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企業年金ガバナンスの構造分析とレベル 比較

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(1)

企業年金ガバナンスの構造分析とレベル 比較

丸 山 高 行

■アブストラクト

AIJ

事件を受け,企業年金ガバナンスへの関心が従来以上に高まっている 状況をふまえ,本論文は,企業年金ガバナンスの定義と基本構造を明らかに した上で,①わが国の企業年金ガバナンスの実態はどのようになっているか,

②厚生年金基金,確定給付企業年金の基金型,同規約型という3つの制度間 でガバナンスの内容に違いはないか,③総合的なガバナンスの進展度合いを 示す指標等を用いて比較分析はできないか,という3点について,独自の見 解を示すことを目的とする。

企業年金ガバナンスの現状分析にあたっては,今回,特別に実施したアン ケート調査を活用する。また,アンケートの結果を基に,ガバナンス・レベ ルのスコアリング化と,スコアを利用した 総合ガバナンス・インデック ス の作成を試みる。さらに,主成分分析を実行して,総合ガバナンス・イ ンデックスの指標としての妥当性をチェックした上で,インデックスを活用 して,企業年金ガバナンスに関する各種特性分析を行う。

■キーワード

企業年金ガバナンス,総合ガバナンス・インデックス,主成分分析

(日本大学)報告による

*平成24年10月21日の日本保険学会 25年10月21日原稿

/平成 受領。

(2)

1.はじめに

わが国企業年金の根幹が揺らいでいる。大きな転機となったのは,いわゆ る

AIJ

事件 である。AIJ事件は,その直接的な被害の影響だけでなく,企 業年金制度のもつひずみや問題点を一挙にあぶり出す結果をもたらした。

最もあおりを受けたのが,厚生年金基金制度である。2014年4月1日に施 行された改正法 を受け,多くの厚生年金基金(以下 厚年基金 )が解散 か,代行返上等による他の年金制度への移行を余儀なくされた。特に,総合 型の厚年基金は,財政状況の悪化等から解散を選択するケースが多いが,人 数が50名未満の中小・零細企業が傘下に多数加わっているため,解散によっ て企業年金制度そのものを喪失するリスクが多分にある。

AIJ

事件がなぜ起こったかについては,これまでも,また,これからも,

様々な研究が行われると推測されるが ,本論文では,企業年金ガバナンス に着目した。なぜなら,

AIJ

事件が起こったのは,企業年金のガバナンス が効いていないからだ , 特に,総合型の厚年基金は,ガバナンスが有効に 機能しない構造となっているのではないか といった問題提起がなされてい るからである。果たしてそうだろうか。

このような問いに答えるために,本論文は,そもそも企業年金ガバナンス とは何かを明らかにするとともに, ①わが国の企業年金ガバナンスの実態 はどのようになっているか,②厚年基金,確定給付企業年金(以下

DB

) の基金型,同規約型という3つの制度間でガバナンスの内容に違いはないか,

③総合的なガバナンスの進展度合いを示す指標等を用いて比較分析はできな

企業年金ガバナンスの構造分析とレベル比較

1) 2012年2月に発覚した同事件により,総合型の厚生年金基金を中心に全国で 94の企業年金が被害に遭い,被害総額は2000億円近くに達した。

2) 正式名称は, 公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保 険法等の一部を改正する法律 である。

3) 研究のベンチマークとしては, 厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関 する有識者会議 の報告書および配布資料がインターネットで公開されており,

参考になる。

(3)

いか,という3点について,独自の見解を示すことを目的とする。

本論文の構成は,以下の通りである。まず第2章では,わが国企業年金制 度の特性を踏まえ,企業年金ガバナンスの定義や取組内容,基本構造,およ び受託者責任との関係を整理する。次に第3章と第4章で,今回,企業年金 ガバナンスの現状を明らかにするために実施したアンケート調査の内容を示 すとともに,アンケート結果を基に,わが国企業年金ガバナンスの構造分析 を行う。続いて第5章では,ガバナンス・レベルのスコアリング化と,スコ アを利用した 総合ガバナンス・インデックス の作成を試みる。さらに,

主成分分析を実行して,総合ガバナンス・インデックスの指標としての妥当 性をチェックした上で,インデックスを基に,わが国企業年金全体および制 度ごとのガバナンス・レベルの水準,資産規模,オルタナティブ実施の有無 等の要素とガバナンス・レベルとの相関関係を分析する。

企業年金ガバナンスを包含する概念であるコーポレート・ガバナンスにつ いては,そのレベルの数値化やレベルの強弱を示すインデックスの作成,さ らには,インデックスと企業収益や株式パフォーマンスなどとの関係が幅広 く分析されている。たとえば,Gompers, Ishii, Metrick (2003) は,企業 の定款等に定められている 経営陣を保護する条項 の数で ガバナンス・

インデックス を作成し,株式のパフォーマンス(

α

)との関係を分析してい る。また,Karuna(2009) は,CEOの評判を,マスコミへの登場回数等で 数値化し,コーポレート・ガバナンスの強さ(strength)との関係を分析し ている。さらに宮島・原村・稲垣 (2003) は,アンケート調査の結果をもと に企業統治改革の積極性を示す指標(Corporate Governance Score)を作 成し,企業パフォーマンス(トービンの

Q, ROA)等との関係を分析して

いる。

本論文はこうした先行研究をふまえ,企業年金ガバナンスの研究に新たな 分析の視点を提供するものである。

(4)

2.企業年金ガバナンスの定義と基本構造

⑴ わが国年金制度の全体像と基金

企業年金のガバナンスについて考えるにあたって,まずはわが国の年金制 度の全体像を確認しておこう。

わが国の年金制度は,いわゆる3階建ての構造となっている。1階部分は 国民年金(基礎年金)であり,2階部分は,一般サラリーマンが加入する厚 生年金と公務員が加入する共済年金である 。3階部分が,企業独自の上乗 せ部分である企業年金であり,厚年基金,DB,確定拠出年金から構成され る。このうち厚年基金は,厚生年金本体(老齢厚生年金)の報酬比例部分を 代行部分としてもつという,日本独自の制度設計となっている 。以下,本 論文を通じて企業年金ガバナンスについての分析対象は,企業年金制度のう ち,確定給付型の厚年基金および

DB

とする。

企業年金ガバナンスの構造を法的にとらえた場合, 基金 の存在がキー ポイントとなる。厚年基金制度は,基金という,法的に独立の法人格が認め られた法人によって管理・運営される。法人格を有することによって,基金 は民法上の社団となるため,社団法人としての 機関 を備える必要がある。

厚生年金保険法では,代議員会,理事長・理事,監事等につき,法定化され ている。この仕組みを,厚年基金の ガバナンス構造 と呼ぶことも多い。

一方,DBには,基金型と規約型がある。基金型は,厚年基金から代行返 上によって移管したものがほとんどであり,その数も,DB全体のうち5%

以下にとどまっている 。基金型は,事業主が従業員の同意を得て,スポン

4) 厚生労働省の数字(同省ホームページ上にある 公的年金制度の仕組み ) によれば,2013年3月末時点の加入員数は,国民年金が6,736万人,厚生年金 保険が3,472万人,共済年金が440万人となっている。

5) 厚生年金基金の加入者は,国民年金(老齢基礎年金)と厚生年金の再評価・

物価スライド部分は国から,報酬比例部分と基金独自の上乗せ部分は基金から 給付を受けることになる。

6) 企業年金連合会(以下 連合会 )の統計によれば,2013年10月1日時点で,

企業年金ガバナンスの構造分析とレベル比較

(5)

サー企業とは別法人の基金を設立する。その仕組みは基本的に厚年基金と同 様であり,基金が,制度内容を定めた労使合意の年金規約を作成し,厚生労 働大臣の認可を受ける。この規約に基づき,基金が年金資産を管理・運営す る。厚年基金と同様,DB基金(企業年金基金)にも代議員会,理事長・理 事,監事といったガバナンス構造が備わっている。

これに対し,規約型は,基金という別法人を設立せず,スポンサー企業の 事業主自身が従業員の同意を得て年金規約を作成する。事業主は,年金規約 につき厚生労働大臣の承認を受けた後,掛金を企業外部に拠出することによ って年金資産を管理・運営する。したがって,規約型

DB

の場合は,事業主 が,基本的に企業年金に関する意思決定や業務執行をすべて取り仕切る。

DB

法上も,事業主の果たすべき義務や責任が直接規定されている。

⑵ 企業年金ガバナンスの定義と取組内容

上記でみたように,企業年金制度を管理・運営するメカニズムは,基金の 存在の有無によって異なる。基金が存在すれば,基金自身が制度の管理・運 営主体となる。一方,基金が存在しなければ,事業主(以下 経営者 )が,

管理・運営の主体となる。ただし,厚年基金や基金型

DB

であっても,企業 年金への掛金の拠出は,あくまでスポンサー企業である。したがって,基金 という主体が介在するものの,企業年金の管理・運営の最終責任はスポンサ ー企業の経営者が負うことになる。

また,規約型

DB

の場合,表面的には掛金を拠出する経営者が担当部門や 担当者に権限委譲を行って,管理・運営を委ねる形となっているが,法的な 管理・運営の最終責任者はスポンサー企業の経営者である。

このように考えると,企業年金ガバナンスとは,本質的には, 年金制度 の最終責任者であるスポンサー企業の経営者が,従業員の福利厚生のために 掛金を払い込み,将来的に年金給付が約束通り履行されるように,年金制度

厚年基金552件(うち単独・連合型68件,総合型484件),基金型

DB603件,規

約型

DB13,885件となっている。

(6)

を管理・運営するメカニズム と定義できる。この定義にしたがって,スポ ンサー企業の経営者にとっての企業年金ガバナンスを考えた時,その取組内 容は,大きく次の4点に整理できるだろう。

①ガバナンス体制の整備

企業年金に関する意思決定体制を整備したり,主として年金制度の管理・

運営主体(以下 制度運営者 )への監視体制を強化することを目的とする。

制度運営の実効性を高めるために,人材の確保・育成やアウトソーシングを 図るという視点も加わる。

②受託者責任の遵守

企業年金の関係者には,様々な形で受託者責任の遵守が要請される。法令 上,履行が義務付けられている事項を中心に,受託者責任を課される主体が その責任を確実に果たすことをガバナンスの目的とする。また,議決権行使 を中心とした,いわゆる 株主アクティビズム の実行も,この範疇に含ま れる。

③運用効率化への取組み

ガバナンスの主目的を,運用体制の強化や運用の効率化,さらには,運用 パフォーマンスの向上におくという考え方である。政策アセットミックスの 設定やマネージャー・ストラクチャーの整備が中心となる。

④リスク管理の強化

運用リスクを中心に,企業年金の制度運営は様々なリスクを内包する。リ スクの中には,企業本体の経営を根底から揺るがすものも存在しうるため,

リスク管理の強化は,多くの企業経営者にとって最重要課題の一つと位置づ けられる。

⑶ 企業年金ガバナンスの基本構造

もともと ガバナンス(governance) には,支配,統治,管理といった 意味がある。この ガバナンス を行なう対象を企業としたものが, コー ポレート・ガバナンス という考え方である。企業年金ガバナンスは,コー

企業年金ガバナンスの構造分析とレベル比較

(7)

ポレート・ガバナンスに包含される概念であると同時に,コーポレート・ガ バナンスの考え方や仕組みを企業年金に応用したものととらえることもでき る。この考え方に従うと,企業年金ガバナンスには,上記⑵で定義したメイ ンルートの他にも,いくつかの副次的なガバナンス関係が存在するといえる。

図1は,丸山(2013)で示した図を一部修正したものであるが,こうしたガ バナンス構造をA〜Dの4つのルートで説明している 。

まず,Aのルートは,コーポレート・ガバナンスの一環として行われるガ バナンスである。企業年金に関与する主体(ステークホルダー)を,大きく,

外部関係者と内部関係者に分けると,Aは,外部関係者が企業の外側から企 業年金をチェックするガバナンスとなる。外部関係者としては株主,監督官 庁 ,監査法人などが該当するが,代表的な主体は株主である。ただし,株 主が直接的に企業年金のガバナンスを行うことは稀であり,通常は,株主の エージェントとしての役割を担う経営者に,企業年金ガバナンスを委ねる形 となる(図1のA

ʼ

)。

B,Cは,内部関係者,すなわち,企業内のメンバーが企業年金に対して 行うガバナンスである。それぞれガバナンスを行う主体が,Bは経営者(も しくは取締役等のボード・メンバー),Cは従業員(もしくは労働組合)と なる 。このうちBが,本論文で定義する企業年金ガバナンスのメインルー

7) そもそも,厚年基金と基金型

DB,規約型 DB

の間で,ガバナンス形態は微 妙に異なる。図1は,制度運営者を中核として,3つの制度における企業年金 ガバナンスの本質的要素をピックアップしている。たとえば,厚年基金や基金 型

DB

の場合,基金自身が制度運営者に該当する(基金はスポンサー企業とは 別法人であるが,ガバナンス関係を考えて図1のような配置としている)。ま た,厚年基金のうち設立形態が総合型と連合型の場合は,複数の企業が同一の 基金に関与する形となる(DBについても,連合型がありうる)。これに対し,

規約型

DB

の場合は,企業内の担当部門や担当者が制度運営者のポジションと なる。なお,本論文中の図表はすべて筆者作成による。

8)

DB

法上,厚労省は

DB

に対して監査の実施に赴くことができると規定され ており(DB法第101条),実地検査の件数も増えている。

9) 正確には,Cの主体に加入者だけでなく受給権者も含まれる。

(8)

トであるが,Bは,企業年金を対象とするスポンサー企業の内部統制という こともできる。一方,Cは,従業員が自らの受給権保護のために行うガバナ ンスである。Bのルートの主体である経営者は,Cのルートの主体である従 業員と雇用・被雇用の関係にあると同時に,経営者は企業年金への掛金拠出 の責務を負い,従業員は確定給付を受給する権利を有する 。

最後のDは,年金制度の内部で行われるガバナンスである。積立金の管 理・運用を行う生保会社,信託銀行等が受託者責任を果たす運用を行ってい るかどうか,定期的に目を光らせるのがDの部分のガバナンスである 。

図1 企業年金のガバナンス構造

10) この関係は,Bodie(1990)を始め,しばしばオプションの売り手と買い手 になぞらえられるが,年金の制度運営者をエージェントとみなせば,どちらも プリンシパルとして位置づけられる。

11) 丸山(2013)で指摘したように,プリンシパルから特定の事項について委任 を受けたエージェントには広い意味で受託者責任が課されると考えれば,企業 年金ガバナンスと受託者責任は表裏一体の関係となる。ただし,具体的に法律 企業年金ガバナンスの構造分析とレベル比較

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3.企業年金ガバナンスに関するアンケート調査の実施

⑴ アンケート調査の概要

本論文では,企業年金ガバナンスの本質を 従業員の福利厚生のために掛 金を払い込み,年金制度の最終責任を負うスポンサー企業の経営者が,将来 的に年金給付が約束通り履行されるように,年金制度を管理・運営するメカ ニズム と定義し,その取組内容を①ガバナンス体制の整備,②受託者責任 の遵守,③運用効率化への取組み,④リスク管理の強化の4点に整理した。

また,(広義の)企業年金ガバナンスを行う主体とその対象として,経営者 の自社の企業年金に対するガバナンスを中心に,4つのルートをピックアッ プした。それでは,わが国の企業年金において,こうしたガバナンスがどの ような内容で,どの程度積極的に行われているだろうか。

この問いに答えるためには,わが国企業年金ガバナンスの現状分析が欠か せないが,残念ながら各企業ないし基金のディスクローズ・データや第三者 機関の集計データから,目的とする分析を行うことは困難である 。そこで 本論文では,可能な限り広範囲の企業年金に対し独自のアンケート調査を実 施することによって,わが国企業年金のガバナンスに対する取組み状況の体 系的な把握と,取組み水準(=ガバナンス・レベル)のスコア化による傾向 分析や比較分析を試みた。

アンケートは,AIJ事件を受けて企業年金ガバナンスに対する関心が高ま り始めた2012年夏,主として住友生命の取引先企業年金を対象に実施した 。

上,受託者責任が規定されているのは,図1のEとFの一部分に関してのみで ある。

12) たとえば,資産運用面について定期的に行われている調査として連合会の 資産運用実態調査 があるが,結果の詳細は会員向けの限定公開となってい る。また,AIJ事件を受け,2012年3月,厚生労働省にて 厚生年金基金の運 用体制等に関する調査 が行われたが,厚年基金のみに対する調査にとどまっ ている。

13) 回答のあった企業年金のうち,住友生命との取引がない企業年金の割合は 11.1%である。

(10)

調査の概要は,次の通りである。

① 調査対象:首都圏,関西圏および札幌,仙台,名古屋,広島,福岡に所 在する厚年基金および

DB(基金型,規約型)

② 調査団体数:200

③ 調査期間:2012年7月〜10月

④ 回答方法:無記名方式

⑤ 回答数:104(回収率52%)

アンケートは,図1で示す企業年金ガバナンスの4つのルートのうち,中 心となるBのルートの現状分析に焦点を当てた。また,企業年金ガバナンス の現状を体系的に把握するために,上記の4つの取組内容に沿ってアンケー ト項目を設定した。さらに,4つの取組内容それぞれについて2つずつテー マをピックアップし,表1で示す8つの構成要素および対応する調査内容か らガバナンスの構造分析が行えるように,設問を構成した 。なお,表1の

③の厚生労働省ガイドライン(以下 ガイドライン ) は厚年基金向けと

DB

向けがあるが,厚年基金向けについては,AIJ事件を受けて2012年9月 26日付で,新しい内容に改正された(以下,この厚年基金向けの新しいガイ ドラインを,特に 新しいガイドライン と表記する)。

14) 回 答 数 は104で あ る が,人 数 的 に は 厚 年 基 金 が 約302,800人,DBが 約 484,700人となっており,それぞれ2013年3月末時点の制度全体の加入者数

(厚年基金420万人,DB796万人,いずれも厚生労働省第2回社会保障審議会 企業年金部会参考資料2 厚生年金基金に関する基礎資料 による)に対して,

7.2%,6.1

%の水準となっている。

15) アンケートは,いずれの制度についても制度運営者を対象に実施した。

16) 厚生労働省から各地方厚生局長宛発出されている,厚年基金あるいは

DB

の 資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン を指す。

年金ガバナンスの構造分析とレベ

企業

表 入らないため強制送りします

(11)

⑵ アンケートに回答した企業年金の規模

2012年10月 ま で に 回 答 の あ っ た104の 企 業 年 金 の 内 訳 は,厚 年 基 金 22

(21.2%) ,基金型

DB35(33.7%),規約型 DB47(45.2%)となっている。

104の企業年金の資産規模別分布は,表2の通りである。今回のアンケート 調査は大都市圏に所在する企業年金を中心に行ったが,規模的には広範囲の 企業年金をカバーしたものとなっている。また,104の企業年金の人数規模 別分布は,表3の通りである 。

17) 厚年基金22のうち,単独・連合型は6,総合型は16である。

18) 脚注13でもふれたように,今回のアンケート結果は企業年金全体の一部を抽 出してまとめたものにすぎないが,たとえば,前掲 厚生年金基金の運用体制 等に関する調査 (調査対 象581基 金,回 答 数558基 金,回 答 率96.0%,以 下 厚労省調査 )の結果と比較してみると,運用委員会について,設置している と回答した基金の割合が厚労省調査では90%,今回調査では86.4%(ただし設 置予定を含む),運用コンサルタントについて,採用している基金の比率が厚

表1 アンケート調査のポイント

ガバナンスの

取組内容 ガバナンスの要素 アンケートによる調査内容

ガバナンス 体制の整備

制度運営

制度運営従事者,証券アナリスト資格の保有状況,

証券アナリスト等の資格取得勧奨,運用コンサルタ ントの導入状況

運用委員会 運用委員会の設置状況,従業員代表者の参加,外部 専門家の参加

受託者責任の 遵守

厚生労働省

ガイドライン対応 ガイドラインに対する認識,ガイドラインの再確認

運用の基本方針 運用の基本方針の作成状況,運用の基本方針の見直 し状況,運用の基本方針の再確認

運用効率化 への取組み

政策アセットミックス

政策アセットミックスの作成・活用状況,政策アセ ットミックスの加入者へのディスクローズ,政策ア セットミックス設定理由のディスクローズ

運用受託機関選定 運用受託機関の数,運用受託機関数の方向性,運用 受託機関の選定方法

リスク管理の 強化

年金ALM 年金ALMの実施状況

リスク管理 リスク管理の実施状況

(12)

4.アンケート調査による企業年金ガバナンスの構造分析

⑴ 企業年金の制度運営の状況

アンケートでは,まず,企業年金ガバナンスを構成する8つの要素の第1 である,制度運営の状況について確認した。表4は,3つの制度別に専任の 担当者数,他業務と兼務の担当者数をまとめたものである 。

表4をみると,制度形態によって専任,兼任の割合が大きく異なっている ことがわかる。独立した法人格をもつ厚年基金,基金型

DB

は,専任担当者 労省調査では27%,今回調査では27.3%(ただし採用予定を含む),資産運用 関連資格について,役職員に占める証券アナリスト,フィナンシャルプランナ ーなどの資格保有者の割合が厚労省調査では1.8%,証券アナリストの資格取 得者がいる基金の割合が今回調査では4.5%というように,基本的な傾向はと らえていると推察できる。もちろん,より正確な実態把握と分析のためには,

アンケート対象数を増やし,かつ,企業年金連合会のような第三者機関による 実施が有効であることはいうまでもない。

19) アンケートでは,専任,兼任の定義をさほど厳密に行っていない点,注意を 要する。

表2 資産規模別分布

(単位:%) 5億円未満 5億円以上

10億円未満

10億円以上 50億円未満

50億円以上 100億円未満

100億円以上 500億円未満

500億円以上

1000億円未満 1000億円以上

厚年基金 基金型DB 規約型DB

9.1 11.4 4.3 9.1

8.6 6.4 31.8

48.6 14.9 27.3

11.4 0.0 13.6

14.3 34.0 0.0

2.9 14.9 9.1

2.9 25.5

表3 人数規模別分布

(単位:%)

27.7 2.9 4.5

17.0 2.9 4.5

25.5 11.4 9.1

17.0 51.4 36.4

6.4 17.1 9.1

6.4 14.3 36.4

規約型DB 基金型DB 厚年基金

10000人以上 5000人以上

10000人未満 1000人以上

5000人未満 500人以上

1000人未満 300人以上

500人未満 300人未満

企業年金ガバナンスの構造分析とレベル比較

(13)

の割合が高い。一方,企業本体の一部門が運営に携わる規約型

DB

の場合,

ほとんどのメンバーが他業務との兼務者であり,専任担当者ゼロとの回答が 85%を占めている。また,担当者の全体数は,規約型

DB

に比べて厚年基金,

基金型

DB

が多く,かつ,規模に比例して増加する傾向となっている。

次に,制度運営者の専門性をみるために,担当者の中に証券アナリストの 資格保有者がいるかどうかを確認した。結果は,表5の通りである。これを みると,多くの企業年金で 現在はいないし,今後,資格取得予定の担当者 もいない という状況であることがわかる。さらに,証券アナリスト等の資 格を取得するために,企業ないし企業年金として何か特別の取組みをしてい るかどうかを問い合わせた結果が表6である。この結果をみる限り,ほとん どの企業年金で 特に勧奨していない あるいは 勧奨しているが,資格を 取得しても人事・給与面には反映されない という状況であると判断される。

厚年基金については,新しいガイドラインにおいて, 運用執行理事をは じめとする管理運用業務に携わる者は,自らが有する管理運用業務に関する 専門的知識及び経験等の程度に応じ,企業年金連合会等が実施する資産運用 に係る研修を受講しなければならない とされた。また,DBについても,

ガイドライン上, 年金運用責任者は,投資理論,資産運用に関する制度,

投資対象の資産の内容等の理解及び資産運用環境の把握に努めなければなら 表4 制度運営従事者数の現状

(単位:%) 専任担当者数 他業務との兼務の担当者数

22.7 22.9 14.9 9.1 11.4 10.6 31.8 40.0 10.6 22.7 14.3 40.4 13.6 11.4 23.4 4.5 5.7 23.4 0.0 2.9 6.4 27.3 20.0 36.2 13.6 37.1 27.7 54.5 34.3 6.4 18.2 14.3 2.1 22.7 28.6 2.1 13.6 25.7 2.1 1人

22.7 5.7 8.5 0人

22.7 22.9 85.1 厚年基金 基金型DB 規約型DB

2人 3人 4人

以上 0人 1人 2人 3人 4人

以上 1人 2人 3人 4人 5人 以上

(14)

ない とされている。アンケート結果では,各企業年金において,証券アナ リスト等の資格保有者の確保や育成があまり重要視されていない実態が浮か び上がったが,今後は,母体企業を含め,資格取得を勧奨する取組みが一層 求められているといえよう。

さらに,表7は,運用コンサルタントの導入状況をまとめたものである。

全体では,約7割の企業年金が 現在は導入していないし,今後も導入予定 はない と回答しているが,一部の大型の企業年金では,資産運用面を含め,

表5 証券アナリスト資格の保有状況

(単位:%)

■選択肢の内容

①現在はいないし,今後,資格取得予定の担当者もいない。

②現在はいないが,今後,資格取得予定の担当者がいる。

③すでに資格取得者がいる。

4.5 2.9 6.4 4.5 2.9 2.1 90.9 94.3 91.5 厚年基金 基金型DB 規約型DB

規約型DB 基金型DB 厚年基金

91.5 85.7 90.9

4.3 14.3 9.1

4.3 0.0 0.0

■選択肢の内容

①特に勧奨していない。

②勧奨しているが,資格を取得しても人事・給与面には反映 されない。

③勧奨しているとともに,資格取得後は人事・給与面に反映 している。

表6 証券アナリスト等の資格取得勧奨

(単位:%)

規約型DB 基金型DB 厚年基金

78.7 62.9 63.6

8.5 5.7 9.1

12.8 31.4 27.3

■選択肢の内容

①現在は導入していないし,今後も導入予定はない。

②現在は導入していないが,今後導入を検討する。

③すでに導入している,もしくは,導入予定である。

表7 運用コンサルタントの導入状況

(単位:%) 企業年金ガバナンスの構造分析とレベル比較

(15)

制度運営業務のサポート役として運用コンサルタントを導入する対応がとら れている。

⑵ 運用委員会の設置

企業年金の制度運営のうち,特に資産運用に関する意思決定体制を整備し たり,主として制度運営者への監視体制を強化する一環として ,運用委員 会を設置するケースが増えている。ガイドラインでは,運用委員会の設置は

設置することが望ましい という位置づけとなっている。

表8のアンケート結果をみると,制度別には,厚年基金および基金型

DB

で設置が進んでいるようである。ただし,従業員の参加となると厚年基金,

20) 基金が内部に運用委員会を設けることは,基金内の一部の理事等による恣意 的な運用を排除する効果をもつ。この効果にも期待して,基金をガバナンスす る経営者(株主)は,運用委員会の設置に前向きになると本論文ではとらえる。

⑶ 外部専門家の参加 ■⑶の選択肢の内容

①現在参加していないし,今後も参加する予定 はない。

②現在は参加していないが,今後参加を検討す る。

③現在参加している,ないし,今後参加予定で ある。

27.3 20.0 10.6 9.1 8.6 12.8 63.6 71.4 76.6 厚年基金

基金型DB 規約型DB

⑵ 従業員代表者の参加 ■⑵の選択肢の内容

①現在参加していないし,今後も参加する予定 はない。

②現在は参加していないが,今後参加を検討す る。

③現在参加している,ないし,今後参加予定で ある。

50.0 51.4 19.1 9.1 8.6 12.8 40.9 40.0 68.1 厚年基金

基金型DB 規約型DB

規約型DB 基金型DB 厚年基金

59.6 14.3 13.6

14.9 5.7 0.0

25.5 80.0 86.4

■⑴の選択肢の内容

①現在設置していないし,今後も設置する予定 はない。

②現在は設置していないが,今後設置を検討す る。

③現在設置している,ないし,今後設置予定で ある。

⑴ 設置状況

表8 運用委員会の設置状況

(単位:%)

(16)

基金型

DB

でも約5割にとどまっており,外部専門家の参加は全体で20%に 達していない状況であるため,今後,ガバナンス・レベルを高めるためには,

運用委員会の機能強化と活性化が必要であろう。なお,厚年基金に対しては,

新しいガイドラインにおいて,運用委員会を設置する場合は外部専門家 の参加が義務付けられたため,今後は他の制度についても変化が起こる可能 性があるかもしれない。

⑶ ガイドライン対応

アンケート調査では,年金制度運営者の受託者責任に対する遵守状況を確 認するために,ガイドラインへの対応について確認した 。結果は,表9の 状況となっている。

表9をみると,少なくとも2012年夏の時点では,規約型

DB

においてガイ ドラインに対する認識が薄いことが確認できる。実際, ガイドラインの存 在を知らない ,ないし ガイドラインの存在は知っているが,見たことは ない と回答した規約型

DB

は,約60%に及ぶ。

21) 現実には,外部専門家としては,過去に基金の常務理事を務めていた経験者 や学識顧問がその任にあたることが多いようである。

22) 規約型

DB

については,従業員に対して受託者責任を負う主体は事業主であ る。一方,事業主が企業年金に対してガバナンスを行う当事者でもあるため,

アンケートでは回答者を特定化せず, 企業としてどのようにガイドライン対 応を行っているか が確認できる設問形式としている。

40.9 42.9 31.9 4.5 11.4 29.8

規約型DB 基金型DB 厚年基金

29.8 5.7 9.1

6.4 8.6 18.2

2.1 31.4 27.3

■選択肢の内容

①ガイドラインの存在を知らない。

②ガイドラインの存在は知っているが,見たことはない。

③ガイドラインの主要なポイントのみ,確認したこと がある。

④ガイドラインの主要なポイントだけでなく,全体を 把握している。

⑤ガイドライン全体を把握し,実務と照らし合わせて 遵守状況をチェックしている。

表9 ガイドラインに対する認識

(単位:%) 企業年金ガバナンスの構造分析とレベル比較

(17)

一方,同様の認識は厚年基金でも13.6%,基金型

DB

でも17.1%を占める。

ただし,厚年基金については,新しいガイドラインの発出以降は,ガイドラ インに対する認識が大きく向上しているものと推察される。

さらに,表10は,

AIJ

問題を受けてガイドラインの再確認を行ったか どうかを質問した結果である。この問いに対しては, 特に再確認は行って いない との回答が,全体で6割超を占めている。厚年基金も約半数が再確 認を行っていないと回答しているため,少なくとも2012年夏の時点では,

AIJ

事件の被害を受けていなかった基金にとって,ガイドラインをはじめと した一連の法改正の動きは 対岸の火事 であったのかもしれない。

⑷ 運用の基本方針の作成

受託者責任の遵守状況を問うもう1本の柱として,運用の基本方針の作成 状況について確認した 。表11の⑴をみると,少なくとも運用の基本方針の 作成が義務付けられている厚年基金,基金型

DB

では,全般的に対応が進ん でいると判断できる 。また,作成していても全体の約半数が 幹事会社の

表10 ガイドラインの再確認

(単位:%)

■選択肢の内容

①特に再確認は行っていない。

②主要なポイントのみ再確認した,ないし,再確認する予定 である。

③ガイドライン全般にわたり再確認した,ないし,再確認す る予定である。

22.7 31.4 4.3 22.7 22.9 19.1 54.5 45.7 76.6 厚年基金 基金型DB 規約型DB

23) 運用の基本方針は,ガイドラインにおいて,厚生年金基金,基金型

DB

は作 成が義務付けられている。一方,規約型

DB

については,加入者数300人以上,

資産額3億円以上という2つの要件のどちらか,ないし両方をみたす場合に,

作成が義務化されている。

24) 規約型

DB

については,上記 加入者数300人以上,資産額3億円以上 と いう2つの要件を正確にトレースしていないケースも散見される。たとえば,

制度スタート時は資産額が3億円に達していなくても,その後の時価の上昇等

(18)

ひな型通りである と回答しているが,厚年基金については,半数以上が独 自の留意事項を織り込んでいる状況である。

表11の⑵は,運用の基本方針の見直し状況を確認したものである。結果を みると,厚年基金,基金型

DB

では政策アセットミックスに変更があれば見 直しているケースが多いほか,定期的にチェックして見直すとの回答も目立 っている。さらに,表11⑶は,AIJ事件を受けての再確認の有無を問うたも のである。結果は, 特に再確認は行っていない との回答が,厚年基金,

基金型

DB

では約半数,規約型

DB

では約8割に達している。

⑸ 政策アセットミックスへの取組み

政策アセットミックスは,運用目的を達成するための具体的な資産配分目 表11 運用の基本方針の作成状況

(単位:%)

⑴ 作成状況

■⑴の選択肢の内容

①作成していない。

②作成しているが,ほぼ幹事会社のひな型通りである。

③幹事会社のひな型をベースに,独自の留意事項を織り 込んでいる。

54.5 42.9 23.4 45.5 48.6 51.1 0.0 8.6 25.5 厚年基金

基金型DB 規約型DB

規約型DB 基金型DB 厚年基金

53.2 28.6 22.7

21.3 40.0 40.9

23.4 31.4 36.4

■⑵の選択肢の内容

①作成以来,見直したことはない。

②政策アセットミックスに変更があれば,見直している。

③定期的に内容をチェックするとともに,必要に応じて 見直している。

⑵ 見直し状況

規約型DB 基金型DB 厚年基金

78.7 45.7 50.0

8.5 14.3 22.7

12.8 40.0 27.3

■⑶の選択肢の内容

①特に再確認は行っていない。

②政策アセットミックスのみ再確認した,ないし,再確 認する予定である。

③運用の基本方針全般にわたり再確認した,ないし,再 確認する予定である。

⑶ 再確認の有無

により3億円以上となった場合は,運用の基本方針の作成義務が生じることに なる。

企業年金ガバナンスの構造分析とレベル比較

(19)

標である。企業年金ガバナンスの目的の一つである 運用効率化 の要であ り,その設定の良し悪しが運用結果の帰趨を左右するとされる。政策アセッ トミックスは,ガイドライン上, 政策的資産構成割合 と表現されている。

厚年基金に対しては,新しいガイドラインにおいて作成が義務付けられる一 方,DBについては, 作成がのぞましい という位置づけである。

表12は,各企業年金の政策アセットミックスに対する取組み状況を調査し たものである。調査結果をみると,政策アセットミックスについては全般的 に作成が進んでおり,実際の運用にも役立てようという姿勢がうかがえる。

ただし,今後は,加入者に対する政策アセットミックスのディスクローズ,

さらには,設定理由のディスクローズが課題といえよう。

⑹ 運用受託機関の選定

政策アセットミックスを設定した後,運用の効率化を図るためには,効率 表12 政策アセットミックスへの取組み状況

(単位:%)

⑴ 作成・活用状況

■⑴の選択肢の内容

①作成していない。

②作成しているが,実際の運用では特に意識 していない。

③政策アセットミックスを念頭において運用 し,定期的に政策アセットミックスに沿っ た運用となっているか確認している。

77.3 85.7 42.6 4.5 5.7 19.1 18.2

8.6 38.3 厚年基金

基金型DB 規約型DB

規約型DB 基金型DB 厚年基金

59.6 22.9 31.8

23.4 31.4 13.6

17.0 45.7 54.5

■⑵の選択肢の内容

①現在,ディスクローズしていないし,今後 もディスクローズする予定はない。

②現在はディスクローズしていないが,今後 はディスクローズする予定である。

③現在,ディスクローズしている。

⑵ 加入者へのディスクローズ

規約型DB 基金型DB 厚年基金

70.2 25.7 31.8

21.3 45.7 27.3

8.5 28.6 40.9

■⑶の選択肢の内容

①現在,ディスクローズしていないし,今後 もディスクローズする予定はない。

②現在はディスクローズしていないが,今後 はディスクローズする予定である。

③現在,ディスクローズしている。

⑶ 設定理由のディスクローズ

(20)

的なマネージャー・ストラクチャーの設計と運用受託機関の選定がキーポイ ントとなる。今回のアンケートでは,特に,運用受託機関の選定方法につい て確認した。結果は表13の通りであるが,現状では, 基本的には,ペーパ ーベースで定量面,定性面を評価して判断している 場合と, 運用受託機 関にプレゼンテーションをさせた上で,最終判断を行っている 場合が多く なっている。特に厚年基金,基金型

DB

では,受託機関のプレゼンテーショ ンが一般化しているといえる。また,少数ではあるが, 運用受託機関に直 接訪問の上,最終判断を行っている 対応もとられている。

厚年基金については,AIJ問題を受け,特にオルタナティブ投資を行う場 合に様々な要件をみたすことが要請されるようになった。たとえば,新しい ガイドラインでは,オルタナティブ投資を行う場合の留意事項として,投資 目的等の運用の基本方針への記載,および,運用受託機関選任の際に留意す べき事項や運用受託機関に対する運用戦略の確認事項が明記されている 。

⑺ 年金 ALM の実施

企業年金ガバナンスの方向性の一つとして,リスク管理強化の動きを把握 するために,年金

ALM

の実施状況を確認した。年金

ALM

とは,Asset

4.5 2.9 4.3

規約型DB 基金型DB 厚年基金

51.1 28.6 36.4

2.1 5.7 4.5

40.4 62.9 54.5

■選択肢の内容

①基本的には,ペーパーベースで定量面,定性面を評価し て判断している。

②基本的にはペーパーベースで判断しているが,リスク,

リターン,相関係数などの基本数値は,自ら計算してチ ェックしている。

③運用受託機関にプレゼンテーションをさせた上で,最終 判断を行っている。

④運用受託機関に直接訪問の上,最終判断を行っている。

表13 運用受託機関の選定方法

(単位:%)

25) また,オルタナティブ投資を行う場合に限らず,理事等が行う運用受託機関 に対するヒアリングは, 投資判断を行うファンド・マネジャー等に対するヒ アリング,及び運用コンサルタントや資産運用委員会等に対するヒアリングを 含めることが望ましい とされている。

企業年金ガバナンスの構造分析とレベル比較

(21)

Liability Management(資産と負債の総合管理)の略で,年金制度のリス

ク管理手法の一つである 。今回のアンケート調査によれば,表14でみるよ うに,厚年基金,基金型

DB

では7割以上が少なくとも1回以上,年金

ALM

を実施したと回答しており,6割以上が今後も定期的に実施するとし ている。また,規約型

DB

でも約3割が実施経験ありと回答している 。

⑻ リスク管理の実施

企業年金ガバナンスを,企業年金のリスク管理と同義ととらえる場合も少 なくない。実際,近年の変動性の大きい市場環境を受け,企業年金のリスク 管理を強化する企業が増えている。今回のアンケートで,リスク管理への取 組み状況を調査した結果が表15である。代表的なリスク管理手法を5つピッ クアップし,実際に採用している手法を複数選択してもらった。

結果をみると,②の 下値をヘッジする運用商品の採用 ,④の オルタ ナティブ等を活用したリスク分散の推進 に取り組むケースが多いようであ る。ともに,厚年基金,基金型

DB

では50〜60%が,規約型

DB

でも約30%

26) 年金

ALM

や,その延長線上にある

LDI

(債務主導型投資)等の考え方に ついては,デービッド・ブレイク(2012)参照。

27) 年金

ALM

は,厚年基金,DB基金型,DB規約型に関わらず,法的に実施 が義務付けられているわけではない。また,年金

ALM

は通常,特別なコンサ ルティングとして,有料での実施となる。それでも今回の調査結果のように高 い実施比率を示したことは,年金

ALM

がガバナンス強化やリスク管理面で重 要視されているともいえよう。

63.6 60.0 19.1

規約型DB 基金型DB 厚年基金

57.4 20.0 18.2

12.8 8.6 9.1

10.6 11.4 9.1

■選択肢の内容

①これまで実施したことはないし,今後も予定はない。

②これまで実施したことはないが,今後実施を検討す る。

③これまでに少なくとも1回は実施したことがある。

④これまでに実施したことがあり,今後も定期的に実 施する。

表14 年金 ALM の実施状況

(単位:%)

(22)

が,実際にリスク管理手段として採り入れていると回答している。また,③ 相場急変時の対応の事前準備 が進められつつある点も注目される。特に 厚年基金は,場合によっては距離の離れた複数の事業所の集合体であり,運 用委員会や理事会,代議員会等の開催頻度も限定されるため,機動的な意思 決定の仕組みを導入する動きが広がっているといえよう。

5.総合ガバナンス・インデックスによるレベル比較

⑴ ガバナンス・レベルのスコアリングと総合ガバナンス・インデックスの 作成

アンケート調査の結果をもとに,わが国企業年金のガバナンスに対する取 組み状況を総合的に把握するために,各企業年金のガバナンス・レベルのス コアリング(点数化)を試みる。具体的には,表1で示した企業年金ガバナ ンスを構成する8つの要素のそれぞれに対応する設問をピックアップし,回 答内容に応じて設問ごとに0〜3点を付与する。その上で,各要素の合計点 の最高が3点になるように調整し,8つの要素ごとの点数を合計して, 総 合ガバナンス・インデックス を作成した。つまり,3×8=24点を満点と してガバナンス・レベルをスコアリングし,総合的なガバナンス・レベルを 数値(インデックス)によって把握できるように工夫したわけである 。

表15 リスク管理の実施状況

(単位:%)

■選択肢の内容

①(バリュー・アット・リスクなどの)リスクの計測

②下値をヘッジするような,運用商品の採用

③相場急変時の対応(資産運用委員会の招集等)の事 前準備

④オルタナティブ等,運用商品によるリスク分散の推

⑤為替オーバーレイのような,資産横断的なリスク管 理商品の活用

13.6 2.9 0.0 54.5 60.0 27.7 4.5

14.3 4.3 厚年基金 基金型DB 規約型DB

29.8 57.1 54.5

14.9 22.9 31.8

28) 各設問とも,ガバナンス強化への取組みが進んでいる場合に点数が高くなる ように配点した。

企業年金ガバナンスの構造分析とレベル比較

(23)

⑵ 総合ガバナンス・インデックスに関する主成分分析の実施

総合ガバナンス・インデックスは,企業年金ガバナンスの8つの要素別得 点を単純に合計して作成した。次に,この集計方法によってガバナンス・レ ベルに関する情報量が失われることがないかどうかを,主成分分析によって 確認してみる。

主成分分析の実施にあたっては,大村・首藤・増子(2001)にならい,ま ず,8つの要素ごとの得点を表1で示した4つの取組内容別に集約し,サ ブ・インデックスを作成した。すなわち,GP(ガバナンス体制の整備状況 を示す指標),DP(受託者責任の遵守指向を示す指標),EP(運用効率化へ の取組み姿勢を示す指標),RP(リスク管理の強化度合いを示す指標)であ る。次に,この4つのサブ・インデックスに対して,主成分分析を行った。

結果をまとめたものが,表16である。

表16の⑴基本統計量をみると,4つのサブ・インデックスのうち,GPと いうガバナンス体制の整備状況を示す指標の平均が最も低くなっている。ま た,4変数の中では,相対的に

EP

,RPという,運用の効率化やリスク管 理を重視する変数の平均値が高くなっている。GP,DPを法制度面に力点 をおく指標,EP,RPを運用面に力点をおく指標と考えれば,各企業年金 が企業年金ガバナンスに取り組む姿勢は,少なくとも2012年夏時点では,法 制度面より運用面を重視したものとなっていると推察できよう。

表16の⑵は,4つの変数間の相関関係をみたものである。結果をみると,

各変数間の相関係数はいずれも0.57〜0.69の範囲に収まっており,変数同士 の相関はかなり強いものとなっている。さらに,⑶の主成分負荷量をみると,

上記の相関関係の強さを反映して,第1主成分の負荷量がどの変数に対して も0.8以上となっており,この主成分が,ガバナンス・レベルの総合力を示 していると考えられる(図2参照)。実際,⑷で寄与率および累積寄与率を 確認すると,第1主成分が73.33%と大半を占めていることがわかる 。

29) 図2では,各主成分と固有値との関係を固有値スクリープロットでも示して いる。なお,固有値スクリープロットによって,固有値が急に変化する直前ま

(24)

図2 第1主成分の各変数に対する負荷量と固有値スクリープロット 表16 主成分分析の結果

⑴ 基本統計量 変 数

⑶ 主成分負荷量

⑵ 分析対象行列

⑷ 固有値表

n 平 均 不偏分散 標準偏差 最小値 最大値

GP  DP  EP  RP

104 104 104 104

1.639 2.611 2.716 2.740

2.036 2.849 3.023 4.252

1.427 1.688 1.739 2.062

0.000 0.000 0.000 0.000

5.000 6.000 6.000 6.000

0.678 0.686 0.606

1.000 0.631 0.575

0.631 1.000 0.688

0.575 0.688 1.000

RP   EP   DP   GP

‑0.2849 0.0921 0.3883

‑0.2053

‑0.3366 0.3480

‑0.2116 0.2229

‑0.2248

‑0.4054 0.1738 0.4586

0.8689 0.8403 0.8799 0.8354

主成分4 主成分3

主成分2 主成分1

変 数

100.00%

92.93%

84.71%

73.33%

7.07%

8.22%

11.38%

73.33%

0.283 0.329 0.455 2.933

累積寄与率 寄与率

固有値 主成分

RPEP   DP  GP

 

RPEP   DP  GP

4 3 2 1

0.606 0.686 0.678 1.000

での主成分の個数は1であることが確認できるため,因子数は1と推定される。

54

企業年金ガバナンスの構造分析とレベル比較

図 2 の レ イ ア ウ ト 位 置 の み イ レ ジ ュ ラ ー の な っ て い ま す。単独で配 置 す る 事 に な っ た 時 は ル ー ル 通 り に 配 置 す る

こ と

(25)

⑶ 第1主成分と総合ガバナンス・インデックスとの関係

主成分分析の結果からは,GP,DP,EP,RPという4つのサブ・インデ ックスがもつ情報量が第1主成分に集約されている姿が示されたため,この 主成分と,総合ガバナンス・インデックスとの関係をチェックしてみる。結 果は,図3の⑴〜⑷に示す通りである。厚年基金,基金型

DB,規約型 DB

という制度別にみた場合も,企業年金全体でみた場合も,第1主成分と総合 ガバナンス・インデックスとは極めて高い相関を示していることが確認でき るため,総合ガバナンス・インデックスが各企業年金の総合的なガバナン ス・レベルを的確に反映していると判断してよいであろう。

また,表16の⑶をみると,第1主成分の負荷量が,4つのサブ・インデッ クスについて0.85前後とほぼ同一の値となっている。この結果から,総合ガ

図3 第1主成分と総合ガバナンス・インデックスとの関係

(26)

バナンス・インデックスを作成する際,企業年金ガバナンスの4つの目的に 対して均一の配点を行って集計した方法の妥当性が確認できるであろう。

⑷ 総合ガバナンス・インデックスの得点分布と構成要素別得点状況 主成分分析によって総合ガバナンス・インデックスの妥当性が確認された ため,次に,この指標を用いて,わが国企業年金のガバナンス・レベルを検 証する。表17は,総合ガバナンス・インデックスの得点分布を示したもので ある。結果をみると,企業年金全体では平均9.7点と,24点満点に対して50

%以下であるが,制度別には,厚年基金と基金型

DB

が12.4点で同水準とな っている。ただし,得点分布は両者でかなり異なっており,基金型

DB

は8 点〜20点の範囲に8割以上が集中している一方,厚年基金は,20点以上が 18.2%,8点未満が18.2%であり,基金型

DB

と比べバラつきが大きくなっ ている。今回のアンケート結果から,8点未満の厚年基金と

AIJ

被害との 相関関係を分析することはできないが,少なくとも,2012年夏時点では,ガ バナンス・レベルの低い厚年基金が少なからず存在していた可能性は高い。

ただし,AIJ事件を受けた厚労省ガイドラインの改正・強化以降は,厚年基 金の集計数値が上昇しているものと想定される。

これに対し規約型

DB

のレベルは,厚年基金,基金型

DB

の約半分程度に とどまっている。中でも,8点未満が7割以上を占めており,少なくとも規 約型

DB

については,スポンサー企業のガバナンス向上への取組みはさほど

表17 総合ガバナンス・インデックスの得点分布

(単位:%,点)

72.3 11.4 18.2

10.6 40.0 22.7

10.6 20.0 36.4

4.3 22.9 4.5

2.1 5.7 18.2

6.4 12.4 12.4

規約型

DB

基金型

DB

厚年基金

平均点 20点以上

16点以上 20点未満 12点以上

16点未満 8点以上

12点未満 8点未満

企業年金ガバナンスの構造分析とレベル比較

(27)

進んでいない現状がみてとれる。

次に,総合ガバナンス・インデックスの得点を,企業年金ガバナンスの4 つの取組内容および8つの要素別に分解してみた。表18をみると,4つの取 組内容のうち,受託者責任の遵守,運用効率化への取組み,リスク管理の強 化はほぼ同レベルであるが,ガバナンス体制の整備は取組みがさほど進んで いない傾向がみてとれる。さらに,8つの要素に分解してみると,ガバナン ス体制の整備のうち,制度運営面での取組みが突出して低い。これは,表5 でみた証券アナリスト資格の保有状況と表6でみた証券アナリスト等の資格 取得勧奨についての点数が低かったことに起因しており,現状の企業年金ガ バナンスに対する考え方が,専門人材の育成や制度運営者へのインセンティ ブの付与といった視点にまで及んでいないことをうかがわせる。

⑸ 総合ガバナンス・インデックスに関する特性分析

続いて,企業年金の制度,規模,オルタナティブ実施状況,運用受託機関 の数といった要因と,総合ガバナンス・インデックスとの相関関係について 分析してみた。分析の結果をまとめたものが,表19〜表22である。

まず,制度別の全体傾向は表17でみた通りであるが,これを規模別に分解 してみると,表19のようになっている。表19をみると,明らかに,資産規模 が大きい方がガバナンス・レベルが高いという傾向がある。この傾向は,人 数規模別にみた場合も同様である(表20)。

0.3 0.5 0.4 制度運営

0.8 1.6 1.7 運用委員会

0.7 1.7 1.6 厚労省ガイド ライン対応

1.0 1.7 1.7 運用の基本

方針

1.0 2.0 2.0 政策アセット ミックス

1.0 1.4 1.3 運用受託 機関選定

0.9 2.1 2.2 年金ALM

0.7 1.5 1.5 リスク管理

リスク管理の強化 運用効率化への取組み

受託者責任の遵守

表18 ガバナンスの構成要素別得点状況

(単位:点)

規約型DB 基金型DB 厚年基金

ガバナンス体制の整備

参照

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