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雑誌名 同志社政策科学研究

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(1)

著者 杉本 究

雑誌名 同志社政策科学研究

巻 8

号 1

ページ 73‑91

発行年 2006‑07‑25

権利 同志社大学大学院総合政策科学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000010976

(2)

あらまし

 近時の司法制度改革の一環として、訴訟手続 によらず、公正な第三者たる専門家の活用によ り紛争の実情に即した解決を図ろうとする裁判 外紛争処理手続(Alternative Dispute Resolution;

ADR)の拡充・活性化が必要とされている。その 潮流からすれば、事業再生版の裁判外紛争処理手 続と言える私的整理(事業再生ADR)が、その現 場においても利害関係者の総意では圧倒的に好ま れる傾向とも相俟って、将来的にはさらにその意 義並びに重要性が増すであろうと考えられる。 

 本稿では、まず、筆者のアドバイザー業務経験 に基づき、実務的視座からする私的整理の作業 工程並びに作業負担について時系列的に俯瞰す るとともに、私的整理、法的整理及び私的整理と 法的整理の連続性にかかる課題について検証し た。次に、以上の検証結果を踏まえつつ、事業再 生ADR 活用に向けての一試論として、ADR基本 法に定める認証機関に関して、その導入効果も 含めた政策提言を行うとともに事業再生ADRの 機能について検討した。

 認証機関に認定される基準としては、英国の イ ン ソ ル ベ ン シ ー ・ プ ラ ク テ ィ シ ョ ナ ー

(Insolvency Practitioner)を範とした資格制の導入 により、当該人材を擁する民間事業者が認証機

関として認定されることとし、その機関活用の 効果として、認証機関が関与・策定した私的整理 の場合は、仮に法的整理に移行した場合におい ても、私的整理の過程で合意形成が可能となっ た部分について一定の法的効果を供与する仕組 みが検討に値する。そして、事業再生 ADR の機 能としては、①コスト削減機能②早期着手機能

③権利調整機能を有することが期待され、その 活性化は事業再生全体の効率性・実効性に資す るものと言えよう。

1.はじめに

 経営が窮境に陥った企業(以下、「窮境企業」と 云う)が事業再生1を図る場合を大別すると、窮 境企業および債権者など利害関係者の私的自治 に則り、裁判所を介さずに利害調整を行う私的 整理と、裁判所を介し民事再生法などの法律に 則る法的整理、の二つとなろう2

 その事業再生の現場は、利害関係者の利害が ぶつかり合う、まさに「ひと」と「ヒト」との戦 いの場であり、そこでは時として論理や道理が 通らぬ「奇々怪々」な事象が頻繁に発生すること が少なくない。現場を知りうる事業再生アドバ イザー3の経験からすれば、その「奇々怪々」ぶ

事業再生ADRに関する一考察

―事業再生の現場から―

杉 本  究   

  1   「事業再生」の概念は、「企業自体の再建・再生よりも、企業の中で不採算事業を除いた後の再生可能な事業を重視するとともに、

さらには当概再生可能事業を他へ営業譲渡することによる業界再編を通じての産業再生を視野にいれ(る)」ことと定義される(田 作朋雄「産業再生機構の機能と展望」『ジュリスト』1265 号,2004 年,23 ページ)。近時は「事業再生」が、「企業再生」や「企業 再建」などのさまざまな言葉によって使われているが、本来的には、「企業再生」や「企業再建」という概念とは一線を画するも のである。

  2  私的整理並びに法的整理については、さらに(講学上は)清算型と再建型に大別されると考えられるが、本稿では特に断りの無 い限り、いずれも再建型を企図するものとする。なお、清算型と再建型という区分は、近時の倒産処理手続にあっては、その差 異は相対的なものに過ぎないと言えるが、これら論点は本稿の課題ではない。

  3  筆者は大手監査法人系列の外資系コンサルタント会社に所属し、事業再生に関わるアドバイザー業務を行っている。なお、本稿 に述べる意見は全て私見である。

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  4  例えば、金融債権者にとっては実質的な負担が生じる「金融支援」が行われる予定にもかかわらず、一方で「自助努力」を行な おうとしない企業、減資や退任などの「経営者責任」を取りたがらず曖昧模糊な発言や行動を繰り返す経営者の存在、明らかに 公正かつ衡平な経済合理性を有すると考えられる事業再生計画にもかかわらず、いわゆる「ゴネ得」を狙っての「メイン寄せ」を 図り、事業再生計画の合意を渋る金融機関の出現など、その事象を挙げれば枚挙に暇がない。なおこれら事象は、第2章におい ても事例として列記する。

  5  これら私的整理のメリットについては、伊藤眞『債務者更生手続の研究』西神田編集室,1984 年,231 ページ・山本和彦『倒産 処理法入門〔第2版補訂版〕』有斐閣,2006 年,17 − 18 ページなど多くの文献で指摘されているところである。

  6  但し、これは筆者の経験する私的整理が中堅もしくは大規模企業とも呼べるクラスの企業が多いことから、その案件の規模に起 因する部分も大きいものと思われる。

  7  改正前会社更生法では、更生計画案の提出時期の上限についてなんらの制約も設けていなかったが、改正会社更生法では、更生 計画案の提出が遅延する事態を防ぐため、裁判所の定める更生計画案の提出時期を、更生手続開始の決定の日から原則として1年 以内としている(第 184 条第3項)

  8  「懲罰的倒産観」については、3 . 2 「法的整理」にて詳述する。

  9  私的整理においては、商取引債権者は事業継続の観点から支援要請の対象としないのが通常である。

りは私的整理の現場において特に顕著であり4、 けだし、私的整理と法的整理の精神的・肉体的な 労力を比較した場合には、私的整理の方が負担 が大きいように思われる。

 しかしながら、利害関係者がまず検討する手 続は私的整理である。わが国の法的整理が、近時 の法改正を受けて、倒産処理手続先進国とも言 える米国と比しても遜色は無いと言って良いほ ど利便性が高く、充実が図られつつあるにも拘 らず、である。事実、法的整理で利害関係者の合 意が形成されている、または明らかに法的整理 でなければ不可能な場合を除き、事業再生の現 場でも、選択肢としてはともかく、法的整理を最 初に選択することは皆無に等しいと言って良い。

 私的整理の長所としては、一般的に「迅速」・

「簡易」・「廉価」・「柔軟」・「隠密」などの点が挙 げられる5。しかしながら、現場感覚からすれば、

そのいずれの長所も総体的、かつ明確に私的整 理の優位性を表す語句とは言い難い6。例えば、

「迅速」の観点からすれば、私的整理では債権者 調整を含め1年超の時間を要する事例も多くあ るなかで、法的整理では、近時スピード感のある 処理が求められていることもあり7、申立てから 1年以内で再生(更生)手続が終結している事例 も少なくなく、私的整理が必ずしも「迅速」であ るとは言い切れない。また、「簡易」である点に ついても、全債権者の同意を必要とする債権者 調整の手間隙などを勘案すれば、むしろ多数決 原理を貫く法的整理の方が「簡易」とすら思えて くるのである。

 だとすれば、私的整理の法的整理に対する優 位性はなんであろうか。そのキーワードは、「懲 罰的倒産観」と「経済合理性」であると考えられ る。「倒産することは悪であり、その経営者は社

会的敗者である」といった「懲罰的倒産観」8とも 称される社会的通念は、法的整理を選択した場 合に、より多大な影響を与えているように思わ れる。また「経済合理性」について、誤解を恐れ ず単純化して言えば、窮境企業からすれば、私的 整理を選択した場合に、「懲罰的倒産観」の影響 が少ないことから事業価値に与える影響が少な くて済み、一方で債権者側9、特に金融債権者に とっては、窮境企業に対する「金融支援」の額が 少なくて済むことにつながる為、双方にとって

「経済合理性が高い」と言えるのである。このこ とが、私的整理が法的整理と比して優位性があ ると判断される要因と言えよう。

 近時は、司法制度改革の一環として、訴訟手続 によらず、公正な第三者たる専門家の活用によ り紛争の実情に即した解決を図ろうとする裁判 外紛争処理手続(Alternative Dispute Resolution;

ADR)の拡充・活性化が必要とされ、さらには ADR基本法(「裁判所外紛争解決手続の利用の促 進に関する法律」)の策定が行われた。この潮流 からすれば、事業再生版の裁判外紛争処理手続 と言える私的整理については、先の利害関係者 の選択傾向とも相俟って、将来的にはさらにそ の意義並びに重要性が増すであろうと考えられ る。

 以上の文脈からすれば、実務的労力負担は少 なくないものの、近時の ADR の潮流に添った私 的整理の更なる活用に関して、一試論を展開す ることは検討に値するものと考えられよう。

 本稿の構成については、以下の通りである。

2.「私的整理の作業工程(事業再生アドバイ ザーの業務)」では、私的整理の実務的課題把握 を目的として、事業再生の現場における私的整 理の作業内容などについて俯瞰する。3.「各再

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10  不動産金融シンポジウム『不良債権処理と企業再生』における冨山和彦氏(株式会社産業再生機構代表取締役専務/ COO)によ る講演「不良債権処理と企業・事業再生」において、日本企業の抱える根本問題を説明する際に話された言葉を引用。

11  一般的に「再生計画」とは民事再生法における計画を指し、会社更生法における「更生計画」をあわせて、講学上「再建計画」と 呼ばれるが、筆者の業務では、私的整理における計画を「事業再生計画」という言葉を用いているため、本稿では、同様に「事 業再生計画」と呼ぶ。

生手続の課題」では、私的整理のみならず法的整 理、そして近時論じられることの多い私的整理 と法的整理の連続性確保にかかる課題について 論じることとする。以上を受けて、4.「検討(事 業再生 ADR の検討)」にて、ADR 基本法に定め る認証機関の活用による私的整理の活用並びに 私的整理と法的整理の連続性確保にかかる法政 策論についての展開することとする。

2.私的整理の作業工程(事業再生アドバ イザーの業務)

 本章では、筆者の私的整理におけるアドバイ ザー業務での経験に基づき、その作業工程につ いて時系列的にその概略を述べるとともに、あ わせて若干の事例紹介をする。これにより、私的 整理の実務上の課題とその作業負担について明 確化することを企図している。

2.1 事業基盤の把握 

 アドバイザーが携わることとなる窮境企業

(クライアント)は、過剰債務を負い、かつコア・

ノンコア事業を問わずキャッシュフローが脆弱 な状態で、客観的に見れば既に「手遅れ寸前」に 近い状態で送り込まれてくるケースが多い。一 方で当該企業は、金融機関にとっては既に多額 の融資を行っているなど、事業再生が図られな ければ、具体的に言えば法的に破産処理が行わ れるような事態に陥った場合には、自行の資産 に多大な損失が及ぶばかりではなく、「あの銀行 が潰した」などと風評的にも影響を与えかねな い企業である。

 我々が現地常駐を開始し、作業として最初に 行うことは、窮境企業の資金繰を含む財務状況 と「ヒト・モノ・カネ」から構成される企業の事 業基盤の把握に徹底的に努めることである。具 体的には、損益計算書や貸借対照表(バランス シート)、資金繰表など財務諸表の精査は当然の ことながら、窮境企業が属する業界の分析(トレ

ンド・現状・今後の見込み)、組織や従業員の構 成、関係会社の状況の把握など多岐に渡る作業 を極めて短期間で行うこととなる。この作業に より、窮境企業が、自身の状況並びに経済環境に ついて、客観的な立場からの意見・判断を認識す ることが可能になるとともに、対外的・客観的に 見て、自身が置かれている状況がどのような位 置にあるか、すなわちコスト削減を徹底的に図 るなど内科手術的な施策を行うべきか、内科手 術では足りず、バランスシート改善を含めた抜 本的な外科手術が必要な状態なのかを認識し、

今後の施策の策定に向けての礎を築くこととな るのである。

 また、工場など不動産があればその現場視察 も含め、経営陣や各事業部門の従業員との面談 を頻繁に行うことになる。アドバイザーという 業務の場合、業務開始当初から従業員から好意 的に対応してもらうことは少なく、「銀行からの 刺客」とばかりに、まずは警戒感をもって対応さ れるのが常である。しかしながら、今後の事業再 生の過程で様々な試練が想定され、互いに連携 し「チーム」として活動していかねばならない中 では、まずは面談を重ねることにより、経営陣お よび従業員と人間関係を構築していくことが必 要となる。

 そして、面談時において多く目の当たりにす るのは、経営陣の危機意識の欠如と、従業員の労 働意識低下である。経営陣からは、「昔は銀行が 借りてくれというから借りたのであって、貸し 出した銀行に責任がある」、「今は大変だが本当 はちゃんとした企業であり、銀行もいずれ助け てくれる」といったような金融機関への恨み節 と春待ち症候群10的な発言、一方で、従業員から は積年の業績不振の影響からか総体的に活力が なく、また後ろ向きな発言を多く耳にすること となるのも常である。これら経営陣および従業 員と人間関係を構築しつつ、さらには、「負け犬 的思想」からの意識改革を図っていくことも重 要なこととなる。

2.2 施策の検討と事業再生計画11の策定

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2.2.1 概略

 事業基盤の把握が終了すると、次の段階とし て、先の把握で浮き彫りになった問題点に対す る施策の検討並びに当該施策を含めた事業再生 計画の策定が始まることとなる。商法改正に代 表される近時の法改正並びに実務上の事例の積 み上げなどによる事業再生手法の多様化に伴い、

窮境企業が選び得る施策の選択肢は拡大しつつ ある。その考え得る全施策についてのメリット・

デメリット並びに「絵に描いた餅」ではなく「実 現可能性」がある施策を検討し、これら施策を積 み上げていくことにより、最終的には事業再生 計画として纏め上げていくこととなるのである。

 施策については、窮境企業自身が自己責任で もって成し遂げるべき「自助努力」と、金融債権者 が行うことを想定する「金融支援」に大別されよう。

 「自助努力」については、売上高の拡大もさる ことながら、窮境に陥っている状態においては、

むしろコスト削減策に主眼がおかれ、原価構造 の改善、一般管理費・販売管理費の削減、遊休資 産の売却などの施策を中心として検討がされる。

また、経営責任・株主責任(以下、「経営者責任」

と云う)や人件費削減などの人的資源部分につ いても検討がされる。

 「金融支援」については、「自助努力」の全ての 施策を確実に実行しても、なおかつ窮境の状況 から脱し得ないと想定される場合のみ、金融債 権者による支援が検討され、その手法は、債務免 除、デット・エクイティ・スワップ(Debt to Equity Swap)、デット・デット・スワップ(Debt to Debt Swap)

など多種多様な手法が検討されることとなる。

 以上の検討結果を踏まえた上で、事業再生計 画は、実現可能性を兼ね備えた「自助努力」と「金 融支援」による諸施策を積み上げることにより 策定されることとなる。

2.2.2 自助努力の検討

 「自助努力」を検討する上では、先の事業基盤 の把握をする段階以上に、経営陣および従業員 と喧々諤々の議論の積み重ねが必要となる。こ れら各諸施策は上述したように「実現可能性」を 伴うものでなくてはならないから、軽々に検討・

決定する訳にもいかず、窮境企業とアドバイ ザーのまさに膝詰めの議論となる。毎期の予想 売上高はその業界環境にも照らして達成できる のか、原価および一般管理費・販売管理費は現状 のレベルからどの程度の削減が可能なのか(そ の具体策は何か?)、遊休資産は売却可能か(そ の売却の価格と時期は?)などと具体的に、かつ 全ての面で数字による裏付けをもって検討する こととなる。

 そして、これら議論の中で精神的に「重い」議 論となるのが、通常は、経営者責任12と人件費削 減である。経営者責任については、わが国の私的 整理に関する準則である「私的整理に関するガ イドライン」(以下、「ガイドライン」と云う)13 にもその必要性が定められており14、事案によっ てその責任の取り方については内容が分かれる も、過去の経営状況などとも照らしながら検討 することとなる。

 経営者責任を明確にするか否か、そしてその 内容については、モラルハザード対策という名 に基づく外在的な「要請」に基づき、経営者自身 および株主自身の一個人(法人)としての「英断」

によって決定がなされる比重が大きい。しかし ながら、当該責任を明確にすることは、すなわち 当該個人(法人)の財産や地位を毀損するものと なることから、当然の如く抵抗感も強い。例えば A社では、過去に経営を悪化させ退陣していた旧 経営者が依然として支配株主であり、金融支援

12  経営者責任は主には役員の減俸や退任、そして経営者が出資を行っている場合にはその株式の減資などの策が挙げられよう。

13  2001 年9月、全国銀行協会を事務局とする「私的整理に関するガイドライン研究会」(座長:高木新二郎獨協大学教授(当時) において取りまとめ。会社更生法や民事再生法によらず、債権者と債務者との合意に基づき、債権放棄などにより経営困難な企 業の再建を公平かつ迅速に行うための手続的準則。法的拘束力はないが、金融機関が融資先に対し債権放棄をおこなう基準とし て、再建計画に、「3年以内の実質債務超過解消」「3年以内の経常利益黒字化」「株主責任」「経営者責任」などを要件として 盛り込む必要があるとしている(私的整理に関するガイドライン研究会事務局「私的整理に関するガイドラインの概要」『金融法務 事情』1623 号,2001 年,6− 28 ページ)。なお、当ガイドラインについては、その後見直しがなされており、一部の運用指針に つき変更がなされている。これら変更内容などについては、私的整理に関するガイドライン実務研究会「私的整理に関するガイド ライン運用に関する検討結果」『金融法務事情』1659 号, 2002 年,30 − 37 ページ。

14  「私的整理に関するガイドライン」第7条(4)(5)「私的整理に関するガイドライン Q&A」Q40・Q41 に記載。

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15  大企業の場合など、その事例によっては準メインバンクも事前段階での検討に加わることとなる。

16  産業再生機構の手がける案件における金融支援の負担はプロラタ方式が原則とされていた模様である(高木新二郎『事業再生』岩 波新書,2006 年,163 ページ)。プロラタ方式とは、窮境企業に対する融資額などに応じた「比例配分」により金融支援額を決定 する方式をいう。なお、産業再生機構は、株式会社産業再生機構法に基づいて設立され、事業再生計画の策定および金融機関な どからの債権買取を通じて窮境企業の事業再生支援を目的とした公的機関である。この産業再生機構に関する文献は多数あるが、

例えば、柳川範之=柳川研究室編著『事業再生ってなんだろう?』,2005 年,220 − 246 ページ。

にともない支配株主の減資を予定していたとこ ろ、いきなり会社に乗り込んできて騒いだ挙句、

さらには株主代表訴訟という法的手段で現経営 陣の退任を求めてきた事例がある。また B 社で は、当初は経営者本人が保有する株式部分の減 資につき納得・同意していたのにもかかわらず、

いざ実行する際になると急転直下で消極的な姿 勢となり、金融債権者も「経営者責任なしでは金 融支援は不可能」とし、結果として、事業再生計 画の策定自体が頓挫した事例などがある。

 人件費削減については、会社のキャッシュフ ローの向上を図る上で、上述したような原価構 造の改善などの施策と比すると即効性があり、

かつ人件費がコスト全体に占める割合が高いこ とに比例してその効果額が大きく、さらには明 らかに余剰人員と認められるケースも少なくな いことから検討すべき課題となる。

 しかしながら、当該施策については「良薬口に 苦し」である一方で、使い方を間違うと一種「麻 薬」へと変貌する可能性がある。コスト削減の観 点からすれば即効性があり効果額も大きいため、

見た目の数字を上げるためには効果的であるこ とから、窮境企業は時にコスト構造全体の改善 に努めず、人件費削減のみでその局面を乗り切 ろうとし、目先の数字の改善に努めようとする ケースが往々にして見受けられる。そして、また 経営状況が悪くなると、再度人件費の削減を行 い、これを繰り返すこととなり、結果として、会 社の人的資産を毀損させているケースが多い。

例えばC社については、新入社員の募集を行わな い一方で、事業再生計画策定の度に「希望退職制 度」を活用しての人員削減を行っていたことから、

極めて歪な人事・給与構造となっており、あわせ て社員の士気も極めて低下していた事例がある。

 人件費削減については、効果が大きい一方で 会社の資産たる「ヒト=人材」に極めて多大な影 響を与える、ある意味「諸刃の刃」にも似た施策 である。すなわち、従業員個人の将来的な生活に 多大な影響を及ぼすことは、ひいては会社全体 の士気の低下原因に資して、事業再生を果たし た後の会社の事業継続にも影響を与えることに

なることから、その検討には将来的な展望も踏 まえて慎重を期することが必要となる。

2.2.3 金融支援の検討

 金融支援については、先の「自助努力」の定量 的把握および効果を踏まえた結果、それでもそ の窮境企業の事業継続が困難と判断される場合 にのみ、金融債権者による「事業継続に足るだけ の」支援について検討することとなる。その支援 の内容については、バランスシート改善に資す る過剰債務の削減を図るための手法の活用や、

運転資金枠やリストラ資金の供与などファイナ ンス面も考慮しながら検討されることとなる。

 当該施策については、先の自助努力の内容も 含めて、メインバンクと事前に十分に相談を重 ねた上で、検討されるのが通常である15。金融支 援は、金融債権者にとっては「実質的な損失」が 発生することを意味することから、窮境企業が 自助努力を軽々に検討・決定する訳にはいかな いのと同様に、金融債権者にとっても、十分な検 討が必要不可欠となるからである。

 これら検討の際には、主に①金融支援を行っ て事業継続が図られた場合と金融支援を行わず 法的に破産した場合との定量的・定性的な損失 比較②自助努力の妥当性および実現可能性の検 討③金融支援の手法および支援負担額の妥当性 の検討④事業再生計画全体の妥当性および実現 可能性の検討、などの観点から検討されること となる。

 ①については、事業再生計画と法的に破産し た場合の各シミュレーションを作成し、その際 の金融債権者の負担額を算定した上で比較考慮 されることとなる。②については、自助努力が十 分なものか、さらに改善すべき余地はないか(一 方で、無理をしすぎた内容ではないか)などの検 討がされる。③については、税務・会計・法務の 側面からその支援方法が妥当か否か、また支援 負担額について、金融債権者均一のプロラタ方 式16か、メインバンクとしての責任を一定割合で

(7)

考慮した傾斜方式かの検討がされる。プロラタ 方式の場合、各金融債権者の融資額などに応じ た比例配分により金融支援負担額が決定される こととなるため、メインバンクにとっては負担 額を極小化することが可能であるが、一方で、メ インバンク制度に代表される従来の金融慣行か らして、一定のメインバンク責任を負う、すなわ ちメインバンクが比例配分以上の負担を負う傾 斜方式による支援がこれまでの私的整理では一 般的であった。④については、①から③の検討を 踏まえた上で、最終的に事業再生計画が窮境企 業および金融債権者にとって妥当かつ実現可能 性があるものか、そして窮境企業が将来的にも 二次破綻発生の可能性が無く、事業再生を果た せる内容か否かの検討がされる。以上を総合し、

メインバンクにおいて、金融支援を行うことの

「経済合理性」を検討した上で支援を行うか否か の判断を下すこととなり、了承が得られれば次 なるステージ、すなわちメインバンク以外の他 の金融債権者を含めた債権者調整が行われるこ ととなる。

 近時はメインバンク制が瓦解しつつあるもの の、私的整理の過程においては、メインバンクの 存在並びに支援は他の金融債権者との交渉の上 でも必要不可欠のものであり、特に中小企業の 再生においてその特徴は顕著である。例えばD社 については、業界では有名企業であり、売上高も 常に業界上位数社に入る規模があった。そして、

事業再生計画策定に際しては、試行錯誤を繰り 返しつつも、連日連夜で極めて体力勝負に近い 作業を行ったにもかかわらず、他の金融債権者 に交渉する以前に、メインバンクによる支援の 合意が得られず、私的整理をあきらめ法的整理 に移行することとなった。

2.3 債権者調整

 事業再生計画を策定しメインバンクの了承が 得られると、いよいよ全ての金融債権者を対象 とした債権者調整が始まることとなる。私的整 理における事業再生計画の遂行の為には、全債 権者(全金融債権者)の合意が必要不可欠となる ため、その金融債権者の数により交渉負担が多 少は増減するものの、多大な労力を要すること は贅言を要さず、そこはアドバイザーとしての

腕の見せ所ではあるものの、精神的にも肉体的 にも多大な労力を要することとなるのが実情で ある。

 債権者調整の過程でまず頭を悩ますのが、金 融支援の負担方法について、プロラタ方式とす るか傾斜方式とするかであろう。プロラタ方式 であった場合においては、さらにその交渉は難 航することとなる。交渉の第一段階から、一定の メインバンク責任を織り込んでの傾斜方式かプ ロラタ方式で望むかは、過去の交渉状況(内容)、 相手の金融機関の顔ぶれ、そして事業再生計画 の合意可能性などを勘案しながら決定すること となるが、その大半の事例では傾斜方式となら ざるを得ないのが実情である。また、傾斜方式に してもその金融支援の負担方法および内容は 様々であり、事例によって千差万別である。

 プロラタ方式で交渉を開始した場合でも、今 日は下位取引行でも、明日はメインバンクにな るかもしれないのであれば、今後の交渉の術を 考えれば、多少なりとも遠慮があっても良いと 思われるのであるが、そこは何ら遠慮なく、「メ イン寄せは当然」とばかりに否定的な意見が相 次ぐことが大半である。結果として、私的整理の 債権者調整においては、メインバンクが許容可 能な範囲内までの「メイン寄せ」を甘受すること が必然的な状況に追い込まれるケースが多く、

傾斜方式で決着するケースが多い。

 例えばE社については、第1回の交渉をプロラ タ方式で行うべく訪問を行ったところ、事業再 生計画案を一瞥した責任者より「(メインバンク は)氷水に服を着たままで無く、裸一貫で飛び込 んでください。とても通せません。お帰り下さ い」と一蹴されることとなった。その後の度重な る交渉における態度も一貫として「プロラタ方 式は了承不可能」とし、結果として、傾斜方式で の合意となった事例がある。

 また、上記支援負担を算出するに際しては、そ の「基準」の検討・調整が必要となる。プロラタ 方式にせよ傾斜方式にせよ、まず、現状の取引状 況を勘案した各金融債権者の負担の比率を算出 することとなるが、その算出基準の検討が必要 となる。一般的には、一定の基準日における総融 資残高や無担保債権残高が用いられるが、その 算出基準に定型は無く全金融債権者の合意のも とで決定されることとなる。しかしながら、その 一般的な基準についても、時節などにより融資

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17  基準日の問題については、例えば A 行・B 行・C 行が金融債権者として、6月末基準であれば A 行の融資比率は 45%、B 行は 35%、

C 行は 20%の比率であったところ、12 月末基準であれば、A 行が 40%、B 行が 30%、C 行が 30%である場合などが挙げられる。

18  ガイドラインにより私的整理を試みたが債権者調整に失敗し法的整理に移行した事例として、奥総一郎=伊東知弘「一つの再生 パターンとしての「私的整理ガイドライン不成立」」商事法務編『再生・再編事例集4』商事法務,2005 年,17 − 36 ページ。

19  田作による、いわゆる「メイン寄せ」にかかる問題を、1994 年ノーベル経済学賞受賞者 John F. Nash, Jr. にちなんで命名されたナッ シュ均衡(Nash equilibrium)の概念によって行っている分析は興味深い(田作,前掲論文, 25 − 26 ページ)

20  私的整理の手続全体を段階的に捉え、特に、債権者委員長など私的整理の手続主宰者の地位および債務者との関係についての学 説として、私的整理を委託する債務者を委託者、債権者委員会・債権者委員長などのこれを引き受ける者を受託者、これによっ て利益を受ける債権者を受託者とする、信託法による信託法理を応用するものが有力となっている(伊藤眞『破産法〔第4版補 訂版〕』有斐閣,2006 年,38 ページ)。また、私的整理の手続全体を段階的に捉えて、法律構成を考えようとする傾向については、

竹内康二「私的整理手続の構造」『裁判実務大系三会社訴訟・会社更生法』青林書院,1985 年,179 ページ)

21  伊藤は、前掲注 20 において、個別の和解契約説について、私的整理における合意の性格を説明するために当概法律構成を持ち出 すことは不当とは言えないとしているものの、私的整理全体の法律構成として置き換えることには反する立場にあると思われる。

22  最判昭和 51 年 11 月1日(『金融法務事情』813 号,39 ページ)

比率が変動する場合にはその基準日が議論とな るし17、また無担保債権残高についても、各金融 機関の担保物件に対する評価方法・考え方の相 違によりその残高に相違が生じることとなる。

 例えば F 社では、不動産鑑定評価などに基づ き、メインバンクであるA行が全担保物件を評価 したところ、全体で60億円の無担保債権があり、

うち A 行は 30 億円(50%)、B 行は 20 億円(33

%)、C 行は 10 億円(17%)の無担保債権がある とし、各金融債権者に対して比率応分の金融支 援を求める事業再生計画を策定したところ、B行 としては新たに評価を行った結果、無担保債権 は 50 億円あり、うち A 行は 35 億円(70%)、B 行 は 10 億円(20%)、C 行は 5 億円(10%)である として、B行より事業再生計画の修正要請がなさ れた事例がある。

 上記の他、営業キャッシュフローの各金融機 関に対する配分方法、不動産の売却資金など一 過性のキャッシュフロー分にかかる配分方法な ど多岐に渡る検討・調整をした後に、債権者の合 意形成が図れたならば、窮境企業は晴れて私的 整理における事業再生計画が了承され、そして 当該計画内容を遂行することにより、最終的に は事業再生を果たすこととなるのである。

3.各再生手続の課題

 本章では、私的整理並びに法的整理、そして近 時議論が行われている私的整理と法的整理の連 続性にかかる課題について把握することとし、

次章の政策検討への布石として位置づけるもの である。

3.1 私的整理

 わが国の私的整理にかかる実務上の最大の課 題となるのは、その金融債権者などの債権者と の交渉負担と合意形成にかかる点である。多数 決原理を貫く法的整理とは違い、私的整理にお いては、その事業再生計画に法的拘束力を付与 する必要性から、金融債権者を中心とした債権 者全員の合意が要求されることとなり、時には 一部の債権者の反対により交渉が長期化し、さ らには合意自体が成立せず法的整理に移行する ケースもある18。わが国では、メインバンクに対 して非メインがより多くの負担を求める慣行が あり19、昨今の金融環境下においては、これら過 度のメインバンク負担が重荷となり、結果とし て合意形成が得られぬ場合も多いのである。

 わが国の私的整理の法的性質については、伝 統的にはその手続全体の法律構成として、さら に近時は、手続における「合意形成にかかる性質 論」として、債務者と個別債権者または総債権者 との間の集団的和解契約であるとする説が有力

である20・21。私的整理における「合意形成にかか

る性質論」を集団的和解契約であると解した場 合、各債権者はその自発的意思に基づいて債権 者会議などに出席を行い、その議決時において 不参加や合意しなかった債権者については、合 意時の拘束力を持たないのが原則22であるから、

わが国の私的整理おいては、法的拘束力を付与す べく債権者全員の合意が要求されることとなる。

 ガイドラインは、私的整理が債権者との交渉 負担と合意形成に負担が生じていることを鑑み、

債権者調整を公平かつ迅速に行うための準則と して策定されたものである。しかしながら、あく

(9)

までも紳士協定に過ぎず、債権者に対する法的 拘束力を有するものでないことから、その債権 者調整においてはプロラタ方式による負担を原 則としているものの、その事例においては、当該 方式が貫かれた事例が少ないなど(下記表1)、 私的整理における債権者調整を円滑化するため のツールとして十分に機能しているとは、その 事例からしても言い難い。

 また、ガイドラインでは、一時停止、専門的ア ドバイザー採用、情報開示、秘密保持、などの適 正な「手続」的規定の他に、「債務超過解消は3 年以内、経常黒字化も3年以内」、「債権放棄にあ たっては増資減資、経営陣退陣」を原則とする、

といった「実体」的規定が盛り込まれている点 が、あくまでも準則と言えども、実務上において は使い勝手が悪いとされる要因ともなっている23

3.2 法的整理

 近時の法的整理の機能拡充には目覚しいもの があり、民事再生法の制定を機として、改正会社 更生法並びに改正破産法の施行などが行われて いる。そして、事業再生を図る上で特に多く活用 される民事再生法および会社更生法については、

申立要件の緩和、多数決原理 / プロラタ方式、再 生(更生)計画案提出期間の短縮、DIP ファイナ ンス(Debtor in Possession Financing)に対する債 権の保護など枚挙にいとまがなく、実務家側か らみれば、私的整理と比して極めて「使い勝手が 良い」手続であると言える。

 しかしながら、窮境企業が法的整理を申立て た際、その報道において「倒産」並びに「破綻」と いった表現を多く目にする。わが国では、「倒産」

の概念が明確に定義されていないが、その根底 には、「倒産することは悪であり、その経営者は 社会的敗者である」といった、ネガティブな社会 的通念が存在しているのが実情である。そして、

23  ガイドラインの策定以降、産業再生機構の活動もあり、事業再生業務の作業内容は変化しているため、その内容にあった形でガ イドラインを改訂するべきであるという動きがある。例えば、ガイドラインでは、基本的に金融債権者を対象債権者としており、

ファンドや事業会社などの金融債権者以外の新たな主要債権者や投資家などの関与が明確ではない。また、専門家アドバイザー に、弁護士や公認会計士だけでなく、事業の専門家であるコンサルタントを参加させたり、金融支援額の算出にあたって DCF 法 や EBITDA 倍率法を用いるなど、事業再生計画の策定に当たっては、公平性の観点だけでなく、将来の事業価値の向上を重視す べきであるという点である(私的整理に関するガイドライン研究会事務局「私的整理に関するガイドラインの評価と今後の課題」

『NBL』821 号,2005 年,19 〜 22 ページ)

 

企業名 ②−①

メイン銀行名 金額 比率 金額 比率 比率 債権売却 債務免除 DES

(株)岩田屋

みずほ銀行 16, 795 24. 6% 15, 100 52. 1% 27. 5%

福岡銀行 12, 951 19. 0% 11, 000 37. 9% 19. 0%

メイン小計 29, 745 43. 6% 26, 100 90. 0% 46. 4%

その他 38, 538 56. 4% 2, 900 10. 0% - 46. 4%

合計 68, 283 100. 0% 29, 000 100. 0% 0. 0%

東洋シャッター (株)

みずほ銀行 8, 367 52. 0% 11, 000 81. 5% 29. 4%

その他 7, 711 48. 0% 2, 500 18. 5% - 29. 4%

合計 16, 078 100. 0% 13, 500 100. 0% 0. 0%

(株)岡島

山梨中央銀行 6, 410 59. 0% 3, 071 58. 3% - 0. 8%

その他 4, 446 41. 0% 2, 200 41. 7% 0. 8%

合計 10, 856 100. 0% 5, 271 100. 0% 0. 0%

雪印乳業( 株)

農林中央金庫 67, 797 48. 2% 38, 500 77. 0% 28. 8%

その他 72, 719 51. 8% 11, 500 23. 0% - 28. 8%

合計 140, 516 100. 0% 50, 000 100. 0% 0. 0%

いすゞ自動車( 株)

みずほコーポレート銀行 98, 582 36. 9% 81, 111 81. 1% 44. 2% - その他 168, 832 63. 1% 18, 889 18. 9% - 44. 2%

合計 267, 414 100. 0% 100, 000 100. 0% 0. 0%

(単位:百万円)

No ①当初融資シェア ②金融支援シェア メイン行金融支援内容 備考

債務免除(280億円)及びメイン行単独に よるDES(10億円/みずほ6億円・福岡4 億円)を実行。また、「伊勢丹」がスポン サーとなり、第三者割当増資引受等を含 めた金融面及び営業面での支援実行。

債務免除(125億円)及びメイン行単独に よるDES(10億円)を実行。

債務免除(52億円)及びメイン行による 第三者割当増資(0.8億円)の引受を実行。

また、金融支援後の他行無担保債権の半 分について、メイン行が保証。

メイン行単独による債務免除(300億円)

及びメイン行含めた3行によるDES(200 億円)を実行。

主力5行によるDES(1,000億円)を実行。

筆者作成:企業概要については東京商工リサーチ調査レポートより引用し、財務諸表については、直近期決算を利用。金融支援額については、先の調査レポート並びに新聞報道に基づく。

表1:私的整理の金融支援概要

(10)

24  民事再生法は、「当該債務者の事業又は経済生活の再生を図ること(第1条)」、会社更生法は、「その事業の維持更生を図ること(第 1条)」を目的としており、文字どおり、「事業」の「再生」および「更生」を企図している。これらの目的は、いうなれば「一度は 失敗したけれども、これを糧にやり直そう」といった、ポジティブな敗者復活の哲学に基づくものであり、懲罰的倒産観とは根本 的に一線を画する概念であるといえる。

25  「厳密には Prepackaged filing とは、アメリカ連邦倒産法 Section1126(b)のもとで、再生計画を事前に策定してその多数決まで 採ってから行う申立てを指すのであって、わが国の倒産法には該当する条文ない。(中略)わが国では、債務者がたんに投資家候 補者とのみ事前に打ち合わせてから行う申立てをプレパッケージ型申立てと呼んだりしているが、これは Prepackaged filing では ないことはもちろんPre-negotiated filingやPre-arranged filingですらなくプレパッケージ型もどきとしか呼びようのない日本独自の 現象である」(田作,前掲論文,26 ページ)。わが国の「プレパッケージ(もどき)型手続」の導入については、その実務上の問題 点(投資家の選定方法など)も含めての指摘が多く、その適用例は「一部の不動産会社や第三セクター、取引債権者を対象としな い大型事件程度ではないか」(松嶋英機=濱田芳貴「日本におけるプレパッケージ型申立ての問題点」『銀行法務21』631号,2004年,

8ページ)との指摘もある。

これら懲罰的倒産観とも称される通念は、個人 保証問題などともあわせて、法的整理の活用に 向けての足枷となっているのである24。  これら社会的通念は、法的整理を申立てた後 の企業の事業継続にも多大な影響を及ぼすこと となる。業種によって影響の格差はあるものの、

その通念に基づく社会的・心理的影響は大きく、

私的整理と比して事業業績の下落率が高くなる 結果、事業価値はさらに毀損する傾向が強い。ま た法的整理では、商取引債権者も債務免除の対 象となることから、事業継続に対して不安を覚 えて取引停止を示唆されることも多く、それら の対応に事業再生の現場では苦慮することが多い。

結果、窮境企業および債権者にとっても、私的整 理と比して法的整理を活用することの経済合理

性は低くなることとなってしまい、近時の法改 正などに伴う機能も有効かつ十分に機能しておら ず「宝のもちぐされ」となっていると言えよう。

3.3 私的整理と法的整理の連続性

 私的整理には合意形成が困難であるなどの側 面がある一方で、法的整理には懲罰的倒産観も 相俟って事業価値が大きく毀損する可能性があ る中、近時は、私的整理と法的整理の双方の長所 を活かした新たな再生手続の潮流として「私的 整理と法的整理の連続性」にかかる議論・法的検 討がなされており、「プレパッケージ(もどき)型 再生」25の議論もその一環である。当手続の要諦

【筆者作成】

* 抽出方法

対象企業:2002 年度中に法的再建手続(民事再生法・会社更生法)を申立てた企業 抽出時期:各企業の法的再建手続申立て日翌日

媒体:朝日新聞・東京読売新聞・毎日新聞・産経新聞・日本経済新聞(全て関東版)

記事数:申立て企業名の記載のある記事を計算し集計

表現数:記事1本に対して「倒産」もしくは「破綻」との表現がある記事を計算し集計

40

9 8 10

5 13

19 18

0 10 20 30 40 50

佐藤工業 大日本土木 第一家庭電器 日立精機

法的整理申立企業名

記事本数 記事数

表現数 表2:新聞報道件数と「倒産」・「破綻」表現の有無

(11)

は、「私的整理も法的整理も、事業再生との観点 からは同一的主旨並びに同一的手続を企図する 手続(のはず)であり、ついては相互手続の長所 並びに短所を相互に補完することにより、窮境 企業の事業再生を目指す」ことにあり、将来的に は事業再生における主流な手続ともなりえるこ とが期待されているが、現状は、理論上、実務上 を問わず、様々な問題点を有していると言えよう。

 ガイドラインでは、「再建計画案が認可されな かった場合には法的整理の申立てを行わなけれ ばならない」と規定している26。しかしながら、

民事再生法や会社更生法においては、米国にお ける米国連邦倒産法(Bankruptcy  Reform  Act 1978; Bankruptcy Code)における305条(a)項(私 的整理が成立したことを含めて裁判上の手続を 開始しないことのほうが、債務者、債権者双方の 利益に合致するときの、債権者もしくは債務者 申立ての裁量棄却条項)や1102条(b)(1)項(裁 判手続前の私的整理にて選任されていた債権者 あるいは、その他利害関係人からなる委員会を そのままに、裁判手続における委員会とする条 項)などのような、法的に私的整理と法的整理と の連続性を確保する規定は無い。

 また、私的整理期間中の新規融資について、ガ イドライン並びに産業再生機構下における私的 整理については、その期間中の債権の弁済優先 性が規定されているものの27、債務者が法的整理 に移行した場合には、その私的整理期間中に 行った貸付人の債権については、「原則的には、

法的倒産手続および破産手続においては、手続 申立前の債権はそれぞれ、再生債権、更生債権お よび破産債権として取り扱われ、優先性を有す る共益債権および財団債権として取り扱われな いものと思われる(民事再生法84 条1項・119 条 5項・120 条、会社更生法2条8号・127 条5号、

128 条・破産法 34 条・148 条28」としていること から、法的整理に移行した場合の金融債権者の債 権保全面につき安定性を欠く状況となっている29。  私的整理の場合おいても、法的整理の場合と 同様、通常の運転資金のみならず、償却費用並び に新規設備費用などを含めた資金が必要となる のであるが、一方で、法的整理に移行した場合の 債権保全面が確保されないこととなれば、金融 債権者としてはその資金供給に対して躊躇せざ るをえないであろうし、結果として、私的整理に よる事業再生の遂行に影響を及ぼさざるを得な いであろう。

 その他、東ハトの事例に代表されるように30、 一定の投資家選考手続を経て投資家を選考した 上で法的整理申立て(いわゆる「プレパッケージ

(もどき)型再生」)を行ったにもかかわらず、申 立て後、他の投資家候補より当該手続につきク レームがついたため、再度の投資家選考が行わ れることとなり、結果として、当初の投資家がス ライドする形となったものの、その投資家に とっては投資額が増大してしまった事例などが ある。私的整理と法的整理との連続性が薄いこ とに起因して、上述したファイナンスの問題の みならず、M&A を活用したプレパッケージ型再 生についても実務上において不安定性があると 言えよう。

4.検討(事業再生 ADR の検討)

 私的整理がさらに機能するための解決策につ き、2.「私的整理の作業工程(事業再生アドバ イザーの業務)」および3.「各再生手続の課題」

で述べた私的整理並びにその他再生手続に関わ る課題を踏まえつつ、一方で、ADR 基本法の策

26  「私的整理に関するガイドライン」8条(6)

27  「私的整理に関するガイドライン」6条(3)・産業再生機構法 31 条1項・2項

28  赤羽貴=永井和明=井上聡「DIP ファイナンスの基本構造と論点」『銀行法務 21』627 号,2004 年,43 ページ(なお、破産法条文 は法改正にともない変更)。同趣旨の内容として、赤羽貴=加藤輝雄=久保淳一=熊谷尚之=小山潔人=永井和明=藤田直介=藤 原総一郎=松下淳一「〔座談会〕事業再生ファイナンス約定書をめぐる諸問題」『銀行法務 21』627 号,2004 年,81 ページにおける 松下発言。

29  産業再生機構法下で行った新規融資(産業再生機構法 31 条・32 条・33 条)については、「機構の手続において DIP ファイナンス の確認をして貸付けを実行した後に、法的再建手続に移行した場合に再建計画や更生計画において、DIPファイナンス債権を優先 的に扱っても、平等原則に反しないものとして、その取扱いを是認するのが相当である」(高木新二郎「私的再建と法的再建の相互 乗り入れ」『NBL』772 号,2003 年,24 ページ)としているが、民事再生法並びに会社更生法上に明文化が無いのは事実であり、新 規融資を行う側としては非常に不安定な仕組みと言えるであろう。

30  当事例については、佐山展生「プレパッケージ型再生手続における投資家選定のガイドラインの必要性−東ハトのケースを素材 として」商事法務編『再生・再編事例集3』商事法務,2004 年,328 − 352 ページ。

(12)

31  公的な認証機関の構想については、早い段階から説かれており、棚瀬=伊藤は独立行政法人を活用した「倒産処理委員会」の設 立について論じておられる(棚瀬孝雄=伊藤眞『企業倒産の法理と運用』有斐閣,1979 年,308 − 314 ページ)。この伊藤論文に 対する追検証を論じたものとして、霜島甲一「東京における私的整理の実態と法的分析(4)『判例タイムズ』435 号,1981 年,35

− 40 ページ。

32  これまで私的整理に関する立法論的提言は多くの試みがあり、私的整理の前置を原則として法的整理を受皿とする「私的整理前置 主義」を提言(棚瀬孝雄=伊藤眞,前掲書,303 ページ)、私的整理と法的整理のいずれの倒産処理手続が持つ各メリットを活かす 意味での「機能分担論」を基調とする提言(伊藤,前掲書,227 ページ)、法的整理を付随的なものとして私的整理をより主体的に 企業倒産処理において活用する意味での「法的整理排斥論」を基調とする提言(宮川知法『債務者更生法構想・総論』信山社,1994 年,168 ページ以下)、債権者および債務者双方の協議に拠る合意に基づき処理方法を模索してこれに法的整理に類する制度面で の拘束力を配する意味での「協議型手続論」を基調とする提言(加藤哲夫「私的整理による倒産処理」小島武司=伊藤眞『裁判外 紛争処理法』有斐閣,1998 年,177 ページ)、私的整理から連続性のある法的整理の活用を検討する「プレパッケージ型手続論」を 基調とする提言(高木,前掲論文,21 − 24 ページ)、そして、私的整理に多数決原理を導入することを想定した「事業再生法新 立法案」の導入や、特定調停法の一部改正を検討する案(高木新二郎「私的再生と法的再生」『事業再生と債権管理』111 号,2006 年,153 − 154 ページ)などがある。一方で、「もともと、私的整理は、破産法など制定以前から古く存した事実行為を指しており、

これを成文化しようとすると和議法的なものとなり、私的整理ではなくなるおそれもある」との指摘もある(上野久徳「私的整理 の実状と問題点」『新・実務民事訴訟講座 13』日本評論社,1981 年,348 ページ)

33  ADR 基本法3条

定など将来的な ADR の潮流を照らせば、事業再 生ADRの活用が一試論として検討に値すると考 えられる。本章では、これら事業再生 ADR の必 要性、そして ADR 基本法に定める認証機関31に 関する政策提言並びにその機能について論じる ものとする。

4.1 事業再生 ADR の必要性

 私的整理の法的整理に対する優位性は、当該 手続が関係当事者間の「任意」で行われる手続で あるがゆえに、例えば商取引債権者を支援の対 象にしないなど柔軟な処理が可能となり、結果 として、事業価値を維持しながら「高い経済合理 性」が実現可能であることにあり、依然として法 的整理の申立てに伴う「懲罰的倒産観」と称され る社会的風潮が蔓延するわが国においては、現 時点では利害関係者にとって最も有用な手続で あると考えられる。

 一方で、「任意」であるがゆえの固有の課題が 存在し、その手続機能が十分に活用されておら ず、柔軟な処理手続全体を拘束することなく必 要最小限の法的拘束力を与えることでその課題 の解決が可能であるのならば、立法的措置を与 えることは検討に値しよう32

 また、事業再生という枠組みの中では、私的整 理と法的整理は理論上同一性を有する手続であ ろうから、その双方の手続の長所・短所を互いに 補完することが可能となる私的整理と法的整理 の連続性に関する立法的措置も、あわせて検討 していくべきであろう。

 私的整理、そして私的整理と法的整理の連続 性に関する立法的措置の検討にあたっては、ま ず、私的整理を遂行する上での実務上の最たる 課題といえる窮境企業と債権者間との合意形成 にかかる点について、「第三者による調整」による 関係者の合意をより重視した措置を準備し、法 的整理の代替手続として利用することが検討出 来ないものであろうか。

 また、その代替手続における合意事項につい ては一定の法的効果を供与し、法的整理におい てもその効力を継続させる措置を検討すること で、私的整理と法的整理の連続性を確保するこ とが出来ないものであろうか。

 司法制度改革の一連の流れにおいて、ADR 基 本法(「裁判所外紛争解決手続の利用の促進に関 する法律」)の策定が行われた。その基本理念は

「裁判外紛争解決手続は、法による紛争解決のた めの手続として、紛争当事者の自主的な紛争解 決の努力を尊重しつつ、公正かつ適正に実施さ れ、かつ、専門的な知見を反映して紛争の実情に 即した迅速な解決を図る」33としており、「専門的 な知見」を供する第三者が行う業務に関して認 証制度を設けて、併せて時効の中断などに係る 特例を定めている。

  以 上 の 文 脈 か ら す れ ば 、 近 時 の A D R

(Alternative Dispute Resolution;ADR)の拡充・活 性化が期待されている中で、私的整理において、

認証を受けて公的な位置づけを与えられた中立・

公正な専門的な知見を有する第三者が、窮境企 業と債権者との調整を図ることにより関係者の

(13)

合意形成を引き出す仕組み、また、仮に法的整理 に移行した場合においても、私的整理の過程で 合意形成が可能となった部分については、法的 整理において一定の法的効果を供与する仕組み、

すなわち事業再生版ADRについて検討すること はわが国のADRにかかる潮流に即したものと言 えよう34

4.2 認証機関の基準および人材

 事業再生を取り巻く環境は、法的整理の整備 や事業再生手法の発達などの手続的なインフラ だけに留まらない。事業再生ビジネスのプレイ ヤーとして、公的機関では整理回収機構(RCC)

に端を発した後の、産業再生機構(IRCJ)や中小 企業再生支援協議会の設立35、民間企業ではプラ イベート・エクイティ・ファンドや投資銀行、そ して我々のような事業再生アドバイザーやター ンアラウンド・スペシャリストの出現など劇的に 変化しており、手続的なインフラのみならずビジ ネス的・人的なインフラも整備・拡充しつつある。

 産業再生機構は既に債権買取期限が満了し、

その役割も終焉を迎えつつあるが、その役割は

「不良債権処理を急ぐとともに産業の一体的再生 を図るために、本来は民間で行うべき再生ビジ ネスを一時的に肩代わりしたため」36であったこ とを鑑みると、今後の事業再生ビジネスの舵取 りの主導権は公的機関から民間企業へ移行して いくであろうし、事実、これら公的機関で活躍し た人材が、民間企業(プライベート・エクイティ・

ファンド)を設立して新たな事業再生ビジネス を興す動きも出始めている37

 事業再生の業務は法律面・会計面・税務面と いった知識だけでは成し遂げられるものではな い38。その現場では、上述した通り、日々、経営 陣・従業員・債権者などの「ヒト」と「ひと」と の喧々諤々の議論と交渉が繰り返されることと なり、時に困難な局面が多々有り、そのような 様々な局面を潜り抜けた経験も併せ持つ必要が ある。その意味では、事業再生業務は知識的な側 面と交渉技術などの経験的な側面の両輪のスキ ルが必要であり、ある意味、専門性の高い業務と 言って良い。そして、過去、わが国にこれら知識 のみならず経験を兼ね備えた人材は、会社更生 手続における法律管財人に代表されるような一 部の弁護士に限られていたが、近時のビジネス 的・人的インフラの拡充に比例して、その裾野は 拡大しつつあると言えよう。

 英国では、2002 年に事業法(Enterprise Act)を 制定し倒産法の改定が行われた。事業再生を図 る上では、会社管理手続(administration:以下、

「 管 理 手 続 」 と 云 う ) お よ び 会 社 任 意 整 理

(company voluntary arrangement:(以下、「CVA」

と云う)が活用されるが、中でも、管理手続につ いては、わが国の私的整理に似た手続である。窮 境に陥った企業は、管理人(administrator)を選 任して裁判所に届け出を行うと自動的に管理手 続の開始となるが、管理手続開始後は、債務者の 権限がこの管理人に集中することとなり、再建 計画を策定し、債権者との交渉をすることとな る39。この管理人に就任する資格があるのは、倒

34  これら ADR 法を活用しうることについては、山本和彦「『無限後退』からの脱出を目指して―倒産法制の新たな展望―」『NBL』

800 号,2005 年,91 ページ、佐藤鉄男「裁判外紛争処理と法的倒産処理手続の関係」今中利昭先生古稀記念『最新 倒産法・会 社法をめぐる実務上の諸問題』民事法研究会,2005 年,525 ページ、高木,前掲論文,154 ページ)

35  中小企業庁が旗振り役となり、中小企業の再生に向けた取り組みを支援するため、産業活力再生特別措置法に基づき各都道府県 に設置されている公的機関で、弁護士、公認会計士、税理士、中小企業診断士、金融機関 OB などの常駐専門家を置き、窮境企業 に対する相談・助言を行っているが、産業再生機構が有する債権買取機能はなく、いわば公的なアドバイザー機関のような役割 を果たしている。その実績としては、中小企業庁ホームページ( h t t p : / / w w w . c h u s h o . m e t i . g o . j p / k e i e i / s a i s e i / 051226kyougikai̲jyokyo.htm:2006 年2月1日取得)にて紹介されており、2005 年 11 月末現在で 711 社について、再生計画の策定 が完了したとしている。

36  高木,前掲論文,152 ページ。

37  産業再生機構で活躍したプレイヤーの事例が、http://www.sankei.co.jp/news/051218/morning/18kei003.htm(2006 年1月 30 日取得)

にて掲載されている。

38  事業再生を担う人材に関する論稿として、田作朋雄「音楽と事業再生−芸術性の発露としての事業再生」商事法務編『再生・再 編事例集4』商事法務,2005 年,1ページ以降。田作はその文献の中で、ターンアラウンドマネージャーの役割を「オーケスト ラの指揮者のそれに似ている」としている。

39  これら英国における事業再生手続を詳述するものとして、事業再生研究機構編『事業再生ファイナンス』商事法務,2004 年,113

− 151 ページ。その他、日原正視「各国との比較におけるわが国の事業再生関連手続」『事業再生と債権管理』111 号,2006 年,

162 − 165 ページ。

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