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その裳をとり給ひて : 浮舟の巻私見

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そ   の   裳   を   と   り   給   ひ   て 浮   舟   の   巻   私   見 御物忌二日とたばか-給へれば'心のどかなるままに、かたみに あはれとのみ深く思しまさる。右近は'よろづに例の言ひまざらは して'御衣など奉-た-。今日は乱れたる髪すこしけづらせて' 濃き衣に紅梅の織物など,あはひをかし-着かへて居給へ-。倒従 も , あ や し き 闇 斎 た り し を あ ざ や ぎ た れ ば , そ の 裳 を 匂 封に着せ齢ひて'御手水まゐらせ給ふ。脈打にこれを奉-たらば' いみじきものにし給ひてむかLt いとやむごとなき際の人多かれ ど、かばかりのさましたるは難-や'と見給ふ。かたはなるまで遊 びたはぶれつつ暮し給ふ。(浮舟1日本古典全書源氏物語に拠る。 以 下 同 じ 。 ) 右の傍線部分の解釈について私見を述べたい。 ( こ まずこの部分について従来行なわれて来た解釈の主なものを見る と 「河海抄」は「しぴらうはものこと∼こゝに分明也」 「花鳥余情」は「しひらほうは裳なり裾の字な-その裳をと-袷 てといへるはやかてうは裳のこと也」 「弄花抄」は「侍従がしひらをかへたるを、浮舟君にきせしな-」 「細流抄」は「しぴら 裳也」 「湖月抄」は「摺 (細U裳」 「あざやぎたればその裳をと-袷 ひて︹細U侍従がしぴらをきかえたるを浮舟にさせ給ふ也」 (筆者 注 ∩ 細 ︺ は 細 流 抄 ) 「新釈」は「侍従が志びら着たるさまのあざやかによ-見えつれ ばその裳をと-て浮舟にきせて仕る人のさまに旬の御手水の湯をと らせてたはぶれ遊給ふな-さて此下に言抑宮へ旬のおぼす人一人二 人奉-おきた-と見ゆ然れば是もさ様にてもおぼすなりけり(略)」 「玉の小櫛」は「君にさせ給て御てうづ云々は'御手水をまゐら

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- 16 -する女は'かならず裳をきる礼儀なる故に'有合せたる侍従が裳 を'浮舟君にさせてな-」とある。 以上の諸注を裾と裳との関係にしぼって読むと'それについて 触れていない「玉の小櫛」以外のすべてが'ここで云われている 「裳」は摺を指すと解している。次いで現代の諸注を見ると 「対校源氏物語新釈」は頭注に「摺'上裳で主人などに侍する時 着る」'「摺」の傍注に「裳の事」とある。 「日本古典全書源氏物語」は「袴は主人に奉仕する時用ゐる上裳 といふ。匂宵はその裾を取られて浮舟にお著せにな-'御手水に奉 仕させなきる。」 「日本文学大系源氏物語」は「(昨夜は着のみ着のまま出たので) 着古して見苦しい上裳(摺)を着けていたけれども'今は着換え て'鮮やかに立派になったから' 匂宵はその侍従の着けていた裳 (摺)を御取-なされて'浮舟に御着せなされて」 ヽ ヽ 「源氏物語評釈」は訳文に「侍従も簡単な裾を着ていたが美しい のに着かえたので'その裳をお取-になって'女君にお着せになっ ヽ ヽ て手を洗わせなさる」。語釈に「しぴら 摺﹃うはも﹄で、袴の上に 着けるという(﹃笥注和名抄﹄).形はよ-わからない.古い服装で、 この物語では'主人の前で召使が着る。後方へ腰から下につける。」 ヽ ヽ 鑑賞に「侍従が今までの裳を裾にかえる。そてでその裳を女君に付 けさせて'手水の世話を命ずる。」とある。 佐伯梅友博士は「﹃その裳﹄とは前の﹃あやしき摺﹄と同一か' あるいは'侍従が今新し-着けたのを取-上げたのか。宮がこれを 女君に着せたのは女君を女房扱いにしたのだという。」 (「解釈と鑑 賞」昭四五'七月号'源氏物語注釈)と云って居られる。 以上を整理すると'佐伯説の後半以外は'すべてt Lぴら-上裳 -裳   と 解 釈 さ れ て い る 。 さて'「槽」が源氏物語に見えるのは次ぎの三例である(大成索 引 に 拠 る ) 0 しぴら二例(末摘花'浮舟)t Lぴらだつもの一例(夕顔) そこで'上記の注釈書が夕顔の巻・末摘花の巻で「しぴら」をどの 様に注しているかを念のために調べて見ると' 「河流抄」 (夕顔) 「延喜式 摺 覆レ袴之衣也 内蔵式云.鷲 輿丁摺勘文 栄花物語云女房四五人はかりうす色のしひらかことは か り ゆ ひ つ け た り   し ひ ら は う は も 也 」 「細海抄」 (夕顔)  「摺字也裳など引かけたるは人をうやまふ さまにて同僚計あるとは見えぬさまなり」 「湖月抄」 (夕顔)頭注に「︹細︺摺字也裳など引かけたるは' 人をうやまふさまにて同僚計あるとは見えぬさまな-」。傍注に 「うは裳を云」とある。 同 (末摘花) 「しぴら」の傍注に「裳をかけたる也」と ある。 「新釈」(夕顔)「袴は'令義解に'枚哲也といへば'裳の腰に又 う は も と て ' ひ ら め な る 絹 を ま と ふ を 、 こ こ は 裳 を 略 し て ' そ の 枚 帯のみ引きかけてある也。故に托言ばか-ひきかけてとはいふ也。

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催馬楽に上ものすそぬれ'下ものすそぬれなどいへ-。きてうやま ふ主あれば侍ふ女は裳をきるなれど'ここは隠れたる所故にしぴら をのみそのしるしに引かへて仕ふる也」 「対校源氏物語新釈」 (夕顔) 「摺'「うはみ」とも「ひらぴ」と もいふ。裳と殆んど同じもの」 「日本文学全書源氏物語」 (夕顔) 「裾は裳と同じ様なもので相手 に敬意を表する時に著ける。」 「日本文学大系源氏物語」 (夕顔) 「腰裳のようなもの。﹃摺﹄は ﹃うはみ﹄とも﹃ひらぴ﹄と-いう。裳より形も小さく'腰に巻き つけて裳の代用に用いるもの」 同                     ( 莱 )   「 裾 は 腰 に つ け る 小 さ い 裳 」 「源氏物語評釈」  (夕顔) 「しぴら どういうものかわからな い。男は袴の上、女は裳の上に着るという。礼装」 を考えていると見られるので'これも唐衣の裳とは別物と考えてい ると解することが出来る。.これを始めに掲げた浮舟の巻の本文に当 てはめると'上掲の諸注が'この場の「裳」は「摺」をいいかえた ものと解しているのはt Lぴらが広義の裳に含まれるところから発 していると考えられる。 しかし'一体'浮舟の巻のこの場で'裳と裾とは果して同義語と して用いられているのだろうか。私はこの点を先ず考えたい。本物 語中の「しぴら」 「しぴらだつもの」の用い方を点検すると り   「 い と 寒 げ な る 女 房 ' 白 き 衣 の い ひ 知 ら ず す す け た る に , ヽ ノ 2 lHJu n rJ H 1 3 iZ は 川 u 同 (莱) 「どういうものかよ-わからない。礼装 のとき'腰につけると言う。」 1日 rh Ht 1 ′ t E ll-mu 2 nHJ川U J ・ ∼ 3 ′   ー ) 別U lHr川U R u 5 h u J u 以上によるとt Lぴら即ちうはも - 河海抄(夕)、湖月抄(夕)'新釈{夕)I しびら即ち裳 - 細流抄(夕)'湖月抄(莱) 裳と同様のもの - 対校新釈(夕)'日本文学全書源氏物語 腰裳の様なもの ー 日本文学大系源氏物語(夕) 不明とする-の - 評釈(夕) (莱) たなげなるしぴら引きゆひつけたる腰つきかた-なしげなり」 ( 末 摘 花 ) 上 掲 本 文 ( 浮 舟 ) 「いと忍びて五月の頃はひよ-ものし給ふ人なむあるべけれ ど'その人とは'さらに家のうちの人にだに知らせず'となむ 申す。時々中垣のかいま見し侍るに'げに若き女どもの透影見 え 侍 -。 裾 だ つ も の ' か ご と ば か -引 き か け て ' か し づ -人 るなめ-。」 (夕顔) 即ち細流抄以外は、裾をいわゆる唐衣の裳とは区別して考えてい る。細流抄も裾の字を当てている所から'衣服令の裾や延書式の招 川は落塊した故常陸宮邸'姫君に仕える古女房達が着けている。 佃は宇治の薫の別業に'隠し据えられている浮舟の女房侍従が,女 君に仕えるのに着けている。 佃は五条の隠れ家'人目をしのび住む夕顔に仕える女房が着けてい る。なお'栄花物語に-一例が拾える。 用 「若やかなる女房四五人ばか-'薄色のしぴらども,かごとば

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- 18 -ケ かり引き結ひつけた-。何事もしめ-あはれにをかし」 (はつ はな - 日本文学大系栄華物語に拠る'以下同じ) 印は,寛弘七年正月'復位した伊周が'〓昨年よ-は、御封など も例の大臣の定に得させ給へど国ぐの守も'はかばかしくすがや か に 奉 ら ば こ そ あ ら め ' い と い と は し げ な -」   ( は つ は な ) と い う 不如意の生活の中に病み'北の方にあわれな遺言をする条で、女房 達が着用。 右の四例の共通点をもとめると' ィ,主君の前で女房が着けている。 ロ、その主君は逼塞した生活をしているか'又は事情があって存在 を秘している。 ハ,従って裾を唐裳の上に着けるのでなく摺だけを単独に衣服の 上に着けている様子である。 しぴら(摺)については「等注和名類衆抄」に

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調

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袴上一之言也'云々」 「 女 官 飾 抄 」 に 「しぴらほうは裳の事也男は袴の上の着也女はから裳の上にきる 也裾と書也」 「源氏官職故実秘抄」に「しひらたつ物」の条に 「しひらは禰なり男は袴の上にきる女は上智にて具して着る物也 といへり或は略して摺ばか-も着けるとな-是も女房のほど′ーに よりて其色替るにや○衣服令内親王浅緑摺蘇芳深浅紫綬繰襟女王摺 同二内親王」内命婦一位浅緑摺蘇芳深浅紫緑綬琴二位裸亦同蓋不レ見二 摺制一柑○同集解穴云女槽服二律上一耳跡云婦女服二摺琴男裾加二表 袴上女摺先著禰而結線裸表而摺下端顕也宗響 などとあるところから諸注が裾即ち上裳とする説を採ったものかと 思われるが'衣服令に見える女子の礼服が'源氏物語の舞台となっ ている時代にも,変わらずに行なわれていたのではない。「続日本 後記」承和七年三月丁丑朔の詔に「宜下首今以後女所服裳夏之表紗 冬ノ中ノ槍不レ論二貴践二切禁断二裳之外不レ得二重琴京畿七道准制 禁断。」と見え'延喜式弾正式に「凡婦人袷ノ裳不レ論二貴践二裳之 外不レ得二重著垂裳ハ不レ在二制限こと見える通-'礼服にも裾を着 けることは停められた。それに伴って裳の製も変わって中古のいわ ゆる唐衣の裳となった。袴は用いられな-なったが'私家の用にわ ずかに名残-を留めていたものであろう。(註-) 標注令義解校本の衣服令内親王礼服の注には左の様に云ってい る。 シタモ 「摺。跡云。婦女服二摺襟東男摺ハ表袴ノ上.女摺ハ先着槽而碩裾ヲ 表ニシテ而槽下端鋲ルル也C着レ総之裾也。この説に依るに'裾よりち 下に着る物也。(略) 源氏夕貝にt Lぴらたつものかことばかり 引かけて'かしづく人侍るめ-。河海抄に'延善式摺。覆袴之衣 也。と見ゆ。此袴は張袴な-。張袴の上に摺、其上に裾也。又夕貝 モ に、うすものゝ裳あざやかに引ゆひたる腰つき'さはやかになまめ きたり。と見ゆ。前に引るしぴらたつ物は'夕貝ノ君の隠家なる女

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ケ モ 房の嚢のさまにて、裳を着たるばか-の正しき体は見えねど,袴の 上 に し ぴ ら ら し さ 物 を か け た る ほ う や ま ふ 人 あ る に や , と い へ る 也。これに依るに'摺字シビラと訓べきが如-なれ共,シビラは中 シ タ モ 古賓に用る裾の称にて'其制下裾に等しき也。きればシビラは俗称 にて'私家に仕る女房の着る物なれば'令の槽字を'それに依てシ ビラとは訓べからず。されば裾は'下裾にて'即礼服の折に裾の下 に着る物なれば'シタモの訓よ-当れ-。又うすものゝ裾,あざや かに云々は'御息所に仕る女房の事にて'こは裾を着たる式正の ヽ 姿'貴人の御前にてのきま也。中古よ-裾をも裳と書たるからに, 裾とはいかなる物とも知られ難-なれ∼ど'中古の裳は,今の裾 シタモ 也.かゝれば'裾は裾の下に着る物なる事'縫殿式に下裾.和名抄 に下ヲ日裳。とあるを合て知べし。芋類抄にウハモとあるは男ノ服 にて'既に前件(筆者注、皇太子礼服の条)にいへ-。女のは下に 着る物なるゆゑにシタモと云也。此物男の用ると'女の用ると,一 字両訓也。混べからず。」 これによると'衣服令に見える男子の礼服の裾は袴の上に着用す るものであるからうはも又うはみと云ったが'女子礼服の裾は紅の 袴の上にまとい'更らにその上からもを着けたので,したもと訓む べきでt Lぴらと訓むべきでない。しぴらは俗称で'中古私家に仕 える女房の着るもので'嚢に用いる裾(仕立てが下宿に等しい)の 称で'令の礼服の袴とは別物だというのである。源氏物語と栄華物 語に見える用例でもt L.ぴらは'私家に仕える女房の,裏に用いる 略式礼装であったと解される。 浮舟の巻の上掲本文について云えば'侍従は'「おはせむとあり っ れ ど ' か か る 雪 に は ' と ' う ち と け 」   ( 浮 舟 ) て い た 際 だ っ た で'昨夜は'ふだん女君に仕える時に着ている略礼装で、「あやし き摺」を着けていた。そしてその姿のまま'浮舟に付き添って出か けたのだった。 次に'本物語中に見える裳の用例を点検すると、左の通りであ る 。 用例一六(大成索引によP).その内'着用例〓っ 川 紫苑色の折にあひたるうすものの裳鮮やかに引き結ひたる腰 付'た虐やかになまめきた-(夕顔) - 六条御息所邸'中将 の 君 いかが思ふらむ'と'さすがにすぐしがたくて'裳の裾をひき わどろかし給へれば(紅葉貿) - 宮中'源典侍 下策の様など'よしぼめるに'いたうひきいりて'ほのかなる 袖 口 ' 裳 の 裾 ' 汗 杉 な ど ' -の の 色 い と き よ ら に て ( 葵 )   六条御息所の串に陪乗する女房 下仕へはあふちの裾濃の裳、なでしこの若葉の色したる唐衣 (壁) - 六条院'五月五日の競射を見る下仕えの女 柳の織物の細長へ萌黄にやあらむへ小社着て'うすものの裳の は か な げ な る ' ひ き か け て 、 こ と さ ら 卑 下 し た れ ど ' ( 若 下) - 六条院の女楽'明石の御方の謙遜による着裳 人々も'鮮かならぬ色の'山吹'掻練'濃さ衣、青鈍などを着 かへさせ、薄色の裳'青朽葉などをとか-まざらはして,御台

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(7) (8) (9) -20 -㈹ ぞ ' はまゐる(夕霧) - 喪中の一条宵'女房達 紅の黄ばみたるげそひたる袴、萱草色のひとへ、いと濃き鈍色 の黒きなどうるはしからず重な-て'裳へ唐衣も脱ぎすべした りけるを'とかく引きかけなどするに (幻) - 六条院'中将 の 君 ' 侍従もあやしき摺着た-しを、あざやぎたれば'その裳をと-給ひて'君に着せ給ひて(浮舟) - 匂宮の前にある浮舟の女 房'侍従 裳はただ今われよ-上なる人なきにうちたゆみて'色もかへぎ りければ'薄色なるを持たせて参る(蟻輪) - 浮舟失掠後' 右近に代って匂宮邸に召される侍従 黄なる生絹のひとへ'薄色なる裳着たる人の扇うちつかひたる など'用意あらむはやへと'ふと見えて (煩輪) - 女一宮の 御前に侍る小宰相 限-あれば,宮の君などうち言ひて'裳ばか-引きかけ給ふ いとあはれなりける (鱈輪) - 女一宮に出仕した峠輪式部卿 の'嚢と晴れの使い分けと見ることができよう。「歴世服飾考」に 「源氏物語浮舟ノ巻二侍従もあやしきしぴらきたりしをあざやぎた れ ば ' そ の も を と -て 君 に き せ た ま ひ て ト ア レ バ ' 袴 ヲ オ シ ナ ベ テ ハ裳トイヒシ事知ルベシ」 (巻六) と云っている。源氏物語の従来の注がそうなっていたし'枕草子の 異本にも「裳は大海t Lぴら」という本文があるから'その如-に 考えたのだろうが'むしろこの一節は'袴は嚢に''裳は晴れの場合 に用いた'という例証として挙げるのに適した個所であろう。 的 的 価 裳着'三例。 梅枝 - 明石の姫君 紅梅 - 紅梅大納言の姫達 宿木 - 女二宮 の宵の姫君。 佃は本稿の問題とするところであるから暫くおいて'他の十項 は'宮中や権門の邸で'女房が着用している点から見て'明かに' すべて唐衣の裳である。 裾の着用例は'裾が私的であ-'その主家の陀びしい生活を反映 しているのに比べて'裳は'いかに公的な晴れの衣裳であるかを、 この十項の着用例が実証している観がある。佃も侍従の裾と裳と 唐衣の裳であることは云うまでもない。 贈 -物 ' 一 例 。 ㈹ 中宮よ-白き御裳'唐衣'御装束、御髪あげの具など'いと二 なぐて'(行幸)!玉宴の裳着に際して秋好中宮から 禄 、 一 例 。 ㈹ 四位六人は女の装束に細長そへて'五位十人は三重聾の唐衣' 裳の腰も'みなけぢめあるべし(宿木) - 六の君と匂宮の新 婚第三夜の夕霧邸。 ㈹㈹二例とも唐衣と共に与えているところから'問題な-'唐衣 の裳と見ることが出来る。 佃は暫く措くとして'1五例すべてが'所謂唐衣の裳の意味で用

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こ 伊-カ弓メ一一副しても ー   、 勺 . ー f ′ いらいれている。佃の侍従の場合も'匂宮の前にあるので賓の用の 袴を脱いで唐衣の裳をつけて正装していると見るのが自然ではなか ろうか。それに'衣裳を届けた右近の心積も-では、侍従が宵の手 水に仕える筈であった。その点からも侍従は裳をつけているべき である。女君は「濃き衣に紅梅の織物など」美し-着換えている。 (この部分にだけ「居給へ-」と浮舟に敬語が使われている。高い 身分の女性の着る上等の装束を着けた女君の'端麗な気品を表現し たものであろう。) 「侍従む」と云うのは'その女房姿が'この場 の女君の侍女として相応わしいことや意味するのであるから'裾で はさまにならない。匂官の前に侍るに適当した着裳の姿(上掲着用 例榊参照) で抑えていると解したいところである。 鮮麗な裳は'それを着ている女性の服装全体を引き立てる上に' その容姿'品位までを香-高-感じさせる力を持っていた。紫式部 日記の後一条帝誕生の条には'彰子中宮付きの女房達が晴れの日の 裳にめいめい趣向を競う様が記されている。上の着用例にも'若-美しい女性の姿態が'裳を中心に描出されている(日印個).裾に はその様な積極的な魅力はない、ひっそ-としめやかな'あはれを 添える美しきはあるだろうが。侍従の着けていたのが華やかな裳で あったればこそ'匂宵は浮舟に着せて見た-なったのではなかろう >   〇 ・カ 等 こ 玉の小櫛に「御手水をまゐらする女は'かならず裳をき.る礼儀な る故に'有合せたる侍従が裳を'浮舟君にさせて也」と云う。その 通りであるが'私は'この外に'匂宮が浮舟に裳を着せて手水に奉 仕させた動機を'重く見たいのである。宮の手水の奉仕には侍従 がその為に衣服を整えて細えている。薫は女房の奉仕で手水をつか う習わしだった.宮も辛抱しようと思えば侍従の世話を受け七すま すことが出来た筈。それだのに'敢えて女君に命じたのは'真淵が 云った通り'宵の戯れ心に原因するのであろう。現に作者は下に 「かたはなるまで遊びたはぶれつつ暮し給ふ。」と書いている。こ の御手水の場面も遊びたはぶれ給う一例なのである。今日は濃きき ぬに'折に合った紅梅の織物の五つ衣を'あはひをかし-重ねて据 わっている浮舟は今までに見ない気品があって'宮は女君の美の新 たな一面を発見する。その上侍従の鮮やかな裳をつけさせたら'器 量も服装も更に引き立つに違いないと思い付いたのだろう。下に 「かたわなるまて」とあるから'侍従に裳を脱がせて'官はそれを 手づから浮舟に着せたのかも知れない。裳をつけた女君は果して絵 から抜け出した様に美し-見える。手水の世話をさせながら'宮 は'妹の女一宮にこの人をさし上げたらさぞお喜びだろう。女一宮 には身分の高い女房が大勢お仕えしているが'この人程の品位を備 えた美人はめったになかろうと気に入っている。生れて始めて晴れ の装束を着た美しい浮舟が'美男の皇子と対座して手水に奉仕して いる場面である。それは'咋深更雪の宇治川を渡る小舟の中で「(宮 に) つとつきて抱かれたる」場面'「月さし出てて軒の垂氷の光-合いたるに人の御かたちもまさる心地す。宮も'ところせき道の程

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- 22-に審らかなるべき程の御衣どもな-。女も脱ぎすべさせ給ひてしか ば ' ほ そ や か な る 姿 つ き ' い と を か し げ な -。 」   ( 浮 舟 ) と あ る 打 とけ姿に次ぐ'絵画的情景の一つ。女主人公が衣裳を一新して'宇 治逗留の一連の物語絵的情景に'美的・浪漫的生彩を加えるために 設定された場面と私は理解する。そして'作者がこの設定に'物語 展開上の重要な役割を担わせていると考えるものである。 浮舟を相手に宮は終日「かたわなるまで遊びたはぶれつつ暮し給 ふ。」と作者は云う。宮は二八才'浮舟は二二才'当時としては二 人とも分別盛-にさしかかった年令である。細流抄は「御てうづま ゐらせ 浮舟に'てうづをかけさせられし也。よろしからぬ御ふる まひなり」と宮を批難している。親友の愛人を誘い出した上'仕え 人扱いにする不信行為をなじっているのか'恋人は真面目に扱うべ きだという意味か'単に不作法を叱るのか知らないが'宮のふざけ を替めているのは明かだ。作者も「かたわなるまで」と批難をこめ た口ぶりである。この戯れは'宮の浮舟に対して抱いている狂熱的 な愛の本質を露呈する。宮は'浮舟その人の人格を認めて愛してい るのではなかった。また'女一宮に奉ろうかと、無責任なことを考 えているのである。彼女は宮にとって美しい'生きたもてあそびも のなのであった。しかも'浮舟にはそれが見抜けない。 り途'「例の抱き給ふ。﹃いみじ-思すめる人(筆者注、 かうはよもあらじよ。見知-給ひた-や﹄とのたまへば' 思 ひ て ' う な づ き 居 た る ' い と ら う た げ な -。 」   ( 浮 舟 ) 1層明白になる. それは帰 薫 )   は ' げ に ' と に至って 昨夜の匂宵の睦言には、たばが-の要素があった。 「二の宮を'いとやんごとなぐて持ちたてまつ-給へるあ-さま (筆者注'薫の)なども'語-給ふ。かの耳とどめ給ひし三日(筆 者注'宮中で'浮舟を想っての薫の吟涌) は'のたまひ出でぬぞに くきゃ。」 (浮舟)宮は正々堂々の競争者でな-、浮舟の心を盗む 誘惑者である。次いで'この場面で'宮の愛が遊びであることを作 者が明示した。匂宮介入の'ことの意味の重大さが加わって来る。 浮舟にとって'匂宮との出逢いの最初には不可抗力的な過失であっ たものが'この度の隠れ家逗留中に'浮舟自身の内に'薫に対して 心疾しい'匂宮への傾斜が大き-根を張って-る。「かたみにあは れとのみ'深-思しまさる」と作者ははっき-書いている。浮舟は 運命の重大なポイントに立たされたのである。 昨夜この岸に渡.る小舟の中で浮舟の詠んだ寄 たちばなの小島の色はかはらじをこのうき舟ぞゆ-へ知られぬ 今日の夕方浮舟の詠んだ寄 ふりみだれみぎわにこはる雪よりも中空にてぞわれは消ぬべき 「この浮舟ぞゆくへ知られぬ」 「中空にてぞわれは消ぬべき」二 ■ 度までも'暗い'死を暗示する様なへ 不吉なひびさを持った言葉 が'女主人公の口から知らず知らずに発せられているではないか。 危険が迫っているのだ。宇治の隠家逗留中の最も華麗な場面に' 作者は'注意信号をちら-と見せたのだ。薫からは大君の形代とし て愛されたに過ぎなかった浮舟は'この度は匂宮とのの出逢いによ って'もっとかわいそうな運命の危機にさしかかる。その歩みの一

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矧ワノトトいいナL 段階を成すのが'この浮舟の着裳の場面なのだと私ほうけ取るので ある。 ある。 ( 三 ) なお,これに関連した紅のに,最初に匂宮が'薫をよそおって浮 舟に近づいた翌朝の 「御手水など参-たるさまは'例のやうなれど'まかなひめざま しう思されて'﹃そこに洗はせ給はば﹄とのたまふ。」 とある条も'宮の'皇子としての身分意識の表現ばか-でな-'宮 の拒否に於いて'宮の浮舟に対する熱狂的な惹かれ様を描いたと思 われる.薫だサたら起床する時刻に'右近が手水を準備したら'性 格の異る宮は'起きしぶって機嫌を悪-して'浮舟に「そこに洗は せ給はば」と嫌味を言ったのだ'と'私には思われる。下に「時の 間も見ざらむは'死ぬべしと思しこがるる人」とある。宮の言葉を 身分意識とばか-解しては作者の意図したところ - 温厚な薫と対 比的な'強引で狂熱的な宵の愛と'半年の孤独に堪えて来た'心幼 い浮舟が'宵に旺惑されて行-無理からぬ心情を'十分汲み取れな いであろう。本稿に取り上げた浮舟の手水奉仕も、匂宮の身分意識 という面からのみ受取られて釆たが'今、私は'美的興味から宮が' 戯れに浮舟に鮮やかな裳を着せて手水の相手をさせたと解したもの で'そこに匂宵の愛の遊戯的乃至耽美的要素を見出し'作者が'匂 宮の浮舟に対する愛の性格を掘-起して'浮舟を女主人公とする運 命悲劇的な物語の漸層的展開の、新しい一石を布置したと見るので (註l) 西宮記、巻十九㌧ 女装束の条に 「朝拝供奉女房'四位 コ キ ア ケ ヒ ラ ミ タ レ ヲ 深緋長狭礼服、緑下溝摺及垂緒五位浅緋緑槽垂緒云々」 とある から宮中でも一部に名残を留めていたものと思われる。

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