環境マネジメントシステム規格の比較研究 : 中小 事業者における環境経営の促進を目指して
著者 池北 實
雑誌名 同志社政策科学研究
巻 8
号 1
ページ 115‑134
発行年 2006‑07‑25
権利 同志社大学大学院総合政策科学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000010978
あらまし
近年の経営おいては、環境に関わる諸課題を 事業計画の中に継続的に取り込んで行くような、
環境に関する経営システムの構築が求められて いる。そのツールとして環境マネジメントシス テムがある。筆者は、環境マネジメントシステム の国際規格である ISO14001、日本において中小 事業者向け制定された地域的規格であるエコア クション 21 及び KES、英国の Acorn Method 等に ついて比較研究を行い、中小事業者にとっては、
「コストの軽さ」及び「手法の容易さ」で表され る人的及び財務的資源の制約に関わる問題が課 題であることを明らかにした。
なお、中小事業者向け環境マネジメントシス テムを考える上でのアプローチ方法は、次の2通 りに分類できると考えている。
① 国際規格であるISO14001の要求事項を簡 易化した地域的な規格を制定し、その規 格に準拠した環境マネジメントシステム を一括的に実施する。
② 国際規格であるISO14001の要求事項はそ のままにして、環境マネジメントシステ ムを段階的に実施する。
筆者は、国際規格 ISO14001 に準拠した第三者 認証取得による企業の信用力の補強という視点 も重要であると考えており、「ISO14001」、「段階 的実施」、「環境パフォーマンス指標」、「実施レ ポート」、「段階監査」を構成要素とする中小事業 者が取り組みやすく実効性がある新たな環境マ ネジメントシステム及びその運用体制を提案し ている。
1.はじめに
今日の地球環境問題は、産業革命以降に始 まった先進諸国における大量生産・大量消費・大 量廃棄のライフスタイル、更に発展途上国での 工業生産増加・人口増加等に伴って引き起こさ れ、地球温暖化、廃棄物の増加(不法投棄)、化 学物質による汚染(健康被害)、オゾン層の破壊、
天然資源の枯渇、森林破壊、砂漠化、海洋汚染、
酸性雨など多岐に及んでいる。
また、EU における RoHS 指令により、2006 年 7月1日以降は同地域に向けた特定製品群に対 して有害化学物質6品目(鉛、水銀、六価クロム、
カドミウム、PBB,PBDE)の非含有が求められ ている。このため日本の企業においてもリスク 予防の観点からこれに呼応した動きがあり、製 造過程や製品からの有害化学物質排除が必要と されるようになっている。
経営的視点からみると、このような今日的環 境課題に対して、事業活動や提供する製品及び サービスにおける環境配慮が必須要件となって いる。このために、各種の環境問題を総合的に捉 え、事業計画の中に適宜、継続的に取り込んで行 くための環境マネジメントシステム構築が必要 となっている。
2.中小事業者の環境課題と環境マネジメント 2.1 中小事業者と取り巻く事業環境
様々な地球環境問題に対して、最適生産・サー ビス消費・最小廃棄に向かう持続可能な社会構 築に配慮した活動が、企業の生存のためにも必環境マネジメントシステム規格の比較研究
―中小事業者における環境経営の促進を目指して―
池 北 實
須となっている。特に日本においては、総務庁
「事業所・企業統計調査」によれば、中小企業数 (会社数 + 個人事業者数)は約 469.0 万社で企業数 に占める割合は99.7%であり、中小企業の会社数 は約 159.5 万社で全会社数に占める割合は 99.2%
となっている。持続可能な社会の構築には、これ ら企業における環境と両立を目指した経営(環 境経営)が重要な役割を担っている。
一般的には、中小企業は大企業に比べて経営 資源の脆弱性を語られることが多いが、規模が 小さい企業には小さいことの強みがある。例え ば中小企業では、組織の柔軟性、機動性、サービ スといった点で強みを発揮している。しかしな がら、製品そのものは優秀でも「企業の信用力が 無い」等の製品内容以外の要素が考慮され、大企 業に比べて不利な扱いを受ける場合がある。環 境マネジメントシステムの第三者認証は、「信用 力補強の働き」もあり、企業経営にとって有効で あることは、2 . 2章で述べる調査結果でも明ら かになっている。
2.2 環境への取り組みにおける阻害要因
2.1章で述べたような環境に関する課題に対 処するには、環境マネジメントシステムをツー ルとして活用するのが効果的であり、日本にお いては ISO14001、エコアクション 21、KES 等の 環境マネジメントシステムが運用されている。ISO14001 については、日本では大手企業及び海 外と取引がある一部の中堅企業を中心に 17000 件以上の認証取得(2005 年1月現在)がなされ ている。一方、日本における事業者数の 99% 以 上を占める中小事業者での環境マネジメントシ ステム構築は、環境負荷低減に大きな影響力を 有している。しかし、多くの中小事業者にとって は、経費や所要時間の負担、専門知識を有する人 材の不足等のためにISO14001に準拠した環境マ ネジメントシステム構築には容易に取り組めな いという課題がある。
環境への取り組みにおける阻害要因を明らか にするために、環境問題及び環境マネジメント システムに関する各種の調査結果を以下に示す。
A.京都工業会による企業の環境問題に関する 調査(1999 年 11 月実施。対象:資本金1億円
以下、従業員 10 〜 100 人)では、次のような 結果が示されている。
1)環境へのとらえ方
①これからの課題:46%
②取り組んでいくべき重要な課題:24%
③余り重要な課題としては捉えていない:
23%
④考慮したことはない:7 % 2)環境問題に取り組む上での問題点
①コストが上昇する:39%
②情報が不足している:39%
③社会の理解が得られない:16%
④その他:6 %
B.日本適合性認定協会(J A B )が発行した
「ISO14001環境マネジメントシステム運用状況 調査報告書」(2005 年 11 月付)によると、次の ような結果が出ている。(抜粋、一部編集)
1)「取引先に要求している」「客先から要求さ れている」と回答した組織に、EMS の認証 取得が取引上の条件もしくは優位要件と なっているかいないかと訊いた場合
「取引先に要求している」組織で、「条件もし くは優位要件となっている」と回答したのは 64.0%、「条件もしくは優位要件となっていな い」と回答したのは 34.4% である。
また、「客先から要求されている」組織で、「条 件もしくは優位要件となっている」と回答し たのは 70.0%、「条件もしくは優位要件となっ ていない」と回答したのは 26.0% である。
2)EMS の審査登録全般に対する意見で最も 多かったのは「高額、コスト高」で 31.9%。
次いで多い順に「審査レベルアップ」19.1%、
「審査のばらつき」12.8%などとなっている。
以下に主な回答を挙げる。
①「高額、コスト高」(31.9%)
②「審査レベルアップ」(19.1%)
③「審査のばらつき・機関に差」(12.8%)
③「アドバイス・気づかせる審査」(8.6%)
C.サプライチェーンへのエコアクション 21 導 入を推進している積水化学工業(株)に問い合 わせを行い、同社の導入経緯及び導入理由と して次の回答を得た。(一部編集)
1)導入経緯
①昨年(2004 年)までは、資本金3億円以 上の取引先にISO14001の取得を取引要件 にしていた。
②中小の取引先(鉄、木加工などが多い)は、
今までに各種のコスト削減手法の勉強会、
T P 展開などの活動支援をしていたもの の、ややもするとその時かぎりの活動に 陥りやすいきらいがあった。
③環境に関しても、生産部門では、継続して 取り組んできたが、中小に関しては、コス トの視点からの歩留まり改善など限定的 な取り組みであった。
2)導入理由
上記状況の中、ちょうどエコアクション 21 の全国展開が昨年企画され、取引先、積水双 方のメリットが考えられるため導入を決め た。また、この活動を通じ、取引先経営者お よびスタッフ部門現業部門のレベルアップ をはかり、部材単価、輸送効率向上などを通 じて、LCA(Life Cycle Assessment)、LCC(Life Cycle Costing)の改善を図れればと考えてい る。メリットは次のものである。
① PDCA をまわしていくように要求され、
『取得しておわり』にならず、継続した取 り組みが行われる。
②導入コストが安価。
④現状把握のフォーマットがあり、取り掛 かりやすい。
これら調査結果から、中小事業者にとって環 境への取り組みは、環境マネジメントシステム 構築による「継続的改善」や「取引条件もしくは 優位要件」にメリットを見いだしているものの、
「コスト」、「取り組みやすさ」、「パフォーマンス」
の点では、現在の ISO14001 では必ずしも十分に 応え切れていないことが分かる。
3.環境マネジメントシステムの現状 3.1 BS7750、EMAS 及び ISO14001 環
境マネジメントシステム
欧州では 1980 年代から自発的に自社の環境政
策を制定し始める大企業が現れた。この中には 外部の環境コンサルタント会社に委託して、自 社の環境実績を調査し、その結果を社外に公開 することもなされた。このような活動が 1990 年 末まで各社がそれぞれのやり方で行われた為、
企業に一様な環境管理の方法を提供するために 二つのプログラムが策定された。
一つは英国規格協会(BSI)によって 1992年3 月に制定されたBS7750「環境管理システム」で、
もう一つは EC(現 EU)が 1993 年7月に公布し た EC 規則 1836/93「voluntary participation by organisations in a Community eco-management and audit scheme (EMAS)(組織による共同体環境管理 及び監査計画への自主的参加)」、略称「環境管 理・監査要項」、である。
またISOは、1991年に国連環境開発会議の「持 続可能な発展のための産業人会議」から企業が 環境を考慮しながら経営を行う為の国際的共通 ツール(国際規格) 制定の働きかけを受けたことか ら、ISO9000 の成功体験をベースに 14000 環境マ ネジメントシステム規格制定に着手し、1996 年 9月に ISO14001 を発行した。
これら ISO14001、BS7750 及びEMAS における 環境マネジメントシステム要素の比較を表 3.1.1 に示す。この中で、「コミュニケーション」「緊急 事態への準備及び対応」「環境声明書」及び「中 小事業者の参加促進の規定」で差異が見られる。
なお、中小事業者への配慮をどうするかとい う議論が、ISOの環境管理規格を所管するTC207 の中の環境マネジメントシステム規格を扱う SC1 と環境監査規格を扱う SC2 の合同会議にお いて、ISO14001規格が発行されるまで行われた。
しかし、この規格は簡明であり、それなりに対応 すれば特に中小事業者への配慮はいらないので はないかとの結論になった。1
また、ISO14001:2004年改訂版については、ISO としては、中小事業者にも使いやすくなること を意図していた。しかし、ISO/SC1への欧州の小 事業者代表である NORMAPME は、改訂版は中 小事業者の必要に応えておらず導入を促進する ものではないとして、次の提案をしている。2
①中小事業者向けにISO14001の代替環境マネ
1 大島義貞『中小企業の環境マネジメントシステム』日科技盟出版社、1999 年、p 6 - 7
2 The Global Use of Environmental Management System by Small and Medium Enterprises, ISO, ISO/TC207/SC1/Strategic SME Group, 2005, p6
ジメントシステムの研究
②中小事業者向けに ISO14001 の指針の開発
③上記①及び②に対する提案を開発するため の特別調査グループの設立
3.2 国、地域等で開発された環境マネ ジメントシステム
ISO14001 は、大手企業及び海外と取引がある 中堅企業を中心に認証が取得されているものの 経費や認証登録までに要する時間的負担等が大 きいため、中小事業者には取り組みにくいとい う問題がある。このため、ISO14001 の代替環境 マネジメントシステムとして中小事業者向けに 簡易版の環境マネジメントシステムが国、地域、
個人レベルで開発されている。日本においては、
エコアクション21、KES、エコステージ等がある。
以下に、日本における中小事業者向け環境マ ネジメントシステム及びEUにおける中小事業者 向け環境マネジメントシステムの概略を述べる。
1)日本における中小事業者向け環境マネジメ ントシステム
エコアクション 21 は、中小事業者等における 環境への取り組みを促進するため、1996 年に環 境庁(現環境省)が策定し、その後、何度か改定 しながら普及が進められている。現行の 2004 年 度版では、環境問題に関するグリーン購入の進 展等の様々な新たな動きを踏まえて内容が全面 的に改定され、第三者認証制度も制定された。
KES は、中小事業者向け環境マネジメントシ ステム規格として、京都の企業・行政・市民によ る「京のアジェンダ 21 フォーラム」が 2001 年に 制定したもので、認証登録は環境への取り組み 状況に合わせて、ステップ1とステップ2に分 かれている。
これら国内の代表的な中小事業者向け環境マ ネジメントシステムであるエコアクション 21 及 びKES並びにISO14001における環境マネジメン トシステム要素の比較を表 3.2.1 に示す。特徴と しては、次を挙げることができる。
① エコアクション 21 には、要求事項として環
環境マネジメントシステムの要素 ISO14001 BS7750 EMAS
一般要求事項 ○ ○ ○
環境方針 ○ ○ ○
環境側面 ○ ○ ○
法的及びその他の要求事項 ○ ○ ○
目的、目標及び実施計画 ○ ○ ○
資源、役割、責任及び権限 ○ ○ ○
力量、教育訓練及び自覚 ○ ○ ○
コミュニケーション ○ ― ○
文書類 ○ ○ ○
文書管理 ○ ○ ○
記録の管理 ○ ○ ○
運用管理 ○ ○ ○
緊急事態への準備及び対応 ○ ― ○
監視及び測定 ○ ○ ○
順守評価 ○ ○ ○
不適合並びに是正処置及び予防処置 ○ ○ ○
内部監査 ○ ○ ○
マネジメントレビュー ○ ○ ○
第三者認証 ○ ○ ○
環境声明書 ― ― ○
中小事業者の参加促進の規定 ― ― ○
表 3.1.1 環境マネジメントシステム要素の比較 - ISO14001、BS7750 及び EMAS
3 http://www.theacorntrust.org/in̲pa̲what.shtml
境活動レポートが規定されているものの、
内部監査の規定がなされていない。
② KES では、コミュニケーション及び緊急事 態への準備及び対応の規定が簡易化されて いる。
2) EU(欧州連合)における中小事業者向け環境 マネジメントシステム
EU においては、Acorn Method(英国)、Green Dragon(英国)、Eco-Lighthouse(ノルウェー)、 Eco-mapping(ベルギー)等が開発されている。
なお、Acorn Method とは、2001 年から 2003 年 にかけて Project Acorn として英国において通商 産業省(DTI)の財政支援を受け、環境食糧農業省 (DEFRA)の後援を受けて開発された環境管理の 段階的実施の手法であり、2003 年に BS8555:
2003、Environmental management systems - Guide to the phased implementation of an environmental m a n a g e m e n t s y s t e m i n c l u d i n g t h e u s e o f environmental performance evaluation(環境マネジ
メントシステム-環境パフォーマンス評価の利用 を含む環境マネジメントシステムの段階的実施 の手引)として結実している。6社の事例研究が 紹介されているが、その中の1社による下記コメ ントがこの手法のメリットをよく表している。3 “I have found that breaking down the process into
clear, distinct steps makes ISO14001 implementation far less daunting”.
(プロセスを明確で明瞭なス テップに分けることによって、ISO14001 の実施 が遙かに躊躇しないものとなった。)
3.3 環境マネジメントシステムの認証・
登録制度
A . ISO14001企業や団体等がISO14001の認証を取得するに は、第三者の審査登録機関による審査を受けな ければならない。日本には日本適合性認定協会
(J A B )によって認定された審査登録機関が、
環境マネジメントシステムの要素 ISO14001 エコアクション 21
KES
(ステップ2)
一般要求事項 ○ ○ ○
環境方針 ○ ○ ○
環境側面 ○ ○ ○
法的及びその他の要求事項 ○ ○ ○
目的、目標及び実施計画 ○ ○ ○
資源、役割、責任及び権限 ○ ○ ○
力量、教育訓練及び自覚 ○ ○ ○
コミュニケーション ○ ○ ○
文書類 ○ ○ ○
文書管理 ○ ○ ○
記録の管理 ○ ○ ○
運用管理 ○ ○ ○
緊急事態への準備及び対応 ○ ○ ○
監視及び測定 ○ ○ ○
順守評価 ○ ○ ○
不適合並びに是正処置及び予防処置 ○ ○ ○
内部監査 ○ ― ○
マネジメントレビュー ○ ○ ○
第三者認証 ○ ○ ○
環境活動レポート ― ○ ―
中小事業者の参加推進 ― ○ ○
表 3.2.1 環境マネジメントシステム要素の比較 - ISO14001、エコアクション 21 及び KES
2004年 12月現在で 42 機関あり、受審企業は業種 としての専門性や費用を調査し、自社にとって 有効な機関を選択することができる。また海外 の審査登録機関を選ぶこともできる。
ISO14001 の認証取得を行おうとすると、自社 の企業活動を ISO14001 の規格に準拠して構築 し、運用を行って順調に進んでいることを確認 し、審査登録機関の審査を受けることになる。主 には以下の審査を受けるのが一般的である。
1)書類審査
2)本審査第1段階(システムの構築状況)
3)本審査第2段階(システムの運用状況)
審査はISO14001規格との整合性を中心に行わ れ、不適合に対する是正処置及び/又は予防処 置をとった後、審査登録機関は判定会議を経て 認証を決めることになる。また JAB の認定を得 た機関は JAB への登録を行って公開する。また、
認証取得企業は、登録を維持するためにサーベ イランス(定期審査、年1回と年2回の方法があ る)を受け、3年毎に更新審査を受けることにな る。
B . エコアクション 21
エコアクション 21 の認証・登録制度では、認 証・登録される事業者は、ガイドラインの要求事 項に基づき、
①環境経営システムを構築し、運用し、維持 し、
②ガイドラインに規定する必要な環境への取 組(二酸化炭素・廃棄物・水使用量の削減)
を行い、
③環境活動レポートを定期的に作成し公表し て、
認定・登録されたエコアクション 21 審査人によ る所定の審査を受審し、かつ判定委員会の審議 により、ガイドラインの要求事項に適合してい ると認められることが必要である。
事業者の認証・登録期間は2年間で、登録 1 年 後に中間審査、2年後に更新審査をそれぞれ受 審することが必要である。
以上、環境マネジメントシステムの認証・登録 制度を見てきた。ISO14001 では、審査員が受審 事業者を審査し、その審査結果を審査・登録機関 の判定会議で判定し、合格であれば審査・登録機
関に登録をすることになる。一方、エコアクショ ン 21 では、審査人が受審事業者を審査し、その 審査結果をエコアクション21の地域事務局の判定 委員会で判定し、合格であれば中央事務局(iGES/
持続性センター)に登録をすることになる。
中小事業者向け環境マネジメントシステムに おいては、その規格上の要求事項の平易さと共 に、認証・登録プロセスの簡易さも重要なファク ターとなる。筆者は、ISO14001 審査員補であり 且つエコアクション 21 の審査人の資格を有して いるが、ISO14001 とエコアクション 21 の比較に おいては、経験的にもエコアクション 21 のプロ セスの方が受審者にとって書類準備等の面で取 り組みやすいと言える。ただ、5章で提案する段 階的実施の手法であれば、ISO14001 であっても 取り組みの容易さを確保することができる。
4.環境マネジメントシステムの比較 4.1 諸規格における特徴的な要求事項
の比較
比較の為に、ISO14001、エコアクション 21 及 び KES(ステップ2)に関して、それらの要求事 項を表 4.1.1 にまとめた。
表 4.1.1 の中で、環境マネジメントシステム構 築の初期に最も時間を要するのが「環境側面」に 関する事項であり、この項目について詳細比較 をする。また、ステークホルダーとの関わりが強 い「コミュニケーション」及び各規格間で差異が 大きい「内部監査」も同様に詳細比較を行う。中 小事業者向けマネジメントシステムは、代表的 にエコアクション 21 で比較する。なお、これら 詳細比較の目的は、実際に環境マネジメントシ ステムを構築する時の難易度を把握するためで ある。
●「環境側面」
以下に示すように、ISO14001 では仕組み中心 の規定となっているが、エコアクション 21 では 具体的な抽出内容が規定されている所に特質を 見ることができる。
A .ISO14001 における環境側面
ISO14001: 2004 エコアクション 21 KES(ステップ 2)
4.1 一般要求事項 ― 一般要求事項
4. 2 環境方針 環境方針の作成 環境宣言
4.3.1 環境側面 環境負荷と 環境への 取り組み 状況の把握及び評価
環境改善項目
4.3. 2 法的 及びそ の他 の要 求事 項
環境関連法規等の取りまとめ 法律その他の規制
4.3.3 目的、目標及び実施計画 環境目標及 び環境活 動計画の 策定
環境改善目標 環境改善計画 4.4 .1 資源、役割、責任及び権限 実施体制の構築 組織と責任 4.4. 2 力量、教育訓練及び自覚 教育・訓練の実施 教育と訓練 4.4.3 コミュニケーション 環境コミュニケーション 情報の連絡
4.4.4 文書類 文書体系
4.4 .5 文書管理 文書の管理
4.5.4 記録の管理
環 境関連 文 書及び 記 録 の 作 成・整理
記録
4.4.6 運用管理 実施及び運用 活動
4.4 .7 緊急 事態へ の準 備及 び対 応
環境上の緊 急事態へ の準備及 び対応
緊急事態への準備及び対応
4.5 .1 監視及び測定 確認
4.5. 2 順守評価 順守評価
4.5.3 不適 合並び に是 正処 置及 び予防処置
取組状況の 確認及び 問題の是 正
修正と予防
4.5.5 内部監査 ― 自己評価
4.6 マネジメントレビュー 代表者によ る全体の 評価と見 直し
最高責任者による評価
表 4.1.1 ISO14001、エコアクション 21 及び KES(ステップ 2)の要求事項比較
4.3.1 環境側面
組織は、次の事項にかかわる手順を確立し、実施し、維持すること。
a)環境マネジメントシステムの定められた適用範囲の中で、活動、製品及びサ−ビスについて組織が管理で きる環境側面及び組織が影響を及ぼすことができる環境側面を特定する。その際には、計画された若しく は新規の開発、又は新規の若しくは変更された活動、製品及びサービスも考慮に入れる。
b)環境に著しい影響を与える又は与える可能性のある側面(すなわち著しい環境側面)を決定する。
組織は、この情報を文書化し、常に最新のものにしておくこと。
組織はその環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持するうえで、著しい環境側面を確実に考慮に入 れること。
環境側面は、組織内の活動で直接的に管理で きる環境側面を、工程毎に、インプット、処理、
アウトプットに分けて明らかにし、また組織と 外部との関わりの中で間接的に管理できる(影 響を及ぼすことができる)環境側面も特定する 必要がある。(図 4.1.1)
環境側面に関する規定を満たすためには、環
境側面の抽出及び評価・決定方法に関して具体 的には次の様な手法がある。
1)環境側面として、次のような項目を抽出する。
a)エネルギー使用状況 b)原材料使用状況
c)排出される廃棄物の状況
d)地域社会への影響
e)過去の発生事象及びその反映状況 f)環境関連法の規制対象施設管理状況と法
規制上の要求事項 g)想定される事故 / 緊急事態
h)外部との関わりの中で環境に影響を及ぼ す事項
2)環境側面を次のような方法で評価する。
環境側面の抽出及び評価においては、著しい 環境側面を特定する手順が求められており、
具体的には次の様なロジックを構築すること ができる。
(1) 定常時、非定常時及び緊急時において評価 を行う。
①定常時は、通常の状態で発生し得る環境 影響を評価する。
②非定常時は、工程や設備の立ち上げ時や 故障発生時などに発生し得る環境影響を 評価する。
③緊急時は、地震、火災、落雷、台風、重 大な誤操作などにより引き起こされるこ とが予想される環境影響を評価する。
(2) 評価点数は、表 4.1.2 に基づき算出する。こ の時、環境にマイナス影響があり削減すべ き環境側面及び環境にプラス影響があり増 加すべき環境側面について評価する。
(3) それぞれの項目で、評価点数が25点以上の ものは、著しい環境側面と決定する。
上記の様なロジックを用いて著しい環境側面 を決定するのが一般的に行われているが、若干 複雑であり、手順等の簡易化が必要である。
<組織内の活動で直接的に管理 できる環境側面を特定>
A B
部門の工程(プロセス)
廃棄物、排水、
騒音・振動等 原材料
部品、半製品
製品、部品 サービス
<組織と外部との関わり(部品供給業者、
運送委託業者、廃棄物処理委託業者、製品 の流通・使用・廃棄など)の中で間接的に 管理できる(影響力を及ぼすことができ る)環境側面も特定>
Output
(産出)
Input
(投入)
Output Input Input
Output Output
図 4.1.1 直接的に管理できる環境側面及び間接的に管理できる環境側面の特定
区分 項 目 点 数 計 算 式 定常時 発生の可能性 F1
発見・予防の可能性 B1 結果の重大性 C1
1〜5 1〜5 1〜10
( F1+B1) ×C1
非定常時 発生の可能性 F2 発見・予防の可能性 B2 結果の重大性 C2
1〜5 1〜5 1〜10
( F2+B2) ×C2
緊急時 発生の可能性 F3 発見・予防の可能性 B3 結果の重大性 C3
1〜5 1〜5 1〜10
( F3+B3) ×C3
表 4.1.2 環境側面の評価点数算出式
B . エコアクション 21 における環境側面 エコアクション21においては、「環境への負荷 の自己チェックの手引き」及び「環境への取組の
自己チェックの手引き」によって抽出すべき環 境側面が特定されているのが特徴である。
Ⅰ 環境への負荷の把握・評価項目の検討
選択シートを用い、「自らの活動が環境にどのような影響を与えているのか、環境対策はどのような水準にある のか」を適切に把握し、評価する。
1)自らの組織の特性を考慮して、事業活動の中 で、環境との関係が深いと考えられる項目を 9つの活動内容から選択する。
①エネルギーの消費 ②原材料、部品,包装 材等の消費 ③水の消費 ④化石燃料等の 燃焼 ⑤化学物質の使用・排出 ⑥製品の 生産・販売 ⑦廃棄物の排出 ⑧廃棄物の
最終処分 ⑨排水
2)選んだ活動内容の項目のそれぞれに対応し た「把握する環境負荷項目」を「環境への負荷 の自己チェックシート」から、「評価する環境 への取組」を「環境への取組の自己チェックリ スト」から、それぞれ選択する。
Ⅱ 環境への負荷の自己チェックの手引き
事業活動に伴う環境への負荷を定められたチェックシートを使用して把握する。二酸化炭素排出量、廃棄物排 出量及び総排水量(水使用量)は必須項目
1)事業活動へのインプットに関する項目
・省エネルギー、新エネルギー使用の拡大 ・ 省資源、グリーン購入 ・節水、水の効率的利 用 【3項目 35 件のチェック事項】
2)事業活動からのアウトプットに関する項目
・二酸化炭素の排出抑制、大気汚染等の防止 ・化学物質対策 ・製品の開発・設計等にお ける環境配慮 ・廃棄物の排出抑制、リサイク ル ・排水処理 等【7項目 130 件のチェッ ク事項】
3)環境経営システムに関わる項目
・環境保全のための仕組み ・体制の整備 ・ 環境教育、環境保全活動の推奨等 ・情報提
供、社会貢献、地域の環境保全 ・エコビジネ ス、技術開発 等【6項目 60 件のチェック 事項】
●「コミュニケーション」
ISO14001 は環境報告書の規定は無いが、以下 に示すようにエコアクション 21 では環境活動レ ポートが規定されている。これは外部コミュニ ケーションの一形態と捉えることができ、ス テークホルダーとの有効なコミュニケーション 手段と言える。(EMAS では環境声明書の規定が ある。)
Ⅲ 環境への取組の自己チェックの手引き
定められたチェックリストを用いて、現状の環境への取組状況を確認し、今後の具体的な取組を明らかにする。
環境側面及び環境マネジメントシステムに関 して、組織内及び外部利害関係者とのコミュニ ケーションとして、事例的に次の様な手順があ る。
1)内部コミュニケーション
組織の各階層及び部門間での環境情報伝達・
交換を行う。
2)外部コミュニケーション
①外部の利害関係者からの環境情報は、調査
結果や対策内容を情報発信元へ伝達する。
②外部コミュニケーションは、地域での会合 又はインターネット等で行う。
B . エコアクション 21 におけるコミュニケー ション
環境に関する情報や苦情を処理し、顧客や製 品等に関する双方向のコミュニケーションを進め る。また、環境活動レポートを作成し、公表する。
4.4.3 コミュニケーション
組織は、環境側面及び環境マネジメントシステムに関して次の事項にかかわる手順を確立し、実施し、維持す ること。
a)組織の種々の階層及び部門間での内部コミュニケーション
b)外部の利害関係者からの関連するコミュニケーションについて受け付け、文書化し、対応する
組織は、著しい環境側面について外部コミュニケーションを行うかどうかを決定し、その決定を文書化するこ と。外部コミュニケーションを行うと決定した場合は、この外部コミュニケーションの方法を確立し、実施す ること。
A . ISO14001 におけるコミュニケーション
4.7 環境コミュニケーション
環境活動レポートを作成し、公表する。
外部からの環境に関する苦情や要望を受け付け、必要な対応を行う。
1)内部コミュニケーション
環境活動板による環境関連情報の掲示などに よる組織内部のコミュニケーション
2)外部コミュニケーション
顧客や地域住民、行政関係者との情報交換等、
外部組織とのコミュニケーション 3)環境活動レポート
環境活動レポートを作成し、外部関係者から 要請があった場合は公表する。
5.1 環境活動レポートの取りまとめ
次の事項を盛り込んだ環境活動レポートを取りまとめ公表する。
①環境方針
②環境目標とその実績 ③主要な環境活動計画の内容 ④環境活動の取組結果の評価
⑤環境関連法規への違反、訴訟等の有無
上記の他、組織の概要に関する以下の情報は、必 ず記載する
・事業所名及び代表者氏名
・所在地
・環境管理責任者氏名及び担当者連絡先
・ 事業活動の内容についての簡単な記述
・事業の規模(主要製品の生産量・出荷額、従業 員数、事業所の延べ床面積など、事業の規模が わかる情報)
●「内部監査」
以下に示すように、ISO14001 では内部監査が 規定されているが、エコアクション 21 には規定 されていない。しかし、環境マネジメントシステ ムの妥当性や有効性を経年的・客観的に把握す る為には、内部監査を実施した方が望ましいと 言える。
内部監査は、環境マネジメントシステムが有 効に機能しているか検証するために実施するも のであり、下記のような内容等を有している。な お、内部監査員の選定及び監査の実施において は、監査プロセスの客観性及び公平性が確保で きるようにする。
1)内部監査の内容
環境マネジメントシステムが、ISO14001 の要 求事項を含めて、環境マネジメントのために 計画された取決めに合致しているか、また、適 切に実施され、維持されているか検証し判定 する。
2)内部監査の計画
内部監査の実施を計画する際に、環境監査責 任者は、監査の範囲、日程を明確にする。
3)内部監査の実施
内部監査チ−ムは、次の監査を実施する。
①定期監査は、組織全体を監査対象として実 施する。
②臨時監査は、環境上の問題が発生し、環境管 理責任者が必要と判断した場合に、該当す る部門又は業務活動に対して実施する。
4) 内部監査の結果
監査の結果に関する情報は、監査チームが作 成した報告書を環境監査責任者が承認した後、
マネジメントレビューの情報として環境管理 責任者が経営層に提供する。
B . エコアクション 21 における内部監査 エコアクション 21 には内部監査が規定されて いないものの、「12代表者による全体の評価と見 直し」における規定で、代表者は見直しに必要な 情報を収集し、環境経営システムが有効に機能 しているか、環境への取組は適切に実施されて A . ISO14001 における内部監査
4.5.5 内部監査
組織は、次の事項を行うために、あらかじめ定められた間隔で環境マネジメントシステムの内部監査を確実に 実施すること。
a) 組織の環境マネジメントシステムについて次の事項を決定する
1)この国際規格の要求事項を含めて、組織の環境マネジメントのために計画された取決め事項に適合して いるかどうか
2)適切に実施されており、維持されているかどうか b) 監査の結果に関する情報を経営層に提供する
監査プログラムは、当該運用の環境上の重要性及び前回までの監査の結果を考慮に入れて、組織によって計画 され、策定され、実施され、維持されること。
いるかを評価することになっている。これは中 小事業者の中でも代表者が組織全体を容易に掌 握できる規模の組織にのみ有効に機能であり、
それ以上の規模の事業者では内部監査を実施し た方がシステム運用の妥当性及び有効性が高ま ると言える。
以上において「環境側面」、「コミュニケーショ ン」、「内部監査」といった特徴的な要求事項の比 較を行ってきたが、これら事項を含む環境マネ ジメントシステムを構築・運用するには相当の 専門知識が必要であることが明らかである。
従って、専門知識を有する人材が不足している 中小事業者が取り組みやすくする為には、第5 章に示すような実施手法の工夫が必要である。
4.2 環境マネジメントシステム構築・
運用における比較
環境マネジメントシステムを構築・運用する にあたっての特徴的事項を表 4.2.1 に纏めた。日 本における中小事業者向け環境マネジメントシ ステムの認証数は、現時点では KES 及びその地 方版が最多である。しかし、最近はサプライ チェーンに繋がる中小事業者に対してエコアク ション 21 を勧めている大手事業者が増えている こともあり、同マネジメントシステムによる認 証が急速に増加している。
一方、海外の中小事業者向け環境マネジメン トシステムとして Acorn Method(英国)、Green Dragon(英国)、Eco-Lighthouse(ノルウェー)、 Eco-mapping(ベルギー)等がある。
特に Acorn Method においては、環境マネジメ ントシステムをBS8555規格に準拠して6つの段 階に分ける。各段階のプロセスは、一般的な環境 マネジメントシステムであり、I S O 1 4 0 0 1 や EMAS に合致して構築される。それと同時に活 動、製品又はサービスの環境側面を反映するた めに環境パフォーマンス指標(environmental performance indicators:EPIs)を開発する。この 環境パフォーマンス指標は、環境マネジメント システムの中で使うことができ、またパフォー マンス評価及び報告フレームワークの一部とし ても用いることができる。最終的には第二者監 査及びサプライチェーンの承認、EMAS登録、マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム の 外 部 評 価 ( B S E N ISO14001 認証)の準備が目指されている。
6つの段階を下記し、Acorn Method の全体的 フローチャート4を図 4.2.1 に示す。
段階1.コミットメント及びベースラインの 設定
段階2.法的要求事項及びその他の要求事項 の明確化並びに適合性の確認
段階3.目的、目標及びフローダイアグラム
(実行計画)の開発
段階4.環境マネジメントシステムの実施及 び運用
段階5.点検、監査及び見直し
段階6.環境マネジメントシステムの承認〔→
第二者監査及びサプライチェーンの承認、
EMAS 登録の準備、マネジメントシステム の外部評価(BS EN ISO14001)の準備〕
4.3 経営と環境の視座からの総合評価
中小事業者における経営及び環境の視座から、本稿でとりあげた事項を勘案して、下記①〜⑧ をアセスメント項目とし、レーダーチャートを 用いた「環境マネジメントシステム・アセスメン
運用 IS O14001 エコアクション 21 KES 特徴 I SO 審査登録機関及び認
定機関で構成。国際的に 認 めら れ た第 三者認 証 制度。
環 境省 が策 定 した 環境 マネジメントシステム。
環 境活 動レ ポ ート の公 表を求める。大手企業の サ プラ イチ ェ ーン を中 心 に急 速に 広 がり つつ ある。
地方版 KES も広がって いる。日本において現 時 点では 認 証数が 多 い。
事務局の母体 IS O(国際標準化機構) 環境省 京のアジェンダ 21 フ ォーラム
環境活動の取組段階 上級 中級 初級、中級
認証のステージ 1段階 1段階 2段階
取得サイト数 17, 441(2005 年 1 月現在) 522(2005 年 12 月現在) 182(ステップ 2。ステ ップ 1 は 366 件。2005 年 12 月現在)
審査制度 第三者認証 第三者認証 第三者認証
公表の方法 環境方針 環境活動レポート 環境宣言 コンサルティング コ ンサ ル タン ト機関 と
審査登録機関を峻別。
審査員は審査の後、コン サルティングもできる。
審査員はコンサルタン トとは別であるが、ア ドバイスはできる。
認証取得料金 300〜500 万円 15 万円〜40 万円 30 万円(ステップ 2)
表 4.2.1 ISO14001、エコアクション 21 及び KES の特徴的事項
4 『BS8555,環境マネジメントシステム -環境パフォーマンス評価の利用を含む環境マネジメントシステムの段階的実施の手引き』
日本規格協会、p 3
段階1
コミットメント及びベースラインの設定
段階2
法的要求事項及びその他の要求事項の明確化並びに適合性の確認
段階3
目的、目標及びフローダイアグラムの開発
段階4
環境マネジメントシステムの実施及び運用 段階1監査
段階2監査
段階3監査
段階4監査
段階5 点検、監査及び見直し 段階5監査
段階6 環境マネジメント
システムの承認
EMAS 登録の準備
マネジメントシステムの 外部評価の準備 第二者監査及びサプライ
チェーンの承認
図 4.2.1 Acorn Method の全体的フローチャート
トシート」を考案して、環境マネジメントシステ ムの総合評価を行った。
①コストの軽さ ②審査レベルの高さ ③要求事項の妥当性 ④ Man:人の関与
⑤ Machine:設備の環境配慮 ⑥ Method:手法の容易性 ⑦ Material:有害物質管理 ⑧ Money:利益貢献
採点のバラツキを少なくするために設定した
「環境マネジメントシステム・アセスメントシー ト」評価基準を表 4.3.1 に示す。表 4.3.1 で示す評 価基準並びに図4.3.1、図4.3.2 及び図4.3.3 で示す
「環境マネジメントシステム・アセスメントシート」
を用いた評価の手順は、次のようなものである。
1)表 4.3.1 に記した上述①〜⑧のアセスメント 項目に対して、その「基準内容」がどの程度達 成されているかを「基準点数」に基づいて採点 し、得点を「評価点」欄に記入する。
2) 上述1)で得られた得点を、図4.3.1、図4.3.2 及び図 4.3.3 で示す「環境マネジメントシステ ム・アセスメントシート」の「得点」欄に記入 することによって、環境マネジメントシステ ムの総合評価がレーダーチャートによって視 覚的に分かり易く表示される。
なお、今回の評価は筆者が単独で実施したが、
専門的知識と経験を有する複数の評価者で実施
し各得点の平均を取れば、より信頼性が高い データを得ることも可能であろう。
この様なアセスメント手法を用いることに よって環境マネジメントシステムを総合評価で き、中小事業者にとってどのような環境マネジ メントシステムが適しているかを視角的に分か りやすく提示することができる。
環境マネジメントシステムの代表例として、
国際規格の ISO14001、国内の中小事業者向け地 域規格であるエコアクション 21、英国における BS8555 準拠の Acorn Method について「環境マネ ジメントシステム・アセスメントシート」を用い て評価を行った。(図 4.3.1、図 4.3.2、図 4.3.3)ま た、有意な差があった評価結果について表 4.3.2 に纏める。
以上の総合評価によって、ISO14001、エコア クション 21 及び Acorn Method は、次のような特 質を有していると言える。
表 4.3.1 環境マネジメントシステム・アセスメントシートの評価基準
環境マネジメントシステム コストの軽さ 手法の容易性
ISO14001 50 50
エコアクション 21 90 80
Acorn Method 90 90
表 4.3.2 環境マネジメントシステム・アセスメントシートで有意な差があった評価結果
(最高点:100)
A. ISO14001 に準拠した環境マネジメントシス テムの一括的な実施においては、少なくとも 次のような困難がある。
・「手法の容易性」が低い。(ISO14001 の要求 事項を効果的に実施することの難しさ)
・実施に要する「コストの軽さ」が低い。
B.エコアクション 21 は、「手法の容易性」、「コ ストの軽さ」ともに比較的高い評価を得てい る。マネジメントシステム構築においては、最 終的には Plan・Do・Check・Action のサイクル が回るように出来ればよく、構築に要する時 間・資金等の負担が小さいこの方法は、主に国 内サプライチェーンに繋がる中小事業者には 適している。また、コミュニケーションの観点 では、エコアクション21には「環境活動レポー ト」の作成が求められているため、ステークホ ルダーとの密接なコミュニケーションを期待で きる。
ただ、この環境マネジメントシステムによ る認証は、現状では各国の審査登録機関によ る相互受け入れはない。このために、中小事業 図 4.3.1 ISO14001 のアセスメント 図 4.3.2 エコアクション 21 のアセスメント
図 4.3.3 Acorn Method のアセスメント
者であっても国際的に事業展開する場合には、
ISO14001 に準拠した認証又は適合性証明が適 している。
C.Acorn Method は、図 4.2.1 に示すように、段 階6において次の3通りの進み方がある。
①二者監査及びサプライチェーンの承認 ②マネジメントシステムの外部評価の準備 ③ EMAS 登録の準備
今回の評価においては、上記①へ進む場合を 選択しており、「コストの軽さ」及び「手法の容 易さ」ともに高い評価を得ている。しかし、上記
②又は③へ進み、ISO14001 又は EMAS の認証取 得をする場合は、それらの審査登録費が発生し て、「コストの軽さ」の点数は低くなる。
5.中小事業者向け新・環境マネジメント システムの提案
5.1 中小事業者向け新・環境マネジメ ントシステムの構成要件
今まで見てきたように、多くの中小事業者は、
その経営構造の一部として何らかの形態の環境 マネジメントを必要としている。これら中小事 業者向けの環境マネジメントシステムを考える 上でのアプローチ方法は、次の2通りに分類で きる。
① 国際規格であるISO14001の要求事項を簡 易化した地域的な規格を制定し、その規格 に準拠した環境マネジメントシステムを一 括的に実施する。(要求事項簡易化型)
② 国際規格であるISO14001の要求事項はそ のままにして、環境マネジメントシステム を段階的に実施する。(段階的実施手法型)
エコアクション 21 や KES は上記①に相当し、
Acorn Method は上記②に相当する。
筆者は、特に国際的に事業展開する中小事業 者には、人的及び財務的資源の制約に関わる問 題への対処と共に、国際規格 ISO14001 に準拠し た第三者認証取得による企業の信用力の補強と いう視点が重要と考えており、このような中小 事業者に対しては、ISO14001 の段階的実施によ る環境マネジメントシステムが勧められる。【取 り組みやすさ(手法の容易性)への対応】【コス
トの軽さへの対応】
また、資源的制約の大きい中小事業者におい ては、環境マネジメントシステム実施の早い段 階で環境パフォーマンス指標を明確にして、利 益がより明白なものとなるように工夫し、投資 収益の最大化を図ることも大切である。全ての 環境投資の定量的評価は直ちにできないとして も、例えば、環境パフォーマンス指標を適切に設 定することによって、環境マネジメントシステ ム実施による資源効率性の定量化等は可能であ る。【パフォーマンス向上への対応】
また、実施レポートによるステークホルダー を含む外部への情報公開も、その企業への信任 を高める効果が期待できる。
そして、各段階において適切に環境マネジメ ントシステムが構築・運用されていることを、段 階監査でチェックする。
以上述べた観点から、次の構成要件をもつ中 小事業者向け新・環境マネジメントシステムを 提案する。
1) 環境マネジメントシステムの準拠規格:
「ISO14001」
2)環境マネジメントシステムの実施手法:
「段階的実施」
3)パフォーマンスの評価:「環境パフォーマ ンス指標」
4)コミュニケーションとして外部へ情報公 開:「実施レポート」
5) 監査によるシステムの妥当性及び有効性確 認:「段階監査」
なお、本提案はサプライチェーンの環境パ フォーマンス改善にも繋がることから、大手事 業者が主要な納入業者(中小事業者等)と緊密に 連携して共通の組織目標を達成するためにも有 効であり、国内のサプライチェーンで受け入れ られる蓋然性が高いと考えている。
上記の「段階的実施」においては、BS 8555:
2003、Environmental management systems - Guide to the phased implementation of an environmental m a n a g e m e n t s y s t e m i n c l u d i n g t h e u s e o f environmental performance evaluation(環境マネジ
メントシステム-環境パフォーマンス評価の利用 を含む環境マネジメントシステムの段階的実施 の手引)を参照する。この規格は、ISO14001 な どの環境マネジメントシステムの構築を考えて いる多くの事業者に指針を提供するものである。
また、特に中小事業者に言及しており、環境マネ ジメントシステム構築に取り組みやすいように 6つまでの個別の段階で実施できるプロセスに 分けられており、完全な環境マネジメントシス テム構築迄の各段階における承認も考慮してい る。また、各段階におけるプロセスは、どのよう な組織も直面する人的及び財務的資源の制約と いう主要な問題を取り扱えるように構成されて おり、次のことが可能である。
1) リスクと釣り合いのとれた環境パフォーマ ンスの管理ができる。
2)投資収益が見込まれる潜在的な領域を明 らかになり、収益を拡大できる。
3)環境マネジメントが、目標レベルに向かっ て進捗していることを関係者に示せる。
しかし、BS8555 規格に準拠した段階的実施の 環境マネジメントシステムは、まだ日本では構 築・運用されていない。また、この規格は EMAS への登録も視野に入れる等、日本の現状にはな じまない点もある。そこで筆者は、勤務先企業で ISO14001 環境マネジメントシステムを自ら構築 し環境管理責任者として運営に当たっており、
また ISO14001 審査員補で、且つエコアクション
21審査人でもあるという知識と経験も生かして、
BS8555 に則った ISO14001 の段階的実施手法を 開発した。
●中小事業者向け新・環境マネジメントシステ ムの構成要件を以下に詳述する。
A. ISO14001、段階的実施
既にISO14001の要求事項は4章で詳しく見て きているが、模式的に表すと図5.1.1の様になる。
また、ISO14001の章構成としては、4.1から4.6 まで6つに分かれているが、Plan・Do・Check・
Action の役割で分類すると、4.1 〜 4.3.3 が Plan、
4.4.1 〜 4.4.7 が Do、4.5.1 〜 4.5.5 が Check、4.6 が Action に相当する。
【提案1】ISO14001を次の3段階に分けて実施す る。
・段階1:ISO14001 の 4.1 〜 4.3.3 項(Plan)
・段階2:ISO14001 の 4.4.1 〜 4.4.7 項(Do)
・段階3:ISO14001 の 4.5.1 〜 4.6 項(Check、
Action)
B. 環境パフォーマンス指標、実施レポート 【提案2】各段階において、相当する ISO14001 の要求事項の実施に加えて、環境マネジメント システムによる資源効率性の定量化及びステー クホルダーとのコミュニケーションや企業の社会 的責任を表すものとして、下記事項を実施する。
・環境パフォーマンス指標5の設定
4. 2 環境方針
4. 3. 2 法的、その他の要求事項 4. 5. 4
記録管理
マネジメントレビュー4. 6
4. 5. 2 順守評価
4. 4. 7 緊急事態への準備、対応
4. 4. 1 資源、役割、責任、権限
4. 4. 4 文書類 4. 5. 3
不適合、是正・予防処置
4. 4. 5 文書管理
著しい
環境側面 目的、目標、4. 3. 3 実施計画
4. 4. 2 力量、教育・訓練、自覚 4. 4. 3
コミュニケーション 4. 4. 6
運用管理 4. 5. 1 監視・測定
4. 3. 1 環境側面
ISO14001
Plan
Do Check
Action
(4.1 〜 4. 3. 3)
(4. 4. 1〜4. 4. 7) (4. 5. 1〜
4. 5. 5) (4. 6)
4. 5. 5 内部監査
4. 1 一般要求事項
図 5.1.1 ISO14001 要求事項の模式図
5 環境パフォーマンス指標の例:・使用する原材料又はエネルギーの量、・二酸化炭素の排出量、・完成品当たりの廃棄物量、・廃棄 物のリサイクル率、・特定化学物質の使用量、・環境保護への投資、・植林した面積等
・実施レポートの発行
C. 段階監査
【提案3】各段階の最後において、下記の段階 監査を実施する。
・段階1〜3において、内部又は外部の段階監 査を実施する。この時、専門 NPO 等による 外部監査で、各段階における要件への適合 性が明らかになれば、「適合性証明」を発行 することができる。
※外部監査は、顧客等の利害関係者又はそ の代理人、或いは ISO14001 の段階実施を 審査する専門機関(NPO 等で今後設立が 必要)が実施する。
※中小事業者の信用力を補強する為には外 部監査を受ける方が望ましい。
以上の提案1〜3で示した中小事業者向け新・
環境マネジメントシステムのフローチャートを 図 5.1.2 に示す。
また、提案の新・環境マネジメントシステム、
ISO14001 及びエコアクション 21 について、それ らの構成要素及び筆者が実施した評価を表 5.1.1 に示す。
なお、BSI ジャパンに問い合わせを行い、英国 BSI では ISO14001 認証を4〜5段階に分けて行 う構想も検討したが、クライアントは一括した ISO14001 認証を求める傾向があり、構想は実現 してないとの回答を得た。筆者は、この見解は大 手事業者には当てはまると思うものの、中小事 業者への展開を考える場合は段階的実施の有用 性は高いと判断している。
段階1(Plan ) ISO14001 の 4. 1 〜 4. 3. 3 項
環境パフォーマンス指標 段階1監査
※外部監査の 場合は適合性 証明発行
段階1 実施レポート
段階 2 実施レポート
段階 3 実施レポート 段階2(Do)
ISO14001 の 4. 4. 1 〜 4. 4. 7 項 環境パフォーマンス指標
段階3(Check、Action)
ISO14001 の 4. 5. 1 〜 4. 6 項 環境パフォーマンス指標
環境マネジメント システム全体の認証/適合
性証明を取得するか?
①自主活動として継続的 改善を図る。
②自己適合宣言をする。
段階 2 監査
※外部監査の 場合は適合性 証明発行
段階 3 監査
※外部監査の 場合は適合性 証明発行
No
Yes
・ISO14001 環境マネジメ ントシステム全体につ いて、
①審査登録機関の認証を 取得する。
②専門 NPO による適合性 証明を取得する。
図 5.1.2 提案の中小事業者向け新・環境マネジメントシステムのフローチャート
5.2 中小事業者向け新・環境マネジメ ントシステムの運用体制
現時点では、5 . 1章で提案した ISO14001 の 段階的実施スキームの紹介や段階監査等を運営 する組織が国内に無いことから、研究成果であ る提案を実社会に還元するためには、今後の課 題として ISO14001 の段階的実施に関する専門 NPO を立ち上げて、実践を進める中で検証する ことが必要である。
このため、下記1)〜3)のミッション及び図 5.2.1に示す運用体制を有する専門NPOの設立を 提案する。【コストの軽さへの対応】
・立ち上げるべき NPO のミッション
1)ISO14001 の段階的実施に関する普及活動 及び指導
2)ISO14001 の段階監査
3)中小事業者における環境パフォーマンス
の改善の研究
なお、ISO でも ISO14001 の段階的実施に関す るガイドライン策定の動きがあるが、筆者が本 稿で提案した新・環境マネジメントシステムの フレームワークは、それらの動きに先行してい る。ISO によるガイドラインが策定されれば、運 用面においても現行の ISO14001 認証・登録制度 の改変の可能性もあり、本稿で必要性を述べた 専門NPOは、ISOの動きに先行する形で研究・運 用を進めていくことによって、より現実的なも のとなる。
今後の課題として次を挙げることができる
①段階的実施における詳細プロセス等に関する 研究や普及活動
②海外で既に実践している組織の調査・連携
・イギリス:Acorn Methodによって実際に認証 取得している企業の実証研究(認証取得の 段階、取得後の効果など)
・ドイツ:EMASの認証を取得している企業数
項目 提案 の 中小 事 業 者 向 け 新・環境マネジメントシ ステム
IS O14001 エコアクション 21
準拠規格 ISO14001 ISO14001 ISO14001 の簡易版
実施手法 段階的実施 一括的に実施 一括的に実施
パフォーマンス評価 環境パフォーマンス指標 ― ―
外部コミュニケーション 実施レポート ― 環境活動レポート
構 成 要
件
監査 段階監査 一括に監査 一括的に監査
国際的信用の補強効果 適合性証明(或いは外部 による認証)は国際規格 準拠で、効果が大きい
認証は国際 規 格 準 拠で、効果が大きい
認証は地域規格準拠 で、効果は中程度
環境への投資効果 パフォーマンス指標によ り、定量化できる
― ―
ステークホルダーとのコ ミュニケーション
レポートにより、効果が 大きい
― レポートにより、効
果が大きい 取り組みやすさ 実施・監査が段階的な点
で、取り組みやすい
実施・監査が一括的 な点で、取り組みに くい
要求事項が簡易な点 で、取り組みやすい 評
価
マネジメントシステムの 主な適用先
国内のサプライチェーン に繋がる中小事業者及び 国際的な事業展開等のた め企業の信用力がより強 く求められる中小事業者
大手事業者
国内のサプライチェ ーンに繋がる中小事 業者
表 5.1.1 提案の中小事業者向け新・環境マネジメントシステム、ISO14001 及びエコアクション 21 の構成要素及び評価