株式会社の一考察
29株式会社の一考察
一アジア法との比較一
志、
津 田 氏 治
一 総 説
わが国では,実定商法上の会社の法律的な意義を定めた規定はあるが(商53条・54条1 項),しかし,その一類型である株式会社については別段の定義をおいていない。通常株 式会社とは,社員たる株主の出資による資本団体であって,株主の地位は細分化された均 等の割合的単位の株式の形式をとり,かつ株主はその有する株式の引受価額を限度として,
会社に対する出資義務を負うだけで,会社債権者に対してはなんらの責任を負わない(間 接有限責任)会社であるとされている。この点で,東南アジア諸国の会社法のなかでは明 確な概念定義を置いている国もある。たとえば,タイ会社法では「株式会社は等しい株式 に分割された資本をもって設立され,株主の責任はそれぞれ各人保有の株式につき未払込 額がある場合はその金額に限られる種類の会社である」(1096条)としたり,また台湾の 会社法でも「株式会社(管守有限公司)とは,7人今人の株主によって組織され,全部の 資本を株主に分け,株主がその引受株式について,会社に対してその責任を負う会社であ る」(2条4項)であると明文を置いている。いずれにせよ株式会社は株主の個性がきわめ て稀薄であり,その出資を基礎とする一定額の資本が会社債権者に対する唯一の担保であ る意味で,物的会社(資本会社)の典型である。以上のように株式会社は,①流通証券化 された株式制度,②株式の有限責任の原則,③資本原則の重視などに最もよくその特色が あらわれている。また,株式会社は営利社団法人であるが,近時所有と経営の分離,株主 の債権者化の著しい現象に着目して,株式会社の本質を他の種類の会社と同じように社員 の結合体と認めることが次第に非現実的となり,営利財団あるいは中間法人ということが 指摘されるにいたっている。しかし現在のわが国の実定法の枠づけのもとでは,これを肯 定することは困難であると解するのが多数説である。
(1)株式 株式会社では,社員(株主)の地位が細分化された割合的単位としての株式 で表現される。このように社員の地位を細分化し単位化することは,もっぱら技術的な配 慮による。すなわち,これによって複雑な利害関係の簡明な処理と地位の円滑な譲渡が可 能となり,地位を証券化して流通させる基礎が与えられることになる。株式会社の資本は 株式を基礎として形成されているが,その資本は必ずしも株式の総和であるとはいえな
い。
授権資本制度を採用し,かつ無額面株式を認める立法例(英米法系・昭和25年のわが国改 正法)のもとでは,資本の増減が株式数と無関係に生ずる場合もあるからである(商293 条ノ3・212条1項)。しかし,このような資本と株式との関係の切断は,むしろ例外的な 現象であり,資本の本来的な姿は発行済株式の発行価額の総和(額面株式の額面超過額お よび無額面株式の払込剰余金を除く)であり(商284条ノ2),株式が資本形成の基礎を なしていることを妨げるものではない。東南アジア諸国の会社法でも,とくに韓国の会社 法によれば,株式会社の資本は株式に分割され(商329条),発行済株式の株金総合計が 資本となることを定めている(商451条)。また台湾の会社法も,株式会社の資本は,株式
(州府)に分割され,各株式の金額は均等であり,しかも定款に定めがあれば,特別種類 の株式を発行することができるものとしている(156条1項)。
② 株主の有限責任 株主は会社に対しその有する株式の引受価額を限度として出資義 務を負うにとどまり,それ以外に社員としてはなんらの義務を負担しない(商200条1項。)
これを株主有限責任の原則という。韓国会社法でも株主の有限責任を宣明にしている(商 331条)。したがって株主の責任は,引受価額を限度とする払込義務のみであるといえる。
台湾会社法でも同じく,株主(股下)の会社に対する責任は,その株主の金額を払い込むこ とを限度とする有限責任制を明示する(154条1項)。したがって,株主は,会社債権者に 対しては直接なんらの関係をも生じない。この点で株主の有限責任は,合資会社の有限 責任社員の有限責任と異なる。すなわち後者は,社員の会社債権者に対する直接の弁済責 任(直接責任)が一定額を限度とする意味の有限責任(商157条1項)であるのに対して,
前者は会社に対する有限の出資義務のことであり,会社債権者に対する直接の弁済責任 を含むものではない。会社債権者に対する直接の弁済責任を責任といえば,株主は無責任 ということになろう。ただ株主は会社を通じで会社債権者に対して間接責任を負っている ということにすぎない(間接有限責任)。大資本の糾合という株式会社本来の機能も,この 原則によって遺憾なく発揮されうるために,この原則は株式会社の最も基本的な特質をな すものである。ゆえに定款の規定または株主総会の決議をもってしても,株主に追加出資 義務を課することができないばかりではなく,その他いかなる種類の社員的義務(株主総 会出席の義務,取締役就任の義務など)も強制することはできない。
(3)資本 株主は有限の出資義務を負うだけであるから,会社債権者に対する担保とな るのは,会社財産だけである。したがって,会社財産を確保することは会社債権者に対す る至上命題である。ここでいう資本とは,会社に確保すべき財産の最小限度を示す計算上 の数額であり,現実に変動する会社財産と別個の観念である。資本額は法定基準によって 構成され(商284条ノ2),登記および貸借対照表に公示される(商188条2項6号・283 条2項)。資本の有する会社財産確保の機能は,つぎの資本に関する三原則に具体化されて
いる。