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日本肘関節学会雑誌 26(2)2019

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上腕骨遠位 1/

3骨幹部骨折に対する

肘頭窩穿孔式順行性髄内釘固定の治療成績 

Key words:distalthird humeralshaftfracture(上腕骨遠位 1/3骨幹部骨折),olecranon fossapenetrating(肘頭窩穿孔), anterogradeintramedullary nailing(順行性髄内釘固定)

Corresponding author:Hideto Irifune,Hokkaido Ohno MemorialHospital,DepartmentofOrthopaedicSurgery,16-1, Miyanosawa2-1,Nishi-ku,Sapporo,Hokkaido

腕骨遠位 1/3骨幹部骨折に対し,肘頭窩穿孔式順行性髄内釘固定にて治療を行った症例の治療 成績を検討した.対象は 11例,男性 9例,女性 2例で,平均年齢は 40.3歳である.骨折型は AO 分類 A型が 3例,B型が 7例,C型が 1例であった.全例術後合併症無く平均 10.2週で骨癒合は 得られ,最終経過観察時のUCLA shoulderrating scaleは平均33.4点,Mayo elbow performancescore は平均 100点でいずれも excellentであった.本法は上腕骨遠位 1/3骨幹部骨折の治療の上で,有 用な選択肢の一つと考えられる.

入船 秀仁  阿久津祐子

北海道大野記念病院 整形外科 

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Hideto Irifune  Yuko Akutsu

DepartmentofOrthopaedicSurgery,Hokkaido Ohno MemorialHospital

【緒  言】 上腕骨遠位 1/3骨幹部骨折治療は依然として問題点 が多く残っている.Sarmientoは保存治療を報告した が1),長期に及ぶ外固定や,変形治癒,偽関節率が高 いことが問題となっている.手術治療に関しては,上 腕骨遠位部の解剖学的特徴から,プレートを使用する としても髄内釘を使用するとしてもチャレンジング なものである. 野々宮は上腕骨遠位 1/3骨幹部骨折に対して,肘頭 窩穿孔式髄内釘固定法を報告し,その有用性を述べて いる2).我々は,野々宮は報告した方法に一部改変を 加えた方法での治療を第一選択として行ってきた. 今回,上腕骨遠位 1/3骨幹部骨折に対して,我々の 行っている方法を提示し,その治療成績と利点,欠点 について検討し報告する. 【材料および方法】 対象は,2011年から 2018年までの間に,本法を用い て筆者が治療をおこなった上腕骨遠位 1/3骨幹部骨折 11症例である.うち,新鮮例は 10例で 1例は偽関節例 であった.男性 9例,女性 2例で,平均年齢は 40.3歳 (15-65歳)であった.受傷機転は交通外傷 2例,高所 墜落 2例,転倒転落 2例,投球骨折 2例,腕相撲骨折 3例で,受傷時の骨折型は AO分類で,A1型 3例,B1 型 3例,B2型 1例,B3型 3例,C1型 1例であった. 局所合併損傷としては,開放骨折が 3例,橈骨神経麻 痺が 2例,正中神経麻痺が 1例,上腕動脈断裂が 1例 であった(表 1). 手術方法であるが(図 1A,B),体位は仰臥位で, 表 1.対象症例のまとめ

(2)

体幹を極力手術台の端によせて肩関節を手術台から出 すようにし,さらに患側の肩甲骨下に枕をいれて患側 を挙上するようにする.また,手台を肘にかかるよう に設置を行う(図 2A,B).こうすることで,術中に肩 関節を伸展することができ,髄内釘刺入孔の作成が容 易になる.ドレーピング後,まず我々は原則上腕遠位 への前方アプローチで骨折部を展開して観血的整復を 行う.このアプローチは,上腕二頭筋と腕橈骨筋の間 から進入して,上腕二頭筋を内側へよけると遠位骨幹 部が露出される.また,橈骨神経は腕橈骨筋からはが さずに操作ができるため,医原性橈骨神経損傷の危険 は少ないと考えている(図 2C).また,橈骨神経剥離を 追加する場合にもその操作は容易である.展開後,骨 折部を整復して斜骨折や第三骨片を有するものでは softwireで固定を行い(図 2D),単純横骨折は骨把持 鉗子で整復位を保持した状態とする.その後,肩峰前 外側アプローチで順行性髄内釘の刺入孔を作成する (図 2E).その後,直接リーマーを挿入してリーミング を行い,肘頭窩に穿孔させる(図 2F).我々は,Synthes 社の SynReamのスターターリーマーを使用している. この後,肘頭窩に先端がでる長さの髄内釘を挿入する. 使用髄内釘は初期の 8例は Synthes社の ExpertHumeral Nail,後期の 3例は同社の MultiLocHumeralNailを使用 している.先に遠位の横止スクリューを刺入して(図 2G),必要に応じて近位で骨片間圧迫を機械的にかけ て近位の横止スクリューを刺入して固定を終える(図 1C-E). 後療法は,術翌日から制限無く肩関節,肘関節の自 他動可動域訓練を開始する. これらの症例に対し,術後合併症,骨癒合期間,経 過観察期間,最終経過観察時肩関節,肘関節可動域に ついて調査した.また,機能評価は,肩関節は UCLA shoulderrating scale(以下,UCLA)3),肘関節は Mayo elbow performancescore(以下,MEPS)を用いて評価 を行った4) 図 1. 代表症例.29歳,男性.腕相撲にて受傷した AO分類 B1症例  A;受傷時 X線正面画像.遠位骨片の髄腔残存量は 17mmである.  B;受傷時 3D-CT画像  C;術後 X線正面画像  D;術後 CT矢状断画像.肘頭窩に髄内釘先端がでているのがわかる  E;術後 CT冠状断画像.肘頭窩に髄内釘先端がでているのがわかる

(3)

【結  果】 術後合併症は無く,受傷時に神経麻痺のあったもの はいずれも回復した.骨癒合は平均 10.2週(8-13週) で得られていた.術後平均 14.9ヶ月(12-38ヶ月)経 過観察を行い,最終経過観察時の平均肩関節可動域は, 挙上 171°(160-180°),外転 169°(130-180°),下垂位 外旋 73.2°(60-80°),下垂位内旋 80°(70-90°)で,平 均肘関節可動域は,伸展 0°(0-0°),屈曲 136°(130-145°) であった.最終経過観察時の機能評価は,肩関節は UCLAで平均 33.4点(29-35点),肘関節は MEPSで平 均 100点(100-100点)と,いずれも良好な結果であっ た(表 2) 【代表症例供覧】 症例 1,35歳,女性.階段からの転落にて受傷した (図 3A,B).受傷後 4日目に本法で手術を行った.術 後 2.5ヶ月で骨癒合が得られ(図 3C,D),受傷後 1年 経過時の UCLAは 33点,MEPSは 100点であった. 症例 2,27歳,男性.投球骨折症例である(図 4A). 初回に通常の観血的整復を併用しての順行性髄内釘固 定を行われたが(図 4B),術中骨折を来し遠位骨片の固 定が不十分となっていた.術後 2.5ヶ月経過しても癒 合せず,内反変形を来したため紹介となった(図 4C). 本法にて再手術を行い,再手術後 2ヶ月で骨癒合が得 られ(図 4D,E),受傷後 1年経過時の UCLAは 35点, MEPSは 100点であった. 図 2.術中所見  A;術中体位  B;手術アプローチ外観  C;術中所見  D;術中透視画像.骨折部の整復,固定  E;髄内停止入孔の作成  F;リーマーによる肘頭窩穿孔  G;肘頭窩への髄内釘設置 表 2. 結果のまとめ

(4)

図 3.35歳女性.階段からの転落にて受傷した AO分類 B1症例  A;受傷時 X線正面画像  B;受傷時 3D-CT画像(後面).骨折線の最下端から肘頭窩までの距離は 26mm    しかない.  C;術後 X線正面画像  D;最終経過観察時 X線正面画像  E;最終経過観察時 X線側面画像 図 4. 症例 2,27歳男性,再手術症例

 A;受傷時 X線正面画像.AO分類 A1である.

 B;初回術後 X線正面画像.術中骨折に加え,遠位骨片の固定が不十分である.  C;再手術前 X線正面画像.遠位骨片の内反変形を認める.

 D;最終経過観察時 X線正面画像  E;最終経過観察時 X線正面画像

(5)

【考  察】

上腕骨遠位 1/3骨幹部骨折に対する我々の方法では, 解剖学的整復が得られ,術後合併症も無く,良好な治 療結果が得られていた.

上腕骨遠位 1/3骨幹部骨折の治療は,Sarmientoが functionalbraceを使用した保存治療の良好な結果を報 告し,近年も比較的満足のいく報告がなされている1,5) しかし,Aliらの報告にあるように,骨癒合率は 85%と 決して高くはなく,また,短縮,回旋,角状変形など の変形癒合率も比較的多く見受けられ,Sarmientoの報 告では 8割以上に認められたとしている.保存治療で は,外固定期間が長いためか,肩関節,肘関節の可動域 制限を認めることも多く,これらが保存治療上の問題 点と考えられる. 一方,手術治療を行うとしても,上腕骨遠位 1/3骨幹 部骨折は,その解剖学的特徴から問題が多い.上腕骨 遠位には肘頭窩と鉤突窩があるため,顆上部で三角型 になって髄腔が二つに分かれ,かつ,かなり細くなっ ている.また,遠位骨幹部と顆上部の間の髄腔もかな り狭く固くなっている.一般的に,通常の順行性髄内 釘固定を行う場合には,遠位骨片に 5cm以上の髄腔が 残存していることが推奨されているが6,7),遠位骨幹部 骨折では残存している髄腔が 5cm以下のことが多く, 通常の方法では遠位骨片の固定が不十分となってしま う(図 4B,C).また,逆行性髄内釘の場合,本骨折で は遠位骨片にも骨折が及んでいる場合も多く,打ち込 みの際に医原性骨折をおこしてしまう可能性が高いと 考えられ,その適応には慎重でなければならない.ま た,プレート固定では,通常の上腕骨骨幹部骨折では, 一般に径 4.5mmのストレートプレートの使用が推奨さ れているが,遠位骨幹部骨折では遠位骨片に十分なス クリューが入れられず,固定力不足になる可能性が高 い.また,果部骨折用のプレートでは,手術侵襲が大 きくなり,また,十分な長さが無いことが多く,近位骨 片の固定が不十分になってしまう.海外では,専用プ レートが開発され,良好な成績が報告されているが, 術後合併症率が比較的高い事が問題である8).我々の 方法では,術後合併症も無く,良好な結果が得られて おり,本骨折の治療の上で非常に有用な選択肢の一つ と考えている. 本法の問題点としては,第 1に順行性髄内釘なので 腱板の操作を行う必要があり,術後腱板症状が出るこ とがあげられる.我々は,術中に肩峰下除圧を全例加 え,また,術後早期から肩関節の可動域訓練を行うこ とで,最終的には問題は生じていなかった.また,第 2に遠位骨片の髄腔リーミングはかなり皮質を削るこ とになるため,リーミングの際に発生する熱による骨 壊死が危惧されるところである.我々の結果では,骨 癒合期間は平均 10.2週と保存治療に比べてやや時間が かかっていたが,全例骨癒合は得られていたため,さ ほど問題となることはないと考えている. 本研究の限界としては,後ろ向き研究であること, 他の方法との比較がないことである.今後,前向きで の比較研究が望まれるところである. 【結  語】 本法は,いくつかの技術的問題点はあるものの,上 腕骨遠位 1/3骨幹部骨折の治療の上で有用な方法の一 つと考えられる. 【文  献】

1)Sarmiento A,Horowitch A,AboulafiaA,etal:Functional  bracing for comminuted extra-articular fractures of the  distalthird ofthehumerus.JBoneJointSurg Br.1990;72:  283-7.

2)NonomiyaH:Intramedullary nailing ofdistalthird humeral  shaft fractures; New technique of using trans-olecranon  guidewireinsertion method.JJpn SocFracRep.2008;30:  415-8.

3)AmstutzHC,Sew Hoy AL,ClarkeIC:UCLA anatomic  totalshoulderarthroplasty.Clin Orthop RelatRes.1981;  155:7-20.

4)Morrey BF,AdamsRA:Semiconstrained arthroplasty  forthetreatmentofrheumatoid arthritisoftheelbow.  JBoneJointSurg Am.1981;74:479-90.

5)AliE,GriffithsD,ObiN,etal:Nonoperativetreatment  ofhumeralshaftfracturesrevisited.JShoulderElbow   Surg.2015;24:210-4.

6)WalkerM,Palumbo B,Badman B,etal:Humeralshaft  fractures:areview.JShoulderElbow Surg.2011;20:  833-44.

7)RommensPM,KuechleR,Bord T,etal:Humeralnailing  revisited.Injury.2008;39:1319-28.

8)Fawi H, Lewis J, Rao P, et al: Distal third humeri  fractures treated using the SynthesTM 3.5-mm extra - articular distal humeral locking compression plate:  clinical, radiographic and patient outcome scores.  ShoulderElbow.2015;7:104-9.

図 3. 35歳女性.階段からの転落にて受傷した AO分類 B1症例  A;受傷時 X線正面画像  B;受傷時 3D- CT画像(後面).骨折線の最下端から肘頭窩までの距離は 26mm     しかない.  C;術後 X線正面画像  D;最終経過観察時 X線正面画像  E;最終経過観察時 X線側面画像 図 4

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