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(1999年度 京都商工会議所観光部会寄付講座)「政 策科学特講(1)―地域経済と観光政策―」講義録

著者 太田 進一, 北村 浩

雑誌名 同志社政策科学研究

巻 2

ページ 363‑366

発行年 2000‑12‑20

権利 同志社大学大学院総合政策科学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004799

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(1999 年度 京都商工会議所観光部会寄付講座)

「政策科学特講①―地域経済と観光政策―」講義録

総合政策科学研究科教授

 太田 進一

総合政策科学研究科後期課程

 北村  浩

 本学総合政策科学研究科において、「京都商工 会議所観光部会」寄付講座が 1999 年度秋学期か らスタートした。2単位科目として開講され、土 曜の隔週で6、7講時の連続講義である。3年連 続の開講を目標に開設されたものである。多彩 な講師陣により、リレー講義方式で行われた。こ の講座は、総合政策科学研究科の院生以外にも、

本学の他研究科、関西4大学(関西・関学・同志 社・立命館)の大学院生も受講できる。初年度は、

90 人以上の院生が受講し、関心が寄せられてい る。総合政策科学研究科では、他にも行政マンや 経営者、実務家による講義科目を設置している が、寄付講座としては初めてである。

 京都商工会議所の観光部会は、観光関連事業 者により構成されている。京都には大学や学術 機関、博物館、神社・仏閣、文化財が集積・立地 している。京都の地域経済において、観光は基幹 産業の一画を占めてきた。ただ最近は、不況の長 期化、観光のグローバル化、交通機関の発達、需 要の変化から、京都への観光客の減少や、観光関 連の売上額の低下がみられる。京都は日本の「心 の古里」といわれ、古くからの良さや落ち着きを 見直すとともに、新たな社会環境の変化に対応 して、「京都の観光と政策」を総合的に再検討す る時期を迎えている。訪問者に「心の癒し」「は んなり」「ほっこり」を感じさせ、「もう一度京都 に来たい」と言わせるには、いま何が必要かを改 めて問い直す時期に来ている。方法論の再検討 と、学際的・総合的な観光へのアプローチ、新た なヒューマン・ネットワーク、コミュニケーショ ンの形成が求められている。

 講義の主旨は、京都の観光を、産業や企業の視 点からだけでなく、行政の視点からも国内外の 政策や役割、変化を捉え、合わせて文化や学術の

視点をも絡ませて、総合的・学際的な観点から受 講生に学んで欲しいという願いである。また、そ れにより、総合的な研究や人材育成が喚起され ることを望んでいる。

第1回  「開講にあたって」

総合政策科学研究科教授 太田 進一 清友監査法人理事長 中野 淑夫

 京都商工会議所は、京都市を活動基盤とする 地域の振興と発展を目的とする経済団体の一つ で、組織 17 部会から構成されている。役割とし て、民間経済交流の推進役、地域経済の情報発信 を担う。京都は国宝、重要文化財に恵まれ世界文 化遺産に登録されている建造物が多くこの地に 集まっているだけでなく、骨董・書籍・絵画に至 るまで文化・伝統を継承してきた。しかし、昨今 の京都の観光は、年間観光客の減少という京都 の危機を招いている。今や、観光の基本政策を改 めて議論すべき時期に来ており、ここに観光講 座開設の意義があるものと考えられる。(以上、

中野淑夫)

 観光講座の全国的な動向として、既に立教大 学の観光学部・観光学研究科が設置されており、

本学では、本研究科以外に商学部・商学研究科の

「観光論」が、また同志社女子大学の「観光・京 都」コースがそれぞれ開設されている。本学研究 科においては、京都の地域経済活性化に対する 観光政策のあり方を考えることに主眼を置いて いる。観光は参詣・見物といったものから、近年 では、楽しみの要素(リフレッシュ、レジャー)、 人間性回復という本質追求形のものへ変化して きている。また、余暇の増大や生活様式の多様

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太 田  進 一 ・ 北 村  浩 364

化・個性化、核家族化・少子化・高齢化といった 環境の変化によって、観光は変わろうとしてい ると考えられる。「京都」はブランドであるが、京 都が今後新しいものをどのように取り込み実現 していくかが課題であろう。(以上、太田進一)

第2回  「地域活性化と観光」

国立民族学博物館教授 石森 秀三

 日本の観光行政は、観光の国際的な流れの中 でとらえ、政策科学として考えるべき時期に来 ている。IMD(国際経営開発研究所)の国際競争 力ランキング(1999 年5月統計)によると、ア ジアではシンガポールや香港の評価が高く、日 本は後塵を拝している。これは、工業立国・貿易 立国の行き詰まりと新たな立国施策の必要性を 示唆し、経済成長が成熟の時代ではマルチ立国

(経済・文化・観光)の施策が重要であることを 意味している。一方、確実に「大観光時代」が到 来するであろう。歴史的には過去三回の観光革 命が欧米を中心に起こり、産業の構造変化を促 してきた。次の観光革命は、2010 年代にアジア で起こると考えられる。日本は観光政策立案の 立ち遅れを回復させ、観光産業を 21 世紀の重要 な基幹産業に育成し、文化輸出や雇用創出の発 信基地になることを目指すべきであろう。

第3回  「観光の経済波及効果」

京都府商工部長 吉池 一郎

 京都は、観光客や地元住民の別を問わず、「心 の癒し」、「心のふるさと」であるに違いない。特 に、体験型の観光が増加し、温泉の人気が高ま り、自然・風景鑑賞に取って代わってきたことは 象徴的である。この数年の京都府の観光は、観光 客が 5,500 〜 6,000 万人で推移するに留まってお り、かつ安近短という日帰り観光が多く、必ずし も地元に収益効果を生んでいるとは言えないの が実態である。京都観光の規模は 5,000 億円で、

その GDP の5%相当とも言われているが、さら なる波及効果として、市町村の税収増や地元の 雇用増など多くの需要が期待できる。京都府の 観光施策として、京都観光アカデミー設立によ る観光学の研究、みやコール実証実験での電話

とインターネットを活用したサービスの提供、

周辺地域との連携、観光振興ビジョンの立案へ の取り組みなど活発な動きがある。

第4回  「都市政策と観光」

京都市企画監 高木 壽一

 京都市は、全国第8位の工業都市に位置する。

しかし、地元産業は、織物業中心に悪化傾向が続 いており、産業構造の転換先として、観光に期待 が集まっている。観光産業は、労働集約型の産業 であり雇用効果が期待できる。これに対し、京都 市の観光状況は景気の低迷という厳しい経済状 況、国際的になりつつある観光競争の激化など の影響により、観光客が 4,000 万人に満たない年 が生じ低迷が続いている。京都市は、市民の観光 に対するコンセンサスが観光政策にとって重要 と考えている。観光の波及効果による恩恵を考 慮すれば、観光客の受け入れ方は変わるであろ う。また、住民賛同・参加型の観光が望まれる。

観光客しか行かない集客場所ではなく、住民が 日常利用しているところが観光地であるような、

京都そのものが生きたテーマパークであるよう な観光の提案が重要である。

第5回 「日本−京都−の魅力とその観光政策」

(株)都ホテル取締役相談役 福持 通

 観光には、「ホスピタリティ」を基軸とした都 市(京都)の魅力による活性化が必要である。ホ スピタリティとは、おもてなしの心であり、お客 様の満足度に直接影響するものと考えられ、こ の概念が都市(京都)に根付いた時こそ京都の魅 力が倍増・活性化される。満足は一人一人の感性 により異なるが、この尺度は事前の期待と実際 に享受したサービスとの差異を意味し、京都観 光の特質はこの事前期待が格段に高いところに ある。今や観光は、物見遊山的なものではなく知 的欲求を満たすものであり、知恵が求められる 時代の自分の為になる観光という新世紀のコン セプトが必要になっている。旅行形態がどのよ うに多様化しようと、「お客様の満足・感動」こ そ重要であり、お客様に満足して帰って頂きリ ピーターとして再度訪問して頂くことに叡智を

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注ぐべきである。観光は京都活性化の鍵であり、

市民を巻き込んだ活動こそ重要であり、市民が 主体のホスピタリティが感じられる前向きな雰 囲気と姿勢が都市の魅力を増幅させるであろう。

第6回  「バスと観光振興」

京阪バス(株)代表取締役会長 木村 睦朗

 観光バスには、明治時代以来の歴史があるが、

近年はバス事業を取り巻く環境が変化してきた。

マイカー、新幹線など交通アクセス手段が多様 化し、観光地の開発振興策が変化し、人の意識が

「物の豊かさ」から「心の豊かさ」へ変わってき ており、観光行動の質的な転換の段階に来てい る。定期観光バスの旅客は年々減少の一途で、若 年層の減少、閑散期の落ち込みが顕著な状況に ある。一方、日帰りの固定客や中高年層の占める 割合は依然高い。これらの現状をふまえた観光 振興策が必要であろう。新しい観光客として、マ イカー客の取り込みを図る、家族・グループや女 性客向けの新サービスを提供する、自由観光向 けバスの運行や閑散期向けのサービスを提供す る、リピーター客・固定客向けの商品を強化する など、施策について創意工夫を凝らすことが いっそう重要になると考えられる。

第7回  「観光政策と異文化比較」

武庫川女子大学教授 高田 公理

 観光学は社会学として起源があり、日本では 平安時代の末期には観光が始まっていると言わ れている。近世においては、明治時代初めに国内 旅行が自由化され、昭和 30 年代末には海外渡航 が自由化されるに至った。その間、交通機関の発 達、ホテルなど宿泊施設の建設、旅行業の設立な ど次第に観光資源の整備が行われてきた。しか し、日本では入国者より出国者が圧倒的に多い、

いわゆる観光鎖国であるという指摘もある。観 光は 21 世紀における人類社会最大の産業と言わ れることからも、日本が豊かな自然景観や文化 によって新しい産業として方向付けが行われる べきであろう。観光には、多様な文化の間の相互 理解、そこから新しい文化を生み出す役割が期 待される。異文化交流の場としての観光は、単に

雇用創出や環境産業としての観光を超えた意義 を見出すことが可能である。

第8回 「アジア太平洋各国の観光政策と経済政策」

世界観光機関事務所長 山下 哲郎

 ツーリズムとは、WTO(世界観光機関)の定 義によると、レジャーや商用など多目的でその 地を旅行するだけでなく滞在するということで ある。その意味で、ツーリストは目的にかかわら ず一日以上過ごす人を指し、一日以内の訪問者 に過ぎないビジターとは異なる。ツーリズムは、

居住する国の中の旅行(ドメスティックツーリ ズム)、国境を越えた旅行(インバウンド/アウ トバウンドツーリズム)、外国への旅行(イン ターナショナルツーリズム)など多様化されて きている。国際的な観光は経済上多くの収益や 価値をもたらすと考えられる。WTOの2020Vision によると、2020 年は国際観光旅客到着数が 15.6 億人、国際観光収入が2兆ドルという予測が立 てられている。また、海外旅行は 1.5 倍の GDP の 成長率という試算もある。いずれにせよ、観光収 益が経済上の恩恵をもたらすことは確かである。

第9回  「国際観光のマーケティング」

国際観光振興協会京都事務所長 岡田 豊一

 日本の国際観光の状況として、全体としては 円の対外相場によって影響を受け易いものの、

アジア諸国からの観光(インバウンド)が増加し ており、観光におけるアジア市場の成長性を認 めることができる。しかし、日本の外国人の受け 入れ数は、必ずしも先進国で上位でなく、日本は 国際交流小国に留まっているといえよう。国際 観光の見通しとして、東アジア・太平洋地域は国 際観光の成長センターに位置し、これは日本の 観光のインバウンド化を促進する好材料になる 可能性がある。その中で、京都の国際観光は伸び 悩んでおり、どのようにインバウンド・マーケ ティングを推進するのかという課題を抱えてい る。そのためには、Product(製品/観光資源/受 入体制)、Price(価格)、Promotion(プロモーショ ン)、Place of Sales(流通)という4つの P の要 素を考慮した施策が重要である。

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第 10 回  「地域経済社会の発展は観光から」

阪南大学国際コミュニケーション学部

堀川 紀年

 「心の豊かさ」といわれて久しいが、余暇・ゆ とりを重視した観光がいっそう顕著になり、バ リアフリー型の観光や滞在型の旅行が増え、レ ジャー・仕事の延長として、観光が日常化する傾 向にある。また、フリータイムで楽しむ旅行、趣 味・嗜好の域を越え、本場・ゆかりの地を訪れ、

現地の生活を体験し、住民と交流するという本 物志向になってきている。旅する人の気持ちが 旅の形を変え、これに伴って町を変えるという 発想が重要になるものと考えられる。この点で は、京都は観光資源を多数有する文化財都市で はなく、文化都市として再認識し、その価値を発 揮すべきであろう。旅の形の変化を受け入れた、

味わいや感動を呼び起こす実体験を観光に持ち 込むことが必要であり、このような試みが新し いリピーターを生むことになる。

第 11 回 「わが国の観光のあり方(総括)」

㈱京都観光デパート代表取締役社長 古川 満男

 これまでの政策科学特講をふまえ、受講生の 意見・提言を以下にまとめる。京都に対する現状 認識として、都市全体が日本文化のテーマパー クであり、「京都ブランド」は本物志向であると いうプラス面と、逆に伝統の敷居の高い陳腐化 したイメージや住民の観光客に対する無関心と 無理解があるというマイナス面もあると考えら れる。観光施策の提案として、京都らしさの売り 込みが重要であり、京都という空間のもたらす 非日常性の周知、文化遺産の再生・保持、応対す る住民側の雰囲気づくりがあげられる。また、伝 統産業を活用した京都リニューアル計画によっ て、バリアフリーで人にやさしい街づくりを 行ったり、芸術活動の場を提供することなどが 考えられる。京都観光の伸び悩みに対する危機 意識をもち、国際観光都市としての京都の街づ くりを将来に向けて、どのように行っていくか という議論を行うことが重要であろう。

第 12 回  「オーストラリアの観光政策」

オーストラリア総領事 Greg Story

 オーストラリアに対する一般大衆の抱くイ メージは、コアラ、カンガルー、オペラハウスな どであろう。オーストラリア観光には、CLOSE

(近い)、Creative(創造的)、Comfortable(快適)

という3つの C で表される特徴がある。CLOSE とは、日本と差のない時差、多く生産される日本 製品、日本語の学習熱や教育熱心さを、Creativeと は、高い教育レベルと輩出する人的資源の人口 当たりの多さやコンピュータ、インターネット の浸透度を、Comfortable とは、生活水準の高さ から来る住みやすさをそれぞれ示している。

オーストラリア観光の事業者数は労働人口の 10

%強を占め、観光収益は経済成長率に大きく寄 与している。2000年開催のシドニー五輪には、世 界からの集客効果が期待される。

第 13 回  「全体のまとめと今後の展望」

総合政策科学研究科教授 太田 進一

 京都の観光は大きく変わろうとしている。従 来の二軸思考を超えた考え方が求められる時期 に来ている。方法論の反省として、伝統と革新、

保存と開発といった二つの軸の対極ではなく、

三次元で考え、多層で多空間に及ぶ価値を与え、

宣伝もインターネットを利用した立体画像を導 入する必要がある。連携は三者以上に及ぶ都市 や地域の友好にも注力し、産業は伝統産業や先 端技術を有するベンチャー企業の連携を通して、

現代文明の恩恵を見せることで新しいものを生 み出し発信することが、より重要になるであろ う。そのためには、従来の発想を転換し、市・府・

国や個人・団体など各レベルの連携活動や、地域 やボランティアグループの地道なコミュニケー ションを積み上げた活動によって、新しい企画 の提案に取り組んでいく必要があろう。

参照

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