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福井県敦賀半島の河川で採集されたコエビ類の追加記録

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Academic year: 2021

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41

日本甲殻類学会 Report

Carcinological Society of Japan

報告

Cancer 27: 41–44 (2018)

福井県敦賀半島の河川で採集されたコエビ類の追加記録

Additional records of caridean shrimps collected from rivers in Tsuruga Peninsula,

Fukui, Japan

丸山智朗

1

Tomoaki Maruyama

はじめに 筆者は,対馬海流の影響を受ける本州日本海側に おける両側回遊性コエビ類の分布状況を調べるた め,2014年より採集調査を行っている.その過程 で,丸山(2016, 2017)は,福井県内の河川におい て調査を行い,テナガエビ科のミナミテナガエビ Macrobrachium formosenseと ヒ ラ テ テ ナ ガ エ ビM. japonicum(未成体のみ),ヌマエビ科のヌマエビ Paratya compressa,ミゾレヌマエビ Caridina leucosticta,トゲナシヌマエビC. typusを報告した. また,河川環境データベース(国土交通省,2017) によれば,福井県内では北川水系と九頭竜川水系に お い て, テ ナ ガ エ ビM. nipponenseと ス ジ エ ビ Palaemon paucidens,スジエビモドキP. serriferの生 息が確認されている.筆者が2017年9月に福井県敦 賀半島の河川において採集調査を行ったところ,新 た に ヒ ラ テ テ ナ ガ エ ビ の 成 体 と ヒ メ ヌ マ エ ビC. serratirostrisが得られたため,分布記録としてここ に報告する. 材料と方法 2017年9月3日に,福井県三方郡美浜町菅浜の越 路川と同町竹波の落合川(図1,図2)で,コエビ 1 東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学 専攻 〒113–8657 東京都文京区弥生1–1–1

Department of Ecosystem Studies, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo 1–1–1, Yayoi, Bunkyo-ku, Tokyo 113–8657, Japan

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Cancer 27 (2018) 丸山智朗 類の採集調査を行った.なお,丸山(2016)では管 浜川という表記が見られるが,これは誤記であり, 越路川が正しい.越路川では河口を起点として約 200 m上流までの区間,落合川では落合橋を起点と して約200 m上流までの区間を調査した. 採集には主にD型フレームネット(網目3 mm, 間口40 cm)を用い,植物が水流中に浸漬している 部分から足で網中へと追い込んだり,浸漬している 植物を網で掬い上げたりして採集した.定量性より も,生息する種を漏らさず確認することを優先し, 越路川では約60分,落合川では約30分調査した. これらの調査は筆者1名で行った.採集した甲殻十 脚類は浜野ら(2000)に従って現地で種を同定し, その一部を70%エタノールで固定して持ち帰った. 後 日, 頭 胸 甲 長(CL) と 額 角 歯 式(Rostral teeth formula, RTF)を計測した.頭胸甲長は,浜野ら (2000)と同様に,眼窩後縁から頭胸甲後端までと した.額角歯式は,「頭胸甲上+額角上縁/額角下 縁」と表した.頭胸甲上と額角上縁の境界について は,鋸歯の付け根の前側が眼窩後縁直上より後ろに あれば頭胸甲上,前にあれば額角上縁とした.採集 された標本は,神奈川県立生命の星・地球博物館に 登録した(KPM-NH0003109-3115). 結 果 越路川ではテナガエビ(図2A)十数個体,ミナ ミテナガエビ数個体,ミゾレヌマエビ数百個体が, 図2. 調査河川の風景.A:越路川,B:落合川.

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Cancer 27 (2018) 福井県敦賀半島の河川産コエビ類 落合川ではヒラテテナガエビ(図2B)3個体,ヌマ エビ数個体,ヒメヌマエビ1個体が採集された.こ れら全種に抱卵雌個体が含まれていた.これらのう ち,丸山(2016)においても報告したミゾレヌマエ ビを除く,5種7個体を標本とし(表1),他は保全 のためリリースした. 考 察 今回調査対象とした2河川のうち,越路川では 2015年にも調査を行っている(丸山,2016)が, 落合川は今回が初めてである.越路川に比べて落合 川は底質が荒く,やや勾配が急であり,水中に浸漬 する植物も少ない傾向があった.そのため,緩流部 を好む(Saito et al., 2012)テナガエビやミナミテナ ガエビ,ミゾレヌマエビは落合川では採集されな かったと考えられる. テナガエビは,今回越路川で採集されたが,2015 年には採集されなかった.これは2015年の調査に おいて,本種の主な生息地である下流域における採 図3. A:越路川産テナガエビMacrobrachum nipponense,B:落合川産ヒラテテナガエビM. japonicum.

1. 本調査において採集された標本. 採集河川名 和名 性別・抱卵 額角歯式 頭胸甲長 標本番号 越路川 テナガエビ 抱卵雌 3+9/3 19.5 mm KPM-NH0003114 越路川 テナガエビ 抱卵雌 3+10/3 21.9 mm KPM-NH0003115 越路川 ミナミテナガエビ 非抱卵雌 3+7/4 17.9 mm KPM-NH0003111 落合川 ヒラテテナガエビ 抱卵雌 4+6/3 16.4 mm KPM-NH0003112 落合川 ヒラテテナガエビ 抱卵雌 4+6/2 16.2 mm KPM-NH0003113 落合川 ヒメヌマエビ 抱卵雌 7+16/6 5.5 mm KPM-NH0003109 落合川 ヌマエビ 抱卵雌 2+17/2 7.9 mm KPM-NH0003110

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Cancer 27 (2018) 丸山智朗 集努力量が不足していたためと考えられる. ヒラテテナガエビは,落合川で抱卵雌3個体が採 集され,本河川において再生産していると考えられ る.本種の成体は,福井県初記録かつ本州日本海側 東限記録となる.越路川にも本種の生息に適した環 境があるが,2回の調査によって採集されなかった ことから,生息していないと推測される. ミナミテナガエビは,越路川において複数採集さ れたが,2015年にも複数採集されている(丸山, 2016)ことから,比較的安定して生息していると考 えられる. 採集されたテナガエビ類標本5個体は,成長過程 を 推 定 し た 研 究(小 川 ら,1991; 平 賀・ 山 中, 2005)を参考にすると,標本のサイズから2歳群に 含まれると考えられる.このことから,これら3種 は本地域において連年の越冬が可能であると推測さ れる. ミナミテナガエビとヒラテテナガエビについて は,2016年8月~9月に越前や能登の河川において 複数の未成体が見られた(丸山,2017)が,2015 年や今回の調査では未成体は確認されなかった.こ の相違が年変動によるものなのか,地域による違い なのか興味深く,さらなる調査が求められる. ヒメヌマエビは,落合川において抱卵雌1個体が 採集され,これは福井県からの初記録となる.採集 されたのは1個体であったが,発眼卵を抱卵してい たことから,複数個体が生息していたことは確実で ある.しかし採集個体数が少なかったことや,越路 川に本種の生息に適した環境があるのに採集されて いないことから,本地域における生息状況は不安定 であると考えられる. トゲナシヌマエビは,越路川において2015年に1 個体が採集された(丸山,2016)が,今回は採集さ れなかった.このことから,本地域における生息状 況は,ヒメヌマエビ同様不安定であると考えられ る. 山川ら(2018)は相模湾周辺において,黒潮によ る南方系魚類の分布北上傾向がみられることを述べ たが,若狭湾周辺においても対馬海流によって同様 の現象が起こっている可能性がある.今後,若狭湾 周辺においても魚類も含めた生物相調査・文献調査 を行い,このような可能性について検討していくこ とが望まれる. 謝 辞 標本の登録にあたりお世話になった神奈川県立生 命の星・地球博物館の佐藤武宏氏と,現地調査に同 行してくれた東京大学生物学研究会の諏訪邉涼太氏 (東京大学法学部),加藤柊也氏(東京大学農学部), 萬木麻由氏(多摩美術大学美術学部)に深く感謝申 し上げる. 文 献 浜野龍夫・鎌田正幸・田辺 力,2000.徳島県におけ る十脚甲殻類の分布と保全.徳島県立博物館研究 報告,10: 1–47. 平賀洋之・山中弘雄,2005.四万十川中・下流域にお けるミナミテナガエビおよびヒラテテナガエビの 成長と繁殖.海洋と生物,27: 3–9. 国土交通省,2017.河川環境データベース.Available from http://mizukoku.nilim.go.jp/ksnkankyo/. Accessed 2018-04-20. 丸山智朗,2016.本州日本海側における両側回遊性コ エビ類の分布について.Cancer, 25: 55–60. 丸山智朗,2017.越前・能登・佐渡の河川で採集され たコエビ類.Cancer, 26: 35–42. 小川泰樹・橋本博明・角田俊平・具島健二,1991.芦 田川産テナガエビの成長と寿命.広島大学生物生 産学部紀要,30: 43–53.

Saito, M., Yamashiro, T., Hamano, T., & Nakata, K., 2012. Factors affecting distribution of freshwater shrimps and prawns in the Hiwasa River, southern central Japan. Crustacean Research, 41: 27–46. 豊田幸詞・関慎太郎,2014.日本の淡水性エビ・カニ 102種.誠文堂新光社,東京,255 pp. 山 川 宇 宙・ 三 井 翔 太・ 丸 山 智 朗・ 加 藤 柊 也・ 酒 井  卓・瀬能 宏,2018.相模湾とその周辺地域の河 川および沿岸域で記録された注目すべき魚類18種 ―近年における暖水性魚類の北上傾向について―. 神奈川県立博物館研究報告 自然科学,47: 35–57.

表 1.  本調査において採集された標本. 採集河川名 和名 性別・抱卵 額角歯式 頭胸甲長 標本番号 越路川 テナガエビ 抱卵雌 3 + 9/3 19.5 mm KPM-NH0003114 越路川 テナガエビ 抱卵雌 3 + 10/3 21.9 mm KPM-NH0003115 越路川 ミナミテナガエビ 非抱卵雌 3 + 7/4 17.9 mm KPM-NH0003111 落合川 ヒラテテナガエビ 抱卵雌 4 + 6/3 16.4 mm KPM-NH0003112 落合川 ヒラテテナガエビ 抱卵雌 4 +

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