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知的障害のある児童生徒の算数・数学の指導(1) : その基本的な考え方の整理 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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(1)山 梨 障害 児教 育学 研 究紀 要 第 5号 (平 成 23年 2月 1日). 知的障害のある児童生徒の算数・数学の指導(1) -その基本的な考え方の整理- 河 野. 一 郎*. Ⅰ.はじめに. 平成21年3月に告示された『特別支援学校小学部・中学部学習指導要領』第2章各教科第 1節小学部第2款知的障害者である児童に対する教育を行う特別支援学校第2指導計画の作 成と各教科全体にわたる内容の取扱いの「2」では ,「個々の児童の実態に即して,生活 に結び付いた効果的な指導を行うとともに,児童が見通しをもって,意欲的に学習活動に 取り組むことができるよう配慮するものとする」と記述されている。中学部・高等部にお いても同一の内容が記述されている。 また,同学習指導要領第2章各教科第1節小学部第2款知的障害者である児童に対する教 育を行う特別支援学校第1各教科の目標及び内容,の〔算数〕の目標には ,「具体的な操 作などの活動を通して,数量や図形などに関する初歩的なことを理解し,それらを扱う能 力と態度を育てる」とある。そして,中学部の〔数学〕の目標には,「日常生活に必要な 数量や図形などに関する初歩的な事柄についての理解を深め,それらを扱う能力と態度を 育てる」となっており,さらには高等部の〔数学〕の目標には ,「生活に必要な数量や図 形などに関する理解を深め,それらを活用する能力と態度を育てる」とある。 以上のことから,知的障害者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科 の指導に当たっては,生活に結び付く効果的な指導が必要とされる。このことは,算数・ 数学の指導においても同様であり,生活する上で必要な数量や図形などに関することを扱 う能力や態度を育て,これらの力が生きて働く力となるようにはぐくんでいかなければな らない。 そこで,本稿は,知的障害のある児童生徒の算数・数学の指導における,生活に結び付 く数量の指導の在り方について,その基本的な考え方の整理を試みるものである。. * 山梨県立やまびこ支援学校 - 47 -.

(2) Ⅱ.数量概念の発達及び数量の指導に関する理論について. 1.寺田(1990)の指摘について 寺田(1990)が示す「数量概念の発達過程」について,筆者による若干の改編(以下の 2~4についても同様)を加えながら概観する。 (1)数量概念の発達のあらまし 個数を数えて“5個”と答えることができたとしても,必ずしも「数量概念」が習得さ れているとは限らない。 図1の(A)のように,大きさや形など,事物の属性がまったく同じ6個の卵入れと卵を 子どもに見せ,それぞれの個数を数えさせる。5歳の子どもならば“6個”と答えるであろ う。しかし(B)のように,大人が卵を取り出して卵入れより広い間隔で並べると,子ど もによっては誤反応を示す。正反応は約半数で,他の子どもは“卵の方が多くなった”な どと答え,たとえ“同じ”と答えることができたとしても,その理由を論理的に言葉で明 示できないことが珍しくない。 ( A). ( B). ※寺田(1990)を一部改編 図1. 分離量(集合)の保存課題(例示)について. これらのことから,子どもは,事物の一部の見かけ上の変化にのみ眼を奪われて,数詞 の本質や文脈を忘れて映像的な判断をしていること,また事態を言葉で法則的に表示でき ないことがわかる。 ピアジェ(Piaget,Jean /1896-1980)は,個物またはその集合の見かけにかかわらず, 数がそこに保存される(不変であると推理できる)場合をもって,数量概念の成立である と考えた。卵入れと卵の数がそれぞれ見かけにかかわりなく,両集合が全体として6個と6 個で同じであると認知されなければ,数は概念的なものではない。 たとえ全体の見かけは変わったとしても, ( 1) 「元へ戻せば同じになる(可逆性)」, ( 2) 「増やしも減らしもしないから同じ(同一律)」,(3)「全体の広がり(一方の次元)も変 わったが,個物間の間隔(他方の次元)も変わった(相補性 )」などの論理的推理(不変 であることの文脈)が,言語的水準で表象されなければならない。 量概念の認識についても同様である。量についても上記(1)~(3)の3推理が表象可. - 48 -.

(3) 山 梨 障害 児教 育学 研 究紀 要 第 5号 (平 成 23年 2月 1日). 能な場合に,量は概念として言語的な水準に到達したことになる。 ピアジェは,数(分離量の場合)及び量(連続量)の概念的な表象に,認識発達の3段 階(以下)があり,数量概念が思考の前操作段階から具体的操作段階(第(3)期)に入っ て成立すると説明した。 ①保存欠如期(~4歳ないし5歳): 認識が知覚に左右される前操作段階 ②移行期(~6歳ないし7歳): 不変性が表象されることもあるが,知覚を脱しきれない認識の前操作段階 ③保存成立期(7歳ないし8歳以降): 事物全体の知覚が分節化して,保存推理を正しく推理できる認識の操作段階. (2)精神遅滞児の,数量概念の芽生えから獲得まで 軽度の精神遅滞児の場合,数量の理解に次のような発達段階があるとされる。 ① 第1期(精神年齢が4歳ないし5歳まで) 事物の系列(順序)が理解され始め,漸次同じもの同士を集め,多い・少ない,さらに 事物相互の対応化,10ぐらいまでの数唱が可能になる。しかし,数量の理解は,いまだ漠 然とした全体視,単純な類,集合の認識にすぎず,判断が見かけ(視覚的な属性)に左右 される。 ② 第2期(精神年齢が6歳ないし8歳頃) 事物と数詞との対応ができ,そこから集合の相等性(“ 同じ ”)が理解できるようにな る。つまり,未分化な前段階から,要素が集合(全体)の中で分節化し,かつ要素とその 集合を抽象化して記号化し ,“…個”がわかる。次に序数についても,同様に“…番”が 理解され,その結果,集合と順序との両システムが統合し,数字を通して簡単な数の合成・ 分解,計算,最後に繰り上がりと繰り下がり,初歩の九九ができることになる。 ③ 第3期(精神年齢が9歳ないし10歳以降) 簡単な比(割合)の観念,さらに“どちらがどれだけ多い(少ない)か”の多次元的視 野を要する数量がわかる。そして最後に逆演算(a + x = b,a - x = b')ができ,同時 に分離量の順序そして集合の“保存 ”,連続量の集合の“保存”から順序についての“保 存”といった具合に,数量概念が順次成立していくことになる。 以上が,数量概念の成立までの発達段階である。その発達的経過から,軽度の精神遅滞 児の場合には,数量の認識に十分な成長があり,言語的水準で普遍的かつ論理的な数量概 念が習得されることがわかる。しかし,この経過をいわゆる健常児に比べると,発達は緩 慢で,精神年齢水準で2~3年の表象の遅れが目立つ。 その理由は,精神遅滞児は,事物(分離量,連続量のいずれにせよ)の集合や順序の様 相を自発的に記号化してとらえたり,法則化した形で認識したりする傾性に乏しいためと 考えられる。例えば6個の事物を6という記号に置換し,その記号の次元で集合なり順序が 同じであると認識し,その文脈の中から事物の存在についてのある法則性を自発的に言語 化した様式で創出するとともに,そうした言語的内容を自ら使っていくという活動に,む. - 49 -.

(4) しろ大きな支障があると考えられる。 以上のことから,指導の主な観点は次のようにまとめられる。 近くに寄り添い,教示や助言(他者教示)をしながら,事物とその記号化・言語化・法 則化との間を何度も往復し,両者の相互移行化を容易にしていくことをうながす。そして, 易から難への段階を逐一踏襲させ,練習させる。そうした指導の中に,遊びを中心に具体 性の豊富な,例えば集合遊びのような基礎的な教材を生活単元学習として入れ,子どもが 数量の扱いに興味・関心,動機付けを起こすように工夫していくのである。. 2.藤原(1995)の指摘について 藤原(1995)は,「数概念の形成を図る」として次のような内容を紹介している。 数詞,数字及び数対象(数える対象となるもの)の,数の3つの基本要素相互の間の関 係的操作を行う心の働きを数概念と呼ぶ。数概念の基本的な構造を図2に示す。. 数対象. ①. ②. ③. ④. ⑤. 数詞. 数字. 「サン」. ⑥. 3 ※藤原鴻一郎(1995)を一部改編. 図2. 数概念の基本的な構造について. すなわち,以下のようなことが,主な数概念能力との指摘である。 ①数詞を用いて数対象を数える。 ②言われた数詞どおりの数対象をとる。 ③数対象の個数を数えて数字に書く。 ④書かれた数字どおりの数対象をとる。 ⑤書かれた数詞どおりの数字を書く。 ⑥書かれた数字を読む。. 3.金子(1996)の指摘について 金子(1996)が示す「算数・数学を学ぶということ」について概観してみる。. - 50 -.

(5) 山 梨 障害 児教 育学 研 究紀 要 第 5号 (平 成 23年 2月 1日). (1)生活のリズムを整え,見通しのもてる学校生活を 学校の時間割をできるだけ単純化し,1日の流れを子どもが把握し,イメージをもちや すいようにすることが大切である。イメージをもちながら,主体的に活動することが表象 機能の形成に必要となる。 (2)遊びの指導などを通して,感覚運動機能を高めること 感覚運動的段階での遊びなどの活動を基礎に,ボディーイメージや模倣能力が高まる。 リズム感も,数や言葉の認識に欠かせない。 (3)生活単元学習,作業学習などを通して,目当てのもちやすい活動を ある程度まとまった期間,ひとまとまりの活動に参加することで,目当てと見通しをも つ力を養うことができる。そして,最後に成就感を得ることでまた次の活動への関心や意 欲を引き出し,主体的参加が可能となる。 (4)活動の中に数の認識を高める操作が含まれること 遊びや,日常生活,ものを作る活動の中で,弁別,集合,分類,対応,比較など,数量 を扱う操作を経験することである。子どもにとっては,活動の中で自然に出会い経験する ことが望ましい。しかし教師としては,子どもの認識のレベルと数の系統性に配慮しなが ら意図的に関与する,つまり仕組むのである。仕組むこと,そして活動の中での子どもの 様子を見取ること,それによって行きあたりばったりではない経験学習が可能となる。 (5)経験を法則化し,般化すること 経験学習が十分に配慮されたものであったとしても,そこで経験し獲得したものを新し い場面で応用できるようになるには,法則化が不可欠である。 そこで, 「算数・数学」の時間での指導が必要となる。経験を基盤として,それをイメー ジとして再構成し,記号化していく。みかんを並べながら,3や4の意味を学び ,[3+4] を理解する。そうすることで,今度は目の前に並べることのできないもの,例えば飛行機 の[3+4]もわかるようになる。. 4.中沢(1997)の指摘について 最後に,中沢(1997)が示す「子どもの文字・数の獲得と指導」について概観してみる。 (1)言葉と内容 数を表す言葉(数詞)は,どんな内容をもっているか。例えば,3は,お菓子3つ,犬3 匹,ゴマ3粒でも山3つでも3で表す。3年前と言うように,行動や時間についても使うこと ができる。いわば数詞は,物事(物・現象)の「在り方」を示す言葉なので,犬やお菓子 のように実態がない。このために,数詞を唱えること(数唱)は易しくても,内容を把握 するにはかなりの時間がかかる。 (2)数は1から始まらない 新しく何か始めるとき,よく1から始めると言うが,満1歳の子どもにとって「1」の概 念の理解はできない。. - 51 -.

(6) 始め子どもは,指さして数詞を言っても物と数詞・指が一致しない。3歳近くなると, ほぼ3までは確実に指さし,物と数詞が一致(1対1対応)するようになるが,4を超えると 対応が崩れ,指がはずれたり,暗記している数を早口で唱えたりする。 満3歳になるころ,子どもは同じ物が3個あると特に興味を示して「3つ」と言い,何で も3つもらうと喜び ,「これで3つ」と確かめ,やがてお皿にのせた数個のお菓子から3個 を取ることができるようになる。これは数3がわかり,適用可能になった証拠である。 数がわかるのは物の属性によって難易度に差が出る。一番わかりやすいのは丸みがある 小石や色がはっきりしたおはじき,みかんなどで,小さいブロックや積み木などがこれに 続く。子どもは様々な物で3という「在り方」をじっくりと確かめている。 (3)4の壁 子どもがいろいろな物で3を確かめているころ,手のひらにおはじきを3つのせて見せる と「3つ」と即答できる子どもに,目の前でもう一つ足して「いくつ?」と聞くと ,「た くさん」と答えたり ,「8つ,10個」など自分が多いと思う数で答える時期がある。おは じきが4個になったとき子どもが「たくさん」と答えるのは,4以上になると多数と感じら れるからである。子どもは3の理解がある程度確実になるまで,4に進もうとしないので, この現象を「4の壁」と呼んでいる。子どもが「4の壁」を乗り切るのは,ふつう半年から 1年近くかかる。だから ,「今日,おはじきで3を教えたから,明日は4を教えよう」とい うわけにはいかない。 (4)4以上の数と1の意味 子どもは「4の壁」を乗り切ると,間もなく5を理解する。2と3はよくわかっているので, 2と3で5(合成 ),5は2と3(分解)という形で5の理解の方が早いときもある。この頃, 隣合った数が1ずつ違う(3と1で4,4と1で5)という「1の意味」がわかり,子どもは飛躍 的に整数の構造を理解し始める。満6歳から7・8歳頃までは好んで大きな数まで数を唱え, いろいろな物を数えて,いくつあるかを確かめて満足する。 (5)集合と集合数 「数がわかる」とは,ひとまとまりの物の集合を見て4個あれば「4」と判断でき,また 「4」と言われたら,いろいろな物で4個の集合を作れることをさしている。このひとまと まりの多さを表す数を集合数と言い,個々の数詞・数字を集合数として把握することが数 理解のポイントになる。. Ⅲ.おわりに. 以上,いずれも,筆者が知的障害のある子どもの算数・数学の指導を行うに当たって, 拠り所とした文献である。知的障害のある子どもたちに対して算数・数学の指導を行う上 で,だれしもが理解しておかなければならない基礎的な理論と筆者は考えている。. - 52 -.

(7) 山 梨 障害 児教 育学 研 究紀 要 第 5号 (平 成 23年 2月 1日). 文献 1)藤原鴻一郎監修(1995)段階式/発達に遅れがある子どもの算数・数学1/ 数と計算編. 学習研究社. 2)金子健(1996)算数・数学を学ぶということ.発達の遅れと教育,464,8-9. 3)中沢和子(1997)子どもの文字・数の獲得と指導.肢体不自由教育,130,8-11. 4)寺田晃(1990)数量概念の発達過程.発達の遅れと教育,389,4-7.. - 53 -.

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参照

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