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Title
顎骨の再生を目指して : ラジアルフロー型バイオリアク
ターを用いた骨芽細胞様細胞の三次元培養
Author(s)
荒野, 太一
Journal
歯科学報, 112(6): 718-723
URL
http://hdl.handle.net/10130/2980
Right
はじめに 癌や外傷などのさまざまな疾患によって失われた 広範囲組織欠損に対する治療法には,今日まで主と して2種類の治療法が行われてきた。それは移植と 再建である。しかしながらそれら2つの治療法には 様々な問題点が残されているのが現状である1−3)。 移植に関してはドナー組織の不足や移植組織の免疫 拒絶といった問題が指摘されているし,再建におい ては再建材料の効果の持続性不足や機能性不足など の欠点が指摘されている。 それら二つの治療法に代わる方法として組織再生 療法が挙げられる。組織再生療法とは,組織に分化 する細胞を用いて,失われた組織そのものを再生し 移植を行って,形態,機能の回復を図るティッシュ エンジニアリングを用いた治療法である。この方法 は前述の2つの治療の問題点を解決することが可能 となる治療法として注目を集め,多くの研究が急速 に行われている分野である。今回は組織再生療法に 関する基本的な解説を行うとともに,現在,東京歯 科大学において取り組んでいる骨組織の再生を目指 した三次元培養法について報告する。 生体の成り立ちと組織再生療法の原理 生体の成り立ちと組織再生療法の原理を図1に示 す。まず,我々の生体の構成単位である細胞が集合 して1つのまとまった構造体となったものが組織, 異なる複数の組織と実質細胞とが集合して1つの機 能体となったのが器官である。そして,様々な機能 を持った器官の集合体が個体である。組織再生療法 とは疾患によって失われた組織,器官を細胞から人 為的に作製し移植を行う方法である。組織再生とい う言葉を用いるときには器官の再生も含めて言われ ることがほとんどでありこの二つを区別することは あまりない。 組織再生に必要な3要素を図2に示す。組織再生 には,まず目的となる組織に分化する細胞が必要不 可欠である。細胞は分化の程度によってその後の組 織形成能に差がある。分化度の低い細胞ほどより多 くの組織に分化できる能力を持っている。もっとも 分化度の低い細胞は ES 細胞であり,この細胞はす べて組織に分化できる能力を持っている。そこから 少し分化したものが組織幹細胞である。前駆細胞は 分化度が最も高く特定の組織に分化することが決定 している。このことから考えると分化度の低い細胞
解説(学位論文 解説)
顎骨の再生を目指して
―ラジアルフロー型バイオリアクターを用いた
骨芽細胞様細胞の三次元培養―
Osteoblastic Cell Proliferation with Uniform Distribution in a Large Scaffold Using Radial-Flow Bioreactor
荒野 太一 東京歯科大学クラウンブリッジ補綴学講座 助教 略歴 平成17年東京歯科大学卒業,平成21年東京歯科大学大学院歯学研究科(歯 科補綴学専攻),平成21年より現職。研究テーマ:三次元培養法による骨の再生 趣味:ソフトテニス Taichi Arano キーワード:再生,三次元培養,骨
Key words:Tissue engineering, Three-dimensional culture, Bone
(2011年11月1日受付,2012年7月12日受理,歯科学報 112:718∼723,2012.)
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のほうがより多くの組織に分化できるために利用価 値が高いように考えられる。しかし,それは分化誘 導条件が明らかになっていて特定の組織への分化を コントロールできる場合であり,実際には分化誘導 条件が未知なものが多い。分化の最終段階である前 駆細胞は多種の組織に分化することはできないが, その反面,分化誘導を行わなくても特定の組織を作 ることができる特徴を持っている。 細胞は一般的にある表面に接着することによって 分裂する。よって細胞が増殖を行うには接着するた めの足場が必要である。生体内においてそれは細胞 外マトリックス(ECM)であるが,組織が欠如して しまっている場合には ECM も欠如している。よっ て細胞が自身で ECM を作れるようになるまでの人 工の足場(scaffold)が必要となる。Scaffold は細胞 の足場となるだけでなく,酸素や栄養素を十分に供 給できる形態を持たなくてはならないので多孔体で ある必要がある。また,十分な組織再生が行われた 後では細胞自体が産生した ECM と置き換わる必要 があるために生体吸収性を持った材質であることが 望ましいと考えられる。さらに,scaffold は他にも 生理活性物質の担体,薬物送達システムの機能,再 生スペースの確保,再生組織の形態決定,他の組織 の侵入阻止などといった役割が必要となる。Scaf-fold の設計,材料選択は完成した再生組織に対して 大きく影響する。現在では合成ポリマーの PLA や PGA,生体由来ポリマーのコラーゲン,ハイドロ キシアパタイトといった様々な材料を用途に合わせ て scaffold として用いている。 最後に再生に必要なものは,足場に接着した細胞 が効率よく増殖,分化するための成長因子である。 適切な成長因子を加えることによってより効率的に 細胞の増殖を行うことができる。幹細胞を特定の組 織へ分化させるためには分化誘導条件の設定が必要 であることは前述した。この分化誘導条件として重 要な役割を持つのが成長因子といえる。目的とした 組織に対する適切な成長因子を加え,適切な足場, 培養条件を設定することで様々な組織への分化誘導 を行うことができる。現在は BMP,EGF,aFGF, bFGF などといった様々な成長因子が目的とする再 生組織に合わせて用いられている。 三次元培養の必要性とバイオリアクター 上記の3要素を適切に組み合わせて培養を行うこ とで組織再生は可能である。この3要素を用いて従 来のシャーレやフラスコなどで培養を行っても歯肉 や骨膜といった薄い組織の再生は可能であろう。し かし,大きく欠損した組織,例えば癌などで切除さ れた顎骨,歯周炎で大きく失われた歯槽骨などを再 生するには,従来行っていた培養法では不十分であ る。そこで,三次元的に厚みのある組織を構築する ための新しい培養環境が必要であり,様々な方法が 研究されてきた。それらの培養法は総称して三次元 培養と呼ばれている。また三次元培養を行うための 培養環境を持つ装置がバイオリアクターであり, 様々な種類のものが開発されている4−6) 。Spinner flask,Rotating vessels,Perfusion bioreactor など である。しかしながらこれらのバイオリアクターを 用いたものでも作製された培養物はサイズが小さく 大きな骨欠損の再生は困難であるのが現状である。 図1 生体の成り立ちと組織再生療法の原理 図2 組織再生に必要な3要素 歯科学報 Vol.112,No.6(2012) 719 ― 35 ―
今回,我々が使用したラジアルフロー型バイオリ アクターを図3に示す。このバイオリアクターは perfusion bioreactor の一つであり,培養液を放射 状に流すことにより厚みを持った大きなスキャフォ ルド内部にも均一に培養液を還流させ培養を行なう ことが可能で,広範囲組織欠損に対する三次元培養 を行う装置としてその優位性が報告されている7,8)。 バイオリアクター本体は培地調整槽と接続してお り,一定に調整された培養液がポンプによって還流 させられる。培地調整槽より流出した培養液はリア クターの外側より流入し内側より流出していく仕組 みになっている。培地調整槽には溶存酸素,pH, 温度のセンサーが取り付けられており,培養期間中 はコンピュータ制御されたコントローラにより自動 調整される。また,培養期間中は培地調整槽へ新鮮 培溶液が自動的に供給され,古い培養液は廃液ボト ルへ廃棄される仕組みになっている。 今回我々は骨の再生を目標として,直径18mm, 高さ10mm の大きな scaffold に骨芽細胞様細胞を均 一に増殖させることが可能であるかを検討した。以 下にその研究の概要を示す。 研究概要 気孔径70−110μm,気孔率80−95%,厚さ3mm のタイプ1コラーゲン sheet1枚に対してマウス骨 芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を播種した。厚みを持っ た sheet 内部にも細胞が浸透するように表裏に分け て播種を行った。まず表面から2.5×105 個の細胞を 播種し dish 上で3時間インキュベートした。裏面 からも同数の細胞を播種し3時間のインキュベート を行ったアクター外にて初期培養を行った。 初期培養を行った sheet は6枚重ねでリアクター 内に組み込み,リアクターが充分に scaffold で満た されるようにした。37℃,pH7.4,DO 値6.86ppm, 培養液灌流速度3ml/min,培養液交換量200ml/day の環境下で1週間培養を行ったものを動的培養群と した。培養液の灌流を行わず,培養液を毎日交換 し,1週間培養を行ったものを静的培養群とした。 バイオリアクターには組み込まずに sheet1枚を dish 上にて1週間培養したものを単層培養群とし た。 24時間ごとに採取した培養液からグルコース消費 量を測定し,経時的な細胞増殖の評価に用いた。培 養後,scaffold を半分に分け,一つは DNA 含有量 から細胞数を算出し,細胞増殖,細胞分布の評価に 用い,もう一方は組織学的解析に用いた。試料は HE 染色を行い,光学顕微鏡下で観察し,その後, 画像処理ソフトを用いて試料内の細胞核数を測定し 定量的に細胞分布の評価を行った。 DNA 含有量の測定では scaffold を上方から上段, 図3 ラジアルフロー型バイオリアクター 720 荒野:骨芽細胞様細胞の三次元培養 ― 36 ―
中段,下段と3部位にわけて測定を行った。 組織学的観察では scaffold を上方から上段,中 段,下段と分け,さらに水平的に内側,中央,外側 と分け,合計9部位に分けて観察を行った。 統計処理は二元配置分散分析を行った後 scheffe s test にて多重比較を行った。 動的培養群においてグルコース消費量は経時的に 増加していった。1日目で3.3mg/day で7日目に は4.4mg/day まで増加していた。静的培養群では 1日目から7日目まで0.5∼0.7mg/day までの間で 推移しており,実験期間中において顕著な増加は見 られなかった。単層培養群でも1日目から7日目ま で0.7∼1.3mg/day で推移しており,実験期間中に おいて顕著な増加は見られなかった。動的培養群は 静的培養群,単層培養群と比較してグルコース消費 量が実験期間中を通して有意に多かった。 図4に動的培養群と静的培養群の DNA 含有量か ら算出した細胞数を示す。動的培養群において細胞 数は播種時と比較して5倍程度まで増加していた。 静的培養群では,播種時と比較して細胞数の増加は 図4 動的培養と静的培養の DNA 含有量から算出した細 胞数 図5 動的培養と単層培養の DNA 含有量から算出した細 胞数 図6 動的培養 HE 染色 歯科学報 Vol.112,No.6(2012) 721 ― 37 ―
見られなかった。図5に動的培養群と単層培養群の DNA 含有量から算出した細胞数を示す。単層培養 群では細胞数の増加は見られたものの動的培養群と 比較すると四分の一程度の細胞数であった。動的培 養群は静的培養群,単層培養群と比較して有意に細 胞数が多かった。 培養後の試料の組織学的観察において,動的培養 群ではすべての部位に細胞が全ての部位に均一かつ 多くの細胞が分布している像が観察された(図6)。 静的培養群では均一には分布しているものの,動的 培養群と比較すると細胞は少なかった(図7)。単層 培養群でも均一に分布しているが細胞数としては少 ない像が観察された(図8)。 画像処理ソフトを用いた細胞核数の定量化を行っ た結果においても全ての実験群で均一には分布して いるものの動的培養群は,静的培養群,単層培養群 と比較して有意に多くの細胞核数であった。 今回の結果ではすべての実験群において細胞は均 一に分布していた。このことから細胞の播種におい てはコラーゲン sheet の中に播種ができていたとい うことが示唆されている。しかしながら細胞数にお いては動的培養群と静的培養群,単層培養群との間 に有意な差がみられた。この結果の違いには以下の 二つの理由が挙げられる。一つは動的培養群におい て培養液が灌流することにより酸素や栄養素の運搬 が効率よく行われたということ9) ,もう一つは培養 液の灌流による機械的刺激が骨芽細胞に加わり,そ の増殖能を高めたということが考えられる10,11) 。 図7 静的培養 HE 染色 図8 単層培養 HE 染色 722 荒野:骨芽細胞様細胞の三次元培養 ― 38 ―
以上より,ラジアルフロー型バイオリアクターを 用いた培養は骨芽細胞様細胞の三次元培養に有効な 方法であることがわかった。 今後の展望 近年,組織再生に関する研究は世界中で盛んに行 われている。その研究状況を図9に示す。様々な組 織に対しての研究がおこなわれており培養皮膚など は製品化されている。歯科領域においても培養骨や 歯周組織などは臨床研究に入っている。しかしなが ら,本研究のようなバイオリアクターを用いて大き なサイズの骨を再生して移植を行ったといった報告 はまだ見られない。現在,我々のグループではより 汎用性の高いと言われている間葉系幹細胞を用いて 三次元培養を行っており成果を上げている12) 。今後 はより良い培養条件の検索,培養組織の動物への移 植実験など,臨床応用に向けて研究を進めていきた い。 文 献
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Osteoblastic Cell Proliferation with Uniform Distribution in a Large Scaffold Using Radial-Flow Bioreactor, Arano T, Sato T, Matsuzaka K, Ikada Y, Yoshinari M., Tissue Engineering Part C : Methods, Volume16, Number6, 1387∼1398,2010. 別刷請求先:〒261‐8502 千葉市美浜区真砂1−2−2 東京歯科大学クラウンブリッジ補綴学講座 荒野太一 図9 組織再生に関する研究状況 歯科学報 Vol.112,No.6(2012) 723 ― 39 ―