Kobe Shoin Women’s University Repository
Title
近世本草書類におけるブリについて
On seriola in the Books of Natural History in Edo Period
Author(s) 島田 勇雄(Isao Shimada)
Citation 研究紀要(SHOIN REVIEW),第 9 号:182-207
Issue Date 1968
Resource Type Bulletin Paper / 紀要論文
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近
世
本
草
書
類
に
お
け
る
ブ
リ
に
つ
い
て
島
田
勇
雄
ニ ノ ヲ ス プ コ ト 巻 懐 食 鏡 (香 月 牛 山 、 明 和 三 年 刊 ) に 、 ﹁ 啓 益 按 昔 倭 俗 以 二 鱒 字 一 訓 二 布 里 ・出 処 未 レ 詳 ﹂ と あ ろ 。 師 筋 の 貝 原 益 軒 の 大 和 本 草 の 説 を 承 け た も の で は あ る が ・ 古 辞 圭 贔 を 深 く 検 す る ま で も な く ・ 古 く か ら 鰯 L の 字 享 リ と 訓 じ て い 鱒 ﹁ 鯖 ﹂ 注 2 と ﹁ 青 魚 ﹂ と に お け る が ご と く 、 分 析 以 前 と 分 析 以 後 と が 同 意 に な る の は 漢 字 の 成 立 事 情 か ら す れ ば 自 然 な 現 象 で 、 そ の 流 儀 か ら 言 え ば 、 獅 と 師 魚 ま た は 魚 師 と は も と 同 意 で あ り え た ろ う が 、 そ の 魚 師 は 明 の 李 時 珍 の 本 草 綱 目 に ば ﹁ 大 者 有 毒 注 3 殺 人 、 A ∀ 無 設 者 ﹂ と い う え た い の 知 れ な い 魚 と さ れ て い る 。 し か し 本 草 綱 目 最 初 の 入 手 者 林 羅 山 の 多 識 篇 も 通 説 の ご と く ﹁ 或 説 布 利 ﹂ と 訓 じ 、 以 後 も こ れ に 従 う も の が 見 え つ 隠 れ つ す る 。 近 世 に お け る 、 広 義 の 本 草 学 者 た ち が 、 い か に し て 中 国 に お け る 斯 学 の 影 響 か ら 離 脱 し て 独 自 の 研 究 を 進 展 せ し め て そ れ を 明 治 以 降 の 諸 学 に 引 き 渡 す か が 、 常 に こ の 分 野 で の ] つ の テ ー マ で あ る 。 い ま そ の こ と を ブ リ に つ い て 追 っ て み た い の で あ る 。 も っ と も ブ リ は 中 国 書 の 影 響 を う け る こ と の 最 も 少 な い も の の 一 つ で あ り 、 こ の 魚 の 研 究 史 は 、 そ の よ う な 条 件 下 に あ る 魚 の 研 究 史 を 追 う と い う 意 味 を 持 つ 。 わ が 近 世 本 草 学 に 最 も 深 い 影 響 を 与 え た の は 本 草 綱 目 で あ り 、 万 暦 二 年 の 刊 行 よ り 十 一 年 後 慶 長 十 二 年 に 舶 載 さ れ 、 爾 後 大 い に 行 な わ れ 、 和 刻 本 も 三 類 十 一 種 に 及 ん だ 。 そ の 本 草 綱 目 以 前 が 証 類 本 草 の 時 代 で あ り 、 わ が 国 で は 主 と し て 中 世 が そ の 影 響 下 に あ っ た が 、 証 類 本 草 か ら 本 草 綱 目 へ の 変 遷 は 、 純 医 学 書 か ら 博 物 学 的 傾 向 書 へ の 変 革 で あ り 、 こ れ を 承 け た わ が 近 世 本 草 学 の 道 は 、 一 つ に は よ り 一 層 博 物 学 的 傾 向 の 深 化 ・ 純 粋 化 に つ と め た 点 に あ っ た と 言 え る 。 始 め は 純 医 学的 に の み 説 か れ た が 、 近 世 前 期 に は 食 療 本 草 系 の 書 物 を 中 心 に 博 物 学 的 傾 向 を 次 第 に 濃 く し 、 中 期 に は 物 産 学 の 発 展 と こ れ に 続 く 名 物 学 の 進 展 を 見 、 つ づ い て 魚 類 ・ 草 木 類 等 の 各 部 門 の 研 究 の 深 化 に と も な い 、 本 草 学 全 般 の 研 究 も 深 ま り 、 本 草 学 全 般 に わ た る 著 書 も 多 く も の さ れ た が 、 な か ん ず く 重 要 な の は 各 専 書 の 著 述 が 次 第 に 多 き を 加 え て い っ た こ と で あ る 。 こ の こ と は そ の ま ま 魚 類 の 研 究 に つ い て も 言 え る の で あ る 。 本 草 は も と も と 薬 学 的 見 地 か ら の 研 究 領 域 で あ り 、 そ の 薬 功 の 記 述 い か ん も 大 切 で は あ る が 、 そ れ 以 前 に 、 そ の 薬 物 の 博 物 学 的 性 格 が 明 確 に さ れ て い な け れ ば 、 投 薬 を 誤 る 恐 れ が あ る 。 わ が 国 で 本 草 和 名 等 に よ っ て 漢 名 に 対 す る 和 名 が 熱 心 に 追 求 さ れ た 背 後 に は そ の よ う 睾 情 が あ つ 噂 本 草 綱 暴 も て は や さ れ た 理 由 の ; に は ・ こ の 書 が 蕩 学 的 記 述 に 精 し い こ と が 挙 げ ら れ る 。 と こ ろ で 本 草 綱 目 の 学 習 は い ろ ん な 形 式 で な さ れ た 。 原 文 に 返 り 点 . 送 り が な 等 を 加 え た 和 刻 本 の 刊 行 の ほ か 、 術 語 に 和 訓 を 加 え た 書 の 多 識 篇 ・ 本 草 綱 目 品 目 等 や 、 術 語 の 索 引 書 の 本 草 薬 名 備 考 ( 薬 名 備 考 和 訓 妙 ) . 本 草 綱 目 指 南 等 や 、 附 注 ・ 和 解 の 書 の 本 草 綱 目 序 註 ・ 本 草 和 解 ・ 本 草 和 解 綱 目 弁 解 ・ 本 草 病 名 解 等 や 、 辞 共 類 似 書 の 本 草 異 名 抄 ・ 本 草 異 名 考 ・ 炮 灸 全 書 等 や 、 図 解 書 と し て の 本 草 図 解 ・ 本 草 図 譜 ・ 本 草 通 串 証 図 . 本 草 魚 類 正 調 全 図 等 が 著 述 さ れ 、 次 第 に 本 草 綱 目 に つ い て の 知 見 を 深 め て 、 つ い に は 本 草 綱 目 啓 蒙 の ご と き 綱 目 全 般 に わ た っ て の 研 究 解 説 書 が 現 わ れ る に 至 る 。 更 に 本 草 綱 目 等 の 所 説 に 対 す る 疑 問 を 提 出 す る 本 草 正 調 ・ 本 草 正 正 調 . 本 草 正 正 認 刊 誤 や 、 こ れ に 洩 れ た 諸 物 に つ い て の わ が 研 究 書 名 を 挙 げ る 本 草 綱 目 補 物 品 目 録 や 、 啓 蒙 そ の も の に つ い て の 本 草 啓 蒙 名 疏 . 本 草 啓 蒙 索 引 . 本 草 啓 蒙 拾 遺 ・ 本 草 啓 蒙 補 遺 等 も 著 述 さ れ る に 至 っ た 。 魚 類 の 研 究 を 中 心 に し て 言 う な ら 、 前 期 で は 中 国 に お け る 食 医 の 伝 統 を 承 け る 食 療 本 草 系 の 諸 書 に よ る 研 究 業 績 が 著 し い 成 果 を 挙 げ 、 中 期 頃 か ら 物 産 学 ・ 名 物 学 に よ る も の の 外 魚 類 専 書 が 現 わ れ 、 専 書 は 時 代 の 下 る と と も に 多 彩 さ を 加 え て
い く 。 食 療 本 草 系 書 に は 、 能 毒 等 を 和 歌 ・ 詩 の 形 式 で 説 く 宜 禁 本 草 集 要 歌 ・ 和 歌 食 物 本 草 ・ 本 草 和 歌 能 毒 ・ 詩 本 草 等 や 、 通 俗 医 書 と し て の 日 用 食 性 (保 養 食 物 大 成 ) ・ 新 編 日 用 食 性 ・ 食 医 要 編 ・ 日 用 食 性 捷 径 ・ 食 物 和 解 大 成 ( 増 補 日 用 食 性 和 解 大 全 ) 等 が あ る が 、 本 格 的 な 研 究 書 と し て は 閲 甫 食 物 本 草 ・ 備 用 庖 厨 和 名 本 草 ・ 食 物 備 考 ・ 食 物 摘 要 ( 食 物 本 草 大 成 ) . 食 用 簡 便 . 食 物 伝 信 纂 . 食 物 知 新 . 食 療 正 要 ・ 巻 懐 食 鏡 等 が あ り 、 辞 書 的 な も の と し て 懐 中 食 性 目 録 ・ 和 漢 日 用 方 物 略 ・ 飲 膳 摘 要 ・ 食 物 能 毒 篇 ・ 日 養 食 鑑 等 が 後 期 に 行 な わ れ た 。 中 世 か ら 近 世 に か け て の 過 渡 期 に 斯 学 の 中 心 に い た の は 曲 直 瀬 道 三 ・ 玄 朔 父 子 で あ る 。 道 三 は 証 類 本 草 の み 、 玄 朔 は 本 注 5 草 綱 目 を も 参 看 し て い る が 、 こ れ も ま ず 証 類 本 草 じ こ み と 言 う べ き で あ る 。 本 草 異 名 記 ( 永 禄 五 年 刊 ) ・ 能 毒 ( 永 禄 九 年 注 6 刊 ) . 宜 禁 本 草 ( 刊 年 不 明 ) が 道 三 の 三 部 書 を な し て い た も の か と さ れ 、 外 に 美 濃 医 書 等 の 著 も あ る が 、 宜 禁 本 草 の 外 は 魚 類 に つ い て の 記 述 は 全 く な く 、 も っ て 当 時 の 研 究 対 象 の 狭 さ を 知 ら さ れ る 。 ま た 宜 禁 本 草 で は 、 本 文 の ﹁ 虫 魚 類 ﹂ に は 、 証 類 本 草 所 載 の 若 干 魚 に つ き 純 医 学 的 見 地 か ら そ の 能 毒 の み に つ き か な り 精 し い 記 述 が 見 ら れ る が 、 魚 体 そ の 他 の 博 物 学 的 記 述 は 全 く な く 、 も っ て 当 時 の 本 草 学 の 研 究 方 法 が 明 瞭 に 看 取 さ れ る 。 な お そ の 附 録 に 相 当 す る ﹁ 追 加 三 段 ﹂ の プ リ 注 7 ﹁ 虫 魚 類 ﹂ の ﹁ 上 ﹂ に ﹁ ハ マ チ ﹂ 、 ﹁ 中 ﹂ に ﹁ 蜘 ﹂ の 名 が 載 る が 、 そ れ に つ い て の 解 説 は 全 く な い 。 そ れ ら の 魚 名 の み 挙 げ る も の の 中 に は 、 医 療 的 に 本 文 所 載 魚 よ り 価 値 が 劣 る と さ れ た か ら の も の も あ ろ う し 、 中 国 本 草 書 所 説 に つ い て の 研 究 が 不 十 分 で あ っ た り 、 和 産 と 漢 名 と の 関 係 が 明 ら か で な か っ た り す る た め の も の も あ ろ う 。 ハ マ チ と ブ リ と は 同 一 魚 の 成 長 名 で あ る が 、 こ れ を 別 魚 扱 い に す る か と 考 え ら れ る 点 に へ 少 な く と も こ の 魚 に つ い て の 学 的 知 見 の 水 奮 知 蕪 惣 じ て こ の 書 に お け る こ れ ら の 記 述 か ら 、 魚 類 に つ い て の 、 医 学 的 の み な ら ず 博 物 学 的 研 究 水 準 を あ る 程 度 う か が う こ と が で き 注 9 獄 。 そ の よ う に 、 研 究 対 象 に お い て も 、 研 究 方 法 に お い て も 、 研 究 内 容 に お い て も 、 中 世 末 期 の 研 究 水 準 は さ し て 高 度 の
も の で は な か っ た 。 ブ 近 世 に は い っ て 多 識 篇 ( 林 羅 山 、 慶 長 十 七 年 成 、 寛 文 七 年 刊 、 五 巻 ) は 、 ﹁ 魚 師 或 説 布 利 ﹂ と し 、 本 草 薬 名 備 考 ( 著 者 注 10 未 詳 、 延 宝 六 年 刊 、 九 巻 ) や 本 草 綱 目 指 南 ( 著 者 未 詳 、 刊 年 未 詳 、 六 巻 ) も こ れ に 従 っ て い る 。 宜 禁 本 草 集 要 歌 ( 著 者 未 ぷ り 詳 、 刊 年 未 詳 、 三 巻 ) ・ 和 歌 食 物 本 草 ( 著 者 未 詳 、 寛 永 七 年 刊 、 二 巻 ) は 、 ﹁ 獅 ﹂ に つ き 同 歌 二 首 を 載 せ 能 毒 を 説 き 、 ま ほ ま ら に ま ち た 前 者 は ﹁ 鮫 ﹂ に 三 首 、 後 者 は ﹁ 飯 ﹂ に 二 首 、 類 歌 を 載 せ て 能 毒 が 説 く が 、 こ れ ら の 能 毒 は 本 邦 独 自 の も の で あ ろ う 。 こ れ 注 11 ら で は 、 宜 禁 本 草 に 同 じ く 両 魚 を 別 魚 扱 い に す る 点 に 問 題 が あ る 。 本 草 和 歌 能 毒 と 能 毒 や 本 草 異 名 記 な ど と の 関 係 は ま だ き わ め て い な い 。 百 科 全 書 的 な も の と し て 卓 越 し た 著 述 た る 訓 蒙 図 彙 (中 村 場 斎 、 寛 文 六 年 刊 、 二 二 巻 ) や 通 俗 医 書 の 噛 注 12 矢 保 養 食 物 大 成 ( 曲 直 瀬 玄 朔 、 寛 永 十 九 年 刊 ) に は 記 述 が な い 。 前 者 は 中 国 書 の 影 響 を か な り 受 け て い る が 、 中 国 書 に は ブ リ に つ い て 説 く こ と の な い こ と に よ る の で あ ろ う し 、 後 者 は 学 的 知 見 の 乏 し さ に よ る も の で あ ろ う 。 閲 甫 食 物 本 草 ( 名 古 屋 玄 医 、 寛 文 十 一 年 刊 、 二 巻 ) は 邦 人 の 手 に な る 最 初 の ( 食 物 ) 本 草 書 で あ り 、 著 者 は 京 都 の 人 で 注 13 ハ マ ナ シ あ る 。 一, 食 物 の 気 味 能 毒 の 記 述 を 主 と し た も の ﹂ で は あ る が 、 実 証 に も と つ く 独 自 の 見 解 が 多 い 。 ﹁ 飯 ﹂ の 項 で ﹁ 同 二 師 ニ ブ リ ヌ ハ ル コ ト ヲ 魚 一﹂ と す る の は 従 来 の 所 説 よ り 一 歩 進 ん で お り 、 ﹁ 布 里 ﹂ の 項 で 本 草 綱 目 の 魚 師 の 所 説 を 引 用 し た う え で ﹁ 則 知 蜘 魚 有 ニ ノ ヲ ニ ル フ リ ス ク る 殺 レ 人 毒 一俗 間 所 謂 布 里 非 下 有 二 甚 毒 一 之 者 上 ﹂ と す る の は 、 中 国 の 鯖 魚 と わ が 国 の ブ リ と の 相 違 を 、 能 毒 と の 関 連 か ら 認 識 し た も の と 言 え る 。 し か し こ の 書 は 一 般 に 博 物 学 的 性 格 と に つ い て は 記 述 す る こ と が な い 。 こ の 書 の 限 界 で あ る 。 そ の こ と 注 14 は 食 物 摘 要 ( 新 井 玄 圭 、 延 宝 六 年 刊 、 七 巻 ) や 食 物 本 草 大 成 ( 同 、 元 禄 七 年 刊 、 八 巻 ) に も さ し て 相 違 は な い 。 こ れ ら で は 魚 類 を 鱗 魚 類 ・ 無 鱗 魚 類 に 二 分 し 、 そ の よ う な 分 類 法 は こ の 書 が 始 め で あ り 、 外 に 和 産 の 魚 類 を ﹁ 附 録 ﹂ で 一 括 す る ( 閲 甫 食 物 本 草 が 漢 名 と 和 名 と を 混 在 さ せ た の を 一 歩 進 め た も の ) な ど 、 分 類 上 に は 見 る べ き も の を 持 つ が 、 気 味 . 食 忌 ・ 主
治 . 疏 義 . 方 法 等 の 医 療 的 事 項 を 主 と す る も の で 、 博 物 学 的 記 述 は 稀 で あ る 。 た だ 附 録 の 和 産 類 は 逆 に 博 物 学 的 記 述 を 主 ブ リ と す る 。 前 者 が 中 国 本 草 書 の 影 響 下 に 成 り 、 後 者 が 著 者 の 知 見 に も と つ く か ら で あ る 。 ﹁ 布 利 ﹂ に は 形 態 上 の 特 色 を 始 め て 説 ミ ﹁ 杣 加 蓉 ・ 慕 争 靴 芝 い う 成 長 名 姦 め て 説 く な ど の 点 が す ぐ れ て い 蟻 ¥﹂ れ は 江 戸 に お け る こ の 魚 の 成 長 名 の 初 出 で あ る 。 備 用 庖 厨 和 名 本 草 ( 向 井 元 升 、 貞 享 元 年 刊 、 十 三 巻 ) も 鱗 類 ・ 無 鱗 類 に 二 分 し 、 漢 名 本 位 に は 記 述 す る が 、 魚 類 の 形 態 . 生 態 等 の 博 物 学 的 記 述 に 重 き を 置 き 、 医 療 的 記 述 は 比 較 的 簡 略 に な っ て い る 。 ブ リ に つ い て は 魚 師 の 項 に 本 草 の 説 を 考 慮 し て ﹁ 魚 師 ヲ ブ リ ト イ ヘ ル ハ 誤 リ ナ ル ベ シ ﹂ と 結 論 し 、 ブ リ に つ い て は 和 名 ゆ え に こ れ 以 上 は 説 か な い 。 和 名 魚 に つ い て の 解 説 の な い の が こ の 書 の 欠 陥 で あ り 、 そ れ は 漢 名 の 考 証 の み を こ と と す る 学 風 の 先 鞭 と も 見 る こ 注 16 と が で き る 。 本 朝 食 鑑 ( 小 野 必 大 、 元 禄 十 年 刊 、 十 二 巻 ) は 、 河 産 ・ 海 産 の 違 い を 考 慮 し て 、 河 湖 有 鱗 類 ・ 無 鱗 類 、 江 海 有 鱗 類 . 無 鱗 類 と い う 一 段 と 精 し い 分 類 法 を 取 っ て い る 。 ま た 釈 名 ・ 集 解 ・ 発 明 の 項 で は 、 形 態 ・ 生 態 等 に つ い て の 精 細 な 独 自 な 博 物 学 的 記 述 や 産 地 に よ る 良 否 に ま で 及 ん で い 、 前 期 に お け る 最 高 の 著 と い う べ き も の で あ る 。 そ の ﹁ 師 ﹂ の 釈 名 に ﹁縷 (京 師 ) ・ ﹁鰍 く 黛 多 V ﹂ (江 都 ) や ﹁杣 雛 ﹂ の 成 長 名 を 挙 げ ・ 更 に ﹁ 又 西 海 有 二 種 大 師 赤 鼻 .都 鬼 .旦 ト ノ タ ナ ラ 鼻 赤 一 其 性 未 レ 詳 ﹂ と 同 科 別 種 の 魚 名 を 挙 げ る 。 成 長 名 ワ ラ サ と 別 種 魚 鼻 赤 ( 赤 鼻 ) と の 初 出 と い う 点 に 、 一 つ の 意 義 が 注 17 あ る 。 次 に 、 食 物 和 解 大 成 ( 馬 場 幽 閑 、 元 禄 十 年 刊 、 三 巻 ) と 増 補 日 用 食 性 和 解 大 全 ( 同 、 元 禄 十 一 年 刊 ) と は 同 一 書 な の で あ ろ う 蠕 こ れ 管 用 食 性 系 の 通 俗 医 書 で 雪 ﹁ 擁 ゜ ﹁ 霜 ﹂ に つ い 喬 単 な 能 主母 を 挙 げ る の み で ・ 能 毒 は 閲 甫 食 物 本 草 の 記 述 を 利 用 す る が 、 に も か か わ ら ず ハ マ チ と ブ リ と を 別 項 に す る な ど 日 用 食 性 の 誤 り を 踏 襲 し 、 そ れ 以 外 に は そ れ 以 前 の 研 究 成 果 を 十 分 も の に し て い る と は 言 え な い 点 が 多 い 。 な お ハ マ チ の 名 称 を 使 用 す る の は 著 者 が 浪 華 の 人 だ か 注 40 ら で あ る 。 日 東 魚 譜 の 著 者 神 田 玄 泉 の 食 物 和 新 ( 享 保 十 一 年 成 、 五 巻 ) 等 は 目 下 の 所 未 見 で 、 つ づ く 巻 懐 食 鏡 ( 香 月 牛
プ リ ハ マ チ 山 、 明 和 三 年 刊 ) は ﹁ 布 里 ﹂ の 項 に ﹁ 波 万 知 ﹂ を 挙 げ 、 ブ リ の 小 な る 物 を 京 で ハ マ チ 、 江 戸 で イ ナ ダ 、 築 紫 に ヤ ズ と い う ゾ ア ト レ ラ し ト と し 、 更 に コ 種 似 ∴ 布 里 一其 状 平 而 大 者 呼 二 比 良 須 こ と し 、 成 長 名 で ば 築 紫 方 言 の ヤ ズ を 、 同 科 異 種 魚 で は ヒ ラ ス を 注 19 挙 げ る 点 に 特 色 が あ る 。 牛 山 は 益 軒 の 弟 子 で 、 の ち 京 都 で 医 を 業 と し た 人 で あ り 、 そ れ ゆ え 築 紫 方 言 を 常 に 記 録 し て い る 。 本 朝 食 鑑 が 西 海 の 鼻 赤 ( 赤 鼻 ) と す る も の と こ の ヒ ラ ス と の 関 係 は 明 ら か で な い 。 と も に 魚 体 上 の 特 徴 が 明 示 さ れ て い な い か ら で あ る 。 し か し も し 鼻 赤 が カ ン パ チ で ヒ ラ ス が ヒ ラ マ サ で あ る な ら 、 こ こ に 同 じ く ブ リ 科 に 属 し 、 と も に 南 方 系 に 属 す ろ 二 種 の 魚 名 が 提 出 さ れ た こ と に な る わ け で あ る 。 食 療 正 要 (明 和 六 年 刊 、 四 巻 ) の 著 者 松 岡 玄 達 は 、 牛 山 よ り 先 輩 で も あ り 遙 か に 多 く の 業 績 を 持 つ 京 都 派 の 本 草 学 者 で あ り 、 動 植 物 の 品 類 の 研 究 に は 特 に 大 き な 功 績 を 残 し て い る が 、 魚 類 に つ い て は 比 較 的 に 弱 か っ た 。 こ の 書 は 気 味 ・ 主 治 ・ 禁 忌 の 医 療 的 事 項 の 外 、 博 物 学 的 事 項 に も か な り 重 き を お い て い る 。 ブ リ の 一 種 で 小 な る に ハ マ チ ・ イ ナ ダ ・ セ グ ロ ( 伊 勢 ) が あ る 、 又 ブ リ ゴ ・ ワ ク ノ ウ ヲ ( 丹 ノ 田 辺 ) ・ シ ロ メ ( 泉 州 左 海 ) ・ フ ク ラ ギ ( 越 中 ) が あ り 、 そ の 小 を ツ バ イ ソ 、 大 を コ ッ ク ラ と い う が 、 こ れ は ブ リ の 小 な る も の と も 言 い 、 ブ リ と ブ リ ゴ と は 二 物 で あ る と も 言 う 、 備 後 の 靹 の ブ リ ゴ は ブ リ と は 別 物 で あ り 、 紀 州 の シ オ ウ オ は ハ マ チ の 別 種 で 注 20 あ る 、 と す る 。 方 言 量 の 多 い こ と は 啓 蒙 以 前 の 書 で は 画 期 的 で あ る が 、 ハ マ チ と い い 、 ブ リ ゴ と い い 、 シ オ ウ オ と い い 、 産 地 等 か ら と も に 同 種 で あ ろ う と 思 わ れ る が 、 こ れ ら に つ い て 形 態 上 の 特 徴 を 明 確 に 把 握 し た う え で の 立 言 で は な い よ う に 思 わ れ る 点 が 残 念 で あ る 。 以 上 の 食 療 本 草 書 で は 、 閲 甫 食 物 本 草 が ハ マ チ と ブ リ と を 同 種 と し 、 食 物 摘 要 は ワ カ ナ ゴ ・ イ ナ ダ ・ ブ リ の 江 戸 系 成 長 名 を 挙 げ 、 本 朝 食 鑑 は ハ マ チ ( 京 ) ・ イ ナ ダ ( 江 ) ・ ワ ラ サ の 成 長 名 と 別 種 鼻 赤 と を 挙 げ 、 巻 懐 食 鏡 は ヤ ズ ( 築 紫 ) な る 成 長 名 と 別 種 ヒ ラ ス と を 挙 げ ( 大 和 本 草 に よ っ た の で あ ろ う ) 、 食 療 正 要 は 各 地 の 方 言 と 成 長 名 と を 多 く 挙 げ る 、 と い う
よ う に し て 、 次 第 に こ れ に つ い て の 記 述 は 精 細 さ を 増 し て い っ た 。 食 療 本 草 以 外 の 本 草 書 で は 、 ま ず 和 語 本 草 綱 目 ( ﹁ 広 益 本 草 大 成 ﹂ 、 岡 本 為 竹 、 元 禄 十 一 年 刊 、 二 三 巻 ) は ﹁ 魚 師 。 和 ニ ブ リ ト 訓 者 ハ 誤 リ 也 ﹂ と す ろ の み で あ る 。 近 世 前 期 最 大 の 本 草 学 者 と さ れ る 貝 原 益 軒 の 大 和 本 草 ( 宝 永 六 年 刊 、 十 六 巻 ) は 、 ハ マ チ ・ イ ナ ダ ・ ヤ ズ ・ メ シ ロ の 成 長 名 と 別 種 ヒ ラ ス と を 挙 げ る 。 ヒ ラ ス の 形 態 に つ い て は ﹁ ブ リ ニ 似 テ 大 ナ 注 2ー リ ﹂ と す る の み で あ る 。 ヒ ラ ス の 成 長 名 に サ ウ ジ を 挙 げ る 。 な お 益 軒 の 日 本 釈 名 に は ブ リ の 語 源 を 載 せ 、 筑 前 土 産 考 ( 宝 永 六 年 ) に は 大 和 本 草 と 同 様 の 記 事 を 載 せ る 。 近 世 中 期 に お い て 最 も 重 要 な 出 来 事 は 稲 若 水 及 び そ の 門 下 生 丹 羽 貞 機 ら に よ る 庶 物 類 纂 ] 〇 五 四 巻 の 編 纂 と そ れ を 契 機 と す る 物 産 学 の 発 展 で あ る 。 庶 物 類 纂 は 稲 若 水 筆 部 分 は 中 国 本 草 書 類 の 考 証 を 中 心 と す る も の で あ り 、 丹 羽 貞 機 ら の 増 補 部 分 は 質 問 応 答 形 式 に よ る 調 査 結 果 の 編 集 で あ る 。 前 者 に は ブ リ に つ い て の 記 述 は な い 。 そ れ は 中 国 本 草 書 に は ブ リ に つ い て の 記 述 が ほ と ん ど な い た め で あ る 。 増 補 部 分 は 現 在 の と こ ろ 未 見 の た め 言 及 で き な い 。 幕 府 よ り の 質 問 に 対 し て 各 藩 で 作 成 し た 応 答 書 が 相 当 数 残 存 し 、 そ の の ち こ れ と は 無 関 係 に 各 地 の 物 産 に つ い て 記 述 し た も の も 多 く 現 存 す る 。 そ れ ら は 当 時 の 方 言 を 知 る の に 重 要 で あ る が 、 現 在 の と こ ろ そ の ほ と ん ど が 未 調 査 で あ り 、 た だ 長 防 産 物 名 考 ( 両 国 本 草 、 田 智 庵 、 元 文 二 年 ) を 挙 げ う る の み で あ る 。 長 州 の 部 分 の ﹁ 獅 ﹂ の 項 に は 、 ﹁ 大 和 本 草 云 出 処 未 詳 其 中 ナ ル ワ 目 白 ト 云 其 小 ナ ル ワ ハ ヤ チ ト モ ワ カ ナ ト モ 小 赤 ナ ル ヲ ア カ ハ ナ 小 平 ナ ル ヲ ヒ ラ ス 又 ヒ ラ ワ ト モ ﹂ と し 、 成 長 名 の 外 ア カ ハ ナ ・ ヒ ラ ス の ニ マ マ 種 の 名 称 が 出 る 。 防 州 部 分 に は ﹁ 其 中 ナ ル ヲ 目 白 卜 云 小 ヲ ハ マ チ ワ カ ナ ト モ 少 赤 色 ア ル ヲ ア カ ハ ナ ト 云 江 戸 ニ チ ナ ダ 築 紫 ニ ヤ ズ ト 云 ﹂ と し 、 成 長 名 は 同 様 で あ る が 、 異 種 魚 で は ア カ ハ ナ の み を 挙 げ て ヒ ラ ス は 挙 げ な い 。 こ の 書 に は こ の 種 の 不 統 一 が 多 い 。 そ れ は 、 こ の 時 の 物 産 改 役 に は 始 め 岡 部 市 郎 衛 門 が 、 の ち に 更 に 烏 田 智 庵 と 仁 保 玄 珠 と が 任 命 さ
注 41 れ た が 、 お そ ら く の ち の 二 人 が 長 州 と 防 州 と を 分 担 し 、 そ の 学 力 の 差 が 記 述 の 多 寡 そ の 他 と な っ た か ら で あ ろ う 。 防 州 に も ヒ ラ ス ば い た か も し れ な い 。 し か し い ず れ に し て も 、 食 療 本 草 書 で は い ず れ か の み が 記 さ れ た の に 、 こ の 書 で は ア カ ハ ナ ・ ヒ ラ ス の 両 魚 名 の 現 わ れ た の は 特 記 す べ き こ と で あ る 。 物 産 調 査 の 風 を 受 け て 著 述 さ れ た も の の 一 つ に 越 後 名 寄 ( 丸 山 元 純 、 宝 暦 六 年 成 、 三 一 巻 ) が あ り 、 そ の 二 十 三 ∼ 五 巻 に 魚 類 が 載 る 。 師 と 飯 と に 分 け 、 前 者 に ツ ハ ス . フ ク ラ ケ . ノ ・ ナ 注 22 夕 ・ 眼 白 ・ カ チ カ チ ・ ブ リ の 成 長 名 を 挙 け 、 後 者 に は バ チ ・ シ ヲ ノ ヲ ・ ハ マ チ の 名 を 挙 げ る 。 物 産 学 関 係 書 に は 、 こ れ ら の 外 、 物 産 会 出 品 目 録 、 物 産 会 出 品 の 解 説 付 記 録 ( 物 類 品 陥 等 ) 等 が あ る が 、 各 地 の 物 産 を 絵 図 入 り で 解 説 し た 五 畿 内 物 産 図 会 ・ 山 海 名 産 図 絵 ・ 山 海 名 物 図 会 の ご と き 刊 本 も あ る 。 日 本 山 海 名 産 図 会 ( 関 月 画 、 寛 政 十 一 年 刊 ・ 五 巻 ) の 巻 三 に ﹁ 鰍 ﹂ の 項 が あ り 、 丹 後 の 鱒 追 綱 の 図 が 二 丁 あ り 、 魚 獲 法 ・ 本 草 綱 目 の 魚 師 な ど を 述 べ た あ お ほ 墓 注 23 と に 、 ﹁ 小 な る を ワ カ ナ コ ツ バ ス イ ナ ダ メ ジ ロ フ ク ラ キ ハ マ チ 九 州 に て は 大 魚 と も 称 す ﹂ と 記 述 す る 。 こ の 成 長 名 は 丹 後 の も の か 大 阪 の も の か そ れ と も 各 地 の 混 合 か 不 明 。 し か し 初 出 の 名 称 が 見 え る の は 注 意 す べ き で あ る 。 こ れ い な だ 以 外 の 右 の 諸 書 に は ブ リ に つ い て の 記 述 は な い 。 武 蔵 の 物 産 を 書 い た 武 江 物 産 志 ( 岩 崎 灌 園 、 文 政 七 年 序 ) に は 、 ﹁ 海 鱒 羽 田 沖 ﹂ と あ る の み で あ る 。 動 植 名 彙 (伴 信 友 、 文 政 十 年 序 、 十 巻 ) に は ブ リ の み 載 る 。 物 産 関 係 の 辞 書 類 に は 、 物 品 識 名 ・ 物 品 識 名 拾 遺 ・ 品 物 名 彙 ・ 掌 中 名 物 笙 等 が あ る が 、 こ れ は の ち に 述 べ る 。 近 世 に は す ぐ れ た 百 科 全 書 が 著 述 さ れ た が 、 前 期 の 訓 蒙 図 彙 に は ブ リ に つ い て の 記 述 が な い が ( の ち の 頭 書 増 補 訓 蒙 図 ぷ め 彙 、 寛 政 元 年 刊 、 二 十 一 巻 に は 師 の 名 及 び 魚 図 を 挙 げ る ) 、 中 期 の 和 漢 三 才 図 会 ( 寺 島 良 安 、 正 徳 三 年 刊 、 一 〇 七 巻 ) に ぷ り は ま ち は 、 ﹁ 師 魚 師 飯 ﹂ の 項 に 形 態 ・ 産 地 に つ い て 詳 説 し 、 ツ ハ ス ・ ワ カ ナ ・ メ シ ロ ・ ハ マ チ ・ イ ナ タ ・ ブ リ の 成 長 名 を 挙 し わ う げ る 。 ワ カ ナ は こ の 書 が 初 出 。 成 長 名 も 魚 長 を 並 記 す る 点 に お い て す ぐ れ て い る 。 な お こ の 書 は ﹁ 獅 妊 ﹂ な る 別 種 に つ い
注 24 て 記 述 す る 。 ヒ ラ マ サ か カ ン パ チ か の い ず れ か の 方 言 で あ ろ う 。 本 草 綱 目 の 研 究 注 釈 等 の 、 本 草 の 正 系 的 業 績 と し て は 、 近 世 後 期 最 大 の 学 者 は 京 都 学 派 の 重 鎮 小 野 蘭 山 で あ り 、 そ の 著 . 注 25 に 本 草 綱 目 啓 蒙 四 八 巻 が あ る 。 啓 蒙 は も と 本 草 綱 目 の 講 義 に も と つ く も の な の で 、 ブ リ に つ い て は 記 述 の な い の が お し い 。 即 ち ﹁ 魚 師 ﹂ の 項 で 、 ﹁ 老 魚 ノ 総 名 ナ リ ⋮ 師 ノ 字 ヲ ブ リ ト 訓 ズ ル ハ 非 ナ リ ブ リ ハ 清 俗 海 鯉 卜 云 ﹂ と す る の み で 、 ブ リ に つ い て は 他 に は 説 か な い 。 啓 蒙 は ど の 項 に つ い て も 方 言 量 の 多 い 書 で あ る が 、 こ の 書 が 綱 目 本 位 の た め に 、 ブ リ の 方 言 . 成 長 名 ・ 異 種 名 等 に 言 及 し な い の は 残 念 で あ る 。 蘭 山 は 大 和 本 草 ・ 巻 懐 食 鏡 等 の 講 義 を 行 な い 、 そ の 聞 書 が 残 っ て い る が 、 大 和 本 草 に つ い て は 大 和 本 草 批 正 (井 岡 洌 筆 ) が 益 軒 全 集 に 載 っ て い る 。 記 事 も 簡 略 で 、 右 の 記 述 を 出 る も の で な く 、 ま た ヒ ラ ス は 未 詳 と す る 。 巻 懐 食 鏡 記 聞 に は 、 ﹁ 布 里 雑 字 簿 二 海 鮭 ト ア リ ︿ 連 行 ス ル モ ノ カ ﹀ ﹂ ・ ﹁ 波 万 知 ブ リ ノ 小 者 也 ﹂ と の み あ る 。 漢 名 海 鱒 を 挙 げ る の ば 蘭 山 が 始 め か と 思 う 。 啓 蒙 以 外 で は 、 江 戸 学 派 曽 梨 (占 春 ) の 本 草 綱 目 纂 注 26 疏 ( 十 五 巻 、 一 -三 巻 刊 行 、 寛 政 十 年 序 ) が あ り 、 こ れ も 啓 蒙 同 様 で あ る 。 曽 占 春 に は 占 春 斎 魚 品 ・ 占 春 斎 魚 貝 譜 等 の 魚 類 専 門 書 の 著 も あ る が 、 魚 類 に つ い て は さ し て 精 し く な か っ た よ う に 思 わ れ る 。 本 草 品 目 ( 西 沢 保 吉 ・ 阿 那 辺 有 恒 、 天 明 元 年 、 二 五 巻 ) . 補 正 本 草 紀 聞 ( 木 村 孔 恭 、 弘 化 三 年 、 二 十 巻 ) ・ 本 草 綱 目 紀 聞 ( 物 部 寿 斎 、 八 巻 ) 等 は い ず れ も 啓 家 の 域 を す ら 出 な い 。 物 品 目 録 ( 後 藤 繋 春 、 宝 暦 二 年 政 、 二 巻 ) に も ブ リ の 項 は な く 、 宝 暦 以 前 に 本 草 学 者 で こ の 魚 に つ い て 説 を な し た も の の な い こ と を 知 る が 、 そ れ 以 後 と て そ の こ と に ば さ し て 変 り は な か っ た よ う で あ る 。 幕 末 の 紀 州 藩 の 本 草 学 者 畔 田 翠 山 の 網 目 註 疏 は 一 般 に 啓 蒙 を 大 き く 越 え る こ と ば な い が 、 古 名 録 等 の 名 物 学 的 著 書 も あ り 、 魚 類 に つ い て ば 名 物 学 的 な 水 族 志 等 の 専 書 も あ り 、 聞 く へ、 き 説 も 多 い 。 註 疏 で は 、 ブ リ に つ い て は 、 啓 蒙 の 説 に つ き 解 説 等 を 加 え た あ と 、 ﹁ ブ リ ハ 種 類 多 小 ナ ル 者 ハ マ チ 又 〆 ジ ロ ト 云 プ リ ハ 大 魚 也 国 々 二 方 言 多 シ ﹂ と す る 。 新 説 ば な い 。
魚 類 専 書 は 中 期 享 保 四 年 の 日 東 魚 譜 に 始 ま り 、 量 と 質 と 種 類 と に 次 第 に 深 化 拡 大 を 見 せ る 。 こ れ に は 考 証 中 心 の 占 春 斎 魚 品 ・ 春 山 魚 譜 、 魚 譜 中 心 の 海 の 幸 ・ 水 族 写 真 ・ 魚 類 集 ・ 蘭 山 魚 譜 ・ 蘭 山 魚 彙 ・ 随 観 写 真 ・ 桃 洞 魚 譜 ・ 翠 山 魚 図 等 の 各 種 魚 譜 、 両 者 の 混 合 と も 言 う べ き 日 東 魚 譜 ・ 皇 和 魚 譜 ・ 水 族 四 帖 ・ 太 ・草 魚 類 正 謝 全 図 ( 本 草 図 説 ) 、 通 俗 解 説 書 の 魚 鑑 、 特 定 領 域 の 魚 類 書 の 海 魚 考 ・ 海 魚 志 略 ・ 湖 魚 考 ・ 湖 中 産 物 図 証 ・ 琵 琶 湖 魚 説 、 特 定 魚 の 解 説 考 証 書 の 鱗 魚 志 ・ 鐙 魚 の 説 ・ 翻 車 考 ・ 鐸 魚 解 ・ 鯨 志 ・ 鯨 史 稿 ・ 鯨 及 海 豚 之 図 ・ 勇 魚 取 絵 詞 ・ 板 鯉 魚 類 、 特 定 地 域 の 魚 類 書 の 難 波 魚 譜 ・ 北 越 魚 譜 ・ 平 戸 魚 譜 ・ 勢 海 百 鱗 ・ 南 海 魚 譜 、 能 毒 解 説 書 の 魚 貝 能 毒 品 物 図 考 、 辞 書 類 の 水 族 志 ・ 海 魚 考 ・ 海 魚 志 略 ・ 魚 名 録 ・ 魚 名 類 標 等 が あ る 。 前 期 か ら 中 期 へ か け て の 本 草 学 は 、 中 国 の そ れ の 学 習 か ら 更 に 検 討 へ と 動 い て い く 時 期 で あ っ た 。 こ の 期 の 著 述 の 多 く が 、 本 草 綱 目 中 心 ・ 漢 名 中 心 に 編 纂 さ れ て い た の が 、 そ の 一 つ の 現 わ れ で あ り 、 そ の 余 波 は 後 期 に も か な り 読 み と る こ と が で き る 。 中 期 頃 か ら 無 自 覚 に も 自 覚 的 に も 、 中 国 本 草 学 へ の い た ず ら な る 追 随 か ら 脱 皮 し て 独 自 の 研 究 領 域 ・ 研 究 方 法 を 開 拓 し よ う と い う 風 が 強 く な る 。 庶 物 類 纂 の 未 完 部 分 の 編 纂 に あ た っ た 丹 羽 正 伯 ・ 野 呂 元 丈 ら が 和 産 の 調 査 に も と づ こ う と し た の は 、 あ る い は 言 わ れ る よ う に 、 彼 ら が 師 稲 生 若 水 ほ ど に は 中 国 本 草 書 に 通 じ な い と い う こ と も あ っ た か も し れ な い し 、 も し そ う で あ れ ば そ れ は 怪 我 の 功 名 と も い う べ き も の で あ る か も し れ な い 。 し か し も し 彼 ら が 師 の 研 究 対 象 ・ 方 法 へ の 批 判 と 新 し い そ れ へ の 自 覚 的 模 索 か ら そ う し た と す る な ら 、 そ れ は 確 か に 重 要 な 意 味 を 持 つ も の と 言 わ ね ば な ら ぬ で あ ろ う 。 そ し て 、 そ の よ う な 姿 勢 は 、 単 に 丹 羽 ・ 野 呂 ら に 限 ら れ た 傾 向 で は な く 、 そ れ は 当 時 の 斯 学 の 一 風 潮 で も あ っ た と 考 え た い の で あ る 。 そ の こ と は 神 田 玄 泉 の 日 東 魚 譜 に も よ く う か が う こ と が で き る 。 元 文 六 年 本 の 凡 例 に 、 ﹁ 凡 本 草 之 書 載 二 魚 介 草 木 之 十
モ ニ ニ 之 一 而 其 説 又 不 二 精 詳 一 是 乃 中 華 遠 二 干 海 一故 漢 人 不 レ 審 二 干 海 産 一其 所 知 者 河 魚 而 己 ﹂ と し 、 時 珍 の 食 物 本 草 や 三 才 図 絵 の 誤 り を 指 摘 し 、 わ が 国 ば ﹁ 槍 海 広 也 水 族 多 也 以 錐 レ 難 二 詳 審 一 又 司 命 者 弁 二 明 之 一 可 三 以 教 二 戒 干 人 一 ﹂ と 考 え 、 ﹁ 天 下 之 民 四 ヲ テ 方 之 国 言 語 方 言 不 レ 同 是 以 事 物 之 名 称 懸 隔 也 故 略 附 二 方 言 一井 図 二 其 図 一釈 二 和 名 一古 語 云 百 聞 不 レ 如 二 一 見 一 ﹂ と い う 方 法 を 取 っ た 。 各 魚 類 に 対 し 魚 図 を 掲 げ 、 方 言 を 記 し 、 そ の 解 説 を 添 え た が 、 そ れ は 如 上 の 自 覚 的 意 図 に 基 づ き 、 新 し い 方 法 論 を き り 開 い た と 言 う べ き で あ ろ う 。 方 言 を 添 え る の は 玄 泉 が 始 め で は な い 。 し か し 以 後 方 言 を 添 え る 傾 向 が 次 第 に 顕 著 に な っ た こ と も 事 実 で あ る 。 図 解 す る の も 玄 泉 が 始 め で は な い 。 し か し 以 後 魚 図 に よ っ て 形 態 上 の 特 色 を 示 そ う と す る 傾 向 が 顕 著 に な っ た こ と も ま た 事 実 で あ る 。 そ れ ら の 意 味 に お い て 、 斯 学 に お い て 玄 泉 の 果 し た 方 法 論 上 の 功 績 は 、 大 き く 評 価 さ れ る べ き で あ る 。 神 田 玄 泉 に は 本 草 大 義 ( 五 巻 、 未 刊 ) ・ 本 草 補 +且 ( 八 巻 、 未 刊 ) ・ 本 草 或 問 ( 二 巻 、 未 刊 ) ・ 本 草 図 翼 ( 六 巻 力 、 未 刊 ) ・ 食 物 知 新 ( 享 保 十 一 年 成 、 七 巻 、 未 刊 ) が あ る が 、 日 東 魚 譜 は 彼 の 代 表 的 著 述 、 あ る い は 最 も 力 を 注 い だ 著 書 と 言 注 27 っ て よ い で あ ろ う 。 こ の 書 に は 享 保 四 年 序 ・ 同 十 六 年 序 ・ 元 文 六 年 序 の 三 本 の 存 在 が 知 ら れ て い る .が 、 内 閣 文 庫 図 書 分 類 目 録 に よ れ ば 、 同 文 庫 に は 享 保 二 一 年 序 の 稿 本 及 び 異 本 が あ る 。 す れ ば こ の 書 に は 少 な く と も 四 本 あ る こ と に な る 。 今 、 私 は 、 享 保 四 年 本 と 元 文 六 年 本 し か 資 料 を 持 た な い が 、 こ れ ら で は 序 文 ・ 凡 例 の 内 容 は 全 く 相 違 し 、 魚 種 に も 増 減 が あ る 。 ﹁ 尋 二 求 之 於 諸 州 二 二 十 余 年 ﹂ ( 元 文 六 年 本 凡 例 ) の 間 、 た び た び 稿 を 改 め た も の と 思 わ れ る 。 ブ リ に つ い て も 、 享 保 四 年 本 に は ﹁ 師 魚 ﹂ の 項 を 設 け る が 、 元 文 六 年 本 に は ﹁ 師 魚 ﹂ と ﹁ 飯 魚 ﹂ と の 項 を 設 け る と い う 変 化 が 見 ら れ る 。 ブ リ に っ い て は 、 釈 名 で 両 本 と も 本 綱 の 魚 師 に あ ら ざ る こ と や 産 地 を 述 べ 、 つ い で 気 味 ・ 主 治 を 述 べ る 。 享 保 四 年 本 に は 、 発 明 マ ノ の 項 が あ る が 、 元 文 六 年 本 に は こ れ を 欠 く 。 元 文 六 年 本 に は 飯 魚 の 項 が あ り 、 師 魚 と 飯 魚 と の 関 係 に つ い て は 、 ﹁ 今 按 此
ス ト 魚 為 二 飯 魚 之 老 者 こ と す る 。 も っ と も ブ リ と ハ マ チ と の 関 係 に つ い て は 、 こ の 書 が 先 鞭 と い う わ け で は な く 、 本 朝 食 鑑 な ス レ ハ ど に 記 述 が 見 え て い る し 、 ま た 元 文 六 年 本 の 飯 魚 の 項 に 、 ﹁ 長 老 則 為 二 布 利 一未 レ 知 二 的 否 ︼﹂ と 、 い さ さ か 自 信 な げ で も イ ナ ク あ る 。 そ れ だ け ま た 本 朝 食 鑑 の 著 者 よ り 学 問 的 に 慎 重 で も あ る と も 言 え る か も し れ な い 。 飯 魚 の 釈 名 に 、 ﹁ 鰍 魚 篁 歌 字 尽 ハ マ チ ヤ ブ テ ノ フ ワ カ ナ ゴ ト 浜 路 畿 内 言 短 頭 肥 前 方 言 ⋮ 名 二 其 児 一呼 二 君 魚 児 一﹂ と し 、 魚 図 に ﹁ イ ナ タ ハ マ チ 一 名 二 物 ヤ ヅ ヤ ス ﹂ と 付 記 す る 。 方 言 は 注 28 既 知 の も の の み で 、 方 言 量 も 多 く な い 。 魚 類 専 書 は 、 日 東 魚 譜 に つ づ い て は 鯨 志 (梶 取 屋 治 右 衛 門 、 宝 暦 十 年 刊 ) ・ 海 の 幸 ( 勝 龍 水 、 宝 暦 十 二 年 刊 、 二 巻 ) ・ 魚 貝 譜 ( 北 尾 政 美 画 、 享 和 二 年 刊 、 一 冊 ) な ど と ス ロ ー テ ン ポ で あ る が 、 海 の 幸 の ご と き 彩 色 豪 華 本 も 刊 行 さ れ て い る 。 占 春 斎 魚 品 (曽 桀 、 成 稿 年 未 詳 、 三 冊 ) は 考 証 を 主 と す る 書 で あ る が 、 魚 師 の 項 に は ﹁ 夫 利 為 是 ﹂ と し 、 多 く を 述 べ な 注 29 い 。 江 戸 学 派 の 重 鎮 た る 曽 葉 の 弟 子 高 山 以 孝 春 山 の 春 山 魚 譜 ( 成 稿 年 未 詳 、 十 冊 ) は 、 師 の 学 風 を う け て 考 証 を 主 と す る も の で あ り 、 大 観 本 草 ・ 本 草 綱 目 ・ 本 草 綱 目 啓 蒙 ・ 享 保 復 言 ・ 巻 懐 食 鏡 ・ 築 前 風 土 記 ・ 越 後 名 寄 ・ 本 朝 食 鑑 な ど 引 用 し て 注 30 . い る 。 成 長 名 と し て は 、 ワ カ ナ ・ イ ナ ダ ・ ハ ナ シ ロ ・ オ オ イ オ を 挙 げ る が 、 こ れ は 相 州 三 浦 の そ れ で あ る 。 そ の ほ か 築 前 風 土 記 や 越 後 名 寄 に よ る そ の 地 の 方 言 を 引 用 し 、 そ れ ら に つ い て の 解 釈 な ど を 加 え て あ る 。 形 態 上 の 記 述 は 皆 無 に 近 く 、 創 見 に 乏 し い 。 春 山 に は 孫 正 年 編 の 魚 名 類 標 ( 成 稿 年 未 詳 、 六 巻 十 冊 、 未 刊 ) が あ る 。 そ の イ ナ ダ の 項 に は 和 漢 三 才 図 会 を 引 用 し 、 ブ リ の 項 に 詳 説 す る と あ る が 、 ブ リ の 項 に は 享 保 復 言 を 引 用 す る の み で 、 簡 略 に 終 っ て い る 。 こ の 書 は 諸 書 の 説 を 引 用 す る こ と に 終 始 し 、 ' そ の こ と の ほ か に は 見 る べ き 所 の な い 書 で あ る 。 春 山 に は 本 草 図 説 ( 一 九 五 冊 ) が あ り 、 鰺 魚 の 項 に ﹁ 越 前 人 は ボ ラ を ブ リ と い ひ 江 戸 に て い ふ ブ リ を ハ マ チ と い ふ ﹂ と の 記 述 が あ る 。 栗 本 丹 州 は 江 戸 学 派 の 重 鎮 田 村 藍 水 の 次 子 で 、 魚 類 に 関 す る 著 に は 異 魚 図 纂 ・ 勢 海 百 鱗 ・ 栗 氏 魚 譜 ・ 皇 和 魚 譜 ・ 魚 貝 譜 ・ 鱒 魚 志 ・ 翻 車 考 等 の 著 が あ
る 。 皇 和 魚 譜 ( 天 保 九 年 刊 、 二 巻 ) は 淡 水 魚 の み で 海 魚 に は 触 れ な い 。 魚 貝 譜 に は ワ カ ナ ゴ ・ イ ナ ダ . ブ リ の 江 戸 系 の 成 長 名 を 載 せ る 。 栗 氏 魚 譜 ・ 勢 海 百 鱗 は 未 見 。 魚 類 の 形 態 的 特 徴 に つ い て の 丹 州 の 観 察 力 は き わ め て 卓 越 し て お り 、 す ぐ れ 注 31 た 画 技 に よ っ て よ く そ の 特 徴 を と ど め て い る と さ れ る が 、 そ れ ら を 博 物 学 的 に 記 述 し た も の は な い 。 当 時 の 学 界 の 限 界 を 示 す も の で あ る 。 同 じ く 江 戸 の 本 草 学 者 に 岩 崎 灌 園 が あ る 。 灌 園 は 学 派 と し て は 小 野 蘭 山 系 で あ り 、 本 草 図 譜 九 六 巻 の 大 著 を 持 っ が 、 本 領 は 植 物 学 で 、 魚 類 に 関 す る も の は 既 述 の 武 江 物 産 志 と 本 草 穿 要 ( 十 三 巻 ) と に 載 り 、 後 者 に は ブ リ の 項 は な い 。 同 じ く 江 戸 の 人 奥 倉 辰 行 は 町 人 学 者 で 、 水 族 写 真 ( 安 政 四 年 序 、 一 巻 二 冊 ) 。 水 族 四 帖 ( 成 稿 年 未 詳 、 四 冊 、 未 刊 ) ・ 本 草 魚 類 正 調 全 図 ( 成 稿 年 未 詳 、 一 冊 、 未 刊 ) 等 の 著 が あ る 。 水 族 写 真 は 鯛 と 名 の つ く 魚 類 の み に つ い て の 豪 華 本 で 、 本 稿 に は 無 縁 、 他 の 二 本 は 、 今 は 資 料 未 入 手 に つ き 触 れ る こ と は で き な い 。 い ず れ も 魚 図 を 中 心 に し 、 こ れ に 考 証 . 注 32 解 説 を 添 え た も の で あ る 。 魚 鑑 ( 武 井 周 作 、 天 保 二 年 刊 、 二 巻 ) は い ろ は 順 に よ る 通 俗 書 で 、 ﹁ ぶ り ﹂ の 項 に 、 ワ カ ナ ゴ ・ イ ナ ダ ・ ハ ナ ジ ロ ・ ワ ラ サ ・ ブ リ の 江 戸 系 成 長 名 を 挙 げ 、 肥 前 方 言 ヤ ヅ を 添 え 、 別 に 同 目 異 種 の ヒ ラ マ サ を 挙 げ る 。 ヒ 注 33 ラ マ サ の 名 は こ の 書 が 初 出 で あ ろ う 。 こ れ ら の 外 、 江 戸 学 派 に 属 す る 学 者 に 後 藤 黎 春 が あ り 、 そ の 本 草 綱 目 補 物 品 目 録 に つ い て は 略 記 し た が 、 黎 春 に は こ の 外 本 草 関 係 の 著 が 多 く 、 魚 類 に つ い て は 随 観 写 真 三 十 巻 の 著 が あ る が 、 こ の 書 目 下 の と こ ろ 未 見 ゆ え 触 れ る こ と が で き な い 。 と こ ろ で 、 以 上 の 江 戸 学 派 の 人 々 の 学 風 的 特 徴 は 何 か 、 そ の 学 的 功 績 は ど こ に あ る か 、 な ど の 点 に つ い て は 、 私 は ま だ 十 分 に 述 べ る こ と の で き る 段 階 に は な い 。 ﹁ 阿 部 将 曹 に は じ ま り 、 田 村 藍 水 に う け つ が れ た 学 派 は 、 物 産 の 探 究 お よ び 増 産 を 主 と し 、 実 用 を 重 ん じ た 異 色 あ る 博 物 学 者 を 出 し た の で 著 し い ﹂ と 、 上 野 博 士 は 明 治 前 日 本 生 物 学 史 第 一 巻 に 述 べ ら れ た 。 こ の 間 に 、 魚 類 に 関 し て は 、 新 井 玄 圭 の 外 に は 見 る べ き 著 者 は い な い 。 本 草 学 も 近 世 前 期 は 上 方 に 中 心 が あ っ た の で あ る 。 が 、 ひ き つ づ い て 藍 水 門 か ら 田 村 西 湖 ・ 後 藤 黎 春 ・ 栗 本 丹 州 ・ 平 賀 源 内 等
の す ぐ れ た 学 者 が 現 わ れ 、 黎 春 ・ 丹 羽 や の ち の 奥 行 辰 行 な ど の ご と く 、 す ぐ れ た 観 察 力 に 基 づ く 魚 図 を も の し て 博 物 学 的 知 見 に 奥 行 き を 深 め た 学 者 も あ り 、 曽 繋 ・ 春 山 の ご と く 考 証 解 説 を 中 心 の 名 物 学 的 傾 向 の 濃 い 学 者 も あ っ た 。 概 し て こ れ ら の 諸 書 に は 博 物 学 的 記 述 を 中 心 に す る 解 説 が 少 な い し 、 方 言 量 も 一 般 に 多 く な く 、 ま た 地 勢 上 や む を え ぬ こ と な が ら 、 ヒ ラ マ サ ・ カ ン パ チ な ど の 同 目 異 種 魚 に つ い て の 記 述 に 乏 し い 。 本 草 学 に お い て も 、 近 世 前 期 は 京 都 が 学 的 中 心 地 で あ っ た 。 宝 暦 頃 か ら 次 第 に 文 化 の 東 漸 の 傾 向 を 見 せ 、 享 保 六 年 京 都 学 派 の 重 鎮 松 岡 玄 達 が 幕 命 に よ っ て 東 下 し て 以 来 江 戸 学 派 は 急 激 に 活 気 を 呈 し 、 田 村 西 湖 ・ 後 藤 黎 春 ・ 栗 本 丹 州 ・ 曽 桀 等 の 諸 学 者 の 活 躍 が は な ぱ な し さ を 加 え た 。 そ の 頃 玄 達 な き あ と の 京 都 に あ っ て 重 き を な し た の が 小 野 蘭 山 で あ っ た 。 学 殖 の 深 さ 、 門 弟 の 多 さ 、 ま さ に 海 内 第 ︼ の 本 草 学 者 で あ っ た 。 そ の 最 大 の 著 は 本 草 綱 目 啓 蒙 で あ り 、 そ の 他 多 く の 本 草 書 を 著 述 し 、 講 義 聞 書 も 多 い 。 啓 蒙 は 方 言 量 の 多 い 点 で は そ の 後 に も 類 を 見 な い ほ ど で 、 近 世 の 方 言 書 と し て も 貴 重 な 書 で あ る 。 た だ 蘭 山 に は 魚 類 専 書 は 多 く な い 。 岩 瀬 文 庫 に 自 筆 の ﹁ 魚 彙 ﹂ が あ り 、 国 会 図 書 館 に ﹁ 魚 譜 ﹂ が あ り 、 植 物 学 雑 誌 の 蘭 山 紀 念 号 に は 、 蘭 山 旧 蔵 本 と し て 異 魚 図 巻 ・ 水 虎 図 巻 ・ 諸 鯨 図 巻 ・ 捕 鯨 図 巻 等 が 挙 げ ら れ て あ る 。 °魚 彙 ・ 魚 譜 は 魚 図 を 中 心 と し 、 魚 名 を 注 記 す る に と ど め 、 解 説 の 類 は な い 。 動 植 物 の 方 言 を 集 め た も の と し て 、 ﹁ 伊 呂 波 別 動 植 物 名 彙 ﹂ ( 十 冊 ) が あ る が 、 秘 物 で 、 他 見 を 許 さ ぬ の は 残 念 で あ る 。 寛 政 十 一 年 蘭 山 東 下 の あ と は 山 本 亡 羊 が 京 都 学 派 の 中 心 に な っ た 。 亡 羊 の 主 著 は 格 致 類 編 一 二 五 巻 で あ る が 、 稲 生 若 水 ら の 庶 物 類 纂 同 様 未 刊 に 終 り 、 目 下 未 見 の た め 言 及 で き な い ( 動 植 鉱 物 に わ た る 書 で 、 魚 類 専 書 で は な い ) 。 蘭 山 門 で 大 垣 の 人 飯 沼 慾 斎 に は 南 勢 魚 譜 ( 四 冊 ) ・ 慾 斎 翁 河 魚 写 真 ( 一 冊 ) 注 34 ・ 魚 部 ( 一 冊 ) の 著 が あ る 由 、 未 見 の た め 言 及 で き ず 。 紀 州 の 小 原 桃 洞 も 蘭 山 門 で あ り 、 そ の 弟 子 に 畔 田 翠 山 が あ る 。 桃 洞 に は 南 紀 土 産 考 ( 八 冊 附 録 ︼ 冊 ) ・ 桃 洞 遺 筆 ( 天 保 四 年 -嘉 永 三 年 刊 、 十 五 巻 ) の 外 に 魚 譜 の 著 が あ る 。 魚 譜 に は 、 成
長 名 ハ マ チ ・ イ ナ ダ ・ ヤ ズ ・ ワ カ ナ ゴ が 載 る 。 イ ナ ダ は 尾 州 に も い う と す る の は 重 要 な 記 述 で あ る 。 外 に シ ホ ハ マ チ . ヒ ラ ス の 二 別 種 に 触 れ て い 鱗 畔 田 翠 山 に は 水 族 志 (姦 + 年 匡 + 巻 ) ・ 古 名 録 ( 天 保 + 四 年 星 土 巻 ) 、 紫 叢 魚 図 ( 六 冊 ) な ど が あ り ( 綱 目 註 疏 は 既 述 ) 、 古 名 録 は 名 物 学 の 書 、 魚 図 は 未 見 。 古 名 録 は ハ マ チ と ワ ラ サ を 挙 げ る の み で あ る が 、 水 族 志 に は ソ ウ ジ ・ ワ カ ナ コ ・ コ ヅ ク ラ ・ ヤ ス ・ ツ バ ス ・ メ ジ ロ ・ ハ ス チ . イ ナ ダ . フ ク ラ ギ . ヤ ゾ ウ . ワ ラ サ . ラ ギ ゜ ド タ ゜ オ ホ ウ ヲ な ど の 成 長 名 ・ 方 言 を 載 せ 、 更 に ア カ ハ ナ ・ ヒ ラ ス ・ シ ホ ハ マ チ な ど の 同 目 異 種 魚 を 挙 げ る 。 方 言 注 36 量 そ の 他 に お い て 、 創 見 に は 乏 し い が 、 集 大 成 書 と し て 価 値 は 大 き い 。 京 都 系 で は こ の 外 伏 見 の 人 平 沢 元 憧 の 魚 名 録 ( 成 稿 年 時 未 詳 、 一 冊 ) が あ る 。 辞 書 形 式 の も の で 、 プ レ に つ い て 本 草 ・ 広 東 新 語 を 引 用 し 、 ﹁ 関 東 俗 喚 伊 梛 達 ﹂ と し 、 関 東 の イ ナ ダ と 同 物 と の み 記 述 す る 。 難 波 魚 譜 ( 著 者 ・ 成 稿 年 未 詳 、 二 冊 ) に は 該 当 項 を 見 出 し え な か っ た 。 尾 張 の 水 谷 豊 文 も 蘭 山 門 下 で 、 物 品 識 名 ・ 同 拾 遺 は 蘭 山 説 に 従 っ て い る 。 以 上 の 京 都 学 派 の 諸 著 は 未 見 の 書 が 多 く 、 そ の 学 派 的 特 徴 な ど 到 底 概 括 で き な い 。 た だ 桃 洞 ・ 翠 山 の 師 弟 の 書 は 、 概 し て 博 物 学 的 記 述 に 精 し く 、 方 言 量 も 多 く 、 ヒ ラ ス な ど の 同 目 異 種 魚 に 説 き 及 ぶ こ と な ど に す ぐ れ た 点 が あ る と 言 え る で あ ろ う 。 九 州 に は か っ て 本 草 学 の 先 覚 者 貝 原 益 軒 が い 、 そ の 後 も 多 く の 本 草 学 者 を 出 し て い る 。 魚 類 専 書 と し て は 海 魚 考 (饒 田 注 37 寛 斎 、 文 化 四 年 序 、 八 巻 ︿ 東 洋 文 庫 本 ﹀ ) が あ る 。 長 崎 の 魚 類 の 研 究 と い う 点 に 異 色 が あ る 。 釈 名 . 集 解 の 項 を 設 け 、 能 毒 を 附 記 し 、 別 に ﹁ 附 録 ﹂ の 項 を た て 、 こ れ に 同 目 別 種 の 魚 に つ い て 記 述 す る 形 式 を 取 る 。 釈 名 . 集 解 の 条 は 大 和 本 草 . 啓 蒙 等 の 主 著 を 引 用 し 、 終 り に 著 者 の 説 を 述 べ る 形 式 で あ る 。 釈 名 は 語 源 ・ 方 言 、 集 解 は 形 態 . 生 産 . 食 品 加 工 等 を 記 述 す る 。 著 者 の 博 物 学 的 記 述 は か な り 精 細 で あ る 。 方 言 に つ い て は 附 録 ハ マ チ の 釈 名 に 、 イ ナ ダ . ハ マ チ ・ ヤ ズ ・ セ グ ロ ・ ツ ハ ス ・ ワ カ ナ ゴ ・ ヤ ズ ゴ ・ ワ ラ サ を 挙 げ 、 ブ リ ゴ の 釈 名 に 、 ワ ク ノ イ ヲ ・ シ ロ メ ・ フ ク ラ ギ . メ シ ロ ・ ツ バ イ ソ ウ . コ ツ
ク ラ を 挙 げ 、 ヒ ラ ス の 釈 名 に サ ウ ジ を 挙 げ 、 ま た 赤 鼻 の 項 も 立 て る 。 関 連 項 目 と し て は ブ リ ・ ハ マ チ ・ ブ リ ゴ ・ ヒ ラ ス ゜ 赤 鼻 の 五 項 目 を た て る が 、 ブ リ . ハ マ チ ・ ブ リ ゴ は 成 長 名 に よ る も の 、 ヒ ラ ス ・ 赤 鼻 は 同 目 異 種 と 認 定 す る も の の ご と く で あ る 。 そ の よ う に 解 す れ ば 特 記 す べ き も の は な い か の ご と く で あ ろ が 、 蘭 山 の 啓 蒙 の 記 述 が 簡 単 で あ り 、 江 戸 学 派 ・ 京 都 学 派 の 研 究 書 も ほ と ん ど が 未 刊 に 終 り 、 こ れ ら を 一 見 す る 機 会 も な く 、 独 自 に こ の よ う な 研 究 を 成 就 し た こ と を 思 え 注 38 ば 、 高 く 評 価 す べ き も の で あ ろ う 。 豊 後 の 関 讃 蔵 に 海 魚 志 略 ( 嘉 永 年 中 成 、 一 冊 、 未 刊 ) が あ る 。 辞 書 式 に 各 魚 の 概 説 を 加 え る が 、 類 魚 は ま と め て あ る 。 ブ リ の 項 に は 、 ミ シ ロ ・ ハ マ チ ・ イ ナ ダ ・ ヤ ズ ・ シ ホ の 名 を 挙 げ 、 ヒ ラ ス の 項 に は サ ウ ジ ・ ヌ ク バ イ . 赤 ハ ナ の 名 を 挙 げ る 。 ま た メ タ レ の 項 を た て る が 、 形 態 上 の 特 色 が 明 ら か で な い 。 巻 末 に 著 者 が 所 属 決 定 に 迷 っ た 魚 名 を 一 括 し て あ り 、 そ れ に シ ホ ・ ア カ バ ナ の 名 を 挙 げ て あ る 。 こ の 書 も 豊 後 方 言 を 知 る う え に 貴 重 で あ る 。 な お 平 戸 珍 魚 図 譜 (著 者 ・ 成 稿 年 未 詳 、 一 冊 ) に は 該 当 項 が な い 。 辞 書 形 式 の も の で は 、 蘭 山 門 で 尾 張 の 人 水 谷 豊 文 の 物 品 識 名 ( 文 化 十 年 刊 、 二 巻 ) に は イ ナ ダ ・ ブ リ の 江 戸 系 、 同 拾 遺 ( 文 政 八 年 刊 、 二 巻 ) に は ア カ バ ナ ( 紀 州 ) ・ ヒ ラ ス が 載 り 、 蘭 山 門 で 伊 勢 の 人 岡 安 定 の 品 物 名 彙 ( 安 政 六 年 刊 、 一 冊 ) は 物 品 識 名 に 従 う こ と が 多 い が 、 こ れ も イ ナ ダ ・ ブ リ が 載 り 、 蘭 山 審 定 小 野 職 孝 著 の 増 補 飲 膳 摘 要 ( 天 保 七 年 刊 、 一 冊 ) ・ 和 漢 日 用 方 物 略 ( 嘉 永 三 年 刊 、 ↓ 冊 ) に イ ナ ダ ・ ブ リ ・ シ ホ が 載 り 、 山 本 世 嬬 の 懐 中 食 性 目 録 ( 文 化 八 年 刊 、 一 冊 ) に は 、 ブ リ の み 、 同 著 者 の 増 補 懐 中 食 性 ( 嘉 永 元 年 刊 、 一 冊 ) に は ブ リ ・ ハ マ チ を 同 項 に 、 魚 貝 能 毒 品 物 図 考 ( 青 苔 園 、 嘉 永 二 年 ) は ブ リ . シ オ ウ が 載 り 、 関 西 系 の ハ マ チ が 載 ら な い の は 異 様 で あ る 。 江 戸 の 福 井 春 水 の 掌 中 名 産 物 笙 ( 天 保 四 年 刊 、 一 冊 ) は イ ナ ダ ・ ブ リ . ア カ バ ナ ・ ヒ ラ ス を 載 せ 、 大 蔵 永 常 の 食 物 能 毒 篇 (弘 化 五 年 刊 、 一 冊 ) は ハ マ チ ・ ブ リ を 載 せ 、 石 川 元 混 の 日 養 食 鑑 ( 天 保 三 年 刊 、 一 冊 ) は ブ リ を 載 せ る 。 大 蔵 永 常 は 豊 後 の 産 、 こ の 書 著 述 時 代 は 江 戸 在 住 で あ っ
た が 、 大 阪 に も 住 ん だ こ と が あ っ た の で ハ マ チ が 載 る の で あ ろ う 。 方 言 書 と し て は 物 類 称 呼 ( 吾 山 、 安 永 四 年 刊 、 五 巻 ) が あ り 、 こ れ に は ワ カ ナ ゴ ・ ワ カ ナ ・ ツ バ ス ・ 目 白 ・ イ ナ ダ ・ フ 注 39 ク ラ ギ ・ ハ マ チ ・ ワ ラ サ ・ ラ ギ ・ ブ リ ・ ソ ウ ジ ・ 大 ウ オ な ど の 名 が 載 る 。 季 語 と し て は 、 連 歌 詞 寄 せ の 藻 塩 草 ・ 無 言 抄 ・ 匠 材 集 な ど に は 見 え な い が 、 毛 吹 草 ( 寛 永 十 五 年 成 ) に は 誹 譜 四 季 之 詞 お リ ア カ パ ナ の 霜 月 の 項 に ﹁ 獅 ﹂ が の り 、 巻 四 の 諸 国 名 物 で は 、 越 中 ・ 丹 後 ・ 出 雲 ・ 対 馬 に ブ リ 、 肥 前 に ﹁ 赤 鼻 魚 ︿ 獅 二 似 ﹀ ﹂ と 載 る 。 肥 前 の ア カ バ ナ は こ の 魚 名 の 初 出 で あ ろ う 。 増 山 井 四 季 之 詞 ( 季 吟 、 寛 文 三 年 刊 ) に は 十 一 月 に 初 師 が あ り 、 以 後 の 誹 詣 大 成 し ん し き ( 鷺 水 、 元 禄 十 一 年 蹟 ) な ど は こ れ に 従 っ て い る 。 料 理 関 係 書 で は 、 当 流 節 用 料 理 大 全 ( 四 条 家 高 島 、 刊 年 未 詳 ) ・ 料 理 綱 目 調 味 抄 ( 享 保 十 五 年 刊 、 五 巻 ) な ど ブ リ . ハ マ チ と も に 現 わ れ る も の が 多 い 。 そ れ 以 外 の 成 長 名 は ほ と ん で 現 わ れ な い 。 寺 子 調 法 記 ( 安 永 五 年 刊 ) の 頭 書 の 万 字 尽 の ま ま ち 魚 之 部 に は ﹁ 飯 ﹂ が 載 っ て ブ リ は な い 。 ハ マ チ の 方 が 関 西 の 食 膳 に の ぼ る こ と が 多 か っ た の で あ る 。 以 上 、 近 世 本 草 書 類 を 中 心 に 、 獅 魚 に っ い て 、 学 的 和 名 の い か ん 、 成 長 名 と そ の 識 別 と 各 段 階 の 方 言 、 同 目 異 種 の 名 称 . 方 言 と そ の 識 別 、 博 物 学 的 記 述 の 変 化 等 を 総 合 的 に 記 述 し 、 あ わ せ て 本 草 学 の 変 遷 を こ の 魚 に 即 し て た ど ろ う と し た の で あ る 。 た だ 諸 書 の 引 用 に 終 始 し た 点 が 強 く 、 未 見 の 書 も な お は な は だ 多 く 、 記 述 に 混 乱 ・ 不 統 一 を き た し た 不 敏 さ を 深 く わ び な け れ ば な ら な い 。
注 1 和 玉 篇 に つ い て 言 え ば 、 川 瀬 一 馬 ・ 古 辞 書 の 研 究 の 分 類 順 に 言 え ば 、 三 類 本 の 音 訓 篇 立 に は 魚 類 篇 は な く 、 拾 篇 集 は 甑 を ハ リ マ チ ・ ハ マ チ ・ ヲ サ シ 。 四 類 イ 種 の 慶 長 二 年 写 本 は 販 を ハ マ チ 、 同 伊 勢 家 本 は 販 を ハ マ チ 、 鯨 を プ リ 。 四 類 ロ 種 の 長 享 三 年 本 は 鰍 を ハ マ チ 、 鯨 を ブ リ 、 元 亀 字 叢 は 販 を ハ マ チ 、 鯨 を 無 記 名 。 室 町 末 期 写 本 ( 国 会 図 書 館 ) は 販 を ハ マ チ の み 、 五 類 の 夢 梅 本 は 同 。 師 を プ リ 、 飯 を ハ マ チ 、 鱗 を 魚 名 。 大 類 の 古 活 字 本 は 販 を ラ サ シ ・ ハ マ チ ・ ハ リ ス リ 、 鯨 を ウ ヲ ノ 子 。 七 類 の 類 字 韻 は 獅 を ブ リ 、 賜 を ハ マ チ 。 八 類 本 は 慶 長 十 五 年 本 ・ 同 十 八 年 本 が 販 を ハ マ チ 、 鯨 を ブ リ 。 そ れ 以 後 の 諸 本 三 十 余 種 は ほ と ん ど が 販 を ハ マ チ 、 働 を ブ リ 、 鯨 を ウ ヲ と 訓 じ て い る が 、 倭 玉 真 草 字 大 成 ( 宝 永 四 年 元 版 ・ 文 政 三 年 再 刻 ) の み は 販 を か れ ひ ・ は ま ち ・ お ざ し 、 鯨 を ふ ぐ と ふ 、 鰍 を い な だ と 訓 じ 、 早 引 和 玉 篇 大 成 (享 保 五 年 刊 ・ 明 和 五 年 刊 ) も 飯 を ハ リ マ チ ・ ハ マ チ 、 鰍 を ウ ナ キ ・ イ ナ タ と 訓 じ て い る 。 即 ち 五 類 本 ・ 七 類 本 ・ 八 類 本 に 筋 字 が 現 わ れ る 。 比 較 的 古 い 成 立 の も の に 師 字 が 現 わ れ な い の は 、 こ の 字 が 中 国 の 辞 書 類 に 現 わ れ る こ と が 稀 な た め で あ る 。 ま た 鯨 を ブ リ と 訓 じ る の は 高 麗 版 龍 寵 手 鏡 に ﹁ 魚 名 食 之 殺 人 也 ﹂ と あ り 、 山 海 経 に は 師 魚 と 鯨 魚 と の 解 説 に 同 じ く ﹁食 之 殺 人 ﹂ 見 え る こ と な ど か ら 、 こ の よ う な 付 訓 が 生 じ た も の で あ ろ う 。 な お ハ マ チ が 早 く 現 わ れ 、 プ リ の 出 が 遅 い の は 、 関 西 で は ハ マ チ の 段 階 ま で ば 内 海 に お り 、 そ れ 以 上 成 長 す る と 外 洋 に 出 る こ と と 、 ハ マ チ の 段 階 が 最 も 美 味 で 食 膳 に の ぼ る こ と が 多 い こ と と の た め で あ ろ う か 。 2 ﹁ 青 魚 青 亦 作 鯖 ﹂ (本 草 綱 目 ) 。 ま た 鯖 と 時 魚 な ど 。 図 書 集 成 一 百 四 十 六 巻 ﹁ 魚 師 部 彙 考 ﹂ の ﹁ 釈 名 ﹂ に ﹁ 師 魚 山 海 経 、 辮 本 草 綱 目 ﹂ と あ る 。 た だ し 本 草 綱 目 は ﹁ 魚 師 ﹂ で あ る 。 い ず れ に し て も 、 師 魚 ・ 魚 師 ・ 鱒 が 中 国 で 同 物 を さ す も の と さ れ て い た こ と は 明 ら か で あ る 。 3 ﹁魚 師 時 珍 日 、 陳 蔵 器 諸 魚 注 云 、 魚 師 大 者 有 レ 毒 殺 レ 人 、 今 無 二識 者 一、 但 唐 韻 云 、 獅 老 魚 也 、 山 海 経 云 、 摩 瀧 之 水 有 二師 魚 一、 食 レ 之 殺 レ 人 、 其 即 此 欺 ﹂ (本 草 綱 目 ) 。 以 上 の よ う な 中 国 の 魚 を 本 邦 に な ぜ ブ リ と 訓 ず る に 至 っ た か 未 詳 。 ﹁ ブ リ と い う 訓 も 老 魚 の 意 を 以 て 年 経 り た る の プ リ に よ り て ブ リ の 魚 と い ふ を 濁 音 に 言 習 は せ た る な る べ し ﹂ ( 日 本 山 海 名 産 図 会 、 巻 三 ) や ﹁ あ ぶ ら お ほ き 魚 な り あ ぶ ら の 上 を 略 す ら と り と 通 ず ﹂ ( 日 本 釈 名 ) も 珍 妙 な 語 源 説 で あ る 。 た だ 漢 宇 の 現 わ す 魚 名 の 実 質 が 中 国 と 日 本 と で 相 違 す る こ と は 多 い 。 多 く は わ が 方 の 誤 解 に よ る も の で あ ろ う 。 た と え ば 鮎 は 中 国 で は ナ マ ズ わ が 方 で は ア ユ な ど 。 渋 沢 敬 三 ・ 日 本 魚 名 の 研
究 、 一 〇 二 P 等 参 照 Q 4 た と え ば 李 南 豊 の 医 学 入 門 は 和 刻 本 も 数 種 あ る ほ ど に わ が 国 で も 盛 行 し た 書 で あ る が 、 そ の 二 巻 の 青 魚 の 項 に 、 ﹁ 眼 目 昏 暗 取 レ 汁 点 レ 之 ﹂ と あ り 、 胆 汁 は 目 薬 と さ れ る が 、 中 国 の 青 魚 は 鯉 科 の 淡 水 魚 で 、 日 本 の サ バ と は 全 く の 別 種 。 日 本 の サ バ の 胆 汁 を 目 薬 に さ れ て は 大 変 で あ る 。 5 道 三 の ﹁ 能 毒 ﹂ に は 永 禄 九 年 版 ・ 天 正 八 年 版 ・ 慶 長 十 三 年 版 等 が あ り 、 慶 長 十 三 年 は 玄 朔 の 改 版 に な る 。 そ の 序 に 、 ﹁ 近 本 草 綱 目 来 朝 、 予 閲 之 、 礁 至 要 之 語 、 又 加 之 増 添 薬 品 ﹂ と あ る 。 慶 長 十 三 年 は 綱 目 の 初 渡 来 の 翌 年 。 玄 朔 の 日 用 食 性 に は 綱 目 よ り 取 っ た 思 わ れ る 魚 名 一 覧 が あ る 。 6 明 治 前 日 本 薬 物 学 史 第 二 巻 一 七 二 P 。 な お 美 濃 医 書 は 木 活 宇 版 、 横 山 重 氏 蔵 。 7 上 中 下 の 三 段 は 、 中 国 の 食 医 の 制 の 遣 風 で 、 食 療 上 の 三 区 分 を さ す 。 8 成 長 名 は 、 成 長 す る に し た が っ て 呼 び 名 を 異 に す る も の で あ り 、 そ の よ う な 魚 は 多 く 立 世 魚 と 呼 ば れ る 。 成 長 名 は 魚 類 に 限 ら ず 、 人 類 を 始 め と し て 獣 類 に も 多 い 。 渋 沢 敬 三 ・ 日 本 魚 名 の 研 究 ・ 二 〇 三 P 等 参 照 。 9 宜 禁 本 草 の 本 文 に は 鯉 魚 を 始 め 十 八 種 。 10 未 見 な が ら 、 元 和 九 年 ・ 寛 文 二 年 の 木 活 字 本 二 巻 が あ る 。 こ れ ら の 増 補 改 訂 版 が 延 宝 本 で あ ろ う 。 11 宜 禁 本 草 . 宜 禁 本 草 集 要 歌 ・ 和 歌 食 物 本 草 ( 二 巻 本 ) ・ 同 (増 補 七 巻 本 ) ・ 本 草 和 歌 能 毒 (二 巻 ) の 四 者 関 係 は ま だ 精 査 し て い な い 。 前 二 者 は 内 容 的 に 密 接 な 関 係 に あ る と は 思 え な い 。 本 草 に 説 く 所 と 要 歌 の そ れ と に H 致 し な い こ と が 多 い か ら で あ る 。 木 草 和 歌 能 毒 は 漢 名 の 能 毒 を 和 歌 に し た も の で あ る 。 12 明 治 前 薬 物 学 史 第 二 巻 に よ れ ば 、 慶 長 十 入 年 か ら 正 徳 二 年 に 至 る 問 に 少 な く と も 十 一 回 の 刊 行 を さ れ 、 寛 永 以 後 の 諸 版 の 内 容 は ほ と ん ど 変 っ て い な い と さ れ る 。 内 容 的 に は 宜 禁 本 草 を 出 る も の で は な く 、 新 見 に 乏 し い 。 13 明 治 前 生 物 学 史 第 一 巻 に 、 ﹁字 は 閲 甫 、 丹 水 と 号 し 、 ⋮ 古 医 方 を 唱 え た ﹂ と あ る 。 医 学 的 に は 金 元 派 の 観 念 論 を 排 し 、 . 実 証 主 義 に 立 っ て 立 論 し 、 食 物 に つ い て も ﹁ 本 朝 俗 間 所 レ 用 物 経 中 大 半 閾 レ之 其 闘 者 何 以 証 レ之 耶 ﹂ と し 、 中 国 本 草 書 に 解 説 の 無 い 薬 物 に 対 す る 研 究 の 必 要 と 、 こ れ に 対 処 す る 自 己 の 方 針 を 述 べ て い る 。
14 食 物 摘 要 と 食 物 本 草 大 成 と は 、 国 会 図 書 館 参 考 書 誌 部 の 解 答 に よ れ ば 、 同 一 内 容 書 と の こ と で 、 同 版 の 意 と 解 し て い る 。 た だ 前 者 が 七 巻 、 後 者 が 入 巻 の 点 に 疑 問 は 残 る が 、 今 は そ れ に 従 っ て お く 。 山 崎 保 春 の 序 ( 元 禄 六 年 ) の 題 に は 食 物 本 草 大 成 と あ り 、 目 録 題 の ﹁ 本 草 ﹂ の 字 は 埋 め 木 に よ る も の の よ う に も と れ る 。 両 書 の 関 係 の 検 討 は 今 後 に 残 す 。 引 用 は 食 物 本 草 大 成 に よ る 。 保 春 の 序 に よ れ ば 、 ﹁有 二了 庵 新 井 玄 圭 者 一出 レ自 二 野 之 下 州 館 林 一俳 二 徊 干 武 之 江 城 一初 武 門 之 雄 士 而 有 レ 故 隠 二杏 林 一柳 敲 二 孔 孟 性 理 之 肩 一 勤 探 一一本 草 内 経 之 磧 一⋮ 当 世 之 名 医 也 ﹂ と あ る 。 15 生 二 四 方 海 中 一大 者 長 二 一二 尺 円 身 細 鱗 状 似 二 鰹 魚 一其 色 背 正 青 腹 白 又 一 尺 至 二 一 尺 五 六 寸 一 者 俗 謂 二 之 伊 奈 多 ・或 一 尺 以 下 者 謂 一之 和 加 奈 古 一皆 味 甘 無 レ 毒 出 レ自 二丹 後 ﹁者 味 美 作 二 口 魚 ﹁者 益 佳 補 二 益 人 一俗 以 為 二 魚 師 一者 非 魚 師 即 無 鱗 毒 魚 而 殺 レ 人 不 レ 可 レ 食 者 也 ﹂ 。 ワ ヵ ナ コ は 以 後 物 類 称 呼 ・ 日 本 山 海 名 産 図 会 ・ 魚 鑑 等 に 載 る 。 16 ﹁ 五 才 の 時 父 に 従 っ て 長 崎 に 移 り 、 長 ず る に 及 ん で 儒 医 た ら ん と し て 研 鎭 日 夕 倦 ま ず ⋮ 知 命 に 及 ん で 京 都 に 遷 り 捷 み 、 医 業 を 開 い た 。 寛 文 一 〇 年 金 沢 に 遊 ん で 、 前 田 綱 紀 の た め に 養 生 を 説 き 、 ま た そ の 嘱 に 応 じ て 倭 名 本 草 を 著 し た ﹂ ( 明 治 前 日 本 生 物 学 史 第 一 巻 ) 。 漢 名 本 位 の 編 纂 法 は 依 嘱 者 に よ る も の か 。 そ う み れ ば 、 の ち 稲 生 若 水 は 同 じ 綱 紀 に 仕 え て 、 た め に 庶 物 類 纂 一 千 巻 の 編 集 に あ た っ た が 、 若 水 編 の 部 分 は 中 国 書 中 心 の 考 証 に あ る 。 和 名 の 決 定 は 和 名 抄 と 多 識 篇 に よ り 、 実 地 の 見 聞 に も と つ く 解 説 を 加 え て あ る 。 ﹁ 魚 師 倭 名 鋤 二 魚 師 ナ シ 多 識 篇 ニ フ リ 考 本 草 魚 師 ハ 魚 ノ 大 ナ ル モ ノ 也 毒 ア リ 人 ヲ 殺 ス 食 ス ベ カ ラ ズ ト 云 云 0 元 升 日 日 本 ブ リ ヲ 食 ス ル 事 昔 ヨ リ 常 ノ コ ト 也 然 レ ド モ ブ リ ヲ 食 シ テ 死 ス ル モ ノ ナ シ 魚 師 ヲ プ リ ト イ ヘ ル ハ 誤 リ ナ ル ベ シ 畢 立見 ナ ニ ト モ イ マ タ 知 レ ズ ﹂ 17 ワ ラ サ は 書 言 字 考 ・ 物 類 称 呼 ・ 魚 鑑 等 に 載 り 、 今 も 東 京 ・ 東 海 地 方 ・ 伊 豆 等 で 使 用 。 蒲 原 稔 治 氏 の ﹁ 魚 ﹂ ( 標 準 原 色 図 鑑 全 集 ) の ア ジ 科 ア ジ 亜 目 の カ ン パ チ の 項 に 、 ア カ ハ ナ ・ ア ヵ バ ナ を こ の 魚 の 和 歌 山 ・ 高 知 ・ 関 西 ・ 九 州 の 方 言 と し 、 こ の 魚 の ブ リ と の 形 態 上 の 差 の 述 べ た う え 、 ﹁東 北 地 方 か ら 南 日 本 、 朝 鮮 ・ シ ナ 海 ・ ハ ワ イ に 分 布 し 、 九 州 沿 岸 で は か な り 多 く 漁 獲 さ れ る ﹂ と あ る 。 も っ と も 渋 沢 敬 三 ・ 同 本 魚 名 集 覧 で は ブ リ の 古 名 と す る が 、 ブ リ の 方 の 方 言 に は ハ ナ ア カ 又 は ア カ ハ ナ 系 の も の は み ら れ な い の で 、 こ の 説 い か が 。 畔 田 翠 山 の 水 族 志 は ﹁ ア カ ハ ナ ﹁ ブ リ ﹂ 二 同 シ テ 其 鼻 尖 淡 紅 色 ﹂ と 、 ブ リ の 日 種 と み て い る ら し い 。 こ の 書 は ヒ ラ ス ・ シ ホ ハ マ チ は 別 種 と す る 。 コ 爪 都 鱒 魚 小 臼 飯 く ハ マ チ V 江 都 此 日 レ鰍 訓 二 伊 奈 多 一⋮ 又 有 下 謂 二 和 羅 佐 一者 上 此 亦 販 鰍 之 類 又 西 海 有 一二 種 大 鱒 赤 鼻 者 一号 日 二鼻 赤 其 性 未 レ 詳 L
18 元 禄 十 六 年 本 で は 、 序 題 . 目 録 題 ・ 尾 題 は 日 用 食 性 和 解 大 全 、 内 題 は 食 物 和 解 大 成 と あ る 。 旧 版 を 使 用 し 、 序 題 ・ 目 録 題 ・ 尾 題 の み 埋 め 木 し て 書 名 を 新 た に し て 新 刊 を よ そ お い 、 内 題 の み 旧 を 存 し た も の で あ ろ う 。 19 牛 山 は 白 井 光 太 郎 . 日 本 博 物 学 年 表 に よ れ ば 、 貝 原 益 軒 系 で あ る 。 松 岡 玄 達 の 巻 懐 食 鏡 序 に は 、 ﹁ 香 月 牛 山 君 。 以 医 久 鳴 † 京 師 。﹂ と あ り 、 医 学 の 著 が 多 く 、 こ の 書 も の ち 小 野 蘭 山 が 本 草 学 講 義 の テ キ ス ト に し た こ と が あ る 。 ヤ ズ ・ ヒ ラ ス の 名 は 益 軒 の 大 和 本 草 の 説 を 承 け た も の で あ る 。 ヤ ズ は 大 和 本 草 ・ 魚 鑑 ・ 水 族 志 等 に 載 り 、 日 本 魚 名 集 覧 に よ れ ば 、 現 在 島 根 県 八 束 郡 ・ 隠 岐 ・ 福 岡 ・ 長 崎 等 に 使 用 。 ヒ ラ ス は 日 本 魚 名 集 覧 は カ ン パ チ の 古 名 と す る が 、 カ ン パ チ の 現 方 言 に ヒ ラ ス 系 が な い の で 、 こ の 説 い か が 。 ブ リ と 同 じ ア ジ 科 の ﹁ 種 に ヒ ラ マ サ が あ り 、 こ れ の 現 方 言 に は ヒ ラ ス (関 西 ・ 高 知 ・ 九 州 ・ 壱 岐 ・ 長 崎 ) や ヒ ラ サ (広 島 県 ) や ヒ ラ ソ (島 根 県 ) な ど が あ る の で 、 こ の 方 が よ か ろ う 。 ヒ ラ マ サ は 蒲 原 ・ ﹁魚 ﹂ に は 、 ﹁ 北 海 道 ・ 朝 鮮 か ら オ ー ス ト ラ リ ヤ ・ ハ ワ イ に 分 布 す る ﹂ と あ り 、 南 方 系 の 魚 で あ る 。 20 達 日 虎 里 ︿ ブ リ ﹀ ⋮ 又 有 一伊 ム旱 他 一伊 勢 呼 為 二漸 屈 路 く セ グ ロ V 一似 レ師 而 小 ⋮ 又 有 二虎 里 我 ︿ ブ リ ゴ ﹀ 一丹 之 田 辺 呼 ・一倭 屈 魚 ︿ ワ ク ノ ウ ヲ ﹀ 泉 之 左 海 呼 一白 眼 く シ ロ メ V 一越 中 名 ・虎 屈 棘 漠 く フ ク ラ ギ V 一小 者 名 二 仔 践 衣 所 ︿ ツ バ イ ソ フ ﹀ 一 大 者 名 二 骨 仔 屈 棘 ︿ コ ツ ク ラ ﹀ 一 皆 酸 是 虎 里 小 者 或 云 虎 里 虎 里 我 自 是 二 物 備 後 靹 有 二虎 里 我 一無 二 虎 里 一則 非 一二 物 一明 紀 州 有 二 西 屋 魚 ︿ シ オ ウ ヲ ﹀ 一亦 潤 麻 質 ︿ ハ マ チ ﹀ 之 別 種 也 形 全 類 ・一潤 麻 質 ﹁但 脊 骨 色 青 味 美 ⋮ 賀 人 云 春 出 名 二衣 翁 他 ﹁冬 出 名 二 虎 里 一 ブ リ ゴ . シ ヲ ウ ヲ は 以 後 の 書 に ま ま 載 る が 、 魚 名 集 覧 の 現 方 言 に は 用 例 を み な い 。 セ グ ロ は 現 土 佐 方 言 、 ワ ク ウ オ は 現 京 都 方 言 (六 ∼ 八 寸 ) 、 シ ロ メ は 現 明 石 方 言 、 フ ク ラ ギ は 物 類 称 呼 ・ 日 本 山 海 名 産 図 会 等 に 載 り 、 現 青 森 ・ 越 中 ・ 富 山 方 言 、 ゴ ヅ ク ラ は 現 北 陸 ・ 越 中 方 言 。 21 ﹁ 廓 ノ 小 ナ ル ヲ ハ マ チ ト 云 江 戸 ニ テ イ ナ タ ト 云 筑 紫 ニ テ ヤ ズ ト 云 地 ニ ヨ リ テ 名 カ バ レ リ 皆 ﹁ 物 也 ヤ ズ ニ モ 色 ノ 少 ア カ キ ア リ 少 大 ナ ル ヲ 目 白 ︿ メ シ ロ ﹀ ト 云 〇 一 種 ヒ ラ ス ト 云 モ ノ ア リ フ リ ニ 似 テ 大 ナ リ ⋮ 其 小 ナ ル ヲ サ ウ ジ ト 云 ﹂ (大 和 本 草 ) メ ジ ロ ・ ヒ ラ ス ・ ヤ ズ ・ サ ウ ジ は こ の 書 が 初 出 。 サ ワ ジ は 島 根 県 美 保 関 で ブ リ の 幼 名 、 サ ワ ズ は 島 根 県 八 束 郡 ・ 隠 岐 で の 幼 名 。 22 家 蔵 本 は 十 巻 ∼ 十 三 巻 、 二 十 巻 ∼ 三 十 一 巻 ( 二 十 八 巻 欠 ) の 端 本 で 、 全 容 を 知 る こ と が で き な い 。 岩 瀬 文 庫 の ﹁ 越 後 本 草 ﹂ は 、 こ の 書 の 同 物 異 名 。 ﹁ 脚 ・, ・子 ノ 名 目 五 六 月 ノ 交 大 サ 五 六 寸 斗 ナ ル 者 ヲ 津 波 伊 須 く ツ ハ イ ス V ト 云 則 小 脚 ︿ ツ ハ ス ﹀ 也 く 西 国 ニ テ 号 ・和