• 検索結果がありません。

乳腺の細胞診と組織診

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "乳腺の細胞診と組織診"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

特  集 病理診断における細胞診と組織診の使い分け

乳腺の細胞診と組織診

昭和大学江東豊洲病院臨床病理診断科

  広田 由子

は じ め に

 乳腺疾患領域では,形態学的な検査・診断方法と して細胞診と組織診がある.それぞれの診断方法の 特性を理解するため,検体採取の歴史や各検査方 法,その使い分けや当院の現状について解説する.

検体採取の歴史

 細胞診断学の歴史は古く,20 世紀初頭パパニコ ロウによる膣スメアでの悪性細胞の報告を契機に広 がりをみせた.以降長期にわたり細胞診が生検手技 として用いられ,乳腺疾患領域では細胞診で確定診 断に至らない場合は摘出生検による診断確定がなさ れてきた.1990 年代に入り米国でスプリング式の コア針生検が開発されたことにより,低侵襲かつ組 織学的情報が得られる手段として日本でも針生検が 広く普及することとなった.1995 年 4 月,米国の 食 品 医 薬 品 局(Food and Drug Administration: 

FDA)が画像ガイド下吸引式針生検装置を承認し,

日本では 2004 年 4 月に保険適用となり,より多く の組織が採取できる方法として吸引生検が認識され るようになり現在に至る.

 症例の蓄積とともに各検査方法のメリット・デメ リットが明らかになってきており,生体への侵襲を 考慮しながら診断に最適な検体採取方法を選択する ことが重要である1)

各検査方法について(図1)  <穿刺吸引細胞診2‑4)

 乳腺領域における細胞診には,穿刺吸引細胞診,

捺印細胞診,乳頭異常分泌物の剥離細胞診があり,

ここでは病変部に針を刺して診断を行う穿刺吸引細 胞診について解説する.

 乳腺疾患ガイドライン5)において,穿刺吸引細胞

診は針生検同様,推奨グレード B(科学的根拠があ り,実践するよう推奨する)である.診断は,背 景,細胞異型,構造異型,二相性の有無をみながら 総合的に判定される.穿刺吸引細胞診におけるわが 国の診断精度は諸外国と比較しても高いが,一方で 検体採取者の技量や細胞診断医の経験・能力に左右 されるといわれている.細胞診の検体処理法には① 吹き出し法,②剥がし法,③すり合わせ法,④圧挫 法の 4 種類があり,処理法によって細胞所見が異な るため,それぞれの処理法の特徴を熟知する必要が あることも知っておかなければならない.6)日本 臨床細胞学会ワーキンググループによる登録 12 施 設,検討症例数 30,535 例を用いた検討では感度 96.7%,特異度 84.3%と報告されており,ワーキン ググループの集計結果および目標値,英国 NHS- BSP(国民健康保険乳癌スクリーニングプログラム)

に記載されている目標値との比較を表に示す(表 1).登録施設が乳腺専門施設あるいは乳腺疾患を多 く取り扱っている大学病院が主体であったことか ら,日常診療で細胞診を行っている施設全体では感 度・特異度ともにワーキンググループの結果よりも 低めである可能性は否定できない.ただ,そうで あったとしても,細胞診の持つ「安価で簡便」「結 果がすぐに分かる」という長所に目を向け,偽陰 性・偽陽性になりやすい病変の存在を念頭におきな がら,画像診断から推定される病変の種類によって は細胞診による速やかな推定診断とその後の方針決 定には十分役に立つと思われる.

 検査結果報告に関し,乳癌取扱い規約第 17 版7)

では,まず検体を適正・不適正に大別し,適正とさ れた検体はさらに「正常あるいは良性」,「鑑別困 難」,「悪性の疑い」,「悪性」に細分類し,判定根拠 となる所見および規約組織分類に沿った推定組織型 を可能な限り記載することを求めているが,臨床所

(2)

見との整合性や穿刺時の感触等臨床医が伝えるべき 事柄をふまえたうえでの判断は欠かせない.

 <針生検(穿刺式・吸引式)>

 病変部に針を刺し,刺入部位の組織を採取する穿 刺式針生検と組織を吸引しながら採取する吸引式針 生検とがある.検体採取量の違いを図 1 に示す.

 穿刺式針生検は細胞診に次いで簡便であり,組織 診断ができるということが最大のメリットであり,実 際これにより大半の病変は診断可能である.しかし,

スプリング式に穿刺針が飛び出すという構造上,刺 入方向のちょっとしたずれにより,特に微小病変や病 変部がまばらに分布する症例では病変部の採取が難 しい,硬い病変では穿刺時に病変をはじいてしまう,

癌の場合は針刺入路への播種といった問題もある.

 吸引式針生検は穿刺式針生検の問題点を補うだけ でなく,一度の穿刺で大量に組織を採取できるとい う長所がある一方,装置のセッティングに時間がか かる,費用が高い,針が太いため乳房の厚みや病変 部の位置によっては刺入しにくいといった短所があ る.適応は,①細胞診や穿刺式針生検では 〇確定 診断が得られなかった,○細胞・組織所見と画像所 見が一致しなかった,○検体採取困難が予想される,

②比較的多めの組織採取が必要(術前薬物療法前等 における免疫染色評価や遺伝子発現解析・その他臨 床試験への使用といったことが予想される場合),③ 葉状腫瘍や血管腫以外の良性腫瘍摘出 である.

 <臨床現場での使い分けについて8)

 穿刺吸引細胞診では,簡便さや結果報告までの迅

表1 ワーキンググループの集計結果および目標値との比較(文献6を改変)

最小値 最大値 平均値 目標値 細胞診総件数 808 5,693 2,545

組織診実施件数 251 2,092 906

検体不適正率(%) 4.2 35.5 17.7 ≦ 10%,25%

鑑別困難率(%) 4.1 10.8 7.8 ≦ 10%

全体的感度(%) 93.3 99.5 96.7 80%

特異度(%) 76.0 92.6 84.3 60%

正常・良性適中度(%) 96.5 99.8 98.2   悪性適中度(%) 98.8 100 99.6 95%

誤陰性率(%) 0.35 6.73 3.31 5%

誤陽性率(%) 0 0.61 0.21 1%

*細胞診総件数:30,535 件,検討できた組織診件数:10,890 件

*目標値について;細字は日本,太字は英国が定めた目標値である.

図 1 各検査方法について(乳癌学会 HP より)

針の太さは細胞診(直径 1 mm 弱)<針生検(直径約 2 mm)<吸引生検(直径約 4 mm)となり,針の太さ が太くなるほど検体採取量も多くなるが,一方で出血 や血腫形成といった合併症発生のリスクも高くなる.

(3)

速さもさることながら,ピンポイントでターゲット を狙え,穿刺時の刺入のしやすさ・しにくさ,吸引 された検体の性状により手技に習熟した医師であれ ば得られる情報は多い.しかし,鑑別困難病変の存 在を念頭におかないと思わぬ誤診を招く危険があ る.特に,乳頭状病変を含む細胞増殖が目立つ病変 については,細胞性状が悪性に類似することがあり 注意が必要である.

 穿刺式針生検,吸引式針生検についてはそれぞれ の検査手技の特徴やターゲットとする病変の性状,

その後の方針をふまえ選択する必要がある9).  また,図 2 に示すように標本完成までの手順・時 間が検査ごとに異なることから,臨床の現場ではこ のような時間的要素も考慮される可能性があると思 われる10)

表 2 昭和大学病院当院における細胞診・針生検件数の推移

乳腺細胞診は 200 〜 300 件で推移しているが,針生検・腋窩リンパ節細胞診はブレストセンター開設(2010 年)

とともに増加傾向を示し,2016 年の生検件数は 800 件をこえた.

図 2 標本完成までの作業工程(文献 10 図 1,図 7 を一部改変)

* 組織はホルマリン固定の状況により所要時間に差がでる.(例えば提出された検体が太いほど,

ホルマリンが検体内に十分浸透するのにはより多くの時間が必要となる)

* 標本作製が自施設内か外注かによってもかかる時間は異なる.

2〜4

(4)

昭和大学病院当院における細胞診・生検の現状  ここ 10 年間における細胞診・生検件数の推移を 表 2 に示す.乳腺細胞診件数は 200 〜 300 件で推移 しているが,2010 年にブレストセンターが開設さ れて以降,生検件数・腋窩リンパ節細胞診件数は増 加傾向である.

症 例 提 示

 症例 1(細胞診と組織診)(図 3a,b)

 40 代,女性,ミギ乳房腫瘤

 細胞診を施行し「悪性の疑い」,針生検では「良 性」との診断だったが,臨床所見からは悪性が否定 できず再生検したところ「悪性」という診断となり 手術を施行した.

 ⇒腫瘤が硬く穿刺しづらい症例等において,スプ リング式の針生検では,本症例のように初回の針生 検では腫瘤部にうまく穿刺できず結果として「良 性」という診断になってしまう場合がある.大切な

のは,臨床所見に合致するような所見が得られてい るかどうか,もし得られていない場合は再検も考慮 する.

 症例 2(細胞診と穿刺式針生検)(図 4a,b)

 30 代,女性,ミギ乳房腫瘤+血性乳頭分泌  血性乳頭分泌を伴う乳腺腫瘤に対し細胞診を施行 したところ「正常あるいは良性」の診断,ただし,

乳頭状に増生する上皮性病変がみられ papilloma か 乳頭状に増生する DCIS〔ductal carcinoma in situ

(非浸潤性乳管癌)〕かの鑑別が必要だった.針生検 を施行したところ,neuroendocrine type の DCIS だった.

 ⇒ neuroendocrine type の DCIS ではしばしば血 性乳頭分泌を伴うが,細胞異型に乏しく細胞診では 上皮の増生があっても「正常あるいは良性」と診断 されることもある.画像所見において拡張乳管内に 腫瘤像をうかがわせるような所見がある場合は,生 検での診断を考慮する.

図 3a 症例 1 細胞診所見;「悪性の疑い」

血性背景に,乳頭状の増生を示す大小の重積性集塊を認める.細胞異型は中 等度で,浸潤性乳管癌が疑われた.(鑑別は papilloma)

図 3b 症例 1 組織所見;「adequate, benign」

既存の乳管・小葉構造が散見される.標本上では細胞診所見に相当するよう な所見はみられず,腫瘍性病変を示唆する所見もはっきりしなかった.

(5)

お わ り に

 乳腺組織は多彩な像を呈し,閉経状況や妊娠授乳 期かどうかといったホルモン環境にも左右され,病 変如何にかかわらず経時的な変化がみられる.乳腺 病変においては時に良悪の鑑別が困難な場合があ り,なぜ鑑別が困難なのか,病理医はどこで判断を 迷っているのかを臨床に伝え,十分なやりとりを行 い,的確な診断へとつなげたい.

文  献

1) 日本乳癌学会.科学的根拠に基づく乳癌診療ガ イドライン.東京: 金原出版; 2015.

2) 日本乳癌学会.臨床・病理乳癌取扱い規約.第 17 版.東京: 金原出版; 2012.

3) 土屋眞一,秋山 太,森谷卓也.乳腺針生検病 理診断アトラス:100 例の鑑別診断 その考え 方・進め方.東京: 文光堂; 2009.

4) 角田博子,中村清吾 , 矢形 寛 . 実践マンモトー

ム生検:基本テクニックからトラブルシュー ティングまで.東京: 中山書店; 2008.

5) 坂本穆彦.細胞診を学ぶ人のために.第 5 版.

東京: 医学書院; 2011.

6) 山口 倫,土屋眞一,越川 卓,ほか.乳腺穿 刺吸引細胞診の診断精度. . 2014; 

42:1150‑1153.

7) 山口 倫.乳腺細胞診の現状とさらなる精度向 上のために.乳癌の臨.2011;26:43‑48.

8) 位藤俊一,水野 均,飯干泰彦,ほか.イン ターベンションを極める 乳腺 FNAC,CNB,

VAB の特徴と手技を中心に. 2011;26:56‑58.

9) 前田昭太郎,柳田裕美,片山博徳,ほか.乳腺 細胞診の検体処理法(吹き出し法,剥がし法,

すり合わせ法,圧挫法,オートスメア法)の検 討.臨検.2007;51:61‑69.

10) 九島巳樹.Ⅱ.病理標本の取扱い方.腫瘍病理 鑑別診断アトラス 子宮体癌 森谷卓也,柳井 広之,編.東京: 文光堂; 2014: pp 9‑14.

図 4a 症例 2 細胞診所見;「正常あるいは良性」

上皮が不規則に重積し,乳頭状に増生する所見を認める.細胞異型は軽微で,

クロマチンや核小体はさほど目立たない.良性の増殖性病変が考えられた.

図 4b 症例 2 組織所見;「adequate, malignant noninvasive ductal carcinoma (NIDC)」

やや核の偏在傾向を有する腫瘍細胞が,乳管内で充実性に増殖する所見を認 める.免疫染色では synaptophysin(SY)陽性で,神経内分泌系への分化傾 向が示されている.

参照

関連したドキュメント

の多くの場合に腺腫を認め組織学的にはエオヂ ン嗜好性細胞よりなることが多い.叉性機能減

 12.自覚症状は受診者の訴えとして非常に大切であ

 高齢者の性腺機能低下は,その症状が特異的で

わからない その他 がん検診を受けても見落としがあると思っているから がん検診そのものを知らないから

TBNA Transbronchial needle aspiration (biopsy) : 経気管支針吸引細胞診(生検). TBNB Transbronchial needle biopsy : 経気管支針生検 2)

図 3.1 に RX63N に搭載されている RSPI と簡易 SPI の仕様差から、推奨する SPI

●健診日や健診内容の変更は、直 接ご予約された健診機関とご調 整ください。 (協会けんぽへの連

Medicine (Baltimore).. A model to predict survival in patients with end-stage liver disease. Urinary neutrophil gelatinase-associated lipocalin as a marker of acute