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6 参考:食物アレルギーの基礎知識
(1)食物アレルギーとは ア 定義 食物アレルギーとは、原因となる食物を摂取した後にアレルギー反応の機 序によって、体に不利益な症状が引き起こされる病態をいう。皮膚・粘膜症 状、消化器症状、呼吸器症状やアナフィラキシーなどの全身症状がおこる。 ※食中毒、毒性食物による反応、ヒスタミン食中毒、食物不耐症(乳糖 不耐症等)は食物アレルギーには含まれない。 イ 原因 原因食品は多岐にわたり、学童期では鶏卵、乳製品だけで全体の約半数を 占めるが、実際に学校で起きた食物アレルギー発症事例の原因食物は甲殻類 (えび、かに)や果物類(特にキウイフルーツ)が多くなっている。また、原 因食物の摂取だけでなく、後述するように、運動と組み合わさって誘発され るタイプもある。 ウ 症状 症状は多岐にわたる。じんましんのような軽い症状からアナフィラキシー ショックのような命にかかわる重い症状まで様々である。注意すべきは、食 物アレルギーの約10%がアナフィラキシーショックにまで進んでいる点で ある。 ※平成 13・14 年度、平成 17 年度厚生労働科学研究の全国疫学調査に よる。 エ 治療 「原因となる食物を摂取しないこと」が唯一の治療(予防)法である。万 一、症状が出現した場合は、速やかに適切な対処を行うことが重要である。 じんましんなどの軽い症状に対しては抗ヒスタミン薬の内服や経過観察に より回復することもあるが、喘鳴(ぜーぜー)、呼吸困難、嘔吐、ショックな どの中等症から重症の症状には、アナフィラキシーに準じた対処が必要であ る。(「(2)食物アレルギーの症状とアナフィラキシー」参照)42 (2)食物アレルギーの症状とアナフィラキシー 食物アレルギーの症状として、皮膚のかゆみ、じんましん、発赤などがよ くみられる。その他にも腹痛、呼吸困難など全身に症状が起こりうる。これ らの症状は日常生活の中で、繰り返し起こるため、食物アレルギーであると 気づかないこともある。また、アレルギーにより血圧低下などのショック症 状(アナフィラキシーショック)がみられることもある。 食物アレルギーによって起こる様々な症状
*アナフィラキシーとは*
定義 じんましんだけ、吐き気だけなど一つの症状にとどまらず、皮膚症状、消化器症状、 呼吸困難などの呼吸器症状が複数同時にかつ急激にあらわれるものをアナフィラキシ ーという。中でも血圧が低下して意識の低下や脱力を来すような場合を特にアナフィ ラキシーショックと呼び、直ちに対応しないと生命にかかわる重篤な状態であること を意味する。アナフィラキシーには、アレルギー反応によらず運動や物理的な刺激など によって起こる場合もある。 原因 児童生徒に起きるアナフィラキシーの原因のほとんどは食物であるが、それ以外に 昆虫刺傷、医薬品、ラテックス(天然ゴム)などが問題となる。まれに運動だけで起こ ることもある。 治療 具体的な治療は重症度によって異なる。意識状態、呼吸、心拍の状態、皮膚色の状態 を確認しながら必要に応じ一次救命措置を行い、医療機関への搬送を急ぐ。 アドレナリン自己注射薬「エピペン」(商品名)を携行している場合は、出来る だけ早期に注射することが効果的である。 アナフィラキシー症状は急激に進行することが多いので初期の対応が重要となる。 また、時間を経過してから症状が反復する、あるいは、新たに発現することがあるので、 十分な経過観察が大事である。アナフィラキシーを起こした場合の経過観察は、保護者 のお迎え、あるいは医療機関受診まで行うことが必要である。 皮 膚 かゆみ じんましん 発赤 湿疹 口中の違和感 腫れ 声がれ かゆみ イガイガ感 口・のど くしゃみ 鼻水 鼻づまり 鼻 呼吸困難 咳 ゼーゼーする 呼吸器 結膜の充血 かゆみ 涙 まぶたの腫れ 眼 腹痛 吐き気 嘔吐 下痢 血便 消化器 頻脈 血圧低下 循環器 ぐったりする 意識障 神 経43 (3)食物アレルギーのタイプ(病型) 食物アレルギーは、食後2時間以内に体中が赤くなったり、じんましんが出 たりする即時型が典型的であるが、他にもいろいろなタイプがある。 表 15 食物アレルギーのタイプ(病型) 即 時 型 原因食物を食べてから通常2時間以内に出現するアレ ルギー反応による症状を示すことが多い。その症状はじ んましんのような軽い症状から、生命の危険を伴うアナ フィラキシーショックに進行するものまで様々である。 口腔アレルギー 症候群(OAS) 口唇・口腔粘膜における果物・野菜等による接触性ア レルギーである。摂取後5分以内に口腔内の症状(のど のかゆみ、ヒリヒリ、イガイガ、腫れぼったさ等)を認 めることが多い。 花粉症に合併することが多く、ハンノキやシラカンバ はバラ科果物(りんご、もも、さくらんぼ等)、イネ科と ブタクサはウリ科果物(メロン、すいか等)と交差反応 しやすい。 食物依存性運動 誘発アナフィラ キシー 原因食物を摂取後、2時間以内に一定量の運動(昼休 みの遊び、体育等)を行ったときにアナフィラキシーを 起こす。原因食物としては小麦、甲殻類が多い。じんま しんから始まり、高頻度で呼吸困難やショック症状のよ うな重篤な症状にいたる場合もある。学校で初発するこ とも多い。 原因食物摂取から2時間(可能なら4時間)は運動を 控えることが望ましいとされる。症状が誘発される運動 の強さは個人差があるので、主治医や保護者と相談して 決める必要がある。 日本学校保健会「食物アレルギーによるアナフィラキシー学校対応マニュアル」をもとに作成 即時型食物アレルギーのメカニズム 体の中に、ウイルスや細菌が入り込むと、人はそれを体から追い出そうとす る。これが免疫といわれる体を守る仕組みである。ところが、体を守るはずの この免疫の働きが過剰に反応して、体に不利な症状を引き起こすことがある。 例えば、卵アレルギーの人は、卵を食べると皮膚に湿疹が出たり、目がはれた りすることがある。このような反応をアレルギー反応という。アレルギー反応 は「アレルゲン」といってアレルギー反応を引き起こす物質(例えば前述の卵) と、アレルゲンにさらされることによって体の中で作られる IgE 抗体によって 起こる。(図1) 食物アレルギーの多くは、食べ物に含まれるたんぱく質などが、消化管から 吸収され、血液を介して、皮膚、気管支粘膜、鼻粘膜、結膜などに到達してアレ ルギー反応が起きる。 図1 食物アレルギーの発症機序 アレルギー症状 (目のかゆみ・湿疹・喘息) 「アレルゲン」と「IgE 抗体」 が結びつき、細胞からヒスタ ミンなどが放出されてアレ ルギー症状が起きる 日本学校保健会「食物アレルギーによるアナフィラキシー 学校対応マニュアル」をもとに作成
44 (4)食物アレルギーの原因食品 ア 加工食品のアレルギー表示について (ア)表示義務と推奨表示について 食物アレルギーを引き起こしやすい食品で、重篤度・症例数の多い7 品目(特定原材料)である卵、乳、小麦、そば、落花生、えび、かににつ いては、食品表示法によって表示が義務付けられている。また、表示の 義務はないが、過去に一定の頻度で健康被害が見られた 20 品目(特定 5原材料に準じるもの)については表示が推奨されている。(表 16) ※表示制度は、食物アレルギー患者の発生状況、症状が重篤である かどうか等の実態に応じ、制度改正が行われるので、常に最新の情 報を知っておく必要がある。 食物アレルギーは、「原因食物の除去」が唯一の予防法であることから、 学校が原因食品を正確に把握することが取り組みの前提となる。その上 で、対応にあたっては、児童生徒の健全な発育発達の観点から、不要な 食事制限にならないように注意しなければならない。従って、保護者か らの原因食品の申請が医師の診断によるものであることを確認する必要 がある。 表 16 特定原材料等27品目 用 語 名 称 特 定 原 材 料 ( 表 示 義 務 ) 卵、乳、小麦、そば、落花生、えび、かに 特定原材料に準ずる ( 表 示 の 推 奨 ) あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッ ツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、 さば、ゼラチン、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、 まつたけ、もも、やまいも、りんご
45 イ 主な食物アレルギー原因食品についての解説 表 17 主な食物アレルギー原因食品についての解説 鶏 卵 優れた調理特性を有しているため、いろいろな加工食品に使 われている。 卵白のたんぱく質が原因であることが多く、卵黄から摂取可 能となる場合が多い。 加熱により抗原(アレルゲン)性が低減する。 魚卵や鶏肉との交差抗原性※は低いため、除去については個 別の判断となる。 牛 乳 牛乳アレルギーの原因たんぱく質は、加熱や発酵による変化 を受けにくい。 乳成分に関する表示は見方が難しいので正しい知識が必要で ある。例えば、「乳化剤」は添加物であり、乳から作られるも のではないこと等。 小 麦 乳幼児においては、卵、乳に次ぐアナフィラキシー誘発食品で ある。中学生から成人では食物依存性運動誘発アナフィラキ シーの原因となりやすい。 小麦は、高温加熱でも抗原(アレルゲン)性は低下しない。し ょうゆの原材料に使用される小麦は、発酵の過程でたんぱく 質が分解されているので、基本的に除去する必要はないとさ れる。 他の麦類(大麦、ライ麦など)は基本的には除去する必要はな いとされるが、個別の判断となる。 大 豆 みそ、しょうゆ等の調味料は、発酵の過程で大豆のたんぱく質 が分解されるので、基本的に食べられることが多い。 小豆やえんどう豆、いんげん豆など大豆以外の豆類は、大豆ア レルギーの原因にはならないので、基本的に除去する必要は ない。
46 甲 殻 類 えびやかになどの甲殻類間や、いかとたこなど軟体類間、貝類 間には、それぞれ交差抗原性があることが知られている。 果 実 類 果物で多く見られるのは、口の中が腫れたり、かゆくなったり する口腔アレルギー症候群(OAS)である。 アレルギーの報告の多い果物は、キウイフルーツ、りんご、も も、メロン、バナナなどである。小学1年生は、給食で初めて 食べる果物が出る場合があるので、体調変化の訴えに注意が 必要である。 ご ま ごま油は、除去する必要がないことが多いが、精製度が低いご ま油はゴマタンパクが混入している可能性があり、個別の対 応が必要となる。 *食物アレルギー原因食品* 年齢によって、アレルゲンが変化したり、新たに加わったりすることが ある。 鶏卵、乳、小麦アレルギーは、年齢が増すとともにしばしば消失(自然寛 解)するが、そば、ピーナッツ、貝・甲殻類、魚類等のアレルギーは生涯持 続する傾向がある。 全年齢における原因食物 鶏卵 39.0 % 牛乳 21.8 % 小麦 11.7 % ピーナッツ 5.1 % 果物 4.0 % 魚卵, 3.7 % 甲殻類, 3.4 % ナッツ類 2.3 % ソバ 2.2 % 魚卵, 2.1 % その他 4.6 % 厚生労働科学研究班による 食物アレルギーの栄養食事指導の手引き 2017 より 今井孝成 ほか アレルギー.2016;65:942-6
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《参考》
アレルギー症状の原因となる食品は、加工食品に使用された際、表示制度に従っ て情報が提供されるが、中にはわかりにくい表記のものもあるので注意が必要であ る。 鶏卵アレルギー 牛乳アレルギー 食べられないもの ◆鶏卵と鶏卵を含む加工食品 鶏卵を含む加工食品の例 マヨネーズ・練り製品(かまぼこ、はんぺん など)・肉加工品の一部(ハム、ウインナー など)・洋菓子類の一部(クッキー、ケーキ、 アイスクリーム等) ◆牛乳と牛乳を含む加工食品 牛乳を含む加工食品の例 乳製品(ヨーグルト、チーズ、バター、生ク リーム、全粉乳、脱脂粉乳、一般の調整粉乳、 練乳、乳酸菌飲料、はっ酵乳、アイスクリー ム)・パン・パン粉・洋菓子類の一部(チョコ レート等)・調味料の一部 基本的に除去する必要のないもの 鶏肉・魚卵 牛肉 紛らわしい表示について ◆鶏卵を含まないため基本的に食べられる もの 卵殻カルシウム(焼成、未焼成とも) ◆牛乳を含まないため基本的に食べられる もの 乳化剤・乳酸菌・乳酸カルシウム・乳酸ナ トリウム 小麦アレルギー 大豆アレルギー 食べられないもの ◆小麦粉と小麦を含む加工食品 小麦を含む加工食品の例 パン・うどん・マカロニ・スパゲティ・麩・ 餃子の皮・市販のルウ(シチュー、カレー 等)等調味料の一部 ◆大豆と大豆を含む加工食品 大豆:黄大豆・黒大豆(黒豆)・青大豆(枝豆) 大豆を含む加工食品の例 豆乳・豆腐・湯葉・厚揚げ・油揚げ・がんも・ おから・きなこ・納豆・醤油※・みそ※・大 豆由来の乳化剤を使用した食品(菓子類・ド レッシング等) *醤油、みそは微量反応する重症な場合 基本的に除去する必要のないもの 醤油、他の麦類(大麦、ライ麦、オーツ麦 等) 他の豆類(あずき、いんげん豆、えんどう 豆等) 紛らわしい表示について ◆小麦を含まないので基本的に食べられる もの 麦芽糖 厚生労働科学研究班による「食物アレルギーの栄養指導の手引き 2011」等をもとに作成48 (5)食物アレルギーの診断と治療 食物アレルギーの診断は、通常、血液検査だけで診断するのではなく、実 際に起きた症状と食物アレルギー負荷試験などの専門的な検査結果を組み合 わせて、医師が総合的に診断する。 食物アレルギーの診断手順 表 18 食物アレルギーの診断根拠 診断根拠 内 容 ① 明らかな 症状の既往 過去に、原因食物の摂取により明らかなアレルギー症状が起きてい るので、診断根拠として高い位置づけになる。 ただし、原因食物によっては年齢を経るごとに耐性化(食べられる ようになること)することが知られており、直近の1~2年以上症状 が出ていない場合には、診断根拠としての意味合いを失っている可能 性もある。 ② 食物負荷 試験陽性 原因と考えられる食物を試験的に摂取して、それに伴う症状が現れ るかどうかをみる。①に準じたものと考えられ、診断根拠として高い 位置づけになるが、①同様、1年以上前の結果は信頼性が高いとは言 えない。 専門の医師の十分な観察のもと、症状の有無を確認する。 ③ IgE 抗体等 検査陽性 IgE 抗体値がよほど高値の場合は、③だけを根拠に診断する場合も あるが、一般的には血液や皮膚の検査だけで食物アレルギーを正しく 診断することはできない。 日本学校保健会「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」をもとに作成 食物の除去が必要な児童生徒であっても、その多くは除去品目数が数品目以内に とどまる。あまりに除去品目数が多い場合には、不必要な除去を行っている可能性 が高いとも考えられる。除去品目数が多いと食物アレルギー対策が大変になるだけ でなく、成長発達の著しい時期に栄養のバランスが偏ることにもなるので、診断根 拠を参考に、保護者や主治医、学校医等とも相談し、正しい診断を促していくこと が大切である。