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地方自治法に基づく不作為の

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(1)

事案の概要と経過

 沖縄県宜野湾市のアメリカ海兵隊普天間基 地の移設計画につき,2013 年 3 月 22 日,沖 縄防衛局は仲井眞弘多沖縄県知事に対し,同 県名護市辺野古沖の公有水面埋立承認を出願 した。同年 12 月 27 日,同知事はその承認処 分をした。これに対して翌 2014 年 11 月の沖 縄県知事選挙で翁長雄志が知事に当選し,そ の後 2015 年 10 月 13 日,同知事は前知事の承 認処分を取り消した。詳細は後述するが,本 件は,この翁長知事の承認取消処分をめぐっ て,承認取消処分の取消しを求める国土交通 大臣の是正の指示に翁長知事が従わないこと に対して,国が 7 月 22 日に地方自治法 251 条 の 7 第 1 項 2 号イに基づいて提起した不作為 の違法確認訴訟である。

 判示事項   

(1) 審査基準および審理対象   ①審査の基準について 

  

「原処分が違法であること,すなわち

原処分において要件裁量権が認められる 場合には,その行使が逸脱・濫用にわた り違法であると認められることを要し,

原処分に不当又は公益目的違反の瑕疵が

あるにすぎない場合には取消権はそもそ も発生しない」。 

 ②審理の対象について 

  

「本件訴訟の審理対象は前知事がした

本件承認処分にその裁量権の範囲を逸脱 し,または,濫用した違法があると認め られるかである」。 

 ③ 公有水面埋立承認にあたっての知事の裁量 権の性質 

  (

「承認を拒否する方向に強い裁量権を

有する」との主張に対して)

「上記改正

後の法は,公有水面が維持されることに よる利益と埋立ての必要性との比較考量 を第 1 号要件に照らして判断することを 求めるものであり,上記改正前の法が埋 立てを進める方向に偏していたものを中 立に修正したとはいえるものの,逆に公 有水面の維持を重視し,埋立てを認めな いのを原則とするようにしたとは読み取 れない」。 

地方自治法に基づく不作為の

違法確認訴訟・福岡高裁那覇支部判決 2016 年 9 月 16 日(辺野古訴訟事件)

前 田 定 孝

(2)

 

(2) 公水法に基づく実体的な要件審査(そ の 1)「アメリカ軍基地の配置」 

 ①  1 号要件(

「国土利用上適正且合理的ナル

コト」)審査 

  

「第 1 号要件は当該埋立ての必要性及

び公共性の高さを埋立てに伴う種々の環 境変化と比較するものであるから,埋立 てに係る事業の性質や内容を審査するこ とは不可欠であり,そのことは,それが 国防・外交に関わるものであっても何ら 変わりはな」く,

「埋立承認が法定受託

事務であるとはいえ,それは地域の実情 を踏まえて判断する必要があることか ら,知事にその判断をさせることにした ものであるから,その意味ではそれは

「地

域における事務」(地方自治法 2 条 2 項)

ともいえる」

「以上により,知事の審査

権は国防・外交に係る事項に及ぶものと 解するのが相当である」。 

  

「軍事基地は,軍事行動に出ようとす

る者に対する抑止力であると言っても,

目に見えるものではなく,周辺住民に とって身近なものではなく,かえって,

有事には弾道ミサイル等による攻撃の対 象となりうるなど,武装テロ集団が活動 するような危険がない限り,周辺住民に とっていわば単なる迷惑施設であろう し,それが自国の指揮下にない他国の基 地であれば一層のことである。そのよう なことから,本来知事に審査権限を付与 した趣旨とは異なり,地域特有の利害で はない米軍基地の必要性が乏しい,また 住民の総意であるとして 40 都道府県全 ての知事が埋立承認を拒否した場合,国 防・外交に本来的権限と責任を負うべき

立場にある国の不合理とは言えない判断 が覆されてしまい,国の本来的事務につ いて地方公共団体の判断が国の判断に優 越することにもなりかねない。これは,

地方自治法が定める国と地方の役割分担 の原則にも沿わない不都合な事態であ る。そうすると,国の判断が明らかに合 理性を欠いていると認められない限りは これを覆すことはできないとまでは言え ないものの,国の判断が不合理とまでは 言えないのであれば知事はこれを尊重す べきであるとはいえる。したがって,国 の説明する国防・外交上の必要性につい て,具体的な点において不合理であると 認められない限りは,そのような必要性 があることを前提として判断すべきであ る」。 

 ②原承認処分における 1 号要件該当性の審査    

「①普天間飛行場の騒音被害や危険性,

これによる地域振興の阻害は深刻な状況 であり,普天間飛行場の閉鎖という方法 で改善される必要がある。しかし,②海 兵隊の航空部隊を地上部隊から切り離し て県外に移転することはできないと認め られる。③全在沖縄米軍海兵隊を県外に 移転することができないという国の判断 は戦後 70 年の経過や現在の世界,地域 情勢から合理性があり尊重すべきであ る。④そうすると県内に普天間飛行場の 代替施設が必要である。⑤その候補とし て本件新施設等が挙げられるが,他に県 内の移転先は見当たらない。よって,⑥ 普天間飛行場の被害を除去するには本件 新施設等を建設する以外にはない。言い

(3)

換えると本件新施設等の建設をやめるに は普天間飛行場による被害を継続するし かない」。 

  

「……本件埋立事業によって設置され

る予定の本件新施設等は,普天間飛行場 の施設の半分以下の面積であって,その 設置予定地はキャンプ・シュワブの米軍 使用水域内であることを考慮すれば,沖 縄県の基地負担の軽減に資するものであ り,そうである以上本件新施設等の建設 に反対する民意には沿わないとしても,

普天間飛行場その他の基地負担の軽減を 求める民意に反するとは言えないし,両 者が二者択一の関係にあることを前提と した民意がいかなるものであるかは証拠 上明らかではない」。 

 

(3) 公水法に基づく実体的な要件審査(そ の 2)「承認審査密度の希釈」 

 ①判断の対象 

  

「第 2 号要件の意義については,……

埋立地の竣功後の利用形態ではなく,埋 立行為そのものに随伴して必要となる環 境保全措置等を審査するものであると解 するのが相当である」。 

 ②判断基準 

  

「……都道府県知事の判断の適否を裁

判所が審査するに当たっては,当該判断 に不合理な点があるか否かという観点か ら行うべきであり,具体的には,現在の 環境技術水準に照らし,①審査において 用いられた具体的審査基準に不合理な点 があるか,②本件埋立出願が当該具体的 審査基準に適合するとした前知事の審査

過程に看過しがたい過誤,欠落があるか 否かを審査し,上記具体的審査基準に不 合理な点があり,あるいは,本件埋立出 願が上記具体的審査基準に適合するとし た前知事の審査の過程に看過しがたい過 誤,欠落があり,それが結論に影響を与 えた具体的可能性がある場合には,前知 事の判断に裁量権の逸脱・濫用があると して,本件承認処分は違法であると解す べきである」。 

  (沖縄県の主張に対して)

「失われる水

面のすべての機能を他に再現することは もとより不可能な上,自然環境や生態系 に関する科学的知見が万全であるといえ ず,環境に関する予測には一定程度の不 確実性を伴うものと考えられることから すれば,第 2 号要件において,そもそも 完全な環境保全のための予測・評価及び 措置を求めることは相当ではない。また,

同等程度の成果が得られるなら効率的な 手法で行うべきことは,そうでなければ 長期間事業目的を達成できないこと,多 額の費用が国民の負担に帰することから も明らかである。このようなことからす ると,第 2 号要件の審査時点では,現在 の知見をもとに実行可能な範囲において 環境の現況及び環境への影響を的確に把 握した上で,これに対する措置が適正に 講じられることで足り,上記不確実性に 対応するには,承認後に引き続き事後調 査や環境監視調査を行い,その場その時 の状況に応じて専門家の助言・指導に基 づいて柔軟に対策を講じることはむしろ 合理的である」。 

(4)

 ③個別の判断について 

  (生態系,海藻草類,ジュゴン,ウミ ガメ,サンゴ,航空機騒音,および環境 生活部長意見について)

「本件審査基準

に不合理な点があるといえず,かつ,本 件埋立出願が本件審査基準に適合すると した前知事の審査に誤りがあるとも言え ないので,前知事の判断が誤りであると いえず,本件承認,処分に裁量内違法が あるとは言えない。さらに,具体的審査 基準に不合理な点があるといえず,かつ 本件埋立出願が上記具体的審査基準に適 合するとした前知事の審査の過程に看過 しがたい過誤,欠落があり,それが結論 に影響を与えた具体的可能性があるとも いえないので,本件承認処分が裁量権の 範囲を逸脱・濫用した違法なものである とは言えない」。 

 

(4) 職権取消制限の法理   ①職権取消すことによる不利益 

  (取消すことによる不利益につき日米 信頼関係の破壊に関して)

「本件承認処

分の前後にわたり,様々な事実関係が構 築され,我が国に対する米国の信頼は増 していたところ,本件承認処分が取り消 されることにより,辺野古沿岸域を埋め 立てて本件新施設等を建設し,普天間飛 行場を返還するという日米間の合意が履 行できなくなる。このような事態になれ ば,普天間飛行場の返還及び代替施設の 提供に関し,これまでの交渉,協議及び 調整を通じ培われてきた米国の我が国に 対する信頼は一挙に失墜する可能性があ る」。 

  (同様に国際社会からの信頼喪失に関 して)

「米国との間の上記合意について

我が国が履行できなくなり,今後の諸外 国との外交関係の基礎となるべき,国際 社会からの我が国に対する信頼が低下す る可能性がある」。 

  (同様に本件埋立事業に費やした経費 に関して)

「沖縄防衛局長と名護漁業協

同組合代表理事組合長との間で,平成 26 年 5 月 20 日付けで本件埋立事業及び 本件新施設等の設置による漁業権等の消 滅,漁業の操業制限等に係る損失補償契 約を締結しており,同局長から同組合長 に対し約 30 億円の補償金が支払われて いる」

「本件埋立事業が頓挫することに

なり,同事業に費やされた上記経費や諸 資材,諸機材等が無駄になるほか,契約 解除に伴う相当金額の損害賠償金が生じ る可能性があり……かかる経済上の不利 益は重大である」。 

  (同様に第三者への影響に関して)

「国

が締結した契約を前提に契約関係に入っ た民開業者等に対し,法的,経済的な悪 影響が広範に及ぶ可能性がある」。    (これらのことから)

「取り消すべき公

益上の必要が取り消すことによる不利益 に比べて明らかに優越しているとまでは 認められない上,その他の点を考慮すれ ば,本件承認処分の取消しは許されない」。 

 ②辺野古移設の合理性 

  

「本件埋立事業による普天間飛行場の

移転は沖縄県の基地負担軽減に資するも のであり,そうである以上本件新施設等 の建設に反対する民意には沿わないとし

(5)

ても,普天間飛行場その他の基地負担の 軽減を求める民意に反するとは言えな い。また,環境については,……第 2 号 要件審査において本件承認処分の判断に 誤りがあるとは認められず,水面の陸地 化に伴う自然破壊等に対し,適正かつ十 分な措置が取られると期待できることに 加え,……本件埋立事業によって設置さ れる予定の本件新施設等は,普天間飛行 場の施設の半分以下の面積であって,そ の設置予定地はキャンプ・シュワブの米 軍使用水域内であることからすれば,本 件埋立事業が被告の主張する地域振興開 発の阻害要因とは言えない。さらに,沖 縄県の自治権侵害については,上記本件 新施設等の面積及び設置予定地に加え,

本件新施設等の設置場所を沖縄県内とす る地理的必然性が肯定できることからす れば,そのことによって上記判断は左右 されない。以上によれば,上記被告の主 張には理由がない」 

  

「本件新施設等が設置されるのはキャ

ンプ・シュワブの米軍使用水域内に本件 埋立事業によって作り出される本件埋立 地であって,その規模は,普天間飛行場 の施設の半分以下の面積であり,本件新 施設等で米軍が運用を開始するときには 普天間飛行場が返還されるのであるか ら,自治権の及ばない範囲は減少するこ とが明らかである」。 

 

(5) 国が行える関与について 

  (被告がいう)

「『一定の行政目的を実

現するため』とは地方自治法 245 条 3 号 中の文言であり,上記文献も同条項に関

する記載部分であるところ,同号は,是 正の指示(同条 1 号へ)とは異なるいわ ゆる非定型的関与を定めたものである。

そして,同法 245 条の 3 第 2 項は,国に 対し,できる限り地方公共団体に対し非 定型的関与を行うことのないよう求めて いるものであり,その趣旨は国の地方公 共団体に対する関与をできるかぎり透明 なものとするため,是正の指示を含む定 型的関与によるべきであるとするものと 解される。したがって,被告の主張は,

地方自治法上是正の指示とは明確に区別 してその利用を制限すべきものとされた 非定型的関与の規定を,是正の指示にも 適用すべきであるという失当なものであ ることが明白である」。 

 はじめに 

  2016 年 9 月 16 日,福岡高裁那覇支部(多 見谷寿郎裁判長)は,国土交通大臣が沖縄県 知事を相手取った,地方自治法 251 条の 7 第 1 項の規定に基づく不作為の違法確認訴訟に つき,公有水面埋立法(以下,公水法と略)

に基づく仲井眞弘多前知事の辺野古沿岸域の 埋立承認処分を取消した翁長雄志知事の処分 を「取り消さないことが違法であることを確 認する」判決をした(沖縄県はこの判決を不 服として,最高裁に上告した)。本稿は,こ の高裁判決を紹介するとともに,問題点を指 摘する。 

  読者の便宜のために,本判決の特徴を列挙 する。本判決は第 1 に,審理対象および審査 基準,そして知事の処分審査の密度について,

国にとってより緩やかなものを採用し,第 2

(6)

にそのことの正当化根拠として公水法に基づ く実体的な要件審査に際し,過度に「国策」

を強調し,第 3 に環境保全上の審査の密度を 希釈しつつ同時にその審査対象から埋立後の 使用段階での環境影響評価を審査対象から除 外し,第 4 に職権取消しの制限をことさらに 強調しつつ,そして第 5 に国による地方公共 団体への関与のあり方を拡大解釈・強化する なかで,国有利の判断を導いた。 

  そこでは,

「裁量内違法」という,行政法

学では聞き慣れない文言を発明し,しかもそ れをあたかも被告の主張であるかのような体 裁をとり (1) ,かつ多用し,あまつさえ判決文 中において,そのことを通じて,

「国の不合

理とまで言えない判断」があると見える場合 には,知事はそれを拒否できないと強調する。 

  なお,その後本判決後 12 月 20 日,最高裁 第 2 小法廷(鬼丸かおる裁判長)は,上告を 棄却する判決をした。 

  さて,判例を解説するに先立ち,公水法に 基づく公有水面埋立てのしくみを紹介してお く。 

  公共工事等のために海上に土地を造成する 場合,事業者は,公水法に基づき都道府県知 事に,その免許または承認を申請する。民間 事業者等がする場合を「免許」申請と呼び,

国が事業者となる場合を

「承認」

申請という。

本件は,国が沖縄県知事に対してした公有水 面埋立「承認」申請に対する「公有水面埋立 承認処分」と,それに対する

「承認取消処分」

をめぐる事案である。 

  ここで,本判決にいたるまでの流れを確認 しておく。まず,公有水面埋立承認申請(出 願)があったのは,2013 年 3 月 22 日のこと である。これに対して同年 12 月 27 日,仲井

眞弘多知事(当時)は,国に対してこの出願 を承認する処分をした。しかしながらこの処 分に対する県民の批判が大きくなり,同年 11 月 16 日の知事選挙で仲井眞知事は落選し,

翁長雄志知事が当選した。 

  翁長知事の就任以来,沖縄県に対して国は,

その法的政治的対応において,文字どおり,

無法の限りを尽くした。たとえば,承認取消 手続において,国の側は「国が知事から承認 処分をもらうのは,事業者としての資格で あって,国としての資格ではない。つまり私 人と同じである」とした。県の側が「意見聴 取」を実施するとした際にも国は,

「意見聴

取ではだめだ。行政手続法に基づいて

『聴聞』

を実施せよ」と主張した。しかしながら,念 のために県が設定した聴聞の場に,国は姿さ えも現さなかった。それにもかかわらず,国 はその後,

「聴聞を実施した以上,県は国を 『私

人』と認めた」とした。 

  10 月 13 日の承認取消しのあとでも,承認 処分の相手方である沖縄防衛局は,この取消 処分を取り消すために,内閣の同僚である国 土交通大臣に不服審査請求をした。またその 返す刃で国土交通大臣(つまり国)は,地方 自治法に基づく代執行手続を開始した。 

  これにはさすがに福岡高裁那覇支部の多見 谷裁判官も,3 月 4 日にいったん「和解」さ せざるをえなかった。ところが 3 月 4 日の金 曜日の和解の直後の 3 月 7 日の月曜日に,国 の側はさっそく,地方自治法に基づく「是正 の指示」をしてきた。ところがこの是正の指 示の文書には,地方自治法にも行政手続法に も明記されている「理由」の提示がなされて いなかった。不利益処分をするに際して理由 の附記,あるいは提示は,手続上必須とされ,

(7)

これがない処分はただちに違法である。この ような

「理由附記」

の無視を国が意図的に行っ たのか,あるいは非意図的に行ったのかは,

不明である。なお,同月 16 日,国は 7 日付け の「是正の指示」をいったん撤回し,あらた めて同日付で,

「是正の指示の理由」

を含む

「是

正の指示」をやり直した。 

  これに対して沖縄県は,国地方係争処理委 員会(小早川光郎委員長)に対して「審査の 申出」をした。国地方係争処理委員会の結論 が出たのは,2016 年 6 月 17 日である。決定 通知は,同月 20 日となっている。そこでは,

「国と沖縄県は,普天間飛行場の返還という

共通の目標の実現に向けて真摯に協議し,双 方がそれぞれ納得できる結果を導き出す努力 をすることが,問題の解決に向けての最善の 道である」とされた。これに対して,沖縄県 は,3 月の和解条項において記載されていた

(国地方係争処理委員会)が是正の指示を違 法でないと判断した場合に,被告(沖縄県の こと……筆者註)に不服があれば,被告は,

審査結果の通知があった日から 1 週間以内に 同法 251 条の 5 第 1 項 1 号所定の是正の指示の 取消訴訟を提起する」との記載にもかかわら ず,結果的に,国との「真摯な協議」を求め る国地方係争処理委員会の決定に不服はない ため,取消訴訟提起をしなかった。これに対 して,国,沖縄県知事が地方自治法 251 条の 7 第 1 項 2 号イでいう「要求又は指示の取消 しを求める訴えの提起をせず,かつ,当該是 正の要求に応じた措置又は指示に係る措置を 講じないとき」に該当するとして,7 月 22 日,

不作為の違法確認訴訟を提起した。 

 1.審査基準および審理対象 

  現知事が前知事の処分を審査するに際し て,審査基準が〈違法〉な場合にしか取消し の対象とならないとするのか,または〈不当〉

の場合にも取消しうるとする姿勢で審査する のかによって,その結論が異なることがある。

また,審理すべきと主張された対象の選択に よっても,その結論が異なりうる。 

  前者は,前知事の処分にどの程度の問題性

(行政法用語では

「瑕疵」

という)があれば,

後任の知事の職権で取り消しうるのか,とい う問題である。原告・国の側は,法律が知事 に与えられた裁量権の範囲を逸脱した場合に のみ取り消しうるとしたのに対し,被告・県 の側は,処分を根拠づける法律が知事に与え た裁量権の範囲であっても不当と判断すれ ば,取り消しうると主張した。 

  後者の場合,審理の対象につき,国は,仲 井眞前知事の承認処分の瑕疵を,県の側は翁 長知事の承認取消処分の瑕疵を審査すべきと 主張していた。この場合,裁判所は行政権に その第一次的判断権をいったん尊重すること に照らすと,審査の対象となった処分の方が,

その判断結果を尊重されることになる。国が 仲井眞前知事の承認処分を審査の対象として 主張するのは,その方が裁判所にとって仲井 眞前知事の処分を違法と判断しにくいからで ある。この点,あらためて後述する。 

 

(1) 審査の基準を〈違法性〉としたことの 意味 

  本件判断は,まず最初に,

「原処分が違法

であること,すなわち原処分において要件裁 量権が認められる場合には,その行使が逸脱・

(8)

濫用にわたり違法であると認められることを 要し,原処分に不当又は公益目的違反の瑕疵 があるにすぎない場合には取消権はそもそも 発生しない」とした。すなわち,この 1 文は,

第 1 に審査対象が翁長知事の承認取消処分で はなく仲井眞前知事による承認処分であるこ と,第 2 にその場合に,その瑕疵の程度も単 なる「不当」くらいでは足りず,

「違法」と

いえるくらいに深刻な瑕疵がなければ審査の 対象とならないとしたのである。 

    従来,いったんなされた行政処分を,行政 事件訴訟法に基づく取消訴訟を通じて裁判所 すなわち司法権が取り消す場合に比べて,行 政不服審査手続を通じてその上級庁等が取り 消す場合には,その権限はより広範であると されてきた。すなわち,司法権が取り消す場 合は,その処分が「違法」である場合に限ら れるのに対し,行政権のうちで取り消す場合 には,

「不当」である場合にも取り消しうると

されてきた。

「取消訴訟で対象とされる行政

行為の瑕疵は違法の瑕疵に限定されるが,行 政不服申立または職権取消で対象となる行政 行為の瑕疵は,不当の瑕疵を含みうる」(2)   ので ある。 

  さらにこの行政権のうちで取り消すばあい にしても,争訟取消すなわち不服審査手続を 通じて取り消す場合と比べて,処分庁がみず からのした処分を職権で取り消す「自庁取消 し」の場合には,不服申立期間の制限が及ば ず,むしろ原則として「撤回自由の原則」が 妥当するとされてきた。 

  本事案は,仲井眞前知事の処分を翁長現知 事が取り消した例である。この場合も「自庁 取消し」に該当する。処分庁自身が職権でそ の処分を取り消すには,その政策判断に基づ

く裁量権の範囲が広いのである。 

  このようななかで本判決は,逆に違法性に 限定した判断をした。その理由を岡田正則は,

「本判決が裁判所による行政裁量の統制方法

と行政権自身による行政裁量の統制方法とを 同一視するという誤りを犯したため」(3)   とす る。しかしながら,私は意図的であると考え る。 

 

(2) 審理の対象を仲井眞前知事の承認処分 としたことの実益 

 ① 是正の指示の対象は翁長知事の承認取消処 分だった 

  本事案は,仲井眞知事の公有水面埋立承認 処分,それに対する翁長知事の承認取消処分,

それに対する国土交通大臣の是正の指示とい う流れにおいて,国土交通大臣は,翁長知事 が取消処分を取り消さないことが違法である として,翁長知事を被告として提訴した例で ある。 

  本判決は,審査の対象を翁長知事の取消処 分ではなく,その原処分である仲井眞前知事 の承認処分に瑕疵があったかどうかであると した。そこで本判決は,

「仲井眞前知事の埋

立承認には裁量権を認める一方,翁長知事に よる承認取り消しには裁量の余地を一切認め ない」(4)   という判断をした。 

  そもそも,

「本判決の審理の対象は翁長知

事のした承認取消の違法性であって,前知事 のした埋立承認の違法性ではなく」

「埋立承

認とその取消処分は別個の処分である」(5)   。 裁判所は,

「前知事による埋立承認には裁量

権の逸脱濫用がなかったということさえ言え れば,翁長知事の不作為は違法だと結論づけ ることができると誤認し」た (6) 。 

(9)

  平たくいうとどうなるのか。たとえば岡田 正則は,以下のような例を挙げる。前校長は 有力者の圧力に屈して「総合判断で入学を許 可した」のに対して,現校長は,入学直前の 時点で「やはり合格点に達していない子ども を入学させるわけにはいかない」と,前校長 の入学許可を取り消した。前校長は,

「もと

もと合格点に達しない子どもを地域の有力者 である親がむりやりに入学させようとした」

のである。このことは,

「公立高校入試の 1

年後に採点ミスが発覚し,在学中の高校生の 入試成績が合格点未満だった」場合とは異な る。その場合,反対に「通常そのことを理由 として入学許可を取り消すことは許されな い」(7)   。 

  岡田は,今回の公有水面埋立承認取消処分 が,このような図式にあてはまるとする。 

  本判決は,

「処分取消しの公益上の必要性

が処分取消しの不利益よりも明らかに優越し ていなければ行政は職権で処分を取り消すこ とができない」との基準を立てたうえで,

「沖

縄県が公有水面埋立法を適法に運用する利 益」と「日米間の信頼関係や国際社会からの 信頼などの国の利益」とを比較し,沖縄県の 利益が国の利益よりも明らかに優越している とはいえないという理由で,現知事が前知事 の誤りを訂正することができないとの結論を 導いた。岡田は,

「この判断は,取消権制限

の法理に似せた装いをとっているが,中身は まったく異なっている」(8)   とする。 

 ②審査の対象を原処分とすることの実益    それではなぜ,裁判所は審査の対象を前知 事の承認処分としたのか。公水法に基づく承 認また免許の決定は,都道府県知事が行う。

そして都道府県知事は,地域の特性等に配慮 して,この権限を行使する。これは,特段に アメリカ軍基地として造成するための埋立工 事に限定されたものではない。港湾やコンビ ナートなど,海を埋め立てて陸地となすにあ たっての判断権限は,都道府県知事に配分さ れており,その裁量権の行使によって免許ま たは承認がなされる。 

  しかし,誰かがそのことに異を唱えて裁判 になった場合に,裁判所は,いかなるスタン スでこの知事の裁量権行使が適切に行われた のかを判断するのか。通常,裁判所は,処分 をした処分庁の判断をいったん尊重する。そ れは,一方では憲法でいう権力分立のためで あり,片方では,その判断にあたっての専門 性を,行政庁が備えているとされるからであ る。 

  前者については,権力分立の原則上,司法 権が行政権に先立って判断することはできな いとされる。後者の場合,裁判所の人的ある いは物的なリソースと行政組織のそれらとを 比較した場合に,行政組織の方が,より慎重 かつ的確な判断を期待しうるからである。こ のように,権力分立の原則を侵害しないため に,あるいはより慎重かつ的確な判断を担保 するために,裁判所は,行政庁の判断を尊重 したうえで司法判断をするのである。 

  このことを本件にあてはめると,仲井眞前 知事の裁量判断を審査対象とした場合,裁判 所は,仲井眞前知事の裁量権に一定の謙抑的 な判断をすることになろう。ここで判断のし かたとしては,

「知事の判断は適法である」

という判断ではなく,

「違法とはいえない」

あるいは「違法とまでいうことはできない」

という言い方で,前知事の判断をとりあえず

(10)

適法とすることもできる。 

  これに対して,翁長知事の判断を審査の対 象とした場合には,まったく同じ理由で,翁 長知事の判断を違法とすることはできにくい。 

  すなわち,審査の対象を仲井眞知事の原処 分としたところで,すでに結論は出ているの である。 

 

(3) 公水法に基づく広範な知事の片面的裁 量権 

  さらに,だめ押しが,承認審査に際しての 知事の裁量権の広範性の否定である。 

  公水法に基づく承認処分に際しての処分庁 たる都道府県知事の裁量性は広いと考えられ てきた。そこで都道府県知事は,公水法 4 条 1 項 1 号から 4 号のすべてを満たした場合で あってさえも,他の必要な条件の考慮により 承認を拒否するという裁量権を有していると されてきた。 

  1921 年に制定された公水法は,1973 年の 改正によって,漁業権や水利権等の権利者保 護のための免許基準を定めるものに加えて,

公益上の適性確保のための免許基準を新設し た。それは第 1 に,公水法 4 条 1 項が,

「適合

スト認ムル場合」以外には「埋立ノ免許ヲ為 スコトヲ得ズ」という規定ぶりを有するため である。また第 2 に,公有水面埋立免許とい う行為の性質が,

「申請者が元来有している

のではない権利を,一定基準を満たすことを 条件に付与する権利形成的な行為であるとい う意味で,特許ないし設権行為」であるとさ れるためである。このことから,

「公有水面

の多くは自然環境の一部として国民共通のま たは国境を越えたグローバルな資産としての 価値を有するという点」からみると,

「他に

比べることのできない高度の公益性を有する 資産である限り,元来の権利者ではない個々 の人による埋立てについて免許を付与するか 否かの判断には,当該公有水面の特質と希少 性を十分に配慮した特に慎重な判断が要請さ れる」。第 3 に,公水法 4 条 1 項の改正趣旨が,

「公有水面埋立てに対する従前の免許基準が

不十分であり,災害発生や環境破壊に対する 有効な抑止機能を果たしえなかったことへの 反省を背景に,埋立ての公益上の必要性や自 然環境への影響等,権利者保護目的とは異 なった新たな免許基準に関する規定の導入を 通して,公有水面埋立事業に対する規制強化 をはかろうとするものであった」ためである。 

  これらのことから,公水法は都道府県知事 に対して,

「1 号以下の基準をすべて満たした

場合でも,他の必要な条件を考慮することに より免許を拒否する可能性を認める」,いわ ゆる〈片面的裁量権〉を付与したとされる (9) 。    公有水面埋立承認に際して都道府県知事 は,法律が委ねる裁量権の範囲内であったと しても,この〈片面的裁量権〉の行使によっ て,承認処分を拒否する権限を有する。原処 分権者である仲井眞前知事の後任で同一の地 位にいる翁長知事にも,このような片面的裁 量権の行使が委ねられている。 

  しかしながらこの点においても本判決は,

「公有水面の維持を重視し,埋立てを認めな

いのを原則とするようにしたとは読み取れな い」と,まったく逆の解釈をした。 

 2. 公水法に基づく実体的な要件審査

(その 1)

「アメリカ軍基地の配置」 

  これらの審査基準および審理対象を確定し

(11)

たあとは,公水法 4 条 1 項各号に基づく実体 的な審査が問題となる。まずは,第 1 号「国 土利用上適正且合理的ナルコト」への適合性 である。 

(1) 地方公共団体に「国の専権事項」であ  る防衛行政上の判断権は認められるの か 

  前記のように公有水面埋立免許・承認を得 る際に,同法 4 条 1 項の要件を全部満たさな ければならない。このことからすれば,この 要件に適合しないかぎり都道府県知事の承認 はありえない。この点で本判決は,

「原告が

第 1 号要件の審査対象外であると主張する国 防・外交に関する事項を除外する定めがない」

と,あたかも都道府県知事が「国防・外交に 係る事項」を審査しうるのかのように判断し ている。 

  そもそもこの点は,原告自身が,

(公水)

法は国土交通省が所管するところ,我が国の 国防や外交に係る事項の適否を判断すること は,もとより同省の所掌事務には含まれてい ないのであるから,法に基づく法定受託事務 の範囲で公有水面埋立に係る権限を付与され ているにとどまる沖縄県知事に,米軍施設及 び区域を辺野古沿岸域とすることの国防上の 適否について,審査判断する権限が与えられ ていると解する余地はない」と,昨年段階で 国が提起していた代執行訴訟の訴状で主張し ていたところである。裁判所は,

「これとは

まったく逆の見解を表明した」(10)   。 

  そこでは,

「40 都道府県全ての知事が埋立

承認を拒否した場合,国防・外交に本来的権 限と責任を負うべき立場にある国の不合理と は言えない判断が覆されてしまい,国の本来

的事務について地方公共団体の判断が国の判 断に優越することにもなりかねない」とした。

この部分は,都道府県知事に判断権を与える ことにより,逆に「国の判断が明らかに合理 性を欠いていると認められない限り,これを 覆すことはできないとまでは言えないもの の,国の判断が不合理とまでは言えないので あれば知事はこれを尊重すべきである」とい う結論を導くためのものである。さらにそこ では,

「迷惑施設」を海(琵琶湖を含む)の

ある県が一致して拒否した場合に,国の「不 合理とは言えない判断が覆されてしまう」た めに,結果的に「国の本来的事務について地 方公共団体の判断が国の判断に優越する」こ と,そして,このような「不都合な事態」を 回避するために,そのような必要性があるこ とを前提として判断すべき」というためのも のである。 

  このような判断は,一方で都道府県知事に

「国防・外交に関する」判断権を付与するこ

とでその裁量性を導きながらも,その裁量性 を逆に,

「国の判断が明らかに合理性を欠い

ていると認められない」場合には,むしろ〈逆 の裁量性〉すなわち都道府県知事の方から国 の意向に歩み寄るような義務を導くものであ るように思われる (11) 。そしてこのことは他 方で,後述するように法定受託事務について の地方自治法 245 条 3 号に基づく,いわゆる

「3

号関与」(本判決では非定型的関与と呼称)

に際しての,国の関与権を,判決の後半部分 で広範に解釈するための布石であるように思 われる。 

  この 1 号要件審査においても本判決は,

「こ

の点において本件承認処分に裁量内違法はな い」とした。ここでいう「裁量内違法」とい

(12)

うのは,

「国に歩み寄る側の裁量判断におけ

る違法」ということであろうと思われる。 

  しかしながら,そもそも都道府県知事にこ のような義務を認める余地はあるのだろうか。 

  この点,かつて 1995 年当時,少女暴行事 件に端を発して大田昌秀知事が駐留軍用地特 措法に基づく代理署名を拒否した事件に際し て最大判 1996 年 8 月 28 日民集 50 巻 7 号 1952 頁は,駐留軍用地特措法による土地等の使用 又は収用の認定にあたっては,

「我が国の安

全と極東における国際の平和と安全の維持に かかわる国際情勢,駐留軍による当該土地等 の必要性の有無,程度,当該土地等を駐留軍 の用に供することによってその所有者や周辺 地域の住民などにもたらされる負担や被害の 程度,代替すべき土地等の提供の可能性等諸 般の事情を総合考慮してなされるべき政治 的,外交的判断を要するだけでなく,駐留軍 基地にかかわる専門技術的な判断を要するこ とも明らかであるから,その判断は,被上告 人の政策的,技術的な裁量にゆだねられてい る」とした。いわゆる「国防・外交に関する 事項は国の専権事項」との見解は,この大法 廷判決が根拠となっている。 

  少なくとも本判決が,都道府県知事の権限 をめぐって,最高裁大法廷判決に抵触するこ とは明らかであろう (12) 。 

 

(2) 裁判所による行政権の侵害 

  先に述べたように,権力分立上,司法権が 行政権に先立ってその権限を行使することは ありえない。 

  この裁量権行使に際して処分庁である都道 府県知事は,それがどのような範囲を含むの か,何と何が対立して,何が優勢で何が劣勢

に立つのか,総合的に判断する。防衛上の観 点が入るとしても,それが唯一だとの判断は ありえない。ましてや,裁判所が政府になり かわって,

「本件埋立事業による普天間飛行

場の移転は沖縄県の基地負担軽減に資するも のであり,そうである以上本件新施設等の建 設に反対する民意には沿わないとしても,普 天間飛行場その他の基地負担の軽減を求める 民意に反するとは言えない」とみずから述べ るなど,絶対にありえない (13) 。前記の行政 決定に対する裁判所の本来のスタンスを考え ると,このように「断定できるはずはなく,

裁判所がこのような政策的判断に踏み込むこ とは司法権を逸脱している」(14)   のである。 

  先に述べたように本判決は,仲井眞知事の 原承認処分に「裁量内違法」はないとした。

その意味するところは,たとえ民意にそぐわ なくても「辺野古移設によって沖縄にとって なにがしかの負担軽減になっているのだから いいでしょう」ということである (15) 。 

 3. 公水法に基づく実体的な要件審査

(その 2)

「承認審査密度の希釈」 

 

(1) 承認審査密度を希釈する方法    この箇所では,司法審査の密度を薄めるた めに,3 つの方法を採用している。第 1 に,

審査対象を埋立完成後の環境保護ではなく埋 立行為そのものにともなう環境保全に限定し たことであり,第 2 に,前述のようにその審 理対象を仲井眞前知事の承認処分としたこと にともなって可能となった,承認審査当時の 文書,すなわち国側の文書に依拠した審査に 限定したことであり,そして第 3 に,最高裁 判決を逆用することによって,審査密度をわ

(13)

ざわざ希釈したことである。 

 ①審査対象すりかえのトリック 

  本判決は,裁判所の審査対象を,埋立行為 にともなう環境保全に限定した。このことに より,基地としての使用による環境上の問題 を対象外とした。実はこの点は,仲井眞前知 事による承認審査があまりにずさんであった ために,第三者委員会において審査がやり直 された箇所であった。

「専門家によるこのよ

うな審査結果を裁判所が覆すことは困難であ る」ために用いたトリックである (16) 。    こうして,審査対象を操作することによっ て,実体的審査の密度が希釈された。 

 ②甲号証に依拠した判決 

  続いて用いられた実体的審査密度希釈の手 法は,もっぱら原告,すなわち国側の証拠に 基づく審査である。本件の判決を見て驚くの は,ジュゴンにしろウミガメにしろ,その最 後がすべて「甲号証に照らして原処分に違法 はない」との結論づけである。 

  一般的に裁判とは,原告と被告のそれぞれ が提出する証拠をもとに,裁判官が判断する ものと考えられているのではないかと思われ る。しかしながら本判決は,甲号証,すなわ ち原告である国側の証拠をもとに,

「原処分

に違法はない」としているのである。なぜこ のようなことが可能なのか。それは,翁長知 事の承認取消処分を審査の対象から除外する 代わりに,仲井眞前知事の承認処分の内容だ けを審査しているためである。すなわち,裁 判官の頭のなかで,2013 年 12 月 27 日の仲井 眞知事の承認処分の内容だけしか存在せず,

したがって,2014 年 11 月 16 日の翁長知事の

当選以降の,2015 年 1 月 25 日の第三者委員 会の発足も,同 7 月 16 日の同委員会の検証結 果報告書提出も,同 10 月 13 日の承認取消処 分も,そのすべてが丸ごと審査の対象から除 外されているのである。 

 ③伊方原発訴訟最高裁判決の逆用? 

  そして,第 3 の希釈手法は,最高裁判例の 逆用である。この判決を読んで最初に気にな るのは,

「現在の」

知見というあたりであろう。

これは,1992 年 10 月 29 日の伊方原発訴訟最 高裁判決で示された判断基準である。そこで は,

「原子炉設置許可処分の取消訴訟におけ

る裁判所の審理,判断は,原子力委員会若し くは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調 査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁 の判断に不合理な点があるか否かという観点 から行われるべきであって,現在の科学技術 水準に照らし,右調査審議において用いられ た具体的審査基準に不合理な点があり,ある いは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に 適合するとした原子力委員会若しくは原子炉 安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に 看過し難い過誤,欠落があり,被告行政庁の 判断がこれに依拠してされたと認められる場 合には,被告行政庁の右判断に不合理な点が あるものとして,右判断に基づく原子炉設置 許可処分は違法と解すべきである」とされた。 

  すなわち,原子力発電所における原子炉設 置許可処分をめぐり,その判断に高度に自然 科学的な知見を必要とするために,

「設置後

も知見の進歩に対応して原子炉等規制法 24 条 1 項各号の要件を充足し続ける必要がある から,そのことは設置許可の撤回事由になる と解釈されるべき」という提起をした判決で

(14)

ある (17) 。 

  このように,司法審査時点において,処分 時点における知見よりも発展した自然科学的 知見を反映させる方が,より合理的な判断を 導きうることがありうる。このような考え方 を,

「順応的管理」と呼ぶことがある。しか

しながら本判決の枠組みは,順応的管理の枠 組みを完全に逆転させるかたちで,司法審査 の密度を希釈したものといわざるをえない。 

  これを受けて本判決は,

「第 2 号要件の審

査時点では,現在の知見をもとに実行可能な 範囲において環境の現況及び環境への影響を 的確に把握した上で,これに対する措置が適 正に講じられることで足り,上記不確実性に 対応するには,承認後に引き続き事後調査や 環境監視調査を行い,その場その時の状況に 応じて専門家の助言・指導に基づいて柔軟に 対策を講じることはむしろ合理的」と判断し た。 

 ④片面的裁量権とより慎重な審査方法    このような便法に対して,近年は,環境規 制については予防原則的な考え方にもとづい て判断すべきとする考え方も有力である。た とえば「特定外来生物による生態系等に係る 被害の防止に関する法律」は,

「生態系等に

係る被害を及ぼし,又は及ぼすおそれがある」

かどうかがいまだ未判定の動植物であったと しても,予防的に輸入を禁止する規定をもつ。

生態系の破壊や撹乱等のリスクの回避に際し ては,本来予防原則的な対応が求められる。 

  そもそも第三者委員会の委員でもあった桜 井国俊(沖縄大学)は,

「審査にあたった海

岸防災課は,環境生活部が指摘した諸点につ いてなされた沖縄防衛局の回答(2013 年 12

月になされた第 3・4 次回答)が『懸念が払 拭できない』との当の生活環境部にとって

『懸

念が払拭できる』満足のいくものであったか 否かを確認しないまま 2013 年 12 月 27 日の仲 井眞知事前知事による承認へと手続きを進め た」ことから,

「埋立承認に至る判断過程に

明らかな手続き上の誤りがあった」とする (18) 。    仲井眞前知事は,公水法に基づく免許また は承認処分に際して,相手が国であろうと誰 であろうと,知事選挙時の公約どおりに,国 の圧力に抗して片面的裁量権を行使して,埋 立の不承認をすべきであったのである。翁長 雄志知事が自庁取消ししたのは,その後任者 として,処分庁に付与された片面的裁量権を 行使して,行政活動の適法性を確保しようと したものと評価できる。 

  都道府県は,

「地域総合行政主体」として

位置づけられる。この地域総合行政主体論と は,1999 年の地方自治法改正の際の地方分権 推進委員会の勧告によると,地方公共団体が

「地域における行政を自主的かつ総合的に広

く担う」ものとの考え方を反映したものであ る。それは,1999 年の地方自治法改正におい ても,

「国と地方の役割分担という上位概念

の内容として語られている」とされる (19) 。上 記の公水法に基づく承認処分に際して,行政 庁である都道府県知事が配慮する事項とは

「地域総合行政主体」

としての内容であって,

それは,上記の「片面的裁量権」に親和的で はあっても,矛盾することはないのである。

公水法に基づく免許・承認処分が都道府県知 事による法定受託事務とされているのは,こ の意味で説明されうるのである。 

  先にも述べたように,この「環境保全及災 害防止」への配慮の要件は,高度成長期のコ

(15)

ンビナート等の大規模造成にともなう環境問 題の激化を背景に,公水法に追加されたもの である。当時衆議院本会議において金丸信建 設大臣は,

「特に自然環境の保全,公害の防止,

埋め立て地の権利移転または利用の適正化等 の見地から,公水法の規定が不十分である旨,

関係各方面からの指摘もなされている」と説 明していた。 

  このような配慮条項を設けることで,公水 法は「利用調整の原則に対処してきた」。そ の一例として同法 4 条 1 項 2 号でいう「環境保 全及災害防止」への配慮とは,

「現代の環境

利用は,……人びとの生存の前提条件として の環境を大きくかえてしまうおそれがある」

ために,保全利用調整の原理としての保全す べき環境の質の決定は,国民や住民が生存し,

生活するための前提条件を選択するという性 質を有する」のであり,そこで「前提条件の 選択は,そこに住む国民,住民の何らかの同 意が前段にあって,その範囲で行政に裁量が ゆだねられていると考えるのが妥当」(20)   なの である。この意味で少なくとも,1973 年の法 改正において,公有水面埋立法は

「環境法化」

しているのである (21) 。 

  そもそも良好な自然その他の環境は,本来 人為の及ばないところで永年かけて形成さ れ,今日まで存続してきた存在である。それ は,一度失われまたは損なわれるならば,二 度とそのままの状態で回復することができな い,唯一無二の存在である。そこでは,慎重 かつ周到な保護と保全が要請されるのであ る。この場合,たとえば「特定外来生物によ る生態系等に係る被害の防止に関する法律」

は,

「生態系等に係る被害を及ぼし,又は及

ぼすおそれがある」かどうかがいまだ未判定

の動植物であったとしても,予防的に輸入を 禁止する規定をもつ。一般論としても,生態 系の破壊や撹乱等のリスクの回避に際して は,本来予防原則的な対応が求められるので ある (22) 。 

  本判決のこのような司法判断の方法は,公 水法の本来的な趣旨と,最高裁判決の趣旨を いずれも牽強付会的にねじ曲げたものといわ ざるをえない。 

 4. 職権取消制限の法理をことさらに 強調 

  本判決は,

「翁長知事の職権による取消し

は制限される」と主張する。職権取消につき 一般に,

「法律による行政の原理によれば,

行政行為成立時の瑕疵は是正すべきであると 考えられるため,行政庁は,原則として職権 取消しをすべきであ」るものの,

「授益的処

分や複効的処分に関しては,関係者の信頼を 保護する必要性が大きい場合など,職権取消 しの遡及効が制限される場合もありうる」と 考えられてきた (23) 。本件公有水面埋立承認 処分は,

「法律による行政の原理」に反する

かどうかが問われる反面で,この処分自体は 一見すると「授益的処分」に該当する。具体 的に見てみよう。この点本件は,どう評価さ れるのであろうか。 

 

(1) 裁判所が国になりかわって判断    この部分で最も違和感を感じるのは,職権 取消しを考える際にその考慮要素として,

「国

際社会からの我が国に対する信頼が低下する 可能性がある」等として,裁判所がみずから の考えを述べている箇所である。このように

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