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https://dspace.jaist.ac.jp/ Title インダストリー4.0を商機とするドイツのHidden Championの新たな挑戦 Author(s) 難波, 正憲; 福谷, 正信; 牧田, 正裕; 藤本, 武士 Citation 年次学術大会講演要旨集, 31: 303-306 Issue Date 2016-11-05 Type Conference Paper Text version publisherURL http://hdl.handle.net/10119/13881
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インダストリー
4.0を商機とするドイツのHidden Championの新たな挑戦
○難波 正憲、 福谷 正信、 牧田正裕、 藤本武士(立命館アジア太平洋大学) 1.はじめに 1.1 研究の背景・意義 ドイツが産官学で取り組むインダストリー4.0 や、米国での GE 社など企業連合が取り組む IIC(インダスト リアル・インターネット・コンソーシアム)など、IoT を活用した製造業革新の動きが活発化している。 「インダストリー4.0」は「スマート工場(考える工場)」による自律的な生産ラインでの実現で生産性の飛躍的な向 上と柔軟性の飛躍的な向上によるとマスカスタマイゼーションが狙いで、IIC はモノをインターネットに繋げること で、様々なデータを収集し、このデータを解析することで、顧客に新たな価値を提供することを狙う、とされる。 イ ン ダ ス ト リ ー4.0 は 、先 行す る 構想 期間 を経 て 2011 年 に 発表 され 、取り 組 みを 開始 して 5 年 目 に な り 様 々 な 取 り 組 み が 発 表 さ れ て い る 。 本 稿 は ド イ ツ の Hidden Champion に よ る具体 的 な取 り 組み と そ の意 味 を考 察 する こと を狙 い と す る 。 1.2 用語の定義 基本用語として下記の定義を採用する。 (1) インダストリー4.0: デジタル化で製品設計-生産設計-生産-販売・保守までのデータ(横の流れ:(1)開発・生産工 程管理)と受発注-生産管理-生産-物流までのデータ(縦の流れ:(2)サプライチェーン管理)をつなぎ、多品種少 量生産を更に進化させた変種変量生産に対応した柔軟で自立的な生産現場を創出するプロジェクト(「ものづくり 白書2015」)1。(2) IoT(Internet of Things)とは、有線および無線ネットワークを介してリンクされた組み込みセンサーを利用してデ バイス同士が互いにデータ通信する機能のこと2。
(3) サイバー・フィジカル・システム(Cyber Physical System) とは物理的な現実の世界のデータを収集、コンピュー
タ上の仮想空間に大量に蓄積・解析し、その結果を、今度は物理的な現実の世界にフィードバックするというサイ クルをリアルタイムで回すことで、システム全体の最適化を図る仕組みのこと(『ものづくり白書』3) (4) Hidden Champion とは、H.サイモンに依れば、世界市場において業種上位 3 位以内、またはその企業が位置して いる大陸のトップであり、収益は50 億ドル以下、一般にはほとんど無名な企業を指す4。 1.3 研究課題 Hidden Championはインダストリー4.0の潮流をどのように捉え商機として活用しようとしているか。またそれを実 現する際の課題は何か。 1.4 研究方法 インダストリー4.0に関する文献を参照し問題点を確認する。 Hidden Champion各社のホームページ、講演会など公開情報により具体的事例を特定し、その狙いを考察する。 本稿での考察企業はドイツの3社(Phoenix Contact社、Pepperl+Fuchs社、Maschinenfabrik Reinhausen社)である。 その選定基準は公開情報が豊富であること、H. サイモンが Hidden Championと認めた企業であること、の2点であ る。
2.先行文献の調査
中村吉明によれば5、「日本企業の競争力の源泉は、『すりあわせ』にあったが、インダストリー4.0 のムーブメント は、半自動化された、究極の『モジュール化』による『ものづくり』であり、日本は、成功体験のある過去のビジネ
スモデルに固執してしまうと国際競争力を失うかもしれない。他方、日本版インダストリー4.0 と称してドイツ型ビ ジネスモデルを借用したとしても、日本の「ものづくり」のよさを消滅させてしまうかもしれない」とし、日本に適応 する際の3 つの障壁を挙げる:(1)本当に日本全体を「つながる工場」にできるのかという視点。自動車組立メーカー の系列を超えて部品を共有化すると、品質の良く価格の安い部品供給企業に発注が集中することとなり、優勝劣敗と なるであろう。短期的には効率的で品質の良く安い車作りができるかもしれないが、中長期的には個性のない車が作 られる懸念が生ずる。他方、化学メーカーなどの企業の生産工程には、数多くのノウハウが含まれており、あらゆる データが公表されると、その企業の競争力を削ぐことにつながりかねない。したがって、企業によっては、つながり たくない、公開したくないデータも当然出てくるであろう。(2)データ伝達などの“国内”標準化問題がある。ドイツで はシーメンス、フランスではダッソー、アメリカではパラメトリック・テクノロジー・コーポレーションが各国の代 表企業となっているが、日本企業は、海外ではほとんどシェアがなく、国内では複数メーカーがガラパゴス的なシェ ア争いをしているのが現状で、国際標準化以前の問題として、“国内”標準化ですら難しいというケースが多い。(3)サ イバー・セキュリティの頑強性の問題である。これは日本固有の問題ではなく、ネットの世界的な問題である。化学 プラントでは、センサーを多数つけ、最適な反応を持続させるために管理・制御しているが、それらデータはネット につなげていない。それは、万に一つサイバー攻撃を受け、ハッキングされると、大事故につながるからである。 鍋野敬一郎によれば、ドイツでは中堅中小企業が製造業を支える構造となっているため、中国やアジアが生 産の中心になると、ドイツの中堅中小企業では日米の大手企業に対抗できないと危機感を抱いていた6。ドイ ツの狙いは単なるIoT による自動化ではなく、企業間で横断的に「つながる工場」を実現するための「標準 化」である。古くから工業国として発展したドイツであるが、近年は低賃金のマンパワーを持つ中国と、大 手IT 企業が工業へ参入するアメリカに押されていた。この標準化はまず、EU 加盟国で定着させ、世界へ輸 出することで工業国ドイツを復権させる狙いであると推測し7、ドイツ、アメリカ、日本の取り組みを整理し ている8。その中でドイツの抱える課題として、以外の国が賛同していない、欧州経済の減速、米国の追い上げ、進 捗遅れ、中小企業の不信感を挙げている。日本については、「日本版インダストリー4.0」の推進組織として、業 界団体、企業グループ、学術団体など乱立(RRI, IVI, IoT 推進コンソーシアム、企業グループ)などが乱立し、大企業 と中堅中小企業、製造業とIT 企業の思惑が錯綜し、企業ごとに個別行動しており、戦略のビジョンの欠如を指摘し ている。一部の先行企業を除いて、世界に通用するビジネスモデルやテクノロジーは見出せておらず、大企業は独自 技術に固執(ガラパゴス化のリスク)、ICT 系は自社技術に偏ったビッグデータを指向する。また、ノウハウ承継や熟 練技術者育成が日本の強みでもありリスクでもある(後継者、人で不足、時間と経験)ことを挙げている9。 そのドイツの中小企業の反応について、JETRO は積極的に取り組む企業があるほか、躊躇する企業の理由として下 記を挙げている。高い投資コスト、複雑なテーマ、専門人材不足、データ保護、システム故障リスク、生産工程のオ ートメーション化の不備(JETRO 調査レポート 2015 年 10 月号)。 3 ドイツの Hidden Champion での事例 (1) Phoenix Contact 社 同社は接続機器のHidden Champion であり、売上高は15 億ユーロ10を超え、従業員14,000 名の企業である。同 社のホームページには、「現実世界の製造プロセスをデジタル空間上で再現し、リアルタイムでの状況把握やデータの
分析結果を現場にフィードバックする『Cyber Physical System』をベースに、量産並みのコストで顧客の個別ニー
ズに応えるマスカスタマイゼーションなどにより、製造業で圧倒的な国際競争力を得ようと産官学で取り組んでいま
す」とあり、「すでに独自の生産ラインでインダストリー4.0 が実装されています。大量生産と同じコストで 1 つのバ
ッチサイズを製造することが現実のものとなっています。(Phoenix Contact is already implementing Industrie 4.0
in its own production lines. Producing batch sizes of 1 at the same cost of mass production has become a reality.)」
11と記載されている。
(2)Pepperl+Fuchs 社
同社は工業用センサーと防爆技術12でHidden Champion であり、売上高は 5 億ユーロ(2013)、従業員 5,600 名
多様なセンサーを装備したプレキシガラス(plexiglass)モデルを展示した14。
さらに、HANNOVER MESSE 2014 では、SmartBridge®を展示した15。これは機械や設備内に装着されたセン
サーやアクチュエーターで発生するデジタル信号を無線で受信し、インターネット接続でモバイル機器へ転送する技 術である。転送にはブルートゥースを使用する。その際、フィールド装置と制御装置の間の標準的な通信路には影響 を与えない。 SmartBridge®は、センサー・ネットワークとインダストリー4.0 が狙う「産業インターネット」の起動装置として 重要な基本技術としている。この技術により、①横コミュニケーション(人間-機械インタラクションを容易にする)、 ②垂直的コミュニケーション(MES または ERP のようなほかのソフトウェア・システムとの情報交換を効率化する) ③ネットワーク・コミュニケーション(水平および垂直の複合型コミュニケーション)を可能とし、インダストリー 4.0 で必要性とされる産業間ネットワークの要素技術を提案した。この概念図を図表 2 で示す16 図表1 製造業における情報連携 出所:Pepperl+Fuchs 社 HP17 (3)Maschinenfabrik Reinhausen 社 同社は、変圧器の主要コンポーネントである負荷時タップ切換装置における Hidden Champion18であり、グループ 売上高7 億ユーロを超え、従業員 3,250 名の企業19である。同社は、貿易ジャーナルPRODUKTION と経営コンサ ルタント会社が主宰する最初の「インダストリー4.0 賞」を 2013 年に受賞した20。このシステムはデータとコントロ ールのハブとして機能し、生産プロセス全体を、相互接続されたデータベースなしで、リアルタイムに制御、管理、 監視する。同社はすでに他の機械加工会社にこのソフトウェアを販売している21。 4.考察 (1) 対応の迅速性
まず、3社(Phoenix Contact 社、Pepperl+Fuchs 社、Maschinenfabrik Reinhausen 社)に共通するのはイン ダストリー4.0 の潮流を商機として捉え、対応が速いことにある。
またインダストリー4.0 という国家レベルのビジョンに刺激を受け自社技術をコア技術に新製品、新設備の開発を 決断している。ここには中村や鍋野が警戒する脅威より機会にかけていると観察される。実践が先行し、問題は解決 可能とのスタンスである。それよりもFirst Comer takes All の旺盛な企業家精神が読み取れる。
(2) 各社の取り組みに位置付け
Phoenix Contact 社と Pepperl+Fuchs 社の 2 社はもともと通信や電気の接続器(コネクター)やセンサーのメー カーであり、広義の ITC 系ものづくり企業であり、既存製品を核とする市場深掘り型の新製品である。一方 Maschinenfabrik Reinhausen 社は ITC 分野への多角化である。
Phoenix Contact 社はインダストリー4.0 が狙う「スマート工場」がすでに実現しており、マスカスタマイゼーショ ン方式での受注が可能なことを顧客に訴求する狙いがある。さらには類似した生産ラインをもつ他産業への販売の可 能性を秘めている。
Pepperl+Fuchs社がSPS IPC Drives 2013で展示したモデルはインダストリー4.0の流れる沿ったオートメーショ ン化に必要なセンサーの多様性を提示し、既存商品の量的拡大を狙うほか、インダストリー4.0 に固有の新たなセン サーのニーズを顧客から吸い上げる目的がありイノベーションのネタを探索したプロジェクトであると考える。一方、 SmatBridge®は従来の部品からシステム商品への飛躍を狙っている。これは同社のセンサーが高度化、複雑化、シス テムを遂げてきた成果を活用する狙いがあると考える。 (3) 3 社の課題 インダストリー4.0 を新たな成長のフロンティアとして捉えている。 3 社は Hidden Champion として独自技術・商品を有しており、中村の危惧する「部品の共有化」がもたらす「同 質化、汎用品化」の恐れは少ない。しかし、状況としては、IT 系の大企業がサブシステムや部品分野を取り込んでし まう可能性もあり、それに先手を打つ戦略であるとも考えられる。 また3 社が狙う分野は競合が叢生する分野でもあり、先行している優位性を生かしてニッチ構築が可能な市場に絞 り込むのか、汎用品分野での圧倒的な競争力で市場シェアを獲得するのか、の選択を迫られよう。 インダストリー4.0 がもたらす大市場を商機としてとらえた現時点での先行優位性を次なるイノベーション創出で 自社固有の新たな成長のフロンティアとして確立することが課題である。 1 http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2015/honbun_pdf/
2 2014 年5 月1 日に米国ホワイトハウスが公表した「BIG DATA: SEIZING OPPORTUNITIES, RESERVING VALUES」の中での定義。 3 http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2015/honbun_pdf/ 4同上 5中村吉明「インダストリー4.0 は脅威か?」http://dndi.jp/30-nakamura/nakamura_4.php 6鍋野敬一郎「インダストリー4.0 の最新動向、日独米それぞれの取り組みを比較・考察する」 2016 年01 月29 日 https://www.blwisdom.com/strategy/series/industrial4/item/10380.html 7 https://www.change-makers.jp/business/10651 8 鍋野敬一郎 「インダストリー4.0 の最新動向、日独米それぞれの取り組みを比較・考察する」 9 https://www.blwisdom.com/strategy/series/industrial4/item/10380.html 10Phoenix Contact 社冊子による。 11Pepperl+Fuchs 社HP. 2016 年9 月10 日閲覧。 https://www.phoenixcontact.com/assets/downloads_ed/global/web_dwl_promotion/52005579_EN_HQ_IT_powered_Automation_LoRe s.pdf 12http://www.pepperl-fuchs.co.jp/japan/ja/522.htm. 2016年9 月10 日閲覧。 13https://en.wikipedia.org/wiki/Pepperl%2BFuchs.2016 年9 月10 日閲覧。 14http://www.pepperl-fuchs.co.jp/japan/ja/25135.htm. 2016 年9 月10 日閲覧。 15 http://www.pepperl-fuchs.com/global/en/SmartBridge.htm?utm_source=Landing_Page&utm_medium=direct&utm_term=smartbridg e&utm_campaign=Landing_Page_FA. 2016 年9 月10 日閲覧。 16 http://www.pepperl-fuchs.com/global/en/SmartBridge.htm?utm_source=Landing_Page&utm_medium=direct&utm_term=smartbridg e&utm_campaign=Landing_Page_FA.2016 年9 月10 日閲覧。 17 http://www.pepperl-fuchs.com/global/en/SmartBridge.htm?utm_source=Landing_Page&utm_medium=direct&utm_term=smartbridg e&utm_campaign=Landing_Page_FA. 2016 年9 月10 日閲覧。 18http://news.infoseek.co.jp/Councilor2013/article/20140725jcn62701. 2016年9 月10 日閲覧。 19http://www.reinhausen.com/desktopdefault.aspx/tabid-1449/1774_read-4521/.2016 年9 月10 日閲覧。 20http://www.reinhausen.com/en/desktopdefault.aspx/tabid-42/16_read-6474/. 2016 年9 月10 日閲覧。 21同上