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耐震型ダクタイル鉄管を用いた 断層横断部の管路設計方法の研究

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Academic year: 2022

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(1)

耐震型ダクタイル鉄管を用いた 断層横断部の管路設計方法の研究

小田 圭太

1

・岸 正蔵

2

・宮島 昌克

3

1正会員 株式会社クボタ 鉄管研究部(〒660-0095 兵庫県尼崎市大浜町2丁目26番地)

E-mail: keita.oda@kubota.com

2正会員 株式会社クボタ 鉄管研究部(〒660-0095 兵庫県尼崎市大浜町2丁目26番地)

E-mail: shozo.kishi@kubota.com

3正会員 金沢大学大学院教授 自然科学研究科(〒920-1192 石川県金沢市角間町)

E-mail: miyajima@se.kanazawa-u.ac.jp

地震時の地表地震断層によって,導送水管のような重要幹線管路が被害を受けると,長期にわたる断水 につながる恐れがある.しかしながら,これまでに耐震型ダクタイル鉄管(鎖構造管路)による断層横断 部の管路設計手法は確立されていなかった.そこで,鎖構造管路による断層対策管路の設計手法について 研究した.まず,断層横断部の管路設計に用いる管路挙動解析の妥当性を検証するために,実管を用いた 断層模擬実験を行い,実験と管路挙動解析の結果がよく一致することを確認した.管路挙動解析により,

鎖構造管路は1.6m程度の断層変位に対しては特殊な対策は不要であり,1.6m以上の断層変位に対しては長 尺継ぎ輪を用いた管路設計が有効という知見を得た.地表断層の出現位置のばらつきを考慮した,鎖構造 管路による断層対策管路の設計手法を提案した.

Key Words : fault, earthquake resistant ductile iron pipe, pipeline behavior analysis

1. はじめに

日本の陸域には2000を超える活断層が存在すると推定 されている.近年では,2011年福島県浜通り地震で約 1.8m1),2016年熊本地震で約2.0m2)の地表断層による地盤 変位が観測されている.

管路と交差するように地表断層が生じると,局所的に 管路と地盤の間に相対変位が生じるため,管路が多大な 被害を受ける可能性がある.1971年サンフェルナンド 地震では,サンフェルナンド断層近傍の水道管,ガス管,

下水管の破裂や座屈破壊が報告されている 3), 4).また,

1999年台湾集集地震では,断層変位によって管路が圧 縮されて座屈し,Z字形に変形した事例が報告されてい る5)

断層変位に対する管路挙動については,鋼管などの一 体構造管路や,ダクタイル鋳鉄管などの継手構造管路を 対象に研究がなされている6), 7), 8).継手構造管路のうち,

継手部が離脱防止機構を有する耐震型ダクタイル鉄管か らなる管路については,土槽実験や解析による,断層横 断部の管路挙動の研究等がなされているが 9), 10),断層横 断部の管路設計法は確立されていなかった.

耐震型ダクタイル鉄管は継手部が自由に伸縮・屈曲し,

一定量伸び出すと抜け出さない構造であり,地震時の大 きい地盤変位を吸収することができる.これまでの 40 年間,耐震型ダクタイル鉄管は 1995年兵庫県南部地震,

2011年東北地方太平洋沖地震,2016年熊本地震など多 くの地震を経験してきたが,被害は報告されていない.

また,耐震型ダクタイル鉄管が液状化などの地盤変状に 追従した事例は数多く報告されている11), 12), 13)

本研究では,耐震型ダクタイル鉄管による断層横断部 の管路設計法の確立を目的とし,実管を用いた断層模擬 実験および有限要素法による管路挙動解析を行った.実 験により妥当性を確認した管路挙動解析を用いて,大口 径管路挙動解析を行い,断層変位に対して,耐震継手お よび耐震継手の10倍の伸縮性能を有する長尺継ぎ輪を用 いた配管が有効であることを検証し,断層の出現位置の ばらつきを考慮した管路設計法を提案した.

2. 耐震型ダクタイル鉄管の挙動

図-1に耐震型ダクタイル鉄管の一例として,GX形ダ クタイル鉄管の伸縮挙動を示す.表-1にGX形ダクタイ

(2)

ル鉄管の継手性能を示す.GX形ダクタイル鉄管の継手 は管長の±1%の伸縮性能を有しており,限界まで伸び 出しても挿し口突部とロックリングが引っ掛かることで,

継手が抜け出すことなく,地盤変状に追従できる.

図-2に地滑りのような地盤変状に対する耐震型ダクタ イル鉄管の挙動の概要を示す.一つの継手の伸縮量が限 界に達しても,隣の継手が伸び出すことで大きな地盤変 位を吸収する.あたかも鎖のように挙動することから,

鎖構造管路とも呼ばれる.

3. 実管を用いた断層模擬実験

断層変位を受けた耐震型ダクタイル鉄管の挙動を確認 するために,土砂箱を用いた断層模擬実験を行った.

(1) 実験方法

図-3に実験方法,図-4に実験装置,表-2に実験条件を 示す.長さ9.5m,幅3.2m,高さ2.3mの2分割の土砂箱の 中に,呼び径200 GX形ダクタイル管路を土被り0.8mで埋 設し,片側の土砂箱をアクチュエータを用いて1.2m水平 方向に移動させ,管路挙動を計測した.直管は伸び量が 40mmとなるよう接合した(管長の1%の30mmおよび曲 げ角度分の10mmの合計).

本実験では,管路は引張方向の変位を受けるが,圧縮 変位を受ける実験については参考文献を参照されたい9)図-1 GX形ダクタイル鉄管の挙動

-1 GX形ダクタイル鉄管の性能

-2 地盤変状を受けた耐震型ダクタイル鉄管の挙動

表-2 実験条件

-3 実験方法

【初期状態】 【実験後】

-4 実験装置(管路布設後) -5 実験後の土砂箱の状態 長さ9.5m

3.2m

高さ 2.3m

項目 管路条件 項目 地盤・断層条件

管路 呼び径200GX形 地盤の種類 砂質地盤

管厚 7.5mm 地盤のN値 15

継手数 4個 土被り 0.8m

管長 3m 断層変位量 1.2m

断層交差角 50°

項目 性能

継手伸縮量 管長の±1 %

離脱防止性能 3D kN (D: 呼び径[mm]) 最大屈曲角度

(3)

(2) 実験結果

図-5に実験後の土砂箱の状態,図-6に実験後の管路の 状態を示す.耐震型ダクタイル鉄管は鎖構造管路挙動に より,断層変位によく追従できることが判った.

a) 継手伸縮量

図-7に継手伸縮量と断層変位量の関係を示す.断層近 傍に位置する継手A,A’が限界まで伸び出した後,隣 の継手B,B’が伸び出した.断層近傍の継手が限界ま で伸び出しても,継手の離脱防止機構により隣の管が引 っ張られ,隣の継手が伸び出して地盤変位を吸収した.

b) 継手屈曲角度

図-8に継手屈曲角度と断層変位量の関係を示す.断層 近傍に位置する継手A,A’が5~6°まで屈曲した後に,

継手B,B’が屈曲し,管軸直角方向の地盤変位を吸収 した.

c) 管路挙動

管路は地盤変位によく追従し,管体に変形は見られな かった.断層近傍の継手が限界まで伸縮・屈曲しても,

隣の継手が次々に伸縮・屈曲し,管路全体で地盤変位を 吸収する鎖構造管路挙動が確認された.

4. 実験結果の再現解析

断層模擬実験と管路挙動解析の結果を比較し,解析手 法の妥当性を確認した(使用ソフトウェア:DYNA2E,

3次元/ 2次元骨組構造物非線形解析ソフト).

(1) 解析モデルの概要

図-9に解析モデルの概要を示す.管をはり要素,継手 特性,地盤特性をばねとするモデルとし,材料非線形性 および幾何学的非線性を考慮した.鉄部の縦弾性係数は 160GPa,ポアソン比は0.28とした.管はシェル要素でモ デル化してもよい.図-10に管にシェル要素を使用する 場合の継手部のモデルを示す14).図-11に示すように,

断層面を境界として,片側の地盤節点に強制変位を与え ることで,断層模擬実験をモデル化した.

(2) 継手ばね

継手ばね(図-12)は基礎実験結果から設定した15). 例として,図-13に回転ばねを求める実験状況を示す.

管軸方向ばねは継手伸縮領域(変位量0~δa)と,離脱 防止機構で伸縮が止まる領域(変位量δa~)で異なるば ね定数を設定した.回転ばねは継手内部で管が接触する 5.3°を超えると曲がりにくくなるように設定した.著 者らは,実管による基礎実験から,継手の伸びによる,

継手屈曲特性への影響が小さいことを確認している16)

地盤ばね

継⼿ばね

地盤節点

断層⾯

強制変位(断層変位量)

固定側 移動側

直管

図-6 実験後の管路の状態

Ka Kb

δa 継手変位δ

軸力

Kra Krb

θa 継手屈曲角 曲げント

Ks 継手変位δ’

せん断荷重

-7 継手伸縮量

-8 継手屈曲角度

‐8

‐6

‐4

‐2 0 2 4 6 8

0 300 600 900 1200

継手屈曲角度°

断層変位量(mm)

移動側

固定側 0

10 20 30 40 50

0 300 600 900 1200

継手伸縮mm

断層変位量(mm)

継手B 継手A 継手A' 継手B'

継手B 継手A 継手A' 継手B'

図-9 解析モデルの概要

図-11 断層模擬実験のモデル化

-12 継手ばね(呼び径200 GX形)

図-10 継手モデル

± ±

a 9.80×100(kN/m) Kra 4.79×10-1(kN-m/deg) Ks 1.96×105(kN/m) b 2.45×105(kN/m) Krb 1.04×101(kN-m/deg)

δg 0.04(m) θa 5.3(deg)

管軸方向ばね 回転ばね 管軸直角方向ばね

地盤ばね 管(はりまたはシェル) 継⼿ばね

管軸方向ばね要素 法線方向ばね要素

接線方向ばね要素

(挿し口) (受口)

(4)

(3) 地盤ばね

地盤ばねは文献17)を参考に,図-14にように設定した.

管軸方向地盤ばねは,文献17)を参考に式(1a),式(1b) のように設定した.管と地盤のすべりを考慮し,管と地 盤の相対変位が限界値を超えるとばね定数が小さくなる バイリニアモデルで設定した.

管軸直角方向地盤ばねは,文献17)を参考に式(2a),式

(2b)のように設定した.式(2a)中の地盤反力係数K は,断

層模擬実験時に簡易動的コーン貫入試験により測定した 地盤N値より,福岡-宇都の式18)から求めた.

∙ ∙ ∙ ∙ tan∆/ (1a) 0.001 ∙ (1b)

∙ ∙ (2a) 0.001 ∙ (2b) ここに,

k1,k2 :管軸方向地盤ばね定数 kt1,kt2 :管軸直角方向地盤ばね定数 D :管の直径

γ :土の単位体積重量(=16kN/m3) h :土被り(=0.8m)

Δ :土の内部摩擦角(=36°) 19) K :地盤反力係数(=20,700kN/m3) ℓ :管の単位長さ

δa :滑り開始時の管と地盤の相対変位

(4) 解析結果と実験結果の比較

図-15に解析と実験の継手屈曲角度の比較を示す(管 ははり要素でモデル化).解析結果と実験結果でよく一 致しており,管路挙動解析手法の妥当性を確認できた.

5. 大口径管路の管路挙動解析

大口径管路での実大実験は困難であるため,断層模擬 実験で妥当性が検証された管路挙動解析により,断層変 位に対する性能を確認した.また,断層変位に対して有 効な管路設計方法を検証した(使用ソフトウェア:

Marc.Mentat,汎用非線形構造解析ソフトウェア).

(1) 解析条件

図-16,表-3に解析条件を示す.呼び径1500 US形ダク タイル鉄管を対象とし,管はシェル要素でモデル化した.

図-17に継手ばね,図-18に地盤ばねを示す.実物を用い た基礎実験結果に基づいて,継手ばねを設定することで,

継手の種類,口径の影響を考慮した.管路長は管路両端 が断層変位の影響を受けない十分な長さ200mとした.

通常,US形継手は圧縮状態(伸縮量:管長の+1%)で 配管されるが,今回は圧縮量と伸び量が同じになるよう

(伸縮量:管長の±0.5%)モデル化した.断層は鉛直方 向変位 3m,交差角 60°の逆断層とし,継手部に交差す るように設定した. なお,本報告の断層変位量は鉛直 方向変位を指すものとする.

‐10‐8

‐6

‐4

‐2 0 2 4 6 8 10

継手屈曲角度(°)

実験結果 解析結果

‐10 ‐5 0 5 10

断層からの距離(m)

-13 継手ばね(回転ばね)設定のための実験状況

-15 解析結果と実験結果の比較

図-17 継手ばね(呼び径1500 US形)

Ka Kb

δa 継手変位δ

軸力

Kra Krb

θa 継手屈曲角 曲げーメ

Ks 継手変位δ’

せん断荷重

図-16 解析条件

-3 解析条件 -14 地盤ばね

1 1.45×103(kN/m) kt1 4.57×103(kN/m) 2 1.45×100(kN/m) kt2 4.57×100(kN/m) δa 0.002(m) δt1 0.002(m)

管軸方向ばね 管軸直角方向ばね

k1 kt1

軸方向摩擦 軸直角方向摩k2 kt2

δa 相対変位 δt1 相対変位

a 9.20×103(kN/m) Kra 1.66×102(kN-m/deg) Ks 2.00×106(kN/m) b 1.98×106(kN/m) Krb 4.28×102(kN-m/deg)

δg 0.0475(m) θa 3.2(deg)

回転ばね 管軸直角方向ばね

管軸方向ばね

± ±

(1.7m)

60° 断層 管路⻑︓200m 呼び径1500 US形

直管(管⻑4m)

固定側

断層変位量 3.4m

鉛直⽅向変位 3.0m

項目 管路条件 項目 地盤・断層条件

管路 呼び径1500 US形 断層の種類 逆断層

管厚 16.5mm 断層変位量(鉛直) 3.0m

鉄部の縦弾性係数 160GPa 断層交差角 60°

鉄部のポアソン比 0.28 地盤反力係数 33,827kN/m3 継手伸縮量 ±47.5mm

(5)

(2) 評価基準

表-4に評価項目を示す.管路の安全性は軸力,継手屈 曲角度,管体応力で評価した.軸力は3DkN (D:呼び径 [mm])である4,500kN以下,継手屈曲角度は4.0°以下,応 力はダクタイル鋳鉄の耐力270Pa以下とすることで,弾 性設計することができる.

(3) 解析結果

表-5 に解析結果の一覧を示す.断層対策を施してい ない管路でも,断層変位 1.6m程度まではすべての基準 値を満足した.しかしながら,1.6mより大きい断層変 位を受けると,軸力が基準値を超過し,断層変位 3.0m では軸力,継手屈曲角度が基準値を超過した.

図-19~図-22に解析結果を示す.解析結果の横軸は断 層の位置を0mとしたときの管軸方向の座標である.

図-19に示すように,断層変位に追従して管路が変形 した.断層近傍では,断層変位量以上に鉛直方向に変位 している継手があった.

図-20に継手屈曲角度の解析結果を示す.継手屈曲角 度の正負の符号は屈曲する向きを示す.断層変位が 3.0mのときには,断層近傍の複数の継手が基準値の4° を超えて屈曲していた.また,32mの範囲で継手が1°

以上屈曲していた.

図-21に軸力の解析結果を示す.軸力の正負はそれぞ れ引張(+),圧縮(-)を示す.いずれの断層変位量で も,断層面の位置で圧縮力が最大であった.断層変位量 が 1.6mを超えると,軸力の最大値が基準値の 3DkNを 超過し,断層変位3mでは広い範囲で3DkNを超過した.

これは図-22に示すように,140mの範囲で継手が限界ま で圧縮されたために,広い範囲で管路と地盤に相対変位 が生じ,地盤から受ける摩擦力が大きくなったためであ ると考えられる.

なお,本章の解析結果は,実大実験で妥当性を検証し た解析手法により求められているが,実大実験より大き い断層変位量での計算結果である点は留意されたい.

-5 解析結果一覧

評価項目 許容値 呼び径1500 US形の例

軸力 3DkN (D: 呼び径[mm]) 4500kN

継手屈曲角度 継手の限界屈曲角度 4.0°

管体発生応力 ダクタイル鋳鉄の耐力 270MPa

-18 地盤ばね

-19 管路・継手の変位量

-20 継手屈曲角度

-21 軸力

図-22 継手伸縮量

32m の範囲で継手が屈曲 1 3.66×104(kN/m) kt1 5.26×104(kN/m)

2 3.66×101(kN/m) kt2 5.26×101(kN/m) δa 0.002(m) δt1 0.002(m)

管軸方向ばね 管軸直角方向ばね

k1 kt1

軸方 軸直角方摩擦力

k2 kt2

δa 相対変位 δt1 相対変位

-4 評価項目

-10000 -8000 -6000 -4000 -2000 0

-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100

軸力(kN

管路の位置(m)

断層変位1.0m 断層変位2.0m 断層変位3.0m 3DkN

9460kN -0.5

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100

管路・継手位[鉛直]m

管路の位置(m)

断層変位1.0m 断層変位2.0m 断層変位3.0m

断層変位以上に 動いた継手

-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5

-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100

継手屈曲角度(°

管路の位置(m)

断層変位3.0m

4.58°

4.58°

-350 -300 -250 -200 -150 -100 -50 0

-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100

伸縮量mm

管路の位置(m)

断層変位3.0m 継手が圧縮された範囲:140m 断層変位量 軸力 継手屈曲角度 応力

(m) (kN) (deg) (MPa)

1.6 4314 3.7 49

3.0 9460 4.6 111

許容値 4500 4.0 270

*下線部は許容値を超過した項目

(6)

6. 長尺継ぎ輪による断層対策

大きい地盤変位に追従するためには,より狭い範囲で 断層変位を吸収させる必要がある.そこで,図-23に示 すように,直管継手の10倍の伸縮性能を有する長尺継ぎ 輪を配置することで,地盤変位を大きく吸収させる.

長尺継ぎ輪は継手が1°以上屈曲している範囲を挟むよ うに設置する.上述の例では,図-20に示すように,

36mの範囲で継手が1°以上屈曲しているため,長尺継ぎ 輪の設置間隔(スパン)は36mとなる.図-24に示すよ うに長尺継ぎ輪を36m間隔で配置し,管路挙動解析を行 った.その他の解析条件は表-3と同じとする.

表-6,図-25~図-28に解析結果を示す.図中の白抜き のプロットは長尺継ぎ輪継手部の位置である.

図-25に示すように,断層変位を吸収するために継手 が圧縮される範囲は72mであった.長尺継ぎ輪が集中的 に変位を吸収し(図中白抜部),地盤からの影響範囲を極 度に小さくできたことで,地盤から受ける摩擦力が低減 され,軸力を大幅に低減できた(図-26).長尺継ぎ輪を 境に軸力が大幅に変化し,長尺継ぎ輪から断層面にかけ て軸力が増加していることから,長尺継ぎ輪の間隔が軸 力低減効果を考える上で重要であることが判る.

図-27に管路の変位を示す.軸力が低減されたため,

図-27 A部の管路変位が軽減された.これにより,図-28 に示すように,長尺継ぎ輪を使用した管路では直管管路 と比較して継手屈曲角度が低減され,基準値以下の4°以 下になった.

以上の結果から,長尺継ぎ輪を用いた断層対策管路は,

3mの断層変位に弾性範囲内で追従可能であり,断層変 位に対して有効な管路設計方法であることが判った.

-23 長尺継ぎ輪を使用した断層対策

図-24 解析条件(断層対策管路)

-6 解析結果

断層変位量 軸力 継手屈曲角度 応力

(m) (kN) (deg) (MPa)

3.0 4360 3.8 85

許容値 4500 4.0 270

-350 -300 -250 -200 -150 -100 -50 0

-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100

伸縮量(mm

管路の位置(m)

断層変位3.0m 72m

長尺継ぎ輪

-10000 -8000 -6000 -4000 -2000 0

-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100

軸力(kN

管路の位置(m

断層変位1.0m 断層変位2.0m 断層変位3.0m

3DkN 4360kN

-0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100

路・継手位置(直)m

管路の位置(m 断層変位1.0m

断層変位2.0m 断層変位3.0m

-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5

-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100

継手屈曲角度°

管路の位置(m 断層変位3.0m

3.87°

3.75°

-25 継手伸縮量

-26 軸力

図-27 管路・継手の変位量

図-28 管路・継手の変位量

断層変位

⻑尺継ぎ輪

管軸⽅向変位を⼤きく吸収 直管継⼿

(伸縮・屈曲)

伸縮

直管受⼝ ⻑尺継ぎ輪 直管挿し⼝

伸縮

A 部

鉛直⽅向変位 3.0m

(1.7m)

60° 断層

管路⻑︓200m 呼び径1500 US形

直管(管⻑4m)

固定側 移動側

断層変位量 3.4m

⻑尺継ぎ輪

⻑尺継ぎ輪のスパン︓36m

(7)

7. 断層出現位置が明確でない場合の影響評価

上述の解析では,断層面の位置を継手部として均等に 長尺継ぎ輪を配置した.しかしながら,通常,地表断層 の出現位置は特定できず,幅を持って示される.そこで,

断層出現位置が明確でない場合の安全性を確認した.

図-29 解析条件

図-30 解析結果(断層出現位置による比較)

(1) 解析条件

図-29に解析条件を示す.断層が継手部,管体部,長 尺継ぎ輪部に生じた場合を考え,No.1~7の7条件の断層 位置で管路挙動解析を行った.断層出現位置を除いて,

解析条件は図-24および表-3と同じとした.

(2) 解析結果

図-30に断層変位3mでの最大軸力,最大継手屈曲角度,

最大応力の解析結果を示す.いずれも基準値以下であっ た.断層が交差する位置によって,数値に大きい差はな いため,長尺継ぎ輪で挟まれた範囲のどこに断層変位が 生じても安全性は確保できると考えられる.

(3) 設計例

図-31に断層想定範囲が幅を持つ場合の設計例を示す.

断層想定範囲を挟むように長尺継ぎ輪をスパンSで配置 する.スパンSは管路挙動解析で基準値を満足するスパ ンとする.例えば,上述の解析例であれば,スパンSは 36mとなる.このように設計することで,断層想定範囲 のどこに断層が生じても,断層を長尺継ぎ輪で挟むこと ができるため,管路の安全性を確保できると考えられる.

8. 断層対策管路の設計手法

図-32に断層対策管路の設計フローを示す.まず,断 層対策無しで管路挙動解析を行い,継手屈曲角度・管体 発生応力・軸力を評価する.これまでの研究結果14), 20)か ら,管径によって異なるが,おおむね断層変位が1.6m程 度であれば,断層対策無しで断層変位に追従できること が判っている.

評価項目の内,最も低い断層変位で許容値を超過する 項目が軸力の場合は,通常の耐震継手の約10倍の伸縮性 能を有する長尺継ぎ輪を用いた管路で再計算する.継手 屈曲角度または管体発生応力が最も低い断層変位で許容 値を超過する場合は,通常の耐震継手の2倍屈曲する継 ぎ輪を用いた管路で再計算する.継ぎ輪・長尺継ぎ輪の スパンは管路挙動解析の繰り返し計算によって決定する.

最後に,地震時に地表断層が出現すると想定される範囲 を基に,管路に断層対策を施す範囲を決定する.

なお,実大実験(3章)以上の変位量を考慮する場合 は,解析精度を考慮して,入力する断層条件等を決定す る,もしくは余裕を持った評価基準(耐力を評価基準に する等)で評価することが望ましい.

長尺継ぎ輪

0 -4 -8 -12

-18 12(m)

解析No. 6 5 4 3 2 1 7

断層の位置 解析 No.

継手部 1, 3, 4, 5, 7

管体部 2

長尺継ぎ輪部 6

断層のスパン中心からの距離(m)

最大軸力(kN)

断層のスパン中心からの距離(m)

断層のスパン中心からの距離(m)

最大継手屈曲角度(°) 最大応力(MPa)

-31 断層想定範囲が幅を持つ場合の設計例

断層想定範囲

スパンS

S/2

スパンS スパンS’

スパンS’

S/2

:長尺継ぎ輪

(8)

図-32 設計フロー

-33 地盤モデル

-7 レベル2地震動による地震波

9. 断層変位後のレベル2地震動に対する安全性

地下に布設されている管路に損傷が生じた場合,速や かな機能回復は難しい.したがって,断層変位を受けた 後,そのまま継続して健全に使用できることが重要であ る.そこで,断層変位を受けた後に,さらにレベル2地 震動による地盤変位を受けた場合の性能照査を行った.

図-33に検討対象としたモデル地盤を示す.表-7に管 路の位置で生じるレベル2地震動による地震波の諸元を 示す(算出方法は「水道施設耐震工法指針・解説21)」参 照).断層変位および管路の条件は図-24と同じとした.

図-34に示すように,地震波の入射角は管路に対して 45°とし,断層位置の位相が0となる条件(断層位置で 軸方向・軸直角方向変位の増分が最大となる条件)で管 路挙動解析を行った.

表-8に解析結果の比較,図-35に解析結果の例として 軸力の比較を示す.軸力,継手屈曲角度,応力はいずれ も基準値以下であったが,軸力が若干上昇していた.断 層横断部の管路設計時には,レベル2地震動により生じ る軸力を差し引いた値を許容値として,軸力を評価する ことで,より安全な管路を構築できることが確認された.

図-34 地震波と断層の位置関係

-35 軸力の比較(断層変位量3.0m

10. まとめ

本研究では,断層模擬実験を行い,断層部の耐震型ダ クタイル鉄管の挙動を確認するとともに,管路挙動解析 の妥当性を確認した.また,大口径管路を対象に管路挙 動解析を行い,長尺継ぎ輪を用いた設計方法の有効性の 検証,および断層横断管路の設計手法の考察を行った.

その結果,以下の知見が得られた.

1) 断層模擬実験により,耐震型ダクタイル鉄管は鎖構造 管路の挙動を示し,断層変位に無理なく追従すること を確認した.

2)断層模擬実験をモデル化して管路挙動解析を行った結 果,解析結果と実験結果はおおむね一致しており,解 析手法の妥当性が確認できた.

3)呼び径1500 US形ダクタイル管路は1.6m程度の断層変位

に継手の伸縮・屈曲で追従でき,断層変位後の管路は 弾性範囲内であった.

4)1.6mを超える断層変位に対しては,通常の直管継手の

管軸上の地盤の水平方向振幅 Uh 0.155m 地震時の波長 L 194.6m

入射角 45°

断層 断層対策無しで解析

継⼿屈曲⾓度の確認 応⼒の確認

軸⼒の確認

⻑尺継ぎ輪を⽤いた配管

(スパンの決定)

再確認 (継⼿屈曲⾓度) (応⼒),(軸⼒) 継ぎ輪を⽤いた配管

(スパン,管⻑の決定)

再確認(軸⼒)

断層対策範囲の決定 OK

OK

OK NG NG

OK OK

NG

NG NG

終了

‐10000

‐8000

‐6000

‐4000

‐2000 0

‐100 ‐80 ‐60 ‐40 ‐20 0 20 40 60 80 100

軸力(kN

管路の位置(m 断層変位

断層変位+レベル2地震動

表-8 解析結果の比較 地盤変位 軸力

(kN)

継手屈曲角度 (deg)

応力 (MPa) 断層変位+

レベル2地震動 4486 3.8 82 断層変位 4360 3.8 85 許容値 4500 4.0 270

(9)

10倍の伸縮代を有する長尺継ぎ輪を配置することで,

3mを超える断層変位に弾性範囲内で追随可能であった.

5)断層の位置が特定できない場合の設計方法および断層 対策管路の設計フローを示した.

6)レベル2地震動による地盤変位を考慮した管路挙動解 析を行うことで,より安全な管路を構築できることが 確認された.

参考文献

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19) 宮崎政三,高橋彦治:土木地質学,pp. 121-130, 共立 出版,1970.

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21) 社団法人日本水道協会:水道施設耐震工法指針・解 説(2009年版),2009.

(2018.11.1 受付,2019.2.28 修正,2019.3.4 受理)

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(10)

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