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株式会社の配当規制に関する考察 連結配当規制を中心に

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論 文

株式会社の配当規制に関する考察

連結配当規制を中心に

酒 巻 雅 純

キーワード:債権者保護,資本制度,配当規制,連結財務諸表,連結配当規制

はじめに

株主有限責任を前提とする株式会社制度におい て,会社財産の分配(剰余金の配当,自己株式の 取得等)(1に対する規制は,株式会社の出資者で ある株主の利益と,その会社に債権をもつ債権者 の利益の対立を調整する重要な問題である。わが 国の会社法(商法)の歴史では,債権者に対する 元本を維持し,利息の支払いを確保する債権者保 護の観点から,資本制度(すなわち,資本金及び 準備金の制度)に基づき,個別財務諸表ベースで の配当規制が行われてきた。

本論は,わが国における株式会社(2(上場会社)

の配当規制について,その制度とその現状の考察 を目的とする。近年,資本概念が変容し,払込資 本の一部を資本準備金から除外して,配当可能と する改正(2001(平成13)年商法改正)が行わ れ,さらに配当概念も変容した。加えて,株主な どの投資家が連結ベースで企業価値を判断(投資 判断)することが一般的になってきたことから,

2006(平成18)年5月施行の会社法及び会社法 計算規則で「連結配当規制適用会社」という概念

(連結配当規制)が創設され(3,連結業績が親会 社の分配可能額に影響を与えることが,注目され る。このような視点から,本論では,配当規制・

連結配当規制の特徴を明らかにし,若干の事例に より連結配当規制の在り方を考察する。

1 .株式会社の配当規制(連結配当規制 を含む)に係る先行研究とその課題

現代の株式会社制度のもとで資本制度が債権者 保護機能を果たしているとはいいがたい。まず,

この視点から,資本制度に基づく配当規制に代え て,アメリカ会社法を参照して「財政状態基準

(資産・負債比率と流動比率)」を主張する先行研 究(吉原〔1985〕)について考察する。

吉原〔1985〕では,倒産会社を対象とした財務 分析により,配当規制としての「財政状態基準

(資産・負債比率と流動比率)」の実効性について 実証研究している(4。その結果,拠出資本を基準 とする配当規制ではなく,①資産・負債比率の方 がより実効的な(事前の倒産兆候が把握できる)

基準である可能性を主張している(5。しかし,わ が国の実態的な側面から,アメリカ・カリフォル ニア会社法で規定する資産・負債比率(125%)

の比率は厳しすぎるとする。つまり,たとえば,

110%という比率でも倒産3年前の会社を6割以 上,倒産1年前の会社を8割以上の割合で把握可 能なことを示している。これに対して,②流動比 率については,倒産会社と非倒産会社との間で明 確な相違がみられず,ばらつきが大きく過誤適用 率が高いので,適格性に欠ける,と主張している。

次に,清水〔1983〕では,アメリカにおける連 結配当規制について,二つの州会社法(ペンシル バニア事業会社法とカリフォルニア会社法)を考

(2)

察している。

連結財務諸表を配当の基準とするメリットとし て,「決算操作防止という効果のほかに,利益を あげている子会社を有している親会社に対し,安 定配当の道を開く」(6とする。しかし,未実現利 益の配当適状性や会社の法的独立性などから,親 会社がその株主に連結利益剰余金から配当するこ とはできない。この点について,①収益とは,実 現利益を意味する。会社が得た収益によってその 会社の株主が収益をあげたといえるのは,配当宣 言(declaration ofdividends)があり,実際に その株主に配当された時である。②法的実体の見 地からすれば,会社の利益剰余金とは,その会社 の累積利益であり,他の会社の剰余金と合算する ものではない,と指摘している(7

しかし,アメリカの二州では連結財務諸表に基 づく配当を認めている。それでは,どのように前 述の点を克服しているのか。結論として,未実現 利益が配当可能かどうかは,政策的問題であって,

会社法の採用している立場によるとする。つまり,

「会社法が,…(中略)…剰余金は未実現評価金

(unrealizedappreciation)から構成することを 規定していれば,…(中略)…それは配当に利用 できる」とし,「配当財源を親会社の利益剰余金 ないしは純利益(netincome)にかぎっていた り,または未実現評価金にもとづく評価増しから 生じた剰余金からは配当することを禁じている法 制度の下では,…(中略)…未実現利益を算入し て親会社の利益剰余金ないしは純利益から配当す ることはできない」と,している(8

以上が主な先行研究の考察であるが,配当規制

(連結配当規制を含む)の在り方は,未解決の課 題となっている。

2 .株式会社の配当規制の現状

連結財務諸表(会社法上は,連結計算書類とい う)は,商法(会社法)に開示規制として,そし て配当規制としてどのように導入されたのであろ うか。その歴史を振り返ると,まず,情報提供の 観点から連結計算書類が導入され,その浸透・定

着状況を見極めたうえで,さらに連結配当規制(9 が創設された。すなわち,ディスクロージャー制 度として,2003(平成15)年4月改正商法で,

大会社(資本金5億円以上の会社又は負債総額 200億円以上の会社,「株式会社の監査等に関す る商法の特例に関する法律」第1条の2)に連結 計算書類の作成が義務づけられ,証券取引法(現 在の金融商品取引法)で,有価証券報告書を提出 する会社に連結計算書類の作成が義務づけられた。

ただし,連結計算書類制度の導入は,あくまで連 結グループに関する情報提供に目的があり,配当 規制との関係はなかった。それは,仮に,連結配 当規制を導入するとしても,連結の範囲に含まれ る親会社の株主・債権者の利害と子会社の株主・

債権者の利害の調整の見地から,十分な検討が必 要なためであったと考えられる。

現在,2006(平成18)年施行の会社法(10のも とで,有価証券報告書を提出する大会社に連結計 算書類の作成が義務付けられている。また,連結 計算書類は会計監査人設置会社が作成することが できるので,有価証券報告書を提出していない会 社も,会社法上の連結計算書類を作成することが できる。そして,会社法で初めて,連結計算書類 を作成することができる会計監査人設置会社につ いて,「連結配当規制適用会社」(11という観念が 認められ, 連結配当規制が創設されるに至っ た(12

しかし,会社法で規定する連結配当規制は,あ くまで分配可能額は,「個別計算書類の剰余金の 金額をベース」に計算される。つまり,会社法の 配当規制では,債権者保護の観点から,分配可能 額の計算について個別計算書類の剰余金の金額を ベースとしている。

会社法における情報開示規制(情報提供機能)

と配当規制(利害調整機能)の内容とその規制の 対象となる計算書書類については,「図表1」に 示すとおりである。この表に記載のとおり,現在 のところ,連結計算書書類に「利害調整機能」は 求められていない。しかし,ステイクホルダー

(stakeholder)のうち,株主などの投資家は,

連結ベースで投資判断するようになっている。こ

(3)

れに伴い,上場会社は連結ベースで配当政策をと る事例が多くなってきている(13。したがって,

債権者保護を保持しながら株主などの投資家への 利益配分を厚くするという視点から,開示だけで なく配当も連結ベースで規制を加えることが合理 的であるとも考えられる。

3 .連結財務諸表と配当規制

連結財務諸表における配当規制問題は,次のよ うである。

現在のところ,投資判断情報としての有用な

(usefulness)情報として連結財務諸表に対して

「情報提供機能」が求められている。しかし,「配 当規制としての機能(つまり,配当可能か否かの 判断する基準となること)」までもが求められて いるわけではない。しかし,「親会社,子会社お よび関連会社から成る連結グループでは,配当規 制についても個別財務諸表ベースではなく,連結 ベース行う方が合理的である」とも考えうる。そ れは現代の大規模株式会社では,経営者はグルー プ力を活かしたグループ経営に努め,株主などの 投資家も連結ベースで投資判断することが一般的 になってきているからである。

わが国の会社法で連結配当規制が導入されて,

既に6年経過しているが,その実態的な側面から 見ると,採用会社数はわずかに40社程度(2012 年現在)にとどまっている(14。採用会社数が極 めて少ない理由については,たとえば,連結財務 諸表ベースで大きな当期損失が続く見込みである 場合に,連結配当を適用してまで,わざわざ分配

できる剰余金の額(分配可能額)を減らしたいと 考える経営者(取締役)はいない。よって,積極 的に連結配当規制を適用するメリットがほとんど なく,採用されていないのかもしれない(15。で は,逆に,なぜ,40社は採用しているのであろ ろうか。子会社等の再編に備えるためなどという 企業経営上の内発的な理由が見られたが,採用し ている会社は,子会社を含め業績が好調であり,

株主の経済的な利得が減少する可能性が少ないこ とも要因となっている。

4 .株式会社の配当概念の変容

「利益の配当」から「剰余金の配当」へ

商法・会社法の基本理念は,債権者保護である。

そして,配当規制の機能を担ってきたのが資本制 度である。商法・会社法や会計制度は,それぞれ の国々の歴史・政治・文化を反映するものであ る(16。わが国の配当規制の大きな特質は,戦前 の大陸法(ドイツ的な市民法体系)的な商法を継 受し,特に担保をもつ債権者を手厚く保護するこ とを目的として資本制度に基づくことである。旧 商法による配当可能額の算定は,純資産の額から 配当が認められない項目(資本金,新株式払込金 または新株式申込証拠金,資本準備金,利益準備 金その他法務省令で定める金額)を控除するもの であった。

株式会社は,出資者である株主に対して事業活 動の成果である利益を分配するのであるから,そ の配当財源はそもそも期間利益である。しかし,

会社法では,株式会社の配当概念は,大きく変容 図表1 会社法における開示規制と配当規制の主な内容等

主な規制内容 規制のベースと

な る 計 算書 類 開 示 規 制

(情報提供の観点)

①会計帳簿の適時,正確性(会社法第432条)

②計算書類等の作成(会社法第435条)

③貸借対照表の公告(会社法第440条)

個別計算書類 連結計算書類 配 当 規 制

(利害調整の観点)

①統一的な配当規制(会社法第461条)

②剰余金の配当規制(会社法第446条) 個別計算書類

〔出所〕 筆者作成

(4)

している。つまり,旧商法では,配当は利益を株 主に分配するものとしていたが,それに加えて,

会社法では,資本金及び利益準備金の減少に伴う 払い戻し等を「剰余金の配当」と規定している。

平成18(2006)年5月の会社法施行後,株式 会社の配当概念が変質した(配当に関して「規制 の統一化」という変化)。その具体的な内容は,

次のとおりである。従来(平成17(2005)年改 正前商法),規制の対象となる会社財産の払い戻 しは,利益の配当,中間配当,資本金及び準備金 の減少に伴う払戻し(たとえば,有償の減資な ど)(17,自己株式の有償取得に関して別々に規制 していた。しかし,会社法では,これらを「剰余 金の配当」として,合わせて規制するようになっ た。

会社法では,「剰余金の配当等」として規定さ れているが, それは, ①「剰余金の配当」, ②

「自己株式(18の有償取得(現金で自己株式を株主 から取得する)」を統一化したものである。「図表 2」に示すように,①の「剰余金の配当」とは,

旧商法下の利益の配当,中間配当,資本金及び準 備金の減少に伴う払戻しなどである。また,①に は株主が払い込んだ資本の払戻しを含むことを明 らかにするため,「利益の配当」という用語では なく,「剰余金の配当等」という用語を用いるこ とになった。そして,この剰余金の配当等が可能 な金額を「分配可能額」(19という概念で規定して いる。このように,配当規制については,利益の 配当と資本の払い戻しが剰余金の配当としてまと

められ,払込資本であっても所定の手続きを行え ば配当可能となった。

会社法では,分配できる剰余金の金額を「分配 可能額」という概念を用いており,その分配可能 額を構成するのは,「その他資本剰余金」と「そ の他利益剰余金」である。「分配可能額」は,次 式のように剰余金の額から自己株式の簿価等を控 除して得られる額としている。

「分配可能額」=剰余金(その他資本剰余金+そ の他利益剰余金)-自己株式

(簿価)-期中に自己株式を処 分した場合には当該自己株式の 対価額-計算規則で規定する各 勘定科目に計上した額の合計額

分配可能額は,まず,具体的な「剰余金の額」

の算定について,会社法第446条で規定している。

会社法第461条第2項は,分配可能額の算定のベー スとなる「剰余金の額」から,何を減額するのか など,会社法上の政策的な理由により規定してい る(20。分配可能額について,会社法第446条と 会社法第461条が別々に規定している(つまり,

二段階で算定する仕組みとなっている)のは,以 上のような趣旨の違いに起因するものである。ま た,会社法で剰余金の額を基礎とし,分配可能額 算定上,加減すべき額を規定することに変更され た背景には,会計基準の改訂により控除項目が複 雑となったことがある。

図表2 剰余金の配当等の内容(「剰余金の配当」と「自己株式の有償取得」)

〔出所〕 筆者作成 剰余金の配当等

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剰余金の配当

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利益の配当 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その他利益剰余金 中間配当

資本金及び準備金の 減少に伴う払い戻し

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その他資本剰余金 自己株式の有償取得

(5)

以上のような変容の背景には,金銭による配当 も,資本金および準備金の減少に伴う払戻しも,

自己株式の有償取得もいずれもが債権者への弁済 に先立つ株主への会社財産が流出する点では同じ であるとするアメリカ会社法の捉え方に倣ったこ とがある。なお,こうした会社財産の払い戻し方 法の変更傾向(緩和)は,平成13年旧商法から 自己株式の買受,準備金の減少による払い戻し等

(「債権者保護手続きを経れば株主総会の普通決議 で,株主払込資本(準資本である資本準備金)を 株主への配当等の分配の道を開いた制度」(21とな り,「株主の分配は,従前の利益の配当(配当可 能利益)に限定されることなく資本を源泉とする 配当を可能(剰余金の分配)にする制度」(22へと 変容した)にみられたところではある。

さらに,規制の特徴として,剰余金の配当に関 する時期の制限をなくして,剰余金の配当がいつ でも何度でも実施することができる(23(ただし,

債権者保護のため純資産額が300万円を下回る場 合には配当を行うことができない(24)。旧商法で は,剰余金の配当は,決算日から3ヶ月以内に開 催される定時株主総会の決議による「年次配当

(利益処分)」と,一事業年度の1回に限り取締役 会の決議による「中間配当」の最大でも年2回だ けであった。これに対して,会社法ではこの年間 配当回数の制限が撤廃され,株主総会及び取締役 会の決議による「四半期」や「不定期」の配当が 柔軟にできるようになって,株主の立場から配当 の機会が増えている(25

実際に,「四半期」 配当実施会社は,7社あ る(26。これらの会社の特徴として,株主構成及 び収益性に一定の傾向がある。第一に,株主構成 を見ると,「機関投資家(外国+投資信託)保有 比率」が高い(27。第二に,収益性を見ると,「株 主持分利益率(ROE:当期純利益÷(株主資本+

その他包括利益累計額))」が高く,高収益であ る(28。以上のことから,「四半期」配当に前向き なのは,機関投資家などの株主の存在を意識する,

高収益の会社であることが分かる。

5 .連結配当規制の特質

連結配当規制の導入経緯

会社法制定まで,連結配当規制は行われていな かったが,過去にもその導入の検討はなされてい た。本節では,その経緯を振り返って考察する。

連結計算書類制度が導入された当時,その適用対 象は,当分の間,有価証券報告書の提出会社に限 られるとされた。また,連結配当規制の導入には,

連結各社の債権者の利益保護のための配慮が必要 であるとされ,結局,見送られている。

法学者や実務関係者からの導入論としては,① 連結ベースの剰余金が個別ベースの剰余金を下回 る場合に連結ベースの剰余金を超える配当を認め ない,②連結ベースの剰余金が個別ベースの剰余 金を上回る場合に連結ベースの剰余金まで配当を 認める,ことを検討する必要があるとの指摘があっ た。

①については,親子会社間の取引等による利益 操作が行われ,配当可能利益の計算にも影響があ りうるため,連結配当を認めることをあげている。

また,現行法の解釈論としても,連結ベースでの 剰余金が少ない状況で配当が行われ,これが著し く不当な利益の処分(商法281条ノ3第2項8号)

にあたる場合は,個別ベースでの配当可能利益が ある場合でも,取締役の責任(同法266条1項5 号)が追及される可能性があるとしている(29

②については,たとえば,海外子会社に利益が ある場合,個別ベースの剰余金までしか配当を認 めないと,親会社の株主に配当を行うためには子 会社から親会社に配当を行わなければならず,こ れにより為替・税制面において追加コストが生じ ることをあげている。この点,仮に,連結ベース の剰余金まで配当が認められれば,子会社に資金 を置いたまま親会社の株主に配当を行うことがで き,コストを削減できる。しかし,やはり子会社 の利益が実際に配当されるまでは親会社の財産と はならないので,採用はできないとの批判がされ た。

2002年の商法改正について審議した法制審議

(6)

会でも,連結配当規制についての議論があったが,

立法化は見送られている。しかし,同規制が不要 というわけでなく,将来の課題とされたのであっ た。そして,グループ連結経営の流れに沿って,

2006(平成18)年5月施行の会社法及び会社法 計算規則で「連結配当規制適用会社」という概念 が創設されるに至ったのである。

連結配当規制の意義

連結配当規制の機能は,支配会社(親会社)と 被支配会社(子会社等)からなる連結グループに おいて,子会社等の経営成績および財政状態を分 配可能額に反映させ,子会社等を犠牲にして,自 社に利益を付け替えさせて,株主に配当できるよ うにするという不正のおそれを抑制することにあ ると解される(30

会社法では,会計監査人設置会社(31は,連結 計算書類(32を作成することができる,として任 意作成の規定となっている。連結配当が可能な会 社は,「連結配当規制適用会社」といい,連結計 算書類を作成していることが要件となる(33。連 結配当規制は,債権者との間の利害を調整する規 制であるから,会社の選択を認めることは適当で ないと解されるが,この点に対しては,立法担当 者により次のように説明されている(34

「分配可能額の算定の基礎となる貸借対照表 やその基礎となる具体的な会計処理自体,公正 な会計慣行に従いつつ,複数の会計処理の中か ら選択し得るというものになっており,強行規 定であるといっても,唯一の方法が強制されて いるわけではない。

また,連結配当規制自体,連結計算書類を作 成していなければ適用することができず,その 連結計算書類の作成自体が任意の選択性になっ ているという事情もある。

さらには,剰余金の額も,会社が任意に資本 金や準備金を減少して作出することができる規 制体系になっている以上,分配可能額の個々の 構成要素をみれば,会社の任意性を認める余地 は相当広い」。

このように連結配当規制は,その基礎となる連 結計算書類の作成自体が任意の選択になっている,

と主張している。しかしながら,そもそも連結グ ループが存在している場合には,連結計算書類を 作成すべきである。したがって,上のような説明 には疑問なしとしない。

連結配当規制についての具体的な規定として,

会社計算規則第158条4項では,「連結配当規制 適用会社」が,「連結剰余金差損額」を計算する 算式を次のように定め,その差額を分配可能額か ら減じる。つまり,連結配当規制を適用する場合,

最終事業年度の末日における個別貸借対照表と連 結貸借対照表をベースに,それぞれの①株主資本 の額から,②その他有価証券評価損(35,③土地 再評価損,④のれん等調整額(当該のれん等調整 額が資本金の額,資本剰余金の額および利益準備 金の合計額を超えている場合には,資本金の額,

資本剰余金の額および利益準備金の合計額),及 び⑤最終事業年度の末日後に子会社から自社株を 取得した場合(36には,取得直前の子会社におけ る帳簿価額のうち連結配当規制適用会社の子会社 に対する持分に相当する額の合計額を減じて得た 額と比較して,連結ベースの方が少ない場合には,

その差額を分配可能額の算定上,減じなければな らない。連結ベースの方が多い場合には,減じる ことはしない。

個別貸借対照表と連結貸借対照表の株主資本の 額を比較すると,資本金の額が同じであり,連結 子会社の貸借対照表上の資本剰余金は連結貸借対 照表上では相殺消去されているため,個別ベース の株主資本から連結ベースの株主資本を減じて得 た額は,結局,「個別ベースの利益剰余金から連 結ベースの利益剰余金を減じた額」となる。この 差額を分配可能額から減じることになる。

連結剰余金差額の意味

以上のように連結配当規制では,「連結利益剰 余金が個別利益剰余金よりも少ない場合にその差 額を分配可能額から減じる」ものである。それで は,その差額を減じる論拠はどのようなものなの だろうか。それは未実現の損益に対する考え方と

(7)

同様であると次のように考察できる(37

すなわち,連結利益剰余金が個別利益剰余金よ りも少ないということは,親会社が保有する子会 社株式に含み損がある場合と同じと考えられ,評 価損が生じている状態である。したがって,その 差額を分配可能額から減じる。

逆に,連結利益剰余金が個別利益剰余金よりも 多いということは,親会社が保有する子会社株式 に含み益がある場合と同じと考えられ,その含み 益は,子会社から配当等を受けることによって実 現することが予定されているため,あえて分配可 能額に算入しない。

つまり,現行の連結ベースでの配当規制は,連 結利益剰余金が個別利益剰余金よりも少ない場合 にその差額を分配可能額から減じるものである。

そして,その減じる意味は,未実現利益に対する 考え方と同様である。以上のような考え方は,剰 余金の分配可能額を算定する場合には,未実現の 評価益は算入せず,評価損は算入するという保守 的な計算が,債権者保護の観点から望ましいとい う会社法の論理が貫かれている。つまり,会社法 の立場からは,未実現の利益を配当することは,

認められないのである。

6 .わが国の連結配当規制の在り方

(試論)

連結配当規制の在り方として,株主など投資家 が連結ベースで投資判断するようになっていると いう観点から,配当も連結ベースで行うことが合 理的であるという考え方もありうる。しかし,実 際に,会社が連結ベースで配当政策を進めるにし ても,会社法では,親会社の個別財務諸表上の剰 余金を超えて配当することを認めていない。

そこで,親会社の個別財務諸表に計上されてい る子会社株式の評価に持分法の適用を認め,実質 的に連結ベースで配当することが考えられる。つ まり,子会社株式の評価に持分法を適用すれば,

その評価益が親会社の分配できる剰余金を構成す るので,会社は連結ベースで配当できる。しかし,

持分法の適用によって計上される利益(子会社投

資勘定の評価益)が配当適状にある(資金の裏づ けがある)とはいいがたい。つまり,会社法では,

発生主義会計 (accrualaccounting) ないし取 得原価主義会計(historicalcostaccounting) を重視しており,その実現概念に従えば,子会社 投資勘定の評価益を配当することは認めていない。

さらに,親会社の個別財務諸表上の剰余金を超え て配当する場合には,子会社の少数株主の保護の 問題がある。

それでは,これらの問題を考慮しつつ,親会社 の分配可能額よりも連結ベースでの分配可能額が 大きい場合,連結ベースの水準を斟酌する(現行 会社法では,認められていないが,個別財務諸表 上の利益剰余金を超えて配当する)考え方はでき ないのであろうか。そこで,本論では,次のよう な考え方を提案することとしたい。

具体的には,「個別財務諸表の剰余金をベース に分配できる剰余金の額(分配可能額)を計算す る」ことを前提とし,「分配可能額の最高限度額」

を定めるものとする。そして,これを前提として,

次の問題は,どの範囲まで分配できるかという

「配当可能原資の範囲」を決めることである。そ こで,子会社について,①100%完全子会社と② 不完全子会社(38に分けて考える。すなわち,① 100%完全子会社については,親会社の一事業部 門とみなして(39,その「分配可能額」を「配当 可能原資の範囲」に含める。さらに,②不完全子 会社については,「当該子会社が親会社に支払っ た配当金」を「配当可能原資の範囲」に含める。

以上のように,①と②の合計額を「配当可能原資 の範囲」に含めるものとする(40

なお,個別財務諸表上の分配可能額を超えて配 当する場合には,株主・債権者等の利害関係者に 情報提供の観点から,①と②のそれぞれの額につ いて,個別貸借対照表に注記することにする。

この試論について,実態的な側面から,NTT

(日本電信電話㈱)グループの事例に照らして,

考察する。

NTTは,1985年に民営化し株式会社となり,

1987年に上場している。その後,事業を分離し て子会社として上場する事業再編がなされた。

(8)

1999年には,NTT本体をNTT東日本,NTT 西日本,NTTコミュニケーションズ(3社は,

100%完全子会社)に分割して,これらを持株会 社が保有する再編を行った。

「図表3」は,現在のNTTグループの体制で ある。NTTデータ,NTTドコモとエヌ・ティ・

ティ都市開発の3社は,株式上場会社として外部 の株主(少数株主)が存在している。また,「図 表4」により,NTT個別とNTT連結の財務規 模(個別/連結)を比較すると,NTT個別の売 上高は,NTT全体の3.79%,純資産は,49.57% となっている。また,NTT個別の受取配当金は,

2,357億円であり,売上高の60.4%を占めている。

「図表5」は,NTT本体(個別)の配当状況を 示している。たとえば,2012年3月期のNTT 本体の配当性向は,65.2%であり,支払配当額は,

1,679億円である(分配可能額は,9,569億円)。

「図表6」は,NTT本体(個別)の本論の試論 にもとづく連結ベースでの分配可能額を試算した ものである。①完全子会社(代表的なNTT東日 本,NTT西日本,NTTコミュニケーションズ)

の分配可能額の合計は,6,891億円である。②不 完全子会社(代表的なNTTデータ,NTTドコ モとエヌ・ティ・ティ都市開発)からの受取配当 額は,1,609億円である。したがって,①と②の 合計額に,NTT本体の調整後分配可能額の7,163 図表3 NTTグループの体制

(注) 他に,子会社772社,関連会社106社がある(20113月末)。

〔資料出所〕 同社有価証券報告書により筆者作成

NTTグループ

( )内の数値は,NTTの持株比率

NTT東日本

(100%)

NTT西日本

(100%)

NTTコミュニ ケーションズ

(100%)

NTTデータ

(54.2%)

NTTドコモ

(66.6%)

(上場子会社) (上場子会社)

エヌ・ティ・

ティ都市開発

(67.3%)

(上場子会社)

図表4 NTTグループの個別と連結での財務規模の比較

(単位:億円,カッコ内%/2011.3月期)

売上高 個別/ 経常利益 純利益 純資産額

連結 内 訳 個別/

連結

個別

3,903 3.79

受取配当金 2,357(60.4)

2,278 2,257 49,969 49.57 グループ経営運営収入 191( 4.8)

基盤的研究開発収入 1,239(31.7) その他の収入 115( 2.9)

連結

103,050

固定音声関連収入 21,807

11,757 7,018 100,809 移動音声関連収入 20,215

IP系・パケット通信収入 33,411

〔資料出所〕 同社有価証券報告書により筆者作成

(9)

億円を加えると,1兆5,664億円となる。この1 兆5,664億円が本論の試論にもとづく連結ベース の分配可能額である。株主など投資家が連結ベー スで投資判断するとすれば,このレベルを斟酌す ることが経営者の配当政策として合理的であると 考えられる。

おわりに

本論の示唆

商法の債権者保護の考え方は,戦後日本の経済 システムにはフィットしていたと考えられる。つ まり,国が銀行を守り,銀行が会社の財務をモニ タリングするというシステムのもとで,そのイン フラとしての「債権者=銀行」を中心とした法的 な枠組みと実態が合っていた。しかし,こうした

枠組みは崩れ,バブル崩壊から金融危機を経て変 容する。近年の様々な法制の枠組み変更傾向(金 融ビッグバン・会計制度変更)は,株主などの投 資家が会社にモノを言いやすい方向へと行われて きた。商法もこうした流れに沿って部分的な改正 が何度も行われ,会社法が施行されるに至ったの である。

わが国の株式会社の配当規制では,個別財務諸 表をベースにその貸借対照表の純資産の部のうち の「剰余金(その他資本剰余金+その他利益剰余 金)」を配当原資としている。会計の情報提供機 能と利害調整機能というそれぞれの目的が異なる ので,会計上の利益(業績利益:業績尺度)と会 社法上の利益(業績利益を基礎にした分配可能額:

分配尺度)とは異なる。そこで,分配可能額の算 図表5 NTTグループ(個別)の配当状況等

(単位:百万円,%)

決 算 期 支払配当額 当期純利益 会社法上の

分配可能額 配当性向/ / 2008年3月 117,467 195,833 1,259,426 59.9 9.3 2009年3月 135,338 195,983 1,119,568 69.0 12.0 2010年3月 152,177 215,746 1,182,842 70.5 12.8 2011年3月 158,782 225,705 1,249,531 70.3 12.7 2012年3月 167,980 257,297 956,919 65.2 17.5

〔資料出所〕 同社有価証券報告書により筆者作成

図表6 NTTグループ(個別)の連結ベースでの分配可能額の試算

(単位:百万円)

決 算 期 調整後の分配可能額

1

不完全子会社からの配当額

2

完全子会社の分配可能額

3 ++

2008年3月 1,047,587 138,139 352,945 1,583,671 2009年3月 924,073 146,995 486,508 1,557,567 2010年3月 970,500 150,838 561,092 1,682,429 2011年3月 1,020,162 155,866 657,941 1,833,443 2012年3月 716,307 160,912 689,191 1,566,410

1) 調整後の分配可能額とは,NTTグループ(個別)の連結ベースでの分配可能額を試算するために,「会社法上の分配可能 額」から,「不完全子会社からの受取配当額と完全子会社からの受取配当額との合計額」を控除したものである。

2NTTデータ,NTTドコモ,エヌ・ティ・ティ都市開発3社(3社は,不完全子会社)からの受取配当額の合計額。

3NTT東日本,NTT西日本,NTTコミュニケーションズ(3社は,100%完全子会社)のその他利益剰余金の額の合計を分 配可能額とみなしている。

〔資料出所〕 同社有価証券報告書により筆者作成

(10)

出のために,会計基準はその基礎数値を提供する が,それをどのように用いて分配可能額を求める のかは,会社法上の政策的な理由によって規制を 加えている。

わが国の配当規制は,出資持分の一定程度を基 準とすることから変わらないが,現代の大規模株 式会社は,資本の何倍もの取引を行っている実態 をみると,有限責任制度のもとでの資本が債権者 保護機能を果たし,出資額の一部の拘束が会社債 権者保護になるとはいいがたい。カリフォルニア 会社法の規定(資産対負債比率が125%以上であ り,かつ流動性比率が100%以上であること)に あるように,会社にとってその有限責任の担保と なる財産を合理的な額に高めることが重要(会社 が倒産する前兆は,会社の負債総額がその会社と しての安全ラインを把握することである程度判断 ができるので,会社の規模に見合った資金の充実 が重要)であることが示唆される。

大規模な上場会社の実態的な側面をみると,多 くの子会社をその支配下に有し,開示制度は連結 ベースが主となっている。会社法でも,連結計算 書類の作成が制度化されている。連結計算書類を 作成している会社は,連結配当規制適用会社にな ることができる。この場合,親会社の分配可能額 と連結ベースでの分配可能額のうち,いずれか低 い金額を分配可能額とすることができる。これは 連結ベースで企業価値を判断するようになってき ているため,配当も連結ベースで行うことが合理 的であるからである。ただし,親会社の分配可能 額よりも連結ベースでの分配可能額が大きい場合 も親会社の分配可能額が限度となる。これは配当 を払いすぎることにより親会社の債権者の債権の 担保となる財産の流出を防ぐためである。現在の ところ,こうした考え方が会社法での連結配当規 制の考え方の前提となっている。この意味で,わ が国の連結配当規制は,個別配当規制の補完的な 位置づけとなっている。

連結配当の在り方として,本論で考察したよう に,持分法を親会社の保有する子会社株式に適用 することも可能である。しかし,わが国では,個 別財務諸表で持分法を適用することは認めておら

ず,親会社の個別財務諸表上の分配可能額を超え て配当することはできない。そこで,本論では,

連結配当規制の試論として,子会社を「完全子会 社」と「不完全子会社」に分けて,完全子会社の 分配可能額と不完全子会社からの受取配当を考慮 する連結ベースでの分配可能額の考え方を提示し た。そして,実態的な側面からNTTグループに ついて連結ベースと個別ベースの数値を対照しな がら,全体と個別に分解して比較分析し,親会社 の分配可能額よりも連結ベースの分配可能額が大 きい場合,連結ベースの同額の水準を斟酌する考 え方の実践可能性について数値例をもって検証し,

その結果,連結ベースの分配可能額のレベルを斟 酌する配当の方が合理的であることを示した。

最後に,今後の課題として,連結配当規制につ いて,さらに理論研究と実証研究を探求する必要 がある。

(1) 旧商法では,「配当」という用語が使用されて いたが,これに代わり会社法では,「分配」とい う用語を使用している。本論文では,文脈上明ら かに会社法上の「分配」に関する概念を説明する 場合を除き,「配当」という用語に統一している。

(2) 株式会社は,資本を糾合して大規模事業を行う ための仕組みである(株式会社の経済的特質につ いて,箕輪〔2011〕79頁参照)。株式会社には,

会社法上,規模・公開性を基準として大会社・中 小会社,公開会社・非公開会社があり,また,金 融商品取引法の適用を受けるいわゆる上場会社が ある。本論文では,株式会社=上場会社という前 提で考察する。

(3) 先行研究(たとえば,岸田〔1984〕,伊藤〔1996〕)

でも,連結ベースでの配当規制の必要性がこれま でも指摘されている。

(4) 吉原〔1985b〕934935頁。

(5) 前掲書941頁。

(6) 清水〔1983〕171頁。

(7) 前掲書176頁。

(8) 同上176頁。

(9) ここで,たとえば,連結配当規制の考え方(定 義)として,「配当原資または配当限度額の計算 について連結ベースで規制すること」とする。こ の定義では,連結財務諸表上の剰余金を配当原資

(11)

として措定してその額に基づいて親会社の配当限 度額を決定することになる。しかし,わが国では,

現在,連結計算書類に利害調整機能は求められて いない。わが国の会社法での連結配当規制の定義 について,詳しくは,本論第5節参照のこと。

(10) 会社法は,2005(平成17)年7月26日,平成 17年法律第86号として公布された。続く,2006

(平成18)年2月7日に①会社法施行規則(平成 18年法務省令第12号,平成23年11月最終改正),

②会社計算規則(平成18年法務省令第13号,平 成23年11月最終改正),③電子公告規則(平成 18年法務省令第14号,平成23年12月最終改正)

が法務省令として公布され,会社法は2006(平 成18)年5月1日から施行されている。なお,

本文及び注記中に会社法の条項を記す時には,

「会社法第○条第○項」とする。

(11) 会社計算規則第158条第4項。

(12) なお,連結配当は,企業結合法制が確立し,親 会社の指揮と責任の在り方が整備されていること が必要となる(しかし,わが国では,企業結合法 制が確立していない)。

(13) なお,上場会社の利益状況を観察すると,連結 の利益が個別を上回る場合が通常であり,大多数 である。

(14) 連結配当規制適用会社は, 次の35社である

(新日本監査法人ナレッジセンターの調査(調査 日:平成21年7月28日))。日清オイリオグルー プ㈱,大王製紙㈱,日本バルカー工業㈱,㈱クラ レ,アース製薬㈱,オンコセラピー・サイエンス

㈱,アンジェスMG㈱,大和工業㈱,サンケン電 気㈱,パナソニック㈱,日野自動車㈱,セイコー ホールディングス㈱,宝印刷㈱,㈱ニッピ,クリ ナップ㈱,三菱鉛筆㈱,四国電力㈱,㈱中央倉庫,

㈱近鉄エクスプレス,ガンホー・オンライン・エ ンターテイメント㈱,東映㈱,ゼット㈱,クオー ル㈱,イオン北海道㈱,㈱ヤマナカ,㈱ダイエー,

㈱ベリテ,㈱香川銀行,㈱岡三証券グループ,ア イフル㈱,バリューコマース㈱,日清医療食品㈱,

㈱ダスキン,㈱トスネット,㈱丹青社。

(15) 連結配当規制適用会社に対する,訪問等による 聞き取り調査を実施した(実施日:平成24年8 月。質問内容:「なぜ,連結配当規制適用会社と なる会社が少ないと考えますか」,その結果,約 半数から「分配可能額を減らしたくないため」と の回答を得ることができた。)。また,「なぜ,連 結配当規制を適用しているのですか」との質問に 対して,その回答は,会社により様々であったが,

「子会社等の組織再編に備えるため」,「持株会社

化を契機として」との回答を得ることができた。

(16) アメリカの配当規制に関する歴史的変遷に関す る研究として,森〔1974〕,岸田〔1984〕,伊藤

(邦)〔1996〕がある。

(17) 資本金及び準備金減少差益の配当原資化は,平 成13年6月改正商法が減資差益の資本準備金積 立規定を削除し,減資差益は資本準備金としてで はなく,配当原資である「剰余金」の中の「その 他剰余金」に属するとしたことに端を発している

(箕輪〔2008a〕7274頁参照)。

(18) 株式会社が自社の株式を取得して保有している とき,この株式を自己株式という。自己株式の取 得は,株式の払い戻しと同じく,資本充実に反し て,債権者の利益を害することから,わが国では 禁止されてきた。2001年以降は,株主総会決議 を経て,分配可能額の範囲内であれば,目的・数 量を問わず自己株式の保有が認められている(会 社法第155条,461条)。

(19) 会社法第461第条1,2項。

(20) たとえば,「のれん」はその分配適状性に疑義 があるため,剰余金の額から「のれん等調整額」

の資本等を超える額などを減ずる保守的な計算を 行う。なお,会社法では組織再編が原則自由にで きるため,受入純資産とその対価額との差額とし て多額ののれんが発生する可能性が生じている。

(21) 箕輪〔2010〕242頁。

(22) 前掲書242頁。

(23) 会社法第453条。

(24) 会社法第458条。

(25) そのため会社法では,臨時計算書類の制度を導 入している。さらに,剰余金の額の変動事由が増 えたことから,一会計期間における純資産の変動 を明らかにするために株主資本等変動計算書を計 算書類としている。これにより,利益処分案(ま たは損失処理案)が計算書類ではなくなり,剰余 金の配当に関する議案は,定時株主総会において 計算書類の承認に関する議案とは別個の議案とし て取り扱われることになった。

(26) ホンダ,日立工機,ホギメディカル,スミダコー ポレーション,イー・アクセス,リンクアンドモ チベーション,東京リスマチック(2011年9月 末現在)。

(27) ホンダ(40.0%),日立工機(11.8%),ホギメ ディカル (32.1%), スミダコーポレーション

(15.7%),イー・アクセス(48.2%),リンクアン ドモチベーション (2.3%), 東京リスマチック

(0.6%):2011年3月末現在,「会社四季報2011 年4集」より算出。

(12)

(28) ホンダ(12.0%),日立工機(0.5%),ホギメディ カル(7.3%),スミダコーポレーション(26.6%),

イー・アクセス(19.9%),リンクアンドモチベー ション(18.6%),東京リスマチック(2.2%):

2011年3月末現在,「会社四季報2011年4集」

より引用。

(29) 矢沢〔1979〕16頁。

(30) 相澤〔2006〕118頁。

(31) 会計監査人設置会社は,公認会計士又は監査法 人による監査を受ける。会社法第337条,436条。

(32) 会社法では,連結財務諸表を連結計算書類とい う。連結計算書類とは,当該会社及びその子会社 からなる企業集団の財産及び損益の状況を示すた めに必要かつ適切なものとして法務省令で定める ものをいう(会社法第444条1項)。そして,こ の「法務省令で定めるもの」には,連結貸借対照 表,連結損益計算書,連結株主資本等変動計算書,

連結注記表から構成されている(会社計算規則第 61条)。なお,連結キャッシュ・フロー計算書は 該当しない。

(33) 会社計算規則第2条3項51号

(34) 相澤〔2006〕119頁。

(35) 最終事業年度の末日にその他有価証券評価損,

土地再評価損が計上されている場合,これらを剰 余金から減じた額を比較するのは,これらは実質 的に剰余金から減じるべきものと考えられたから である。つまり,これらの評価損益は,株主資本 に属しないので,そもそも剰余金の計算上は算入 しない。しかし,差損が生じ,純資産が毀損して いるので,保守主義的な観点から減じるべきもの であるとの考え方による。

(36) 最終事業年度の末日後に子会社から自社株を取 得した場合にその帳簿価額のうち子会社持分に相 当する額を利益剰余金の差額から減じるのは,最 終事業年度の末日における連結貸借対照表上,こ の額は自己株式として計上されているところ,末 日後に取得した自己株式の帳簿価額は分配可能額 の算定上マイナスされるので,この相当額を減じ ておかないと,分配可能額の算定上,二重に減じ ることになるからである。

(37) 相澤〔2006〕118頁。

(38) 不完全子会社という概念は,会社法上にはない が,ここでは,100%完全子会社以外の会社をい う。

(39) 連結決算が一般化した現在,会計上は,事業部 も子会社や関連会社も区別はなくなっている。

(40) ただし,このような考え方は,連結財務諸表か ら分配可能額を導いて計算していないため,真に

連結ベースの配当といいうるかどうか,さらに検 討を要する点である。

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参照

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