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雑誌名 同志社政策科学研究

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(1)

著者 石井 智

雑誌名 同志社政策科学研究

巻 8

号 1

ページ 135‑147

発行年 2006‑07‑25

権利 同志社大学大学院総合政策科学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000010979

(2)

あらまし

 近年、わが国では、企業スポーツの衰退に象徴 される、スポーツを経営の枠内から退避させる 傾向が著しい。この動向は、主に情報技術の発展 やグローバリゼーションの潮流による、スポー ツのメディアバリューの低下及び、従業員価値 重視経営から株主価値重視経営へのパラダイム の変化に起因する。そのため、企業に頼らないス ポーツ体制が求められている。たとえば、スポー ツ政策の主体を自治体や、地域社会に置き、企業 はそれをサポートするという「総合型地域ス ポーツクラブ」への移行である。

 しかし、本小論はその動向とは一線を画する ものである。本小論の目的は、企業スポーツの再 検討を通じて、スポーツの価値を企業の社会的 責任論(Corporate  Social  Responsibility、以下

「CSR」と略す)の視点から再構築し、ステイク ホルダーから評価される事業モデル構築を試論 することにある。

 本小論では、まずスポーツが持つ社会的、組織 的、価値についての考察を通して、企業に対する ステイクホルダーからの評価を抽出する。さら に、CSR が求められている社会的背景や CSR と

スポーツの関係についての考察とこの評価を統 合させ、企業スポーツが CSR の実現に寄与する ための事業モデルを提示する。

1.はじめに

 近年、わが国では、進行する企業経営の合理化 の波を受けた企業スポーツ1の衰退に象徴される ようにスポーツの沈滞化が止まらない。企業ス ポーツの衰退は、情報技術の発達による企業ス ポーツのメディアバリューの低下と、グローバ リゼーション2の潮流の中で日本企業が従業員価 値よりも株主価値を重視する経営へのパラダイ ムの変化を余儀なくされたことに起因する。そ のため、現在では、企業に頼らないスポーツ体制 が求められている。すなわち、スポーツ政策の主 体を自治体及び、地域社会に置き、企業はそれを サポートするという「総合型地域スポーツクラ ブ」への移行である。

 しかし、本小論はその動向とは一線を画すも のである。その理由は、筆者の経験3から、高度 スポーツの養成には企業の豊富な経営資源と強 力な組織マネジメントが必要であること、自治

スポーツの価値と企業政策

―「CSR」の視点から―

石 井  智   

  1   一般的に、「従来型企業スポーツ」の定義は、「競技団体や協会が運営する全国的ないし地域的な対外競技を定期的あるいは組織 的に行う企業スポーツ活動(いわゆる実業団競技と称される活動)のことで、自社内での融和やコミュニケーション促進を目的 とするスポーツ活動はここに含めない。(財団法人大崎企業スポーツ事業研究助成財団編『企業スポーツの在り方および運営方 法に関する調査研究』1997 年、2ページ)とされるが、本小論では、これに、①当該企業の経営資源(人、モノ、金、情報、知 識等)で運営され、②アマチュアリズムを標榜して利潤を求めないもの、という条件を加えるものとする。

  2  一般的にグローバリゼーションとは IT の発展などによって「輸送コストや情報通信コストが低廉化したこと」で、「国家間の資 本、情報、財、労働などの移動が活発化したこと」を指す。(荒木一法「ステイグリッツ講義解説」藪下史郎、荒木一法『ステイ グリッツ早稲田大学講義録』光文社、2004 年、19 ページ)が、本小論では「グローバル」といいながら実際は株主利益を過度に 重視する「アメリカナイゼーション」と揶揄されるように、欧米以外の国々の文化的アイデンティティの喪失を招来するなど、問 題も多い概念として論を進める。

  3  筆者は、現在大阪ガスに勤務する企業人であるとともに、過去には硬式野球部に所属し、企業スポーツの選手、マネジャーを経 験している。

(3)

  4  大和総研の調査によれば、「企業スポーツから撤退したことで短期的なリストラ効果は現れるものの、それが必ずしも長期的な効 果に繋がるわけではない点が示された」とされている。(大和総研編『クオンツ情報』「CSR(企業の社会的責任)を評価する株 式市場(その7):企業スポーツ評価の考察」2005 年6月、1ページ)

  5  本小論におけるステイクホルダーは、「株主、消費者(顧客)、供給業者(取引先)、地域社会、自治体(公共セクター)、従業員、

経営者」とする。(十川廣國『CSR の本質−企業と市場・社会』中央経済社、2005 年、159‐171 ページ)

  6  佐伯年詩雄「企業スポーツ再生戦略アクションプランⅠの提言」(財)大崎企業スポーツ事業研究助成財団編『企業スポーツ』2005 年春号、8ページ

  7  ヴェブレンは、「スポーツは、もっともらしい目的のみせかけをもった本質的な無用な行為」などと辛らつなスポーツ批判を展開 した。(T. ヴェブレン著小原敬士訳『有閑階級の理論』岩波書店,1961 年、243 ページ)

  8  アドルノはヴェブレンの「みせかけること」というスポーツ批判を支持し、「スポーツはペテンの要素になる」という(T.W. ア ドルノ著渡辺祐邦、三原弟平訳『プリズメン』ちくま学芸文庫,1996 年、110 ページ)

  9  ホイジンガは人間を「遊ぶ存在」ととらえ、「人間の文化は遊びにおいて、遊びとして、成立し、発展した」とし、カイヨワは、

「競争の遊び(アゴン)はスポーツに行きついた」と指摘した。(J. ホイジンガ著里見元一郎訳『ホモ・ルーデンス』河出書房新社,

1989 年、1ページ。R. カイヨワ著多田道太郎、塚崎幹夫訳『遊びと人間』講談社,1990 年、23 ページ)

10  多木は、「もともとスポーツという概念は、発生の時から観客を含めた社会(社交)の中で成立してきた」ものであり、「観客と して味わうエキサイトメントに、スポーツの社会的、文化的本質が含まれているのである」という(多木浩二『スポーツを考え る』筑摩書房、1995 年、10 ページ)。また、この考えは、 エリアスの「文明化の過程」理論に依拠するものである。エリアスは、

スポーツによるエキサイトメントについて、「戦いの模倣的興奮」と表現し、「想像上の環境のなかで喚起される非常に強い感情、

および他の多くの人々と一緒になったときの感情の率直な表出は、…愉快…、開放感を与えてくれる」という。(N. エリアス、E.

ダニング大平章訳『スポーツと文明化』法政大学出版局、1995 年、60 − 61 ページ)

11  M. チクセントミハイ著今村浩明訳『楽しみの社会学(旧題:楽しむということ)』新思索社、2000 年、32 ページ

体や地域社会にその人材やノウハウが豊富に存 在するとは思い難いこと、さらに企業スポーツ を経営の枠外に退避させることは、企業にとっ ても自身の持続的発展にプラスになるとも思え ない4ことによる。つまり、スポーツやその振興 には企業の力が必要であると同時に、企業に とってもスポーツは価値を有するものであると 考えられるため、両者は相互補完的に協働し、発 展する可能性があるというのが筆者の考えである。

 本小論では、その可能性を可視化するための 一方策として、スポーツがもたらしうる価値を 企 業 の 社 会 的 責 任 論 ( C o r p o r a t e   S o c i a l Responsibility、以下「CSR」と略す)の視点から 再構築し、企業内外のステイクホルダー5に評価 されるような事業モデルを試論することを目的 とする。すなわち企業のCSR実現を補完する、21 世紀型企業スポーツモデルの検討である。この モデルは、企業スポーツというインターフェー ス(接触面)を介して、企業が社会との様々なコ ンテクスト(関係)を創出すると同時に、スポー ツ振興における新たな企業のロールモデルを提 示するものであり、スポーツと企業の関係を、

「スポンサーシップからパートナーシップへ」6移 行させ、企業の持続的発展とスポーツの振興を 同時に実現する可能性を生みだしうるものであ ると考えられるのである。

2.スポーツの価値

 ヴェブレン7やアドルノ8に見られるようなス ポーツ批判はあるものの、ホイジンガやカイヨ ワが言及したように、遊び(プレイ)から生まれ たスポーツ9には、一般的に多くの価値の認識が 存在する。以下では、社会的価値、組織的価値、

ステイクホルダー価値を明確にして、スポーツ 価値が企業政策に貢献できる可能性を検討する。

2.1 社会における価値

(公共の福祉に寄与するもの)

 まず、一般社会におけるスポーツの価値認識 を概観する。一般的に、スポーツは「見る」、「す る」、「支える」という3つに分類されるが、「見 る」と「する」スポーツのそれぞれが生む価値に ついて確認しておく。「見る」スポーツについて は、エキサイトメント(興奮、ストレス発散等)10 による価値があげられる。例えば、「オリンピッ クにおいて自国の選手の活躍によって国民が活 性化される」という状況や、日本中の注目を集め た 2006 年 WBC(World Baseball Classic)の興奮 などは、スポーツのエキサイトメントによって 喚起されうるものであろう。また、「する」スポー ツについては、「楽しさを説明するために」概念 化された、フロー体験(フローモデル)11という

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12  文部科学省編『スポーツ振興基本計画』2000 年、1ページ

13  ①スポーツは青少年の心身の健全な発達を促すもの…、自己責任、克己心、フェアプレーの精神を培う…。…青少年のコミュニ ケーション能力を育成…。(教育的価値)、②住民相互の新たな連携を促進(地域コミュニティの形成)、③スポーツ産業の広がり とそれに伴う雇用創出(経済的価値)と、…国民の…健康増進に…貢献し…、医療費の節減(福祉的価値)、④国際的な友好と親 善(コミュニケーションを促す機能)。以上の4項目を挙げている。(文部科学省、前掲書、1〜2ページ)

14  経済産業省編『企業とスポーツの新しい関係構築に向けて』2001 年 11 月、12 ページ

15  財は基本的には需要と供給により合理的に取引されるべきだが、財の性質が社会にとって大変好ましい場合、それを市場に委ね ずに政府自らが提供した方が、社会全体に行きわたる場合がある。このような性質の財を「メリット財」という。たとえば、初 等教育や高齢者福祉などはメリット財である。(間野義之「スポーツ市場における公共部門の役割」池田勝、守能信次編『スポー ツの経済学』杏林書院、1998 年、88 ページ)

16  間野、前掲書、89 ページ

17  たとえば、田尾によれば、組織文化形成の要因として、「集団内分散が小さくなること」と挙げており、その条件は5つあるとい う(①近接性、②同質性、③相互依存性、④コミュニケーション・ネットワーク、⑤帰属意識の高揚)。その中で、その帰属意識 を強化するための方策として「対外的に、自分の会社の野球やサッカーのチームを応援することなども、会社へのアイデンティ ティを高めて、メンバー間の認知の分散を小さくしている」としている(桑田耕太郎、田尾雅夫『組織論』有斐閣、2004 年、191

− 194 ページ)

18  スポーツマンシップは元来、『スポーツマンらしい振る舞い』という意味」であり、それは「礼儀正しい振る舞い、正々堂々と 戦うこと、公正であること、協力することなどを意味」する(友添秀則、近藤良享『スポーツ倫理を問う』大修館書店、2000 年、

183 − 184 ページ)。この考え方は、多木のいうように「スポーツは合意されたルールに従うことを合理的と見做す点では、典型 的に規範的社会のモデルである(多木、前掲書、109 ページ)」という前提で成り立つ。さらに、広瀬は、スポーツマンシップの 要諦は「尊重(respect)」にあるという。ゲームが成り立つ3つの条件、ルール、審判、相手を尊重する。つまり「ゲームを尊重 することは自分や他人を冷静に評価することにもつながる」とし、「人格的な総合力」の向上が期待できるという。(広瀬一郎『ス ポーツマンシップを考える』ベースボールマガジン社、2002 年、69 ページ)

19  C.I. バーナード著山本安次郎、田杉競、飯野春樹訳『[新訳]経営者の役割』ダイヤモンド社、1997 年、272 ページ

価値認識がある。これは、スポーツ実践者が「身 体を動かしたい」という人間の本源的な欲求を 満たし、ストレスを発散し、身体内部の活力を生 むことにより健康増進につながるという価値や、

暴力に向かいかねない意識を解消し犯罪発生の 防止にも寄与するという価値となろう。

 一方、わが国における政府各省庁の見解では、

スポーツの価値は大きく分けて教育的価値、福 祉的価値、経済的価値が提示されている。文部科 学省は、2000 年にスポーツ振興基本計画を発表 し、その中でスポーツは、「人間の身体的・精神 的な欲求にこたえる世界共通の人類の文化の一 つ」であり、「活力ある健全な社会の形成にも貢 献」12できるものであるとし、教育的価値など4 つの価値を挙げている13。また、経済産業省は、

「スポーツ資源」として、「競技者、指導者、施設、

ノウハウ、資金等」を挙げ、さらに「企業スポー ツ資源の消失は、直接的間接的にわが国のス ポーツ体制の基盤を脆弱化させ」14るとしてお り、ビジネス商材としての価値はもちろん、企業 スポーツの社会的価値についても言及している。

たとえば間野によれば、各省庁や地方自治体は、

「スポーツ振興を通じて、児童生徒の教育・学習 の充実、国民の健康保持増進、労働環境の改善、

新産業の育成、余暇活動の推進、自然環境保護の 推進、社会基盤の充実、社会保険の安定化、地域

活性化、農村振興、観光振興、国際交流・理解な ど…、スポーツには様々な効能があると考えて」

おり、「この意味で、スポーツ実践を促進するため の施設やサービスは『メリット財』15といえる」16 としている。

2.2 組織論的価値

 前項で検証したスポーツの価値は、組織論的 視点からも認識しうるものであると考えられる。

以下では、組織開発、個人の能力開発に分けて整 理する。

 まず、組織開発に寄与する価値であるが、次の 4つが挙げられる。第1に、組織を活性化させる エキサイトメント性である。エキサイトメント については前項でも言及したが、エリアスのい う「戦いの模倣的興奮」が組織の一体感を醸成 し、組織文化の形成に寄与すると考えられるの である17。第2に、倫理観、コンプライアンスを 組織に浸透させる象徴としての価値である。こ れは、「スポーツマンシップ」18という概念で表さ れるものである。バーナードは、組織に求められ るものとして、有効性や、効率とともに、道徳性

(morality)の重要性を挙げているが19、スポーツ はその道徳性を組織に醸成するものとして考え

(5)

ることができ、シャインがいうように良質な組 織文化の創造20に寄与すると考えられるのであ る。第3に、スポーツのもつ娯楽性は、組織内の コミュニケーションを円滑化するという価値を 持つと考えられることである。これは、たとえば 自分の会社のスポーツチームを応援することや、

試合結果など組織成員が共通の話題にすること など、縦割り組織が内的統合を果たす手段とし て機能するものである。第4に、これはわが国特 有のものといえるが、企業スポーツが持つ、企業 組織における、「共感」という心的安定感を喚起 する装置としてのいわゆる「情的資産(エモー

ショナルキャピタル)」21としての価値である。日 本人には、組織を「家の論理」22でとらえる感性 があるため、従業員は企業組織においても家族 に抱くような「共感」によって長期的な心的安定 感を求めるものであると考えることができる。

佐伯の「企業アイデンティティの醸成と企業モ ラールの高揚という機能こそ、企業スポーツの 最大のメリット」23であるという指摘は、このよ うな背景からくるものであった。このことから も企業スポーツは、後述するように過度のグ ローバリゼーションがもたらした、いわゆる「近 代の弊害」を払拭するシステムとして機能する

20  たとえばシャインによれば、文化とは「個々人および集団としての行動、認識方法、思考パターン、価値観を決定する強力では あるが潜在的でしばしば意識されることのない一連の力」であるという。また、組織文化が問題となる理由は、「文化的要素が、

経営の戦略、目標、業務方針を決定する」からであるともいう。(E.H. シャイン著金井壽宏監訳『企業文化―生き残りの指針』白 桃書房、2004 年、14 − 15 ページ)

21  伊藤は、「企業には3つの資産がある」という。1つ目は資金や設備などのビジネスキャピタル(事業資産)。2つ目は、社員の ナレッジに代表されるインテレクチュアルキャピタル(知的資産)、そして3つ目が社員の活力、結力となるエモーショナルキャ ピタル(情的資産)である。(伊藤邦雄『「エモ−ショナルな資産」を増やせ』日経ビジネス、2005 年4月4日号、49 ページ)

22  日本人の心性の特殊性については、例えば源は、「個人が直接に社会とあい接するのではなく、『家』という媒体を通じて接触す るという社会と個人の関係のパターン」の存在を挙げる(源了圓『文化と人間形成』第一法規出版、1982 年、50 ページ)。つま り、「あらゆる共同態(原文まま)をいずれも『イエ』の擬制体としてつくりあげ、『うち』と『そと』をあらゆる面において区 別し、差別してきた」(三戸公『公と私』未来社、1976 年、55 ページ)のである。したがって会社は、「自己にとっての客体とし ての認識ではなく、私の、またわれわれの会社であって、主体化して認識されて」おり、「場の共通性によって構成された集団は」

「枠によって閉ざされた世界を形成し、成員のエモーショナルな全面的な参加により一体感が醸成されて集団として強い機能をも つ」と考えられる(中根千枝『タテ社会の人間関係』講談社、1967 年、70 ページ)

23  佐伯聰夫「21 世紀における企業スポーツの在り方」(財)大崎企業スポーツ事業研究助成財団編『企業スポーツサミット論文集』

1999 年、2ページ

出所:http://www.glocom.ac.jp/itplat/archive/0405sympo/panel1/2̲nonaka̲1.html 図1 野中郁次郎の知識創造のプロセス(SEIC モデル)に筆者が追記 共同化

・共同練習による 暗黙知の獲得

内面化

・形式知の体化

表出化

・練習で獲得した 暗黙知の表出

連結化

・練習やチーム ミーティング等で 形式知の伝達

(6)

24  横山勝彦「同志社大学大学院総合政策科学研究科スポーツマネジメントスクール基調講演」2005 年4月 22 日

25  齋藤孝『「できる人」はどこがちがうのか』筑摩書房、2001 年 74 ページ

26  野中郁次郎、竹内弘高著梅本勝博訳『知識創造企業』東洋経済新報社、1996 年、10 ページ

27  CSR の定義については、時代や論ずる視点によって CSR の範囲や企業に期待する役割が異なることから、明確なものは存在しな いといわれているが、たとえば谷本は「CSR とは、企業の価値−財務面のみならず、社会、環境面を含めてトータルに評価され る」ものであるという。(谷本寛治編著『CSR 経営』中央経済社、2004 年、1ページ)

28  たとえば「社会的役割を軽視、ないし無視する行動(商品偽装工作、労働者の人権無視、環境破壊などの反社会的行動)」など。

(松野弘「転換期の『企業の社会的責任論』と企業の〈社会性〉への今日的位置」松野弘他編『「企業の社会的責任論」の形成と 展開』ミネルヴァ書房、2006 年、3ページ)

29  同書、4ページ。また日本においても、CSR の取り組みは、「企業が環境面や社会面において不正行為を起こすことなどによっ て、企業の存続そのものが危うくなる」という、企業自身にとってのリスク要因を事前にチェックし、リスクを低減していくこ とにつながる( 経済同友会編「『市場の進化』と 21 世紀の企業」『第 15 回企業白書』2003 年、36 〜 37 ページ)とされている。

30   経済産業省編『「企業の社会的責任(CSR)に関する懇談会」中間報告書』2004 年7月、23 ページ

31  十川、前掲書、177 − 184 ページ

と考えられ、組織における独自の価値をもたら しうると考えられるのである。

 一方、個人として獲得可能であり、自己の価値 となるものは何であろうか。

 横山によれば、スポーツは、それ自体が「脳、

心、身体の高水準の統合体」24であり、スポーツ 実践によってバランスのとれた人間育成の可能 性を示唆する。また、前述した「スポーツマン シップ」や、技術に対する意識や練習法の自覚を 実体験を通して身につけていくことなどを指す

「上達の秘訣」25を身につけることができるのも その価値のひとつといえる。さらに、チーム運営 という組織デザインに関わることで、多くの情 報や知識を身につけて、人、施設や資金などの経 営資源を配分する資源変換能力が高められる、

という価値もあると考えられる。

 その理由は、野中の言う「知識創造理論」26の 実践を、スポーツ経験(練習・ゲーム等)を通じ て経験できるということ(図1)や、情報リテラ シー(情報を収集し、編集し、発信する能力)を 身につけることができたという、筆者の経験に よるものである。

 このように、スポーツがもつ諸機能を価値の 視点から検討した結果、スポーツには社会から 評価される機能と、企業組織内で評価される機 能の両方を有する可能性が高いということが明 らかになった。このことは、端的にいえば、ス ポーツの機能は、企業が CSR を実現し、持続的 発展を果たし得る要素となる可能性を持つとい うことを表しているのではないだろうか。

3.企業の社会的責任(CSR

27

)論の動向

3.1 企業に対する社会的要請の変化と CSR の台頭

 近年、国内外を問わず、倫理観の欠如に起因す る企業の不祥事が頻発している28。これは、ひと つには大量生産システムの進展に伴い、企業が 市場における経済的効率性を過度に追求するよ うになったことに起因し、消費者や社会から、企 業に対して社会的責任を問う議論が高まりを見 せている。米国では、1980 年代から 90 年代にか けて、企業不祥事が起こるたびに、政府ではなく 企業レベルで企業倫理に関する取り決めが整備 され、また法的整備が進んだ結果、企業側もリス クヘッジ策として CSR に取り組んでいる29。一 方、欧州では、米国と違って法令遵守や企業倫理 は企業にとって当然の義務と理解されており、

むしろ、CSR は、EU 統合によって生起する諸問 題(失業者対策など)等の「社会問題の解決に企 業も貢献すべき」という機運の高まりに対応す るために議論されているといわれている30。  こうした CSR についての議論について、十川 は 1970 年代までの3つのフェーズと現代に分け て考えられることを指摘している(表1参照)31。  フェーズⅠは所有者の自己利益、フェーズⅡ、

Ⅲはいずれも経営者の自己利益の実現であると いえる。

 フェーズⅣでは、企業は、多様なステイクホル ダーとの関わりを無視できない状況にあり、社 会的制度としての振る舞いを社会から強く要請 されるようになる。元来、経済的実体としての存 在である企業は、近年、社会からの要請にいかに 応えるかという課題を克服せざるをえなくなっ てきた。そのためには、企業のトップは、「企業

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32  同書、183 ページ

33  たとえば、「終身雇用、年功序列、系列関係、…中元歳暮、見合い結婚、法事など」であり、このような伝統・慣行は「グローバ リゼーションのゆえに廃止ないし簡素化の道をたどっている」という。これは、1990 年代のバブル経済の崩壊から続く不況に自 信をなくしていた多くの経営者が「経済面でのグローバリゼーションの恩恵に与りたいばかりに文化的アイデンティティを失う ことに無頓着」(佐和隆光「グローバリゼーションの意味を問い直す」京都大学経済研究所 CAPS シンポジウム 2006 年2月 18 日)

になってしまった結果とも相関する。

34  例えば、「三方よし−売りてよし、買いてよし、世間よし」(近江商人)など(小林陽太郎「社会と企業−あらためてその関係を 問う−」経済同友会編『第 15 回企業白書』2003 年、19 ページ)

の価値創造のプロセスを活性化させ、消費者・

ユーザーのニーズを真に満たす製品・サービス を提供し、その成果のうえで、価値創造プロセス の外側にいる多様なステイクホルダーの利害を 充足し、社会にとって公正な企業経営を確立し ていく」32というミッションを担っており、それ を確実に遂行することが CSR の大きな目的のひ とつといえるのである。

3.2 わが国における CSR 論の進展

 グローバリゼーションの潮流の中で、わが国 では戦後の日本経済成長の基礎となった日本的 経営から経済のグローバル化に追随した経営へ の急激な移行が進んでいる。グローバリゼー ションへの流れは、そもそも合理化、効率化とい う近代資本主義の流れのひとつであり、それ自 体の問題はないと考えられる。だが、グローバリ ゼーションではなく「アメリカナイゼーション」

ではないかと言われるくらいアメリカ主導がす ぎることや、たとえば佐和が、「グローバリゼー ションの進展は、宗教や文明の基礎としての伝 統を次第に干からびさせていく」33と指摘してい

るように、わが国における文化的アイデンティ ティの喪失につながっていることなどの問題が ある。

 こうした問題の中で、企業は社会の一員とし て「社会に何をもたらすために存在するのか」と いう基本的な命題について考える必要が出てき たが、経済界でも 2003 年に経済同友会が、企業 みずからの社会的責任について真摯に取り組む 姿勢の必要性を論じた企業白書を発表するなど、

CSR に対する関心が高まりを見せている。

 もっとも、わが国においては、CSRは決して新 しい概念ではなく、1930 年代に起こった所有と 経営の分離論に端を発するといわれているよう に、たとえば「江戸時代の商家の家訓」にその源 流を見ることができる34。そこには、商家の責務 は「単に良い商品・サービスの提供」や、「利益 をあげて投資家に報いるだけ」でないという理 念が存在した。

 一般的に企業における主要な目的は、株主価 値の最大化であるといわれているなかでも、こ のようにわが国においては古くから社会的責任 を考慮する伝統が存在したのである。このこと は、わが国における企業は、社会的側面や環境的 側面に配慮しつつ、経済的責任を果たし得る遺

フェーズ 主張内容 ステイクホルダーに対する姿勢

Ⅰ 企業は利潤の最大化という唯一の目的をもって行 動することによって公共の利益を最大化する。

適者生存のルールに従って、ステイクホルダーの利害を考 慮せず、その調整は市場メカニズムによって実現されるも の。

経営者は所有者の利益と多くの利害にかかわる組 織のバランスをとることが、利潤創出だけの行動 よりも優先される。

経営者の報告責任( accountability

accountability

)は、所有者だけではな く、多くのステイクホルダーに向けて存在するもの。

生活の質( quality of life    )という価値が強調され、

経営者は、社会の利害が意思決定にあたって重要 である。

経営者の報告責任( )は、所有者だけではな く、その他の企業への貢献者、社会において生じるもので あり、人間的価値が重要とされる。

企業は、経済的実体としての存在と、社会制度と しての存在性格をいかに両立させるかという課題 を持つ。

企業の価値創造のプロセスを活性化させ、消費者・ユー ザーのニーズを満たす製品・サービスを提供し、その他多 様なステイクホルダーの利害を充足し、社会にとって公正 な企業経営を確立することが重要とされる。

表1 CSR 論の流れとその要点(十川、前掲書、177-183 ページをもとに筆者作成)

(8)

35  小林はそのシステムについて、「長期雇用、年功序列とそれにマッチした人事・給与・教育体系はキャッチアップに最適な人材を 大量に必要としていた社会事情に適したものであった」(同書、19 ページ)としている。

36  同書、20 ページ

37  佐伯年詩雄『現代企業スポーツ論』不昧堂出版、2004 年、17 ページ

38  小林は「企業の存在意義や目的は、あらかじめ固定的ではなく、その時代の社会の価値観やニーズ、ステイクホルダーの利害や 意思などとの相互関係の中で導き出されるものであり、時代とともに変化するもの」(小林、前掲書、18 ページ)であるという。

39  筆者が「企業スポーツ」という形、すなわちスポーツの企業内部化にこだわる理由は、①企業にはそれぞれの企業文化や理念が 存在し、CSR もそれに適合した形にしなければ定着しないように、外だしした途端にハンドリングが難しくなり、当該企業にお いて効果的なオペレーションができなくなる、②わが国の高度スポーツは企業が牽引してきたのは自明であり、ノウハウを活か したチームマネジメントに長けている人材も企業内部に多いため、企業内部の組織にすればその優秀な人材がスポーツに携わる 可能性は高い、等である。

伝子を持つものであるということを表している と考えられるのではないだろうか。

3.3 CSR と企業スポーツの価値

 一般的に、年功序列、長期雇用、企業内組合の 3点をもつ、「日本的経営」といわれる日本特有 の経営システム35が確立されたのは、第2次大戦 後の欧米諸国へのキャッチアップを目指した消 費成長過程に入った頃である。このような中で、

「企業が雇用を維持し、福利厚生を充実させること は、社会に対する主要な責任として理解され」36た ため、この時期に福利厚生の一環として企業ス ポーツは誕生し、わが国の高度成長と足並みを 揃えるように発展していった。わが国のスポー ツ環境は学校と企業によって整備されたと言わ れるように、企業スポーツは多くの高度スポー ツの進展に寄与した。企業スポーツは日本にお ける高度スポーツ選手養成のフィールドを構築 し、彼らが様々なスポーツシーンで活躍するこ とによって国民に感動を与えるという点で社会 に貢献していた。つまり、企業としては企業ス ポーツを所有することで社会的責任を果たして

いたといえるのである。換言すれば、スポーツ は、「企業スポーツ」という形ですでに企業PR等 の経済的側面とともに、わが国における高度ス ポーツを養成するという社会的側面をカバーし ていたということである。

 前述した企業スポーツの価値を、佐伯の意見37 を参考にして4つに分類し、企業の諸活動ごと に整理したのが表2である。企業スポーツは CSR のトリプルボトムラインといわれる、経済 的側面、環境的側面、社会的側面のうち、経済的 側面と社会的側面とのバランスをとっていたと いえるのではないだろうか。

 このように、スポーツが持つ価値は、もともと 社会貢献の要素が存在するものであるから、「そ の時代の価値観やニーズ」38をふまえて、ステイ クホルダー価値を明確にできるように編集すれ ば、スポーツは企業から排除されるものではな いと考えられる。周知のとおり、企業スポーツ は、コスト面で経済的側面に悪影響を与えてい たという理由から衰退したが、その問題をクリ アするためには、スポーツが有するステイクホ ルダー価値を明確にし、その価値をどう編集す れば企業の収益に貢献できるのかを検討する必 要がある39

企業活動目的 企業スポーツの評価 費用区分 価値

販売促進 ①企業PR 販売費

(損金処理) A. 対社外的価値(メディア価値等)

②社員の活性化・連帯感

A. 対社外的価値、B. 対社内的価値(社員 のプライド醸成、活性化、企業文化醸 成)、C. 福利厚生

③組織文化醸成 B. 対社内的価値

医療費削減 ④健康増進のシンボル 福利厚生費 C. 福利厚生

社会貢献 ⑤社会貢献 固定資産(施設) A. 対社外的価値(社会貢献)、D. 文化的 価値

組織開発 福利厚生費

(損金処理)

表2 企業スポーツの価値と考えられていたもの(筆者作成、2006 年)

(9)

4.企業スポーツを活用した CSR 実現モ デルの試論

4.1 事業モデルの考え方

 これまで、スポーツが有する価値分析と、CSR の実現に寄与できる可能性についての検討を行 い、企業が社会やステイクホルダーからの要望 に応えるための有用な価値がスポーツに存在す ることを提示した。

 ここでは企業スポーツ再生モデルとして佐伯 の先行研究と、企業における事例を検討し、21世 紀型企業スポーツによる CSR 補完モデルを考え ていきたい。

 佐伯は、21世紀型企業スポーツモデルとして、

①プロ化モデル(個性的な企業イメージと企業 文化を訴求する文化的付加価値戦略における経 営資源としてのプロフェッショナルな活動)、② 福祉型企業スポーツモデル(企業内スポーツ振 興に特化)、③市民クラブ型企業スポーツモデル

(市民社会・地域交流の拠点創出)および、①〜

③それぞれの複合モデルとしての、④総合・複合 型企業スポーツモデルを提示している40。  スポーツと CSR を結び付ける企業の一例であ るサントリー㈱は、2003年に「スポーツフェロー シップ推進部」を開設し、従来から続けてきた企 業スポーツ活動やスポーツスポンサード活動を 統合した41。そこでは、それまでパラレルに活動 していた、バレーボール、ラグビーの企業スポー ツチームの運営やゴルフ事業(サントリーオー プンの開催)のマネジメントを統合したうえ、

Kid’s

プログラム等42スポーツを通じて社会の

「グッドウィル」43を獲得し、社会的責任を全うす ることをそのミッションとしている。「スポーツ フェローシップ推進部」の創部後は、社内におい てスポーツ活動の意図がかなり理解されるよう になったとされるが、今後はスポーツの事業化

も視野に入れ、事業モデルや目指す方向などが 一致するJリーグとの連携を深める方向が予定さ れている。

 この活動は、「営業利益だけではない、世の中 に愛される企業を目的に、これまで自社が保有 するスポーツプロパティをより企業理解促進に 役立てたい」とするものである。具体的な効果と しては、外的なものと内的なものがある。外的な ものとしては、たとえば、チームは、企業が保有 するものの本質的にはサポーターと共有するも のであるという認識のもとで、サポーター=消 費者がスポーツを通してサントリーという企業 に共感してもらえてこそ、企業ブランドも広 がっていくと考えている。内的なものとしては、

コーポレートブランドの構築により飲料関係事 業の販売促進に寄与すると同時にスポーツを通 した社会貢献による社員のモチベーション向上 と組織力向上、ひいてはサントリー社員である ことのプライドの醸成による「よりよい組織文 化」の形成に寄与することも目的とされている。

4.2 CSR の実現を支える企業スポーツ のステイクホルダー価値

 企業は様々なステイクホルダーと共存する存 在であることから、これまで検討してきたス ポーツの価値はステイクホルダーのニーズに合 致するものでなければならない。表3は、スポー ツが提供できる価値がステイクホルダーのニー ズを満たす可能性について整理したものである。

 縦軸に、ステイクホルダーとそれぞれのニー ズと考えられるものを記した44。一方、横軸には、

企業スポーツの持つ価値と考えられている、「企 業PRや組織活性化のシンボルとしてのスポー ツチームの存在」に加え、前に検討したように

「競技者、指導者などの人材」、それらによって生 産される「ノウハウ(組織デザイン等)」、コンプ

40  佐伯、前掲書、259 − 284 ページ

41  (財)大崎企業スポーツ事業研究助成財団編『企業スポーツの再生に向けたアクション・プロジェクト』2005 年3月、80 − 92 ページ

42  子どもたちを対象とした様々な体験型プログラム。スポーツ・音楽・美術・環境の4つの分野において、そのトップレベルで活 躍する人々と子どもたちが触れ合う機会や、子どもたちが自身で体感・体験する機会を提供することで、次世代を担う子どもた ちの 挑戦する気持ち を応援するもの。(http://www.suntory.co.jp/culture/smt/kids/index.html)

43  グッドウィルとは、企業にかかわりを持つステイクホルダーの利害の調整によって実現されると考えられる企業の社会的評価を 意味するものである。(十川、前掲書、55 ページ)

44  ステイクホルダーの期待については、十川、前掲書、162 − 168 ページを参考に、筆者が定義した。

(10)

45  従来の企業スポーツは企業 PR や福利厚生が目的であり、基本的には法人税対策(損金処理ができるもの)としての意味合いを 持っていたため、利潤を求めるという発想がなかったからだといえる。

ライアンスの象徴としての「スポーツマンシッ プ」、「(チーム、選手の話題性による)コミュニ ケーションの円滑化」、「共感」を醸成する媒体等 数値化が困難であるが重要と思われる価値を挙 げた。それらの価値とステイクホルダーが欲す る価値が合致すると考えられる場合、○印を記 入した。

 この表から指摘できることは、そもそもス ポーツが提供できる価値は、ステイクホルダー が欲する価値と合致する場合が多いということ であり、一方では従来の企業スポーツは、株主の インカムゲインなどに対する要求や、経営者の 資金調達に対する要求、さらに従業員の安定賃 金や公正な評価という要求など、今後ますます 重要度を増すであろうニーズにはこたえられて いなかった45ということである。当然ながらこれ らのニーズに応えられないと企業スポーツの復 権はありえない。

 以上をふまえ、筆者が考える「企業スポーツ復 権の条件」は次の4点である。①企業の経営資源 によって運営されること、②企業チームが自立 自走するだけの利益を生むこと、③スポーツ活 動で創出した人材の効果的な活用、④他者との 連携(産学連携、他社・異業種との連携)、であ

る。次項で詳述するこの条件によって、新しい企 業スポーツは、企業の経済的側面に負担をかけ ずに社会的側面に対する効果を可視化でき、CSR の実現に貢献できると考えられる。 

4.3 企業スポーツを活用した CSR 実現 モデルの試論

 では、具体的にどのような組織にして、誰がど のように運営していくのか、前項で指摘した4 つの条件に基づき、責任の所在も明らかにした 事業スキームの提示を行いたい。イメージは図 2のとおりである。

 第1の条件は「スポーツチームは企業内部に 保有し、マネジメント責任の所在を明確にする とともに、良質な企業文化の醸成を目指す」とい うことである。わが国における組織観を勘案す ると、組織成員の共感を生み、良質な組織文化を 醸成するための装置となりうるスポーツ(チー ム)は企業内になければならないと考える。表3 からも読み取れるように、スポーツによるエキ サイトメント性や話題性は社員同志の共感を醸 成し、あるいはステイクホルダーとのコミュニ

企業シンボル としてのチー ムの存在

施設・スポー ツ技術を持っ た人材

スポーツ選手 が獲得する

(ビジネス)

スキル

チーム、選手の 話題性によるコ ミュニケーショ ンの円滑化

スポーツマン シップ(コン プライアンス

等)

ノウハウ・組 織デザイン

「共感」に よる社員エ ンパワーメ ント

新規ビジネ ス(教育・

健康)

健全な企業 文化の創造

CSRの 実現、リ スクマネ ジメント

収益=企業価値増大

インカムゲイン・キャ

ピタルゲイン

顧客 価値ある商品

ソリューション

地域社会へのアカウン

タビリティ

税金・雇用

青少年の育成

税金の還元・雇用

社会資産(ハード)

取引先 公正な取引・理解

安定賃金・公正な評価

福利厚生

働きがい・プライド

株主からの評価

資金調達 ○( )

従業員モチベーション

個人的プライド

ステイク ホルダー

ステイクホルダーが欲 する価値

経営者 株主

従業員 公共 セクター

(自治体)

地域社会

企業が今後目指す価値 スポーツが生み出す価値

SRI 表3 スポーツがステイクホルダーに提供できる価値(2005 年筆者作成)

(11)

ケーションを円滑にするという効果が期待でき る。また、企業が、企業スポーツを活用した諸活 動によって、スポーツマンシップの重要性を社 内に醸成し、コンプライアンスを核とした良質 な企業文化の構築が可能となるとともに、経営 者や従業員が当該企業を支えることのプライド が醸成されるようになると考えられる。

 しかし、従来のようにコストセンターとして の存在にとどまるならば株主の共感を得られな い。そこで、企業チームが自立自走するだけの 利益を生む(企業スポーツの事業化=チーム運 営から生まれる人材やノウハウなどを商材とし て事業を行う)ことが第2の条件となる。具体 的には、まず、従来の企業における戦略組織(図 2では事業部制をイメージしている)と同様に、

スポーツ事業部を立ち上げる。スポーツチーム 部門とスタッフ部門に分けて、両方の部門を統 括するゼネラルマネジャー(以下、GM と略す)

を設置する。すなわち、スポーツチームのパ フォーマンスや活動に関わる収支についてはこ の GM が責任を持つ。事業部には福祉関係や教 育など、スポーツ選手のスキルを活かした事業 を立ち上げておき、スポーツチームとの活動と の相乗効果によって事業効率を上げる。新事業 については、スポーツチーム運営によって得る、

様々な経験知を培った人材と、チーム運営のノ ウハウといったソフトを、当該企業の本業や新 規事業に活用すると効率的である。たとえば、企 業スポーツが持つ整備されたグラウンドなどの

インフラと、スポーツ選手のスキルを活かした、

フィットネス事業や福祉関係事業によるものが考 えられる。また、スポーツマンシップは、現在の 青少年育成のためには不可欠な概念と考えられ、

それを活かしたスポーツ教育事業もしくは、私的 教育機関との連携による教育ビジネスが考えられ よう。

 これは、スポーツ選手のスキルを戦略的に活用 し、スポーツマンのセカンドキャリアを創出する だけでなく、本業における人的資源の育成にもつ ながり、従来の人事政策にはない、「スポーツ活 動で創出した人材の効率活用」という第3の条件 を満たすものにもなろう。たとえばプロ野球の監 督のマネジメント著書が一定の評価を受けるので あれば、自社のチームが強ければその優れたチー ム運営のノウハウなどを理論化し、独自の企業戦 略に活かす方が企業価値としては高い評価を社会 から受けることができると考える。

 第4の条件は「他者との連携」である。例えば、

スポーツ選手は競技生活を通じて様々な知識やノ ウハウを培っていると思われるが、そのスキルを 理論的に裏づけ、様々なビジネススキルに転換す るために大学と連携することや、教育ビジネスを 行う上で、塾などの教育企業と連携することが考 えられる。これは、連携先にもメリットがあると 考えられるため、Win−Winの関係を創出できる 可能性を持つ。

 また、スポーツは、「公共の福祉に寄与するも の」と定義可能である。そのため、この価値を活

従来の事業部

スポーツ事業部(仮称)

チームマネジメント部門 GM

現場スタッフ 監督、コーチ、選手

運営

広報

総務

事業開発

(IR等)

(財務、人事、庶務)

(他企業、自治体とのアライアンス)

教育ビジネス部門

パブリックスクール運営

企業研修、学校への人材派遣

(一流の教育・スポーツ環境の提 供、塾とのアライアンス)

(チームスタッフのスキル 活用)

フィットネス・社会福祉部門 (チームスタッフのスキル活用)

スポーツの価値、スポーツ選手のスキルを活用した事業

人材の リサイクル

教育機関

(大学等)

収益と 社会貢 献の両

=CSR

セカンドキャリア 人材のフロー

一度教育訓練し、スキルを ブラッシュアップする

現場スタッフ 企業文化構築 自立自走

公共 セクター

他企業

(塾等)

人材のフロー

人材のフロー

アライアンス

アライアンス アライアンス

他企業 選手プロ入り時に企業に対す (プロ)

るキックバック等

図2 スポーツの価値とスポーツ実践者のスキルを活用した CSR 実現モデル(2005 年石井作成)

(12)

46  ここで言うコンテクストとは単なる取引ではなく、過去のインタラクション(相互作用)の蓄積であり、意味が通じ合う関係を 構築することである。(今井賢一、金子郁容『ネットワーク組織論』岩波書店、1988 年、87 ページ)

47  ネットワークとは、「コンテクストを介してつながるプロセス」であり、「心情的な共感による連帯感」を生んで、「経済的協力な いしはそれを超えたエネルギー」や「パワーを生む」ものである(今井、金子、前掲書、161‐162 ページ)また、國領は、企業 が他の企業とパートナーシップを構築する時に重要なことは、「標準インターフェースを用いて戦略パートナーの組換えが迅速に 行える体制のもとでの『オープンなネットワーク』の形成である」という。(國領二郎『オープン・ネットワーク経営』日本経済 新聞社、1995 年、123 ページ)

48  社会的責任投資とは、良好な経済的パフォーマンスと社会的責任の両立を果たしている企業、あるいは、社会的な課題の解決に 関わっている事業体(NPO や地方公共団体など)の取り組みを資金供給者が評価して、投資・融資などを行うことを言う。(㈱日 本総合研究所編『企業の社会的責任と新たな資金の流れに関する調査研究』2004 年、9ページ)

49  M. フーコー著田村俶訳『監獄の誕生』新潮社、1977 年、143 ページ

50  ホイジンガはこのことを「スポーツは遊びの領域を去っていく」と、すでに 1938 年に言及していた(J. ホイジンガ、前掲書、324 ページ)。またドーピング問題など、記録を追い求める結果として生起する諸問題を指す。

用してる新規事業を興しながら地域の雇用を創 出させたり、青少年の育成指導に寄与すること は、公共セクターや地域社会という重要なステ イクホルダーに企業としての存在をアピールで きるのである。

 このように、企業スポーツをインターフェー スとした様々なステイクホルダーとのコンテク スト46の構築が可能になる仕組みにする方策が有 効に機能することによって、企業スポーツは CSR におけるトリプルボトムラインの2つの柱 である、社会的側面と経済的側面を補完し、CSR の実現に寄与して、グッドウィルにもつなげる ことができるようになると考えられる。また、本 小論をベースに再構築された企業スポーツは、

企業が多様で異質な領域と接触して「オープン なネットワーク」47を構築することを可能にし、

また、業種・業態によっては新しいビジネスモデ ルを創造して企業価値向上につながる可能性を も生み出すと考えられるのである。

5.おわりに

 本小論では、スポーツの価値の整理と、CSRの 視点からその再構築を通して、企業の CSR 実現 を補完するための 21 世紀型企業スポーツモデル について試論した。

 今後の課題としては次の3点が考えられる。

第1に、本小論で提示した事業スキームが CSR にどの程度貢献しているのか、CSR 自体の効果 とあわせて評価する必要がある。そのため、指標 の設定とその妥当性の検討が必要になる。現在、

社会的責任投資(Social Responsible Investing 以 下「SRI」と略す)48という概念が注目されてい るがSRIの対象に選ばれた企業は、投資家が投資

に足る企業として評価したということである。

金融機関でもこの動向に着目し、積極的にファ ンドを組成しようという動きがあり、有利な融 資を受けることによる企業価値増大が考えられ るから、この制度を有効利用する方向性を検討 しなければならない。

 第2に、行政や自治体とどのようにタイアッ プしていくのか、という点も解き明かされなけ ればならない。スポーツ施設などの固定資産を 保持することは企業にとって大きな経営リスク につながる。リスクの回避方法として、たとえ ば、固定資産税軽減などの優遇税制の適用が考 えられる。

 第3に、スポーツ競技団体のガバナンスの問 題である。今回試論した事業スキームを自立自 走させるために最も重要なのがそのチームの所 属するスポーツ団体(協会)との連携であるが、

その成否は母体となる団体のガバナンス能力の 優劣にかかっているといっても過言ではない。

そのために、事例研究としてサッカーのJリーグ や、バスケットボールの bj リーグのガバナンス と企業の連携に関する研究が必要であろう。

 スポーツは近代資本主義が発展する過程にお いて、大衆化し、高度化への進展を余儀なくされ た。スポーツ選手は、フーコーの言う「従順な身 体」を「規律・訓練(ディシプリ−ヌ)」49によっ て得ることで高度なゲームを楽しもうとした。

しかし、競技力を追い求めることによって自ら、

あるいは国家や所属する組織からの圧力によっ てドーピングなど人間性の否定を導いた50。企業 も株主価値の向上、端的にいえば短期でキャッ シュを生むことを株主から求められるように なったことよって、従業員の満足はおきざりに されたことも、人間性の否定を招き、不正会計処 理や商品偽装工作等様々な社会問題の一因に

(13)

51  ホイジンガ、前掲書、328‐329 ページ

なったと考えられる。この動向は、何が尊重され るべきであるかという基本的な認識を欠いたた めに問題が生起した点では、スポーツと企業の 迷走は同じ図式といえる。そもそもホイジンガ が、「スポーツにおいて取り上げられた記録の概 念がまた経済の分野でも幅をきかすのは当然の なりゆき」であり、「商業と生産の比較統計学は 経済的技術的生活の中へスポーツ的要素を導入」

し、「記録達成の努力が全盛を誇っている」51と指 摘したように、スポーツと企業の関係は緊密な のである。そのため、企業やそれを取巻く社会の 問題を、スポーツの価値を活かし、企業スポーツ を再構築することで解くことは意義のあること であると筆者は考える。

 企業は社会の公器であるがゆえに、その社会 的責任を果たすよう求められている。スポーツ もまた公共財であるから、同様である必要があ る。企業スポーツの復権に向けた事業モデルの 提言は、スポーツが企業を通して、あるいは企業 とともに社会的責任を果たす中で可能となり、

それは同時に企業の価値を高めるメディアとも なりえ、社会からその存在価値の承認を獲得で きると考えられるのである。

参考文献

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(14)

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文部科学省編『スポーツ振興基本計画』2000 年 横山勝彦「同志社大学大学院総合政策科学研究科スポーツ

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参照

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