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好酸球性多発血管炎性肉芽腫症患者に生じた多発性単神経炎とステロイドミオパチーに対する理学療法

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(1)理学療法学 第 226 44 巻第 3 号 226 ∼ 231 頁(2017 年) 理学療法学 第 44 巻第 3 号. 症例報告. 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症患者に生じた多発性単神経炎と ステロイドミオパチーに対する理学療法* 星 野 高 志 1)2)# 小 口 和 代 1) 寳珠山 稔 2). 要旨 【目的】多発性単神経炎とステロイドミオパチー(以下, SM)を呈した好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(以 下,EGPA)患者への理学療法(以下,PT)について報告することである。 【方法】症例は EGPA を発 症した 40 歳代男性で多発性単神経炎により感覚障害を伴う右下垂足と左握力低下に加え,SM が疑われ る近位筋力低下を呈していた。入院 13 日目より開始した PT ではステロイド量および好酸球数を指標と して病勢に応じて低強度の運動からはじめ,下垂足には早期から短下肢装具を使用した。SM に対する筋 力強化の是非には議論があるため ADL 維持程度に留めた。【結果】右下垂足と左握力低下は残存したが, 近位筋力は改善し,装具装着下での歩行が可能となり,入院 50 日目に退院した。 【結論】EGPA に対し, 1)病勢に応じた運動負荷の調節,2)多発性単神経炎による局所症状への対応,3)SM の可能性に留意 すること,以上を考慮して PT を実施した。 キーワード 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症,多発性単神経炎,ステロイドミオパチー,理学療法. 3) tology,1990) 。本邦における年間新規患者数は約 100. はじめに. 例であり,発症年齢の多くは 30 ∼ 60 歳代,男女比は 4:.  好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulo-. 4) 6 で女性に多い 。治療はステロイド投与が中心であり,. matosis with polyangiitis;以下,EGPA)は好酸球増多. プレドニゾロン(prednisolone;以下,PSL)換算で 40. を伴う全身性の壊死性血管炎である。気管支喘息やアレ. ∼ 60 mg/day から開始し漸減,難治例にはメチルプレ. ルギー疾患を背景として発症し,炎症に伴う全身諸臓器. ド ニ ゾ ロ ン(methyl-prednisolone; 以 下,mPSL)500. (肺,心,消化管,腎,皮膚,筋肉,中枢および末梢神. ∼ 1,000 mg/day を 3 日間投与するパルス療法を行う。. 1‒3). 。EGPA は,2013 年. 免疫抑制療法(Cyclosporine-A;Cy-A)や免疫グロブ. 以前にはアレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss. リ ン 大 量 静 注 療 法(intravenous immunoglobulin; 以. syndrome;CSS)と呼ばれていた疾患である。EGPA. 下,IVIg)の併用も有効である. の診断基準は,①喘息の既往,② 10% 以上の好酸球増. 6 ヵ月以内に寛解し,10% は治療抵抗性で寛解と増悪を. 多,③末梢神経障害(単神経障害,多発性単神経障害あ. 4) 繰り返して経過する 。発症からの 5 年生存率は約 90%. るいは多発神経炎),④非固定性肺浸潤影,⑤副鼻腔異. で,他の全身性血管炎と比べて高いとされてきたが,10. 常,⑥血管外組織への好酸球浸潤,の 6 項目中 4 項目以. 年生存率は 67% で他の血管炎と同等であった. 上を満たす必要がある(American College of Rheuma-. 多発性単神経炎による運動感覚障害の残存は日常生活動. 経等)の虚血性変化を生じる. 5). 。治療により 90% は. 3). 。また,. 作(activities in daily living;以下,ADL)の障害をき *. Physical Therapy for Motor and Sensory Symptoms Due to Mononeuritis Multiplex and Steroid Myopathy in a Patient with Eosinophilic Granulomatosis with Polyangiitis 1)医療法人豊田会 刈谷豊田総合病院リハビリテーション科 (〒 448‒8505 愛知県刈谷市住吉町 5‒15) Takashi Hoshino, PT, Kazuyo Oguchi, MD: Department of Rehabilitation, Kariya Toyota General Hospital 2)名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻 Takashi Hoshino, PT, Minoru Hoshiyama, MD, PhD: Department of Rehabilitation Sciences, Graduate School of Medicine, Nagoya University # E-mail: hoshino.takashi@a.mbox.nagoya-u.ac.jp (受付日 2016 年 8 月 17 日/受理日 2016 年 12 月 12 日) [J-STAGE での早期公開日 2017 年 2 月 21 日]. 6) たすとの報告もある 。.  報告症例は EGPA の経過中に多発性単神経炎を生じ 下垂足と握力低下をきたした。また,治療によるステロ イドミオパチーが疑われる四肢近位筋の筋力低下を合併 し た。EGPA は 比 較 的 稀 な 疾 患 で あ り, 理 学 療 法 (physical therapy;以下,PT)の報告例は少ない. 6‒8). 。. また,ステロイドミオパチーに対する運動療法は有効で あるとする報告が散見されるが,効果について一定の見.

(2) 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症患者への理学療法 ‒16). 解は得られていない 9. 227. 。本稿では,治療経過と血液. による EGPA の病勢は,PSL 投与,パルス療法および. データを指標として EGPA の病勢の変化を考慮し,運. IVIg にて徐々に鎮静化した(図 1) 。身体機能の経過は. 動負荷を調整した PT を実施し,自宅退院,復職に至っ. 表 1 および図 2 に示す。入院後 13 日目に PT を開始した。. た経過と,EGPA およびステロイドミオパチーに対す.  下肢遠位筋に関して,PT 開始時には右前脛骨筋は. る PT の関わりを報告する。. MMT 0 で下垂足を呈していた。左前脛骨筋は MMT 4.  対象者には,本報告に関する個人情報の扱い,論文へ. であったが,入院 3 週目に筋力低下が進行し MMT 2 と. の掲載について説明し,文書で同意を得た。. なった。その後,前脛骨筋の筋力低下は PT 終了時点に おいても残存した。CRP が基準値以上を示した初期の. 症例と経過. 炎症期(入院後 4 週まで)の PT では,おもに筋力低下. 1.症例. の見られた腓骨神経領域筋に対し,自動介助運動や柔軟.  症例は 40 歳代男性で 4 年前から気管支喘息の既往が. 性維持のために軽擦による徒手マッサージ,および筋力. あった。職業歴,家族歴に特記すべき事項はなく,本症. 不均衡による関節可動域制限の予防のため拮抗筋を中心. (EGPA)発症前は運動・感覚障害の自覚はなかった。当. としたストレッチを行った。また,手,足部など四肢末. 院受診約 2 ヵ月前には,呼吸苦で近医を受診していた。. 梢には麻痺による筋の不活動や神経炎によると考えられ. その後は,下肢筋の痛みと筋力低下,手足のしびれを自. る軽度の浮腫を生じており,循環改善目的に自動介助運. 覚し持続したため当院へ紹介入院となった。血液検査で. 動で手関節,足関節周囲筋や各内在筋の筋収縮を促し. は好酸球増多を認め,先行する気管支喘息と末梢神経障. た。多発性単神経炎による右下垂足には PT 開始 2 日目. 害により EGPA が疑われ,入院日より経口ステロイド投. (ankle foot orthosis; から短下肢装具(オルトップ LH ). 与を開始した。入院後 7 日目から右側の下垂足と歩行障. 以下,AFO)を装着し,歩行と ADL の自立度を維持し. 害が認められ,13 日目に PT が開始された。PT 開始時,. た。下肢末梢は両側の感覚障害と足関節周囲筋の筋力低. 右腓骨神経の多発性単神経炎と考えられる下垂足や握力. 下,および触診より右優位に足内在筋の萎縮を生じてい. 低下等の四肢遠位筋の筋力低下,および四肢末梢を中心. た。また後述の近位筋の筋力低下と併せ,入院 5 週目で. とした非対称性のしびれと感覚鈍麻を呈していた。入院. BBS 53 点と軽度の立位バランス低下を認めた。おもな. 後 19 日目より上肢機能低下と ADL 障害に対して作業療. 減点項目は,片脚立位(‒ 2 点),継足立位(‒ 1 点)であっ. 法(occupational therapy; 以 下,OT) が 追 加 さ れ た。. た。立位バランスでは,前後方向は足内在筋や前脛骨筋,. 入院後 20 日目(PT 開始 7 日後) ,開始時は認められなかっ. 下. た近位筋優位の筋力低下が生じたため医師に報告した。. 等の股関節周囲筋がおもに関与する。PT では,臥位,. 臨床症状から,ステロイド投与によるミオパチー(ステ. 座位においてこれらの筋の活動を自動介助運動にて促通. ロイドミオパチー)が疑われた。医師より,PT,OT は. した後,閉脚立位,片脚立位,継足立位などの静的立位. 症状の変化に留意しながら継続の指示を受けた。. バランス練習や,起立−着座動作,立位での前後・左右. ®. 三頭筋等の足部・足関節周囲筋,左右方向は中殿筋. への重心移動練習での足圧中心の制御練習,継足歩行な 2.評価項目. どの動的立位バランス練習を 1 日 20 分程度繰り返し,.  徒手筋力検査(manual muscle testing;以下,MMT) ,. 退院時に BBS は 56 点へ改善した。感覚は,CRP の上. 握力,大. 昇と同時期の入院後 2 ∼ 3 週にかけて足部の表在覚が一. 周径,下. 周径,感覚検査(表在覚(足趾). および深部覚(母趾)),functional independence meas-. 時的に低下したが,その後,感覚鈍麻と異常感覚(しび. ure(FIM) ,Berg balance scale(以下,BBS)を評価し,. れ感)は経過とともに軽快した。. 10 m 歩行(最大速度条件)にて歩行速度,重複歩距離.  上肢遠位筋は,手関節屈筋群と伸筋群に左右非対称性. を計測した。評価は,入院中には週 1 回,外来通院中は. の筋力低下を認め,左手内在筋は筋萎縮を認めた。握力. 月 1 回行った。EGPA の病勢は,血液検査値の好酸球. は,入院後 3 週では右 10 kg,左 13 kg だったが,退院. 数(基準値 150 ‒ 300 個 /µℓ ),C-reactive protein(以下,. 時は右 17 kg,左 0 kg と左側の筋力低下を認めた。並. CRP,基準値 0.3 mg/dL 未満) ,myeloperoxidase anti-. 行 し て 実 施 し た OT で は, 上 肢 の 機 能 練 習 に 加 え,. neutrophil cytoplasmic antibody(MPO-ANCA, 基 準. AFO の着脱を含む更衣や食事,洗体などの手指関連の. 値 3.5 U/mL 未満)を指標とした。また,寛解の指標は. ADL 練習と指導を行った。左握力低下に対するスプリ. PSL 使用量(mg/day)とした。. ント作製も検討したが,手関節は MMT 3 ‒ 4 レベルで あったため市販の軟性サポーターで代用した。その後,. 3.理学療法と経過. 2 回目の IVIg 治療後,PT 終了時(退院後 4 ヵ月)には.  入院中のリハビリテーションプログラムは,PT,OT. 右 27 kg 左 7 kg と改善を認めた。. ともに 20 ∼ 40 分 / 日,週 5 回実施した。血液学的指標.  下肢近位筋は,入院後 3 週に左右同程度の筋力低下.

(3) 228. 理学療法学 第 44 巻第 3 号. 図 1 治療経過と血液データの推移 PSL:プレドニゾロン,mPSL:メチルプレドニゾロン,IVIg:intravenous immunoglobulin(免疫グロブリン 大量静注療法) ,CRP:C-reactive protein,MPO-ANCA:myeloperoxidase anti-neutrophil cytoplasmic antibody. 表 1 その他の評価の推移 入院 2w PT 開始. 3w. 4w. 5w. 6w. 退院. 1M. 2M. 4M PT 終了. 周径. (右). 41. ‒. 38. 38. 39. 39. 41. 43. 44.5. (左). 39.5. ‒. 36. 36. 35.5. 37. 39. 41. 42. (右). 30. ‒. 29. 28.5. 29. 29. 30. 31. 32. (左). 30. ‒. 28.5. 28. 28. 28.5. 29. 30. 31. Berg balance scale (/56 点). ‒. ‒. ‒. 53. 55. 56. 56. 56. 56. 105. ‒. 114. ‒. ‒. 117. 124. 124. 124. 5. 6. 6. 6. 6. 6. 6. 6. 6. 大 :膝蓋骨上    10 cm(cm) 下. :最大(cm). FIM * total. (/126 点). FIM  歩行. (/7 点). 10 m 歩行 **.   歩行速度   重複歩距離. (秒). ‒. ‒. ‒. ‒. ‒. 9.0. 7.6. 7.8. 6.8. (歩). ‒. ‒. ‒. ‒. ‒. 17. 17. 16. 15. (m/s). ‒. ‒. ‒. ‒. ‒. 1.11. 1.31. 1.28. 1.47. (cm). ‒. ‒. ‒. ‒. ‒. 118. 118. 125. 133. ‒:評価なし . * FIM:functional independence measure  ** 最大速度条件,短下肢装具(オルトップ LH®)使用,杖なし .. (MMT 4 程度)を呈し,四肢末梢の筋力低下や感覚障. 室での活動も過剰とならないよう指導した。その後,退. 害の経過とは異なっていた。PT 開始時にはすでに PSL. 院(入院 7 週時)までの期間は,好酸球数,CRP など. 40 mg/day が投与されており,PT 開始後に生じた近位. から病勢は改善傾向にあり,PSL は 30 mg/day に減量. 筋優位の筋力低下はステロイドミオパチーの可能性を考. されたため,レッグプレスマシンで 20 ∼ 40 kg 設定,. 慮し,PSL 使用量 40 mg/day であった入院後 5 週まで. 10 回× 3 セット程度の軽負荷から開始し,引き続き過. は下肢近位筋には積極的な筋力強化は行わず,運動負荷. 負荷に注意して退院後の生活を想定して運動負荷を漸増. は Borg scale 11 ∼ 13 以下の低強度の運動を基本とし. した。退院後 3 ヵ月以降,PSL は 20 mg/day 未満となり,. た。患者からのフィードバックより,翌日に疲労感や筋. 徐々に負荷量を増し,レッグプレスマシンで 50 kg 程度. 痛が生じない運動負荷量とし,PT 以外の院内歩行や病. の負荷でのトレーニングや,自主的に民間のスポーツジ.

(4) 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症患者への理学療法. 229. 図 2 筋力 * の推移 mPSL:メチルプレドニゾロン,IVIg:intravenous immunoglobulin(免疫グロブリン大量静注療法) * 筋力:握力以外は MMT(manual muscle testing)にて評価 .. ムでのトレーニングも開始した。入院後 3 週以降,PT. 4.転帰. 終了時にかけて,下肢近位筋の筋力は向上し,大.  入院後の治療として PSL,mPSL パルス療法および. は増大した。. 周径. IVIg を実施し,血液検査指標とともに全身の炎症症状 は軽快した。入院後 50 日目に退院し,外来通院へ移行.

(5) 230. 理学療法学 第 44 巻第 3 号. 図 3 感覚の推移 mPSL:メチルプレドニゾロン,IVIg:intravenous immunoglobulin(免疫グロブリン大量静注療法). した。リハビリテーションプログラムは 40 分の PT と. 低下を伴っており,前述のバランス練習を実施し改善を. OT を週に各 1 回継続した。退院後 1 ヵ月の時点で復職. 得ており,屋外を含めた ADL,歩行の自立,職場復帰. し,工場における立位での機械スイッチ操作等の軽作業. に 至 っ た。PT 終 了 時 に 末 梢 神 経 障 害 が 残 存 し た が,. (1 日 6 時間程度)から開始した。退院後 2 ヵ月目には,. AFO の継続使用により歩行や ADL は自立し,現職復. 小走りやジャンプが可能となった。退院後 3 ヵ月目に 2. 帰に至った。. 回目の IVIg が実施され,手指機能改善の効果を得た。.  EGPA のような炎症性病理による神経障害は,治療. 同時期に,発症前と同じ仕事内容であるフォークリフト. 中の運動負荷による再燃や新たな症状発症の可能性があ. の運転を再開し,1 日 8 時間の通常勤務が可能となった。. る。そのため,PSL 量,血液データ(好酸球数や CRP. 経過とともに感覚低下,近位筋の筋力低下は軽快した. など)の推移より治療内容と病勢を把握し,リハビリ. が,右下垂足は残存し,AFO の使用は継続した。10 m. テーションプログラムや全体の運動負荷量を調節した。. 歩行時間は,退院時は 9.0 秒(17 歩)だったが,退院後.  炎症性疾患による多発性単神経炎は,緩寛と増悪を繰. 4 ヵ月には 6.7 秒(15 歩)へと改善した。退院後 4 ヵ月. り返す。本症例も,退院後 3 ヵ月目の 2 回目の IVIg に. 目に外来 PT,OT を終了した。. より症状はさらに改善し,退院後 4 ヵ月目においても機 能改善を認め,サポーターや装具の使用により病前と同. 考   察. 様の業務への復帰に至った。本症では,末梢神経障害の. 1.EGPA による多発性単神経炎への理学療法. 改善や残存の可能性,および職場復帰を含めた生活行為.  EGPA で生じた神経症状への理学療法の適応として,. の変化を考慮した装具や補助具の選定が必要であると考. 多発性単神経炎による四肢の装具やスプリントを用いた. えられた。また,身体症状の変動への留意,患者自身で. 運動症状への介入 入. 7). 6). ,感覚障害やバランス低下への介. などの報告がある。装具作製には義肢装具士と,. 可能なトレーニング方法や負荷量の指導等,PT 終了後 も含めた長期的な視点での介入,指導が必要であった。. 上肢スプリントの使用には OT と,それぞれ連携が重要 6) である 。多発性単神経炎による神経障害は残存するこ. 2.ステロイドミオパチーに対する理学療法. とが多いため,装具やスプリントの使用による代償手段.  EGPA を含めた慢性炎症性疾患の治療にステロイド. を考慮しなくてはならないことがある。本症例も PT 開. が長期投与されることは稀ではなく,ステロイドミオパ. 始時から上下肢末梢を中心に多発性単神経炎による運動. 8) チーの発症は常に留意する必要がある 。ステロイドミ. 感覚機能障害を呈していた。すでに出現している下垂足. オパチーは緩徐に発症するため,原疾患の症状が変動す. に対しては,早期からの AFO 使用により自立歩行を維. る中では把握することが難しい場合がある。PSL 換算. 持し,廃用症候群を予防した。握力低下などの上肢機能. で 40 mg/day 以上のステロイド投与でそのリスクは高. 障害に対しては OT によりスプリントの作製を検討した. まり,ステロイド投与や増量後 1 ヵ月以内に発症するこ. が,残存機能を考慮し市販の軟性サポーターを選択. とが多いと報告されている. した。. 量(20 mg/day) か ら 40 mg/day へ と 増 量 し た 後 に,.  バランス機能の改善に伴う全身の運動機能の改善は,. 上下肢近位筋の筋力低下を生じていた。また,ステロイ. ADL の自立や職業復帰と良好な帰結となることも少な. ドミオパチーでは筋の代謝異常により筋力低下が生じる. くない. 6‒8). との報告もある。本症例も軽度のバランス. と考えられている. 17). 9)10). 。本症例でも PSL 初期. 。四肢近位筋優位で左右対称性の.

(6) 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症患者への理学療法. 231. 筋力低下を特徴とする。多くは下肢症状が上肢症状より. 内容の検討,2)多発性単神経炎によって生じた下垂足. 顕著であり,立ち上がりや階段昇降の困難さにより患者. に対しての早期からの装具療法やバランス低下への介入. 9). 。しかし,血液検査上での筋細胞. など局所症状への対応,3)ステロイドミオパチーに対. 破壊の所見には乏しく,血清クレアチンフォスフォキ. する運動負荷の調節,4)慢性炎症性疾患を有しながら. ナーゼ(CPK)やアスパラギン酸アミノトランスフェ. も社会活動復帰を含めた長期的な治療計画,これらを考. ラーゼ(AST(GOT) ),アルドラーゼの上昇所見は乏. 慮した理学療法を実施した。. が気づくことがある. しい. 11). 。本症例の臨床症状はこれらに合致しており,. ステロイドミオパチーの可能性に留意した。.  本論文の内容の一部は,第 33 回日本神経治療学会総.  ステロイドミオパチーに対する運動療法に関する動物. 会(2015,名古屋)にて発表した。. 実験では,高強度運動は筋萎縮を生じるため中強度の運 動の方がよい を予防する. 12). ,軽度の運動はステロイドミオパチー. 13). ,トレッドミル運動はステロイドによる. type Ⅱ線維の筋萎縮を予防する可能性がある. 14). ,など. の 報 告 が あ る。 臨 床 研 究 で は, 低 ∼ 中 用 量( 平 均 12.6 mg/day)の PSL 使用例でのアイソキネティック運 動. 15). 動. 16). ,翌日に筋疲労や筋肉痛を生じない範囲の運. ,などステロイドミオパチーが生じた際の筋力低. 下や筋萎縮には中強度の運動負荷で効果があるとする報 告がある。しかし,ステロイドミオパチーに対する運動 療法については,ステロイド投与を必要とする原疾患の 状況や,PSL 投与量および投与期間などの要因も影響 するため,運動療法の是非については不明な点が多い。 これらを考慮し,本症例では PSL40 mg/day の期間に おいては近位筋に対しての積極的な筋力強化は行わず, ADL 維持による筋力低下の予防に留めた。また症状の 進行の際は PSL の減量が必要となるため. 10). ,PT 中は. 筋力を中心とした運動機能の観察を継続し,経過を医師 にフィードバックした。経過中,筋力低下の進行は見ら れず,退院時において近位筋の筋力は改善した。  慢性炎症性疾患である EGPA の経過中には,本症例 で見られたように末梢神経障害と,治療によるステロイ ドミオパチーが合併する可能性がある。PT では原疾患 (EGPA)の病勢を把握したうえで,後遺症を含めた長 期機能障害を呈する末梢神経障害と,可逆的であるもの の運動負荷の調節が必要なステロイドミオパチーへの介 入を並行して行うことになる。PT では,経過と症状の 推移を注意深く観察し,治療内容と検査所見の情報から 至適な介入内容を選択していく必要がある。また,慢性 炎症性疾患による神経障害では,後遺症の長期間の残存 が避けられない場合もあるため,残存する可能性のある 機能障害には装具や自助具を早期から使用することも社 会活動復帰の促進につながるものと考えられた。 結   論  EGPA による多発性単神経炎と治療によるステロイ ドミオパチーを合併した症例への PT について報告し た。1)臨床症状と血液データによる病勢の把握と PT. 文  献 1)Hattori N, Ichimura M, et al.: Clinicopathological features of Churg-Strauss syndrome-associated neuropathy. Brain. 1999; 122: 427‒439. 2)釣木澤尚実,秋山一男:Churg-Strauss 症候群と神経症状 (ニューロパチー).呼吸.2003; 22: 349‒356. 3)谷 口 正 実: 好 酸 球 性 多 発 血 管 炎 性 肉 芽 腫 症(ChurgStrauss 症候群)─診断と治療における最近の進歩.医学 のあゆみ.2013; 246: 51‒57. 4)難 病 情 報 セ ン タ ー ホ ー ム ペ ー ジ.http://www.nanbyou. or.jp/entry/3688(2015 年 12 月 1 日引用) 5)Koike H, Akiyama K, et al.: Intravenous immunoglobulin for chronic residual peripheral neuropathy in eosinophilic granulomatosis with polyangiitis (Churg-Strauss syndrome): a multicenter, double-blind trial. J Neurol. 2015; 262: 752‒759. 6)朝倉祥子,野本 彰,他:上下肢に重度の神経障害を伴っ た Churg-Strauss Syndrome の 1 症症例.理学療法 進歩 と展望.2007; 21: 29‒31. 7)城鼻一江,藤本 昭,他: Churg-Strauss 症候群により感 覚障害を呈した症例─バランス改善への取り組み─.理学 療法福井.2006; 10: 148‒153. 8)瀬戸川啓,森下慎一郎,他:理学療法を実施した ChurgStrauss 症 候 群 の 1 症 例. 臨 床 理 学 療 法 研 究.2011; 28: 103‒106. 9)市川陽一:ステロイドミオパチー.医学のあゆみ.1995; 173: 86‒88. 10)岩本雅弘:ステロイド誘発性筋萎縮.Modern Physician. 2009; 29: 687‒688. 11)Bowyer SL, LaMothe MP, et al.: Steroid myopathy: incidence and detection in a population with asthma. J Allergy Clin Immunol. 1985; 76: 234‒242. 12)Uchikawa K, Takahashi H, et al.: Strenuous exerciseinduced alterations of muscle fiber cross-sectional area and fiber-type distribution in steroid myopathy rats. Am J Physmed Rehabil. 2008; 87: 126‒133. 13)Nakago K, Senda M, et al.: Influence of exercise on muscle fibers in rats with steroid myopathy. Acta Med Okayama. 1999; 53: 265‒270. 14)Okita M, Yoshimura T, et al.: Effects of treadmill exercise on muscle fibers in mice with steroid myopathy. J Jpn Phys Ther Assoc. 2001; 4: 25‒27. 15)Horber FF, Scheidegger JR, et al.: Evidence that prednisone-induced myopathy is reversed by physical training. J Clin Endocrinol Metab. 1985; 61: 83‒88. 16)安井 健,横田一彦:薬剤性ミオパチーが疑われる患者の 理学療法.国立大学理学療法士学会誌.2005; 26: 39‒42. 17)Pereira RM, Freire de Carvalho J: Glucocorticoid-induced myopathy. Joint Bone Spine. 2011; 78: 41‒44..

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