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昭和学士会誌 第77巻 第3
号〔282‑283
頁,2017〕特 集 最近の耳鼻咽喉科治療
口蓋裂児における中耳炎の管理・治療
昭和大学横浜市北部病院耳鼻咽喉科
兼井 彩子
口蓋裂と滲出性中耳炎
口蓋裂症例は高率に滲出性中耳炎(Otitis Media with Effusion:以下 OME)を合併し,難治例が多 い1).耳管の機能が悪く,滲出性中耳炎に高率に罹 患する.耳管の開大に大きく関わるのが,口蓋帆張 筋,口蓋帆挙筋である2).口蓋帆張筋は耳管軟骨外 側板に付着し,収縮すると外側板が外側に移動する ことで,耳管を開大させる.口蓋帆挙筋は耳管の下 縁に沿って走行し,収縮すると耳管軟骨内側板を上 内方に回転させることで耳管を開口させる3,4).口 蓋裂症例は口蓋帆張筋,口蓋帆挙筋の低形成や付着 異常,耳管軟骨の脆弱性による耳管の閉鎖不全が多 い.また口蓋裂があることにより耳管咽頭孔周囲の 汚染5)などが原因で難治性滲出性中耳炎が生じると 報告されている.滲出性中耳炎の診断,治療につい て 2015 年小児滲出性中耳炎診療ガイドラインが発 刊された.小児滲出性中炎の治療には内服加療,自 己通気,鼓膜チューブ留置等が一般的であるが,口 蓋裂症例では鼓膜換気チューブ留置術が第一選択と なる6).口蓋裂は先天的な形態異常により中耳炎以 外に嚥下,咀嚼,構音,歯列の障害などを生じる疾 患である.治療には多職種が関わって行われる必要 がある.
当院での取り組み
1980 年に発足した「昭和大学唇裂口蓋裂診療班
(Showa University Cleft Lip/Palate Team=SCPT)」
は,形成外科と耳鼻咽喉科,小児科,麻酔科,言語 聴覚士,総合相談センター,歯科(小児歯科,矯正 歯科,補綴科,口腔外科,口腔衛生科,口腔リハビ リテーション科など)で構成されている. 口唇口 蓋裂 は,手術治療だけでなく,多方面からの総合 的な治療を要する疾患であり医学部・歯学部を同じ
大学内に擁する昭和大学ならではの密接した総合的 チーム医療である.
鼓膜換気チューブ留置術の適応について チューブ留置術の適応は前述の滲出性中耳炎ガイ ドラインによると発症から 3 か月以上遷延する両側 の 症 例 で, 中 等 度 以 上 の 聴 力 障 害 が あ る 場 合,
チューブ留置術が推奨されている.また鼓膜の病的 変化が出現した場合もチューブ留置術が推奨されて いる.当院における口蓋裂例の OME 罹患による チューブ留置術の割合は 45.1%であり,口蓋裂の無 い症例に比べ高率に罹患する.口蓋裂児においては 中耳炎の合併は必発であり,口蓋形成時には全例に 鼓膜チューブ留置を行う方針とする報告も過去には 認められる7,8).当院では拡大気密耳鏡,顕微鏡,
内視鏡を用い鼓膜の観察を行い,3 か月以上持続す る貯留液の存在を認め,かつ鼓膜の可動性不良,病 的変化がある場合にチューブ留置術を考慮してい る.その他,聴力検査で 30 dB 以上の難聴がある症 例,言語発達の遅れの場合が認められる場合も適応 としている1).難聴による言語発達の遅れを防ぐ 為,患者さんの身体的,経済的な負担なども考慮 し,1 歳前後の口蓋形成術時に留置している.
鼓膜換気チューブの留置期間
チューブ留置の合併症としては,鼓膜換気チュー ブ抜去後の鼓膜穿孔がある.穿孔残存率を 留置期 間別に示すと,37 か月〜 49 か月では 9.1%,49 か 月以上では 28.6%高くなる1).
当科の検討から穿孔の残存率,チューブ抜去,脱 落後の経過から口蓋裂児には 37 か月〜 42 か月を チューブ留置の最適期間であるとしている1).この 期間が最も永久穿孔の割合が少なく,再発率が低
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かった.その為にも長期留置型のチューブを用いて いる.一般にはチューブ留置期間は2〜3年であり,初回のチューブ留置には短期留置用チューブを用い ることが勧められている.
当科における診療流れ
形成外科受診日と同日に耳鼻咽喉科を受診する.
拡大気密耳鏡,顕微鏡,内視鏡を用い鼓膜の観察を 行い,さらに鼓膜の動き方を検査する.年齢に応じ てインピーダンス聴力検査,聴器レントゲンで乳突 蜂巣の発育の程度を評価する9).耳音響放射(OAE)
を用いた聴覚の評価も行っている.OAE は聴覚刺 激に対する内耳有毛細胞由来の音を外耳道で検出す るものである.乳幼児でも非鎮静下に検査すること ができる.当院で OAE 検査を行い検討した結果,
口蓋裂症例で OAE と乳突蜂巣の発育・含気に有意 な相関が認められた.OAE から蜂巣の発育・含気 の程度を推測でき,乳幼児における放射線の被爆を 減らせる可能性がある.そのため,OAE をチュー ブ決定の診断時に有用な検査と考えて用いている.
口蓋形成術時にチューブ留置術を行った児は,そ の後近医と当科で,抜去後までの鼓膜の定期診察,
チューブトラブルに関する治療を含めた定期的な管 理を行っている.留置期間が経過して人工抜去を考 慮する際には再度,聴力,画像所見を評価する.聴 器レントゲンで乳突蜂巣の発育の程度,OAE,ティ ンパノメトリーで中耳腔容積測定する.抜去後は,
永久鼓膜穿孔があれば 10 歳以降で閉鎖術を考慮す る.一般的に耳管機能は加齢とともに改善すると言 われているが5),鼓膜穿孔がなくとも,滲出性中耳 炎が再発する可能性のある 10 歳頃までは定期的に 診察を行っている.
滲出性中耳炎による難聴は,その他の障害が無い 場合,治療により改善できることを初診時にご両親 に説明している.小児の耳管は,成人の耳管に比べ て太く短く,また水平に近い.口蓋裂児の耳管は開 放傾向にある.多くの場合は感冒罹患時に耳管機能 が悪化し,急性中耳炎や滲出性中耳炎に罹患する.
感冒罹患時,鼻炎罹患時には鼻汁の分泌を減少させ る治療は大切である.感冒罹患以外でも鼻汁が多い
小児に対しては近医での鼻の加療をすすめている.
近医での定期的な鼓膜所見の観察も重要である.ま た鼻漏による鼻すすり癖は中耳腔に陰圧を生じる.
滲出性中耳炎を誘発しやすくなるため,鼻すすりの 習慣がある場合は注意喚起をしている.
ま と め
口 蓋 裂 は OME を 高 率 に 罹 患 す る が, 全 例 に チューブ留置が必要ではない.チューブ留置術が必 要な症例の選択には詳細な鼓膜所見の観察,聴覚評 価,側頭骨の画像の評価など総合的に行うことが大 切である.
チューブ留置後は定期的な観察を行い,永久穿孔 などの合併症をできるだけ少なくするように努める ことが大切である.
文 献