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博士(農学)石崎琢磨 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)石崎琢磨 学位論文題名

ホウレンソウ根の組織培養における不定胚形成機構の      解 明 と そ の 園 芸 学 的 利 用 に 関 す る 研 究

学位論文内容の要旨

   植物組織培養は、バイオテクノロジーの基盤的技術であり、クローン植物の大量 増殖、系統保存、有用物質生産ならぴに育種技術に応用されており、また、植物生 理学、植物病理学および発生・分化など、多くの基礎研究分野にも広く利用されて いる。本研究は、ホウレンソウ根組織片からの不定胚形成機構の解明に主眼を置き、

更 に 、 そ の 不 定 胚 培 養 系 の 農 業 的 利 用 の 可 能 性 を 検 討 し た も の で あ る 。

1 .高頻度に不定胚を誘導する条件の解明

   ホウレンソウの組織培養を、不定胚形成の機構解明のための実験系や農業技術と して利用するためには、効率的な不定胚誘導系を確立することが重要である。そこ で、最初に培養条件の検討を行った。

   ホウレンソウの不定胚は、根組織片を10 pcM ナフタレン酢酸(NAA) および0.1 yM ジベレリン酸(GA3) を含む寒天培地上で培養し、形成されたカルスを生長調節物質 を含まない寒天培地上に移植することにより高率に誘導できた。GA3 を合まない培 地上で形成されたカルスからは不定胚が分化し毅かった。すなわち、NAA とGA3 と を含む培地上で形成されたカルスはエンブリオジェニックであり、GA3 を含まない 培地上で形成されたカルスはノンエンブリオジェニックであった。これら2 種類の カルスを組織学的に観察したところ、エンブリオジェニヅクカルスの表面にのみ球 状の構造物が認められた。

   ホウレンソウの根組織片からの不定胚形成におけるエチレンの役割を、エチレン 発生剤 [2‑ クロロエチルホスホン酸(ethephon) ]およぴエチレン阻害剤[硝酸銀 (AgN03) お よぴ アミ ノエト キシ ピニ ルグ リシン (AVG) ] を用 いて 調べ ること に より、エチレンは根組織片からのエンブリオジェニヅクカルス形成には必須である が、エンブリオジェニックカルスからの不定胚の生長には阻害的に作用することを 明らかにした。

   ホウレンソウの不定胚の形成頻度は、同一品種内においても個体間で大きな差異

が認められた。不定胚形成能の高い系統を選抜および維持する培養法はこれまで確

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立 され て い ない 。 本研究にお いて、生 長調節物 質を含ま 毅い寒天 培地上で 根を長期 に わた り 継 代維 持 できること を見出し た。この 方法は不 定胚形成 能の高い ホウレン ソ ウ 系 統 を 選 抜 ・ 維 持 す る の に 利 用 で き る こ と を 明 ら か に し た 。

2. エ ン ブ リ オ ジ ェ ニ ッ ク な カ ル ス に 特 異 的 に 蓄 積 す る タ ン パ ク 質 の 解 析   植 物 の 不定 胚 形成 に つ いて は ニン ジンを 材料とし た長年に わたる多 くの研究蓄 積 が ある が 、未 だ に 不明 な 部 分が 多 い。前 述のよう に、ホウ レンソウ の根組織片 の培 養 にお い ては 、GA3添加 の 有 無に よ ルエ ン ブ リオ ジ ェニ ッ ク カル スと ノンエンプ リ オ ジェ ニ ック カ ル スと を 明 確に 区 別し て 誘 導す る こと が 可 能で あ るので、こ れら2 種 類の カ ルス の タ ンバ ク 質 組成 を 比較す ることに より、ホ ウレンソ ウカルスの 不定 胚形成 能の発現 と連動し て蓄積する タンバク 質を検索 した。

  そ れ そ れの カ ルス か ら 抽出 し たタ ンバク 質を二次 元ポリア クリルア ミドゲル電 気 泳 動 に よ り 分 離 した と ころ 、 分 子量31‑kDa、 等 電 点8.8の タ ンパ ク 質(BP31)が エ ン プリ オ ジェ ニ ッ クカ ル ス に特 異 的に蓄 積してい ることが 分かった 。BP31は芽生え の 根、 胚 軸、 子 葉 およ び 本 葉、 お よぴそ の後形成 された不 定胚その ものには殆 ど認 め られ な かっ た こ とか ら 、 カル ス の不定 胚分化能 と連動し て蓄積す るものと判 断さ れ た 。 こ のBP31夕 ン パク 質 のN末端 ア ミ ノ酸 配 列を 調 べ たと こ ろ、 夕 イ プIリポ ゾ ー ム 不 活 化 夕 ン バク 質(typeIRIP)と の 相同 性 が認 め ら れた 。BP31は、 分 子 量お よ ぴ 等 電 点 に お い てもtypeIRIPに 類似 し て いた 。BP31の糖 化 を レク チ ン染 色 に より 調べた ところ、〃‐結合型糖鎖など、複雑な糖鎖を有する可能性が示された。また、N‑

結 合型 糖 鎖が タ ン バク 質 に 結合 す るのを 阻害する ツニカマ イシンは 、カルスの 生長 を 阻 害 す る こ と なく 不 定胚 形 成 能を 減 少さ せ る 効果 を 持 つこ と を明 ら か にし た 。

3.ホウレンソウ不定胚培養系の農業的利用の可能性の検討

  ホ ウ レ ンソ ウ は雌 雄 異 株植 物 であ り、ホ ウレンソ ウの育種 およぴ採 種栽培にお い て は雌 雄 性の 維 持 が重 要 で ある 。 そこで 、本研究 で確立し た不定胚 培養系を用 いて 各 性の 個 体を そ れ それ 別 個 に維 持 ・増殖 させる技 術につい て検討し た。雄性株 から の再生 植物は、 ほぼ雄性 株となった が、約70/0の 割合で間 性株が出現した。また、間 性 株か ら の再 生 植 物は 、 雌 性、 雄 性およ ぴ間性の いずれの 性も示し た。一方、 雌性 株 から の 再生 植 物 はす べ て 雌性 と なった ことから 、雌性に 関しては 親株の性表 現を 維持・継代できることが明らかとなった。

  また、ホウレンソウの根の再分化能が高いことに着目して、Agrobacterium thizogenes に よる 毛 状根 の 誘 導と 、 毛 状根 か らの不 定胚誘導 による形 質転換体 の作出につ いて 検討し た。ホウ レンソウ の芽生え子 葉組織片 に野生株 であるA. thizogenes A13を接 種した ところ、 不定根の 発生が観察された。Polymerase chain reaction (PCR)により こ の不 定 根が 形 質 転換 し た 毛状 根 である ことを確 認した。 毛状根組 織片から不 定胚 を 誘導 す る培 養 条 件を 検 討 した と ころ、 非形質転 換体の場 合とは異 なり、エン プリ オ ジェ ニ ック カ ル スの 形 成 にGA3の 外与 が 必 要と さ れな い こ とが 明ら かとなった 。

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また、この毛状根からの再生個体は旺盛な発根および難抽だい性を示すなど、明ら かに外観的な新形質が付与されていた。

   以上のように本論文は、ホウレンソウの根の不定胚培養系を開発し、その不定胚

形成機構の解析を進め、新しい農業技術としての可能性を明らかにした。この基礎

的 知 見 が 出 発 点 と な っ て 、 ホ ウ レ ン ソ ウ の 改 良が 進 むこ と が期 待 され る 。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

大 澤 勝 次 三 上 哲 夫 幸 田 泰 則 増 田    清

学 位 論 文 題 名

ホウレンソウ根の組織培 養における不定胚形成機構の 解明とその園芸学的利用に関する研 究

  本 論 文 は7章 か ら な り 、 図47, 表22, 弓I用 文 献168を 含 む 、 総 頁 数158の 和 文 論 文 で あ り 、 他 に 参 考 論 文4編 が 付 さ れ て い る 。

  植 物 組 織 培 養 は 、 バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー の 基 盤 的 技 術 で あ り 、 ま た 、 多 く の 基 礎 研 究 分 野 に も 広 く 利 用 さ れ て い る 。 本 研 究 は 、 ホ ウ レ ン ソ ウ の 根 組 織 片 か ら の 不 定 胚 形 成 機 構 の 解 明 に 主 眼 を 置 き 、 更 に 、 そ の 不 定 胚 培 養 系 の 園 芸 学 的 利 用 の 可 能 性 を 検 討 し た も の で あ る 。 得 ら れ た 結 果 の 概 要 は 以 下 の と お り で あ る 。

1. 高 頻 度 に 不 定 胚 を 誘 導 す る 条 件 の 解 明

  ホ ウ レ ン ソ ウ の 不 定 胚 は 、 根 組 織 片 を10 lxMナ フ タ レ ン 酢 酸(NAA)お よ ぴ0.1 V.M ジ ベ レ リ ン 酸 (GA3) を 含 む 寒 天 培 地 上 で 培 養 し 、 形 成 さ れ た カ ル ス を 生 長 調 節 物 質 を 含 ま 顔 い 寒 天 培 地 上 に 移 植 す る こ と に よ り 高 率 に 誘 導 で き た 。GA3を 含 ま な い 培 地 上 で 形 成 さ れ た カ ル ス か ら は 不 定 胚 が 分 化 し な か っ た 。 す な わ ち 、NAAとGA3 と を 含 む 培 地 上 で 形 成 さ れ た カ ル ス は ェ ン プ リ オ ジ ェ ニ ッ ク で あ り 、GA3を 合 ま な い 培 地 上 で 形 成 さ れ た カ ル ス は ノ ン エ ン ブ リ オ ジ ェ ニ ッ ク で あ っ た 。     ホ ウ レ ン ソ ウ の 根 組 織 片 か ら の 不 定 胚 形 成 に お け る エ チ レ ン の 役 割 を 、 エ チ レ ン 発 生 剤[2‑ク 口 口 エ チ ル ホ ス ホ ン 酸(ethephon) ] お よ ぴ エ チ レ ン 阻 害 剤 [ 硝 酸 銀(AgNOユ ) お よ び ア ミ ノ エ ト キ シ ピ ニ ル グ リ シ ン(AVG)] を 用 い て 調 ぺ る こ と に よ り 、 エ チ レ ン は 根 組 織 片 か ら の エ ン ブ リ オ ジ ェ ニ ッ ク カ ル ス 形 成 に は 必 須 で あ る が 、 エ ン ブ リ オ ジ ェ ニ ッ ク カ ル ス か ら の 不 定 胚 の 生 長 に は 阻 害 的 に 作 用 す る こ と を 明 ら か に し た 。

  不 定 胚 形 成 能 の 高 い 系 統 を 選 抜 お よ び 維 持 す る 培 養 法 は こ れ ま で 確 立 さ れ て い な か っ た が 、 本 研 究 に お い て 、 生 長 調 節 物 質 を 含 ま な い 寒 天 培 地 上 で 根 を 長 期 に わ た

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り継代維持できることを見出し、この方法を用いることで不定胚形成能の高いホウ レンソウ系統を選抜・維持できることを明らかにした。

2. エ ン プ リ オ ジ ェ ニ ッ ク な カ ル ス に 特 異 的 に 蓄 積 す る タ ン バ ク質 の 解析   ホウレンソウのエンブリオジェニックカルスおよぴノンエンブリオジェニックカ ルスのタンバク質組成を比較することにより、ホウレンソウカルスの不定胚形成能 の発現と連動して蓄積するタンバク質を検索した。

  それそれのカルスから抽出したタンバク質を二次元ポリアクリルアミドゲル電気 泳動により分離したところ、分子量31‑ kDa、等電点8.8のタンパク質(BP31)が エンプリオジェニックカルスに特異的に蓄積していることが分かった。BP31倣芽生 えの根、胚軸、子葉およぴ本葉、およぴその後形成された不定胚そのものには殆ど 認められなかったことから、カルスの不定胚分化能と連動して蓄積するものと判断 さ れた。このBP31夕ンパク質 のN末端 アミノ酸配 列を調ぺたところ、夕イプIリ ポ ゾーム不活 化夕ンバク質(typeIRIP)との相同性が認められた。BP31は、分子 量 およぴ等電 点において もtypeIRIPに類似して いた。BP31の糖化をレクチン染 色 に よ り 調 べ た と こ ろ 、 . 複 雑 な 糖 鎖 を 有 す る 可 能 性 が 示 さ れ た 。

3. ホ ウ レ ン ソ ウ 不 定 胚 培 養 系 の 園 芸 学 的 利 用 の 可 能 性 の 検 討   本研究で確立した不定胚培養系を用いて、雌雄異株植物であるホウレンソウの各 性の個体をそれそれ別個に維持・増殖させる技術について検討した。雄性株からの 再生植物は、ほぼ雄性株と毅ったが、約7%の割合で間性株が出現した。また、間性 株からの再生植物は、雌性、雄性および間性のいずれの性も示した。一方、雌性株 からの再生植物はすべて雌性となり、園芸学的に重要な雌性に関しては、親株の性 表現を維持・継代できることが明らかとなった。

  また、土壌微生物Agrobacterium thizogeneぷによる毛状根の誘導と、毛状根か らの不定胚誘導による形質転換体の作出について検討した。ホウレンソウの芽生え 子葉組織片に野生株であるA. thizogenes A13を接種したところ、毛状根が発生し た。毛状根組織片から不定胚を誘導する培養条件を検討したところ、非形質転換体 の場合とは異なり、エンプリオジェニックカルスの形成にGA3の外与が必要とされ ないことが明らかとなった。また、この毛状根からの再生個体は、旺盛な発根を示 すとともに、抽だいしにくい性質を示し、明らかに外観的な新形質が付与されてい た。

  以上のように本論文は、ホウレンソウの根の不定胚培養系を開発し、その不定胚 形成機構の解析を進め、新しい農業技術としての可能性を明らかにしたものであり、

学術上、応用上高く評価される。よって審査員一同は石崎琢磨が博士(農学)の学 位を受けるに十分毅資格を有すると認めた。

参照

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