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超高齢者の健康長寿に資する因子の研究

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超高齢者の健康長寿に資する因子の研究

-精神身体的健康と口腔状態との関わり-

日本大学大学院歯学研究科歯学専攻 福井 雄介

(指導:祇園白信仁教授,小宮山一雄教授,飯沼利光専任講師,岩瀬孝志専任講師)

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緒 言

我が国における平均寿命は,内閣府の平成 25 年度版高齢社会白書によると男性が

79.44 年,女性が 85.90 年であり,世界に類をみない超高齢社会を迎えており,この数

値はさらに延伸すると考えられている1)。一方,要介護認定者数も平成22年度が373.1 万人であったが,平成23年度で390.6万人と増加が認められた2)。また,要介護度認定 者の人口に占める割合は74歳以下の高齢者が3.0%であるのに対して75 歳以上の高齢

者が22.1%であり,75歳以上の高齢者が74歳以下の高齢者と比較して一段と高いこと

が報告されている3)。このように我が国では平均寿命の延伸とともに,今後も介護を必 要とする超高齢者数が増加することが予想される。特に,超高齢者において身体および 口腔機能の低下は,余命の損失や日常生活の自立を脅かす重要な問題とされている4,5)。 そこで,本研究は,東京に在住する自立した85歳以上の超高齢者を対象とした健康調 査を行い,長寿を得る要件は何かを歯学,医学,心理学および疫学などの観点から解析 した。

口腔機能を維持する因子の一つとして現在歯数および最大咬合力などの他に,唾液中 に含まれる分泌型免疫グロブリンA (sIgA) とコルチゾールに着目した。sIgAは感染症 に対する一次防御として重要な役割を果たしており6),感染の原因となる病原体やウイ ルスなどの体内侵入を阻止し,病原性細菌の産生する毒素や酵素を中和することで生体 を防御することが知られている7)。さらに,日常生活の出来事やストレスといった心理 社会的要因8-11),および疲労や身体運動といった身体的要因 12-14)により変動するとも報 告されている。一方,コルチゾールはストレスに直面し視床下部-脳下垂体-副腎系が活 性化されることにより,副腎皮質から血液中に分泌され唾液中へ移行することが知られ ており,心理社会的要因により変動すると報告されている15-17)。また,近年,身体的要 因によっても変動することも報告されている18)。しかし,これらsIgAおよびコルチゾ

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ールと身体的要因の関連性についての検討は,いずれも85歳未満を対象として行われ た報告であり,85 歳以上の超高齢者を対象者としたデータは文献を渉猟した限りみら れない。

そこで,本研究では,本邦では初めてとなる前述の健康で長寿を得る因子の調査と解 析に加えて,健康で自立した生活を送る85歳以上の超高齢者のsIgAおよびコルチゾー ルを測定し,身体機能に関する諸因子と比較することで,精神身体的健康と口腔状態と の関連性について検討を行った。

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3

材料および方法

1.被験者

被験者は,東京都港区,渋谷区および新宿区の住民基本台帳より無作為に抽出した 85歳以上の超高齢者(984名)から,本研究の主旨と内容,患者の権利および個人情報 保護などについて説明し,健康調査への協力が得られ,唾液中のsIgA とコルチゾール 濃度を測定した147名(男性63名,女性84名,年齢85 ~ 102歳,平均年齢88.3 ± 2.6 歳)である。なお,アンケート未記入者および調査不可能者は,各項目の測定対象者か ら除外した。

本研究は日本大学歯学部(倫許 2003-20)および慶応義塾大学 (NO.19-47) 倫理委員 会による承認を得て行った。また,UMIN-CTR (ID : UMIN000001842) としてUMIN臨 床試験レジストリー (CTR) に登録を行った。

2. 身体的および精神的健康状態の調査 1)口腔状態に関する調査

口腔状態に関する調査 (oral health) は現在歯数,義歯の有無,歯垢・歯石の有無 19) および最大咬合力 20)を調査した。最大咬合力は簡易型咬合力計測装置(Occlusal Force-Meter GM10,長野計器,東京)を用いて第一大臼歯相当部で測定し,義歯装着者 には義歯を装着して測定を行った。さらに,面接によるアンケートによりGeriatric Oral

Health Assessment Index (GOHAI) および咀嚼能力を調査した。咀嚼能力の評価は山本の

総義歯咀嚼能率判定表21)から15種類の食品を抽出した食物摂取アンケートにて行ない,

被験者は食べられる,食べるのに努力や工夫を要する,食べられないの3段階で評価し,

前者2 つを摂取可能食品として合計食品数で評価した。なお,義歯は装着している者,

歯垢・歯石は付着が認められた者の該当する人数およびその調査項目における被験者数 に対する割合を求めた。

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4 2)身体能力に関する調査

身体能力 (physical performance) の評価項目には,握力および下肢筋機能活動を用い た。握力は,利き手の握力を携帯型握力計(Tanita 6103,タニタ,東京)を用い測定し た。下肢筋機能活動の測定は,高齢者の運動機能評価で広く用いられている歩行速度テ スト (timed Up & Go test) 22),開眼片足立ち保持時間テスト (one-leg standing test) 23)およ び椅子立ち座りテスト (chair standing test) を行った。timed Up & Go testは,椅子から立 ち上がり歩いて3 m先の目印をターンし,再び歩いて椅子に座るまでに要した時間を計 測した。one-leg standing testは目を開けた状態で利き足のみで立ち,その持続時間を計 測した。また,chair standing testは30秒間に,椅子を立ち座る動作の回数を計測した。

3)面接による調査

対面にて,調査対象者の基本的属性 (sociodemographic) として居住形態,教育歴,飲 酒の有無および喫煙の有無を,精神機能 (well-being) の評価は,主観的幸福感の指標と して用いられるPhiladelphia Geriatric Center Morale Scale (PGC Morale Scale) 24),および精 神健康状態の指標であるWorld Health Organization-5 Well-being Index (WHO-5) 25)を用い た。PGC Morale Scaleは心理的動揺,孤独感,および老いに対する気持ちの3つの項目 について調査を行ない,WHO-5 は日常生活における気分,過ごし方および休養状態に ついて調査を行った。認知機能(functional status)は,Mini-Mental State Examination

(MMSE) 26)を用い,記憶力,計算力,言語的能力および図形的能力等の項目について調

査を行った。さらに,日常生活の中の食事や排泄,整容,移動,入浴等の日常生活を営 む上で必要な行為および行動の指標である日常生活活動度(activities of daily living;

ADL) Barthel index27)にて評価した。買い物,洗濯,掃除等の家事全般や,金銭管理,

服薬管理,外出して乗り物に乗ること等の日常生活を送る上で必要な手段的日常生活動 作 (instrumental activity of daily living;IADL)を Lawton scale28)を使用して評価した。な お,居住形態は独居であること,教育歴は高校卒業以上であること,飲酒・喫煙は習慣

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がある者,MMSEは正常と判断される24点に満たない者の該当する人数およびその調 査項目における被験者数に対する割合を求めた。

3.唾液の採取

唾液の採取は,被験者に3分間口腔内に唾液を貯留させ,その全唾液を50 mlプラス チックテストチューブに喀出させる吐唾法で行った。sIgA 濃度およびコルチゾール濃 度の日内変動を考慮して29,30),採取は午前 10時から午後2時の間に行った。採取した

唾液は1700 × g,4℃で20分間遠心(ユニバーサル冷却遠心機5910,久保田製作所,東

京)した後,唾液量の容積を計測し測定まで-20℃で保存した。

4.sIgA濃度およびsIgA分泌速度の測定

唾液中のsIgA濃度の測定は,酵素標識免疫測定法(ELISA法)を用いた。即ち,96 ウェルマイクロプレート(ELISA Plate 96well/Round Bottom,イワキ,東京)の各ウェ ルに0.05 M carbonate buffer (PH9.6) にて2,000倍に希釈したanti-human secretary IgA(医 学生物学研究所,名古屋)をそれぞれ50 μlずつ加え,4℃で一晩固着させた。その後,

各ウェルをphosphate buffered saline-1% Tween 20 (PBS-t) 5回洗浄し,各ウェルに1%

bovine serum albumin/phosphate buffered saline (1%BSA/PBS) 200 μl加え,1時間非特異 的吸着のブロッキングを行った。ブロッキング後,各ウェルをPBS-t5回洗浄し,各 濃度のsIgA標準液(標準ヒトsIgA,医学生物学研究所,名古屋)と1%BSA/PBS3,000 倍に希釈した唾液検体をマイクロプレートの各ウェルに50 μl加え,室温で1時間反応 させた。その後,再び各ウェルをPBS-t5回洗浄し,horseradish peroxidase (HRP) anti

human IgA(ダコ・ジャパン,東京)を 1%BSA/PBS500倍に希釈した溶液を 50 μl

加え,室温で1時間反応させた。ウェルをPBS-t5回洗浄後,酵素反応溶液 (Sure Blue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate,Kirkegaard & Perry Laboratories,Gaithersburg) を各ウェルに50 μl加え,30分間反応させ,1 N塩酸を50 μl加えて反応を停止させた。

吸光度はplate reader (Microplate Reader,Bio-Rad Laboratories,Hercules) を用いて

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6

450 nmの波長で測定し,sIgA濃度を求めた。さらに,sIgA濃度 (μg/ml) と唾液分泌量

(ml/min) からsIgA分泌速度 (μg/min) を算出した。

5.コルチゾール濃度の測定

唾液中のコルチゾール濃度の測定には 96 ウェルマイクロプレートの各ウェルに予め 抗 コ ル チ ゾ ー ル 抗 体 が 固 着 さ れ て い る Salivary cortisol enzyme immunoassay kit (Salimetrics Europe,Suffolk) を用い,ELISA法にて測定を行った。即ち,96ウェルマイ クロプレートの各ウェルに3.00,1.00,0.33,0.11,0.037および0.012 μg/dlのスタンダ ードおよび唾液検体を25 μl入れ,さらに添付の希釈用液で1,600倍に希釈した200 μlHRP標識cortisolを各ウェルに200 μl加え,700 rpm,5分間振盪 (Vortex Genie2,

Scientific Industries,New York) を行ったのち室温で55分間反応させた。反応後,各ウ

ェルをPBS-t5回洗浄し,TMBを200 μl加え,上記と同様に振盪を行ない室温で25

分間反応させ,次いで添付の停止液を 50 μl 加え反応を停止させた。吸光度は plate reader (Microplate Reader,Bio-Rad Laboratories,Hercules) を用いて450 nmの波長 で測定し,コルチゾール濃度を求めた。

6.統計分析

各調査項目は平均値および標準偏差 (SD) で示した。

統計処理には,統計用解析ソフト (SPSS 19.0,SPSS,Chicago) を用いた。唾液分泌 量,sIgA 濃度,sIgA 分泌速度およびコルチゾール濃度における性差については

Mann-Whitney test を用いて分析した。また,sIgA分泌速度およびコルチゾール濃度と

基 本 的属 性, 身体 能力 お よ び口 腔状 態 の 各調査 項 目と の相 関を 検討す る ため に Spearman's rank correlation coefficientを求めた。なお,統計処理は危険率5%以下を有意 と判定した。

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7

結 果

被験者の基本的属性,精神機能,認知機能および日常生活における活動指標,身体能 力と口腔状態における各調査結果を第 1 表に示した。独居率は男性が 23.0%,女性が 46.3%と女性の独居率が高かった。精神機能に関する調査では精神健康状態の指標であWHO-5は男性が3から25(平均18.8 ± 4.8),女性が0から25(平均18.0 ± 5.9)と 男女ほぼ同程度であった。しかし,主観的幸福感の指標であるPGC Morale Scaleは男性 が2から17(平均12.2 ± 3.3),女性が1から17(平均11.3 ± 3.6)と男性がやや高い傾 向を示した。一方,日常生活における活動に関する調査ではADLは男性が60から100

(平均96.6 ± 8.1),女性が30から100(平均94.6 ± 11.8)でIADLは男性が0から5(平

4.4 ± 1.1),女性が0から5(平均4.3 ± 1.3)と男女ほぼ同程度であった。身体能力に

関する調査では握力は男性が11.3から33.8 kg(平均24.7 ± 4.9 kg),女性が7.3から24.5 kg(平均16.3 ± 3.8 kg)と男性が高かった。また,timed Up & Go testは男性が6.9から 29.6秒(平均14.1 ± 5.4秒),女性が8.5から65.1秒(平均16.9 ± 8.3秒),one-leg standing testは男性が1.0から60.6秒(平均7.8 ± 9.9秒),女性が0.0から43.2秒(平均6.4 ± 7.4 秒)であり,chair standing testは男性が0から39回(平均11.2 ± 6.0回),女性が0から

22回(平均9.5 ± 3.9秒)であることから,下肢筋機能活動の能力も男性が高い値を示

した。

口腔状態に関する調査では摂取可能食品数は男性が8から15品目(平均13.7 ± 1.9品 目),女性が9から15品目(平均13.9 ± 1.7品目)とほぼ同等であった。現在歯数は男 性が0から28本(平均10.1 ± 9.4本),女性が0から25本(平均9.9 ± 9.6本)であっ た。最大咬合力は男性が1.7から74.3 kgf(平均17.7 ± 14.1 kgf),女性が1.7から47.9 kgf

(平均14.7 ± 12.8 kgf)であった。

唾液分泌量は男性が0.05から0.92 ml/min(平均0.46 ± 0.23 ml/min),女性が0.03から

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8

0.89 ml/min(平均0.35 ± 0.20 ml/min)であった。sIgA濃度は男性が19.27から1497.55 μg/ml(平均684.98 ± 362.76 μg/ml),女性が34.40から1612.96 μg/ml(平均648.88 ± 364.02 μg/ml)であった。

sIgA分泌速度は男性が8.91から806.98 μg/min(平均306.58 ± 185.64 μg/min),女性が 12.38から677.93 μg/min(平均219.00 ± 170.27 μg/min)であった。また,コルチゾール 濃度は男性が0.03から0.55 μg/dl(平均0.21 ± 0.12 μg/dl),女性が0.03から0.48 μg/dl

(平均0.16 ± 0.10 μg/dl)であった。

唾液分泌量,sIgA 濃度,sIgA 分泌速度およびコルチゾール濃度における性差を比較 した結果を第 1 図に示した。唾液分泌量,sIgA 分泌速度およびコルチゾール濃度はそ

れぞれのp値が0.005,0.003および0.010で男性が女性と比較して有意に高い値を示し

た。しかし,sIgA濃度はp値が0.599で両者に有意な差は認められなかった。

sIgA分泌速度と第1表の基本的属性,身体能力および口腔状態の各項目との相関を検 討した結果を第2表に示した。身体能力に関する調査ではsIgA分泌速度と握力との間 に男女ともに正の相関を示す傾向が認められた。また,sIgA分泌速度とtimed Up & Go testとの間に男女ともに負の相関を示す傾向が認められた。さらに男性はsIgA分泌速度

chair standing testとの間に正の相関を示す傾向が認められた。口腔状態に関する調査

ではsIgA分泌速度と唾液分泌量,およびsIgA分泌速度とsIgA濃度との間に男女とも に有意な正の相関が認められた。

コルチゾール濃度と第1表の基本的属性,身体能力および口腔状態の各項目との相関 を検討した結果を第3表に示した。身体機能に関する調査では女性はコルチゾール濃度

one-leg standing testとの間に有意な負の相関が認められ,男性は負の相関を示す傾向

が認められた。口腔状態に関する調査ではコルチゾール濃度と唾液分泌量との間に女性 は有意な負の相関が認められ,男性においても有意差はないが負の相関を示す傾向が認 められた。また,コルチゾール濃度とsIgA 濃度との間に男性は有意な正の相関が認め

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られ,女性は有意差はないが正の相関を示す傾向が認められた。

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考 察

平成22年度の我が国における65歳以上の独居率は内閣府の平成25年版高齢社会白 書によれば男性が11.1%,女性が20.3%である31)。本研究における被験者は男性が23.0%,

女性が46.3%であり,男女ともに白書に報告された独居率より高かった。この結果は配

偶者の死亡や核家族化に伴う大都市における独居率の増加によると考えられた。超高齢 者の精神機能の評価について,本研究では,WHO-5の平均値は男性が18.8 ± 4.8,女性

18.0 ± 5.9と,過去の報告と比較しても高い値を示した。岩佐らが東京都板橋区に在

住の64 ~ 89歳までの高齢者から無作為に抽出した1,098名を対象に行った報告では,

WHO-5の調査を行ない,その平均値は80歳以上の男性が15.3 ± 6.9,女性が15.9 ± 6.1

であった32)。高齢者のもう一つの精神機能評価であるPGC Morale Scaleは,これまでに 渉猟した限り2つの報告がある。岩佐らが東京都板橋区に在住の50 ~ 74歳までの高齢 者から無作為に抽出した2,447名を対象に行ない,その平均値は男性が12.3 ± 3.2,女性

11.9 ± 3.5であった報告33)と,長田らが山梨県塩山市に在住の75歳以上の外出可能な

233名を対象にし,その平均値は男性が13.1 ± 2.7,女性が12.4 ± 3.9であったとの報告

34)がある。本研究では,これら過去の報告と比較してPGC Morale Scaleに大きな相違は 認められなかった。したがって対象とした85歳以上の超高齢者の精神機能は85歳未満 の年代と比較して同等もしくは高く,WHO-5およびPGC Morale Scaleの結果から精神 機能が充実しており,幸福感が高いことが超高齢者が健康で自立した生活を送る大きな 要因の一つと考えられた。

身体能力は超高齢者が健康で自立した生活を送るためには重要な因子である。しかし,

高齢化に伴い身体能力が低下することは避け得ない。そこで超高齢者の握力,timed Up

& Go test,one-leg standing testなどを調査した。被験者におけるこれらの項目は,都市 近郊の在住者で日常生活動作が自立している,介護保険未利用の175名(男性57名,

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平均年齢70.9歳および女性118名,平均年齢72.8歳)を対象に評価した広田らの報告

35)と比べいずれの項目も低下していた。この違いは,被験者の年齢差もあるが,都市生 活者と近郊生活者との日常生活での身体活動の差によると考えられた。そこでADLを 調査したところ,本研究における被験者は, 80歳代の在宅高齢者を調査した千坂らの 報告36)と比べてほぼ同程度であった。さらに,IADLは高値を示した。このことは,超 高齢者では身体能力は加齢に伴い低下するが,日常生活に必要な最低限の身体能力を維 持する者は健康で自立した生活を送ることが出来ることを示している。

高齢者の口腔健康状態の評価について,本研究では現在歯数,咬合力,食品摂取およ び唾液に注目して調査した。被験者の現在歯数の平均値は男性が10.1 ± 9.4本,女性が

9.9 ± 9.6本で,平成23年度厚生労働省の歯科疾患実態調査37)における85歳以上の現在

歯数;男性が9.2本,女性が8.0本と比べほぼ同数であった。

また,本研究の第一大臼歯部相当部における最大咬合力の平均値は片顎が義歯の男性 は17.6 ± 18.2 kgf,女性は14.4 ± 8.5 kgfで,両顎が義歯の男性は14.4 ± 7.8 kgf,女性は

11.4 ± 6.0 kgfであり,片顎でも自身の歯を持つ者が高い咬合力を示した。岩舩らは76

歳の321名を対象に本研究と同様な方法で測定したところ,男女別の記載はないが片顎 が義歯の場合には平均値が15.2 ± 12.3 kgf,両顎が義歯の場合には平均値が9.7 ± 7.3 kgf であったと報告しており38)本研究と同様の傾向であった。また,本研究での15種類の 食品に関する摂取可能食品の聞き取り調査では,ほぼ全ての食品を摂取することが可能 だった。これらのことから,本研究の被験者の現在歯数は歯科疾患実態調査の結果とほ ぼ同数であるが,最大咬合力は76歳と比較して大きく,多種類の食品を摂取すること ができることから,良好な咀嚼機能が超高齢者の栄養状態および健康で自立した生活に 重要であることが示された。

超高齢者の唾液を対象に検索した報告は,文献を渉猟した限りみられず,本研究が初 めてである。Evansらは15歳,35歳および55歳の各年齢計2,053例を調査し,唾液分

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泌量はそれぞれ15歳で0.88 ml/min,35歳で0.72 ml/min,55歳で0.54 ml/minで,加齢 とともに分泌量は減少することを報告している39)。本研究における唾液分泌量は男性が 0.05から0.92 ml/min(平均0.46 ± 0.23 ml/min),女性が0.03から0.89 ml/min(平均0.35

± 0.20 ml/min)であり,分泌量にはかなりバラツキがあるものの,超高齢者では前述の 報告と比べさらに低下し加齢に伴う減少が確認された。さらに,唾液分泌量に性差を認

めた Eliassonらは,65歳以上で男性が女性と比較して有意に多い 40)とし,本研究でも

同様の結果であった。理由の一端としては,Inoue らが唾液腺の解剖的な大きさには性 差が認められ,大きさと唾液分泌量には正の相関が認められたと報告している41)ことに よると考えられた。

唾液中の感染防御因子の一つである sIgA 濃度については,これまでの報告による差 が大きく,Eliassonらの65歳以上で男性が89.0 ± 67.7 μg/ml,女性が120.0 ± 90.0 μg/ml という報告40),およびShimizuらの65 ~ 86歳は男性が33.9 ± 2.3 μg/ml,女性が42.6 ± 3.1 μg/mlという報告14)などがある。

sIgA分泌速度はKimuraらの平均年齢67.5 ± 7.3歳では男性が55.5 ± 22.3 μg/min,女 性が39.0 ± 29.6 μg/minという報告13),およびShimizuらの65 ~ 86歳は男性が37.0 ± 1.9 μg/min,女性が38.1 ± 1.8 μg/minという報告14)などがある。本研究におけるsIgA濃度お よびsIgA分泌速度はこれらの研究の結果13,14,40)と比較し高い値を示した。このように測 定結果が相違する原因として,sIgA は唾液の採取した時間や採取方法により値が変動 することによると考えられた。ShirakawaらはsIgA 濃度が起床時に最も高い値を示し,

その後数時間で次第に低下し以降プラトーになると報告している30)。そこで,本研究で は唾液の採取を午前10時から午後2時の間に行ないsIgA濃度の日内変動の影響を避け ることとした。また唾液の採取方法によっても濃度が異なり,Shirtcliffらは,採取に吐 唾法はコットン法を用いた場合と比較してsIgA濃度が約4 倍の高い値を示したと報告 しており,その理由としてコットンを用いて唾液を採取した場合,線維に sIgA が付着

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13 し収量が減じる可能性があると述べている42)

一方,本研究において超高齢者の唾液分泌量および sIgA分泌速度は,男性が女性に 比べて有意に高い値を示した。高齢者ではsIgA 分泌速度の性差が認められるとの報告 はこれまでに渉猟した限りない。しかし,EvansらはsIgA分泌速度は,15歳,35歳お よび55歳では男性は女性と比較して有意に高かったと報告している39)。一方,Shimizu

らの65 ~ 86歳ではsIgA分泌速度に性差は認めないとの報告14)もあり,性差がsIgA

泌速度に及ぼす影響に関して未だ一定の結論は得られていない。本研究で sIgA 濃度は 男女間に有意差が認められなかったが,唾液分泌量は男性が女性と比較して有意に高か った。その結果,2 つの積により算出される sIgA 分泌速度に性差が認められたものと 考えられた。

sIgA分泌速度と身体能力の関連性について,Shimizuらは65 ~ 86歳の284名を対象 にsIgA分泌速度と1日の歩数について検討し,1日約7,000歩を維持する者は13,000 歩を維持する者と比較してsIgA分泌速度が有意に高い値を示したと述べている14)。こ れらのことから,sIgA 分泌速度と歩数には関連性があると考えられた。また,渋谷は 60 ~ 89歳の339名を対象に1日の平均歩数と握力および1日の平均歩数とtimed Up &

Go testとの関連性について検討し,前者は有意な正の相関が認められ,後者は有意な負

の相関が認められたと報告している 43)。これらのことから,sIgA 分泌速度と握力およ

timed Up & Go testには関連性があると考えられる。本研究ではsIgA分泌速度とこれ

らの項目に有意な相関は認められなかったが,男女共に握力は相関係数が正の値を示し,

timed Up & Go testは相関係数が負の値を示した。この結果から,超高齢者はsIgA分泌

速度と身体能力の関連性は加齢に伴い低くなるものと考えられた。

唾液中のコルチゾール濃度は,身体能力やストレスと相関があるとする報告がある

15-18)。コルチゾール濃度はSeemanらの報告によれば67 ~ 88歳では男性が0.23 μg/dl,

女性が0.16 μg/dlであり,男性が有意に高いと報告している44)。本研究では,コルチゾ

(15)

14

ール濃度はこの報告の結果と比べ大きな相違は認められず,性差も同様の結果であった。

なおコルチゾール濃度はsIgA 濃度と同様に起床時に最も高い値を示し,その後数時間 で次第に低下しプラトーになる日内変動が知られている29)

本研究で性差が認められたこと,およびコルチゾール濃度はストレスの指標であるこ とから,男性はストレス感受性が高く女性は逆に低いという性差が考えられ,これが男 女の平均余命の差となって現れる可能性も示唆された。身体能力との相関をみると,女 性はコルチゾール濃度とバランス能力の指標であるone-leg standing testに有意な負の相 関が認められ,男性においても有意差はないが負の相関を示す傾向が認められた。

コルチゾール濃度と身体能力の関連性については,Peters らは 65歳以上の 884 名を 対象にコルチゾール濃度とtimed Up & Go test,chair standing testおよびバランス能力の 指標であるtandem stand testの関連性を多重ロジスティック回帰分析により検討し,男 性はtimed Up & Go testおよびchair standing testと女性はtandem stand testと有意な関連 性を認めたと報告している18)

以上のことから,超高齢者の健康で自立した生活を送る要因は精神機能が充実してお り幸福感が高いこと,日常生活に必要な最低限の身体能力を維持すること,および良好 な咀嚼機能を営んでいることが必要であることが明らかとなった。さらに,加齢に伴う sIgA 濃度および分泌速度の低下やコルチゾール濃度の上昇を防ぐことが健康長寿に資 する因子となることも明らかとなった。

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結 論

我が国は世界に類をみない長寿国である。健康長寿に資する因子を明らかにするため,

東京都港区,渋谷区および新宿区で自立した生活を送る85歳以上の超高齢者を対象と して基本的属性,精神機能,認知機能,日常生活における活動指標,身体能力および口 腔状態を調べ,超高齢者において以下の結論を得た。

1.独居率は加齢に伴い増加していたが,日常生活において自身の身の回りのことや家 事全般をこなす取り組みがADLおよびIADLを維持し,健康で自立した生活を送る要 因となることが明らかとなった。

2.精神機能が充実しており,幸福感が高いことが健康で自立した生活を送る要因とな ることが示された。

3.身体能力は加齢に伴い低下するが,日常生活に必要な最低限の身体能力を維持する 者は健康で自立した生活を送れることが示された。

4.唾液分泌量は加齢に伴い低下したが,sIgA濃度および分泌速度は加齢による低下は

認められなかったことから,生体防御機能が維持されていることが健康で自立した生活 を送る要因となることが明らかとなった。

5.コルチゾール濃度は加齢に伴う上昇が認められなかったことから,ストレスの軽減 および身体能力の低下を防ぐことが健康で自立した生活を送る要因となることが明ら かとなった。

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参照

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