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(1)

Japan Advanced Institute of Science and Technology

JAIST Repository

https://dspace.jaist.ac.jp/

Title

二次創作コミュニティにおけるつながりの実践に関す る文化人類学的研究―「愛」の評価をめぐる闘争と調

Author(s) 水元, 朋子

Citation

Issue Date 2017‑03

Type Thesis or Dissertation Text version ETD

URL http://hdl.handle.net/10119/14239 Rights

Description Supervisor:伊藤 泰信, 知識科学研究科, 博士

(2)

学位論文

二次創作コミュニティにおける

つながりの実践に関する文化人類学的研究

──「愛」の評価をめぐる闘争と調停 指導教員 伊藤泰信 准教授

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科知識科学専攻

0960005 水元 朋子

審査委員:伊藤 泰信 准教授(主査)

敷田 麻美 教授 藤波 努 教授 水本 正晴 准教授

出口 弘 教授(学外審査委員:東京工業大学)

2017年1月

Copyright Ⓒ 2017 by Tomoko Mizumoto

(3)

1

目次

第 1 章 序 論 ... 8

1.1 研 究 の 背 景 ... 8

1.2 研 究 の 目 的 ... 11

1.3 研 究 の 方 法 ... 11

1.4 研 究 の 意 義 ... 12

1.4.1 学 術 的 意 義 ... 12

1.4.2 実 務 的 意 義 ... 13

1.5 本 論 文 の 構 成 ... 14

第 2 章 文 献 レ ビ ュ ー ... 16

2.1 ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 流 動 化 ... 16

2.2 コ ミ ュ ニ テ ィ と 趣 味 縁 ... 18

2.3 オ ン ラ イ ン 上 の コ ミ ュ ニ テ ィ ... 19

2.4 複 合 現 実 社 会 ... 24

2.5 腐 女 子 と は ... 32

2.5.1 二 次 創 作 と N 次 創 作 ... 33

2.5.2 マ ス メ デ ィ ア に よ る ネ ガ テ ィ ヴ 表 象 ... 35

2.5.3 腐 女 子 を 対 象 と し た 市 場 ... 38

2.6 や お い / 腐 女 子 研 究 の 動 向 ... 42

2.6.1 女 性 問 題 と し て の や お い ・ 腐 女 子 論 ... 42

2.6.2 肯 定 的 な や お い / 腐 女 子 論 へ ... 45

2.7 ネ イ テ ィ ヴ 人 類 学 ... 50

第 3 章 二 次 創 作 活 動 の 実 際 ... 54

(4)

2

3.1 は じ め に ... 54

3.2 筆 者 の 立 ち 位 置 ... 54

3.3 調 査 の 概 要 ... 58

3.4 腐 女 子 隠 し と い う 実 践 ... 61

3.5 二 次 創 作 ... 68

3.5.1 創 作 者 と 非 創 作 者 の 分 類 ... 68

3.5.2 作 品 の 分 類 ... 69

3.5.3 二 次 創 作 と 著 作 権 ... 70

3.5.4 二 次 創 作 者 と 同 人 市 場 ... 72

3.5.5 カ ッ プ リ ン グ ... 74

3.6 現 実 空 間 / 仮 想 空 間 で の 活 動 ... 76

3.6.1 イ ン タ ー ネ ッ ト 以 前 の 活 動 と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ... 77

3.6.2 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 場 と し て の 交 流 ノ ー ト ... 78

3.6.3 個 人 情 報 の 提 示 ... 81

3.6.4 新 し い 繋 が り の 場 と し て の ホ ー ム ペ ー ジ ... 83

3.7 仮 想 空 間 で の 活 動 ... 84

3.7.1 匿 名 的 な つ な が り ... 85

3.8 二 次 創 作 者 の ホ ー ム ペ ー ジ /TWITTER ... 87

3.9 現 実 空 間 で の 活 動 ... 92

3.9.1 同 人 誌 の 作 成 ... 92

3.9.2 同 人 誌 の 値 段 設 定 ... 96

3.9.3 イ ベ ン ト へ の 参 加 ... 96

3.10 現 実 空 間 と 仮 想 空 間 と が 重 な っ た 活 動 ... 121

3.10.1 匿 名 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン と 流 動 的 関 係 ... 121

3.10.2 肯 定 的 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ... 124

3.10.3 タ ブ ー と し て の 金 銭 的 話 題 ... 126

(5)

3

3.10.4 コ ミ ュ ニ テ ィ に お け る 評 価 と 報 酬 ... 128

3.10.5 評 価 さ れ る 「愛 」 ... 132

3.10.6 「愛 」の 具 体 化 と し て の 二 次 創 作 ... 136

3.11 対 象 に 対 す る 解 釈 の 視 線 ... 143

3.12 本 章 の ま と め ... 151

第 4 章 考 察 ... 152

4.1 は じ め に ... 152

4.2 「語 り 」の コ ミ ュ ニ テ ィ ... 153

4.2.1 関 係 確 認 と コ ミ ュ ニ テ ィ 参 与 の た め の 「愛 」 ... 153

4.2.2 ア イ デ ン テ ィ テ ィ 肯 定 の た め の 「愛 」 ... 156

4.2.3 「愛 」と い う 自 己 言 及 ... 157

4.2.4 認 知 を め ぐ る 闘 争 と 調 停 ... 162

4.3 外 部 と 内 部 と の コ ン フ リ ク ト ... 164

4.4 「純 粋 な 」嗜 好 空 間 の 構 築 ... 167

4.5 解 釈 の 生 成 と 蓄 積 ... 171

4.6 本 章 の ま と め ... 174

第 5 章 結 論 ... 178

5.1 は じ め に ... 178

5.2 リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン に 対 す る 回 答 ... 178

5.2.1 SR Q 1.二 次 創 作 を 行 う 腐 女 子 の コ ミ ュ ニ テ ィ 形 成 は ど の よ う な も の な の か ? . 179 5.2.2 SR Q 2.コ ミ ュ ニ テ ィ 内 で は ど の よ う に 「 愛 」 を め ぐ る 闘 争 と 調 停 が 行 わ れ て い る の か ? ... 180

5.2.3 SR Q 3.腐 女 子 に よ る 対 象 の 解 釈 は ど の よ う に な さ れ て い る の か ? ... 181

まなく収集するだけではなく、自身の作り出した解釈の補完としても対象を読み解くのである。 ... 181

5.2.4 M R Q 異 な っ た 解 釈 を 持 っ た 他 者 と の 否 定 の な い つ な が り と は ど の よ う な も の な の か ? ... 182

(6)

4

5.3 理 論 的 含 意 ... 184

5.4 社 会 的 含 意 ... 186

5.5 将 来 研 究 へ の 示 唆 ... 188

参 考 文 献 ... 191

謝 辞 ... 197

(7)

5

図表目次

1 VRによるアイドルのコンサート ... 25

2POKÉMON GO ... 25

3 ミルグラムによる複合現実感 ... 27

4 INTIMATE STRANGER ... 29

5 二次創作とN次創作 ... 34

6 腐女子を取り上げた『AERA』の記事 ... 37

7 腐女子による「腐女子」表象 ... 63

8 隠さないと言う「罪」 ... 64

9 「隠す」という実践 ... 67

10 作品及び創作者と非創作者の分類 ... 70

11 ディズニーなどの同人誌に対する注意事項 ... 71

12 コミックマーケットサークル参加者の職種 ... 73

13 作家の住所記載 ... 82

14 LINK(BOOKMARK)のページ ... 88

15 トップページの注意書き ... 90

16 二次創作の同人誌 ... 93

17 同人誌印刷専門の印刷会社1 ... 94

18 同人誌専門の印刷会社2 ... 94

19 コミックマーケットの参加者たち ... 97

20 会場へ向かう参加者たち ... 98

21 サークル専用通行証 ... 100

22 開場を待つ一般参加者たち ... 101

23頒布スペースの準備を行うサークル参加者 ... 102

24 ジャンルコード一覧 ... 105

25 机に置かれた大量のチラシ ... 106

26 コミックマーケットカタログ(コミックマーケット74版) ... 107

27 COMIKE WEB CATALOG ... 107

28 サークル配置 ... 108

(8)

6

29 同人作家内のヒエラルキー ... 109

30 とらのあなの通信販売サイト ... 111

31 K-BOOKSの実店舗 ... 111

32 筆者がもらった差し入れ ... 117

33 実際に筆者がTWITTERに挙げた飲茶の写真 ... 119

34 コミックマーケット準備会による新刊発行の促し ... 121

35 人的ネットワークの広がりによる解釈発表の場の拡大 ... 130

36 刀剣乱舞 ... 144

37 『刀剣乱舞』の燭台切光忠 ... 146

38 『刀剣乱舞』の三日月宗近 ... 147

39 刀剣乱舞ユーザによる製品購入報告 ... 148

40 「愛」の提示による関係性とコミュニティ境界の生成 ... 154

41 作品を通して評価される「愛」 ... 159

42 市場と二次創作者間における情報供給と解釈 ... 167

43 対象に対する解釈の生成と解釈の蓄積 ... 173

(9)

7

表目次

1 インターネットの利用者数及び利用者の割合の推移(個人) ... 20

2 男女、年齢階層別インターネットの利用状況(個人) ... 20

3 年齢階層別インターネットの利用頻度(個人) ... 21

4 BL雑誌リスト ... 41

5 参与観察 ... 59

6 調査日程と対象者表 ... 60

7 インタビュー対象者詳細 ... 60

8 活動の分類 ... 77

9 印刷料金表 ... 95

(10)

8

第1章 序論

1.1 研究の背景

本研究は、「腐女子」と呼ばれる、男性同士による恋愛を主題とするフィクシ ョンや想像などを嗜好する少女/女性の二次創作活動とメディア利用を対象と して、彼女たちのコミュニティにおける活動の変容と、様々な社会とのコンフ リクトの中で形成される腐女子の知識とつながりとはどのようなものであるの か。また、同じ対象を見ながら異なった解釈をしているにもかかわらず、お互 いを仲間だと認識しコミュニティを形成している彼女たちの実践を明らかにす るものである。また、本研究では腐女子という存在を可変的なものとして取り 扱い、腐女子の意識や行動の構造について論じるため、これまでの腐女子・や おい1研究の主軸であるジェンダー論については、分析の核にはおいていない_。 また、腐女子という存在は、オタク、女性、メディア、社会構造、ジェンダー ヒエラルキーなど、様々な学問領域の接続点として存在しており、彼女たちを 分析の俎上にのせることは、現代社会や現代サブカルチャーの理解において重 要な意味を持つ。

1980年代から本格的に始まるこの領域への分析は、ジェンダー論の枠組みの 中で育まれ発展してきた。その中では、なぜ少女たちは男性同性愛のフィクシ

1 やおいとは、過去「少年愛」「耽美」「June」と呼ばれていた、男性同性愛作品 群を指す用語である。やおいという名称はについては諸説あるが、1980 年代半 頃の女性向け同人誌では、「話にヤマがなく、オチがなく、イミがない」ものが 多かったということから来ているという説や、男性同士の性描写が入っている ことから「やめておしりがいたいから」という意味からきているという説があ る。また、「ネットでは当て字として『801』が使われ、逆読みをすると『108』となり『煩悩』

の数と一致することで、やおい趣味を『煩悩』と表現するケースも見られ」ている。[金田 一 2009:94]

やおいをめぐるという言説に関しては相田[2015]が詳しい。相田は、「やおい」の中に も「漫画/小説」「「ひわい」なものが描かれている/いない」「オリジナル/パロディ」

「同人誌/商業誌」の4 つ差異が存在しており、この差異の多様さが女性のやおいに 対する愉しみの多様さを示していると論じている。

(11)

9

ョンを好むのか、どのような心性を持った少女がそれらのフィクションを好む のか、彼女たちに好まれる物語構造や、彼女たちによって描かれる物語が彼女 たちや社会に対してどのような機能を持っているのか、それらの物語が社会の ジェンダーの影響をどのように投影しているのかなど、「何故」そのような心 性を持つのかという点に関して数多くの分析が重ねられてきた。しかしながら、

名藤は「『腐女子』のサイドに立って書かれる評論や研究書も、一般メディア への自衛策として書かれているためか、一般メディアによる腐女子規定に見ら れる欠陥を指摘するよりも、そうした偏見を過剰に内在化させたまま論理を組 み立ててしまっているという問題点がある」と指摘している[2007:71]。また、

同じく名藤が指摘するように、個々人の「なぜ腐女子となったのか」という原 因論については、腐女子の数だけ回答があるため原因の追求を行えば、際限が なくなってしまう。もちろん、「女性がなぜ異性愛フィクションではなく同性 愛フィクションに惹かれるのか」という疑問に対して、事象をジェンダー論の 枠組みによって分析しようとする研究は、女性という存在や、女性を取り巻く 社会環境(特に家父長制や男性中心社会)など、男性の論理に包括されないものと して女性の論理を提示していくという重要な意味を持っている。しかしながら、

「『ジェンダー』の『問題』として主題化されることで、逆に、それがいった い何であるのか、その核心には何が在るのかということ、すなわち『やおい』

とはなにかというもっとも根本的な問いを背景に退かせてしま」うとの指摘も なされている2[吉澤 2012:114]。

先行研究で指摘されてきたように、これまで、腐女子という心性は、「腐女 子である個人」に所与のものとして取り扱われ、分析されてきた。それは結果 的に「彼女たちはどうして男性同性愛を好むのか」という個人の心理(すなわち

「自分探し」につながるような心理)や、女性をそのような心性に向かわせる社 会の女性に対する抑圧構造への分析という形となる。しかし先ほども述べたよ うに、「腐女子」となる要因は各個人によって数多あり、容易に一元化するこ とは不可能である。また、家父長制や男性中心主義などを含む社会構造論の視 点で女性と腐女子を論じるなら、なぜ「腐女子にならない/ならなかった女性 が存在するのか」という問いにも答えねばならないだろう。ここに来て、我々 は腐女子というものの心性を、つまり、「なぜ腐女子になったのか」という問 いを、個々人所与の心性として考えることが難しくなっているのである。

2 この問題に対して吉澤は、「どうしても現代社会論的な視点––現実と虚構の関係 を主題化する視点––が不可欠である」と指摘している[吉澤 2012:114]。

(12)

10

本研究では、従来の先行研究の論点を引き継ぎつつも、腐女子コミュニティ が常時可変的なものであり、腐女子という人間が存在し、それに紐付いて腐女 子の心性や実践が生まれるのではなく、腐女子の心性や実践を生成するシステ ムが存在することによって「腐女子」という存在が生まれるということを論じ る。このことは、腐女子コミュニティにおける世代間の意識や行動の差異に対 してのひとつの解を提示するものである。

次に、調査のフィールドについて述べる。二次創作を行う腐女子たちの活動の 場であるが、彼女たちの創作活動やコミュニケーションは、現在では主にイン ターネット(仮想空間)上で活発に行われている。時折ニュースなどで大々的に 取り上げられる、大規模な同人誌即売会(コミックマーケットなど)などへの現 実空間上の参加行動は、実際には一年のうち数回しか見られない行動である。

同人誌即売会はあくまでハレの場であり、彼女たちは日常的にはTwitterやホー ムページ、blog、LINEなどでコミュニケーションを取り合い、pixiv3などの投稿 特化型SNSに自身の作品を投稿し、日々の生活の合間を縫って同人誌を作成して いるのである。また、同人誌の作成についても、現在では同人誌をデジタル作 成する人間も多くなっている。そのため、1995年以前に比べて、彼女たちは自 身の作品を積極的にデジタル化し、より大勢の不特定多数の人間に向けて公開 するようになった。それと並行して、彼女たちのコミュニケーションの方法も、

インターネットや携帯電話の普及によって、友人やイベントでの直接的な対面 的コミュニケーションから、TwitterやLINEでの情報通信機器を介した間接的コ ミュニケーションへと変化している4。腐女子コミュニティ内での即時的で脱空 間的なコミュニケーションは、PCが一般家庭に広く普及する1995年以前にはあ まり見られなかった。そのため、彼女たちのコミュニケーション方法や作品創 造・作品発表という行動の変化には、彼女たちのコミュニケーションや作品創 造・作品発表という実践を成り立たせているメディアや社会環境の変化が強い 影響を持っていると推測される。このようにみていくと、腐女子の実践は、人 間と社会制度、情報環境や地理的環境などの複合的な繋がりの中で行われてい ると考えられるだろう。そのため彼女たちの行為能力・行為主体性やヴァーチ

3 Pixivは、ピクシブ株式会社が運営する、イラスト投稿特化型のSNSである。二次創

作を行ったり、それらを好む多くの人々がこのサービスを利用している。

(http://www.pixiv.net/)

4 彼女たちのコミュニティの中で、現実空間化上の活動が「オフライン活動」と 呼ばれているのもこのためである。

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11

ャル(本質)が、個人のみに帰属させられるものではなく、様々な人と人、人とモ ノとの関係性の中に埋め込まれており、人間の能力や主体性は人やモノとの関 係によってその都度変化するものとして捉える必要がある。

本研究では、上記の視点から腐女子コミュニティおよび腐女子の心性や本質 と呼ばれるものを、様々な要因との関係性の中で生成されるものであると捉え る。このことにより、腐女子の実践における人やモノとの関係性についての具 体的記述が可能となるのである。

1.2 研究の目的

本研究は、「腐女子」と呼ばれる、男性同士による恋愛を主題とするフィクションや 想像などを嗜好する少女/女性の二次創作活動と、彼女たちのメディア利用を対象と して、二次創作活動を行う腐女子たちのコミュニティと意識の変容や様々な社会とのコ ンフリクトの中で形成される知識とつながりとはどのようなものであるのかを明らかとする ことを目的としている。

本研究で設定したメジャー・リサーチ・クエスチョン(MRQ)およびサブシディアリー・リ サーチ・クエスチョン(SRQ)は、以下の通りである。

MRQ 異なった解釈を持った他者との否定のないつながりとはどのようなものなの か?

SRQ1 二次創作を行う腐女子のコミュニティ形成はどのようなものなのか?

SRQ2 コミュニティ内ではどのように「愛」をめぐる闘争と調停が行われているのか?

SRQ3 腐女子による対象への解釈はどのようになされているのか?

1.3 研究の方法

本研究における調査対象は、男性同性愛フィクションを嗜好する「腐女子」と呼ばれ る人々と、彼女たちの二次創作活動である。二次創作活動とは、既存作品のキャラク タやその設定を用いて、自身の解釈を加え、新しい作品を創造する活動を指す。二次 創作を行い、二次創作作品、特に同人誌を発行する者は同人作家と呼ばれている。

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同人作家たちは活発にコミュニティを形成し、作家同士でコミュニケーションを行って いる。そのため、本研究では、二次創作活動を行う腐女子およびそのコミュニティを調 査対象とした。

主な調査地としては、東京のビッグサイトにて年に2回開催される「コミックマーケット」

とよばれる同人誌即売会とその他の同人誌即売イベント、腐女子が個人的に開催する オフ会や打ち上げ、気の合った仲間だけで遊びに行く「デート5」である。これらはいず れも、全国に遍在する腐女子が他者との交流を目的として参集する現実空間の場で ある。また、腐女子は常に同一の場所で活動しているのではなく、日常的には仮想空 間の場でコミュニケーションを取り合っているため、インターネット上(ホームページや Twitter)での筆者とのやりとりもデータとして用いる。そのため本研究では、現実空間と 仮想空間における長期のフィールドワークを元に、これらの空間をまたいで構成されて いる複合的な調査でもあることを明記しておく。また、第3章における実際の調査デー タに関しては、いくつか筆者自身のホームページなどのデータを記載していることを、

ここに注記しなければならないだろう。これは、調査対象者にホームページなどのデー タの記載の可否を訪ねた際、ほぼすべての人たちから拒否されたからだ。そのためや むなく筆者のデータを記載したが、このことは、腐女子ネイティヴの一人としてデータを 提出しているに過ぎないことを付言しておく。

1.4 研究の意義

1.4.1 学術的意義

本研究の学術的意義については、以下のことが挙げられる。

従来の腐女子(二次創作を行うものも含む)を対象とした研究は、ジェンダ ー的な視点に立脚して腐女子固有の共通の心性を明らかにしようとしてきたも のが多い。例えば作家である榊原[1998]は、女性が男性同性愛フィクションを 好む場合、その作者・読者が性同一性障害(FtM)でかつゲイだからではないかと の視点を示した上で、腐女子という存在を性同一性の問題と重ねて論じている。

確かに、男性同性愛フィクションを好む人びとの中には、性同一性障害(FtM)で

5 彼女たちは特に親しいコミュニティメンバとの外出をしばしばデートと表現する。これ は、互いを恋愛対象として認識しているのではなく、一緒に出かけるほど親しい関係 性がメンバ間で形成されていることを示している。

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ある人びともいるだろう。しかしながら、腐女子は固定的で一枚岩的なもので はない。性的指向(性自認)だけではなく、年齢、学歴、階級、生活環境や社会 的地位、創作技能など、様々な技能レベルや属性を持った人々によって腐女子 コミュニティは形成されており、コミュニティへの参加形態においても多種多 様な状態が考えられる。また、彼女たちの実践は現在主に SNS などの仮想空間 上で行われており、情報通信技術の変化とともに常に彼女たちの実践も流動的 に変化している。そのため、本研究では、長期の参与観察を行うことにより、

二次創作を行う腐女子のコミュニティをより重層的で可変的な集合体として描 き出すことで、従来の腐女子を対象とした研究に新たな視点を組み込むことが 可能となっている。

また、二次創作を行う腐女子のコミュニティにおいては「人気」「技術」「愛」という複 数の文化資本によって序列が形成されているとの分析がなされているが[金田 2007a]、

その「愛」についての定義は明らかにされておらず、「愛」というものがどのようにコミュ ニティ内で評価されているのかについて明らかとなっていない。そのため本研究では、

二次創作を行う腐女子の創作活動を通して「愛」について検討し、「愛」に関する議論 の空白を埋めたことが学術的意義としてあげられる。

また本研究の知識科学への学術的貢献としては、二次創作者がいかなる文脈 や視点で二次創作作品に対してどのような形で評価を行い、コミュニティを形 成していくのかという創作者の知識及びコミュニティ内で流通する知識とは何 かを明らかにした点にある。本研究では、「愛」とよばれる不可視な概念が絵や 小説などの形を得てコミュニティの中で評価されるプロセスも分析しており、

特にクリエイターに対する知識の表示・評価に関する文化人類学的分析の一枠 組みを提供することが可能となっている。また、彼女たちの実践を通すことで、

複合現実社会や再帰的近代の中で人々が自身と異なった価値観を持つ他者とど のように繋がり、コミュニティメンバに対して仲間意識を持つことができるの かについても一つの方法を示すことができると考えられる。そしてその彼女た ちの繋がりの知識とはなんなのかについても明らかにするものである。

1.4.2 実務的意義

これまで腐女子はマスメディアによってネガティヴに表象され、さらに男性 同性愛フィクション嗜好が腐女子個人に固有のものであるという見方がなされ たことによって、治療すべき対象や社会的問題だと捉えられ分析されてきた歴

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史を持つ。また、腐女子内部においても、自身の心性や実践について「私がこ の様な(男性同性愛)作品が好きなのは、そう遺伝子に刻まれているから」「ど うして自分が男性同性愛フィクションを好きなのかはわからない」といったよ うな発言がみられるように、当事者においても、なぜ自身がその趣味を好んで いるのかという説明がつかないといった状況にある。このため、非腐女子であ る人々の多くは、腐女子を「我々には理解ができない」異質な他者として捉え、

腐女子である人々においても自身らの実践や心性は、「自身でも説明のできない」

内在的な(時に遺伝的な)要因によるものだと捉えられてきた。

本研究は、このように日本社会において、「我々には理解できない他者」「自 身でも理解できない私」として扱われがちであった腐女子の知識やその実体に ついて、その一端を内部(ネイティヴ)の視点から外部に理解しうるように提 示した点が実務的意義として挙げられる。

1.5 本論文の構成

本論文の構成は次のとおりである。

第1章では、研究の背景を述べた後、研究の方法、目的、意義を示した。

第2章では、腐女子研究の歴史的発展と今日的意義を述べ、続いて、自身の研究の 立ち位置となるネイティヴ人類学について示した。また、メディアが単なるモノではなく、

人の行動や感情に影響を与えていること、さらに情報通信機器の発展によって仮想空 間上のコミュニティが形成されていること、そして現在、仮想空間と現実空間とが交じり 合う複合現実社会が到来しており、腐女子がそれに対して高い親和性を持っているこ とを示した。

第3章では、対象となる二次創作を行う腐女子コミュニティの概要、対面状況におけ る調査の主フィールドとなるコミックマーケットなどの概要を述べ、二次創作を行う腐女 子が、仮想空間と現実空間とにまたがるコミュニティを形成していること、また、彼女た ちは「愛」という核によって参集し、その「愛」の現れである二次創作作品を通して評価 を行い、認知という報酬を得ていることが明らかとなった。また、彼女たちの活動のなか で、他者の解釈を更に解釈するというN次創作とよばれる知識共創も起こっており、そ の行為がさらに「愛」を深める要素となっていることが明らかとなった。

第4章では、二次創作を行う腐女子が、自身との差異を際立たせる他者を排除し、完 全に同一ではないが極めて近い趣味嗜好を持った他者とつながることで、アイデンテ

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ィティの安定を図っていることが明らかとなった。アイデンティティの安定には自己を承 認してくれる他者が必要である。そのため、二次創作を行う腐女子のコミュニティ内部 ではメンバが常時密につながり合い、他者に対して常に肯定だけを行うという実践を 行っていることを示した。またこの様なコミュニティへの常時接続や自己承認の実践は、

それを可能とする情報通信機器などとの繋がりのなかで初めて立ち上がるものであり、

二次創作を行う腐女子の実践や腐女子固有のものと捉えられてきた彼女たちの知識 が、人とモノとの連関の中で形成されている事を明らかにした。

第5章では、事例分析を元に本研究からの知見を総括し、二次創作を行う腐女子に みられる実践が、「どのように自身のアイデンティティを傷つけられることなく他者と繋が ることが出来るのか」という現代社会におけるつながりを創出していく実践なのだという ことを明らかにし、最後に、将来研究への示唆を述べた。

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第2章 文献レビュー

本章では、1980 年代から始まり今日まで続く腐女子に関係する先行研究だけでは なく、彼女たちを取り巻く社会背景として、現代社会におけるアイデンティティの流動 化や興味関心でつながる人々の関係、また、情報通信技術の進展によって到来した 複合現実社会に関する研究のレビューを行う。

2.1 アイデンティティの流動化

本研究は二次創作を行う腐女子のコミュニティを対象としているが、彼女たちの実践 には、腐女子だけではなく、現代社会を生きる人々のアイデンティティの問題が深く関 わっていると筆者は考えている。そのため、まずは人々のアイデンティティが現在どの ような状況に置かれているのかについてみていきたい。

現在、意識基盤は集団から個人へと向かい、人々の間で社会モデルとしての集団 共通の価値観は崩壊し、集団意識は喪失したと言われている。ヤングは後期近代いう 時代について「安定的で同質的な包摂社会から、変動的と分離を推し進める排除型 社会への」移行を指摘し[1999=2007:11]、再帰的後期近代は存在論的に不安定な世 界を作り出しているとも指摘している[ibid:497]。この後期近代におけるアイデンティテ ィの再帰性についてギデンズは「伝統的秩序の後にくる社会秩序において人びとは、

自己についての叙述を、現実に絶えず書き直さなければならない」とし[Giddens 1992=1995:142]、後期近代においては、自己がアイデンティティを再帰的に書き換え 続けなければならないことを示した。また田中もメルッチの言葉を引用しつつ、人々は

「特定の集団やカテゴリーによるアイデンティティの固定化するのではなく、人は多様 な集団や『世界』と関わりながらアイデンティティの拠り所を模索し、『自分』と言うものを 動的に再定義、再構築していく必要があ」ると指摘している[田中 2000:18]。これらは、

個人が自らのアイデンティティや規範意識をその都度自らの中で作り出し再確認して いかなくてはならない時代への移行を示している。

このような再帰的近代においては、世界の不安定性が増し、必要以上に「私」に重点 が置かれ、強調される。また、アイデンティティの維持・変更・更新といった活動に際し

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ては、一般に他者という鏡が必要となることから[芳賀 2004]、常に不安定なアイデンテ ィティを相対化する意味においても、自身と関係する、鏡となってくれる他者が必要と なってくる。現在のように、集団共通の価値観がない不安定な社会においては、個人 は「私」自身によって「私」の価値観を形成しなければならない。しかし何事にも確固と した「私」が求められる中で、自己肯定感が脆弱な人々のアイデンティティは常に揺ら いでおり、例えば土井が「現代の若者たちは、自己肯定感が脆弱なために、身近な人 間からつねに承認を得ることなくして、不安定な自己を支えきれないと感じている」

[2008:99]と示しているように、他者による「私」の肯定や承認を強く必要としているもの

であると考えられる。しかし、肯定感を与えてくれる他者ならば誰でもいいというわけで はない。大澤は「オタクは、自身と類似している限りでの他者との交流や連帯を求め、

自身と差異を際立たせるような他者からは撤退しようとしている」[大澤 2006:35] とし、

類似した他者とのみ繋がりたいという個人の欲求について言及している。また、近年に おいて、特にコミュニケーションにおける対面状況の重要性を破壊させたケータイの発 明が、集団意識の喪失を決定的なものにしたとし、人々は無数の外部の他者を結び 付けている媒体にすがりつくこととなり、媒体を介して同じ対象を見たり、聞いたり、感 覚することによって、帰属要求を充足させようとするのだろうという指摘がある[正高

2004]。さらに菅野[2008]は、伝統的共同性の根拠が生命維持の相互性であったのに

対して、現代におけるネオ共同性の根拠にあるものは、「不安」の相互性なのだと指摘 し、情報の過多や社会的価値観の多様化によって人々は「お互い自分自身の思考、

価値観を立てることは出来ず、不安が増大している。その結果、とにかく『群れる』こと でなんとかそうした不安から逃れよう、といった無意識的な同調圧力を生んでいるので はないか」と論じている[2008:56]。

後期近代において、地縁血縁から離れた人々は、情報通信機器を駆使しながら何ら かの共通項によって参集し、コミュニケーションを行い、アイデンティティをコミュニティ 内部でその都度書き直しながら、自己肯定感や帰属欲求を充足させようとしている。

人々がコミュニティの中でどのように自己肯定感や帰属欲求を充足させようとしている のかについて分析する際、人々がどのような実践を行っているのかについて注視する 必要があると考えられる。コミュニティ内部の微々な異同やコミュニティ成員間で見られ る実践、コミュニケーションの様態、文化やその構造などに対する詳細な調査と全体的 な分析は文化人類学の土壌で豊かに育まれてきた。本研究においても長期にわたっ て対象に参与し観察する文化人類学的手法を用いて対象を調査、分析している。

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2.2 コミュニティと趣味縁

そもそも本研究でも対象としているコミュニティとは何であろうか。コミュ ニティとは、「人間が、それに対して何らかの帰属意識をもち、かつその構成メ ンバー間に一定の連帯ないし相互扶助(支え合い)の意識が働いているような集 団」[広井 2009:11]と定義されている6。このような人間関係・集団に関しては、

旧来様々な分類がなされてきた。それは、テンニース[Tönnies 1887=1957]によ るゲマインシャフト/ゲゼルシャフトに始まり、コミュニティ/アソシエーショ ン[MacIver 1917=2011]、第一次集団/第二次集団[Cooley 1909=1970]、社縁[米 山 1966]、女縁[上野 2008]などが挙げられる。近年では奥野[2000]によって家 庭や地域などの「第一の社会」、社縁を含む「第二の社会」、興味関心によって 人間関係が選択的に選ばれ結ばれる「第三の社会」という分類がなされている。

このように、コミュニティ(共同体)の定義は研究者によって異なっており、現 在多種多様な定義分類がなされている7が、特に本研究で注目すべきは、趣味に よって参集する「趣味縁」と呼ばれる人間関係とそのコミュニティである[浅野 2011]。

趣味縁とは「趣味によってつながる人間関係のこと」であり[ibid:38]、「二 次的結社の、したがって社会関係資本の典型である」[ibid:46]。浅野は、「個 人の力によっても親しい他者との協力によっても解決の難しい問題に向けて、

必ずしも親しくない他者たちとの間に協力関係を組織していくこと」を社会参 加と定義し、「親しい関係を超えて、その問題の解決に利害や関心を持つという 以外の共通点が必ずしもない人々の間の協力関係を組織していくような付き合 い方の作法を公共性と呼」んだ上で、この作法が「趣味を仲人にした人間関係 の中で培われる可能性について」検討している[ibid:10-11]。つまり、浅野は 趣味をキィにした人間関係の力を社会参加につなげるというポジティブな転換 を狙っているのである。浅野は趣味縁と公共性を結びつけるものとして社会関

6 田所[2014]はコミュニティという語について、現在では主に二つの使い方(文 脈)が見られているという。一つは、社会不安や自然災害などからくる不安感を 受け止め、安心感をもたらすものとしての、居場所としてのコミュニティであ り、もう一つはまちづくりや地域おこしといった文脈で使用され、「人為的にデ ザインするものであり、仕組み作りの対象」となるコミュニティである

[2014:2-3]。

7 Hillery [1955]からは、既存の先行研究におけるコミュニティの定義は 94 種 類にものぼるとの指摘がなされている。

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係資本の存在を補助線として引き、資本が生み出す利益を、資本の「所有者以 外の人も含めた共同体全員によって享受される」という視点を持って語ること を試みている[ibid:39]。現在見られる趣味によるつながりは、政治性を帯びた ものから離れたところで、「趣味やつきあいそれ自体の『楽しみ』にのみ準拠し ている」としつつ[ibid:80]、幾つかの先行研究を示しながら、今日の趣味縁と 公共性との関係についての議論の代表例としてオタクのコミュニティも取り上 げている。オタクは「仲間内で閉じた同質な関係なのか、それとも異質な他人 への通路なのかという対立軸」を持っているとしている[ibid:91]。16 歳から 29 歳の男女約 700 人を対象とした浅野の調査からは、趣味友達は公共性・社会 参加に関係を持たないが、趣味集団は公共性・社会参加に関係を持っていると いう異なった動きをしていることが明らかになっており、趣味によってつなが る集団は普段から親しい人ではない人々との関係性を結ばなければならないた めに集団を通して、つながりの作法を身につけているのではないかと浅野は論 じている。

2.3 オンライン上のコミュニティ

上記で見てきたようなコミュニティは、何も現実空間に限定されたものでは ない。現在では仮想空間上でも様々な人間関係および集団が形成されており、

それらは実際に現実にも影響を及ぼすものとして機能している。

2014 年度末時点における、日本でのインターネット普及率は約 82.8%に達し

8(表 1)、本研究の調査対象である腐女子のメイン層といわれている 10 代〜30 代では、個人の利用状況がどの年代も 98%を上回っている(表 2)。また、インタ ーネットの利用頻度に関しても、10 代〜30 代では、「毎日少なくとも 1 回」が 80%を超えるなど(表 3)、今やインターネット利用は彼女たちにとって日常的な コミュニケーション及び情報収集のツールとなっている。このように、今や我々 が生活する上で不可欠となったインターネットの持つ、「送り手と受け手との双 方向的な情報伝達」という特性は、一対一のみならず、一対多、および多対多 のコミュニケーションを可能にしている。そして、その特質が生かされている

8 総務省,2015,「平成 26 年通信利用動向調査」

(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/150717_1.pdf,2 016.02.04)

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場であるブログや SNS などの場は、一般的に「オンライン・コミュニティ」と 呼ばれている。

表 1 インターネットの利用者数及び利用者の割合の推移(個人)

表 2 男女、年齢階層別インターネットの利用状況(個人)

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表 3 年齢階層別インターネットの利用頻度(個人)

オンライン・コミュニティは、「未知の多数の人々が集い双方向性の高いコミ ュニケーションを行っている場であり、かつ場所と時を越えてコミュニケーシ ョンできる」[宮田 2005:32]という特徴を持っている。宮田は、オンライン・

コミュニティを、何らかの共同性を持ち、「インターネットやパソコン通信のコ ンピュータ・ネットワークを介して参加者が共通の関心や問題意識を持って自 発的に集まり比較的対等な立場で自律的に相互作用をする社会的空間」

[ibid:32]と定義している。また遠藤は、このように関心を共有する小集団をコ ミュニティ・オブ・インタレストと呼び、その集団において構成される人間関 係であるオンライン・リレーションズは、きわめて淡くはかないものではある が、そこでは一種の仲間意識、帰属意識が形成されていることをと述べている。

そして、オンライン・リレーションが「場合によってはそれが広大な空間のな かでようやく出会えたという希少性、あるいは匿名のコミュニケーションから 来る上記のような「はかなさ」の感覚によって、かえって関係が極度に濃密化 する場合」もあると指摘している[2008:146]。

オンライン・コミュニティやコミュニティ・オブ・インタレストの概念は、

インターネットを駆使し、コミュニケーションやコミュニティ形成を行う腐女 子コミュニティにも当てはまる。彼女たちはそれぞれの興味関心に基づく細分 化されたコミュニティに参与しコミュニケーション行う。そして、そのオンラ イン・リレーションズはコミュニティに参与し続ける限りにおいて濃密だが、

興味関心が他に移れば、そのコミュニティで形成された関係自体が解消される

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22 という特徴も持ち合わせている。

遠藤の指摘にもあったように、このようなオンライン上のコミュニティにお けるコミュニケーションは日本においては主に匿名の下で行われてきたため (「2 ちゃんねる」がよくその槍玉に挙げられるように)、匿名の他者が集まるネ ット上のコミュニケーションの場は無責任な発言や誹謗中傷が出やすい場だと も考えられてきた。このようなオンライン空間を成功に導く鍵概念としては、

昨今信頼が注目されてきている。向日・西岡・宇井[2007]によれば、信頼は、「ネ ット環境に影響を与える説明変数」であり、「ネットから影響を受ける目的変数 とも解釈でき」るものでもあるという[ibid:35]。そして信頼は「不確実性が高 い環境での相手の特性(人格や能力)にもとづいた相手への期待」と定義されて いる [向日 2005、2006]。また、向日・西岡・宇井は信頼感を、「信頼と安心を 含んだ主観的な信頼」だと定義し [ibid:36]、ペンネームと実名のネット環境 においてどちらが強い信頼感が形成されるかに関する実験を行った。4 年制大学 の学生 56 名保対象にした調査では、「ペンネーム環境は実名環境に比べ、相手 の特性認識にもとづく信頼の影響には差がないが、相手の行動の不確実性にも とづく安心は低い」との結論を示している[向日・西岡・宇井 2007:43]。また、

「信頼感を高めることだけを目指すなら実名環境が好ましい。しかし、実名で は個人が特定される可能性が参加の障壁となりうることから、ペンネーム環境 において、信頼感を高める施策を検討する必要がある」と述べ、匿名的な(ペン ネームを用いる)掲示板などで個人の信頼を得るためには、繋がった後に「個人 が特定されない範囲で、個人プロフィールを公開する必要がある」としている [向日・西岡・宇井 2007:45]。

このようなオンライン上のコミュニティやコミュニケーションの特徴は、個 人間のみならず、個人とインターネットというメディアとの関係性の中ではじ めて立ち現れるものである。メディアは単なるメッセージを発信したり受け取 るだけのツールとしてでもなく、人と人とをつなげるだけでもなく、人にある 種の感情を抱かせたり、その感情を増幅させたりもする。例えば辻[2006]は、

現代における不安や孤独感を招いている要因の一つとしてメディアの影響を指 摘し、「電話」がある種の孤独を生んでいると指摘している。辻は、電話がラジ オやテレビなどとは違って相手が必要となるメディア、つまり「パートナーを 要求する」メディアであるがゆえに、「つながりうるのに、つながっていない。

そうしたつながりの空白——端的な不在(物理的に不可能な状況)ではなく——こそ が孤独感を引き寄せる」[2006:44]とし、場所や時間を問わず利用可能な携帯電

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話は、「従来の卓上電話以上に、孤独感をもたらすつながりの空白を拡大すると も考えられ」ると述べている[ibid:45]。また、辻は自身の行った調査結果から、

人は、「携帯メールによるつながりに空白が生じたとき、その空白をまた携帯メ ールによって埋めようとする傾向」があると分析している。そして、「そこから は、携帯メールがつながりを常態化することによってその空白への不安が高ま り、高まった不安がまた携帯メールによるつながりの常態化をもたらし、……

といったつながりの不安が螺旋状に増幅されていく可能性」があると示唆して いる[ibid:49]。筆者は、このことは携帯電話のみならず、インターネット機能 によってつながりの空白を持ちうるネットワーク端末全てに通じる議論ではな いかと考える。メディアの利用によって生まれた孤独感は、その利用メディア のさらなる常態化を招き、孤独感を増幅させていく。つまり、孤独感という自 身の感情ですら、一部はメディアとの関係においてもたらされていると考える ことができるのである。

このような、自身の(心理も含む)経験がメディアによってもたらされている ということは、頻繁にメディアを利用し、インターネット上でコミュニケーシ ョンを行っている現代社会を生きる人々が、メディアや情報空間ともはや切っ ても切れない関係に陥っていることを示している。岩本は、「現代社会において は、衣食住のみならず、すべての生活の局面に渡って、否応もなくテクノロジ ーの所産とかかわりにならざるを得ないのだ」とし[2004:112]、「『技術連関』

の環境下においては、一人の人間が生活するうえでかかわりをもたざるを得な い社会が拡張すると同時に、複雑に細分化しているのである。それはもう、一 個人が自分の能力で把握できる域をはるかに超えてしまっている。そしてそれ は、私たちが外部の世界をどのようなものとして、またどのように『経験』す るのかという点についても同様となる」と述べ[ibid:113]、人々が「現実環境」

に代わる第二の自然として、直接的に経験できる環境ではなく、自身らのイメ ージによって形作られる「擬似環境」を選択しており、「私たちの知覚が及ぶ範 囲を限定する条件は、専らコミュニケイション・ミディアに適応されるテクノ ロジーと、それを使用する私たち自身の感受性にそれが受け入れられるか否か という問題に絞られることになる。それこそが現代ミディア社会における、私 たちの『知覚様式』の変化なのである」と論じている[ibid:120]。このことは、

メディアに取り囲まれながら現代社会を生きる人々が、すでに擬似環境を再認 なしに当たり前のものとして受け入れているということの指摘でもある。この ように我々の生活はもはや既に情報通信機器のネットワークによって結ばれた

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網の中に包括されており、情報通信機器と関係を結ぶことなしに生きていくこ とが困難となっている。

2.4 複合現実社会

“The most profound technologies are those that disappear.”[Weiser 1991:3]という言 に示されているように、我々は日々様々なテクノロジーと情報によって織り成 される連関の中で(それらをその都度意識することなく)生活しており、AR や VR といった仮想と現実の融合すら、今や当たり前のものとして受け取っている。

例えば、日頃人々が利用している Twitter や Facebook などでは、仮想空間上 での情報を参照して現実空間上での友人との関係を深めたり、逆に現実空間上 で深めた友人関係を仮想空間上で再現/強化させたりしている。また、仮想の データをディスプレイ越しに現実に反映するカーナビケーションシステムや、

医師が自身の動作情報を通信に乗せ遠隔地にいる患者の手術を行う遠隔手術シ ステム、人や物の動きをデジタルデータとして記録しディスプレイ上に再現す るモーションキャプチャなどは、仮想と現実をつなげるテクノロジーがそれを 可能にしているのである。

近年 VR や AR で勢いづいている市場の一つがコンテンツの市場である。例え ば、2016 年 10 月に SONY より発売された PSVR は、VR コンテンツを家庭内で気 軽に体験できるように設計されている。『アイドルマスター シンデレラガール ズ ビューイングレボリューション』というソフトでは、実際にキャラクタのラ イブが、あたかも目の前で行われているかのように知覚でき、ユーザは(自身の 直接的な経験として)ライブを体験できる(図 1)。

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図 1 VR によるアイドルのコンサート

(https://www.jp.playstation.com/blog/detail/3853/20161013-i masvr.html.2016.10.15)

また、世界的に爆発的大ヒットとなった Niantic と任天堂によって共同開発 された『Pokemon GO』は、AR 技術を用いて、現実空間上に現れるポケモンと呼 ばれるモンスターをスマートフォンごしに捕獲するというゲームである(図 2)。

図 2 Pokémon GO

(http://www.pokemongo.jp,2016,10.15)

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プレイヤーは、スマートフォンごしに現実空間を見ることで、そこにあたか もモンスターが本当にいるかのように、自身の指を使った捕獲行動を起こし、

それを経験する。

現実空間上に仮想のデータ(情報)を介入させ、自身のものとして体験すると いう状況は、少なくとも 1968 年のサザランドによる HMD の開発時には可能とな っている。日本では、特にモバイル端末・ゲーム機を中心としたコンテンツ市 場において 2003 年から発展してきている。2003 年には『コロニーな生活』(コ ロプラ)が位置情報を利用したゲームとして発売されており、その後の『Ingress』

(Niantic)や『Pokemon GO』へと継承される萌芽が見て取れる。続く 2005 年に NTT ドコモの i-mode にて『マージナルプリンス~月桂樹の王子達~(以下、マ ージナルプリンス)』が発売される。従来のゲームコンテンツでは、こちらから ゲームに干渉することで、キャラクタと接触することができたが、マージナル プリンスでは、東京の交換台(03-4332-0080)を経由して、プレイヤーの携帯電 話に実際に電話がかかってくる。この、人対人ではない音声データによる現実 への介入、キャラクタが「いま、ここ」の現実の時間軸に介入するという点に おいてマージナルプリンスは画期的であった。さらに 2012 年にはニンテンドー 3DS 用のコンテンツとして『NEW ラブプラス』が発売され、ゲーム内のキャラク タを AR マーカなしに現実空間に表示させることが可能となっている。

上記の例は単にコンテンツの紹介ではない。一番重要なことは、「キャラクタ やデータが利用者の現実の時間軸に(制作者によって意図されたものであれ)

干渉するという現象が起こっている」ということであり、これらコンテンツを 利用する人々の現実の行動が、現実空間の情報とそこに現れる仮想の情報によ って促され、価値づけられ、方向付けられているということである。この段階 において、人々は「現実」と「仮想」とが混じり合う不可分な感覚を持ちなが ら生きていくことになる。

このような、リアルとヴァーチャルを重ね合わせるこれらの技術の進展によ って生まれる「仮想現実感 Virtual Reality」や「拡張現実感 Augmented Reality」

を総称するものとして、ミルグラムは「複合現実感 Mixed Reality」という概念 を提起した[Millgram 1994]。これは、これまで対概念とされてきた「仮想空間」

と「現実空間」が既に一直線上に境界が融合されており、「より仮想か」「よ り現実か」のその都度の寄り方で捉えられるという概念である(図 3)。

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図 3 ミルグラムによる複合現実感

http://vered.rose.utoronto.ca/people/paul_dir/IEICE94/ieice.html

この概念のもとでは、度々ワイドショウなどで報道される現実空間と仮想空 間の混同という世俗的な批判はもはや意味を持たない。なぜなら、現実と仮想 はもう既に一直線上に結ばれ、不可分な両輪として駆動してしまっているから である。

ミルグラムのこの指摘は MR 技術の議論だけにとどまらないだろう。リアルと ヴァーチャルの技術的融合は、認知の領域においても、「現実」をグラデーシ ョンの問題として捉えられるということを意味している。つまり「現実的」「仮 想的」という状態は、個々人の認知によるものとなるのである。仮想空間での 現実感、現実空間での現実感も、仮想空間での仮想感、現実空間での仮想感も 分けて捉えることはできない。ここにおいても、一般に言われている現実と仮 想の優位性の議論は脇に据えられることになる。なぜなら、現実仮想が凌駕す るわけでも、現実が仮想に勝っているわけでもない。その都度その都度の知覚 によって、現実と仮想とが混じり合ったグラデーションの中で人々は現実を認 識し、それぞれの現実を構築しているのである。

しかしその一方で、これまで分け隔てたものとして考えられてきたものをつ なげ合わせるというミルグラムの試みは、「リアルとヴァーチャルを一直線上 の並べたために、リアルとバーチャルの二元論に留まってしまった」という指 摘がある[富田 2016:253]。ここで注目したいのは、富田も指摘しているように、

「バーチャルな情報とは具体的に何か」という問題である[2013:31]。日本バー チャルリアリティ学会においては、「リアル」と「ヴァーチャル」とは以下の ように説明づけられている9。「バーチャルリアリティのバーチャルが仮想とか 虚構あるいは擬似と訳されているようであるが、これらは明らかに誤りである。

9 http://www.vrsj.org/about/virtualreality/

(30)

28

バーチャル (virtual) とは、The American Heritage Dictionary によれば、

『Existing in essence or effect though not in actual fact or form』と定 義されている。つまり、「みかけや形は原物そのものではないが、本質的あるい は効果としては現実であり原物であること」であり、これはそのままバーチャル リアリティの定義を与える。レヴィの示すように、「厳密に定義されたヴァー チャルなものは、偽物、想像的なものとはなんの親近性も持っていない。ヴァ ーチャルなもの〔virtual〕は決してリアルなもの〔réel〕と対立するものでは ない」[Lévy 1995=2006:xii -xiii]。「バーチャルの反意語は,ノミナル(nominal)

すなわち「名目上の」という言葉であって、バーチャルは決して リアル(real)

と対をなす言葉ではない」のである[舘 2012]。つまり、リアルの対極にあるも のはヴァーチャルではなくノミナルであり、ヴァーチャルとは「本質的あるい は効果としては現実であり原物」のことを指すのである。つまり、何らかの事 象の本質を指すものであり、リアルな事物・事象の持つ潜在的な本質性がヴァ ーチャルということになる。舘が示すように、「バーチャルは virtue の形容 詞で、virtue は、その物をその物として在らしめる本来的な力という意味から きている。つまり、それぞれのものには、本質的な部分があってそれを備えて いるものがバーチャルなものである。そもそも人間が捉らえている世界は人間 の感覚器を介して脳に投影した現実世界の写像であるという見方にたつならば、

人間の認識する世界はこれも人間の感覚器によるバーチャルな世界であると極 論することさえできよう」。「人が何をバーチャルと思うかも重要な要素であ る。つまり人が何をその物の本質と思うかによって、バーチャルの示すものも 変わるのであると考えられる」[舘 2012]。 ここで注目したいのは、「人が何 をその物の本質と思うかによって、バーチャルの示すものも変わるのであると 考えられる」という部分であり、観察者によってそのものの持つ「本質」とい うものは異なるという点である。

このような議論を引き継ぎ、富田は複合現実感概念を社会学の領域に導入し、

リアルとヴァーチャルとが重なり合う複合現実感が共有された社会を「複合現 実社会」と命名した。リアルとヴァーチャルが重なり合う複合現実社会は、本 質的(ヴァーチャル)な部分がより強く求められる社会である。したがって、複合 現実社会は、「どこの誰か」ではなく、それよりももっと大切なものがあると いうことが信じられ、繋がり合う社会のことを指している[富田 2009]。この本 質(ヴァーチャル)によって人々がつながり合うという議論は、後期近代における 親密性について論じたギデンズの「純粋な関係」の議論と結び付けられる。純

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粋な関係とは、「社会関係を結ぶというそれだけの目的のために、つまり、互 いに相手との結びつきを保つことから得られるもののために社会関係を結び、

さらに互いに相手との結びつきを続けたいと思う十分な満足感を互いの関係が 生み出していると見なす限りにおいて関係を続けていく、そうした状況 を指し

ている[Giddens 1991=2005:90]。つまり、後期近代においてアイデンティティに

関する結びつきは、社会的文化的なものからも、制度的なものからも離れてい き、それに代わって重視されるものが純粋な関係となるという指摘である [Giddens 1991=2005:97-98]。

富田は、このミルグラムとギデンズ両者の議論を結びつける。そして、情報 通信技術が発達しインターネットや携帯電話などの新しい通信メディアが登場 したことによって、従来重なり合うことのなかった匿名性と親密性が重なり合

い、「Intimate Stranger(親密な他者)」という、匿名だからこそ親しくなれるとい

う新たな人間関係が誕生したとしている[富田 1997、2005](図4)。

図 4 Intimate Stranger (富田 2005:53より筆者作成)

Intimate Stranger は、これまで相容れないとされていた親密性と匿名性とが 重なり合った場に立ち現れる存在である。それは、インターネットなどの匿名 性の性質を持つメディアによって初めて存在することが可能となった存在であ り、このメディア上における匿名性を前提に成立する親密性を説明するために、

富田は Intimate Stranger の概念を提起したのである。富田は Intimate Stranger

表 1  インターネットの利用者数及び利用者の割合の推移(個人)
表 5  参与観察
図 9  「隠す」という実践
図 24  ジャンルコード一覧
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参照

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