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フ ラ ン ス に お け る ビ ラ 貼 り の 自 由

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(1)

四 三 ニ ー

はじめにビラ貼りの自由の原則

一九七九年十二月二九日法の内容とその問題点

おわりに

ラ ン ス に お け る ビ ラ 貼 り の 自 由

四七

貞 美

(2)

政治的表現の自由を行使する一手段としてのビラ貼りに関する憲法問題については︑すでに論じ尽くされた感が強

い︒周知の通り︑電柱等へのビラ貼りに対しては︑軽犯罪法の一条三三号と屋外広告物法およびそれに基づく各地の

屋外広告物規制条例によって︑刑事制裁を含めた厳しい規制がなされている︒わが国の最高裁判所は︑昭和四五年六

月十七日の大法廷判決によって︑軽犯罪法一条三三号が憲法ニ︱条および三一条に違反しない旨判示した︒また昭和

四三年十二月十八日の大法廷判決によって︑大阪市屋外広告物条例についても憲法ニ一条に違反しない旨判示した︒

これらの判決はいずれも︑﹁この程度の規制は︑公共の福祉のため︑表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限﹂

であるとして︑違憲論を一蹴しているが︑学界からはこれらの判決に対して厳しい批判が加えられている︒というの

は議会制民主主義において政治的表現の自由が果たす役割や現代の政治社会状況において大衆伝達の手段としてのビ

ラ貼りのもつ意義について全く顧慮することなく︑個人の財産権の保全と美観風致の維持に優越的地位を与えて︑政

治的表現の自由の弾圧を認容したことは明らかに憲法の精神に背馳するからである︒

最高裁判所が軽犯罪法一条三三号と屋外広告物法および規制条例にお墨付きを与えたからといって︑さまざまな団

体や個人によるビラ貼り活動が停止ないし減少したわけではないのは︑我々の日常生活において経験するところであ

る︒否それどころか︑軽犯罪法一条三三号違反事件は増えている︒最近の検挙︵送致︶人員についていえば︑昭和五

四年には八一九人︑昭和五五年には一

0

︱二人である︒因みに昭和五五年の軽犯罪法違反の全体の検挙︵送致︶人員

は四三五八人であるから︑その占める割合は二三パーセントにも及ぶ︒軽犯罪法一条は三四個の軽犯罪の類型を定め

は じ め に

四八

(3)

(3 ) 

ているが︑その中で三三号違反事件はビラ貼りだけではないにしろ︑三三号違反事件の割合が最も高い︒このように三

(4 ) 

三号違反事件が顕著に増えはじめたのは昭和四三年頃からで︑それ以降全体の一割以上を占めるようになってきた︒

これらの検挙されたビラ貼り事件においては︑ビラの内容が政治的なものだけなのか︑あるいは商業的なものまで含

まれているのかは統計だけからは伺い知れないが︑過去の裁判のケースから推測すれば︑政治的な内容のビラ︑しか

ビラ貼り活動を弾圧するもう︱つの機能的治安立法である屋外広告物法および規制条例については︑法律の委任を

うけて条例自体がもともと罰則を設けていない場合もあり︑

という方法がとられていることもあって︑刑事制裁が加えられるケースは軽犯罪法違反事件の場合に比して相当少な

かったであろうと推測される︒しかも昭和四八年九月に屋外広告物法の一部が改正され︑この改正法の十五条に︑﹁こ

の法律及びこの法律の規定に基づく条例の適用にあたっては︑国民の政治活動の自由その他国民の基本的人権を不当

に侵害しないように留意しなければならない﹂と追加規定された︒さらにこの法改正にともなって建設省は地方公共

団体に標準条例案を示し︑それを受けた地方公共団体の中にはビラ貼りを禁止する物件から電柱を除外したところもあ

(5 ) 

るようである︒

しているように︑ も左翼団体のビラがその多くを占めるであろう︒

四九

さらには違反広告に対しては行政措置によって除去する

したがって現在のところビラ貼り活動に関する主たる取り締まり法規は軽犯罪法であるということになるが︑そも

そも立法政策の問題として軽犯罪法に規定されている行為類型︑とりわけ今問題にしているビラ貼り行為については︑

(6 ) 

﹁社会的自治と道徳上の問題として処理﹂すべきもので︑刑罰法規で取り締まるべき問題ではないと考えられる︒仮に

一歩譲って現行のように軽犯罪法で取り締まるとしても︑果たしてその保護法益は︑多くの判例や一部の学説が主張

ビラが貼られる施設の財産権や管理権さらには美観であろうか︒けだし疑問である︒刑法学者から

(4)

このように公権力が介入してビラ貼りに対して刑事制裁を加える必要はなく︑むしろ︑﹁問題を当事者間の私法的処

(8 ) 

理に委ねるべきではないかとの立法論﹂こそ傾聴に値するし︑現行法でも所有権に基づく原状回復請求および所有権

侵害に対する損害賠償請求が可能であることはいうまでもない︒

美観を維持するためにビラ貼りに対して刑事制裁を加えることが有効であるか否かも疑問である︒罰金︑科料ある いは拘留を科することは︑間接的には美観を維持するための一方法であるかもしれないが︑直接に有効な方法とはい えない︒なぜなら貼られたビラは除去せられずそのまま放置されるのが通常の場合であるからである︒それよりは違 反広告物に対して屋外広告物法および規制条例に基づいて行政上の是正措置をとる方が︑はるかに美観を維持するこ

(9 ) 

とに寄与しうるであろう︒もっとも現状では屋外広告物法および規制条例に定められている行政措置よりも刑罰法規

い 徹底的な批判が加えられているが︑常識的に考えても電柱等にわずかな数量の政治的ビラを貼ることによって︑電柱

て ︑

等の財産権や管理権がいかほど侵害されたといいうるのか︑また無数の商業広告等のビラが放置されている現状にお わずかな数斌の政治的ビラを貼ることが美観をいかほど損うのかはきわめて疑問である︒ましてや刑事制裁を

加えなければならないほどの法益を侵害するとはとても考えられない︒

所有権者や管理権者の承諾の有無とは無関係に刑事制裁を加えることも批判されている︒個人的法益を侵害する財 産罪である刑法の器物損壊罪は親告罪であるから︑被害者の告訴がなければ公訴は提起されない︒その他の財産罪で ある窃盗罪︑詐欺罪あるいは横領罪等の場合にも︑実際問題としては被害者からの届出に基づいて捜査が開始される のが通例であろう︒そうならば電柱等にビラが貼られて財産権ないし管理権を侵害されたことを被害者が知らないの に︑犯人として時には深夜に現行犯逮捕され︑裁判で有罪宣告を受けるというのは︑明らかに均衡を失するといえよ

五〇

(5)

( 1 0 )  

が優先して適用されるという罰則優先主義が一部とられているという問題はあるにしろ︒

このように合理的な根拠が存在しないにもかかわらず︑公権力はビラ貼り活動に対して刑事制裁を加えているが︑

これがきわめて片手落ちであることはいうまでもない︒というのは︑ビラ貼りは現代社会において大衆伝達の一手段

( 1 1 )  

として国民大衆にとって重要な意義をもっているが︑他に適当な場所がないために電柱等になされるのであり︑それ

ゆえに公権力は共通の掲示板を積極的に設置する等の何等かの代替措置をとることが要請されているにもかかわら

( 1 2 )  

ず︑これを履行していないからである︒

以上︑わが国におけるビラ貼りの自由をめぐる主要な問題点を摘示した︒これを背景にして本稿はフランスにおけ

るビラ貼りの自由について論じることを目的とする︒フランスにおいては︑意見のビラ貼り

( a f f i c h a g e d ' o p i n i o n )  

あるいは政治的ビラ貼り

( a f f i c h a g e p o l i t i q u e ) は︑表現の自由︑

とりわけプレス︵出版︶の自由のコロラリーとして

のビラ貼りの自由(libert~d'affichage)として憲法的価値が付与され、民主主義的諸制度の運営にとって不可欠のも

のとされている︒そして現実にビラ貼りが政治的表現の手段としてひんぱんになされているが︑ただわが国とはビラ

( 1 3 )  

貼りがなされる場所が異なっている︒わが国では﹁ぶざまな存在﹂といわれている電柱にビラ貼りがなされることが

フランスでは電柱がほとんどないので建物の壁とか工事現場の板囲い︑さらには樹木等になされるのが通例

である︒このようにビラ貼りの場所も異なるし︑都市の構造も異なるであろうし︑更に言えば美観や広告に関する国

民の意識の相違もあろう︒しかしフランスにおけるビラ貼りに関する法的諸問題を検討すると︑これらの相違を越え

てビラ貼りという政治的表現の自由に対する尊重の度合ならびに民主主義の成熟度に大きな落差を感ぜずにはおられ

ない︒それゆえにフランスにおけるビラ貼りの自由に関する研究は︑上に摘示したわが国におけるビラ貼りに関する

諸問題の検討に大いに神益するであろうことは間違いない︒ 多

いが

(6)

ように﹁分業﹂がなされていて労働法学に属する︒ なおフランスにおいても労働運動の一手段としてビラ貼りが行なわれているが︑

ついでに付言しておくと︑

一九六八年のグルネル協定

( l e s

a c

c o

n d

s   d

e   G

r e n e

l l e )

以降

( 1 4 )  

り用の掲示板に自由にビラを貼ることができるようになった︒

( l

)

判例時報五九四号︒高橋和之﹁ビラ貼りと表現の自由﹂憲法判例百選ー︑中山研一

﹁軽犯罪法一条一二三号と憲法ニ︱条・三一条﹂

判例タイムズニ五二号︑中川祐夫﹁ビラ貼りと軽犯罪法﹂続刑法判例百選︑阿部照哉﹁軽犯罪法一条三三号と憲法ニ一条﹂ジュリ

スト四五九号︑角田邦重﹁ビラ貼りと軽犯罪法﹂季刊労働法七七号︑鴨野幸雄﹁ビラ貼りと表現の自由﹂時岡弘編﹃人権の憲法判

例第二集﹄所収︑清水睦﹃基本的人権の指標﹄六七頁以下参照︒

( 2 )

判例時報五四

0

号︒清水睦﹁屋外広告物条例と表現の自由﹂憲法判例百選ー︑夏目文雄﹁大阪市条例とビラ貼り﹂続刑法判例百選︑

阿部照哉﹁大阪市屋外広告物条例と表現の自由﹂マスコミ判例百選︑石村善治﹁電柱等へのビラ貼りを禁止した大阪府屋外広告物

条例二条三項一号が憲法ニ一条に違反するか︵違憲︶﹂判例評論︱二四号︑清水睦前掲書八三頁以下参照︒

( 3 )

伊藤・小野・荘子編﹃注釈特別刑法第二巻準刑法編﹄九頁︒

(4)平野・佐々木•藤永編『注解特別刑法七・風俗・軽犯罪編』十六頁。

( 5 )

﹃労慟運動・市民運動法律事典﹄

( 6 )

浦田賢治﹁ビラ貼りと表現の自由﹂﹃続日本の憲法判例﹄所収九五ー九六頁︒影山日出弥﹁エ作物へのビラ貼り行為﹂﹃セミナー法

学全集・憲法I

( 7 )

熊倉武﹃﹁ビラ貼り﹂行為による被害法益の本質﹄季刊労働法五六号︒

象になったが︑

一定の条件付きで︑労働組合はビラ貼 一九六八年以前はひんぱんに争訟の対 これに関する研究はわが国と同じ

(7)

ピラ貼りの自由の原則

( 1 2 )

奥平康弘﹃表現の自由とはなにか﹄こ〇八頁︒

( 1 1 )

芦部信喜﹃現代人権論﹄ 一八七頁以下参照︒

( 8 )

阿部照哉﹃﹁ビラ貼り﹂と表現の自由﹄マスコミ判例百選;九七頁︒

( 9 )

清水英夫﹃言論法研究﹄

( 1 3 ) 森長英三郎﹁ビラ貼り取締りと公訴権の濫用

Lジュリスト三八九号四八頁︒

( 1 4 )

C  

a m

e r

l y

n e

k   e

t   L

y o

n '

C a

e n

,   D

r o i t

  du 

t r a v a i l  

̀ 

ll~d.

1982 pp

. 

722 │ 

72 3.  

の自由については一八八一年七月二九日法

( 1 0 )

川口是﹁政治活動の自由とビラ貼り﹂﹃議会制度と表現の自由﹄所収九五貞以下参照︒

一八五頁以下︑星野安三郎編﹃大衆行動の権利﹄六五頁以下参照︒

フランスにおいては︑ビラ貼りを含めた表現の自由について︑すでに一七八九年の人権宣言の第十一条に︑﹁思想お

よび意見の自由な伝達は︑人の最も貴重な権利の一である︒したがってすべての市民は︑自由に発言し︑記述し︑印

刷することができる﹂と高らかに宣言されていたが︑現実にはさまざまな行政的制限や司法的規制を受けて表現の自

由を行使することができない状態が続いた︒それらの諸制限が撤廃されて︑表現の自由に具体的な法的保障が与えられる

ようになるのは︑近代立憲主義の確立期といわれる第三共和制の時代である︒結社の自由については一九

0

一年

七月

︵ 出

版 ︶

一日法︑集会の自由については一八八一年六月三

0

日法︑プレス

によって法的な保障を受けるようになった︒これらの共和国の諸法律は︑周知の通り︑憲法典に詳細な人権規定が存

在しないフランスにおいては︑憲法的価値を有するものとされている︒

(8)

これについて述べる前に︑ 上述したプレスの自由に関する一八八一年七月二九日法の六八条によって︑

(2 ) 

一七

八九

年の

人権

宣︱

︱︱

口以

降も

︑﹁

久し

い間

厳重

に規

律さ

れて

いた

﹂が

それらの諸制限が原則的にすべて撤廃さ

ここにビラ貼りの自由

( l i b e r t e d ' a f f i c h a g e )

について法的な保障が与えられるようになった︒したがってビラ貼

りの自由は公的自由の一であり︑公的自由について論じた体系書や概説書は︑表現の自由の一方法としてのビラ貼り

この一八八一年法はビラ貼りを三つのカテゴリーに分けて規制している︒

まず第一は行政用のビラ貼り

( a f f i c h a g e a d m i n i s t r a t i f )  

され

てお

り︑

である︵十五条︶︒市町村長は一定の常設的な場所を行政

用のビラ貼りに指定する権利をもっている︒この行政用のビラ貼りに留保された場所に私的なビラを貼ることは禁止

この禁止に違反した場合には罰金刑に処せられる︒

行政用のビラは白地の紙に印刷することに決められているので︑他のビラは白地の紙を使用することができない︒

これに違反した場合には刑事責任を問われることになっていたが︑しかしこの禁止は余りにも厳格すぎるので︑

六九年十一月二八日法によって若干緩和されることになった︒その結果︑広告のビラがカラーのイラストや活字を使

用して行政用のビラと混同されるおそれがなければ︑白地の紙を使用してもよいことになった︒

なお行政用のビラを剥がしたり改変させたりすると違警罪に該当する︒

第一一のカテゴリーは︑選挙運動の一環としてなされる選挙用のビラ貼り

(4 ) 

フランスで行なわれている種々様々な選挙運動の方法について簡潔に言及しておこう︒

最も効果的な選挙運動

( l a ca mp ag ne l e   e c t o r a l e )

の方法はラジオおよびテレビという電波を利用することである︒

ただしこの方法は国民議会議員選挙と大統領選挙のみに利用しうるのであって︑それ以外の選挙には用いることがで の自由について必ず言及している︒ れ ︑

表現の自由に包摂されるビラ貼りの自由は︑

( a f f i c h a g e l e   e c t o r a l )  

であ

る︒

五四

一 九

(9)

ズも定められている︒ モニーに出席することなどが行なわれている︒

その大きさも五几四

x

八四

五五 一九六六年十二月

ミリメートルと定められてい るので違法視されている︒ は一部でこれは公道上の集会とみなされ な集会は学校の屋根つきの校庭でよく開催されるが︑

最もポピュラーな運動の方法は集会を開催することである︒これには私的な集会と公的な集会の二種がある︒私的

﹁地

区の

訪問

﹂ ( l a   v i s i t e   d e   q u a r t i e r )  

きな

い︒

これには制限がなく全く自由である︒公的な集会は︑選挙法典 ( C o d e   e l e c t o r a l ) によって︑集会の自由に関する一八八一年法および一九

0

七年法の原則が適用される︒

という運動方法が採られているが︑

その他の運動方法としては︑有権者に手紙を出すことあるいは口頭でのプロパガンダとして戸別訪問

( p o r t e

‑ a

p o r t e )

︑公道上でのスピーカーによる演説や討論さらには公共の場所での短い発言等が行なわれたりするが︑これらに

関しては何らの規制もなされていないので自由に行なうことができる︒それ以外には握手戦術︑あるいは集合やセレ

次に出版による方法としてはまずビラ配りがある︒配ることのできるビラの種類は四種に限定され︑

は候補者の政見︵プログラム︶を記載するためのもので︑

る︒他の二種は候補者の開催する集会を告知するためのもので︑ フランスで

そのうち二枚

その大きさは二九七

x

四二

0

ミリメートルに定めら

れている︒その他にわが国の選挙公報に該当すると思われる

C i r c u l a i r e

というものを一種︵その大きさはニ︱

o x

九七ミリメートル︶配ることが認められている︒これは

p r o f e s s i o n de   f o

i と呼ばれている︒これに加えてフランスに

特有の運動方法であるが︑投票用紙を配布することも認められている︒最大発行部数は有権者数の二倍で︑

なお選挙のプロパガンダのための商業広告は︑経済力による不平等を容認することになるので︑ そのサイ

(10)

後述する一九七九年十二月二九日法は広告︑看板等について新たな規制を加えたが︑

ように定めている︒すなわち選挙の性格を帯びる広告は︑上述したように一九六六年法以来禁止されているが︑

かかわらず禁止規定に違反して広告がなされた場合には︑権限ある行政当局は︑

に広告を撤去すること若しくは原状回復することを催告する︒もし催告にしたがって違法広告が撤去等されなかった

場合には五

0

フランから一万フランスの罰金刑が科される︒

しては選挙公示期間中に限定していた︒もっともこの時期以外の期間にビラ貼りをしても刑事罰を科せられることは なかった︒次いで場所に関しては︑私有の建物の璧にビラ貼りをすることは許されないが︑公共の建物の壁をビラ貼 りに使用することは原則的に容認されていた︒ただし公共の建物であっても︑行政用のビラ貼りに留保された場所や

宗教用の建物にビラを貼ることは禁止されていた︒

その後︑選挙用のビラ貼りが濫用されたので︑数次にわたり法改正がなされ規制が強化されるようになった︒現在

は一九六四年一

0

月二七日の選挙法典の五一条によって次のように定められている︒すなわち︑市町村当局は選挙に

際してビラ貼りのためのいわゆる公営掲示板を人口数に応じて設置しなければならない︒

を付与しなければならない︒この公営掲示板以外の場所に選挙用のビラを貼付することは禁止されているが︑

これに違反したとしても別段刑罰が科されるわけではない︒また裁判所もこの違法ビラが選挙の結果に影響を与える

ほどではないと判断して︑長い間これを制裁していない︒いずれにしろこの規定は実際上ほとんど遵守されておらず︑

候補者たちはこれに違反するビラ貼りをひんぱんに行っている︒これがいわゆる非合法なビラ貼り

( l ' a f f i c h a g e  

さて本論の選挙用のビラ貼りであるが︑ 二九日法によって禁止された

︵選

挙法

L 5

2

1

条 ︶ ︒

その三

0

条二項において次の

その広告の受益者に対して二日以内

一八八一年法はこれに関していくつかの制限を設けていた︒まず時期に関

かつ各候補者に平等な面積

五六

しかし

こも

, ' 

(11)

念頭になかったといってよい︒ s a u v a g e )

と呼ばれているものである︒このようにこの規定が遵守されていない理由としては︑この規定が選挙用のビ

(6 ) 

ラ貼り活動を過度に規制していることと先述したように裁判所によって制裁されないことを指摘できよう︒

第三のカテゴリーのビラ貼りは意見のビラ貼り

( l ' a

f f i c

h a g e

d ' o p

i n i o

n ) あるいは政治的ビラ貼り

( l ' a

f f i c

h a g e

p o l i

t i   , 

一八八一年法が制定される前は︑ビラ貼り薬が許可制である等ビラ貼りに関してさまざまな規制が加えられていた

が︑一八八一年法の六八条がこれらビラ貼りを規制している諸法令をすべて廃止しビラ貼りの自由の原則を確立した︒

このビラ貼りの中には商業広告用のビラ貼りも含まれるが︑

五七

しかしそれは表現の自由よりもむしろ営業の自由に属す

るといえようし︑また一八八一年法の立法者たちも︑商業広告用のビラ貼りが行なわれることが当時少なかったので︑

このように一八八一年法によってビラ貼りの自由の原則が確立されたが︑現実問題としては何の制限もなく自由に

ビラ貼りが行なわれたわけではない︒一八八一年法以後も公序を維持し美観を保護するという名目の下に︑ビラ貼り

に対して種々の規制が加えられるようになった︒とりわけ一九三五年一

0

月三

0

日のデクレ以後︑警察当局は政治的

ビラ貼りが公共の平穏を害するという理由で︑公序を維持するためにビラ貼りを禁止したり︑ビラを剥がしたりした︒

よく引用されるケースとして次の事件がある︒

うとしたとき︑

フランス共産党はそれを批判するビラをフランス広告取次店

( O f f

i c e

p u b l

i c i t

a i r e

e   d

  F r

a n

c e

)

に貼ら

月七日の判決において︑ 一九五三年にアメリカ合衆国大統領アイゼンハワーがパリを訪問しよ

せたが︑警察はそれらが公共の平穏を害するという口実でビラを剥がさせた︒セーヌの民事裁判所は︑

(7 ) 

それが暴力行為を構成すると判示した︒しかし権限裁判所は︑ビラ貼りの性格︑時期︑場所

等を考慮すれば︑非難されたビラ貼りは公序に対して重大な脅威をもたらすものであると認定し︑知事は緊急性にも q u

e )  

である︒本稿の主たる問題関心はこれにある︒

一九五三年五

(12)

(8 ) 

とづいて適法にビラを剃がすことを命じうると判示して︑セーヌ民事裁判所の判決を破毀した︒

一般的には判例はビラ貼りによる思想の政治的ビラ貼りに関する判例のなかではこの権限裁判所の判決は異例で︑

(9 ) 

表現を妨げる行政行為が違法であると判示しているといわれる︒

一八八一年法が制定された当時は広告のためにビラ貼りという方法が用いられることはまれであったが︑

れが野放図に行なわれるようになり︑その結果公序の一要素である美観が侵害されるという現象が顕著になり始めた︒

そこでとりわけ歴史的記念物︑自然公圏や景観等をビラ貼りによる侵害から保護するために数次にわたり法改正がな

された︒それを集大成したものが戦時下に制定された﹁広告掲示板︑ビラによる広告および看板に関する一九四三年

四月十二日法﹂である︒

この一九四三年法は︑後述するように︑

ず︑数次にわたる改正の後に︑

しかしながら広告規制について実効的でなかったこの一九四三年法も時として政治的ビラ貼りの弾圧のために用い

( 1 0 )  

られた︒だが判例はこの法適用を追認しなかった︒破毀院刑事部は一九六八年十二月一

0

日の

C h

e r

r i

e r

事件において︑

またルーアン控訴院は一九六八年一

0

月二四日の

G u i n a u

事件において︑政治的ビラ貼り等には広告規制に関する一

九四三年法は適用されず︑出版の自由に関する一八八一年法が適用されると判示して︑無罪を宣告した︒

一九四︱︱一年法以外にビラ貼りに対して適用された刑罰規定としては︑

られた刑法の施行令の一二八条二項および一二項がある︒これらの規定は︑公有の動産もしくは不動産︑あるいは許可を

得ずして私有の不動産に︑落書き︑記号︑線画を書いた人に対して︑六

0

00

フランないし四

0 0 0 0

フランの罰金

および八日以内の拘禁刑に処する︑と定めている︒政治的ビラを貼った青年たちの行為がこれらの規定の落書き

( i n

一九

五五

年一

0

月三一日法によって付け加え 一九七九年十二月二九日法に取って代わられた︒ ビラ貼りを含めた広告の規制についてはほとんど効果をあげることができ

五八

その後こ

(13)

このように意見のビラ貼りないしは政治的ビラ貼りは自由が原則であったが︑次に述べる一九七九年十二月二九日 る ︒

五 九

とも

に︑

s c r i p t i o n s )

に該当するとして起訴された事件において︑グルノーブルの控訴院は一九六一年一

0

月二七日に当該規定

の適用を承認して青年たちに罰金刑を科したが︑破毀院刑事部は一九六二年十二月六日の判決において︑当該の刑法

施行令は一八八一年法によって定められた基本的な自由を侵害しえないとしてビラ貼りの自由の原則を再確認すると

( 1 2 )  

ビラ貼りは落書きの中に含まれないという制限的な解釈を加えて︑当該規定をビラ貼りに適用しなかった︒

なお同じ刑法施行令の⁝八条九項に︑公道もしくは公共の場所において︑品位

( d e c e n c e )

に反するビラもしくは絵

を貼った人に対して︑六

0

フランないし四

00

フランの罰金および八日以内の拘禁刑に処する︑と規定されているが︑

( 1 3 )  

この規定は政治的ビラ貼り等に適用されていないようである︒

以上概観したように︑意見のビラ貼りあるいは政治的ビラ貼りは自由であって︑私有財産であれ公有財産であれ刑

( 1 4 )  

事責任を問われることなく自由にビラ貼りをすることができた︒したがってフランスの都市では︑

( I n t e r d i

t   d

t f f i c h e r )

という掲示がしばしば建物の墜にしてあるようであるが︑

( 1 5 )  

的な意味をもたないということについては認識が一致している︒それは単にビラを貼られたくないという所有者や管

( 1 6 )  

理権者の意思表示もしくは威嚇措置でしかない︒他人の所有物に無断でビラ貼りをすることは所有権を侵害すること

であ

るか

ら︑

ビラ貼りをするためには所有権者の同意が必要なことはいうまでもない︒もし無断でビラが貼られた場

合には︑所有権者がビラを自ら剥がすあるいは剥がさせる権利を有することは勿論である︒さらにはビラ貼りによっ

て所有権を侵害されたわけであるから︑損害賠償を請求することが可能である︒その額は一般的にビラを除去するこ

( 1 8 )  

とおよび璧をビラ貼り以前の状態に回腹するに必要な費用に限定されるが︑物質的損害に限られないとする意見もあ (

D e f e n s e   d ' a f f i c h e r )  

この掲示が法

﹃ビ

ラ貼

り禁

止﹄

(14)

KO 

坦足

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(M) Dumas, Le droit de !'information, p. 111. 

(~)益\L--E;; 苺忠竺祖叫

ゃ'J.P. Charnay, Le suffrage politique en France, p. 505 et suiv. 

(Lt:)) Andre et Francine Demichel, Droit electoral, p. 128. 

(1.0) Blin, Chauvanne, Drago, Droit de la presse, Zed., Affichage, pp. 15‑16, Cot et Gaborit, Citoyens et candidats, p. 106. 

(r:‑) JCP, 1954, Jurisprudence, 7759. 

(oo) JCP, 1954, Jurisprudence, 8382, Rivero, Les libertes publiques, tome II, Zed., p. 227, Robert, Libertes publiques, Zed., p. 481. 

(01) Gabolde, Affiche dans EncyclodieDalloz, droit public et administratif, p. 37. 

ぼ)Recueil Dalloz, 1969, Jurisprudence, note Orfila, pp. 473‑476. ~J 8弄彩8艇燦竺...)召...)~単遺切ごや初文山11"¥i0‑Q四缶8墜豆

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ゃ'孟涵押旦吋01電▽揉垣約ごいこ肉゜

(::::) Recueil Dall oz, 1969, Jurisprudence, p. 173. 

ぼ)Recueil Dalloz, 1963, Jurisprudence, pp. 43‑44. 

(;:3) Roger de Lastang, Contraventions et peine, art. R 38§9, clans Jurisclasseur penal, p. 2. 

(15)

広告は余り用いられなかったが︑

( 1 8 )

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42 4.  

一九七九年十二月二九日法の内容とその問題点

フランス人は全般的に広告の嫌いな国民であるといわれている︒したがって以前はビラ貼りや看板等の方法による

その後︑消費者の購買意欲をかきたてるために徐々にそれらの広告が多用されるよ

うになった︒それにともなってビラ貼りや看板の乱立による美観の侵害と生活環境の悪化が顕著になり始めたので広

ほとんど刑罰を宣告することがなかった︒最後にビラ貼りに関しては︑町の中心部ではほと 告を規制する必要が生じ︑前述の一九四三年法が制定された︒

しかし戦時下の非常に厳しい社会的・経済的状況の下で作られたこの法律には重大な欠陥があり︑

ど実効性がなく︑広告の三分の一ないし四分の一はこの法律に違反していたといわれる︒この法律が遵守されなかっ

(1 ) 

た理由としては次の諸点が指摘されている︒まず第一に︑この法律で用いられている文言が非常に曖昧であるという

ことである︒次に違反した場合に科せられる制裁が余りにも厳格すぎるということである︒さらに裁判所が違反者に

対して相対的に寛容で︑

(16)

であるが︑前述したように︑ 至りようやく法案がまとまって国会に提出され︑ んど全面的に禁止されていたため︑事実上尊重されなかったし︑警察も放置したままであった︒

そこで野放し状態の広告から美観と生活環境を保全するため︑歴代政府は個別に法律を作り対症療法を試みてきた︒

一九七一年以降はとりわけビラ貼りの方法による広告を規制するための法案が構想されてきた︒そして一九七八年に

法案は︑意見のビラ貼りないし政治的ビラ貼り等の非商業的なビラ貼りを﹁広告﹂のカテゴリーに包摂して商業的ビ

ラ貼りと同じように厳しく規制するものであったため︑法案が発表されると︑法学者から表現の自由を侵害するもの

(3 ) 

であると強く批判された︒同じく当時の左翼野党︑とくにフランス共産党は︑ビラ貼りによって美観が損われ生活環

境が汚染されているのは事実であるが︑

いし︑商業的ビラ貼りと意見のビラ貼りを混同することは︑表現の自由の基本的な側面を侵害するものであると激し

(4 ) 

く非難した︒そしてこの法案は商業的広告のビラ貼りにのみ適用され︑意見のビラ貼りには適用されないという内容

(5 ) 

の修正案を提出したが︑否決された︒

このような事情と相侯って︑国民議会と元老院とにおいて異なる議決がなされた結果︑両院協議会が開催され妥協

案が模索されたため︑審議に多くの時間を要し︑法案提出日から一年以上経過してようやく成立した︒この法律の正

(6 ) 

式名称は︑﹁広告︑看板および案内の看板

( p r e e n s e i g n e s )

に関する︳九七九年十二月二九日法︒n

七九

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︱ 五

0

﹂で

ある

次にこの法律の内容とその問題点について意見のビラ貼りに焦点を合わせて検討することにする︒

この

法律

は︑

一九

七八

年一

0

月三日から元老院において審議が開始された︒この

それは商業的なビラ貼りによってであっても意見のビラ貼りによってではな

その名称が示すように︑美観と生活環境を保全するために︑広告︑看板等を全面的に規制しているの

この

﹁広

告﹂

のカテゴリーには単に商業広告のみならず政治的ビラ等の意見広告も含ま

れる︒そして商業広告と意見広告は若干の部分を除いてはほとんど同一レベルで規制されることになった︒この点が

' .

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(17)

が︑果たしてそうであるか否かは疑わしく︑ この十二条の規定は︑ 義務づけている︒この特別の場所は︑ 新法の最大の特色であり︑国会の審議過程において激しい論議の対象になった点でもあった︒このことによって憲法的価値を有する出版に関する一八八一年法によって保障されたビラ貼りの自由が制約される危険が大きい︒そこでこの一九七九年法は右のような標題をつけておきながら︑冒頭の第一条で次のように表現の自由の原理を再確認している︒すなわち︑﹁各人は︑広告⁝⁝︵中略︶⁝⁝の方法によって︑広める権利を有する﹂と規定している︒しかしわざわざこの規定を置かなくとも︑

 

による表現の自由は保障されているわけであるから︑この第一条は法律的意味があるわけではなく︑単なる宣言的な

効果しかないといえよう︒奇妙なことにこの法律は一八八一年法に全く言及していない︒しかし間接的にはこの法律

を一部廃止している︒

ビラ貼りの禁止が原則で︑

することは許されず︑ というのは︑この第一条によって表現する権利が宣言されていても︑法律全体としては意見の

(8 ) 

ビラ貼りの自由が例外になったからである︒

さてこの法律は一条で表明された権利を建前だけに終らせず実効的なものにするために︑十二条において意見のビ

ラ貼りおよび利益を目的としない結社の活動に関する広告のために︑市町村長に対して特別の場所を設置することを

コンセイユ・デタのデクレによって︑住民の数および市町村の面積に応じて決

定されることになっている︒この特別の場所を使用することについて料金や税金は課されない︒﹁この規定はそれまで

(8 ) 

蔓延していた非合法なビラ貼りを効果的に抑圧するために必要な引替物である﹂と位置づけられている︒というのは︑

意見のビラ貼り等は市町村長の設置する掲示板に貼ることになっているから︑それ以外の場所に意見のビラ貼り等を

それを理由にして非合法なビラ貼りを抑圧することが容易になるからである︒

一見

した

とこ

ろ︑

ビラ貼りによる政治的表現の自由を効果的に保障するような印象を与える

いくつかの危惧の念がすでに立法当時から表明されている︒第一に当該 一八八一年法によって出版の方法 いかなる性質であれ︑情報および意見を表明しかつ

(18)

の市町村がそのようなビラ貼りのための財産を所有していることが前提となるが︑果たしてすべての市町村がそのよ

うな財産を所有しているか否かは疑問であること︒第二に政治的なビラ貼りがより効果を発揮するためには︑人通り

のひんぱんな場所でなされることが肝要であるが︑市町村長が人の余り往来しない袋小路に特別の場所を設置するこ

とがありうる︒第三に十二条の適用条件は︑上述したように︑市町村の面積や人口数に応じて︑

このことはコンセイュ・デタに政治的表現の自由を白紙委任したこ

とになる︒それに加えて人口の少ないあるいは面積の小さい市町村でも︑例えば巡礼地とか大きな競技場をもつ市町

村のように︑多数の人が訪れるところがある︒しかしこれらの市町村であっても意見のビラ貼り等のために割り当て

られる特別の場所の数は少ないことになろう︒このように考えると︑意見のビラ貼り等による政治的表現の自由は︑

(9 ) 

一九七九年法の立法者によってミニマムにまで縮少される危険性をもつことは否定でもない︒

意見のビラ貼りはこの十二条によって設置される場所以外でも行なわれうる︒

七九年法による広告規制の概要について言及することが前提となるので︑ それについて述べるためには︑

まずそれについて述べることにする︒

一 定

一九七九年法はゾーン

(

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というカテゴリーを用いて︑広告の規制を柔軟かつ多様化している点に特色があ

( 1 0 )

︑ ︑  

るカ

一九七九年法はこのゾーンを三つの段階に分けて広告の規制を行なっている︒まず第一は広告が全面的に禁止

される区域である︵四条︶︒すなわち歴史的記念物である建物︑天然記念物︑自然公園︑自然保護地等が存在する地区

である︒第二は広告が原則的に禁止される地区である︵六条︶︒すなわちそれは都市化区域

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と呼ば

れる区域以外の区域である︒都市化区域か否かは道路交通規則の定めるところによるとされている︒この区域におい

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ツ︑

スイス等と同じく広告が原則的に禁止されるが︑

地あるいは住宅の集合しているところでは︑例外的に﹃許可された広告ゾーン﹄ デクレによって定められることになっているが︑

ただ商工業の施設︑職人の中心

と呼ばれる区域が設定されて︑

六四

一 九

コンセイュ・デタの

(19)

の条件付きで広告が認められる︒この点に新法の柔軟さが見られると評されている︒

第三は都市化区域の内部で︑ここにおいては広告は原則として認められるが︵八条︶︑しかし歴史的記念物や自然公

園等の周辺に設定される保護区域においては禁止される︒以上の原則に加えてさらにこの区域の内部において︑広告

の規制の度合の強弱に応じて︑﹃制限された広告ゾーン﹄と﹃拡大された広告ゾーン﹄を設定することができる︒制限

された広告ゾーンとは︑十三条の手続きにしたがって︑市町村長が広告が正常には禁止されている区域に設定するこ

いは複数含まなければならないとされ︑

れに関連して七条三項は︑市町村長が意見のビラ貼りあるいは利益を目的としない結社の活動のために︑コンセイュ・

デタの定める条件にしたがって︑工事場の板囲いの使用を許可することができると定めている︒そして十五条は︑市

町村長が商業広告あるいは意見のビラ貼り等のために︑工事場の板囲いを一定の条件の下で利用する権利を有すると

る が

︑ これらの規定によって都市化区域の内部において意見のビラ貼りのための場所が確保されるかのような印象を与え

しかしこれらの規定についても批判的な意見が述べられている︒そもそも多様化は同時に複雑化でもあるわけ

で ︑

また工事場の板囲いによって支えられる広告は原則的に禁止されえない︒こ

ローバデールが主張するように︑人がビラを貼ろうとする時︑

権利がいかなる規定に服するのかを知ることがいつも容易だというわけではないという難点がある︒それに加えてま

ず第一にこれらの特別に留保された場所の数はおそらく少ないであろう︒そうなればそのようなビラ貼りのための場

所の値段は必然的に上がるので︑政党や利益を目的としない結社はこの場所を利用できない危険がある︒したがって

( 1 2 )  

これらの団体が自由に使用できる留保された場所を設けることが必要である︒また市町村長は工事場の板囲いに意見 定めている︒ とができるものである︒この制限された広告ゾーンには︑

六五

その区域がいかなるゾーンに属して︑ビラ貼りの

1 0

条によって意見のビラ貼り等のための場所を︱つある

(20)

しくは国家である には別である この法律が 一九七九年法はどのような制裁 のビラ貼り等を許可することができるのであって︑それを義務づけられるわけではない︒この工事場の板囲いを広告の支えとして利用する場合︑市町村は手数料を取る︒したがって︑市町村長は財政の観点から商業広告を優先させる

( 1 3 )  

であろう︒そして結果的には意見のビラ貼り等のための面積はますます狭くなっていく危険がある︒

次に制裁の問題に移る︒この複雑で多様な規制に違反して広告を掲示した場合に︑

を加えようとしているのかを︑意見のビラ貼りに焦点をあてて考察する︒

まず第一に︑前述したように法十二条は︑市町村長に対して意見のビラ貼り等のために特別に留保された場所を設

置することを義務づけているが︑

定める制裁に関する規定は意見のビラ貼り等に適用されないことになっている︵三八条︶︒次に法規定に違反した広

告等がなされた場合に︑市町村長は原状回復か広告の廃止もしくは法規定に合致させるように命じるアレテを出す︵ニ

四条︶︒もしこのアレテに従わなければ︑広告毎に一日につき一

00

フランの強制の債務を負わせるが︑意見のビラ貼

り等にはこの規定は適用されない︒ただし当該の場所が契約によって他の人には広告が禁止された場所であった場合

︵二五条︶︒第三に今述べたように︑市町村長は違反広告に対して原状回復等を命じるアレテを出すが︑

しかしこのアレテに定められた期間内に違反者がそれを履行しなかった場合には︑職権によってそれを執行させるこ

とができると定めている︒そしてその場合に要する費用は違反者に負担させることになっているが︑

ラ貼り等であった場合には︑違反者に負担させることができない︒その際の費用の分担は︑

︵二

三条

︶︒

もしこの規定に違反して市町村長がこの場所を整備しなかったならば︑

それが意見のビ

ケースに応じて市町村も

一九七九年法は刑事制裁についても一九四︱︱一年法の欠陥を是正するために新しい内容に改めた︒まず新法が刑事制

裁よりも行政による規制︑すなわち上述したような違反広告に対する職権による執行を優先させている点に大きな特

六六

(21)

る ︒ 反広告がなされた人︑ 色がある︒そしてそれに加えて刑事制裁は︑違反を繰返して行ない︑公序に対して重大な侵害を加えた人に対しての

( 1 4 )  

み科す︑というシステムがとられている︒二九条は︑催告した後にも違反広告を維持している人に対して︑違反広告

者に五

0

フランないし一

0 0 0 0

フランの罰金刑を定め︑再犯の場合にはその一一倍と定めている︒このように罰金の

であるのかを考慮に入れることができる︑

六七

額については最小で五

0

フラン︑最大で一

0 0 0 0

フランという相当な幅が設けられているということは裁判官に裁 量権が与えられているということであるから︑裁判官は︑違反広告が商業広告なのかあるいは非営利的な意見広告等

( 1 5 )  

と評価されている︒

刑事制裁に関連する規定の中で︑国会における審議の際に最も激しい論議を呼んだのは︑三

0

条の共犯の推定規定

である︒まず五条は︑広告にはすべて︑自然人であれ法人であれ︑広告主の名前と住所を記載しなければならない︑

と規定している︒この規定は︑立法者がとりわけ蔓延していた非合法なビラ貼りを抑圧することを企図して設けられ たといわれている︒もし広告にこの五条で記載を義務づけられた名前と住所が載っていない場合には︑そのために違

つまり受益者に対して共犯の推定が及び︑違反広告を掲示した本人と同じ刑が科されることに なっている︒この規定は政治的謀略のために悪用される危険があるとして強く批判された︒すなわち政治的に敵対関 係にある者が︑相手の名前を編った非合法なビラを貼り︑刑事制裁を受けさせる危険があると︒そこでその批判を受 け入れて︑政治的ビラ貼り等の広告のうちで最も多用されている選挙の性格を帯びる広告については︑先述したよう に次のように定められた︒すなわち選挙の性格を帯びる広告は禁止されるが︑もしそれがなされた場合には︑権限あ る行政当局は︑

その広告の受益者に対して二日以内に広告を撤去することあるいは原状回復することを催告する︒こ の催告に従って違反広告を撤去等をしなかった場合にのみ︑五

0

フランないし一

0 0 0 0

フランの罰金刑に処せられ

つまり違反広告があるという事実を知らないで罰金刑が科されないという保障を与えているのである︒

(22)

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←) Augsthelm, L'affichage publicitaire en qOete d'un droit, A.].D.A, 1970, p. 201. 

(N) Louis de Gastines, La reforme du droit de la publicite des enseignes et des preenseignes, R.D.P, 1981, p. 698 

(M) Ducos‑Ader, Techinique legislative en matiredes libertes publiques, Le projet de la loi sur l'affichage, Recueil Dalloz, 1978, 

Chronique, pp. 272‑274. 

("""') Journal officiel, Debats parlementaires, Assemblee Nationale, 1979, 4. 19, p. 2805. 

(Lt:)) Journal officiel, Debats parlementaires, Senat, 1979. 6. 25, pp. 2169‑2170. 

(<..O)迅赳Q~以ざJurisclasseurperiodique, 1980, Textes 49355~ 薬心゜

(t‑) Dumas, ibid., pp. 106‑107. 

(oo) Louis de Gastines, ibid., p. 716. 

(23)

てのフランス法における法的諸問題の検討を通じて︑ しかしこのような限定つきであるとはいえ︑ か

った

ので

その意味では不十分であるとのそしりを免れがたいであろう︒

六 九

それについては全く言及しなかったし︑何よりも

四 お わ り に

( 1 3 )

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.   p.108 

( 1 0 )

1 1

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( 1 2 )

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70 6.  

( 1 4 ) L   ou is   de   Ga s t i n e s ,  

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71 6.  

( 1 5 ) L   ou is   de   Ga s t i n e s ,

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( 1 6 )

L  

ou is   de   Ga s t i n e s ,   i b i d . ,   p .   7 2 1 .  

政治的表現の自由の一手段としてのビラ貼りをめぐるわが国の問題状況を背景にして︑

の自由に関する法制度の内容とその問題点について概観した︒ただし一九七九年法に関しては︑

コンセイュ・デタのデクレに委任されているのにもかかわらず︑

九七九年法の規制の下における意見のビラ貼りの自由の実態についても︑資料不足のため検討を加えることができな

これまで比較法研究のほとんどなされていないビラ貼りの自由につい

わが国との大きな落差を認識しえたのではないかと思料する︒

(9 )D

n a s ,

i b i d . ,  

pp .1 08

1 09  

その具体的な細目が フランスにおけるビラ貼り

(24)

いかに認識しているかの差異︑つまるところ民主主義の成熟度の差異に帰着するであろう︒ 一九七九年法が制定される前は︑国会と裁判所は︑政治的ビラ貼りと商業広告とでは異なる意義と機能を有してい

るという認識の下に︑前者を尊重すべくこれに対する行政的・刑事的規制を最小限に抑制してきたといえよう︒

七九年法は︑広告規制という名目の下に︑以前とは異なって政治的ビラ貼りと商業広告を同一の法律で規制している

が︑しかし野党の強い反対もあって︑政治的ビラ貼りを尊重しようとする配慮が随所に表明されている︒それは本論

で述べたように︑

まずもって冒頭の第一条で国民の表現する権利を宣言していること︑意見のビラ貼り等のために特

別に留保された場所を設置することを市町村長に義務づけていること︑法令に違反して広告がなされた場合に︑意見

のビラ貼りについては金銭上の強制を課していないこと︑さらに違反広告の場合には行政規制がまず優先し︑

尽くした後にのみはじめて刑事制裁が課されるシステムが採られていること等の諸点にみられる︒

七〇

それを

このような法制度の内容はわが国の状況と大いに異なることはいうまでもない︒極端なケースではあるが︑わずか

一枚の政治的内容のビラを貼っただけで刑事責任が追求された事件︵大森簡裁四二年三月三一日判決︶や政治的ビラ

を貼ったために一

0

日間の拘留刑に処せられた事件︵愛知原水協事件・一宮簡裁四一年三月二四日︶と比較すれば︑

その落差の大きさを痛感せずにはいられない︒この落差は結局のところ︑政治的表現の自由の意義を国民や公権力が

一 九

参照

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Emmerich, BGB – Schuldrecht Besonderer Teil 1(... また、右近健男編・前掲書三八七頁以下(青野博之執筆)参照。

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