博 士 ( 医 学 ) 小 林 正 明
学 位 論 文 題 名
骨 芽 細 胞 様 細 胞 株 MC3T3 − El 細 胞 の 分 化 に お け る IGF 結 合 蛋 白 の 役 割 に 関 す る 研 究
学位論文内容のl 要旨
緒 言
Insulin‑Iike Uowth factor‑lI (IGF‑II)は 骨形 成 の重 要な 局 所性 成長 因 子と して 知 られ てい る . こ のIGFに は 細 胞 外 で そ れ と 結 合 し ,IGFの 生 理 作 用 を 制 御 し て い る6種 類 のIGF結 合 蛋 白 (IGFBP)が 存 在 す る が , 骨 芽 細 胞 に 対 す る 作 用 の 詳 細 , 特 に 細 胞 分 化 と の 関 係 に つ い て は ま だ 十 分 に は 解 明 さ れ て い な い .
ま た , マ ウ ス 骨 芽 細 胞 様 細 胞 株MC3T3‑E1細 胞(El細 胞 ) は 血 清 存 在 下 で 長 期 間 培 養 を 続 け る と 分 化 し , や が て 細 胞 外 基 質 の 石 灰 化 を 起 こ す た め 骨 化 の モ デ ル と 考 え ら れ て い る が , 培 養 経 過 と 共 にIGF‑II分 泌 も 増 加 す る . そ こ で 本 研 究 で は , ヒ ト 血 清 よ りIGFBP‑3を 精 製 し , 骨 芽 細 胞 の 分 化 に お け るIGF‑IIの 効 果 に 対 す る 影 響 , 及 ぴ 細 胞 の 分 化 に 伴 な っ てIGFBPの 分 泌 様 式 が そ の 分 子 種 で ど の 様 に 異 な る か をEl細 胞 を 用 い て 検 討 し た .
材料と方法 (1) IGFBP‑3の精製
IGFBP‑3はMartinとBaxterの 方 法 を 一 部 変 更 し , ヒ ト 血 清 のCohn分 画IV‑1ペ ー ス ト を75mM NaCI‑ 2M酢 酸 に 溶 解 し ,SP‑Sephadex C‑25の バ ッ チ 法 後 , 試 料 のpHを6.5に 上 げ , 硫 安 分 画 (35〜 55%),Phenyl cellulofine,FPLCシス テム(Superose 12,Protein Pak G‑QA)により精製した.
(2)細胞培養
(a) El細胞の分化に対 するIGF‑IIとIGFBP‑3の作用 の検討
El細 胞 を1096ウ シ 胎 児 血 清(FCS)を 含 むa‑MEMに てconfluent( こ の 時 点 を 以 下 培 養O日 と す る ) に な っ て か ら 更 に3日 聞 培 養 後 , 各 種 濃 度 のIGFBP‑3やIGF‑IIを 添 加 ,48時 間 後 に 細 胞 を 回 収し,アルカリフォ スファターゼ(ALP)活性を測 定した.
(b)培養液中 の血清由来IGFBPの消長に対 する検討
El細 胞 を1096 FCSを 含 むa‑MEMに て 培 養 し , 培 養0日 と , 更 に 培 養 を 続 け た ( 培 養 液 は3日 ご と に 交 換 ) 培 養21日 に 同 じ 培 養 液 (10% FCS. a‑MEM)に 交 換 し , そ れ ぞ れ48時 間 培 養 後 , 培養液中のIGFBPを以下に示 す方法で測定した.
(c) El細胞のIGFBP分泌様式に 対する検討
同 様 に 各 々 一 定 日 数 培 養 し て か ら , 培 養 液 を 無 血 清a. MEMに 交 換 し , そ の 後 一 定 時 間 培 養し,培養液中に分 泌されるIGFBPおよぴ細胞のDNA量とALP活性を 測定した.
(3)培養液中 のIGFBPの 定量(Westernリガンドブロ テイング法)
試 料 を12.596 SDS‑ポ リ ア ク ル ル ア ミ ド ゲ ル 電 気 泳 動 を 行 な っ た 後 , ゲ ル 上 の 蛋 白 質 パ ン ド を ニ ト ロ セ ル ロ ー ス 膜 に 転 写 し ,125I‑IGF̲IIと4℃ で 一 晩 反 応 さ せ , 洗 浄 ・ 乾 燥 後 ,X線 フ イ ル ム に 暴 露 し , フ イ ル ム 上 の パ ン ド の 強 度 を デ ン シ ト メ ー タ ー を 用 い て 定 量 化 し た .
(1) IGF丶BP‑3の精製
結 果
最終 標品は 電気泳動上,タンパク質の銀染色で単一であり,その泳動距離はWestern リガ
ンドプロテイング法で得られたパンドと一致し,ヒトの主要なIGFBP‑3 の分子量(53kd) と
一致することから,IGFBP‑3 と同定された..
(2) IGF‑II
とIGFBP‑3 のEl 細胞ALP 活性に対する影響
IGFBP‑3
は細 胞のALP 活性に変 化を与 えなかっ たが, 単独では 効果が ない量で
IGF‑IIと
IGFBP‑3を同時に添加すると,ALP 活性は有意に増加し,IGFBP‑3 はIGF‑II の骨芽細胞の分化
に対する作用を促進した.
(3)
培養液中の血清由来
IGFBP‑3の消長
培養
O日の 細胞で は48 時間培 養後, 培養液中の血清由来IGFBP‑3 のバンドはほぽ完全に消
失し た,し かし,培 養21 日の 細胞では ,細胞数は増加しているにもかかわらず,48 時間
後IGFBP‑3 のバンドは培養液中に残存した.
(4)
細胞の培養時間によるIGFBP の分子種による分泌様式の違い
培養
O日で は26kd IGFBP のみが分泌され,培養48 時間まで時間に依存して増加した.培養
21日で は23kd ,
26kd,
31kdの3 種類の
IGFBPの分泌が確認され,共に時間に依存して増加
した .更に 詳細に検 討すると ,培養 日数の経過に伴い48 時間の分泌量はそれぞれ増加し
たが ,細胞 のDNA 量 当たりで 換算す ると,23kd IGFBP は培養6 日目からほぼ一定の分泌量
を示し,26kd は最も分泌量の多い6 日目をピークにその後ゆっくり減少した.31kd IGF 丶
BPは 培 養
3日 目 か ら 徐 々 に 増 加 し , 培 養
21日 で 培 養
3日 目 の 約
5.
6倍 に 達 し た .
(5) El細胞のIGFBP 分泌バターンの変化と細胞分化との関係
骨芽 細胞の 分化マー カーとな るALP 活性は培養日数の経過に従い上昇した.この
ALP活性
と上 記IGFBP 分泌との 関係を 比較検討 すると,ALP 活性は
31kd IGFBPとの間にのみ有意の
正の相関(r=0.955 .p<0.01) を認め,
El細胞の分化に31kd IGFBP 分泌が密接に関与することが
明らかとなった‐
考
察
本研究に於いてもこのEl 細胞は培養後
confluentになった直後では
ALP活性は極めて低値で ある が,その 後培養日 数の経 過に伴い
ALP活 性が増加 することから,徐々に分化が進行し たことが確認された,
この
El細胞の培養系において,単独では無効な量で
IGF‑IIとIGFBP‑3 を同時に添加すると,
ALP
活 性 は 上 昇 し ,
IGFBP‑3は
IGF‑IIの 骨 芽 細 胞 の 分 化 に 対 す る 作 用 を 促 進 し た . また,El 細胞がconfluent 直後では
FCSに含まれるIGFBP‑3 のバンドは培養液中にほとんど検出 され なくなり ,これは 細胞が 分化して いくた めにFCS 中のIGF と
IGFBPを細胞が必要とし,
その 結果,培養液中のIGFBP‑3 が消失したものと考えられる,しかし,分化が進んだ培養後 期で はIGFBP‑3 のバンドは培養液中に残存し,本研究で明らかになったように細胞自身が他 のIGFBP を分泌 するた め,もは や細胞は
FCS中 の
IGFBPを 必要とせず,培養液中に残存した 可能性が強いと思われる.
一方
AmarnaniらのEl 細胞培養液からのIGFBP の精製の報告と併せ,ると,本研究で検出され
た26kd はIGFBP‑4 ,31kd IGFBP は
IGFBP‑6に相当するものと思われる.IGFBP‑6 は
IGF‑Iに比べ
IGF‑IIに約10 倍強い親和性があり,El 細胞では,IGF‑I は培養初期から後期にかけほぼー定量
産生するのに対し,IGF‑II の産生は培養の経過に伴い増加し,培養20 日にはIGF‑I の約12 倍産
生する,また,ヒト骨基質においてもIGF‑II が
IGF‑Iの約13.5 倍含まれており,本研究で得ら
れた 培養後期 での31kd IGFBP の 増加はこれらの報告と合わせ考えると,十分に生理的意義
を有するものと思われる.
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査
教授 教授 教授
金 田 清 志 西 信 三 石 橋 輝 雄 学位論文題名
骨 芽 細 胞 様 細 胞 株 MC 3T3 ― El 細 胞 の 分 化 に お け る IGF 結 合 蛋 白 の 役 割 に 関 す る 研 究
骨形成の重要な局所性成長因子として知られているinsulin‑like gro wth factor‑II
(IGF‑II )には細胞外でそれと結合し、
IGFの生理作用を制御している6 種類の
IGF結合蛋 白(IGFBP )が存在する。また、マウス骨芽細胞様細胞株MC3T3 ―El 細胞(El 細胞)は血 清存在下で長期間培養を続けると分化し、やがて細胞外基質の石灰化を起こすため骨化のモ デルと考えられているが、培養経過と共にIGF‑II 分泌も増加する。本研究では、ヒト血清よ りIGFBP‑3 を精製し、骨芽細胞の分化におけるIGF ‑II の効果に対する影響、及ぴ細胞の分 化に伴なって
IGF BPの分泌様式がその分子種でどの様に異なるかをEl 細胞を用いて検討し た。
El
細胞を10 ゲ。ウシ胎児血清(FCS )存在下にconfluent になってから更に3 日間培養後、
ヒト血清より精製したIGFBP‑3 とIGF ‑II の細胞のアルカリフォスフんターゼ(ALP )活性 に対する効果を検討した。その結果、単独では効果がない量のIGF ‑II とIGFBP‑3 を同時に 添加すると、ALP 活性は有意に増加し、IGFBP‑3 はIGF ‑II の骨芽細胞の分化に対する作用 を促進した。
E1
細胞を10 ゲ。FCS を含む培養液で48 時間培養後、培養液中の血清由来IGFBP をWes tern ルガンドプロッテイング法で測定した。培養O 日の細胞では48 時間培養後、培養液中の血清 由来IGFBP‑3 のパンドはほぼ完全に消失した。しかし、培養
21日の細胞では、細胞数は増 加 し て い る に もか か わ ら ず 、
48時 間 後
IGFBPー
3の パ ン ド は培 養液 中に 残存 した 。
同様に各々一定日数培養してから、無血清培養液に交換し、その後一定時間に培養液中に 分泌されるIGFBP を検討すると、培養0 日では26kd IGFBP のみが分泌され、培養48 時間ま で時間に依存して増加した。培養21 日では23 、26 、31kd の3 種類のIGF BP の分泌が確認 され、共に時間に依存して増加した。更に詳細に検討すると、培養日数の経過に伴いそれぞ れ分泌量は増加したが、細胞のDNA 量当たりで換算すると、
23kd IGFBPは培養
6日からほ ぼ一定の分泌量を示し、26kd は最も分泌量の多い6 日をピークにその後ゆっくり減少したが、
31kd IGFBP
は培養3 日から徐々に増加した。
また、El 細胞のALP 活性は培養日数の経過に従い上昇し、徐々に分化が進行したことが確 認さ れた 。こ の
ALP活性 と上記
IG FBP分泌との関係を比較検討すると、ALP 活性は31kd
IGFBPとの 間に のみ 有意 の正の相関を認め、El 細胞の分化に31kdIGFBP 分泌が密接に関 与することが明らかとなった。
ー 120−
以上より、El 細胞が分化してい〈ために血清中のIGF とIGFBP を必要とし、その結果、培 養液中のIGFBP ―3 が消失したものと考えられる。しかし、分化が進んだ培養後期では
IG FBP―3 のバンドは培養液中に残存し、本研究で明らかになったように細胞自身が31kd
IGFBPを分泌するため、もはや細胞はFCS 中のIGFBP を必要とせず、培養液中に残存した 可能性が強いと思われる。
公開発表に際し、西教授からIGF ―II とBMP との関係、IGF BP がaut ocrine に作用してい るのか、石橋教授から31k IGFBP の増加は細胞に作用するのに十分量なのか、金田教授か らIGFBP‑3 がIGF ‑II の作用を促進する作用機序について、さらにフロアーより他の細胞で のIGFBP の作用について等の質問がなされ、これらに対して学位申請者よりそれぞれ適切な 回答が得られた。