ないものか?. 多くの物権行為肯定論者は,所有権留保は物権行為?付帯条件以外にはなり 得ないものであり,すなわち,目的物の所有権の移転という物権行為は代金の すべて(または一部)の支払いを条件とするものであると考える。これに対し, 王政博士はこの見解は不当であると考える。第一に,所有権留保付売買が物権 行為に条件を付するもの条件にすぎず,売買契約そのもe)に条件は付されてい ないとすれば,買主が売主に目的物の移転を請求する権利が制約を受けず,な おこれを主張できることを意味している。これは,明らかに,当事者が所有権 留保条項を約定した当初の意図に反するばかりでなく,効力に制限を受けない 債権の請求権が何ゆえに実現することができないのかを,十分に説明すること ができないものである。第二に,物権行為に条件を付することを承認し,売買 契約に条件を付することを否認する見解は,実際上,当事者が債権契約の約定 を離れて行為を行うことができことを意味しているが,これは法理に適ってい ないことは明白である。なぜなら,物権行為は,本質上,債務の履行であるた 118.

(13) 立法論の観点からみた物権行為と中国民法. め,売買契約の中に,すでに当事者間の利益関係のすべての配置が含まれてい るからである。債務の履行(物権行為)による当事者間の利益関係の調整は, 売買契約による調整が前提となることは理の当然である22)。 わが国の民法においては,売買物の所有権の移転に際しては,引渡しもしく は登記を要する。そのうち,不動産所有権の移転は,法律の強行規範により確 定されるものであり,登記行為の完了は,物権変動という法的効果を実現させ るための要件であり,・かつ登記行為には,当事者が自由に約定する空間は存在 しか-。それゆえ,不動産について言えば,いわゆる所有権留保の特約は存在 せず,売主は自らの代金債権を実現するための担保として,所有権移転に直接 条件を付することができず,登記義務の履行に条件を付し,■これにより買主に ょる登記請求権を制限することができるのみである。動産の場合はこれと異な り,動産所有権の移転は,通常,法律の任意規範を通じて,その変動モデルが 確定されるものであり,それゆえ,当事者がこれを自由に約定する余担が存在 しており,所有権留保の特約を設けることができる。この約定は,売主が売買. 契約の約定に基づき,買主に売買目的物を引き渡すのは,売買日由物の所有権 移転義務の履行ではなく,買主が売買目的物を直接占有し,使用することがで きるようにすることを意味しているのである。売買目的物の所有権は,約定さ れた特定の条件が満たされたときに,移転するものである。買主はあらかじめ 売買目的物の占有をすでに取得しているので,この時,売買目的物の所有権は, 簡易の引渡しの方法によるだけで,これを完了することができる。以上から明 らかなように,所有権留保は売買契約の付帯条件,換言すれば債権行為の付帯 条件であり,買主が売主に売買目的物の所有権移転を請求する内容に関連する 部分に条件を付することでもある23)。 もしわれわれが停止条件付法律行為を,停止条件が成就する前■にすでに法的 効力が生じており,履行の効力は停止状態にあるだけで,付された停止条件が 成就した時に履行の効力が生じるものと解釈するならば,所有権留保は売買契 約の付帯条件であり,もしくは債権行為の付帯条件と考えることにより,理解 119.

(14) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). がとても容易になる。なぜなら,売買契約の履行の効力は,売主の観点から観 察すれば,主として二つの面,すなわち売買目的物の占有移転と売買日的物の 所有権の移転という面において表されるからである。所有権留保の場合は,売 買日的物の所有権を移転するという履行の効力には,停止条件が付されている。 この場合,売買契約はそれが合法的に成立した時から法的効力を生じ,かつ占 有移転の履行の効力も,代金の支払いの影響を受けず,代金が全額支払われな いとき換言すれば付された停止条件が成就していないときは,売買目的物の所 有権を移転するという履行の効力は,停止状態にあるのである。 当然のことながら,こうした停止条件は,典型的な停止条件とは異なり,部 分的に契約の履行の効力を停止するものにすぎない。. 以上からわかるように,野権行為を承認しか一法制の下では,所有権留保と いう現象は,所有権留保という現象が存在しさえすればよいと説明できるもの であり,必ず物権行為制度の存在を要するという視点は,成り立ち得ないもの である。. 5. 譲渡担保は物権行為と解釈するほか道はないのか? 「ドイツ民法典」第929条の規定によれば,当事者双方が所有権移転の合意. を達成した場合,占有改定による引渡方法を採用して,目的物の所有権を債権 者に移転することにより,債権者は目的物を間接的に占有することができる。 これに加えて,当該物権行為には解除条件が付される。ひとたび債務者が債務 を履行すれば,当該物権行為の効力は消滅し,先に移転した目的物の所有権は, 債務者に帰する。 ただし,これにより譲渡担保が存在しさえすれば,必ず物権行為制度が存在 すると考えてはならか、。例えば,わが国の法において,何ら支障なく次のよ うに設計することが可能である。すなわち,債権者と債務者は,譲渡担保契約 (・ドイツの民法学説にいう債権行為)を締結し,債務者が目的物の所有権を債 権者に移転しなければならないことを約定する。当該所有権の移転は,目的物 120.

(15) 立法論の観点からみた物権行為と中国民法. が実際に引き渡された日に生じるのではなく,当事者間の特別の約定に基づき, 占有改定の方法によ.りこれを定める。当該譲渡担保契約には解除条件が付され,. ひとたび債務者かその債務の履行を完了すれば,当該譲渡担保契約は消滅し, 目的物の所有権は債務者に帰する。当該契約に加えて,当事者双方はさらに別. の契約(ドイツの民法学説にいう債権契約)を締結し,もって債務者に引き続 き目的物を占有する権利を付与し,これにより債務者が実際に目的物を引き渡 す義務を免除するのである24)。. 6. 同時履行の抗弁権の有無に対する影響をどのように取り扱うか?. 物権行為論者は次のように弁解する。もし物権行為制度を実施しないと,法 律行為の無効もしくは取消しまたは契約の遡及的解除の場合で,当事者双方共 に履行済みのとき,受領した給付を返還する各当事者の義務は,不当利得に基 づく返還義務に属する。そこで,当事者は同時履行の抗弁権を行使し,受領し た給付を自らが先に返還することによる危険を回避して,平等の地位に立つこ とができる。もし物権行為制度を採用しないならば,有体物を給付した一方当 事者が物の返還請求権を有し,貨幣を支払った相手方が不当利得返還請求権を 有するという事態が出現し,同時履行の抗弁権を構成することができなくなり, 物の返還請求権を有する当事者が優位に立ち,不公正な状況になるおそれがあ る。これは物権行為制度がより合理性を有していることの表れである。この点 についての筆者の分析は以下の通りである。 ここで存在するのは,物の返還請求権者が手厚い保護を受けるべきか否かと いう問題である。もし物の返還請求権者が法律行為の無効もしくは取消しまた は契約の解除の場合において過失がなく,相手方に故意または重大な過失があ るならば,物の・返還請求権者が手厚く保護されることは理の当然である。 物の返還請求権者が優位に立ち,不当利得返還請求権者が相対的に不利な立 場に立つという問題については,物権行為制度でもすべてを回避することは困 難である。なぜなら,条件を関連させ,暇痕を共通にし,法律行為を一体化さ 121.

(16) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). せる方法を採用して,物権行為無因性原則の適用範囲を制限すれば,物権行為 制度を採用するか否かにかかわらず,受領した給付の返還に閲し,差異は生じ ないからである。. 契約解除に遡及力がない場合は,受領した給付の返還は,それが有体物か貨 幣もしくは役務かにかかわらず,不当利得返還請求権を構成するのみで,物の 返還請求権は生じない。以上から明らかなように,この領域においては,物権 行為制度を採用するか否かは,受領した給付の返還に閲し,差異は生じないの である。. 一方の当事者が物の返還請求権を有し,相手方が不当利得返還請求権を有し ている場合は,同時履行の抗弁権制度はまったく適用の機会がない。なぜなら, 法律行為の無効もしくは取消しまたは契約解除の場合には,受領された有体物 は占有に基づく不当利得を構成し,物の返還請求権者は同時に占有に基づく不 当利得返還義務者でもあり,この場合,占有に基づく不当利得返還請求と貨幣, 役務等に基づく不当利得返還は,同時履行の抗弁権を構成し得るからである。 視野を手続法に広げれば,貨幣を支払った一方当事者は,相手方の口座,物 品等の差し押さえ等の保全措置を講じることを裁判所に請求して,有体物を給 付した相手方が物の返還請求権を行使することによりもたらされる危険を解消 し,支払った貨幣が返還されるようにすることが可能である。 一歩譲って,たとえ上述の方法でも,なお物権行為制度を実施しないことに より給付の返還に関して存在する問題を完全には解決できないとしてち,立法 論の立場に立って,新たな制度設計をすることが可能である。すなわち,法律 行為の無効もしくは取消しまたは契約の遡及的解除の場合において,一方当事 者が物の返還請求権を有し,相手方が不当利得返還請求権を有する局面が現れ るときは,特別に同時履行の抗弁権制度の適用を承認すればよい。. 7. 取引の安全の必要性は?. サヴイニーが提起した物権行為理論の本意は,取引の安全の保護にあるので 122.

(17) 立法論の観点からみた物権行為と中国民法. はなく,法律行為に関する自説を物権法の領域においても適用させようとする にすぎないものである。しかし,学者による絶え間ない思考と分析を通じて, 次第に物権行為が取引の安全を保護する役割を備えるものとして説明されるよ うになった25)。そこで,. 「ドイツ民法典立法理由書」は,取引の安全の保護を. もって, 「ドイツ民法典」が物権行為を承認するための抽象的な理由とした26)0. いわゆる取引の安全とは,権利変動後に形成される「次の」取引に係るもの である。例えば,甲が乙に土地を譲渡し,さらに乙が丙のためにこれに抵当権. を設定する場合,この抵当権は乙による土地の売却によっては問題は生じか、 が,甲による売買の取消し,乙に対する所有権の回復請求により影響を受ける27)。 取引の安全とは,取引過程を一つの取引とすること,換言すれば物権行為の時 間的な連続性が保障されることをいい,後の物権行為が先行する物権行為の堪 痕により影響を受ければ,取引過程の連続性は破壊されてしまう。それゆえ., 取引の安全保護の要求は,可能な限り,物権行為に影響を及ぼす要素を減少さ せることである。物権行為の効力に影響を及ぼす要素を減少させるには,その 原因を排除するほか,物権行為を抽象的な法律行為とすることも,選択可能な 方策の一つである28)。しかし,コモン・ローにおいてもフランス法においても, 取引とは売買等のいわゆる「債権行為」のことをいい,ドイツ民法においても, 取引に債権行為が含まれることは承認されており,取引を物権行為としてのみ 境界付けることは,普遍性を備えるものではない。これが第一の理由である。 第二に,. 「選択可能な方策の-.つ」という命題そのものは,他の方策が存在. し得ることを承認しており,物権行為無因性による設計を採用せずに,物権の 公示に公信力を備えさせ,善意取得制度を設けることによっても,目的を達成 し得るものである。 Baur教授およびStdrner教授が指摘するように,無因性は. 法律上の虜囚のない物権変動を甘受しなければならないことを意味するのでは なく,不当利得制度により法律上の原因のない処分行為は回復されるのである29)。 黄茂条教授がいっそう明確に述べられている。. 「物権行為の無因性をいかに強. 調しても,物権行為を基礎とする債権行為その他の法律上の原因が存在しなけ 123.

(18) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). れば,物権変動は物権行為の無因性によりなお有効ではあるが,物権変動によ り利益を受ける当事者は,法律上の原因なくして利益を受けている状態となる。 こうした財産権の変動状態は,まさに不当利得制度による処理を要するもので あり,その結果,物権の無因性により生じる財産権の変動の暫定状態は,不当. 利得返還請求権の行使により,原状に復される。こうした理解の下,変動の基 礎となる債権行為その他の法律上の原因が有効に引き続き存続するか否かを考 慮する必要がないことを過度に強調して,物権の無因性に基づくことのみを強 調すれば,当該物権行為が有効でこれに基づき登記がなされれば,必ずや権利. の事実状態と適合するということになるが,これは必ずしも正しくない。けだ し,物権行為の形成は,形武上,暫定的な真実の権利状態にすぎず,実質上終 局的に確定した真実の状態ではないからである」. 30)。この観点をいっそう明ら. かにするため,引き続き細かく吟味して分析する必要がある。 第三に,物権の公示に公信力を付与し,善意取得制度を設ければ,物権行為 無因性制度による取引の安全保護機能に相当する効果を果たさせることができ るか?. 蘇永欽教授は次のように考える。. 「ドイツ民法が処分行為に無因原則. を採用することを決定したとき,この制度の機能と善意保護との重複に注意を 払っていないことは明らかである」. 31)。両者は,六つの点で,重複しない事例. が存在する。以下,簡単に紹介しつつ,必要に応じて批評を加える。 事例の第一は,譲渡人が物権を取得していないが,すでに権利の外観を有し ているというケースである。この場合,第三者は善意取得を主張できるにすぎ ず,有因無因の問題は生じない。すなわち,物権行為の無因性が適用される余 地はない32)。私見によれば,これが他人物売買の場合を指しているのであれば, わが国の「契約法」第51条の定めにより,同じ結果に到達する。 事例の第二は,譲渡時に譲渡人がすでに物権を取得しているが,権利の外観 は存在しない場合,例えばその取得方法が占有改定によるケースである。譲渡 時にはただ目的物を間接的に占有しているにすぎず,その譲渡は返還請求権の 譲渡により行われる。このとき債権行為の塀庇は無因原別によらなければ処分 124.

(19) 立法論の観点からみた物権行為と中国民法. の効力は影響を受けず,処分行為の効力は遡及的に消滅し,善意の譲受人は保 護に催する信頼を主張できなければ,それに呼応して有効に譲り受けることも. できない33)。筆者は次のように考える。その相互関係は甲か目的物を占有一乙 が目的物を譲渡一丙が目的物を譲り受けるというものであるが,中国法におい ては,売買等の契約において,塀庇があるため無効となり,取り消されまたは 追認されない場合は,譲受人は善意悪意にかかわらず,目的物め所有権を取得 することができず,売買等の契約が有効である場合のみ,目的物の所有権を取 得することができる。以上からわかる■ように,ドイツ民法も海峡両岸の民法も, 法律構成は異なるものの,最終的な結果は基本的に同じである。 事例の第三は,当該譲渡が原因行為に重大な暇庇があるため無効となり,か つ譲受人が悪意であるケースである。有因主義を採用すれば処分は無効となり, その譲渡につき譲受人に悪意があるため,善意取得することはできない。しか し,このとき無因原則を採用すれば,譲渡人の物権は原因行為の失効の影響を 受けないため,譲受人がたとえ原因行為に重大な塀痕があることを知っていた としても,・譲渡の効力は影響を受けない34)。筆者の考えはこうである。もし不 当利得制度の給付物の返還によらなければ,譲受人の保護の面で,中国民法に おける効果は疑いなくドイツ民法や中国台湾地区の民法のそれよりも弱くなる が,これは穏当である。なぜなら,法律上悪意者は保護されないからである。 ただし,不当利得制度による返還に基づく場合は,その最終的な結果は異なる。 ドイツ民法および中国台湾地区の民法においては不当利得における「利益」価 値形態であるのに対し,中国大陸の民法においては不当利得の返還は原物の返 還となろう。 事例の第四は次のようなケースである。無因原別により,取得された物権は 原因行為の張痕の影響を受けず,物権者は各種物権の権能を行使することがで き,不当利得を理由とする請求に応じて物権を返還するまでは‥その行使はい ずれも「有権」状態にある。例えば,使用,収益,妨害排除等はし/、ずれも物権 行使の形態である。これに対し,有因原則を採用して原因行為が取り消される 125.

(20) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). ときは,それ以前の行為に遡及して「無権」状態となるばかりでなく,返還前 であっても,■もはや当該物権を行使することはできない35)。筆者の考えはこう である。後半の場合は,譲受人が悪意であるときは,その結果はわが国の民法 におけるそれと同じにな・る。前者の場合は,譲受人が善意であるときは,その 結果はわが国の民法におけるそれと同じになる。 事例の第五は,債権譲渡および無体財産権(知的財産権)の譲渡のケースで ある。ドイツ民法および中国台湾地区民法はこうした処分行為について,善意 者保護の制度を完備していない。それゆえ,処分を受けた者はいずれも処分者 し子処分権がか、ことを知らない場合であっても,有効に債権もしくは無体財産 権を取得することができない。中国台湾地区民法第2'94条第2項によれば,倭 権譲渡の処分権に特約による制限が設けられているときのみ,善意の譲受人は 保護され,他の無権譲渡の場合と一体化された善意取得規定は存在しない。そ れゆえ,債権譲渡の「原因行為」に暇痕がある場合,有因原則を採用すれば当 該譲渡は無効であり,譲受人は善意者保護を受けられず,善意取得は認められ ない。物権行為の無因性によれば,譲受人は保護を受け,債権を取得すること ができる36)。わが国の民法においては,譲受人が善意であれば,知的財産権を 取得することができる。この点では差が存する。ただし,物権行為無因原別に. 基づき無体財産権(知的財産権)が取得される場合は,わが国の民法における 善意取得による場合と同じ結果になる。 事例の第六は,動産の譲受人が善意であるが,特定の考慮に基づき若干の例 外を設ける必要があるため,善意取得が認められないケースである。物権行為 の無因性を採用すれば,不当利得により動産が返還されるまで,譲受人は動産 の物権を取得する37)。筆者の考えはこうである。中国の現行法は臓物等に対す る善意取得の適用は承認しない.ことが多いため,ドイツ民法や中国台湾地区の 民法が適用する物権行為無因性による処理と異なる。さらに,善意取得制度は 悪意の第三者が取引の目的物の権利を取得する機会を排除している_。少なくと もわが国の法制上はそうである。取引の安全保護の度合いでは,物権行為無因性 126.

(21) 立法論の観点からみた物権行為と中国民法. の原則では必ずしもそうなっておらず,譲受人が善意か悪意かを問わず,取引 の目的物の権利を取得することを承認している。取引の第三者保護については, 明らかにあるべき限度を超えている。 要するに,不当利得の返還により,物権行為無因性の取引の安全保護に対す る一部機能は色あせてしまうのである。学説の中には,悪意者は物権行為無因 性により物権を取得することを主張できないと考える者もいる。このことも, その機能を色あせさせるものである。判例学説は,塀庇が共通(同一)で条件 が関連していれば,取引の安全の保護機能は色あせると主張する38)。学説は行 為の一体性を主張し,負担行為と処分行為を一体のものと説明して,. ■「一部無. 効,全部無効」,の法理により,物権行為の無因性を根本から不要にしている。 このことはわれわれに次のことを考えさせる。すなわち,コストが高く,微■々 たる効果しかもたらさない物権行為制度を採用することは,価値があることな のか?. 結語 以上述べてきた問題の他にも,吹?ような問題が存在する。 第一に,民法が物権行為の独立性および無因性を採用すると,必ずや不当利 得制度の主たる機能に変化が生じ,ドイツ民法と同じようなものになってしま う。給付に対する不当利得返還請求権は,物権行為無因性の理論により生じる 財産の変動を調整する特殊な機能を備えることになり,さらに立法者が自ら作 り出・した傷跡を治癒するために39),不当利得制度の適用範囲が大きく拡大され40), それに応じて物の返還請求権の役割領域が縮小してしまう。第二に,法律行為 の無効原因はいっそうの細分化を余儀なくされ,債権行為と物権行為に共通の. 無効原因を規定することに加えて,個別の無効原因を列挙することを迫られや。 第三に,法律行為無効による法的効果は,法律上,たびたび掛酌されることに なる。第四に,法律行為の錯誤は,債権行為によるも■のと物権行為によるもの 127.

(22) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). に区別することを要し,個別に処理レて・一つ一つ明確にしなければならない場 合も生じる。第五に,債権譲渡制度の設計に擬制の要素が加わり,ますます抽 象的なものとなる。第■六に,善意取得の性質および善葦取得とそれに基づく行 為との関係をいかに確定すべきかという問題を解決する難度が高くなる.。さら. には;契約解除の効果の法的基礎をいかに歳計すべきか等々,反省を迫られる ことが多々ある。 物権行為制度は,民法の理念・制度等に重大な変化をもたらすものであり, われわれは慎重に事を進めなければならない。. 【訳者後記】 本稿の著者在廷遠先生は,中国最高峰の清華大学法学院教授の職にあり,中国では契約法の第 -一人者としてつとに知られている。日本にもたびたび来日され,早稲田大学を始めとする主要大 学で講演され, 1998年には比較法学会で学会報告もされている。その後客員教授としてアメリ カにも渡られ,アメリカ契約法の研究に従事された。 なお,程先生が寄せて下さった原稿は大部なものであったため,紙幅の関係上,訳者の判断と 責任の下,一部編集させて頂いた。それにより原文の持つ学術性の深さと格調の高さが損なわれ ることがあるとすれば,それはひとえに訳者の責任によるものである。. 1). DieterMedicus. 『徳国民法総論』 (法律出版社・. (郡建遠訳). (中国政法大学出版社・. 2)田士永『物権行為理論研究』. 4). 2003年). 2002年). 142頁-143頁. 325頁. 『民法9人行』 (第1巻). 3)王鉄「論我国物権変動模式的立法選択」 版〔香港〕有限公司,I. 2000年). 〔在廷遠主編〕 (金橋文化出. 124貫. 「徳国民法典立法理由書」参照(田士永『物権行為理論研究』. (中国政法大学出版社・. 年) 332頁-333頁より引用) (五南国書出版公司・. 5)蘇永欽『跨越自治与管制』. 1999年). 235頁。田士永・前掲書(注4). 333頁。 『日本物権法』 (五南図書出版公司・. 6)我妻柴(有泉享補訂.李宜芥校閲) 7).蘇永欽・前掲書(注5). 1999年). 223頁. 8)同上224頁 9)王軟『物権変動論』. (中国人民大学出版社・. 2001年). 60頁. 10)こうした考え方を詳述するものとして,梁慧星「如何理解合同法第51条」人民法院報2000 年1月8日付,王秩.前掲書(注9) ll)我妻柴・前掲書(注6). 51頁-52頁. 12)王揮鑑『債法原理・不当得利』. 128. 209頁. 〔全2巻〕 (三民書局・. 1999年). 105頁. 54頁. 2002.

(23) 立法論の観点からみた物権行為と中国民法 274頁-277頁. 13)蘇永欽・前掲書(注5) 14). (末岩訳). RoffKnieper. (法律出版社・. 『法律与歴史一論(徳国民法典)的形成与変遷』. 2003. 年) 238頁 15). (呉越・李大雪訳). Ma血・edWolf. 『物権法』(法律出版社.. 2002年) 230頁. 223頁-224頁. I6)蘇永欽.前掲書(注5). 〔改訂第2版〕 (三民書局・. 17)謝在仝『民法物権論(上巻)』 18)我妻柴・前掲書(注6). 2003年) 93頁参照. 52頁-53頁. 19)同上53頁 20)同上書53頁より引用 21)高島平蔵『物権法制的基礎理論』. (敏文堂・. 1986年). 変動」 『民商法論叢』 〔第6巻〕 (法律出版社・ 22)王鉄・前掲書(注9). 69頁(陳華彬「論基干法律行為的物権. 1997年) 97頁より引用). 68頁-69頁. 23)同上70頁-71頁 24)同上71頁-72頁 25)田士永・前掲書(注2). 355頁 1980年). 26)王揮鑑『民法学説与判例研究』第1巻(三民書局・ 355頁-. 356頁. 27)蘇永欽・前掲書(注5). 238頁. 28)田士永・前掲書(注2). 356頁-357頁. 29). 284頁。田士永・前掲書(注2). (張双根訳). Baur/Sttirner. 〔増訂版〕(中国政法大学出版社・. 30)黄茂条『売買法』 31) Wiegand,. Die. 『徳国物権法』 〔上巻〕(法律出版社・. dos Sachemchts. Entwicklung. (蘇永欽・前掲書(注5) 32)蘇永欽・前掲書(注5). im. 2002年). Verhaltn由zum. 2004年). 93頁. 57貢 Schuldrecht,. Acp190 (1990). ,. S.120. 239頁より引用) 239頁. 33)同上 34)蘇永欽・前掲書(注5). 239頁-240頁. 35)蘇永欽・前掲書(注5). 240頁. 36)同上 37)同上 38) Baur/Sttirner,. Sachenrecht,. 欽・前掲書(注5) 39). Dernburg,. 書(注12). Das. 17. Aujl., S50. (田士永一前掲書(注4). 242頁-243頁。王揮鑑・前掲書(注26) Burgerliche. Recht,. Die. Schuldverhaltnisse,. 381頁より引用)。蘇永. 287頁。 Bd. II /2.4.Aufl.S.77 (王揮鑑・前掲. 26頁より引用). 40)王滞鑑・前掲書(注12). 26頁. 129.

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