論文内容要旨
4-Methylthio-3-butenyl isothiocyanate mediates nuclear factor (erythroid-derived 2)-like 2 activation by regulating reactive oxygen species production in human esophageal epithelial cells.
ヒ ト 食 道 上 皮 細 胞 に お け る
4-Methylthio-3-butenyl isothiocyanate(MTBITC)による活性酸素種の制御を介した Nrf2
の活性 化薬学研究科 毒物学専攻 平田 直
食道がんはがんの発生率としては 8 番目に多く、致死率が 6 番目に高い、
非常に致死性が高いがんの 1 つである。食道がんは扁平上皮がんと腺がん に大別され、扁平上皮がんは特に、日本を含む東アジアでの発症率が高い ことが報告されている。一方で、日本におけるコホート研究ではイソチオ シアネートが多く含まれるアブラナ科の野菜を摂取すると食道がんのリ ス ク が 下 が る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 大 根 の 辛 み 成 分 で あ る 4-methylthio-3-butenyl isothiocyanate (MTBITC)は,抗変異原活性を有 しておりヒトにおいて抗発がん効果が期待されている。先行研究において、
ラット化学物質誘発食道がんに対して MTBITC は腫瘍抑制作用を示すこと が報告されている。しかしながら、その抑制機構は未だに明らかになって いない。本研究では MTBITC の抗発がん作用機構を明らかにするため,ヒ ト不死化食道上皮細胞である Het-1A 細胞を正常様食道上皮細胞として用 い,MTBITC の作用機序の検討を行うこととした。
スルフォラファンに代表される他のイソチオシアネート類は細胞恒常 性維持に関与する転写因子 Nrf2 を活性化することにより、第Ⅱ相代謝酵 素並び抗酸化酵素を誘導することにより発がん性物質の解毒代謝を促進 することが報告されている。MTBITC も他のイソチオシアネート類と同様 にこれらの作用を有するか検討を行った。Het-1A 細胞に MTBITC を処理し た結果, Nrf2 タンパクの増加及び核内移行が確認され、Nrf2 の活性化が 示唆された。また qPCR を用いて Nrf2 の代表的な下流遺伝子である HMOX1,
NQO1,GCLC の遺伝子発現を確認した結果、Nrf2 の活性化に伴い,これら の遺伝子発現の有意な増加が確認された。また MTBITC による Nrf2 の活性 化機序を検討するため、細胞内活性酸素種(ROS)の関与を検討した.MTBITC によって細胞内 ROS の有意な増加が確認され、抗酸化剤である N-アセチ
ルシステイン(NAC)を Het-1A 細胞に MTBITC と併用処理すると MTBITC によ って増加した細胞内 ROS 量が抑制された。また NAC と MTBITC を併用処理 した際の Nrf2 及び HMOX1 タンパク量を測定した結果、MTBITC 単独処理で 認められた各タンパク量の増加は抑制され、HMOX1 の遺伝子発現において も同様の結果が認められた。これらの結果より、MTBITC により誘導され た Nrf2 の活性化は細胞内 ROS の増加を介していることが示唆された。ま た細胞内 ROS の増加機構を検討するため、MTBITC を処理した際の総 GSH 量の経時変化を確認した。その結果、MTBITC 処理 1 時間後に酸化型並び に還元型を含む総 GSH 量を経時的(1, 3, 6, 12, 24 時間)に測定した結果、
1 時間で総 GSH 量がコントロールと比較して有意に減少することが認めら れ、この結果より MTBITC が総 GSH を減少させることにより細胞内 ROS が 増加することが示唆された。
以上より、MTBITC は Het-1A 細胞において総 GSH を減少させることによ り細胞内 ROS を上昇させ、Nrf2 活性化を惹起し、抗酸化及び第Ⅱ相酵素 を誘導することが明らかになった。これらの結果より正常食道上皮細胞に おいて MTBITC は Nrf2 活性化を惹起し、第Ⅱ相代謝酵素・抗酸化酵素を誘 導することにより、発がん性物質を代謝促進し、変異原性を抑制する可能 性が示唆された。