Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
患者様から個人情報を尋ねられた場合の対応や対処法は
どのようにしたらいいでしょうか?
Author(s)
平田, 創一郎
Journal
歯科学報, 119(6): 522-524
URL
http://hdl.handle.net/10130/5075
Right
Description
ご質問は医療機関において,患者と医療従事者と いうやや特殊な関係性の中で,「誰かの」個人情報 を患者から医療従事者が尋ねられた場合を想定され ているものと解されます。患者の情報については特 段の規定がある一方,それ以外の個人情報について は一般企業においても,顧客や取引先から個人情報 を尋ねられた場合という普遍的な問題としてよく取 り上げられるものです。若干質問の意図とは離れる かもしれませんが,大きく2つの場合に分けて考え てみましょう。 1.他の患者や,自分以外の職員の個人情報を尋 ねられた場合 1)他の患者の個人情報 患者から他の患者の個人情報を尋ねられた場合, 情報開示は刑法によって禁止されています。 ○刑 法 (秘密漏示) 第134条 医師,薬剤師,医薬品販売業者,助産師,弁護 士,弁護人,公証人又はこれらの職にあった者が,正 当な理由がないのに,その業務上取り扱ったことにつ いて知り得た人の秘密を漏らしたときは,六月以下の 懲役又は十万円以下の罰金に処する。 条文に歯科医師は明記されていませんが,医師に 含まれると解釈されていますので,歯科医師にも患 者の守秘義務が課せられていることは周知のことと 思います。この罰則は親告罪,すなわち秘密を漏ら された相手から告訴されなければ公訴を提起するこ とができないものですが,だからといって守らなく て良いわけではありません。診療情報に限らず,住 所や電話番号,職業などその他の情報についても守 秘の対象となります。 本人以外からの情報開示の求めがあった場合,本 人の同意なく開示することはできません。請求者が 本人の法定代理人や親権者,後見人,親族であって も委任状が必要となります1) 。この開示(第三者提 供)を含めた個人情報の取り扱いに関する規定は, 個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)に規 定されています。 ○個人情報の保護に関する法律 (利用目的の特定) 第15条 個人情報取扱事業者は,個人情報を取り扱うに 当たっては,その利用の目的(以下「利用目的」とい う。)をできる限り特定しなければならない。 (利用目的による制限) 第16条 個人情報取扱事業者は,あらかじめ本人の同意 を得ないで,前条の規定により特定された利用目的の 達成に必要な範囲を超えて,個人情報を取り扱っては ならない。
臨床のヒント
Q&A
社会歯科学系
Q&Aコーナーは,東京歯科大学の3病院の臨床研修歯 科医から寄せられた質問に対しての回答です。回答は本 学3施設の専門家にお願い致します。内容によっては基 礎や臨床,あるいは歯科や医科と複数の回答者に依頼す る場合もあります。毎号掲載いたしますので,会員の皆 様もご質問がございましたら,ぜひ東京歯科大学学会ま でeメールかファックスで依頼していただきたいと存じ ます。必ずご期待に添えることと思います。今号は個人 情報の取り扱いに関する質問です。Question
患者様から個人情報を尋ねられた場合の対応や対処法はどのようにしたらいいでしょうか?Answer
522 ― 54 ―個人情報保護法は個人情報取扱事業者に義務を課 していますが,雇用されている医療従事者個人で あっても遵守する必要があります。特に病歴やそれ に準ずる診療情報,健康診断の結果,障害およびゲ ノム情報等は,個人情報の保護に関する法律施行令 で要配慮個人情報と規定されており,慎重な取り扱 いをしなければなりません。要配慮個人情報とは, 不当な差別や偏見などの不利益が生じないように取 扱いに配慮を要するものであり,この他にも人種, 信条,社会的身分,犯罪の経歴等があげられていま す。詳細は個人情報保護法の規定2) をご覧くださ い。 個人情報保護法は生存する個人に対する情報を対 象としていますが,医療においては遺族への情報開 示が想定されるため,死者に関する情報についても 同等に扱うよう「医療・介護関係事業者における個 人情報の適切な取り扱いのためのガイダンス」3) に定 められています。ガイダンスには法的拘束力はあり ませんが,医療従事者の倫理規程ですから,遵守し なければなりません。 2)他の職員の個人情報 他の先生やスタッフ等の個人情報を尋ねられた場 合であっても,自分以外の職員の個人情報も医療機 関が保有する個人情報に該当しますから,個人情報 保護法に則り,本人の同意なく個人情報を伝えるべ きではありません。 個人情報保護法では,個人情報取扱事業者に従業 者の監督を義務づけており,東京歯科大学では,東 京歯科大学個人情報保護管理規定が設けられていま す。東京歯科大学の教職員の方は必ずご一読くださ い。 ○東京歯科大学個人情報保護管理規定 (職員の責務) 第3条 職員は,法の趣旨に則り,関連する法令及び規 程等の定め並びに総括保護管理者,保護管理者,保護 担当者及びデータ管理者の指示に従い,保有個人情報 を保護し,取扱わなければならない。 2 職員は,職務等により知り得た個人情報を,故意 又は過 失 に よ り,漏 え い し,滅 失 し 若 し く は き 損 し,又は不当な目的に利用してはならない。その地 位を退いた後においても同様とする。 このように,職場の規定でも個人情報の利用が制 限されていますから,そのような質問があった場合 には,「職場の規定によりお答えできないことに なっています。」と返事をすることになるでしょ う。それでもしつこく聞かれるようであれば,「法 律でお答えすることができない。」とはっきり断り ましょう。もちろん,どの法律のどのような規定か を知っている必要がありますので上記を参考として ください。 職務上知り得た個人情報ではなく,個人的な友人 関係などによって知り得た情報である場合,個人情 報保護法の対象とはなりません。しかし,個人情報 を漏洩したことによってその患者や医療従事者に損 害が発生した場合には,民事で損害賠償を請求され る可能性も考えられます。軽々しい発言が大きな問 題を招く可能性を十分に理解しておくことが大切で す。 大学においては患者と職員の他に,学生(父兄も 含む)の個人情報も問題となります。東京歯科大学 個人情報保護管理規定では,これら3つの個人情報 の取り扱いについて規定されています。 2.患者から医療従事者が自分の個人情報を尋ね られた場合 この場合,情報の開示についての法的な規制はあ りません。そもそも自分の個人情報開示の自己決定 権は自分にあるため,別途定めや契約等がない限り 自分でコントロールすることになります。したがっ て自分の個人情報を伝える否かは,組織に規定がな い限り,あくまで患者と医療従事者の個人的な関係 性の問題となります。特に医療においては,患者と 医療従事者間の信頼関係の構築は非常に重要ですか ら,ある程度必要な範囲で親密な関係になることも 想定されます。ただしこれには信頼関係が深まると いうメリットだけではなく,ディメリットも少なく ありません。個人的な関係がこじれることで,医療 従事者側がストーキングを受けた事例や,医療機関 内での傷害事件に発展した事例もあります。さらに 患者と医療機関との問題へと発展しかねません。公 私混同は患者を公平に扱えなくなることが想定され るため,「組織として公私混同が禁止されておりま すので,個人情報をお知らせすることができませ 歯科学報 Vol.119,No.6(2019) 523 ― 55 ―
ん。」とお断りするのが一般的のようです。ある患 者には教えず,別の患者には教えるといった行動が 明らかになれば,当然不信感につながりますから, ここは一律にお断りするのが良いでしょう。 では,退職して開業することを患者に伏せていた にも関わらず,患者がどこからか聞きつけて次の職 場の情報を尋ねてきた場合はどうでしょう。この情 報源も気になるところですが,これは1の解説から 考えるにあまり適切でない情報の取り扱いがあった と考えられます。あるいは前述の,ある患者には教 えて別の患者には教えないという行動の結果かも知 れません。やはり,職員の個人情報は自他の区別無 く開示しない方が良さそうです。 そうはいっても人の口に戸は立てられぬといわれ るように,噂話を規制するのは非常に困難です。こ のような話は実際に時折耳にします。聞かれてしま えば返事をしないわけにはいきません。 さて,退職前であれば雇用契約の上で,民法の基 本原則である「信義誠実の原則」(いわゆる信義則) に則り,患者を引き抜くことを目的に自分の個人情 報の提供をするべきではありません。 ○民 法 第1条第2項 権利の行使及び義務の履行は,信義に従 い誠実に行わなければならない。 ですからこのケースでも最終的には「法律でお答 えすることができない。」と言うことができます。 なお,退職後にはこの限りではありませんが,個人 情報の持ち出し自体が個人情報保護法上の問題とな ります。 このケースも含めて,組織としてある程度の規定 を明文化しておくのがよいとされています。そうす れば「組織の規定上,お答えすることができませ ん。」と一律に返事することができますから返事に 困るようなストレスも軽減されることが期待できま す。 医療従事者は患者の個人情報を扱うことが仕事で す。一方で,患者に対してはここで挙げた法的な規 制の範囲をよく理解した上で,医療従事者自身と他 人のとを問わず,個人情報は職務以上,一律お答え できないとお返事するのが良いでしょう。 Answer:平田創一郎 東京歯科大学社会歯科学講座 文献 1)石井拓男,平田創一郎ら編集:スタンダード社会歯科学 第7版第2刷,pp.85−86,学建書院,東京,2019. 2)個人情報保護委員会:個人情報保護法等,2019. [accessed 2019−11−29] https : //www.ppc.go.jp/personalinfo/ 3)個人情報保護委員会,厚生労働省:医療・介護関係事業 者における個人情報の適切な取り扱いのためのガイダン ス,2017.[accessed 2019−11−29] https : //www.mhlw.go.jp/file/06Seisakujouhou 12600000Seisakutoukatsukan/0000194232.pdf 524 歯科学報 Vol.119,No.6(2019) ― 56 ―