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退職従業員の守秘義務・競業避止義務(一) : イ ギリス法からの示唆

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(1)

退職従業員の守秘義務・競業避止義務(一) : イ ギリス法からの示唆

その他のタイトル Confidential Duty of Ex‑Employee and

Restrictive Covenants (1) : Some Suggestions from English Law

著者 早川 徹

雑誌名 關西大學法學論集

巻 47

号 6

ページ 865‑892

発行年 1998‑02‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00024510

(2)

︹ 論

一 問 題 の 提 起 二 イ ギ リ ス 法

1 一般法による保護

田在職中の誠実義務

い 競 業 避 止 義 務

伺機密情報についての守秘義務

②退職後の誠実義務

り 退 職 後 の 競 業

伺退職後の営業秘密についての守秘義務

a

機 密 性

b

信認義務を課すような状況︵以上︑本号︶

c営業秘密と被用者の技術・知識 2 特約による保護

3

救 済 三 わ が 国 へ の 示 唆 退 職 従 業 員 の 守 秘 義 務

・ 競 業 避 止 義 務 日

説 ︺

ーイギリス法からの示唆

退職従業員の守秘義務・

説業避止義務口

J I   I 

︵ 八

六 五

(3)

問 題 の 提 起

平成二年の不正競争防止法の改正により︑営業秘密の保護が明文で規定されるとともに︑その侵害行為に対する差

止請求の認められることが明確にされた︒すなわち︑不正競争防止法は︑第二条一項四号ないし九号で︑営業秘密を

侵害する一定の行為を﹁不正競争﹂として列挙し︑第三条で︑﹁不正競争によって営業上の利益を侵害され︑又は侵

害されるおそれがある者﹂に差止請求権︵侵害の停止または予防の請求︶を認めるのである︒

営業秘密は︑①秘密として管理されている︑②事業活動に有用な情報で︑③公然と知られていないものをいう︑と

定義される

︵不正競二条四項︶︒企業は︑公知でない事業活動に有用な情報を秘密として管理することにより︑市場

における競争においてその優位を維持することができる︒このような営業秘密を不正な手段で取得して競争上有利な

( 2)  

地位を占めようとする行為は︑競争秩序に悪影響を与えるため︑不正競争として規制されるのである︒ところで︑企

業が営業秘密を事業活動に用いるに際しては︑必然的に営業秘密を企業の内部者︵取締役などの役員や従業員︶に開

示せざるをえない︒それ故︑企業にとって営業秘密の保護は︑営業秘密の開示を受けた内部者によるその不正な開

示•利用をいかに防止するか、ということが最重要課題となって現れる。実際、営業秘密の侵害が問題となった裁判

例の多くが︑このような企業の内部者︵とりわけ退職者︶による営業秘密の侵害なのである︒また︑平成二年改正前

(3 ) 

に行われたアンケート調査では、多くの企業が、内部者による営業秘密の不正な開示•利用を防止するために、就業

規則などで役員や従業員に守秘義務を課すなどの措置を取っていること︑しかも︑中には︑役員や従業員に︑その退

職後も秘密保持義務を課し︑さらには︑退職後の秘密保持義務を実質的に担保するために︑

関法第四七巻第六号

一定の範囲で退職後の競

︵ 八

六 六

(4)

業を禁止する旨の定めを置いている企業のあることが明らかにされている︒

︵ 八

六 七

退職従業員の競業を一定の範囲で禁止する旨の定めが設けられるのは︑このような営業秘密の保護を目的とする場

合に限られない︒従業員は︑その雇用を通じて︑使用者のさまざまな情報︵営業秘密とはいえないものを含めて︶に

接し︑事業を行うに必要あるいは有益な知識・技術を獲得・蓄積してゆく︒また︑使用者の顧客・仕入先や同僚従業

員に関するさまざまな情報を獲得し︑さらには︑それらの者との間に︑その意思決定に影響力を及ぼしうるような人

的関係を築き上げることさえあろう︒そのような従業員が退職して使用者と競業するとき︑使用者にとって恐るべき

ライバルとなって現れる︵中小企業にあっては特にそうであろう︶︒このような競争から自らの身を守りたいと願う

使用者にとって︑退職従業員に競業避止義務を課すことは最も有効かつ強力な手段となる︒

他方︑従業員に退職後の競業避止義務を課す定めは︑退職従業員の︵私人間においても最大限の尊重を要する︶基

本的人権である職業選択の自由︵憲二二条一項︶を制限することになる︒このような定めの有効性については︑従来

(4 ) 

から︑労働法学説において疑問が呈されていたところである︒学説を簡単に紹介しておこう︒退職従業員の競業避止

義務が認められるためには︑当事者間の明確な合意が必要である︒しかし︑このような合意は常に有効であるわけで

はなく︑合理的な範囲でのみその効力が認められるにすぎない︒競業禁止の特約は︑経済的弱者である被用者から生

計の道を奪い︑その生存をおびやかす虞があると同時に被用者の職業選択の自由を制限する虞があるからである︒合

理的範囲を超える制限は︑退職従業員の営業の自由・職業選択の自由を不当に奪うものとして︑公序に違反して無効

とされる︵民九 0 条︶︒制限が合理的範囲内か否かは︑競業を禁止することについての使用者の利益と︑競業によっ

て制限されることになる退職従業員の職業選択の自由に対する利益との間の利益考量によって決せられる︒具体的に

退 職

従 業

員 の

守 秘

義 務

・ 競

業 避

止 義

務 日

(5)

は︑①使用者に保護すべき利益のあることが要求される︒当該使用者のみが有する独特の知識・情報︵さらには人的

関係︶が保護に値する使用者の利益であり︑職務の遂行にあたって通常に得られる一般的な知識・技術は含まれない︒

②制限が︑その対象職種・期間・地域からみて退職従業員の職業活動を不当に制約するものでないことが必要である︒

対象職種は︑競争企業の同一職種への就職に限定しなければならない︒期間・地域については一般的な基準をたてる

ことはできず︑技術者につき地域が限定されていないからといって直ちに不合理な制約となるわけではない︒③職業

選択の自由を制限することに対する代償措置が講じられていること︒代償の程度・額については客観的な基準はなく︑

以上のような︑退職従業員の競業禁止特約が有効であるための要件として学説が主張する基準について︑筆者は︑

(5 ) 

既に別稿で幾つかの疑問を提示した︒ここでは︑本稿の問題意識を明らかにするために︑次のことを指摘するにとど

めよう︒退職従業員の競業禁止特約の有効性を判断するに際しては︑﹁使用者の保護に値する利益﹂が重要な意味を

(6 ) 

有する︒しかし︑学説が︑このような使用者の利益について十分な検討を加えてきたかというと︑そのようには思わ

れないのである︒例えば︑営業秘密が使用者の保護に値する利益であることは異存なく認められよう︒そこで︑営業

秘密を保護するための競業禁止特約は︑退職従業員の職業活動を不当に制約するものでさえなければ︑有効であると

(8 ) 

解する説もある︒しかし︑現在では︑不正競争防止法二条一項七号によって︑営業秘密をその保有者から開示を受け

た者が︑﹁不正の競業その他の不正の利益を得る目的で︑又はその保有者に損害を加える目的で﹂︑営業秘密を使用・

開示する行為は不正競争とされているから︑その限りで︑退職者による営業秘密の侵害に対する法的保護は図られて

いる︒営業秘密の保護を目的とする競業禁止特約は︑不正競争防止法による保護を超えた保護を使用者に与えること ただ︑著しく低額な代償はこの要件を満たさない︑とされる︒

関 法 第 四 七 巻 第 六 号

四︵八六八

(6)

五︵八六九

(9 ) 

を目的として合意されるのである︒具体的には︑右特約により︑使用者は︑営業秘密を知りうる地位にあった退職従

すること 業員が自ら競業もしくはライバル企業に就職しようとする場合に︑それによって営業秘密が侵害される危険の有無を

( 10 )  

問題とすることなく︑特約に基づく義務の履行請求として右行為︵競業またはライバル企業への就職︶の差止を請求

︵民四一四条︶が可能となるのである︒営業秘密の保護を目的とした競業禁止特約の有効性︑さらにはその 制限の合理性は︑使用者に不正競争防止法による保護を超えた保護を与える必要性の有無・程度を考慮して決定され

( 12 )  

るべきではなかろうか︒さらに問題なのは︑学説は︑制限が合理的であるための基準を全く明らかにしていないこと

( 13 )  

︵特に上述の要件②に関して︶である︒一律に明確な基準を打ち立てることは不可能であるとしても︑合理的な制限

(M ) 

を超える特約は公序に反して無効となると解するのであれば︑当事者が有効な競業禁止特約を合意することを可能と するような何らかの基準を示すことが必要であろう︒少なくとも︑使用者に退職従業員の職業選択の自由を制限して でも保護に値する利益のあることを認め︑しかも︑そのような使用者の利益は特約によってのみ保護されうるもので あり︑かつ︑職業選択の自由という退職従業員の対立する利益との調整は当事者間の合意によって解決されるべき問 題であり︑また︑当事者の合意による解決が可能であると考えるのであれば︒

本稿は︑このような退職従業員の競業禁止特約の有効性に関する問題を考えるための前提作業として︑退職従業員

( 15 )  

の守秘義務および競業避止義務に関するイギリス法を紹介しようとするものである︒

(1 )

な お ︑ 改 正 前 の 法 状 況 に つ き ︑ 簡 単 に は ︑ 通 産 省 知 的 財 産 政 策 室 監 修 ﹃ 営 業 秘 密 ー 逐 条 解 説 不 正 競 争 防 止 法 ﹄ 一 三 頁 以 下

︵ 有

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業 秘

密 ﹂

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的 保

護 (

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﹂ NBL

四 一

二 六

号 八

頁 以

下 を

参 照

( 2

)

平 成 二 年 三 月 の 産 業 構 造 審 議 会 財 産 的 情 報 部 会 報 告 書 ﹁ 財 産 的 情 報 に 関 す る 不 正 競 争 行 為 に つ い て の 救 済 制 度 の あ り 方 に

退 職 従 業 員 の 守 秘 義 務 ・ 競 業 避 止 義 務 曰

(7)

ついて﹂︵営業秘密逐条解説・前掲注

(1 )

一五七頁以下に所収︑一七 0

頁 ︶ ︒

( 3

) 財団法人知的財産研究所﹁財産的情報に関する調査研究︵国内企業の財産的情報に関するアンケート調壺︶﹂

NBL 四 四 五 号 二 九 頁 ︒

( 4

)

学説の詳細については︑例えば︑土田道夫﹁労働市場の流動化をめぐる法律問題︵上︶﹂ジュリスト一 0 四 0

号 五

一 三

貝 ︑

小畑史子﹁退職した労働者の競業規制﹂ジュリスト一〇六六号一︱九頁などを参照︒

( 5

)

拙稿﹁営業秘密の保護と役員・従業員の守秘義務・競業避止義務﹂関西大学法学研究所研究叢書第一五冊﹃知的財産の法

的保護﹄一七一頁以下に所収(‑九九七︶︒

( 6

) 特約が有効であるためには︑使用者に保護に値する利益が存しなければならないという意味においてのみならず︑特約に よる制限が合理的であるためには︑制限がこのような利益を保護するために必要とされるところを超えていないことが必要 であるという意味においても︑重要なはずである︒もっとも︑使用者の保護に値する利益を考慮して制限の合理性を判断す

ペきであることを明示的に述ぺる文献は見あたらない︒

(7)なお、裁判例では、学説の主張する代償措置の要件はほとんど考慮されていないことにつき、拙稿•前掲注(5)

一九七頁

以 下 を 参 照 ︒

( 8

)

例えば︑前掲注

( 2

) 報告書︵営業秘密逐条解説・前掲注

(1 )

一七四頁︶が︑﹁退職する労働者に対する競業制限契約につ

いては︑基本的には契約自由の原則に委ねられているというものの︑その内容はあくまでも労働者が就業活動を正常に行え

る範囲内の制限に限られ︵る︶﹂と述ぺ︑また︑営業秘密逐条解説・前掲注︵

1

︶一四二頁が︑﹁競業制限契約については労働

者の就業機会を直接制限することになるため︑合理的な範囲を超えることがないように十分な配慮を行うことが必要であ

る﹂と述べるところを参照︒

( 9

) なお︑不正競争防止法二条一項七号は﹁図利加害の意図﹂を要件としているが︑この点の立証の困難さを回避するために 競業禁止特約が必要となるわけではない︒そもそも︑退職従業員が使用者の営業秘密を利用して競業を行おうとしている場 合︑あるいはライバル会社でそれを利用しようとする場合に︑図利加害の意図の立証が困難な場合とはどのような場合かを 明らかにする必要があるし︑仮にその立証が困難であるとしても︑使用者は︑営業秘密に関して守秘義務を課す︵不正競二

条一項八号参照︶ことにより︑この問題を回避することができるのである︒ 関

法 第 四 七 巻 第 六 号

ー ノ

﹂ ︑

︵ 八

0 )

(8)

退職従業員の守秘義務・競業避止義務曰

( 1 0 )

正確にいえば︑競業またはライバル会社への就職により︑営業秘密が不正に利用されるかもしれないという抽象的な危険

のあることを理由とする︒

( 1 1 )

ただし︑東京地決平成七年一 0

月一六日︵判例タイムズ八九四号七三頁孟末京リーガルマインド事件︶は︑競業禁止特約 に基づく差止請求が認められるためには︑当該競業行為により使用者が営業上の利益を侵害される具体的なおそれのあるこ

とが要件となるとする。これに対して、学説はこのような考慮を全く行ってこなかった(拙稿•前掲注

(5)

0

九頁以下を

参照︶のみならず︑そもそも︑代償措置を特約の要件とすることにより︑特約が有効でありさえすれば︑使用者の利益が害 されるおそれがなくても差止は当然に認められると考えてきたのではないかと思われる︒

( 1 2 )

これに関して︑我妻栄﹃債権各論︵中巻二︶﹄︵岩波書店・一九六二︶が︑﹁労務者が雇用関係の継続中に知りえた使用者 の業務上や技術上の秘密を不当に利用してはならないという義務は︑雇用関係の終了後にも︑信義則上の義務として存続す る﹂が︑﹁この義務をあまりに広く認めると︑労務者であった者の経済的・社会的活動を不当に妨げることになる︒従って︑

雇用関係終了後の競業避止義務については︑雇用契約に伴って特約された場合にのみ︑しかも合理的な範囲でこれを認める ことにしなければならない﹂︵五九五頁︶としながら︑同時に︑﹁労務者であった者の不正な競争の防止は︑⁝⁝不正競争防 止法の一般的制度などの客観的規準によることにして︑個人的な特約にはできるたけ頼らないようにするのがわれわれの進 むべき途であろうと考えられる﹂︵五九六頁︶と指摘していたことを︑あらためて想起すべきであろう︒

( 1 3 )

﹁実業界の一部には︑ともすると︑当事者間に特約がありさえすれば︑あとは苛酷な内容でない限り有効であると受けと

める向きがなかったわけではない」との指摘があるが(判例タイムズ八九四号七四頁~前掲東京地決平成七年一

0

月一六日 のコメント︶︑このような実業界の一部の理解は︑制限が合理的であるための基準が明らかにされていないことと無関係で はあるまい︒もっとも︑学説が︑この問題は契約自由の原則に委ねてよく︑ただ︑退職後の競業禁止特約が経済的弱者であ る被用者から生計の道を奪い︑その生存をおびやかす虞のあることに配慮して︑法は︑不当に長期・広範囲にわたる︵さら には︑何らの代償措置も講じられていない︶競業禁止特約を公序に反して無効とすれば足りると解するのであれば︑基準の 不明確さが問題となることはほとんどないであろうが︑他方で︑このような理解は前述の実業界の理解と本質的に異なると

ころがあるのだろうか︒

( 1 4 )

その場合︑特約が全部無効となるのか︑それとも一部無効として︑合理的な制限を超えた範囲のみが無効となるにすぎな

︵ 八

七 一

(9)

ギ リ ス

法 *

︵ 八

七 二

一 般

法 に

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( 1 5 )

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ス 法

を 紹

介 し

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文 献

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︑ 既

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末 延

三 次

﹁ 雇

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於 け

る 営

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特 約

1

英 米

法 に

於 け

R es t r ai n t

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Tradeの一問題—|(一)(二)」法協五一巻―一号一九九五頁(-九三三)、五二巻―一号ニ

五 三

頁 (

‑ 九

三 四

︶ ︑

小 野

昌 延

﹃ 営

業 秘

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保 護

﹄ 一

0 頁

以 下

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︑ 後

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八 頁

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七 四

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労 働

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止 義

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季 刊

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六 五

号 一

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本 稿

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献 で

既 に

紹 介

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何 ほ

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る と

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ば 幸

い で

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一般法による保護

本稿の主題は︑イギリス法における︑退職従業員の守秘義務ないし競業避止義務を定めた特約の効力に関する判例

および学説の議論を考察することにあるが︑その前に︑そのような特約がない場合の法状況を見ておく必要があろう︒

前述したように︑このような特約は︑使用者が特約のない場合に一般法によって与えられる保護では不十分・不適切

であると考える場合に︑それを超えた保護を受けることを目的として被用者との間で合意される︒それ故︑

よる保護を考察することによって︑このような特約が何故に必要とされ︑どのような機能を果たすべきことが期待さ

れているのかが明らかになるであろう︒また︑特約の効力は︑特約に基づく救済を使用者に認めることの必要性を考

( 1 6 )  

慮して判断されるであろうから︑このような考察を行うことは有益であろう︒

( 17 )  

一般法による保護は︑雇用契約の黙示的条項

(i mp li ed te rm s)

として認められる被用者の誠実義務

(d ut

o f

y

 

関法第四七巻第六号

(10)

d e

l it y )

が︑雇用契約終了後も一定の範囲で存続することにより認められる︒以下では︑まず︑在職中の被用者の

誠実義務について本稿の考察に必要な範囲で概観した後で︑退職従業員の一般法により課せられる義務について見て

在職中の誠実義務

イギリス法上︑被用者はその在職中︑使用者に対して︑誠実かつグッドフェイスに

(w it f i h d e l i t y   an d  i n   g oo d  ( 18 )   f a i t h )

労務を提供すべき義務を負うことが︑雇用契約の黙示的条項として認められている︒このような被用者の誠

実義務のうち︑本稿の考察にとって重要なのは︑競業避止義務と機密情報についての守秘義務である︒

競業避止義務

( 19 )  

被用者は︑その在職中︑使用者の利益に配慮すべき義務をその誠実義務として負っている︒それ故︑被用者がその

( 20 )  

勤務時間において競業を行う場合はもちろんのこと︑たとえ被用者の競業がその勤務時間外

(s pa re

,  ti

me )

において

( 21 )  

なされる場合であっても︑それにより使用者の利益が害される危険のある場合には︑誠実義務違反となる︒例えば︑

( 22 )  

Higc

事件では︑補聴器用の超小型真空管

(m id ge tv al ve )

の製造に携わる高度の熟練エが︑その勤務時間外におい

て使用者のライバル会社で就労することは︑たとえ使用者の機密情報を開示または不正に利用した事実がなくても︑

使用者の業務に重大な損害をもたらすおそれがあるとして︑誠実義務違反を理由とする暫定的差止

( in t e rl o c ut o r y

一般論としては︑裁判所は︑明示の特約がない限り︑被用者の勤務時間外の就労

を制約することに消極的であるといわれるが︑被用者のライバル会社への就労は︑たとえ勤務時間外であっても︑そ

の職務の遂行に支障をもたらすなど使用者の利益を害する危険が定型的に認められるから︑通常︑誠実義務違反が認

退 職

従 業

員 の

守 秘

義 務

・ 競

業 避

止 義

務 日

i nj u n ct i o n)  

の請求が認められた︒

(i) 

(1) 

ゆくことにする︒

︵ 八

七 三

(11)

伺機密情報についての守秘義務

︵ 八

七 四

︶ 第 四 七 巻 第 六 号 ( 2 3 )  

定されることになろう︒ただし︑臨時エ

( o

d d

w o

r k

e r

)

がその勤務時間外にライバル会社で働く場合のように︑使

( 2 4 )  

用者に損害を及ぼす危険の全くない場合には︑誠実義務違反とはならないとされる︒

( 25 )  

被用者が︑その在職中に将来の競業を意図してその準備をすることそれ自体は誠実義務違反となることはないが︑

単なる準備行為を超えて︑使用者の利益と相反する危険を生ぜしめる場合には誠実義務違反となる︒例えば︑退職後

に行う競業のために︑その在職中に使用者の顧客を自己の顧客となるよう勧誘する

( s o l

i c i t

)

ことは︑誠実義務違反

( 2 6 )  

となる︒もっとも︑このような過去の義務違反を理由として差止を求めることはできないから︑退職後の競業が使用

( 27 )  

者の営業秘密を侵害して行われているのでない限り︑使用者としては損害賠償を請求するほかない︒さらに︑在職中

における将来の競業の準備行為は︑後述する被用者の退職後の誠実義務との関係で一定の制約を受けることになる︒

( 28 )  

すなわち︑在職中の被用者が︑退職後に行う競業に利用する目的で︑使用者の顧客リストや秘密の製法などの機密情

( 29 )

3 0 )

 

報・営業秘密が記載された資料を持ち出したりコピーすることはもちろんのこと︑それらを意図的に記憶することも

誠実義務違反となる︵後述②伺

C

を参照のこと︶︒雇用契約終了後におけるこれらの情報の利用・開示につき︑元の

使用者に差止請求が認められる︒

全ての雇用契約において︑被用者がその在職中に知ることとなった職業上の秘密もしくは営業秘密または機密情報

( p r o

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l)

者はまた︑在職中もしくは雇用の結果として︑信認に基づいて

( i n

c o n f

i d e n

c e )

得たいかなる情報も使用者に損害を

( 31 )  

与えるような形で

( t o

t h

e   d

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r i

m e

n t

  o f  

h i s   e

m p

l o

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r )

利用しないことを黙示的に約束する︒このような機密情報に 関法

1 0

 

(12)

ついての守秘義務は︑古くから判例によって被用者の誠実義務として認められてきたところではあるが︑被用者の在

( 32 )

3 3 )

 

職中における機密情報の開示・不正利用が裁判で争われることは極めてまれである︒

B e

n t

s B

r e

w e

r y

事件は︑その数

少ない判例の︱つである︒これは︑酒場

( o

, l n

i s e n

c e d   h o

u s

e )

労働者の組合が労働条件改善のため︑酒場のマネー

ジャーに質問表を送付したが︑その中に︑酒場の一週間の売上と従業員の賃金総額

( t o t

a l w

a g

e s

  b i

l l )

に関する質問

が含まれていた︑という事案である︒

L y

n s

k e

y 判事は︑右情報はマネージャーが在職中に雇用に基づいて得た情報

であり︑かつ︑使用者が開示されたくないと考えるという意味で機密性を有するから︑その開示は守秘義務違反とな

︵ 訊︶

り︑右質問への回答を要求することは契約違反の誘引となる︑と判示した︒

被用者が在職中に雇用に基づいて得た情報のうち︑機密情報または営業秘密が黙示の義務としての守秘義務の対象

( 35 )  

と な

る ︒

T h o m M 8

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l 事件において

M e

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y 副大法官は︑機密情報または営業秘密であるための要件として︑

①情報の開示が有害となる

( i n j

u r i o

u s )

か︑ライバルに有利となると保有者が信じていること︑②情報が機密である

( c o n

f i d e

n t i a

l )

と保有者が信じていること︑③以上の保有者の確信が合理的であること︑および︑④情報は当該産業

( 36 )  

または取引の慣行

( u

s a

g e

a n

d   p

r a c t

i c e s

)

に照らして判断されなければならないこと︑以上の四つを提案した︒そし

( 3 7 )  

て︑当該事案において︑仕入先名︑仕入先との契約内容︑交渉仕入れ値︑顧客の要望に関する情報︑交渉販売価格︑

使用者のサンプル︑使用者の現時の売れ筋商品などは︑この意味での機密情報にあたると判示した︒もっとも︑退職

後の守秘義務とは異なり︑使用者の利益のために誠実に労務を提供すべき義務から導かれる在職中の被用者の守秘義

( 38 )  

務に関しては︑その対象となる機密情報を厳密に定義することにさほどの重要性は認められないであろう︒退職後の

守秘義務にあっては︑退職従業員がその在職中に獲得した彼の技術・知識・経験の自由な利用を妨げることのないよ

退 職

従 業

員 の

守 秘

義 務

・ 競

業 避

止 義

務 曰

︵ 八

七 五

(13)

伺退職後の営業秘密についての守秘義務

︵ な

お ︑

前 述

① い

も 参

照 ︶

うに︑その範囲を慎重に確定する必要があるが︵後述②伺

C

を参照︶︑在職中の被用者が誠実義務として負う守秘義

務に関してはそのような配慮は必要でなく︑被用者が在職中に雇用に基づいて得た情報は︑たとえそれが退職後の守

秘義務に服しない被用者の一般的な技術

(g en er al s k i l l )  

や知識

(s to ck of   kn ow le dg e)

の一部であるとしても︑そ

( 39 )  

の在職中︑守秘義務の対象となることが認められているからである︒

Me ga rr

y

副大法官も︑上記の四要件のいずれ

( 40 )  

かを欠く情報も機密情報として保護されるかもしれない︑と述べる︒

被用者がこのような機密情報を開示•利用することが、差止によって禁じられる。被用者から守秘義務に反して機

a )  

密情報の開示を受けた第三者もまた︑当該情報の利用を禁じられる︒

② 退 職 後 の 誠 実 義 務 い 退 職 後 の 競 業

被用者が在職中に黙示の義務として負っていた競業避止義務は︑雇用契約の終了とともに消滅し︑被用者は︑その

退職後は︑それを禁じる明示の特約︵後述 2 を参照︶がない限り︑前使用者と自由に競業することができ︑また︑前

( 42 )  

使用者の顧客を相手に取引することも許される︒ただし︑次に述べる退職後の営業秘密についての守秘義務による制

約を受ける

競業避止義務とは異なり︑被用者の機密情報に関する秘密保持義務は︑退職後の守秘義務又は競業避止義務を定め

( 4 3 )  

る特約が存在しない場合でも︑退職後もなお一定の範囲で存続することが認められている︒実際︑企業の効率的な組

織化と経営は︑使用者と被用者の間に信託

( tr u s t)

関 法 第 四 七 巻 第 六 号

の要素の存する場合にはじめて︑達成することが可能となるの

︵ 八

七 六

(14)

であるが︑法がこのような信託の要素を︑その違反に対して法的制裁を加えることによって︑最終的に担保してやる

のでなければ︑使用者は極秘の技術に関する職務を被用者に任せることはできないであろう︒違反に対する法的な制

( 44 )  

裁がなければ︑使用者が講じうる自己防衛手段とその実効性には限界があるからである︒他方で︑被用者は︑雇用契

約の終了により︑使用者の利益のために誠実に労務を提供すべき義務から解放され︑在職中に獲得した彼の技術や経

験を自分自身の利益のために利用できることが認められなければならない︒それ故︑退職した被用者の守秘義務は︑

( 4 5 )  

在職中のそれと比べて︑より制限された範囲でのみ認められる︒控訴院は︑

Fa cc en

Ch ic ke

n

事件で︑従来の判例

の見解をまとめて︑退職後の被用者が守秘義務を負う機密情報の範囲は︑営業秘密かそれと同程度に高度の機密情報

( 46 )

4 7

)  

に限定されることを明確に判示した︒その後の判決例においても同趣旨の判示が繰り返されており︑確定した判例法

理 で

あ る

被用者が︑雇用契約の終了にも拘わらず︑その在職中に雇用に基づいて得た営業秘密に関して守秘義務を負うこと

( 48 )  

の法的構成としては︑いくつかの見解が主張されているが︑本稿の考察にとっては︑この義務への違反に対して使用

( 49 )  

者は﹁信認義務違反

(b re ac oh f  c on fi de nc e)

﹂を理由とする救済を求めることができることを指摘すれば足りよう︒

一般に︑信認義務違反を理由とする訴えが認められるためには︑次の三つの要件が必要である︒①その情報が機密性

(n ec es sa ry u   q al it y  o

f confidence)~

右 ? ナ

9

J

とRその憚

E

報 が

m 認義務を課すような状況で開示されたこと︑③そ

( 50 )  

の情報の無権限の利用・開示が情報を開示した者に損害をもたらすこと︑である︒さらに︑

Fa cc en

Ch ic

gk

事件

で控訴院は︑雇用の場面において︑被用者が退職後も黙示の守秘義務を負うか否かを判断するに際しては︑ m 当該雇

用の性質︑り情報それ自体の性質︑団使用者が情報の機密性を被用者に印象づけたか

(i mp re ss )

お よ

び ︑

3

その情

退 職

従 業

員 の

守 秘

義 務

・ 競

業 避

止 義

H

︵ 八

七 七

(15)

G r

e e

n e

卿︵記録長官︶は︑

S a

l t

m §

事件で︑機密性を﹁当該情報が公の財産

( p u b

l i c

p r o p

e r t y

)

で な

く ︑

か つ

( 5 2 )  

公知

( p u b

l i c

k n

o w

l e

d g

e )

でないこと﹂と定義した︒公知の情報を第三者に開示することが信認義務違反となること

( 5 3 )  

は な

い ︒

M g t a

事件で︑貴族院は︑使用者が機械の製造に関して営業秘密を有していても︑自らの特許申請により︑ d

それが細部にわたって公表されたときには︑使用者は︑元被用者が公知となった情報を彼の新たな使用者に開示する

ことにつき︑その差止を求めることはできないと判示した︒公に入手できない情報の開示によって︑開示をした者は

開示された者を信認したといえるのであり︑それ故︑情報が公知でないことは︑信認義務違反を理由とする訴えが認

( 54 )  

められるための本質的要件である︒

もっとも︑このことは︑公に入手可能な情報だけからなる情報については機密性が認められないことを意味するも

の で

は な

い ︒

G r

e e

n e

卿は︑前記説示に続けて︑﹁誰でも利用可能なデータ

性が認められることも十分にありうる︒この場合︑その情報の作成者がその頭脳を用いた結果︑それと同じ過程を経

( 55 )  

なければ作成できないような情報を作成したという事実が︑その情報に機密性を与えるのである﹂と述べる︒この意

( 57 )  

味での機密性の認められる情報は︑市販製品のリバース・エンジニアリングにより得られる情報や顧客リストがその

( 58 )  

典型例であろう︒

T e

m a

p i

n 事件で

R o

x b

u r

g h

判 事

は ︑

い わ

ゆ る

^ ^

s p

r i

n g

b o

a r

d "

の法理を用いて︑情報が公の資料

( p u b

l i c  

s o u r

c e )  

機 密 性

報を被用者が自由に利用できる他の情報と容易に分離する

( 51 )  

判 示

し た

法 第 四 七 巻 第 六 号

( m a t

e r i a

l s )  

に加工を加えた結果︑機密

( i s o

l a t e

)

ことができるか︑を考慮しなければならないと

から入手可能となった後にも︑情報の開示を受けた者は信認義務を負い︑その利用が禁じられると

(16)

一 五

判示した︒﹁信認に基づいて情報を得た者は︑信認に基づいて情報を開示した者に損害をもたらすような活動のため

sp ri ng bo ar

d

として︑その情報を用いることは許されないのであり︑たとえその全容

( a l l th e  f e at u r es )

が公表さ

れたとしても︑あるいは︑その検査

(i ns pe ct io n)

により探知する

sp ri ng bo ar

d

2

続する﹂︑すなわち︑その場合でも︑﹁機密情報の開示を受けた者は他の者よりもスタートにおいて

はるかに有利な地位

(l on gs t a rt )

﹂を有しており︑﹁そのような情報の開示を受けた者が不公正なスタートをしない

ことを確保するために︑その者は競争において特別な禁止

( sp e c ia l d is a b il i t y)

に服しなければならない﹂というの

( 59 )

6 0

)  

である︒この考えは︑

Se ag er

事件で控訴院によって支持された︒

De nn in

g

卿︵記録長官︶は︑同事件で︑このよう

な場合︑信認に基づき情報の開示を受けた者は﹁公の資料にあたって情報を得るべきであり︑そうするよりも有利な

地位を認められるべきではない︒その者が信認に基づいて得た情報を利用することにより︑他者より先んじることは

( 61 )  

許されない﹂と述べた︒

しかし︑情報の開示を受けた者は︑その情報が公知となった場合でも︑信認目的外の利用が一切禁止されるという

( 62 )  

のでは︑その者はかえって他者よりも不利な立場に置かれることになるし︑

Mu st ad

判決と抵触することにもなろう︒

Sp ri ng bo ar

の法理は︑前述した

d

Gr ee ne

卿の説示からも明らかなように︑情報が作成者の頭脳と労カ・費用をかけ

て作成された結果︑他人がそれと同じ過程を経るのでなければその情報を得ることができないことに︑情報の機密性

を認めるものである︒このような情報作成のために要する過程こそが機密性の本質なのである︒情報の開示を受けた

者は︑このような過程を経るために必要な時間︑労力︑費用を省くことができる点に︑不公正な有利さが認められる

の で あ る ︒ そ れ 故 ︑

(M gt ad

事件のように︶情報それ自体が公知となり︑このような過程を経ることなくその情報

退 職

従 業

員 の

守 秘

義 務

・ 競

業 避

止 義

務 日

︵ 八

七 九

( as c e rt a i n)

ことが可能であるとしても︑なお

(17)

を得ることが可能となった場合には︑機密性は否定され︑開示を受けた者は信認義務から解放されることが認められ

紅︒他方︑﹁たとえその全容が公表されたとしても︑あるいは︑その検査により探知することが可能であるとしても﹂︑

情報を得るために上述の過程を経ることが必要であれば︑その限りで機密性が認められる︒そして︑その限りで

( 6 4 )

6 5

)   sp ri ng bo ar

d

の法理が適用されるのである︒

Te na pi

n

事件は後者の事案であった︒もっとも︑情報が完全に公知と

なったか︑それとも︑なお部分的に機密性が存続しているかは程度問題であり︑当該事案における具体的事情を総合

( 66 )  

的に考慮して判断される︒その際︑公知の資料から当該情報を突き止めるために要する時間・労カ・費用が考慮され

( 6 7 )  

る こ

と に

な ろ

う ︒

Sp ri ng bo ar

d

の法理は︑他の者が自由に公知の資料から当該情報を探知して利用することができるにも拘わらず︑

情報の開示を受けた者だけは当該情報が完全に公知となるまで信認目的外の利用が禁じられるという﹁特別な禁止﹂

( 6 8 )  

を課すものである︒これに対して︑

Me ga rr

y

副大法官は

Co co

事件で︑情報の機密性が

sp ri ng bo ar

d

にある場合︑信

認義務の﹁本質は︑情報の利用を完全に禁止することではなく︑むしろ︑対価を支払うことなく利用することの禁止

にあるように思われる﹂と疑問を述べ︑事業

(i nd us tr ay nd   co mm er ce ) 

関 法 第 四 七 巻 第 六 号

0 )

で用いられる情報については︑差止ではな

く金銭賠償を認めることが合理的であり︑﹁信認に基づく情報の開示の成果を︑開示した者に対する金銭的補償に

( 69 )  

よって計ることが可能な事案では﹂︑暫定的差止は認められるぺきではないと判示した︒

Me ga rr

y

副 大 法 官 の 批 判 は ︑

( 70 )  

情報の開示を受けた者がその情報に加工を加えて新たな情報を作成した場合を想定してのものであり︑

一 六

一 般

論 と

し て

企業の有する機密情報に

sp ri ng bo ar

d

の法理の適用を否定して︑差止ではなく金銭賠償が認められるべきであると解

( 71 )  

することは適切でなかろう︒

(18)

一 七

しかし︑右疑問には︑

sp ri ng bo ar d

の場合の適切な救済は何かという重大な問題提起が含まれている︒

Sp ri ng

bo ar

d

の法理により︑情報の開示を受けた者に特別の禁止が課せられる根拠は︑その者が当該情報の探知のために必

要な時間・労カ・費用を節約できることにある︒それ故︑公知の資料から情報を探知することが比較的容易な場合に

( 72 )  

は︑差止ではなく金銭賠償を認めることが適切な場合があろう︒すなわち︑情報を探知するために要する時間・労

( 73 )  

カ・費用は︑機密性の有無のみならず︑与えられる救済方法を判断するに際しても重要な意味を有するのである︒ま

た︑信認義務がいつまで存続するかも問題となる︒これについて

De nn in

g

卿 ︵ 記 録 長 官 ︶ は ︑

Po tt er s , B al lo ti ni

件で傍論ではあるが︑﹁そのような情報を他者よりも有利なスタートを得るための

sp ri ng bo ar

d

として利用すること

は許されないが︑そうはいっても

sp ri ng bo ar

d

は永遠に続くわけではない︒開示を受けた者が情報を利用する場合︑

事情の変化により

(s mo uc h  h as   ha pp en ed

)

︑もはや︑その者が情報の利用を禁止されなくなる時が来るであろう︒

( 7 4 ) ( 7 5 )  

これは別の困難な問題である﹂と述ぺた︒その後︑控訴院は︑

Ro ge Br ul li va nt

事 件

で ︑

sp ri ng bo ar d

場 合

に は

それによる不正な優位が継続すると合理的に考えられる期間を超えるような差止を認めることは許されないと判示し

( 76 )  

て︑この問題に対する態度を明らかにした︒

Sp ri ng bo ar

d

の場合︑差止期間は比較的短いものとなるであろうから︑

この控訴院判決の意味するところは︑紛争は実際上︑暫定的差止が認められるか否かの段階で決着がつけられ︑事実

審にまで紛争が持ち越されることはないであろうことにある︒この問題については︑後述 3 で あ ら た め て 考 察 す る ︒

機密性を有する情報のうち︑退職従業員に黙示の守秘義務が認められるのは︑営業秘密またはそれと同程度に高度

の機密性を有する情報︵以下では︑両者を含めて﹁営業秘密﹂という語を用いる︶に限られる

(F ac ce

ミ l a

Ch ic ke n 

判決の S の要件︶︒もっとも︑イギリス法において︑営業秘密とはどのような機密情報であるのかは明確に定義され

退 職

従 業

員 の

守 秘

義 務

・ 競

業 避

止 義

務 日

(19)

( 7 関法 7 ) 

ていない︒ある機密情報が営業秘密かどうかは︑実際上︑被用者の一般的な技術・知識との区別をめぐって問題とな

るので︑項をあらためて考察する

信認義務を課すような状況

一般に︑情報が︑明示的にせよ黙示的にせよ︑特定の目的のために開示された場合に︑信認義務が生じると解され

( 7 8 )  

ている︒情報を開示する特定の目的が︑開示する者と開示を受ける者との間における信認関係の範囲を画し︑開示を

( 79 )  

受けた者に︑その情報をその特定の目的以外のために利用しない義務を課すのである︒情報の開示に際して︑開示の

目的が明示されるか︑または︑機密情報であることが明示される場合に︑この要件が満たされることに問題はないで

あろう︒雇用の場面においてこのような明示は︑通常︑守秘義務または競業避止義務を定める特約によってなされる

で あ

ろ う

開示の目的が明示されない場合︑開示に際しての四囲の状況を調べる必要が生じる︒その際︑

C o

e 0 事件で

M e

g a

r r

y

副大法官が提唱した︑﹁当該情報の開示を受けた者の立場に立って合理的な人が︑合理的な根拠に基づいて︑当該情

( 80 )  

報が信認に基づいて開示されたこと︑したがって︑衡平法上の信認義務が課されることを認識できたか否か﹂という

( 81 )  

基準が採用される︒もっとも︑被用者の在職中の守秘義務については︑この認定に際して困難な問題が生じることは

ない︒雇用関係に基づいて機密の情報が開示された事実だけで︑裁判所は︑在職中の被用者に黙示の守秘義務を課す

( 82 )  

か ら

で あ

る ︒

ただし︑機密であると主張する情報の秘密保持に対する開示者の態度によっては︑開示を受ける者が当該情報が信

( 83 )  

認に基づいて開示されたことを合理的に認識できなかったとして︑信認義務が否定される場合がありうる︒例えば︑ b 

第四七巻

第六号

︵ 後

C)

参照

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