使用者責任の一考察
‑ 使用関係の並列的競合をめ ぐって ‑
神 田 孝 夫
目 次
Ⅰ 序
Ⅲ 「 使用関係」 と 「 事業 ノ執行二付キ」 一概観
Ⅲ 判決例の整理 と分析
Ⅳ 使用者間の実質的同一性
Ⅴ むす び
Ⅰ 序
(1 )本稿 は,加害行為者 につ き複数の使用関係が並列的に競合 して存在す る場合 に民法 7 1 5 条の使用者責任の成否が どのように判断され ることになるか, を問題 とす る。例示的にいえば,甲会社が, 自動車を乙会社に貸与す るに当た
り運転手 ・助手等の従業員をっけた り,あるいは自会社の従業員を関連の乙会 社 に出向させ るなどして,具体的には乙会社の指拝監督の下 においたといった 場合 に串いて,右従業員丙がな した不法行為 について甲はどのような状況の下 で使用者責任を負 うことになるかが, ここでの問題である。使用関係が競合す る場合 としては,他 にそれがいわば重層的に競合す る場合が考え られ る。甲会 社の事実上の指揮監督下にある乙会社が さらに丙を使用す るといった場合が こ れであるが,本稿では,紙幅の関係 もあって,それには触れない。
さて, この場合 に重要 な論点 となるのは,民法 7 1 5 条のい う 「 他人 ヲ使用ス ル者」 とはいかなる者を指すか とい う点 と 「 事業 ノ執行二付キ」 というのはい
〔35〕
36 商 学 討 究 第42巻 第2・3号
かなる事態を指すかの二点である。 これ らの諸点 は,使用者責任が争われ る場 合 につねにその限界が深刻な問題 となるところであ り,使用関係が競合す る場 合特有の問題 というわけではない。 しか し, この場合においては 「 他人 ヲ使用 スル者」の限界が もっとも明確 に浮 き彫 りになるといってよ く ( 以下, この要 件を指す ときにはとくにカ ッコを付 して 「 使用関係」 と表現す る) ,その意味 で この要件に関す る判例の実態分析にとって恰好の素材を提供 しているととも に,今後 こうした関係の増加が予想 され るだけに,その点をいかに解す るかが 実務上 きわめて重要な問題 と考え られ る
。また,筆者によれば, これ らの事案 においては, 「 事業 ノ執行二付キ」が一般の場合に比 してやや異な ったかたち で処理 されているよ うに解 され る。 この要件 については,かねて事案に応 じた 類型的分析の重要性が説かれて きた ところであるが
1),そ こで は主 に手形偽 造 とか交通事故 といった加害原因の諸類型が注 目され るにとどまり,使用関係 の態様 に着 目した分析 はみ られなか った。そ うした事情か ら, これ らの事案 に 関す る判例の実態を検証す ることは,従来の判例分析の欠を補 う意味を もつ と ともに,いわゆる外形理論なるものの実体の理解に反省を促すひとっの契機 と もな りうると思われ る
2)0ところで,使用関係が競合す る場合の使用者責任の問題 というのは,複数の 使用者間に経営上の協同的一体性ない し実質的同一性の関係が認め られ る場合 の問題 と密接 に関連す る側面を もっている。並列的に競合す る使用者間には程
注 1 類型的考察の必要性 は,田上盲信 「 使用者責任における 「 事業 ノ執行二付キ」の 意義」( 有泉亨監修 ・現代損害賠償法講座 6 ・日本評論社,昭和45 年所収)をは じ め,つ とに強調 されていた ところであり,近時の体系書のすべてが多かれ少かれそ の手法を とっているといっていい。筆者 自身 も,か って拙著 『 使用者責任』( 一粒 社 ・昭和53 年)において不十分なが ら同様の態度の下 に判例の整理 ・分析を試みた
ことがある。
注 2 外形理論の実態分析 はかねてか らの筆者の問題関心のひとつであ り,その考察の
一端 は 「 「 事業 ノ執行二付キ」に関す る研究序説」( 北大法学論集38 巻 5‑ 6 号昭和
63 年,のち拙著 『 不法行為責任の研究』一粒社 ・昭和63 年 に収録)および 「 「 事業 ノ
執行二付キ」に関する研究序説 ・続」( 北大法学論集39 巻 5‑ 6 号上巻 ・平成元年)
等において公表 しているが,本稿 も,そ うした作業の一環 としての意味を ももつ。
使用者責任 の一考察 37 度の差 はあれなん らかの経営上の関連があることも少な くないか らである。そ れはとくに出向の事案に顕著 といえる。その意味で,後者に関す る判例の実態 を分析す ることは,それ 自体重要な意義をもつ とともに,並列的競合について の処理 との均衡や整合性を検証す るとい う意味において も意義があると考え る。本稿では, これ らについて も可能なかぎり検討を加えたい。
(2 )本稿の考察対象につ き,なお一言す る.使用関係の並列的競合が認め られる場合 において も,当の加害者を直接指揮監督す る立場にある者の使用者 責任の成否に関 しては,通常の事例に比 しとくに重要視すべき問題点 はない。
困難なのは,必ず しも具体的ない しは直接的に指揮監督す る立場 にはない者の 使用者責任の成否である。本稿では, この場合をめ ぐる判決例の分析に照準を 合わせ る。使用者責任については,他 にも責任主体をめ ぐる問題や免責事 由を め ぐる問題など多 くの問題点があるが,先に述べた理由か ら,本稿では 「 使用 関係」 と 「 事業 ノ執行二付キ」の二要件 に着 目す るにとどめる。同一人の加害 行為 につ き複数の者に使用者責任が課せ られ ることも十分考え られるところで あ り,その場合の両者間の事後処理 ( 求償の可否,その範囲など)の問題 も興 味あるところだが, これについて も本稿では触れない。
以下,まず,本稿の目的に必要 と思われ るか ぎりで 「 使用関係」 と 「 事業 ノ 執行二付キ」をめ ぐる基本的な問題点および両者の相関関係についての筆者の 考え方 に簡単 に触れ ることか ら始めたい。それは,筆者の判例分析の視座を示 す とともに,読者 に判例の理解 にとって有効 と思われる視点を提供す ることに
もなるであろう
。Ⅱ 「 使 用関係 」 と 「 事業 ノ執行 二付 牛」 一概観
(1)まず 「 使用関係」についてだが,その存否 は,結局事実上の指揮監督
の有無が決め手 となるのであ り,契約関係の有無 はもちろん,それが一時的な
ものか否か,対価を伴 うものか否かを問わない, とは古 くか ら言われて きたと
ころである。 しか し,そ ういっただけでは,指揮監督の実体 はいまひとつ捉え
38 商 学 討 究 第 42巻 第 2・3 号 きれない。次のように分析的に考えるのが有効 と思われ る。
その第一 は,「 使用関係」の相対性 とい った問題である。私的 自治を基本 と す る近代法においては,ある人間の全生活関係 に対す る指揮監督 というものは 考え られない。そ うである以上,「 使用関係」 とい うものはある人間 と他 の人 問 との間の一般的な関係 ( いわば全人的な属性)ではあ りえず,所詮それはあ る人間の一定の時間的 ・場所的範囲内の行為 との関係で しかない。その意味で 相対的な関係にとどまることに留意すべ きである。従来,一時的な もので足 り
ると説かれたのはその ことを示 したとも思われ,そ うとすればこと改めて述べ るまで もないともいえるが,その点に関する判例の実態は実 は必ず しも透明な もので はない。 とくに事実上の指揮監督が長期 にわた っている場合 について は,それが多かれ少なかれ断続的な ものであって決 して間断な く行われるもの でないにもかかわ らず,一般的な関係 として 「 使用関係」を肯定す るのが通例 といっていい。た とえば,よ く問題 となる従業員の休 日や出勤途上での加害行 為等につ き,判例 は当の加害行為者 に対す る 「 使用関係」が存在す ることを当 然の前提 とした説示をす ることが多 い。 しか し,そ うした捉え方が当然 に妥当 か は,指揮監督の程度 ・対象を どのよ うに理解す るかに関わ るところである が,やや問題のあるところといっていい。 この点 は,従来の学説 においてはほ
とんど等閑視 されてきたところといわなければな らない。
第二 に,上述の点 とも表裏の関係 にあるが,「 使用関係」の多元性 とい った 問題がある。個人の生活関係 はいろいろの側面を もっているか ら,ある個人の 異なる時間的 ・場所的範囲内の行為がそれぞれ別の者の指揮監督 に服す るとい うことは十分考え られるところである。 したが って,ある個人にとって複数の
「 使用関係」が存在す るとい うことは稀な ことではな く,む しろ しば しばあ り
うるところといっていい。会社 に雇用 されている者が夜間には副業的に他会社
の仕事にたずさわ っているといった場合を考えれば容易に理解 されよう
。とこ
ろで,それぞれ別の者の指揮監督 に服す るといって も,その対象 としての時間
的 ・場所的範囲が明確 に区分 け しうるとは限 らず,加害行為がいずれの使用者
の指揮監督の範囲内の ものかの判別が必ず しも容易でない場合 もあ りうる。時
使用者責任の一考察
39間的 ・場所的範囲をどのように考えるかにもよろうが, ときには複数の者 によ
る指揮監督の関係が競合す るとい うことも考え られよう
。この場合 には,まさ に本稿が問題 とす る 「 使用関係」の並列的競合 という状態が生 じる。
第三 に,指揮監督 といって もどの程度の内容を もった指揮監督を考え るのか といった問題がある。つまり,相当程度 に具体性を もった ものである必要があ るのか,一般的ない し基本的事項 に関す るそれで足 りるのか。判決例の多 く は,必ず しも具体的な ものである必要はないとして後者の態度をとっているよ うに解 されるが,やや厳格ない し限定的に解 していると思われ るもの もな くは ない。 この点 は,「 使用関係」の成否を規定す るもっとも大 きな要素 とい って よい。具体的なそれを要求すればす るだけ 「 使用関係」が存在す るとされ る場 合 は縮減 され,一方,緩やかにそれを捉えるな らそれだけ 「 使用関係」が拡大 す ることにな り, したが ってまた,「 使用関係」が並列的に競合す ることとな る可能性が多 くなる理である。本稿が分析対象 とす る種 々の判決例 において も,事実関係が近似す るにもかかわ らず 「 使用関係」の成否 につ き異なる結論 が示 されることがあるが,それは上記の点 についての理解の差異にもとづ くと いっていい。なお,専門職や技術職に対す る指揮監督 といった ものは, ことの 性質上,それを上回 る知識 ・技能を有す る者が行 うとい う場合のほか具体的な
ものではあ りえないと考え られ ることに留意 したい。
第四に,指揮監督の方法 に関す るもの として,それが直接的な ものである必 要があるか間接的な ものであって もよいかの問題がある。指揮監督 は他人を介 してのそれであって もよい とは,判例 ・学説上古 くか らいわれているところで
注 3 判例 としては,すでに古 く,大判大正 2 ・2・5 民録1 9・57 が 「 使用者が 自己の 義務に属す る被用者の監督 に付 き特 に第三者を雇使 し又はその監督を之 に委託 した る時は是等の監督の過失慨点 は使用者の過失僻怠 として法律上その効を生ずべ く‑
何 となれば是等監督者 は要す るに使用者 に代 りて監督の衝に当たる者 に して,使用
者の責任 は他人を して監督の任 に当た らしめたるが故 に軽減せ らるべ き理由な く,
監督者の行為に対 しては自己の行為 に於 けると同一の責任を負わざるべか らざるは
当然に して‑」 と説 き, 学説上 も殆 ど異論のないところである. ‑この点 については,
なお前掲 ・拙著 『 使用者責任』 5 頁,95 頁以下を参照 されたい。
40 商 学 討 究 第42 巻 第 2・3 号
あ るが
3),そ こでの議論 は,主 と して相 当規模 の企業 にお ける一般被用者へ の指揮監督 の重層的構造 を念頭 に置いた ものであ った。 ここで問題 とす るの は,それ と異な り,いわば部外者を通 しての指揮監督である。従来,主 に,元 請人 と下請人の被用者間のそれのように,ある者の指揮監督下 に置かれている 者が さらに自己のため第三者を指揮監督 している場合 ( いわば重層的使用関係 の存在)におけるある者 と右第三者間の関係をめ ぐって問題 とされて きた とこ ろであ るが 4 ),本稿が問題 とす る使用関係 の並列的競合 の場合 につ いて も, 考慮 され るべ き問題点のひ とつである。
上 にみたいずれの点 も微妙 な問題を含むが,その判断基準の最後のよ りどこ ろは,結局,使用者責任な る法制度の 目的 ・趣 旨いかんに求めるはかないと患 われ る。いずれに して も,従来,単 に事実上の指揮監督の有無 とい うことのみ が 「 使用関係 」の有無の判断基準 として説かれてきたのに対 し, ことは しか く 単純ではない ことが判 ろう。そ して,その有無 は,実 は単 に事実の問題で はな
く,む しろ当為の問題 あるいは法的評価の問題 とい う側面がつ よい とい うこと を直視すべ きである。
(2) 次に,「 事業 ノ執行二付キ」の画定基準 についての筆者 の基本的な考 え方 につ き簡略に触れてお きたい。
この要件 については,周知のように,いゆる外形理論が判例 ・学説上定着 し ていると一般 に解 されているが, この外形理論 なるものの意味内容 は,実 は必 ず しも明瞭でない。その精密な分析 は, む しろ これか らの問題 とい う他 ないが, 筆者の これまでの不完全 な研究 に もとづいていえば,次のよ うな内容を もつ も
の とい っていい。第一 に,使用者 の 「 事業」 に関す る行為であ る必要 があ る が,それは,あたか も法人の 目的 ( 民法 43 条参照) についての理解 と同様 に, ごく緩やかに解 され るべ きであるとい う理解が学説上一般的であ り,判例上 も
注 4 最判昭和 37・1 2・1 4 民集 1 6・1 2・2368 は,使用関係に関する判示か 「 事業ノ執
行二付キ」に関する判示かやや不透明な部分があるが,まさにこの場合を問題とす
ものということができる。その後,この問題に関する下級審判決も多 く,興味ある
問題を含むが,その考察については別の機会に委ねる。
使用者責任 の一考察 41 きわめて緩やかに解 されているといっていい。 この点につ き外形上判断される べ きことを説 く論者や学説 も少なか らずみ られるが,そこでの実質 は,単に客 観的にとい うに等 しい。次に∴加害行為者の職務権限与の関連が問題 とされ る が, これについては,加害行為者の目的が どこにあったか ( 使用者の利益を図
るものであったか, 自己ない し第三者の利益を図 るものであったか) といった 行為者の主観いかんを問 うべ きではない,その意味で,行為の外形か ら判断さ れ るべ きで,そこに外形理論の主 旨があると説 く学説が数多い。 しか し,それ のみでは,判例上形成されてきた外形理論の実態を十分には表現 しきれていな いとい うべ きである ( そこでは,評価の対照 としての行為の捉え方 にのみ係わ るもの として この理論を理解 していることになる) 。私見によれば,それ とと もに,加害行為が使用者か ら指示 された具体的かつ正当な職務の遂行 と同時的 に行われたか否かを問わないとい う趣 旨を含み,さらに加えて,当該行為がお よそ当人の 「 職務権限の範囲」の枠を逸脱す るといった場合において も当人の
「 職務権限の範囲内」に含 まれ るとの外形を呈 している場合には 「 事業 ノ執行 二付キ」に当たるというのが,従来の多 くの判決例か ら抽出 しうるいわゆる外 形理論の意味であると考え る。 これによれば, 自己に与え られた職務権限を悪 用ない い監用 したという場合 はいうに及ばず,当該行為が違法の要素を払拭 し て抽象的にみてもなお彼の職務の範囲を逸脱す る場合において も,なお 「 事業 ノ執行二付キ」を満た しうる余地があることになる。換言すれば,「 職務権限 の範囲」の内外を外形上判断す るという点にこそ外形理論の真髄があると理解 され るのである。
いかなる場合にそれが満たされるかが実際上問題であ り,その点をめ ぐって
職務権限との関連の程度 とか加害の手段ない し道具 との近接度,加害の容易度
といった諸点が従来指摘 されているところであるが,それ らの他に判例が実際
上重要視 している要素がないかはひとつの問題であ り, この点の究明は筆者の
かねてか らの課題で もあるが,本稿では探入 しない。外形理論の機能をめ ぐっ
ては,相手方 たる被害者の信頼を保護す る機能が あ るか とい った問題 もあ る
が,本稿の課題 に関す る限 りそれに触れることは必ず しも必要でなかろう
042 商 学 討 究 第 42 巻 第 2・3 号
(3 )次に, 「 使用関係」の画定 という問題 と 「 事業 ノ執行二付キ」なる要 件 との相関関係 について一考を加えたい。まず 「 使用関係」が存在 しない場合 においては 「 事業 ノ執行二付キ」に当たるか否かを判断す るまで もな く使用者 責任 は否定 される。その意味で,この要件の機能す る余地 はない。「 使用関係」
の存在が容認 されてはじめて 「 事業 ノ執行二付キ」を満たすか否かが問題 とな ることになるが,その際 「 使用関係」の判断の基礎 となる事実上の指揮監督 と い うものを厳格に解す るか緩やかに解す るかによって 「 事業 ノ執行二付キ」な る要件の機能す る範囲が左右 され ると考え られ る。つ ま り,「 使用関係」を限 定的に解す る場合 においては,使用者の事業や加害被用者の職務に密接な関係 がある行為にたず さわる限 りで 「 使用関係」が肯定 されるにとどまることにな るか ら,したが ってまた,そ うした行為を契機 とす る加害行為のみについて「 事 業 ノ執行二付キ」が問題 となるわけであり,それが肯定的に解 され ることにな るのはいわば当然の帰結 といえる。他方,「 使用関係」 とい うものを緩やかに 解す るときには,加害行為者が被用者性を保つ場所的 ・時間的な範囲 というも のはそれだけ広いということになるわけだか ら,事業や職務 に必ず しも密接な かかわ りを もたない行為を した場合 において も, とりあえず被用者 としての行 為 と捉え られ ることとなる。そ こで,次段の問題 として 「 事業 ノ執行二付キ」
なる要件が責任の成否を画定す るもの として重要な問題 となる。そ して,そ こ には じめて周知の外形理論 といった ものが機能す る可能性 もでて くる, といえ よ う
。二つの要件 は論理的には以上のごとき関係 にあるが,判決例のすべてがそ う した論理 に対応す る説示を しているとはいいきれない。加害行為 と職務 との関 係が極めて密接である事案においては,単 に 「 使用関係」の存在のみに論及 し
ているにす ぎなか った り,逆 にそれには触れず 「 事業 ノ執行二付キ」の点のみ
を問題 としているもの も少な くない。また,いずれについての説示なのか判然
としないもの もな くはない。以下の判決例の理解 に当たっては, これ らの点を
予め弁えてお くことが有効であろう
。使用者責任 の一考察 4 3
Ⅲ 判決例の整理 と分析
(1 )使用関係が並列的に競合す る場合を問題 とす る従来の判決例 において は,どのような事案について,いかなる根拠ない し理 由づけによって,どのよ うな者 に使用者責任が肯定 または否定 されているか。本章 は,その整理 ・分析 に当て られ るが,その際,使用関係の並列的競合が生 じた事情に着眼 し,その 形成が先行の使用者の積極的な関与 によっていたか否かによって類型的にこれ を整理 ・分析す ることが有益 と思われ る。そ うした事情 いかんは, 「 使用関 係」の成否や 「 事業 ノ執行二付キ」の判断に当たって重要 な影響を与えると考 え られるか らである。
(2) まずは先行の使用者が積極的には関与 していない類型 についてだが, これにも以下の二場合が考え られ る。第一 は,被用者側の主導によってそ うし た関係が形成 される場合である。会社の従業員が夜間には副業的に他の使用者 の下で仕事につ くといった場合がその典型である。第二に,すでに他人の被用 者である者を第三者がその事業のため 自己の指揮監督下 に置 くといったよ う
に,第三者 ( いわば後発の使用者)の主導 によってそうした関係が形成され る 場合がある。妻の雇用す る店員を夫が一時的に自社の業務に使用 した り,会社 員たる弟を兄が 自己のため使用する場合が これである。同 じく後発の使用者の 主導 によると して も,先行の使用者の同意 に基づ いた と考え られ る場合 もあ る。鉄道院の踏切番が私鉄の踏切番 としての職務を兼務 した場合 とか,県立病 院医師が検察官の嘱託で鑑定を したといった場合などが これである。今 日,社 会関係が複雑化す るとともに個人の生活関係が多面化 しつつあることを考える
と,そ うした関係 はますます増えるものと思われる。
以上の多 くの場合において,当該加害行為に対す る指揮監督 は,基本的には
択一的な関係にあるとみていい。被害者たる原告 は,当該行為を指揮監督する
立場 にある者 に対 し使用者責任を訴求す ることとなろう
。そ して,その者 との
関係で「 事業 ノ執行二付キ」に当たるかが問題 とされ ることになる。たとえば,
荊述の,会社員たる弟を兄が 自己のため使用 した場合を問題 とした最判昭和56
4 4 商 学 討 究 第 4 2 巻 第 2・3 号
・l l ・27 民集 35 ・8 ・1 271 や鉄道 院の踏切番が私鉄 の踏切番 と しての職務 を 兼務 した場合 に関す る大判大正 6 ・4 ・1 6 刑録 23・321 にお ける一審以来 の経 緯や判 旨をみれば明 らかであろ う
。しか し,当該行為が複数 の者 の指揮監督 の下 にある ことも考 え られ,さ らに, いずれの者 の指揮監督下 にあ るといえ るか判然 と しない場合 もあろ う
。また,
「 使用関係 」が肯定 され るに して も 「 事業 ノ執行二付キ」に当た らず とされ る ことによって結論的に責任が否定 され ることも十分考 え られ るところである
。以下 に,そ うした限界事例 において使用者責任 の成否が問題 とされた興味あ る 若干 の判決例 を示 そ う
。( 丑大判 昭和 4 ・l l ・1 2 新聞 30 57 ‑判任官待遇の防疫 医が 自治 団体 の業務 に従事 した 際の過失 事故 に対 し自治団体 の使用者責任が 問われ た事 案 につ き,右 医 師が判 任官待遇 た る以上国家の官吏であ るか らと して, 自治団体 の使用者責任を否定 。 ( 参札 幌地 昭和 3 2・8・9 不 法行 為下民昭和 32 年上 2 4 4 1かねて某消防団 の団員で あ り,かつ父親 の営む 自動車修 理業 を手伝 って いた Aが,消防本部 か ら修理 を依 頼 されていたオ ー トバ イをその修理後 同本部 に届 け る途上事故 を惹起 した事案 につ き,右 A の行為 は消 防団員 と しての行為 で はな く,父親 Y の使 用人 と して の行為であ ると認 め るべ きであ る, と説示 して Yの使用者責任 を肯定 。
③宮崎地 昭和 4 8・7・1 6 判 時 7 63・9 0‑ 県立病 院医師が検察官 の嘱託 で裁判官 の鑑 定処 分許可状 な しにイ ソ ミタ ール注射 を した事案 につ き,検察官 よ り依頼 を受 けた鑑定人 はいわば国家機 関で あ る検察 官 の補助者 た る地位 を有 す るもので あ り, その鑑定行 為 は職務 とは関係 な く,特別 の学識経験 を有す る個人 の資格 に お いて これ をなす もので ‑Y県立病 院 とい う施設 の場 において行 われた とはい え, Y県 の 「事業」 に属 しない こと明 らかで あ る, と説 示 して Y の使 用者責任 を否定。
④東京地 昭和 50・6・1 9 交通民 8・3 ・81 9‑Y 会社 の 出張所 の作業指揮者 であ り
なが ら,他方夜 間 にはアルバ イ トと して W 会社 の仕事 を し, しか も W 会社 の寮
に住 んで いた A が, W 会社 の仕 事 を したのち, Y 会社 の 出張所 に宿 直の当番 に
当た ってい るか ど うかを確 かめ に行 った帰途交通 事故 を起 こ した事 案 につ き,
使用者責任 の一考察
45本件事故は Y 会社の業務の執行につき惹起されたものとはいえない,と説示。
上記の①については,今 日か らす ると,現 に自治団体の業務に従事 している 以上,その当否にはやや疑問があろう
。②については,父親のみが被告である ことか ら具体的結果には問題がないとして も,消防団員 としての行為 とい う側 面が まった くないのか となれば,微妙 といわなければな らない。③ について は,はた して個人の資格においてなす ものといいされ るか,上記鑑定行為が県 立病院の もつ機器 ・人的設備 の活用を前提 としていた とも考え られ るのであ り,そ うとすれば若干の疑問 も否足 しがたいように思われる
。④ については, Y ・A 間の使用関係 じたいは容認 しているとみ うるのか,それ じたい必ず しも 明確でないが, 仮 にこれが容認 され るとい うのであれば , 「 事業 ノ執行二付キ」
を広義に解す る今 日の判例か らす ると,結論的に,Yの責任が認め られる余地 もな くはないであろ う
。(3 )従前 ( 先行)の使用者の主導によって新たな使用関係が形成 された場 合をめ ぐる判決例を次にみる。本稿 における主要な関心、 は, こうした類型にこ
そあるわけであるが,この場合 において主 として問題 となるのは, 従前 ( 先行) の使用者が当該の加害行為 との関係でなお 「 使用関係」を保持 し続 けていると いえるのか,仮にそれを容認 しうるにして も,当の使用者に関 し 「 事業 ノ執行 二付キ」の要件を満たす といえるかの二点である。実際上 しば しば争われると
ころであ り,また,理論的な側面で も,二章で概観 したような 「 使用関係」の 判断につ き問題 となる多 くの論点を内包 しているとい う意味で,重要である。
これにも事実関係 に着 目す ると,種 々の事態が考え られる。そうした中で も, とくに近時は, 自動車が賃貸 される際に賃貸人側か ら運転手 ・助手などの従業 員が付 け られ る場合や 自会社の従業員を他会社へ出向させ るといった場合をめ
ぐって, しば しば裁判上争われ るようであるが,そ うした事案 ごとの検討 はの ちに回す こととして,まずは, こうした類型に関す る先駆的な位置にあると解 され る大審院時代の判決例を概観す ることか らは じめる
。(a) 大審院時代 の判決 には,対照的な二つの考え方が存在 したよ うであ
る。以下,判決文の要点を紹介す ることによって,それを示そう
。46 商 学 討 究 第 42 巻 第 2・3 号
まず,従前 ( 先行)の使用者の責任を制限的に解す るもの として以下の例が ある。
⑤大判 昭和 2・3・1 0
民集6・9 4‑ 船の賃貸が船員付 きでな された場合 におけ る同 船員 の過失 によ る船舶 の衝 突事故 の事案 につ き,原審判決 が,賃貸人 は賃貸 中 にお いて も船員 に対 し給料等 を支給 して い るが故 に同船員 は賃 貸人 の雇人 に し て同船 の操縦 に関す る ことは賃貸人 の事業 な りと したの に対 し,判 旨は, これ を否定 し,賃貸 で あ る以上 ,特別 の理 由な き限 り同船 の 占有 は賃借 人 に移 り, その指揮命令 の下 に賃借人 の事業 の為 にす る航行 は賃借人 の事業執行行為 に他 な らず とい うべ く,賃 貸人 が船員 に対 し,船舶貸与 中 にお け る給与 を支給 した れ ば とて この一事 によ り同船 の航行操縦 に関す る事項 を もって賃貸人 の事業 な
りとなすの理 由 とす るに足 らず, と した。
この大審院判決の態度 は,次の判決にも踏襲 されている。
⑥朝高院昭和 1 1 ・3・20 評論2 6 巻民1 05‑ 自動車 の貸与が運転手付 きでな され た場 合 におけ る同人 の運送途上 の事故 の事案 につ き,原審 判決 が運転手付 きの卓 の 賃 貸 もまた賃 貸人 の事業 にはか らな らない との理 由によ り賃貸人 Y の責任 を肯 定 したの に対 し,判 旨は,特 別 の事情 のない限 り,賃 貸借 契約 によ り賃貸人 Y の なすべ きと ころは 自動車 を賃借 人W に引渡 し爾後 同人 を して その使 用収益 を な さ しむ ることの外 に出でず, W が これを 自己の乗合 自動 車営業 に使 用 し旅客 運搬 の ため運転手 を して その運転 を させ るの はW の事業 の執行 に属 し,賃 貸人 た る Y の事業 の執行行為 で はない といわ なけれ ば な らない と し, A が Y か ら給 料 の支給 を受 けまたはYの雇 人 と してその身分上 の監 督 に服 して い る事実 が あ るか らとい って,右行為が Y の指揮監 督 の下 に行 われ従 って A において Y の事 業 を執行 した るもの と倣すわ けにはいかない, と説示。
上記のいずれの原審判決に もみ られたように,従前 ( 先行)の使用者の事業
の一環 として派遣 されているという側面な らびに賃貸中 も雇用契約が継続 して
いるとい う事実に着 目す ると, 「 使用関係」の存在の可能性が十分考え られる
と思われ るのだが,上記判決 はともに,加害原因 となった行為が賃借人側の営
業行為 としてなされ,かつ直接的には賃借人側の指揮監督の対象 となる時間的
使用者責任の一考察 47
・場所的範囲内で行われ? =とい う事実を重要視 した とい うことがで きよ う
。もっとも,いずれにおいて も,賃貸人 と従業員問の 「 使用関係」 じたいを否定 す る趣 旨か,賃貸人につ き 「 事業 ノ執行二付キ」を満たさないとす る趣 旨か,
いまひとっ判然 としない面 もある。
以上 に対 し,従前 ( 先行)の使用者の責任を緩やかに認めたと解 しうるもの に以下の例がある。
⑦大判昭和 1 6・1 2・27 民集 20・1 479‑ 沖仲仕業者が配下の人夫を船長 またはその代 理人 の指拝 に従 わせ た際 にお け る人夫 の過失事故 の事案 につ き,沖仲仕業者 た るY会社 は労力請負及 び これ に付着す る一切 の業務 を 目的 とな し,沖仲仕業 も またその事業 に属す るを以て Y 会社 は仲仕 を雇 い これを指揮監督す る責任 を有 す るものに して,民法715 条 による賠償責任があ る, と説示。
事実関係 としては,た しかに前述の二判決の場合 と差異があるともみえ る が,いずれ も業の一環 として派遣 しているという面では共通 し,また直接的に は派遣先の指揮監督下 に置かれているとい う点で も差異がない。本判決が先例
(とL (に⑤大判昭和 2・3・1 0 ) との関係をどの程度意識 していたか不詳であ るが,それ とは相容れない考え方を示 した もの と捉えてよいであろう
。あえて 両者に整合性を求めよ うとす るな ら,船舶ない し車の貸与に当たって従業員が 付 されるのは必ず しも一般的でないのに対 し,本判決の沖仲仕業者 においては 仲仕を派遣す ることはまさに業その ものであるとい う点が両者の差異を もた ら
した, とい うべ きであろうか。
(b) 次に戦後の判決例につ いてだが,大審院時代の判決例 にすでにみ られ たこうした相異なる態度 は,戦後の判決にもっよい影響を与えたと解 され る。
否定例であれ肯定例であれ,そ こに示 されたそれぞれの理由づけが ほぼそのま ま踏襲 されているか らである。以下 にその状況をみるが,事案 としては,車の 従業員つ き賃貸の場合のはか,近時は,関係企業への出向の場合をめ ぐる事例 が多 く登場 しているのが特徴的である。なお,今 日の ところいずれ も下級審判 決であ り,最高裁判決はみ られないことに留意 したい。
( イ)まず,従業員付 きの車の賃貸の事案に関す るものか ら概観す るが,そ
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商 学 討 究 第42
巻 第2・3
号こでは,ほぼ賃貸人側の使用者責任を肯定す る傾向が定着 している,といえ る。
否定例 としては,知 りえた限 り,比較的初期の次の事例があるにす ぎない。
⑧浦和地越谷支昭和32・1 2・1 3 下民 8 ・1 2・2 352 ,不法行為下民昭和32 年上345‑
賃貸人 Yは賃借人W に自動車 を賃貸 してWのためその用 に供 し,Wが Aを して 運転せ しめていた ことに帰 し,その事業 はYの ものでなか った もの と判断す る を相 当 とす る,殊 に本件の場合 Y と して は A の運搬 に対 し,支配ない しは一切 の指揮監督権のなか った こと明白なるにおいてはなお さらその感をつよ くす る,
と説示。
「 使用関係」 自体を否定す る趣 旨か,「 事業 ノ執行二付キ」を満たさないと い う趣 旨かが ここで もやや判然 としない面があるが,いずれに して も,前述 し た戦前の二判決 と同旨の考え方を示す もの とい うことができよう。
さて,肯定例についてだが,そこで も, はば戦前の肯定判決 にみ られた理 由 がそのま踏襲 されているといっていい。すなわち,貸与者側が雇用主 として従 業員 に対す る指揮監督権を完全 には失 っていないこと,貸与行為 じたいが 自己 の営業行為の一環 に他な らないことの二点が主要な論拠 として指摘 されるのが 通例である。なお,結論的に責任が肯定 されている以上,いずれ もが 「 使用関 係」はもちろん 「 事業 ノ執行二付キ」 も肯定 しているとみて構わないこと当然 である。以下に,その論 旨に注視 しっっ,具体例を概観す る。
⑨大阪地昭和42・1 2・8 判 夕216・1 78‑ 賃貸人 Yは運転手 Aの雇用主 として身分上 の監督権を有 し給料 も支給 していること, Aを賃借人W の完全な支配の もとに おいていない ことなどを述べた うえ, AがW の業務 に従事 している間 も賃貸人 Y は A に対す る一般的な指揮監督権を失 っていない もの といえる, と説示
5)0
注 5 本判決では,車の賃料を時間制で徹 し,運転手 Aは賃貸人たるYの営業所に出勤
してガソリンを入れたうえ賃借人Wのところに赴 くこととなってお り,Yの社員が
同乗 し,配達先,積卸 しについて指示す ることを常 としていたという事実の認定を
基礎 としている点か らす ると,Y側 との関係が単なる運転手っ さの貸与ではな く,
直接的かつ具体的な指揮監督が伴 っていた事例 とみることもで き,そうとすれば以
下の事例 とは異なる特殊な事例 というべ きか もしれない。
使用者責任 の一考察 4 9
⑲神戸地昭和 4 3・7・1 5 判 夕2 2 5・1 8 7‑A は賃貸人 Y の命 によ りその雇傭契約上 の 義務 と して運転業務 に従事 して いた ものであ り,かつ Yが土木工事用機具を運 転手付 きで反復 的に有償貸与す る行為 は,それ 自体一種 の営利行為で あ って本 来の事業 に付随 もしくは関連す る業務行為 とい うを妨 げず, と説示。
⑪新潟地長 岡支 昭和 4 7・3・2 3 交民集 5・2・4 4 0‑W に対す る車 の貸与 も,賃貸 人 Y の本来 の事業 に付随 も しくは関連す る業務行為 と解す る余地が あ るのみな らず,車 の貸与 は短期 間の もので,燃料費等 の諸経費 はY側 で負担 し,予 め運 転上 の注意 など してお り, Yの一定 の指拝監督権 が間接 的 には運転手 A に対 し て及 んでいた もの と認 め られ,そ うとす ると, Aは,賃借 人W の業務 の執行 と 競合 して, Yの業務 を も執行 中,過失 によ り本件事故 を発生 させ た もの と解 さ れ るので, Yが715 条の責任 を負 うこと明 らか, と説示。
⑫金沢地昭和 4 7・8・2 8 交民集 5・4・1 1 4 3‑ 賃貸人 Y は, A の雇用主であ り,そ の営業 の形態か らして A に右 ブル ド
ーザーで作業 を させ ることが即 ち Y の事業 の執行 で あ って, その具体 的 な作 業が賃借人 W の指 示 によ り実施 され るので あ って も, Yはなお A につ いて選任監督 の権 限を有す るので あ るか ら,本件事 故 はYの事業の執行 につ いて生 じた もの というべ きもの, と説示。
⑬大阪地昭和 4 9・6・2 6 判 時 7 7 7・7 2 ,判 夕3 1 9・2 3 6 1運転者 A に対す る具体的作 業 につ いての指図 は賃借人 た るWが な していた と して も,本件 レッカ ー車の運 転操作 は Y の被用者 であ る運転手 A が 自己の判断 と技量 によ りその責任 で行 う
もので あ り,また, Yは,その所有 にかか る レッカ ー車 を運転手つ きで賃貸 し て賃料 を取得す ることを直接 の 目的 とす る営業 をなす もので あ って,そ うだ と す ると,Yは民法 715 条 の使用者 とい うべ き, と説示 6 )0
これ らの判 決 例 にお いて 「 事 業 ノ執 行 二付 キ」 は どの よ うに扱 わ れ て い るで
注 6 本判決 は,被害者 に賠償 したYか ら賃借人たる Wに対 しな した求償請求 とい う珍 しい事案であることに注意。この点 につ き判 旨は , Yの現場責任者 Kは W らに対 し, 事故 に対す る責任をYにおいて負担 LW らには負担をかけない旨を約 した ものであ
るか ら,Yは本件事故直後W らに対 し求償債務を免除 したとい うべ きである, と説
示 している。
50 商 学 討 究 第42 巻 第 2・3 号
あろ うか。事実関係か らす ると上記諸判決が問題 としたすべての加害行為がい ずれ も過失 によ る もので あ り, しか も貸与 目的の範 囲 内で の運行上 の事故 で あ った とい うことか ら 「 使用関係」が肯定 され る以上 「 事業 ノ執行二付キ」が 肯定 されて当然 といえ る事例であ った, といえ る。 したが って,正確 には,質 貸人の事業ない し貸与 目的の範囲を逸脱 した行為 に起因す る加害行為 の例が登 場 しない限 り判例 の態度 は明 らか にな らない, とい うべ きであるが,⑪や⑫判 決 においてはやや限定的に解す るとの態度 も窺 え る7
)0(ロ)次 に出向元の使用者責任が問題 とな った判決例をみ る。近時 は, しば しば問題 とされていることは前述 した ところだが, ここで は肯定例 と否定例が ほぼ括抗 してい る とい って よ く, また,肯定例 ・否定例 の 内部 にお いて も,
「 使用関係」の成否 の理解 の仕方 じたいにか な り異 な る ものが あ るよ うで あ る
。出向の理 由 ・形態 ・内容 は様 々であ る。取 引先へのそれ は,経営への協力 ない し補佐 とい う意味がつ よい と考え られ,子会社等の関連会社 に出向す る場 合 につ いては,人事管理 の一環 とい ったむ しろ出向元の内部的事情 に もとづ く 場合 も少 な くないよ うであ る。その期間の出向元 と出向者 との契約関係 の実態 が多様であることが問題 をます ます複雑 に している。法形式上の問題 と実質的 な関係 との帝離を法的な処理 に当た って どのよ うに調整すべ きかが問題 とな る
もっとも典型的な場合 とい っていい。
注 7 この点については,下請の従業員による加害行為についての元請の使用者責任の 成否を問題 とした最判昭和 37・1 2・1 4 民集 1 6・1 2・23 68 が示 した限定的な考え方
‑すなわち,元請人と下請人との関係が被用者との関係またはこれと同旨しうる場
合において,下請人がさらに第三者を使用 しているとき,その第三者が他人に加え
た損害につき元請人が民法 71 5 条の責任をおうべき範囲については,下請工事の付
随的行為またはその延長のもしくは外形上下請負請人の事業の範囲内に含まれると
されるすべての行為につき元請人が責任をおうものと解すべきではなく,右第三者
に直接間接に元請人の指揮監督関係が及んでいる場合になされた右第三者の行為の
みが元請負人の事業の執行についてなされたものというべきであり,その限度で元
請負人は右第三者の不法行為につき責に任ずるものと解する相当とする‑が影響を
もつ可能性がある。 しかし,賃貸人は賃貸を業として行い,かつ加害者の直接の雇
用主である点を考えると,はたしてそれに準ずるのが妥当かは問題であろう。
使用者責任の一考察 51 最初 に,出向元の使用者責任を肯定 した事例か らみるが,それ らが, 「 使用 関係」はもちろん 「 事業 ノ執行二付キ」を も肯定 しているといい うることい う
まで もない。肯定論拠 としては,出向元が出向者たる当の従業員に対 し給与の 支払いをな してお り, これに対す る対人統制権を失 っていない こと,出向 じた いが営利活動の一環 としてなされたこと等が指摘 され る (こういった理 由づけ は従業員つ き車の賃貸の事案 における肯定例 と共通す るといっていい) 。具体 的にみると,次のようである。
⑭大阪地昭和 41・4 ・30 判 夕1 95・9 8‑Y 会社 か ら取 引先 たる W 会社社長の専属運 転 手 と して臨時 に派遣 され た事案 に関 し,判 旨は,右業務命令 は,投資金の安 泰 を図 らんがためであ った こと, Yは運転手 Aに対 し任免権 を もち,かつ給料 の支払 い義務 を負担 し業務命令 の撤 回変更権限を有す るもので あ ったか ら, A に対す る対人統制権を有 し,指揮監督 の可能性があ った こと, A の派遣 は Y の 営業 目的を遂行す る事 と無 関係 な行為で はなか ろ うこと, Yが その企業活動上 自 ら望んで命令 してお り,か つW の指示 を うけるとい う形 での A の Y に対す る 労務提供を容認 していた ものであること,等を理 由として説 く。
⑮広 島地昭和 44・3 ・1 8 交通民 2 ・2 ・340‑ 取引先を応援 させ るため従業員を派 遣 した とい う事案 につ き, 出向元 Y 会社 と出向先 W 組 とはかね て よ り取 引が あ った こと, A は W に派遣 されていた期 間中 もその給料 は Y 会社で支払 い W 組 よ り直接 に何 らかの手 当て等を支給 され た こともない こと,右期 間後 は再 び Y 会社 に帰社 して Y 会社 の仕事 に従事 して いた こと等 を認定 の上 , A が W 組 の事 業 に従事 したの はあ くまで Y 会社の従業員 と してその指捧監督 の もとにあ った もので あ り, A は被用者 と してその事業 の執行 中で あ った もの と認 め るのが相 当, と説 く。
⑯東京地 昭和 48・2 ・28 交通民 6 ・1・30 4 ‑運転手が子会社‑派遣 された事案 に
関 し,子会社 W が運転手 を雇用す る資力が なか ったために親会社 Y が A 他 の運
転手を派遣す るな ど して W の経営を援助 し,その再建 を図 って いた ことなどを
認定の うえ,右事実 によれ ば, A は W の業務 に従事す るにつ いて も常時 Y の指
揮監督下 にあ った とみ るべ きで あ り, また, Y が W に A を派遣 しその道転業務
52 商 学 討 究 第42巻 第2・3号
に従事 させ る こと自体 Yの業務 に含 まれ る もの とみ る ことがで きるか ら,本件 事故 は A が Y の業務 を執行す るにつ き惹起 された もの といえ る, と説 く。
以上の肯定判決 における 「 事業 ノ執行二付キ」の扱いいかんをみると,いず れの事案 も業務上の過失 に起因す る加害行為に関す るものであるゆえ, 「 事業 ノ執行二付キ」はいわば当然に肯定 されて しか るべ き場合であって, これを こ とさら緩やかに解 したといい うる事例 はない, といわなければな らない。 もっ とも,他面, これを限定的に解すべ きとの口吻を示す事例がみ られるわけで も ない。
次に出向元の使用者責任を否定す る例をみるが,そこにおいては, 「 使用関 係」 じたいが存在 しないとす るか,それ と合わせて 「 事業 ノ執行二付キ」 も満 たされないと説かれるのが通例で, 「 使用関係」が存在す るとしつつ 「 事業 ノ 執行二付キ」を満たさないとす る事例 は見出 しえない。 「 使用関係」の否定論 拠 として指摘 され るのは,出向元 との間に雇用契約その他の身分関係が存在す るのみでは足 らないこと,出向元が給与を支払 っていない こと,出向先の経理 が独立性を もっていること,出向元 との間には実質的ない し具体的な指揮監督 の関係がないこと等である。否定例のすべてが,偶然にか,子会社への出向の 場合に関す るものであることに留意 したい。以下に具体例をみよう
。⑰大阪地昭和 4 7・3・8 判 時 6 6 6・8 7‑ 自社製 品の直系販売店 と して設 立 され た子 会社 に出向 した従 業員が権 限を濫用 して手形 を振 出かつ 引 き受 けた とい う事案 につ き,専 ら子会社 W の指揮監督 の もとに相 当期 間継続 的 にその為 に労務 を提 供 させ,その賃金 もすべてW の判断 と責任 において支払 われ,(出向元 た る)鶴 会社 Yか らはなんの報酬等 の支払 いを も受 けな い関係 にあ る出向社 員 と親会社 間 にお いて は,少 な くとも出向期 間中実質上 の指揮監督 関係 が休止状 態 にあ り, その間の出向社員 Aにつ いての使用者 は子会社 で あ り親会社で はな い といわね ばな らない, と説 く。
⑬東京地昭和 6 0・4・1 9 金 商 7 3 9・31‑Y 会社 を休職 してその子会社 W へ 出向 し同
社 の代表取締役 を勤 めて い る A と同社 の取締役 を兼務す る B が物品 を詐取 した
事案 につ き,判 旨は
,「他人 を使用す る者」 とい うため には,使用者 と被用者 に
使用者責任の一考察 5 3
雇用契約その他 による身分関係が存す るのみでは足 らず,当該被用者 の行為 と の関連 において,使用者が被用者 に対 し実質上の指揮監督関係が存 しなければ な らない と解すべ きところ, A は確か に Y 会社の社員 たる地位 を保有 していた けれ ども,Y会社を休職 して対 内的に も対外的に も W 会社 の代表取締役 として 職務を行 っていた と認 め られ るのであ り,その職務 に関 して Y 会社 の実質的な 指捧監督関係 を認 めるべ き証拠 はない と し, また, B について も, Y会社 の取 締役を兼務 していたと して も W 会社の職務 に従事 している際の使用者 は原則 と
して W 会社 のみ とい うべ きであ り,当該職務 に関 して Y の実質的な指揮監督関 係が及んでいた証拠 はないと し, さらに,本件売買契約 に A , B らが関与 して いた として も,それが W の業務の執行 にあた るとはいえて も, これを被告会社 Y の業務の執行 に当たるとはいえないことは明 らかである, と説示。
⑲神戸地 昭和60・1 2・1 2 判 夕597・62‑Y 農協か ら出向 して子会社W の取締役を兼 務す る A が W 会社名の融通手形 を偽造 した事案 につ き,判 旨は,出向先 たる W 会社の経理の独立性その他 の事実関係 を認定の うえ, A の W 会社 K 営業所長 と しての業務執行行為 は, Y の業務 と実質的に も外形的 にも区別 された別個の行 為 と解す るはかな く, また, Aは当時出向元 Yの職員 たる身分を形式的にはな お失 ったいなか ったけれど も,同人 の右業務執行関係 において Y と A との間に 具体的な支配服従の関係があったとはいえない, と説示。
出向期 間中の 出向元 と従 業員 問 の関係 につ いて は, 出向元 か ら給与 が支払 わ
れ て いな い こと との関係 で 出向期 間中使 用 関係 は休 止状 態 にあ る と した⑰判 決
が興 味 を ひ く。 これ ら否 定 例 にお いて は実質 的 な い し具体 的指 揮監督 とい うも
のが 問題 とされ てお り,す で にみ た肯 定 例 に比 す る と 「使 用 関係 」 の画 定 じた
いがか な り限定 的 にな され て い る とい う ことが で き る。従 来 の学説 が 「 使 用 関
係 」 は事 実上 の指 揮 監督 が あれ ば よい と したの は, ひ とつ に は契 約 関係 が な い
場 合 で もよい こ とを示 す趣 旨で あ った と解 され るの に対 し, ここで は,契約 関
係 が残 って い る とい うの みで は足 りな い場合 が あ る ことを示 した とい う点 で重
要 で あ る。 しか し, 「使 用 関係 」 の基礎 とな る指 揮監 督 は,単 な る事 実 の問題
と して で な く, 当為 な い し法 的評 価 の問題 と捉 え るべ き ものだ とす るな ら,袷
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