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博士論文 小児摂食障害の臨床像および心理 社会的特徴 と 母親の心理的特徴 平成 29 年度 筑波大学大学院人間総合科学研究科 ヒューマン ケア科学専攻 田副真美

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全文

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小児摂食障害の臨床像および心理・社会的特徴と母

親の心理的特徴

著者

田副 真美

発行年

2018

学位授与大学

筑波大学 (University of Tsukuba)

学位授与年度

2017

報告番号

12102甲第8662号

URL

http://doi.org/10.15068/00152253

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博士論文

小児摂食障害の臨床像および心理・社会的特徴

母親の心理的特徴

平成

29 年度

筑波大学大学院人間総合科学研究科

ヒューマン・ケア科学専攻

田副真美

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はじめに 私は、総合病院の小児科で長年臨床心理士として働いている。臨床現場では、医師、看護師などの医 療従事者と連携をとり、子どもたちの病気からの回復への心理的援助を行っている。中でも心身症の治 療においては、医療現場のみならず、家庭、学校など子どもたちの置かれている様々な環境に働きかけ ながら、連携をとりながら子どもたちがより適応的な生活が出来るように、子どもや家族と一緒に考え ていくことが多い。 摂食障害は近年増加傾向にあり、中でも神経性やせ症の急増と低年齢化が小児科診療の問題となって いる。神経性やせ症は、入院時に著しい低栄養状態によって身体の内科的全身管理が重要であるととも に、慢性的な栄養障害に陥ることで、重篤な心身への合併症を持つ。その子どもたちに共通して、幼い 頃よりいわゆるいい子で、他人に気を遣い自己不全感に陥っていることが多いことを経験する。そのよ うな子どもたちは、発症のきっかけに友人関係のトラブルや勉強や部活などにおける躓きなどが認めら れ、適切な対応がされずに放置されることで、その後の社会生活における対人交流の在り方や自己実現 に影響を与え、その結果として、QOL の低い生活を送っている。そのようなことから、医療現場では、 栄養士らと連携し、早期に身体管理と心理的援助を基盤とした教育プログラムなどによる介入が行われ ている。子ども自身が病気を克服し、肯定的に自身を捉えることができ、本音で行動し人と交流できる ような自律性の発達を支援することが目的である。 医療現場だけではなく子どもたちが日常過ごしている家庭や学校などでの介入も重要な役割を果た す。摂食障害の子どもの摂食の問題や完全癖、自己不全感などの心理的な特徴が、社会的生活面にも大 きな影響を与えることがあり、生活場面での支援を行うことが必要である。そのためには、日常生活を 続ける中で、摂食障害を治すというよりは、むしろ摂食の問題がありながら上手に付き合っていくとい う生活全般の長期的な改善によるものであるというイメージを治療者と子ども、家族で共有し支援して いく必要があると考える。 本研究では、小児期摂食障害の心理・社会的な特徴の理解を深め、今後の小児摂食障害の心理臨床と 家族支援の一助にしていきたいと考えている。また、その結果をふまえ新たな研究につなげていきたい と思う。

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目 次

はじめに 第1 章 問題の所在と目的 第1 節 摂食障害の概念・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 第2 節 摂食障害の疫学・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 第3 節 摂食障害の臨床像・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 第4 節 摂食障害の病因と発症機序・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 第5 節 小児摂食障害へのアプローチ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 第6 節 小児摂食障害患児と家族・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 第7 節 本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 第2 章 小児摂食障害の臨床像と心理・社会的特徴 第1 節 目的と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 第2 節 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 第3 節 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 第4 節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 第3 章 初経発来の有無による臨床像と心理・社会的特徴 第1 節 目的と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 第2 節 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 第3 節 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 第4 節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 第4 章 症状移行の有無による臨床像と心理・社会的特徴 第1 節 目的と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 第2 節 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 第3 節 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 第4 節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57 第5 章 小児摂食障害患児と母親の心理的特徴―エゴグラムによる検討― 第1 節 目的と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58 第2 節 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61 第3 節 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64 第4 節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67 第6 章 総 括

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第1 節 結果のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68 第2 節 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72 第3 節 本研究の限界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 第2 節 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・79 図 表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92 資 料 謝 辞

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1 章

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第 1 節 摂 食 障 害 の 概 念

1. 摂 食 障 害 の 定 義

Fairburn & Wash( 2002)は 、摂 食 障 害 を「 摂 食 行 動 、も し く は 体 重 の コ ン ト ロ ー ル を 目 指 し た 行 動 の 持 続 的 な 障 害 で 、 そ の 結 果 、 身 体 的 健 康 や 心 理 社 会 的 機 能 を 著 し く 損 な う も の 、 そ し て こ の 障 害 は 一 般 的 な 身 体 疾 患 や そ の 地 の 精 神 障 害 に よ り 派 生 し た も の で は な い こ と 」 と 定 義 し た 。

摂 食 障 害 の 概 念 は 、1980 年 に 米 国 精 神 医 学 会 が 作 成 し た DSM-Ⅲ : Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 3t h Edition( American Psychiatric Association,

1980) の 診 断 基 準 で 初 め て 登 場 し 、 異 食 症 や 幼 児 期 の 反 芻 障 害 な ど と と も に 、「 幼 児 期 、 児 童 期 お よ び 思 春 期 に 生 じ る 障 害 」の 項 に 含 ま れ て い た 。そ の 後 、DSM-Ⅳ:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4t h Edition( American Psychiatric Association,

1994) の 診 断 基 準 で 、 神 経 性 無 食 欲 症 ( DSM-5 で は 、 神 経 性 や せ 症 ) と 神 経 性 大 食 欲 症 が 摂 食 障 害 と し て 独 立 し た 。 そ し て 、DSM-Ⅳ -TR:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4t h Edition Text Revision( American Psychiatric Association , 2000)

を 経 て 、DSM-5:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5t hAmerican

Psychiatric Association, 2013) で は 、 摂 食 障 害 お よ び 摂 食 障 害 群 と し て 、 回 避 ・ 制 限 性 摂 食 障 害 、神 経 性 や せ 症(anorexia nervosa:以 下 AN)、神 経 性 大 食 欲 症( bulimia nervosa: 以 下 BN) 過 食 性 障 害 な ど が 分 類 さ れ た 。

ICD-10 : International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problem, 10t h Edition( World Health Organization, 1992)の 診 断 基 準 で は「 生 理 的 障 害

お よ び 身 体 的 要 因 に 関 連 し た 行 動 症 候 群 」 の 中 で 、 摂 食 障 害 と し て 分 類 さ れ て い る 。 2. 小 児 摂 食 障 害 の 定 義

上 記 の 診 断 基 準 を 10 歳 以 下 の 子 ど も た ち に は 使 用 す る こ と は 勧 め ら れ ず 、 診 断 基 準 は 若 年 の 子 ど も の 摂 食 行 動 の 問 題 に 対 し て 信 頼 性 が あ る と 認 め ら れ て な い (Nicholls, Chater & Lask, 2000)と 言 わ れ て い る が 、実 際 に は 、8 歳 の 子 ど も で も 摂 食 障 害 を 発 症 し て い る と い う 報 告 が あ る (Watkins & Lask, 2002)。 し か し 、 小 児 摂 食 障 害 は 成 人 の 摂 食 障 害 と は 臨 床 的 特 徴 が 異 な り ( 傳 田 ,2005)、 そ の 定 義 は 必 ず し も 明 確 で な く 、 若 年 で 発 症 と い う 場 合 の 年 齢 に つ い て も 発 症 年 齢 な の か 受 診 年 齢 な の か と い う よ う に 、 明 確 に 定 義 さ れ て い な い ( 傳 田 ,2005, 2007; Lask & Bryant-Waugh, 1993)。

Lask & Bryant-Waugh( 1992) は 、 14 歳 以 下 に 発 症 し た 摂 食 障 害 を 若 年 発 症 の 摂 食 障 害 と 呼 ぶ べ き と 述 べ て い る 。 傳 田 (2005, 2007) は 、 14 歳 以 下 発 症 の 摂 食 を 若 年 の 摂 食 障 害 と し な が ら も 、12 歳 以 下 の 摂 食 障 害 の 症 例 が 少 な い 理 由 も 挙 げ 14 歳 以 下 と 定 義 し て い る 。

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ま た 、中 井(2010)は 、14 歳 以 下 で 発 症 し 14 歳 以 下 で の 受 診 を Ⅰ 群 、14 歳 以 下 で 発 症 し 15 歳 以 上 で の 受 診 を Ⅱ 群 、 15 歳 以 上 で 発 症 し 15 歳 以 上 で の 受 診 を Ⅲ 群 と し て 、 摂 食 障 害 調 査 票 EDI( Eating Disorder Inventory)、摂 食 態 度 検 査 EAT( Eating Attitudes Test)、 自 己 評 価 抑 う つ 尺 度 SDS( Self-rating Depression Scale)の 結 果 を 比 較 検 討 し た 。そ の 結 果 、Ⅰ 群 で は 、初 診 年 齢 、罹 患 期 間 、初 診 時 体 重 、初 診 時 BMI( Body Mass Index)で は 、 最 小 BMI が Ⅱ 、 Ⅲ 群 に 比 べ 小 さ く 、 病 型 で は 79%が AN の 制 限 型 で あ っ た 。 ま た 、 Ⅰ 群 は 、や せ 願 望 と 自 己 認 知 欠 如 が Ⅱ 群 に 比 べ 低 く 、SDS の ス コ ア も Ⅱ 、Ⅲ 群 に 比 べ 低 い こ と が 示 さ れ て い た 。 一 方 、 Ⅱ 、 Ⅲ 群 で は 、 発 症 年 齢 、 初 診 年 齢 、 罹 患 期 間 に 差 は 認 め ら れ な か っ た と 報 告 し て い る 。 以 上 の こ と か ら 、 中 井 (2010) は 若 年 発 症 の 摂 食 障 害 の 区 分 は 、 14 歳 以 下 の 発 症 で は な く 14 歳 以 下 の 受 診 者 と し て 定 義 す る こ と が 好 ま し い と し て い る 。 こ の よ う に 、 小 児 摂 食 障 害 の 定 義 は 、 研 究 者 間 に お い て 見 解 が い く つ か あ り 、 若 年 発 症 の 年 齢 区 分 に つ い て は 、 今 後 も さ ら な る 検 討 が 必 要 で あ る 。 小 児 に み ら れ る 摂 食 行 動 の 問 題 は 成 人 と は 異 な り 、非 定 形 な こ と が 多 く 、AN で は 、AN の 精 神 病 理 を 有 す る も の の 体 重 減 少 が 著 明 で な い た め に DSM な ど の 診 断 基 準 を 完 全 に は 満 た さ な い 。そ れ だ け で は な く 、軽 度 の 不 安・抑 う つ か ら 二 次 的 に 体 重 減 少 を き た す も の 、 腹 痛 ・ 嘔 吐 な ど の 恐 怖 か ら 食 物 を 回 避 す る も の な ど 、AN や BN と は 精 神 病 理 学 的 に ま っ た く 異 な る 病 態 ま で 、 さ ま ざ ま な バ リ エ ー シ ョ ン が 存 在 す る 。 こ の よ う な こ と か ら 、 特 定 不 能 の 摂 食 障 害 と し て 分 類 さ れ る こ と が 多 い ( 中 井 ,2010)。 Nichol et al.( 2000) は 、 摂 食 困 難 で 専 門 機 関 を 受 診 し た 6~ 16 歳 の 81 例 に つ い て DSM-Ⅳ で 診 断 し た 結 果 、 特 定 不 能 の 摂 食 障 害 が 58.0%、 分 類 不 能 7.4%で あ っ た と 報 告 し て い る 。 ま た 、 1999 年 に 実 施 さ れ た 厚 生 科 学 研 究 特 定 疾 患 対 策 事 業 の 全 国 調 査 の 報 告 で は 、DSM-Ⅳ の 診 断 基 準 を 満 た す 成 人 女 性 975 例 の う ち 、 特 定 不 能 の 摂 食 障 害 は 11.9%で あ っ た ( 中 井 ・ 久 保 木 ・ 野 添 ・ 藤 田・久 保・吉 政・稲 葉・中 尾 ,2002)。ま た 、前 述 の Nichol et al.(2000)に よ る 調 査 で 、 ICD-10 に よ る 分 類 に お い て も 、 そ の 他 の 摂 食 障 害 25.3%、 特 定 不 能 の 摂 食 障 害 13.3%で あ っ た と 報 告 し て い る 。 こ の こ と か ら 、 小 児 期 の 摂 食 障 害 は 、 思 春 期 以 降 に 比 べ て 特 定 不 能 の 摂 食 障 害 に 分 類 さ れ る 割 合 が 高 い こ と を 示 し て い る 。 小 児 摂 食 障 害 の 非 定 型 例 に つ い て は 、AN と そ れ 以 外 の 非 定 型 例 に お い て 、そ の 精 神 病 理 に 差 異 が あ り( Cooper, Watkins, Bryant-Waugh & Lask, 2002)、 そ の 治 療 戦 略 も 異 な る 。 適 切 な 医 療 の 提 供 の た め に は 、 小 児 期 の 摂 食 障 害 と 摂 食 困 難 に つ い て の 詳 細 な 分 類 が 必 要 で あ る 。

小 児 期 発 症 の 摂 食 障 害 の 診 断 基 準 に つ い て は 、 米 国 精 神 医 学 会 に よ る 診 断 基 準 に 加 え 、 英 国 の Great Ormond Street Hospital の Lask ら が 小 児 期 発 症 の 摂 食 障 害 と そ の 類 縁 疾 患 の 診 断 分 類 と し て 提 唱 し た Great Ormond Street criteria ( 以 下 GOSC )( Lask &

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3 Bryant-Waugh, 2013) の 併 用 が 試 み ら れ て い る ( 地 嵜 , 2012) 。 こ の 分 類 で は 、 AN、 BN、 食 物 回 避 性 情 緒 障 害 、 選 択 的 摂 食 、 制 限 摂 食 、 食 物 拒 否 、 機 能 的 嚥 下 障 害 と 他 の 恐 怖 状 態 、 広 汎 性 拒 絶 症 候 群 、 う つ 状 態 に よ る 食 欲 低 下 の 計 9 つ の 基 準 が 示 さ れ て い る 。 小 児 摂 食 障 害 で は 成 人 例 と 比 べ AN、BN を 除 く 非 定 型 の 摂 食 障 害 が 比 較 的 多 く 、相 違 点 や 類 似 点 を 理 解 し て 対 応 す る こ と が 必 要 で あ る 。

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第 2 節 摂 食 障 害 の 疫 学

摂 食 障 害 の 発 症 頻 度 や 罹 患 数 は 、 全 体 の サ ン プ ル や 測 定 の 方 法 に よ っ て 異 な る が 、 女 性 の AN の 生 涯 罹 患 率 は 0.5~3.7%、 BN で は 1.1~4.2%と い わ れ て い る ( Garfunkel, Lin, Goering, Spegg, Goldbloom, Kennedy, Kaplan & Woodside, 1996; Walters & Kendler, 1995)。 年 齢 の ピ ー ク は 、 AN が 15~ 19 歳 で あ り( Hoek & Hoeken, 2003;Hudson, Hiripi, Pope & Kessler, 2007) 、 BN で は 19 歳 と 青 年 期 か ら 成 人 期 始 め に 多 く み ら れ る ( Hus, 1996; Stein, 1991; Whitaker, 1992) 。 む ち ゃ 食 い や 排 出 行 動 と い っ た 食 行 動 異 常 は よ り 普 遍 的 に 認 め ら れ 、10 代 女 性 の 10~ 50% に 機 械 的 な 自 己 誘 発 性 嘔 吐 や む ち ゃ 食 い エ ピ ソ ー ド が み ら れ る と い う (Fisher et al, 1995)。 し か し 、 前 思 春 期 で は 排 出 行 動 は あ っ て も 摂 食 障 害 の 性 差 に つ い て は 、 女 性 に 多 く 、 そ の 男 女 比 は 1:6~1:10 と い わ れ て い る が 、 欧 米 の 若 い 患 者 中 で は 、19~30%が 男 性 患 者 で あ る と い う 報 告 も あ る ( Fosson, Knibbs, Bryant-Waught & Lask, 1987 ; Hawley, 1985 ; Luca, Breard, O’Fallon & Kurland, 1991 ; Hudson et al., 2007 ) 。 児 童 期 に お い て は 、 8 歳 か ら の 発 症 例 の 報 告 が あ る (Bryant-Waugh, 2000) 。

日 本 は 、 西 欧 文 化 圏 で な い 中 で 、 唯 一 、 摂 食 障 害 が 持 続 的 に 増 加 し て い る 国 で あ る 。 最 近 の 調 査 で は 受 診 者 は 約 24,000 人 と 推 定 さ れ て い る 。 病 識 の 乏 し さ か ら 受 診 し て い な い 患 者 も 多 い と い わ れ お り 、実 際 の 患 者 数 は 受 診 者 の 数 倍 い る と も い わ れ て い る(Nadaoka, Oiji, Takahashi, Morioka, Kashiwakura & Totsuka, 1996)。

わ が 国 の 病 院 を 対 象 と し た 疫 学 調 査 で は 、1981 年 に 厚 生 省( 現 厚 生 労 働 省 )の 特 定 疾 患 「 中 枢 性 摂 食 異 常 調 査 研 究 班 」 が 発 足 し た 。 第 1 回 は 、 1977 年 に 実 施 さ れ 、 全 6 回 の 調 査 が 実 施 さ れ て い る 。 そ の 結 果 、 第 4 回 ま で の 患 者 数 、 有 病 率 は あ ま り 大 き な 変 化 が 認 め ら れ な か っ た が 、 第 5 回 で は 全 人 口 に お け る 推 定 患 者 数 は 、 AN で 10,500 人 ~ 15,000 人 ( 人 口 10 万 対 8.3~11.9) で 、 BN で は 、 5,500~ 7,500 人 ( 人 口 10 万 対 4.3~5.9) と い う 結 果 が 得 ら れ 、第 5 回 の 診 断 基 準 が DSM-Ⅳ で あ る た め 、DSM-Ⅲ に よ る 診 断 結 果 と 単 純 に は 比 較 で き な い と し な が ら も 、 第 3 回 、 第 4 回 に 比 べ 、 AN で は 2~3 倍 、 BN で は 4~5 倍 に 増 え た と 報 告 し て い る( 末 松 ・ 久 保 木 ,1988)。中 井 ら( 2002)の 調 査 で は 、55:45 で BN の 増 加 が 示 さ れ て い た 。 中 井 (2007) に よ る 学 生 を 対 象 と し た 調 査 で は 、 1982 年 の 調 査 結 果 と 比 べ 、1992 年 で 約 4 倍 、2002 年 で は 約 10 倍 に 摂 食 障 害 が 増 加 し て い る こ と を 報 告 し て い る 。ま た 、そ の 内 訳 は 、1992 年 で は 、特 定 不 能 の 摂 食 障 害 の 増 加 が 顕 著 で あ る が 、2002 年 で は AN、BN、 特 定 不 能 の 摂 食 障 害 の す べ て の 病 型 に つ い て 著 し い 増 加 が 認 め ら れ て い る 。

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5 第 3 節 摂 食 障 害 の 臨 床 像 1. AN 身 体 面 で は 、や せ 、低 体 温 、低 血 圧 、除 脈 、便 秘 、浮 腫 、う ぶ 毛 の 密 生 、乾 燥 し た 皮 膚 、 重 症 で は 、 時 に 恥 毛 の 脱 毛 や 乳 房 萎 縮 が み ら れ る 。 女 子 で は 、 無 月 経 や 初 経 遅 延 が 出 現 す る 。 初 経 発 来 前 に 発 症 し た 場 合 に は 、 身 長 の 伸 び が 悪 く な り 、 最 終 的 に は 低 身 長 に な る こ と が 知 ら れ て い る ( 綾 部 ・ 大 谷 ・ 綾 部 ・ 作 田 ,2013; 日 本 小 児 心 身 医 学 会 , 2016)。 心 理 面 で は 、 低 体 重 の 維 持 、 肥 満 恐 怖 と や せ 願 望 、 身 体 像 の 障 害 、 自 己 評 価 が 体 重 や 体 型 に 過 度 に 影 響 を 及 ぼ す 、 病 識 の 欠 如 、 二 次 的 に 抑 う つ ・ 強 迫 等 の 併 存 す る 精 神 症 状 が 挙 げ ら れ る ( 傳 田 ,2008; 日 本 小 児 心 身 医 学 会 , 2016)。 行 動 面 で は 、不 食 、摂 食 制 限 、過 食 、排 出 行 動 、強 迫 傾 向 、活 動 性 の 亢 進 、家 庭 内 暴 力 、 盗 癖 、 性 的 逸 脱 行 動 、 自 殺 企 図 や ア ル コ ー ル 、 薬 物 の 乱 用 な ど の 自 己 破 壊 行 動 、 万 引 き な ど の 社 会 逸 脱 行 動 の 問 題 行 動 が 認 め ら れ る ( 傳 田 ,2008; 日 本 小 児 心 身 医 学 会 , 2016)。 合 併 症 と し て 、 や せ や 低 栄 養 に よ る 身 体 的 合 併 症 が 認 め ら れ る 。 ま た 、 精 神 的 合 併 症 と し て 、 二 次 的 に う つ 病 、 不 安 障 害 、 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 な ど の 精 神 障 害 が 出 現 す る こ と が 少 な く な い (Godart, Flament & Curt, 2003; Lucka, 2006; 傳 田 ,2008)。 報 告 に よ っ て さ ま ざ ま で あ る が 、AN 患 者 の 33~80%に 何 等 か の パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 が 存 在 し 、AN-制 限 型 は 、 強 迫 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 、 回 避 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 、 依 存 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 が 多 く 、AN む ち ゃ 食 い /排 出 型 は 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 、 演 技 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 が 多 く 認 め ら れ る ( 切 池 ,2009)。 2. BN BN の 中 心 的 症 状 は む ち ゃ 食 い( binge eating)で あ る 。む ち ゃ 食 い は 、単 な る 過 食 で は な く 、大 量 の 食 物 を 一 定 の 時 間 内 に 詰 め 込 む よ う に 食 べ て し ま う こ と で あ る 。典 型 例 で は 、 不 快 気 分 状 態 、 対 人 関 係 の ス ト レ ス 、 因 子 、 食 事 制 限 後 の 強 い 空 腹 感 、 体 重 や 体 型 に 関 連 し た マ イ ナ ス の 感 情 な ど が き っ か け に な っ て む ち ゃ 食 い が 起 こ る 。 そ の 後 、 自 己 嫌 悪 の 感 情 や 抑 う つ 気 分 が 襲 っ て く る こ と が 多 い ( 傳 田 ,2008)。 も う 1 つ の 特 徴 と し て は 、 体 重 増 加 を 防 ぐ た め の 代 償 行 動 を 繰 り 返 す こ と で あ る 。自 己 誘 発 性 嘔 吐 、下 剤・利 尿 剤 の 乱 用 ・ 1 日 以 上 の 絶 食 や 過 度 の 運 動 が 挙 げ ら れ る 。 小 児 の 場 合 に は 、 利 尿 剤 の 使 用 な ど は ほ と ん ど み ら れ な い ( 傳 田 ,2008; 日 本 小 児 心 身 医 学 会 , 2016)。 ま た 、AN と 同 様 に 体 重 が 自 己 評 価 や 自 尊 心 を 決 定 す る 重 要 な も の と な っ て い る 。 そ の た め 、体 重 増 加 へ の 恐 怖 、体 重 減 少 の 願 望 、自 身 の 体 型 や 体 重 へ の 不 満 が 過 度 に 存 在 す る 。 精 神 的 合 併 症 と し て 、 む ち ゃ 食 い や 排 出 行 動 に よ る 身 体 的 合 併 症 や AN と 同 様 に 二 次 的 に う つ 病 、 不 安 障 害 、 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 な ど の 精 神 障 害 が 出 現 す る こ と が 少 な く な い ( 傳 田 ,2008)。ま た 、切 池 (2009)は 、BN の 36~64%に な ん ら か の 不 安 障 害 が 合 併 し 、さ ら に

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6 は 、21~77%に な ん ら か の パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 合 併 が 認 め ら れ 、 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 、 演 技 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 、 強 迫 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 、 回 避 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 、 依 存 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 が 多 く 認 め ら れ る と 述 べ て い る 。 3. 小 児 摂 食 障 の 臨 床 像 の 特 徴 小 児 摂 食 障 害 の AN の 臨 床 像 は 、几 帳 面 、完 全 主 義 的 で 強 迫 的 な 性 格 傾 向 を 有 し 、腹 痛 、 嘔 吐 、悪 心 な ど の 身 体 症 状 を も っ て 発 症 す る 例 が 多 く 、11 歳 頃 よ り 典 型 的 な AN の 臨 床 像 を 呈 し 、 過 食 症 に 移 行 す る 例 は 少 な い ( 切 池 ,2009)。 ま た 、 小 児 摂 食 障 害 は 食 思 不 振 や 腹 部 膨 満 感 で 食 べ ら れ な い 食 思 不 振 型 と 、 体 重 を 増 や そ う と す る 治 療 に 激 し く 抵 抗 す る 拒 食 型 が 多 く 、 さ ら に は 、 過 活 動 傾 向 や 食 事 量 低 下 な ど の 食 行 動 異 常 の 方 が よ り 中 核 的 な 症 状 で あ り 、や せ 願 望 や ボ デ ィ ー イ メ ー ジ の 障 害 は 明 確 で な い( 切 池 ,2009)。白 崎( 1983) は 、 前 思 春 期 の 発 症 例 で 多 い 「 拒 食 型 」 で は 緘 黙 や 不 登 校 が み ら れ や す い こ と か ら 、 年 齢 的 ・ 精 神 発 達 的 に よ り 未 熟 な 病 態 と し て の 位 置 づ け が 可 能 で あ る と し て い る 。 BN は 、平 均 年 齢 15 歳 を 対 象 と し た 調 査 で は 、既 報 告 の 若 年 発 症 の 患 者 に 比 べ て 高 年 齢 で 、 過 食 を 呈 す る 患 者 が 約 38% と 多 く 、 過 食 を 発 症 す る 年 齢 は 主 に 13~ 14 歳 で あ っ た 。 し か し 、 嘔 吐 や 下 剤 を 乱 用 す る 患 者 は 、 思 春 期 発 症 の 典 型 例 に 比 し て 少 な く 、 ま た 自 殺 企 図 や 万 引 き な ど の 問 題 行 動 に つ い て も 低 率 で あ っ た と 報 告 し て い る ( 切 池 ・ 金 子 ・ 池 永 ・ 永 田 ・ 山 上 ,1998)。 傳 田(2008)は 、小 児 摂 食 障 害 の 臨 床 的 特 徴 で あ る 11 項 目 を 以 下 の よ う に 挙 げ て い る 。 ① 拒 食 と や せ が 主 症 状 の 症 例 が 多 い 。② ダ イ エ ッ ト の 既 往 が な い 症 例 も 少 な く な い 。③ 腹 痛 、 嘔 気 な ど の 身 体 症 状 を 伴 い や す い 。 ④ 抑 う つ 症 状 を 呈 し や す い 。 ⑤ 不 登 校 な ど の 不 適 応 行 動 や 神 経 症 症 状 が 重 な り や す い 。 ⑥ 成 熟 拒 否 や 同 一 性 を め ぐ る 思 春 期 葛 藤 が 明 ら か で な い 。 ⑦ 過 食 ・ 隠 れ 食 い ・ 盗 食 な ど の 食 行 動 異 常 が 目 立 た な い 。 ⑧ 肥 満 恐 怖 ・ 身 体 像 の 障 害 ・ や せ 願 望 が 明 ら か で な い 。 ⑨ 拒 食 症 か ら 過 食 症 へ の 移 行 は 、 青 年 期 よ り 少 な い 。 ⑩ 子 ど も の 摂 食 障 害 は 急 激 に 重 篤 な 状 態 に 陥 り や す い 。 ⑪ 症 状 は 飢 餓 に よ る 影 響 を 受 け や す い 。 こ の こ と か ら 、 病 態 の 中 心 は 、 や せ が 主 症 状 の AN が 中 心 で あ る こ と 、 明 ら か な や せ 願 望 が な い 場 合 が あ り 、 生 活 上 の 不 適 応 行 動 や 神 経 症 が 合 併 し や す く 、 さ ら に は 体 重 の 減 少 が 身 体 に 重 篤 な 影 響 を 与 え る こ と が う か が わ れ る 。 ま た 、 死 亡 率 は 6~10%と 高 く 、 10 代 前 半 の 発 症 は 10 代 以 降 の 発 症 よ り も 、 心 身 の ダ メ ー ジ が 大 き く 、 栄 養 障 害 に よ る 深 刻 な 発 育 不 全 と 多 臓 器 障 害 を 生 じ る と い う 報 告 ( 渡 辺 ,2005a) も あ り 、 若 年 発 症 の 神 経 性 無 食 欲 症 は 、 深 刻 な 病 気 で あ る こ と が わ か る 。

ま た 、Wentz, Lacy, Woller, Rastam, Tunk & Gillberg( 2005) は AN の 18~20%に 広 汎 性 発 達 障 害 を 認 め 、 低 体 重 や 摂 食 障 害 と の 有 意 な 関 連 が あ る と 報 告 し て お り 、Rastam, Gillberg & Wentz( 2003)は 、広 汎 性 発 達 障 害 の 合 併 例 は 心 理 ・ 社 会 的 予 後 に 関 し て 不 良

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な 転 帰 を た ど る と し て い る 。 小 児 摂 食 障 害 の AN に 関 し て 、 前 思 春 期 発 症 例 の 増 加 、 BN へ の 移 行 例 の 増 加 、広 汎 性 発 達 障 害 と の 合 併 例 の 存 在 が 指 摘 さ れ て い る 。( 日 本 小 児 心 身 医 学 会 ,2016)。

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8 第 4 節 摂 食 障 害 の 病 因 と 発 症 機 序 摂 食 障 害 の 発 症 に は 、 社 会 ・ 文 化 的 要 因 、 心 理 的 要 因 、 生 物 学 的 要 因 が 複 雑 に 関 与 し て お り 、 そ れ ぞ れ が 相 互 的 作 用 に よ る 多 因 子 疾 患 と 考 え ら れ 、 多 因 子 モ デ ル が 提 唱 さ れ て い る ( 中 井 ,2009)。 佐 藤 (2005)は 、多 様 な 生 物 学 的 ・ 心 理 的 ・ 社 会 的 ス ト レ ス が 複 雑 に 絡 み 合 い 、体 重 減 少 → 空 腹 感 喪 失 → 脳 の 委 縮 ・ 機 能 不 全 → ダ イ エ ッ ト ハ イ → 体 重 減 少 と い う 悪 循 環 か ら 、 発 症 す る と 述 べ て い る 。 そ れ ぞ れ 、 発 症 の 素 地 や 、 引 き 金 と な り 、 慢 性 化 の 要 因 に な る と し て い る 。 そ の 慢 性 化 す る 代 表 的 な 要 因 は 、 ダ イ エ ッ ト ハ イ で あ り 、 特 に 脳 内 変 化 が 挙 げ ら れ 、 一 種 の 薬 物 中 毒 に 似 た 状 態 で 、 患 者 は や せ る こ と を や め ら れ な く な る と し て い る 切 池 (2009)に よ れ ば 、や せ 願 望 、思 春 期 の 自 立 葛 藤 、 ス ト レ ス な ど の 社 会 的 、心 理 的 要 因 に よ り 、 摂 食 量 の 低 下 が 起 き 、 身 体 素 因 と し て 脆 弱 性 を 有 す る 人 の 前 頭 葉 ・ 扁 桃 体 - 視 床 下 部 系 に 影 響 を 及 ぼ し 、 認 知 ・ 情 動 - 摂 食 行 動 制 御 系 の 機 能 異 常 を 引 き 起 こ し 、 こ れ に 種 々 の 摂 食 調 整 物 質 の 変 化 、 視 床 下 部 - 孤 束 核 系 の 機 能 異 常 が あ い ま っ て 適 切 な 摂 食 行 動 が 障 害 さ れ る も の と 考 え ら れ る 。さ ら に は 、栄 養 障 害 に よ り 生 理 的 、精 神 的 変 化 を 生 じ 、 こ れ が さ ら に 摂 食 行 動 の 中 枢 調 節 機 構 に 悪 影 響 を 及 ぼ し 、 食 べ な い→食 べ ら れ な い →食 べ た ら 止 ま ら な い 、 と い っ た 摂 食 行 動 異 常 の 悪 循 環 に 陥 り 、 摂 食 障 害 の 複 雑 か つ 特 異 的 な 病 態 が 形 成 さ れ る も の と し て い る 。

し か し 、 一 方 で は Fairburn & Harrison( 2003) は 、 摂 食 障 害 の 問 題 の 複 雑 さ を 認 め 、 発 症 の 具 体 的 な モ デ ル を 提 唱 す る こ と を 拒 ん で い る 。「 関 連 し て い る 個 々 の 成 因 過 程 に つ い て ほ と ん ど 何 も わ か っ て い な い し 、 摂 食 障 害 の 発 症 と 持 続 に つ い て 、 そ う い っ た 過 程 が ど の よ う に 相 互 作 用 し 、 ど の よ う に 変 化 す る の か に つ い て も 、 ほ と ん ど 知 ら れ て い な い 」 と 述 べ て い る 。 ま た 、 摂 食 障 害 発 症 に 関 与 す る 危 険 因 子 を 大 き く 分 け て 2 種 類 あ る と い う 仮 説 (Fairburn, Wash, Doll, Davies & O’Corinor, 1997; Fairburn et al.,2003) が あ る 。 1 つ 目 は 、 病 前 の 不 幸 な 体 験 な ど と い う 精 神 障 害 の 全 般 的 リ ス ク を 高 め る も の 。2 つ 目 は 、 子 ど も 時 代 の 肥 満 や 家 族 性 の 肥 満 、 早 期 の 初 経 、 体 重 体 型 に 対 し て 敏 感 に さ せ る よ う な 他 の 要 因 な ど の 、 ダ イ エ ッ ト や 食 行 動 異 常 の リ ス ク を 高 め る も の で あ る と 述 べ て い る 。 さ ら に は 、 摂 食 障 害 発 症 の 危 険 因 子 に 寄 与 す る も の と し て 、 低 い 自 尊 感 情 と 完 全 主 義 な ど の 性 格 要 因 を 挙 げ て い る 。 摂 食 障 害 は 、 ス ト レ ス が き っ か け と な る こ と は 明 ら か で あ る が 、 そ の 内 容 は さ ま ざ ま で 複 雑 に 関 係 し あ っ て い る こ と が 示 さ れ て お り 、 個 々 人 に よ っ て も 違 い が あ る こ と が 推 測 さ れ る 。 さ ま ざ ま な 発 症 機 序 の 説 が あ り 、 い ず れ に し て も 、 摂 食 障 害 に つ い て は 未 だ 解 明 で き な い 部 分 が 多 い こ と が う か が わ れ る 。 本 研 究 で は 、 図 1 に 示 す よ う に 、 多 因 子 モ デ ル を 、 準 備 因 子 ( 社 会 文 化 的 要 因 、 家 族 関 係 、個 人 の 心 理 的・生 物 学 的 要 因 )が 背 景 に あ り 、発 症 要 因( ダ イ エ ッ ト や ス ト レ ス な ど )

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が 加 わ り 、 摂 食 障 害 を 発 症 し 、 身 体 面 、 心 理 面 、 行 動 面 に 二 次 的 変 化 が 生 じ 、 そ れ ら が 悪 循 環 を 形 成 し 、持 続 因 子 と な っ て 病 気 を 慢 性 化 さ せ る と い う 考 え( 切 池 ,2009;中 井 ,2009; 鈴 木 ,2012; Fairburn & Wash, 2002) に 沿 っ て 記 述 す る 。

1. 摂 食 障 害 の 発 症 に 関 与 す る 要 因 : 準 備 因 子 (1) 社 会 ・ 文 化 的 要 因 ① や せ 願 望 と 肥 満 蔑 視 美 容 や 健 康 上 の 理 由 に よ り 肥 満 蔑 視 や や せ 願 望 が 社 会 に 浸 透 し て お り 、生 物 学 的 、本 能 的 欲 求 を 無 視 し た 極 端 な ダ イ エ ッ ト に 走 ら せ る 精 神 病 理 が 蔓 延 し て い る ( 切 池 ,2009)。 マ ス コ ミ や グ ラ ビ ア な ど の 商 業 紙 に は 、 多 く の ダ イ エ ッ ト に 関 す る 広 告 が 掲 載 さ れ 、 ス リ ム で あ る こ と も て は や し て い る 。 馬 場 ・ 菅 原 (2000) は 、 青 年 期 の 女 子 を 対 象 と し た 痩 身 願 望 に つ い て の 研 究 に お い て 、 痩 身 体 型 の 獲 得 と 「 女 性 的 魅 力 の ア ピ ー ル 」 や 「 自 己 不 全 感 か ら の 忘 却 」 と の 関 連 を 示 唆 し て い る 。 思 春 期 の 子 ど も た ち は 、 社 会 全 体 が 外 見 的 な 価 値 を 重 視 す る 傾 向 が 強 い 環 境 の 中 で 、 小 学 校 生 で 社 会 基 準 や 親 の 意 向 に 照 準 を 合 わ せ て 自 身 を 自 己 評 価 し 、変 容 し よ う と し て い る 。 小 林(1998)は 、そ の よ う な 環 境 に 置 か れ て い る 小 学 生 は 、知 識 の 少 な さ か ら 、適 切 な 体 重 維 持 行 動 が と れ て い な い と 警 告 し て い る 。 ② 女 性 の 社 会 参 加 現 代 の 女 性 を 取 り ま く 状 況 は 、 高 学 歴 化 に よ る 職 業 選 択 肢 の 多 様 化 や 、 妊 娠 可 能 期 間 の 延 長 、 結 婚 を 決 定 す る 年 齢 が 高 く な り 、 い つ 子 ど も を も つ か の 選 択 幅 の 拡 大 、 ラ イ フ ス タ イ ル の 選 択 肢 が 多 様 化 し て い る 。 こ れ ら に よ り 、 女 性 の 自 己 実 現 に 向 け て 、 よ り 主 体 的 に 人 生 を 選 択 で き る 方 向 で 社 会 が 動 い て い る 。 し か し 、 現 実 的 に は 伝 統 的 な 性 役 割 分 担 が 依 然 と し て 存 在 し 、 そ の よ う な 状 況 下 で 女 性 は 主 体 的 に 人 生 を 選 択 し 、 自 己 実 現 に 向 け て 生 き て い か な け れ ば な ら ず ス ト レ ス に 囲 ま れ て 生 き て い る と し て い る ( 切 池 ,2009)。 ③ 飽 食 の 時 代 現 代 の 日 本 で は 食 物 が 豊 富 で 、 世 界 の ど こ の 食 物 で も 手 に 入 り 、 グ ル メ 志 向 が 浸 透 し て お り 、 食 事 は 生 体 を 維 持 す る と 言 う よ り も 、 享 楽 的 傾 向 が 非 常 に 強 く な っ て き て お り 、 拒 食 ・ 過 食 と い う 食 行 動 は 、 食 物 の な い 社 会 で の 発 症 は 考 え ら れ な く 、 食 物 が 欠 乏 し て い る 社 会 で は 過 食 す る に も で き ず 、 不 食 や 拒 食 は 死 を 意 味 し て い る こ と か ら 、 飽 食 の 環 境 も 準 因 子 と し て 挙 げ ら れ て い る ( 切 池 ,2009)。 (2) 個 人 的 要 因 ① 心 理 的 要 因 と 精 神 科 合 併 症 摂 食 障 害 の 発 症 に は さ ま ざ ま な 心 理 的 要 因 が 関 与 し て い る こ と が 明 ら か に さ れ て い る 。

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10 し か し 、 こ れ ら は 1 つ だ け 関 与 し て い る と い う よ り 複 数 の 要 因 が 重 な り 合 っ て 、患 者 独 自 の 病 気 を 形 成 し て い る も の と 考 え ら れ て い る ( 切 池 ,2009)。 摂 食 障 害 の 近 代 理 論 を 打 ち 立 て た Bruch( 1975) も 、 AN に つ い て 「 多 く の 要 因 が 同 時 に 相 互 作 用 し あ っ て 決 定 さ れ る 複 雑 な 状 態 」 と 述 べ て い る 。 注 意 す べ き 点 と し て 、 発 症 要 因 と し て の 心 理 的 特 徴 と 発 症 後 に 認 め ら れ た 心 理 的 特 徴 を 区 別 す る 必 要 が あ り 、 心 理 的 要 因 と し て 扱 う に は 慎 重 を 要 す る 。 a.性 格 切 池 (2009) は 、 AN で は 、 内 向 的 で 強 迫 的 、 内 気 で 恥 ず か し が り 屋 、 良 心 的 、 統 合 失 調 気 質 、 自 己 中 心 的 で 未 熟 、 ヒ ス テ リ ー な ど が 病 前 性 格 ま た は 性 格 傾 向 と し て 指 摘 さ れ て い る と し て い る 。BN で は 、AN と 共 通 す る 部 分 も 多 く 、完 全 主 義 、低 い 自 尊 感 情 、依 存 的 、 強 迫 的 、 衝 動 的 、 自 己 主 張 し な い 、 人 に 認 め ら れ た い 願 望 が 強 い 等 が 、 多 く の 研 究 者 に よ り 、 指 摘 さ れ て い る と し て い る 。 Fairburn et al.( 2003) も 摂 食 障 害 発 症 の 危 険 因 子 に 寄 与 す る も の と し て 、 低 い 自 尊 心 や 完 全 主 義 な ど の 性 格 要 因 の 関 連 を 想 定 し て い る 。 井 上 ・ 山 本 ・ 廣 常 ・ 横 井 ・ 館 ・ 片 岡 (1988) は 、 AN の 性 格 特 徴 に つ い て 、 自 己 表 現 の 乏 し さ と い う マ イ ナ ス な 面 を も っ て い る に も か か わ ら ず 、 周 囲 か ら は 適 応 の 良 い 子 と い う 評 価 を 得 て い る こ と が 明 ら か に し 、 葛 藤 を 生 じ や す い 性 格 構 造 を 有 し て い る と 報 告 し て い る 。 摂 食 障 害 児 の 心 理 的 特 徴 に つ い て は 、 田 副 ・ 作 田 ・ 成 田 ・ 成 田 ・ 中 村 (2001)は 投 映 法 の バ ウ ム テ ス ト を 用 い た 調 査 で は 、 摂 食 障 害 児 に 、 防 衛 的 で 未 熟 な 特 徴 や 心 理 的 に 不 安 定 な 状 況 が 認 め ら れ た こ と を 報 告 し て い る 。 b.自 立 葛 藤 切 池(2009)は 、核 家 族 化 と 少 子 化 の 進 行 に 伴 い 、親 の 過 保 護 、過 干 渉 の 傾 向 が 浸 透 し 、 対 人 交 流 の 狭 小 化 と 貧 困 化 を 招 き 、 自 我 機 能 が 未 発 達 に な り 脆 弱 化 し て い る 。 こ の よ う な 状 況 で 、 両 親 ( 多 く は 母 親 ) を め ぐ る 依 存 と 自 立 の 葛 藤 や 自 我 同 一 性 の 確 立 を 廻 る 葛 藤 が 生 じ る 。 そ し て 、 こ の 葛 藤 が う ま く 解 決 で き ず 、 親 か ら の 自 立 が 困 難 で 、 自 分 ら し さ を 確 立 で き な い 状 況 に 陥 っ た 時 に 、 自 分 自 身 へ の 無 力 感 や 絶 望 感 を ダ イ エ ッ ト に よ っ て 体 重 を コ ン ト ロ ー ル す る こ と で 、 自 己 統 制 感 と 自 己 価 値 観 の 高 揚 を 得 る こ と が で き る ( 切 池 , 2009)。 そ の た め 、 自 分 自 身 に 目 を 向 け 、 自 信 を 持 ち 自 己 実 現 に 向 か い 、 自 立 葛 藤 の 問 題 が 解 決 す る ま で は 、 体 重 の コ ン ト ロ ー ル を 繰 り 返 す こ と に な る 。 c.身 体 像 の 障 害 AN 患 者 に お い て は 、 発 症 前 に 体 重 が 正 常 か む し ろ や せ て い る の に ダ イ エ ッ ト を 始 め た り 、 発 症 し て や せ て い る に も か か わ ら ず 、 や せ を 認 識 し て い な か っ た り 、 ま た は 身 体 の 一 部 分 、 例 え ば 大 腿 部 や 下 腹 部 な ど が 太 っ て い て 醜 い と 思 っ て い る 。 一 方 、BN 患 者 に お い て も 、 正 常 体 重 で あ る の に 自 分 は 太 っ て 醜 い と 思 っ て い る 場 合 が し ば し ば 認 め ら れ る 。 こ

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11 れ ら は 身 体 像 の 障 害 に 起 因 す る も の と 考 え ら れ て い る ( 切 池 ,2009)。 d.不 適 切 な 学 習 誤 っ た 学 習 に よ り 不 適 応 行 動 、 す な わ ち 摂 食 行 動 異 常 が 生 じ る 。 発 症 準 備 因 子 と し て 、 自 分 が 肥 満 し て い る と 思 い 込 み 、 体 重 減 少 を は か ろ う と し て 、 常 に 食 事 の カ ロ リ ー や 体 重 が 気 に な っ て い る 状 態 が あ り 、 症 状 誘 発 因 子 と し て 、 肥 満 を 指 摘 さ れ た り す る と こ れ に 過 敏 に 反 応 す る 。 さ ら に 家 庭 、 学 校 、 職 場 な ど で 種 々 の ス ト レ ス が 加 わ る と 、 い っ そ う こ の 反 応 が 増 強 さ れ る 。 そ し て 強 化 因 子 と し て 、 両 親 の 注 目 を あ び た り 、 周 囲 の 人 々 か ら も 関 心 を 引 い た り す る こ と か ら 摂 食 行 動 異 常 は さ ら に 強 化 さ れ る ( 切 池 ,2009)。 e.認 知 の 歪 み AN や BN 患 者 に 共 通 し て 、 体 型 と 体 重 に つ い て の 過 剰 な 関 心 と 認 知 の 歪 み ( 信 念 と 価 値 観 ) が み ら れ る 。 そ し て 、 自 尊 心 や 自 己 評 価 が 体 型 や 体 重 に 過 度 に 影 響 を 受 け て い る 。 す な わ ち 、 少 し 体 重 が 減 れ ば 成 功 し た と 思 い 自 信 を 得 、 逆 に 増 え れ ば 失 敗 し た と 思 い 自 信 を 失 う 。 そ の 結 果 、 病 的 な や せ 願 望 や 肥 満 に 対 す る 恐 怖 を 生 じ 、 極 端 な 食 事 制 限 、 自 己 誘 発 性 嘔 吐 、 下 剤 や 利 尿 剤 の 乱 用 に 至 る ( 切 池 ,2009)。 f.精 神 疾 患 の 合 併 症 完 全 主 義 傾 向 と 摂 食 障 害 の 関 連 に つ い て 、永 田・田 中・切 池・松 永・河 原 田・山 上(1998) に よ っ て AN む ち ゃ 食 い /排 出 型 と BN に お い て 完 全 主 義 傾 向 が 高 い こ と が 示 さ れ て い る 。 ま た 、DSM-Ⅲ で パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の 診 断 基 準 が 確 立 さ れ 、 第 Ⅱ 軸 に 診 断 さ れ る よ う に な る と 、AN や BN に お い て パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 を 高 率 に 合 併 す る こ と が 明 ら か に さ れ て い る ( 切 池 ・ 松 永 ,1997)。「 体 重 の こ だ わ り 」は 、摂 食 障 害 全 体 の 病 的 行 動 を 惹 起 す る 要 因 の 1 つ と い わ れ て い る( Fairburn et al., 2003)。摂 食 障 害 全 体 で は 否 定 的 な 自 己 評 価 あ る い は 低 い 自 尊 心 ( 自 己 評 価 )、AN で は 強 迫 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 傾 向 や 完 全 主 義 、 BN や む ち ゃ 食 い 行 動 で は 、 特 に 抑 う つ や 不 安 な ど が 発 症 に 関 連 が あ る と 考 え ら れ て い る (Fairburn et al., 2003)。 (3) 身 体 的 要 因 肥 満 に な り や す い こ と や 早 熟 な ど が 挙 げ ら れ る 。 ま た 、 第 二 次 性 徴 期 の 女 子 の 場 合 は 、 皮 下 脂 肪 の 増 加 、 初 経 発 来 、 乳 房 の 増 大 、 な ど 急 激 な 身 体 的 変 化 を 経 験 す る た め 、 発 症 の 要 因 と な り や す い 。そ の た め 、15 歳 以 下 へ の 予 防 的 介 入 の 重 要 性 が い わ れ て い る( 馬 場 他 , 2000) (4) 環 境 要 因 ① 家 族 関 係

Minuchin, Rosenman & Baker( 1978) は 、 心 身 症 の 家 族 に み ら れ る 交 流 パ タ ー ン の 特 徴 と し て 、 ① 絡 み 合 い 、 ② 過 保 護 、 ③ 硬 直 性 、 ④ 葛 藤 回 避 、 ⑤ 葛 藤 に 子 供 を 巻 き 込 む な ど

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を 挙 げ た 。 こ れ ら は AN 家 族 で も み ら れ 、 こ れ ら の 家 族 の 交 流 パ タ ー ン の 機 能 不 全 に よ り 摂 食 障 害 が 発 症 す る も の と 考 え ら れ て い る ( 切 池 ,2009)。 児 童 期 お よ び 青 年 期 の 子 ど も を 対 象 と し た 研 究 で は 、健 康 な 食 事 を 維 持 す る こ と は 摂 食 障 害 発 症 と 負 の 相 関 関 係 を 示 し 、 過 度 の 支 配 、 激 し い 指 導 、 食 事 の 個 別 化 が 摂 食 障 害 発 症 と 正 の 相 関 関 係 を 示 し た と い う 報 告(Kurg, Treasure, Anderluh, Bellodi, Cellini, Collier, diBernardo, Granero, Karwautz, Nacmias, Penelo, Ricca, Sorbi, Tchanturia, Wagner & Fernández-Aranda, 2009)や 摂 食 障 害 の 発 症 に は 家 庭 環 境 の 影 響 が 大 き い と い う 報 告 が あ る (Goncalves, Moreira, Trindade & Fiates, 2013)。 ま た 、 む ち ゃ 食 い 症 状 を 有 す る AN-排 出 型 や BN 群 の む ち ゃ 食 い 行 動 が 、 両 親 の 不 和 ・ 別 離 ・ 離 婚 と い っ た 先 行 体 験 の ス ト レ ス 対 処 行 動 と し て の 意 味 合 い を も つ と い う 報 告( 大 場・安 藤・宮 崎・ 川 村・濱 田・大 野 ・ 瀧 田 ・苅 部 ・ 近 喰 ・吾 郷 ・ 小 牧 ・ 石 川 ,2002) が あ る 。 BN や 自 己 誘 発 性 嘔 吐 の よ う な 排 出 行 動 の 準 備 因 子 と し て 、 家 庭 内 の ス ト レ ス と な る 先 行 体 験 が 示 さ れ て い た 。 ② 偏 っ た 養 育 態 度 強 母 弱 父 型 の 家 庭 で 、 父 親 は 家 庭 の こ と に 関 し て 傍 観 者 的 態 度 , 無 関 心 、 放 任 的 態 度 を 示 し 、 受 け 身 的 で 弱 く 影 の 薄 い 存 在 で あ る 。 一 方 、 母 親 は 優 勢 で 支 配 的 で あ る が 、 自 己 不 全 感 が 強 く 、 子 ど も に 対 し て 過 保 護 、 過 干 渉 、 支 配 的 な 養 育 態 度 を 示 し 、 育 児 の 達 成 感 に よ り 自 己 を 保 と う と す る 。 こ の よ う に 、 切 池 (2009)は 、子 ど も は 母 親 に 対 し て 基 本 的 信 頼 関 係 を 結 べ ず 、 愛 情 飢 餓 状 態 に あ る が 、 自 己 を 主 張 す る こ と が で き ず 、 思 春 期 ま で 非 常 に お と な し く 、 い わ ゆ る 「 よ い 子 」 と し て 育 つ こ と が 、 発 症 の 要 因 と な っ て い る と し て い る 。 ③ ス ポ ー ツ 体 重 や 体 型 の 維 持 を 必 要 と す る 競 技 に 属 す る ス ポ ー ツ 選 手 は 、 摂 食 障 害 の 発 症 の 危 険 性 が 高 い 。特 に 体 重 制 限 を 伴 う 競 技 種 目 エ リ ー ト 選 手 の 女 性 ア ス リ ー ト の 3 徴 と 呼 ば れ る「 摂 食 障 害 、 無 月 経 、 骨 粗 鬆 症 」 を 高 率 に 発 症 し て い る ア ス リ ー ト 特 有 の 摂 食 障 害 と し て 、 anorexia atheletica と 呼 ば れ て い る ( Nattiv, Loucks, Manore, Sanborn, Sundgot-Borgen & Warren, 2007)。 児 童 期 、 青 年 期 の 学 校 内 外 の 運 動 部 の 活 動 で の 指 導 に お い て も 注 意 が 必 要 で あ る 。 (5) 生 物 学 的 要 因 前 述 の 社 会 文 化 、 心 理 的 要 因 、 家 庭 や 学 校 な ど 環 境 要 因 の 影 響 が 準 備 因 子 の 存 在 が あ る と し て も 、 必 ず し も 発 症 す る わ け で は な い 。 近 年 、 摂 食 障 害 へ の 罹 患 感 受 性 に 遺 伝 的 要 因 が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と が 家 族 内 集 積 の 研 究 や 双 生 児 研 究 で 報 告 さ れ て い る ( 小 牧 ,2012)。 遺 伝 要 因 、 視 床 下 部 - 下 垂 体 系 の 神 経 内 分 泌 学 的 異 常 、 こ れ を 調 節 す る 神 経 伝 達 物 質 や ニ ュ ー ロ ペ プ チ ド の 異 常 、脳 の 形 態 的 お よ び 機 能 的 変 化 が あ り 、こ れ ら が 摂 食 障 害 の 素 因 、

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発 症 お よ び 慢 性 化 に 関 係 し て い る も の と 考 え ら れ て い る( 兒 島・成 尾 ,2004;小 牧・安 藤 , 2004; 永 田 ・ 切 池 2008; Kaye, 1996; Walters & Kendler, 1995)。

中 村 ・ 白 澤 (2006) は 摂 食 障 害 の 生 物 学 的 要 因 と し て 遺 伝 子 解 析 し , AN 感 受 性 を 示 す 遺 伝 子 多 型 情 報 (SNPs) を 取 得 し た こ と を 報 告 し て い る 。 ま た , 朝 田 ・ 森 ・ 木 村 ・ 遠 藤 (2000)は 摂 食 障 害 に お け る 定 量 脳 波 の 分 析 に よ り 、抑 う つ を 伴 う 神 経 性 大 食 症 と う つ 病 で の 定 量 脳 波 学 的 所 見 に お い て 一 致 す る 脳 波 活 動 が み ら れ る こ と を 報 告 し て い る 。 そ の 病 因 に つ い て 、切 池(2004)は「 食 べ な い →食 べ ら れ な い →食 べ た ら と ま ら な い( 過 食 )」と い う 摂 食 行 動 異 常 に は 悪 循 環 が あ り 、そ の 悪 循 環 の メ カ ニ ズ ム に つ い て 社 会 的 、心 理 的 要 因 ( ス ト レ ス 、 や せ 願 望 、 思 春 期 の 自 立 葛 藤 な ど ) に よ っ て 摂 食 量 の 低 下 が 引 き 起 こ さ れ 、 摂 食 障 害 の 身 体 的 要 因 を 有 す る 人 の 中 枢 性 調 節 機 構 に 異 常 が 生 じ 、 適 切 な 摂 食 行 動 が 障 害 さ れ る 、 さ ら に や せ や 栄 養 障 害 に よ り 生 理 的 、 精 神 的 変 化 ( 身 体 合 併 症 や 脳 の 機 能 的 お よ び 形 態 的 変 化 ) が 生 じ 、 さ ら に 摂 食 行 動 の 中 枢 性 摂 食 調 整 機 構 に 悪 循 環 を 及 ぼ す と 述 べ て い る 。 母 親 の 要 因 に 関 し て の 報 告 で は 、 母 親 の 妊 娠 時 ・ 周 産 期 の 合 併 症 が 子 ど も の 中 枢 神 経 の 発 育 に 影 響 し 、 摂 食 障 害 発 症 の 危 険 因 子 と な る 可 能 性 が 指 摘 さ れ て い る ( 小 牧 ,2012)。 ま た 、 母 親 が 摂 食 障 害 で あ る こ と は 、 遺 伝 的 要 因 の み な ら ず 、 環 境 因 子 と し て 子 ど も の 発 症 危 険 因 子 と し 指 摘 さ れ て い る ( 小 牧 ,2012)。 両 親 の 肥 満 あ る い は 、 本 人 の 小 児 期 の 肥 満 が 、BN の 発 症 危 険 因 子 と し て 報 告 さ れ て い る (Fairburn et al., 2003)。 ま た 、 ラ ッ ト の 実 験 で 、 ダ イ エ ッ ト に よ る 「 糖 分 依 存 症 」 を 発 症 し 、 ダ イ エ ッ ト 行 動 が 覚 醒 剤 依 存 と 同 様 の 報 酬 系 関 連 し た 脳 内 ド ー パ ミ ン 神 経 系 の 変 化 を も た ら し 、 摂 食 障 害 と 類 似 の 病 態 を 呈 す と さ れ 、 ダ イ エ ッ ト 行 動 自 体 が 摂 食 障 害 、 特 に AN-排 出 型 、 BN 発 症 の 危 険 因 子 に な る 可 能 性 が あ る と 言 わ れ て い る ( 小 牧 ,2012)。 2.摂 食 障 害 の 発 症 に 関 与 す る 要 因 ; 発 症 因 子 (1) ダ イ エ ッ ト と 食 生 活 の 変 化 痩 せ を 賛 美 す る 風 潮 と グ ル メ ブ ー ム や コ ン ビ ニ や フ ァ ー ス ト フ ー ド 店 の 増 加 と い う 過 食 に つ な が る 食 生 活 に 関 連 す る 環 境 の 変 化 の 板 挟 み 状 態 が 発 症 因 子 と し て 挙 げ ら れ る 。 飽 食 と ダ イ エ ッ ト の 板 挟 み 状 態 が 発 症 因 子 の 1 つ で あ り 、近 年 の 若 い 女 性 に 摂 食 障 害 が 多 い こ と へ の 説 明 が で き る ( 中 井 ,2009; 渡 辺 , 2009) (2) ス ト レ ス 学 校 、 職 場 で の 挫 折 経 験 や 対 人 関 係 の 問 題 が き っ か け と な る 。 ま た 、 中 学 校 や 高 等 学 校 で ス ポ ー ツ 関 連 の 部 活 動 を 辞 め た こ と を き っ か け に 体 重 が 増 加 し た こ と を き っ か け に ダ イ エ ッ ト を 始 め 、 発 症 と な る こ と も あ る 。

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14 特 に 思 春 期 は 、 身 体 的 な 変 化 だ け で な く 、 心 理 面 や 行 動 面 で も 大 き く 変 化 す る 。 成 績 不 振 や 受 験 等 の 失 敗 経 験 な ど の 学 業 に 関 す る 問 題 、 対 人 関 係 の 問 題 、 自 我 同 一 性 と い う 自 立 を め ぐ る 葛 藤 な ど が ス ト レ ッ サ ー と な り 、 準 備 因 子 と し て ス ト レ ス へ の 脆 弱 性 を も っ た 精 神 構 造 を も っ て い る 状 況 下 で 発 症 と な る(Bruch,1975)。ま た 、異 性 か ら の 体 型 な ど に 対 す る か ら か い や 体 重 測 定 に お い て 友 人 や 教 員 の 何 気 な い 言 葉 が ダ イ エ ッ ト の き っ か け と な る 。 こ の よ う に ス ト レ ス が き っ か け と な る こ と は 、明 ら か で あ る が 、そ の 内 容 は さ ま ざ ま で 、 複 雑 に 関 係 し あ っ て い る こ と が 示 さ れ て お り 、 個 人 に よ っ て も 違 い が あ る 。 (3) 思 春 期 思 春 期 は 、 二 次 性 徴 に 伴 う 乳 房 の 発 育 や 初 経 な ど の 身 体 面 の 変 化 よ っ て 、 自 身 の 体 型 や 容 姿 に 敏 感 に な る 時 期 で あ る 。ま た 、自 我 同 一 性 の 獲 得 や 自 分 と 他 者 と の 関 係 な ど 心 理 面 、 行 動 面 で も 大 き く 変 化 す る 。 こ の よ う な 時 期 に 、 身 体 的 、 心 理 的 な 準 備 因 子 を も っ て い る と 発 症 要 因 と な る ( 中 井 ,2009)。 3. 小 児 摂 食 障 害 の 契 機 と 発 生 機 序 の 特 徴 小 児 摂 食 障 害 の 発 症 契 機 や 状 況 に つ い て 、10 歳 以 下 の AN 患 者 で は 、学 校 生 活 な ど の 対 人 関 係 上 の 問 題 は 明 ら か で な く 、 同 胞 間 の 葛 藤 が あ ら わ に な り 、 母 親 の 関 心 を 引 く よ う な 形 で 、 発 症 す る も の が 多 く 、 ま た 、 や せ 願 望 、 肥 満 恐 怖 、 成 熟 拒 否 な ど の 心 性 を 欠 い て い る の が 一 般 的 で あ る と い わ れ て い る ( 切 池 ,2009)。 ま た 小 児 科 領 域 で み ら れ る 摂 食 障 害 患 者 で は 、 食 思 不 振 や 腹 部 膨 満 を 理 由 に し て 食 べ な い 食 思 不 振 型 と 、 痩 身 へ の あ こ が れ や 自 己 の 体 型 に 対 す る 嫌 悪 感 を 示 さ な い が 、 体 重 を 増 や そ う と す る 治 療 的 な ア プ ロ ー チ に 対 し て 抵 抗 す る 拒 食 型 が 多 い こ と も 報 告 さ れ て い る 。 さ ら に 直 接 的 誘 発 状 況 に つ い て は 日 常 レ ベ ル か ら 相 当 な 心 的 外 傷 や 環 境 変 化 ま で 種 々 あ り 、 特 定 の 傾 向 を 同 定 し に く い と い う 意 見 も あ る と し て い る ( 切 池 ,2009)。 切 池 ら(1998)の 研 究 結 果 で は 、太 っ て い る と 言 わ れ た り 、肥 満 を 嫌 っ て ダ イ エ ッ ト を 始 め た 者 が 14 例 ( 58% ) と 過 半 数 を 占 め た が 、 そ の 他 の 症 例 は 食 思 不 振 や 食 後 の 腹 部 膨 満 感 に よ る こ と や 、 受 験 ・ い じ め ・ 学 力 低 下 ・ 両 親 不 仲 な ど の 状 況 下 で 摂 食 量 が 低 下 し て 発 症 し て い た 。 こ の よ う に 発 症 年 齢 が 低 年 齢 で あ る と 、 や せ 願 望 や 肥 満 嫌 悪 感 を 示 さ ず 、 さ ま ざ ま な 心 理 的 要 因 に よ り 摂 食 量 が 低 下 し 、 摂 食 障 害 を 発 症 す る こ と が 示 さ れ て い た 。 精 神 科 合 併 症 に 関 し て は 、 小 児 期 の 不 安 障 害 が AN 発 症 の 危 険 因 子 だ と す る 報 告 が あ る (Raney, ThorntonL, Berrettini, Brandt, Crawford, Fichter, Halmi, Johnson, Kaplan, LaVia, Mitchell, Rotondo, Strober, Woodside, Kaye & Bulik, 2008)。 ま た 、 13 歳 か ら 15 歳 の 青 年 期 女 性 の 5 年 感 の 追 跡 調 査 の 結 果 、 う つ 病 の 発 症 は 、そ の 後 の 摂 食 障 害 の 発 症 と 薬 物 乱 用 の 増 加 を 予 測 し た と し て い る (Measelle, Stice,E & Hogansen, 2006)。

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15 第 5 節 小 児 摂 食 障 害 へ の ア プ ロ ー チ 渡 辺 (2005a) は 、 子 ど も の AN は 、 早 期 発 見 し 症 状 が 軽 い 間 に 治 療 す れ ば 治 り や す い と し 、 最 も 効 果 的 な ア プ ロ ー チ は 、 予 防 と 早 期 発 見 を 挙 げ て い る 。 ま た 、 次 の よ う な 治 療 に 必 要 な 6 つ の 点 を 挙 げ て い る 。① 患 児 の 心 身 が 栄 養 障 害 に よ り ど の 程 度 障 害 さ れ て い る か を 診 断 す る 。 ② 患 児 を 粘 り 強 く サ ポ ー ト し て 健 や か な 食 行 動 と 栄 養 状 態 に 戻 す 。 ③ 正 し い 栄 養 と 身 体 機 能 と 食 生 活 の 教 育 を す る 。 ④ 思 春 期 や せ 症 特 有 の 極 端 な 食 へ の と ら わ れ や 完 全 癖 を な く し て い く 。 ⑤ 家 族 と 学 校 が 患 児 を 十 分 に サ ポ ー ト し て い け る よ う 支 援 す る 。 ⑥ 患 児 が 自 分 を 肯 定 し 、 本 音 で 行 動 し 人 と か か わ れ る よ う そ の 自 律 性 の 発 達 を 支 援 す る 。 入 院 治 療 過 程 を 患 児 の 病 態 に よ り 渡 辺(2005b)は 、第 1 期( 急 性 期 )、第 2 期( 回 復 期 )、 第 3 期 ( 社 会 復 帰 期 ) に 分 け 説 明 し て い る 。 各 期 に は 、 治 療 課 題 と し て 回 復 の た め の 努 力 と し て の 「 山 」 と 陥 り や す い 危 機 、 悪 化 、 死 亡 な ど の 「 谷 」 が あ り 、 そ れ ぞ れ に 、 身 体 と 心 に つ い て 次 の よ う に 説 明 を し て い る 。 第 1 期 に お け る 「 谷 」 は 、 身 体 で は 飢 餓 死 や 心 不 全 な ど や せ に よ る 低 栄 養 状 態 に よ る 身 体 的 な 危 機 の 状 況 で あ る 。 心 理 状 態 で は 、 患 児 ・ 家 族 の 疾 病 否 認 と 治 療 抵 抗 か ら く る 他 罰 的 言 動 や 不 信 感 を 挙 げ て い る 。 こ の 時 期 は 、 治 療 構 造 が 崩 れ や す く 、 両 親 が 主 治 医 を 信 頼 し て ゆ だ ね る こ と が な い 場 、 患 児 は 治 療 を 拒 否 し 続 け る と 述 べ て い る 。 次 に 、 第 2 期 の 「 谷 」 は 、 身 体 的 に は 、 再 栄 養 症 候 群 な ど が 出 現 す る 可 能 性 が あ る 。 身 体 の 回 復 に 伴 い 、 喜 怒 哀 楽 が 回 復 し 情 緒 的 に 開 放 的 に な る 時 期 で 、 母 親 や 治 療 者 か ら 患 児 の 本 音 を 受 け 止 め て も ら う こ と が 重 要 と な る 。 一 方 で は 、 体 重 の 回 復 に 伴 い 、 抑 う つ 、 不 安 、 怒 り や 絶 望 が 湧 き 感 情 の 起 伏 が 激 し く な り 、 万 引 き 、 盗 み 、 過 食 嘔 吐 、 捨 食 、 衝 動 行 動 が 生 じ や す い 。 こ こ で は 、 家 族 と 治 療 者 の 一 岩 の よ う な 連 携 と 親 心 が 重 要 と な る 。 第 3 期 は 、体 重 や 身 体 機 能 が ほ ぼ 正 常 下 限 に 達 し た 状 態 で 、 月 経 の 再 来 も 認 め ら れ る 時 期 で あ る 。 こ の 時 期 の 「 谷 」 は 、 焦 り と 疲 れ に よ る 体 調 の 崩 れ 、 自 身 喪 失 に よ る 混 乱 が 認 め ら れ る 。 ま た 。 学 校 へ の 復 帰 で は 、 見 か け と は 裏 腹 に ま だ 正 常 に 回 復 し て い な い 多 臓 器 障 害 の た め 、 体 力 不 足 や か ら 再 発 や 慢 性 化 が 起 き る と し て い る 。 こ こ で は 、 学 校 復 帰 に 対 す る 患 児 の 気 持 ち や 学 校 生 活 で は 、 ス モ ー ル ス テ ッ プ で 復 帰 で き る よ う な 学 校 の 協 力 の 必 要 性 を 述 べ て い る 。 こ の よ う に 治 療 過 程 に お い て 、 身 体 や 心 理 状 態 の 違 い が あ る た め 、 各 治 療 段 階 に よ っ て 必 要 と さ れ る ア プ ロ ー チ に 違 い が あ る こ と が わ か る 。 ま た 、 小 児 摂 食 障 害 の 治 療 の 特 徴 と し て 、 家 庭 と 学 校 と の 連 携 も 特 徴 で あ る こ と が 示 さ れ て い る 。 支 援 の 実 際 で は 、 患 児 の 性 格 ・ 発 症 の 要 因 ・ 患 児 の 生 活 環 境 な ど 個 々 に 違 い が あ る た め 、 そ の 治 療 段 階 に お い て 具 体 的 に ど の よ う な 課 題 や 問 題 点 が あ る の か を 明 ら か に し て い く 必 要 が あ る 。

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第 6 節 小 児 摂 食 障 害 患 児 と 家 族

1. 家 族 の 役 割

摂 食 障 害 の 家 族 に つ い て は 、 さ ま ざ ま な 説 が あ る が 、 家 族 の 関 係 性 や 構 造 が 発 症 の 原 因 と 考 え ら れ て い た 時 代 が あ っ た (Minuchinet et al.,1978)。 西 園 ( 2010a) は 、 家 族 が 原 因 だ と 示 す 科 学 的 な デ ー タ は 少 な く 、 ま た 家 族 を 病 気 の 原 因 で あ る と 責 め る だ け で は 、 あ ま り 状 況 の 改 善 に は な ら な い と し て い る 。 下 坂(1990)も 、患 児 が 摂 食 障 害 の 状 態 を 呈 す る ま で に は 、家 族 に よ っ て さ ま ざ ま な 経 緯 が あ る が 、 別 の 方 向 か ら 眺 め る と 親 の 姿 は 「 追 い つ め ら れ た 親 」 の 姿 そ の も の で あ る と し 、 自 分 た ち な り に で き る 限 り 努 力 し た が 、 適 切 な 方 法 を 知 ら な い た め 、 あ る い は 周 囲 か ら 適 切 な ア ド バ イ ス を 得 ら れ な か っ た た め 、 全 力 を 尽 く し た に も か か わ ら ず 、 悪 循 環 に 陥 り 、 深 み に 陥 っ た と み る こ と も で き る と 述 べ 、 家 族 の 原 因 や 犯 人 探 し へ の 視 点 を 否 定 し て い る 。 治 療 者 が 初 診 時 に 行 う 家 族 へ の ア プ ロ ー チ で は 、 ① 親 も 苦 し ん で い る こ と を 理 解 す る 。 ② 十 分 な イ ン フ ォ ー ム ド ・ コ ン セ ン ト を 含 め た 心 理 教 育 的 ア プ ロ ー チ を 行 う 。 ③ 親 の 問 題 で は な く 、「 摂 食 障 害 と い う 心 と 身 体 の 病 気 」と い う 理 解 を し て も ら い 、治 療 協 力 を む す び 、 子 ど も に 代 わ り 現 状 の つ ら さ や 気 持 ち を 両 親 に 伝 え 、 家 族 自 身 の 休 養 と 精 神 衛 生 に 気 を つ け る こ と を 伝 え 、 親 へ の 働 き か け や 協 力 を 得 る 。 と い う 3 つ の 重 要 性 を 傳 田 ( 2008) は 述 べ て い る 。 以 上 の こ と か ら 、患 児 の み な ら ず そ の 家 族 、特 に 母 親 へ の 支 援 の 必 要 性 が 考 え ら れ た が 、 患 児 の ア プ ロ ー チ と 同 様 に 、 治 療 段 階 に よ る 違 い や 、 患 児 の 置 か れ て い る 環 境 に よ っ て 家 族 が 支 援 を 必 要 と す る 内 容 の 違 い が あ る こ と が 考 え ら れ る 。 児 童 期 ・ 青 年 期 の AN に 対 す る 治 療 に 関 す る 研 究 は 少 な い が 、 心 理 ・ 社 会 的 治 療 に 関 す る 報 告 に は 、 家 族 療 法 が 多 く(Lock, 2009)、 治 療 へ の 反 応 が 良 好 で あ る ( Halmi, 2008)。 の た め 、 家 族 を 含 め た 統 合 的 な 治 療 が 必 要 で あ る (Russell, 1979)。 2. 治 療 に お け る 母 親 の 役 割 摂 食 障 害 の 患 児 を も つ 母 親 は 、 摂 食 障 害 の 原 因 と し て 捉 え ら れ て い た (Bruch, 1978) 時 期 が あ っ た が 、現 在 で は 治 療 の 対 象 者 と し て 捉 え ら れ て い る( 井 上・浅 川・六 軒・大 谷 , 2002;中 村 ,2005)。し か し 、一 方 で は 、家 族 へ の 心 理 教 育 的 ア プ ロ ー チ の 有 用 性( 上 原 ・ 川 嶋・河 内・田 崎・後 藤 ,2001)か ら 治 療 へ の 協 力 者 と し て 注 目 さ れ る よ う に な っ て い る 。 さ ら に 、西 園 (2004)は 、摂 食 障 害 の 思 春 期 症 例 に お い て は 、患 者 が 家 族 と 生 活 を 共 有 す る 部 分 が 大 き く 、 家 族 が 治 療 計 画 の 一 端 を 担 う 治 療 参 加 が 必 要 で あ る と 述 べ て い る 。 次 に 、 母 親 の 生 活 環 境 か ら み る と 、 患 児 の 母 親 と し て 日 常 生 活 を 共 に し て い る 。 治 療 施

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17 設 外 で の 関 係 で は 、 摂 食 障 害 の 発 症 と 経 過 の 中 で 、 患 児 の 家 庭 内 で の 母 親 へ の 依 存 と 拒 否 と い う よ う な 両 価 的 な 態 度 や 食 事 に ま つ わ る さ ま ざ ま な エ ピ ソ ー ド を 経 験 す る こ と に な る 。 西 園 (2010a) は 、 生 活 共 有 者 と し て の 家 族 が 経 験 す る 負 担 感 に つ い て 、 こ れ ま で ほ と ん ど 明 ら か に さ れ て お ら ず 、実 際 に 家 族 は 心 理 的 に も 生 活 面 で も 病 気 か ら く る 負 担 感 を 感 じ て い る こ と を 指 摘 し て い る 。特 に 、摂 食 行 為 に は 生 活 と 密 着 し て お り 、生 命 維 持 活 動 に も 大 き く か か わ っ て い る 。こ の こ と に 対 し 、西 園(2010a)は 、家 族 が「 常 に 死 の 恐 怖 と , 死 に 至 り か ね な い 体 重 で あ り な が ら 食 事 を 拒 否 す る こ と か ら 来 る 焦 燥 感 」を 感 じ て い る と 指 摘 し て い る 。 摂 食 障 害 の 患 児 を も つ 母 親 の 性 格 や 養 育 態 度 は 、支 配 的 で は あ る が 、自 己 不 全 感 が 強 く 、 子 ど も に 対 し て は 過 保 護 、 過 干 渉 、 支 配 的 な 養 育 態 度 を 示 す こ と が 報 告 さ れ て い る ( 波 多 野 ,1998; 切 池 , 2009)。 心 身 医 学 領 域 で は 、 患 者 の 性 格 特 性 と 対 人 関 係 の 特 徴 や 親 子 関 係 を 捉 え る こ と が で き る 交 流 分 析 を 背 景 理 論 と し た エ ゴ グ ラ ム が 患 者 理 解 と 援 助 法 と し て 活 用 さ れ て い る ( 十 河 ・ 石 川 ・ 和 田 ・ 末 松 、 河 原 ,1978)。 AN-制 限 型 の 患 児 を も つ 母 親 の エ ゴ グ ラ ム 研 究 で は 、 自 我 状 態 の パ タ ー ン か ら 自 己 犠 牲 的 な 行 動 パ タ ー ン の 特 徴 を 報 告 し て い る ( 袖 長 ・ 渡 辺 ・ 小 林 ,2000)。 子 ど も の 健 康 問 題 は 、 家 族 に さ ま ざ ま な 影 響 を 及 ぼ す 。 中 で も 慢 性 的 な 健 康 問 題 を も つ 子 ど も の 母 親 は 、 健 康 児 の 母 親 よ り ス ト レ ス が 大 き い こ と が 報 告 さ れ て い る ( 丸 ・ 兼 松 ・ 中 村 ・ 工 藤 ・ 武 田 ,1997)。 安 川 ・ 高 宮 (2005)は 母 親 へ の 直 接 面 接 に よ る 質 的 研 究 を 実 施 し て 、AN の 子 ど も を も つ 母 親 の 心 理 的 過 程 に つ い て 以 下 の 7 つ の 段 階 を 見 出 し た 。第 1 に 楽 観 の 段 階 、第 2 に 不 安 に 覆 わ れ た 段 階 、第 3 に 両 価 的 な 気 持 ち に 支 配 さ れ る 段 階 、第 4 に 負 の 感 情 を 伴 う 気 付 き の 段 階 ( 変 化 期 を 含 む )、 第 5 に 子 の 存 在 の 受 容 段 階 、 第 6 に 自 己 洞 察 段 階 、 最 後 の 第 7 段 階 が 親 自 身 の 成 長 段 階 で あ る 。ま た 、そ の 変 化 の 過 程 に お い て 子 ど も に 対 す る 無 理 解 か ら 知 的 レ ベ ル 、行 動 レ ベ ル 、情 緒 的 レ ベ ル で の 理 解 に 移 行 す る と 述 べ て お り 、そ の 中 で も 特 に 行 動 レ ベ ル か ら 、情 緒 レ ベ ル へ の 変 化 が 一 番 難 し く 、母 親 へ の 苦 痛 の レ ベ ル が 大 き い と 述 べ て い る 。 羽 仁 ・ 土 屋 ・ 中 野(1999)に よ る 事 例 研 究 で は 、摂 食 障 害 治 療 に お い て 家 族 病 理 に は 触 れ ず 、母 親 へ の 支 持 的 面 接 と 家 族 合 同 面 接 を し た 結 果 、シ ス テ ム と し て の 家 族 に 変 化 が 生 じ た と い う 報 告 が な さ れ て い る 。 ま た 、摂 食 障 害 家 族 の 現 状 と 不 安 に つ い て 、服 部・永 野・木 下・地 嵜・津 村・生 野(2000) は 、家 族 が 必 要 と し て い る こ と は 、① 治 療 者 の 具 体 的 で 適 切 な 助 言 に よ っ て 不 安 を 取 り 除 く こ と 、② 摂 食 障 害 の 情 報 を 浸 透 さ せ る こ と 、③ 情 報 源 、ま た 支 え と な る べ き サ ポ ー ト シ ス テ ム の 充 実 、で あ る と 述 べ て い る 。生 野(2002)は 、摂 食 障 害 は 慢 性 化 し や す い た め 、本 人 や 家 族 を 長 期 的 に サ ポ ー ト す る 必 要 が あ る こ と の 重 要 性 を 述 べ て い る 。 鈴 木 (2001) は 自 身 の 臨 床 経 験 か ら 摂 食 障 害 者 の 家 族 の 印 象 に つ い て 、「 忍 耐 強 い 、 頑 張 り 屋 」で あ る と 述 べ て お り 、治 療 に お い て は 母 親 が 患 者 に 対 す る 限 界 を 示 す こ と が 大 き な 効

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18 果 を も た ら す と し て い る 。さ ら に 、摂 食 障 害 が 治 る と い う こ と が 食 行 動 の 急 激 な 改 善 で は な く 、生 活 全 般 の 長 期 的 な 改 善 に よ る も の で あ る と い う イ メ ー ジ を 治 療 者 と 家 族 で 共 有 す る 必 要 が あ り 、そ の た め に は 摂 食 障 害 患 者 を 支 え 、長 期 間 の 治 療 に 付 き 合 っ て い く 家 族 を 支 え る 場 が 重 要 で あ る と 述 べ て い る 。 以 上 の よ う な 母 親 の 多 重 役 割 が 存 在 す る こ と が わ か り 、患 児 へ の 援 助 に 加 え 家 族 特 に 母 親 へ の 支 援 の 重 要 性 が 考 え ら れ る 。

図 1-1  摂食障害成立過程の多因子モデル(中井,2012  一部改編)
表 5-1  TEG と PEG の各自我状態の相関分析結果

参照

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