• 検索結果がありません。

担保権侵害と背任罪の成否

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "担保権侵害と背任罪の成否"

Copied!
20
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

判例評釈

担保権侵害と背任罪の成否

︵最決平成一五年三月一八日刑集五七巻三号三五六頁︶

       代行業者である証券会社および代理人を介した申立てにより裁事案の概要︼         判所から複数の除権判決を得ることでB社の各質権を喪失さ

 A社の代表取締役である被告人は︑B社との間で締結した極  せ︑よってB社に時価総額約一億八〇〇〇万円相当の財産上の      度額三億円の根担保質権設定契約に基づき︑二回にわたって受・ 損害を加えた︒

領した合計一億万一八〇〇万円の融資の担保として︑C社等の   第一審は︑﹁質権者は︑質権の対抗要件を取得した後も︑質

発行にかかる株券合計四五枚をB社に入質交付した︒しかしそ  権の担保価値を保全する必要がある︒そして︑・質権設定者は︑

の六年後︑被告人は各株券についてそれぞれ紛失した旨の虚偽  質権者の質権の担保価値を保全する義務があるというべきであ

の理由で除権判決を得て失効させ︑B社の各株式についての質  り︑右義務は︑質権設定者の固有の事務とはいえず︑質権者の

権を喪失させた上︑再発行される新しい株券を売却処分するこ  ためにする質権者の事務というべきであるから︑質権設定者

とでA社の利益を図る目的をもって︑株券再発行申請手続等の  は︑他人である質権者のためにその事務を処理する者といえ

   担保権侵害と背任罪の成否 .       ︵都法四十五ー二︶ 四五七

(2)

四五八

る︒﹂として︑背任罪の成立を認めた︒      した株券について虚偽の申立てにより除権判決を得て株券を失

 第二審も︑﹁株式質権の設定者は︑質権の目的である株券を  効させ︑質権者に損害を加えた場合には︑背任罪が成立すると

質権者に交付し︑質権者に第三者に対する対抗要件を具備させ  いうべきであるから︑これと同旨の見解の下に︑被告人が刑法

た後であっても︑当該株券を質権者のために保全すべき任務︑  二四七条にいう﹃他人のためにその事務を処理する者﹄に当た

すなわち︑株券について除権判決を得て失効させて︑質権者の  るとして背任罪の成立を認めた原判決の判断は正当である︒﹂

質権を消滅させてはならない任務を負うのであり︑かつ︑この. と判示した︒

任務は︑自己のためのものではなく︑もっぱら他人である質権      ︻評釈︼者のためのものであるから︑株式の質権設定者は︑﹃他人のた

めにその事務を処理する者﹄に該当するといわなければならな    一 第一抵当権者が対抗要件を備えていないことを奇貨とし

い︒﹂として︑被告人の控訴を棄却した︒       て別の者のために抵当権を設定し先順位の抵当権設定登記をす

 これに対して︑被告人は︑本件株券をB社に交付した後は︑  るという︑いわゆる二重抵当を背任罪で処罰することの当否

被告人はもはやB社のための事務処理者にあたらないとして︑  は︑背任罪の本質や﹁他人のためその事務を処理する者﹂の意

上告した︒      義と深く関わる問題として︑頻繁に議論されてきた︒株券に質

      権を設定し質権者への交付を完了した者が無断で株券の除権判︻決定竃日︼         決を得てこれを失効させる行為は・寛・二重抵当と無関係の        最高裁は︑上告理由なしとして棄却した上で︑﹁株式を目的  ようにも思われるが︑二重抵当という現象を﹁担保権侵害﹂と       うとする質権の設定者は︑株券を質権者に交付した後であって  いう広い概念で捉えた場合︑本件事案も同じく担保権侵害とし

も︑融資金の返済があるまでは︑当該株式の担保価値を保全す  て位置づけられる︒本決定は︑右行為が質権設定者が負うべき

べき任務を負い︑これには︑当該株券を失効させてはならない  担保価値保全の任務に背くものとして︑背任罪の成立を認めて

という不作為を内容とする任務も当然含まれる︒そして︑この  おり︑担保権設定者を主体とする担保権侵害に対して背任罪が

担保価値保全の任務は︑他人である質権者のために負うものと  成立する場合について新たな一例を提供したとみることができ      ︵2︶解される︒したがって︑質権設定者がその任務に背き︑質入れ  る︒本決定の結論は︑二重抵当に背任罪の成立を認めてきた判

(3)

      ︵9︶    例の傾向を踏襲するものであり︑二重抵当の可罰性を肯定する  産上の義務を履行する場合に事務処理者の地位が認められる︒       ︵3︶    立場からは︑支持することができる︒      −  他方︑事実上の事務処理権限を濫用した場合に背任罪の成立を

     二 ﹁事務処理者﹂の意義については︑背任罪の本質にさか  認める背信的権限濫用説にょれば︑事務処理者の範囲について       ︵4︶    のぼった議論が学説上なされている︒背任罪の本質をめぐって  特に限定が加えられることはなく︑行為者に通常認められてい

    は︑横領罪との区別の問題とも絡んで︑権限濫用説と背信説が  る事実上の事務処理権限を濫用したか否かという︑権限濫用行      ︵10︶    対立してきた︒背任罪を本人から与えられた法律上の包括的な  為の有無で背任罪の成否が決定される︒       ︵5︶    処分権限の濫用として捉える伝統的な権限濫用説は︑事実行為   ここでは諸説の当否を個々に検討することは避け︑実質的な

    を捕捉しえず背任罪の成立範囲が不当に狭くなると批判され︑  対立点を指摘するにとどめることにする︒すなわち︑背任罪に

    すでに支持を失っている︒他方︑信任関係の破壊・誠実義務の  おいては何らかの具体的な私法上の法律関係︵多くは契約を基      ︵H︶    違反と考える背信説によっても︑処罰範囲が不明確であるとい  礎とする︶の存在が前提とされており︑その点で背任罪は他の

    う問題がある︒そのため︑これらを修正する新たな見解が現在  財産犯罪類型の中でも特に民事との関係が密接である︒団藤博      ︵6︶    も多数主張されているが︑背信説を基調としつつも﹁信任関  士が﹁本来の民事関係への刑罰的介入は許されてはならないこ

       ︵12︶

    係﹂には何らかの限定を加えるべき︑との方向性でほぽ一致し  とである﹂と述べておられるのも︑そのような意識に立つもの

     ︵7︶      ︵13︶

    ている︒       ・       であると思われる︒もっとも︑﹁民事関係への不介入﹂を徹底

い    具体的には︑次のような諸説がある︒内部的信任関係説は︑  するどき︑債務不履行責任・不法行為責任を伴う限りあらゆる

    本人に対する内部関係で︑一定の注意をもって事務を処理する  私法行為は自由なのであるから︑刑罰的介入が認められる余地

    べき法的任務︵法的誠実義務︶を有する場合に﹁信任関係﹂が. は皆無となってしまう︒とすると︑背任罪の処罰範囲は︑﹁債       ︵8︶    認められるとする︒この見解によれば︑﹁他人のためその事務  務不履行責任ないし不法行為責任を負うことを覚悟の上で自由  ・ −

    を処理する者﹂とは︑本人の内部事務を委託された者を意味す  になしうる私法行為を刑法上どこまで抑圧すべきか﹂という政

    ることになる︒また︑特別の高度の信任関係を生じさせる他人  策判断の問題に帰着するといえる︒

    め事務に関する任務違背に基づく財産侵害が背任に該当すると   学説上︑売買の目的物を給付しないといった契約上の単なる

    考える限定背信説によれば︑行為者が継続性・裁量性をもつ財  債務不履行は不可罰であるとする点に争いはない︒また︑二重

担保権侵害と背任罪の成否      ︵都法四十五ー二︶ 四五九

(4)

四六〇

抵当や本件は判例上の限界事例であるが︑限定背信説や背信的   るものと考えるべきである︒権限濫用説の論者を中心に︑これを一定の限度で処罰するべき    ﹁他人の事務﹂の意義については︑①大判大正三年一〇月一       ︵14︶であると考えるのが多数の見解である︒ただし︑そのような政  二日︵新聞九七四号三〇頁︶と②大判大正四年六月一〇日︵新策判断も条文の範囲内でのみ可能となるので︑抵当権設定者や  聞一〇二五号三〇頁︶が︑まず参考になる︒いずれも︑債務者      ︵19︶質権設定者が解釈上﹁他人のためその事務を処理する者﹂にあ  Xと債権者Aとの間で有体動産につき売渡担保の約定を交わしたることを無理なく説明できなければならない︒        たが︑所有権を移転する前にXがこれを無断で処分したという       ︵20︶ 以下では︑その点に焦点を絞って検討を進めることにする︒  事案である︒①は︑XがAのために目的物の牛を占有飼育して 三 ﹁他人のためその事務を処理する者﹂という文言中の  いたとする原判決に対して︑﹁右判示のAの為めに占有飼育し

﹁事務﹂は包括的な事務に限られ︑単なる個別的な事務や機械  あるも所謂Aのためとは飼育する本人がAにして被告は之れに      ︵15︶的事務はあたらないとするのが多数説である︒任務に背くため  代り飼育を為すことを意味するや將被告は自己の所有物として

には︑委託された事務内容に対してある程度の裁量性がなけれ  飼育するものなれば飼育する本人は被告なれども飼育の利益が

ばならないと考えられるからである︒本決定がいうような﹁担  Aに帰することを意味するや明瞭ならず若し其意義にして前者

保価値保全の任務﹂については︑担保権を害さないという不作  なりとせば被告は他人の為めに事務を処理したるものなれども      ︵16︶為に裁量の余地はないという指摘もある︒しかし︑担保権設定  後者なりとせば反対の論決を生ずべく⁝結局原判決の判示

者は担保の目的物に対する処分権限を有しており︑むしろ担保︑ 事実に依りては直に刑法第二百四十七条を適用するを得ず﹂と

権を害さない限度で裁量権を与えられているのであるから︑そ  判示した︒②は︑﹁本件物品は依然被告の所有に属し被告がA

のような批判はあたらない︒       のため之を担保に供せし事実あるに過ぎず而して所有者たる被

 そして︑通説は︑行為者が処理する事務は﹁他人の事務﹂で  告がAの為め之を担保に供したる事実ありとて之が為めに被告

あることを要し︑﹁他人のための事務﹂であるだけでは足りな  に保管の任務生ずべき理由なければ被告に保管の任務ありとす

  ︵17︶

いとする︒判例も﹁その事務﹂を﹁他人の事務﹂と読み換えて  るには其の任務の生じたる事由即ち売渡担保︵信託売買︶の如

  ︵18︶

いるので︑以下で紹介する諸判例においても︑その言葉自体は  き法律行為ありてAが現実物品の引渡を受けたる上之を被告に

明示されていないが︑﹁他人の事務﹂の該当性が判断されてい  寄託若くは賃貸したるか或はAが現実の引渡に代へて占有の改

(5)

定に依り被告をして代理占有を為さしめたるか等の点に対し具  結果被告の判示行為は背任罪を構成するに至らざるべければな

体的事実理由の説明なかるべからず﹂として背任罪の成立を否  り﹂として︑背任罪の成立を否定している︒

定した︒       ここでも︑登録前の鉱業権は売主である被告人の下にあるこ

 いずれの判示も︑売渡担保に基づく履行の事実を否定し︑目  と︵登録が鉱業権移転の要件であること︶を前提に︑被告人自

的物の所有権は被告人の下にとどまっていると認定する︒そし  身に帰属している鉱業権の権利移転登録をすることが一﹁他人の

て︑目的物の保管は原則として所有者がなすべき事務であるか  事務﹂にはあたらないことが示されている︒加えて︑﹁若し︵被

ら︑その保管は所有権者たる被告人自身の事務にすぎないとし  告が他の原因に基き上記の任務を有するに至りたる︶趣旨なり

ているのである︒したがって︑現実の引渡があった場合︑物の  とせんか原判決は被告が上記の任務を負ひたる原因を説示する

所有者はAであるからその保管はA自身の事務となる︒②の判  ことなきを以て理由不備の違法ある﹂とも判示していることか

示によれば︑Aの所有物を被告人が保管している場合には︑被  ら︑例えば明示的に権利移転登録を委託するなど︑売買以外の  〜

告人は﹁他人の事務﹂として保管の任務を負うことになるので  原因が存在する場合には︑鉱業権が被告人自身に帰属していて

ある︒こうしてみると︑︑所有権の帰属が﹁他人の事務﹂にあた  もこれを﹁他人の事務﹂として処理することになるのである︒      ︵21︶るか否かの判断に影響を与えたことがわかる︒      これらの判例によれば︑他人の財産に関する事務を他人のた

 その後︑③大判大正八年七月一五日︵新聞一六〇五号二一  めに処理する者は﹁他人の事務﹂としてこれを処理することに

頁︶は︑鉱業権をAに売却した被告人が︑これをBにも売却し  なる︒他方︑自己の財産に関する事務を処理することはあくま    ︑ ・

Bのために権利移転登録の手続をしたという事案について︑  で﹁自己の事務﹂にすぎないが︑これを他人から特に委託され

﹁売買契約に基く権利移転の登録申請は被告が登録義務者たる  ている場合には﹁他人の事務﹂となる︒財産の帰属主体が誰か

資格に於て登録権利者たるAと共同して之を為すものにして売  という点がここでの重要な視点となっていることは明らかであ

買完成の手続に外ならざるを以て被告が此手続を為すは買主た・ り︑他人の委託により﹁自己の事務﹂が﹁他人の事務﹂に変質      ・

るAの為めに其事務を処理するものに非ず︑従て被告が契約に  することは例外的な場合として扱われている︒

因り此申請を為すの義務を負担するも之に因りAの為めに其事   また︑前掲の大判大正三年一〇月=一日などが︑目的物の保

務を処理するの任務を負いたるものと解すべからざるを以て其  管は原則と七て所有者がなすべき事務であるとしたところか

担保権侵害と背任罪の成否      ︑         ︵都法四十五ー二︶ 四六一

(6)

四六二

ら︑大審院判例が﹁他人が本来なすべき事務をこれに代わって  頁︶は︑電話加入権の名義をAからBに書き替える事務手続を

行うという関係﹂をもって﹁他人の事務﹂としてきたとも考え  Bから委託された被告人が︑﹁Bの為に判示電話加入権の名義

   ︵22︶

られている︒実際︑現在でも背任事犯の大半は︑本人自身でも  書替を為すべき任務を有するに拘らず﹂これをCに譲渡しC名

なしうる事務処理を内部的に委託されている場合であり︑通常  義に変更しようとしたが未遂に終わったという事案で︑背任未

の業務の範囲を逸脱して﹁その任務に背く行為﹂をしたといえ  遂罪の成立を認めた︒

 ︵23︶

る限り︑背任罪の成立が認められている︒近年特に問題となっ   この判例は︑電話加入権の二重譲渡それ自体を背任罪で処罰       ︵24︶ている不正貸付事例がこの典型である︒その他にも︑賃貸マン  したものではなく︑電話加入権の譲受人Bから名義書替の任務

ションの所有者Aから入居者の募集・入居契約の締結・保証金  を委託された被告人がこれに背いたというものである︒ただ︑

と家賃の受領等を委託された被告人が︑Aから指定された取決  ここで被告人に事務処理者の地位が認められるためには︑名義

めの保証金額を約九五〇万円超過する保証金を入居者から受け  書替が譲受人Bの事務であることが前提となる︒仮にAがCに

   ︵25︶

取った事案がある︒これらの場合︑﹁他人が本来なすべき事務  二重譲渡した場合︑Aは﹁他人の事務﹂である名義書替の任務

をこれに代わって行うという関係﹂が存在しているといえる︒  に背いたとして︑背任罪で処罰されることになるのである︒

 いずれにせよ︑ここまでの判例の傾向からは︑売買の目的物   また︑⑤名古屋高判昭和二八年二月二六日︵刑特三三号九

の給付義務や担保権侵害など︑対向的取引関係における一方当  頁︶は︑請負人たる被告人が注文者に対する報酬請求債権を下

事者の履行義務は︑たとえそれが債権者による当該財産の取得  請人に譲渡したが︑これを自己が債務を負う銀行に対しても譲

に向けられたものとして﹁他人のため﹂であるといえても︑財  渡したという典型的な指名債権の二重譲渡の事案であるが︑名

産の保有者である債務者自身がなすべき固有の事務であるから  古屋高裁は﹁本件のような指名債権の譲渡は︑民法第四六七条

﹁自己の事務﹂にすぎず﹁他人の事務﹂にはあたらないことに  所定の通知又は承諾がなければ︑債務者その他第三者に対抗す

︵26︶なる︒       ることができないもので︑これは物権の移転について登記又は

 四 しかし︑昭和以降の判例は︑対向的取引関係において  引渡がなければ第三者に対抗できないものと類似しており︑不

﹁他人の事務﹂を処理する場合がありうることを示している︒  動産の二重売買については︑横領罪が成立することは判例の示

 まず︑④大判昭和七年一〇月三一日︵刑集一一巻一五四一  すところである︒債権譲渡の対抗要件は物権の対抗要件と異

(7)

り︑譲渡人の協力なくして完全な対抗要件を具備するように手  頁︶は︑県知事の許可を条件として農地を売り渡した被告人

段を講ずること︵譲受人の方から債務者に承諾を求めること︶  が︑許可の前後にわたって第三者のために抵当権を設定し登記

もできるが︑債権の譲渡人の方から債務者に通知することによ  を完了したという事案で⇒﹁県知事の許可を条件として農地を

つて︑対抗要件を具備せしめることもできる︑而して債権を譲  売り渡した場合︑その許可があつたときは当然に買主に該農地

渡する場合には︑当事者間の契約の内容として明示又は黙示の  の所有権は移転し︑また許可前と難も︑売主は若し将来許可が

意思表示により︑譲受人が円満に債権の取立てができることを  あれば買主に当然その所有権が移転するのであるから︑それま

前提としているものと認めるべきであるから︑債権の譲渡人が  での間にこれを勝手に負担付のものにしないことはもちろん一

譲受人のために債務者に向かって債権譲渡の通知をしたり又は  許可があれば買主のため所有権移転登記することに協力すべき

譲渡人自らが債権の取立てをしないとかして譲受人が円満に取  任務を有するものといわなければならない﹂とした原判決を是

立てのできるようにする法律上の義務を負担しているものと解  認し︑背任罪の成立を認めた︒

すべき﹂として︑背任罪を構成するとした︒       農地を譲渡する際には知事の許可が必要であり︵農地法五

右判示は︑纏護契約中の明示または黙示の意田蓑示によ 条︶・それが所有権移転の効力要件とされている題・農地売

り﹁譲受人が円満に取立てのできるようにする法律上の義務﹂  買は条件付売買の形式をとることになる︒右判示は︑条件が成

を譲渡人が負うとしており︑そこでは債権の譲渡人による債務  就したとぎは所有権が当然に買主に移転するどいう条件付売買

者への通知をもって譲受人の債務者・第三者対抗要件が備わる  としての特質に注目し︑当該農地の所有者となることがほぼ確

点が重視されている︒譲渡人の行為に左右される譲受人の対抗  実である買主のために︑士冗王が﹇農地を勝手に負担付のものに

要件具備は譲渡人の義務の一部である︑という趣旨と思われ  しない義務﹂と﹁許可があれば登記に協力する義務﹂を負うと

る︒右判示の論理によれば︑債権譲渡における民法第四六七条  しているのである︒

所定の通知.承諾と物権変動における登記・引渡には共通性が   では︑以上の判例は︑大正以前の従来の判例との関係でいか

あるので︑物権の二重譲渡の場合にも同様の義務が譲渡人に発  に評価されるのか︒判例④は︑電話加入権の譲受人による対抗

生することになろう︒      ﹂        要件の具備が譲渡人にとって﹁他人の事務﹂となる可能性を示

 その後︑⑥最決昭和三八年七月九日︵刑集一七巻六号六〇八  すにとどまっているが︑判例⑤はそれを正面から認めたことに

担保権侵害と背任罪の成否       へ   ︵都法四十五︑ー二︶ 四六三

(8)

      四六四

       ︵32︶なる︒判例③における鉱業権とは異なり︑電話加入権における  が抵当権を設定する行為が横領罪を構成することとの均衡を考      ︵33︶名義変更の手続や債権譲渡における債務者への通知は対抗要件  えた結論であるといえるのである︒横領罪との均衡を殊更に重      ︵28︶にすぎず︑権利そのものは当事者の意思表示により移転する︒  視するこのような姿勢には異論もあろうが︑このような運用の

したがって︑財産の帰属主体を基準とした従来の判例の趣旨に  仕方があくまで例外的なものにとどまる限り︑政策的観点から

合致するようにも思われる︒ただ︑対抗要件の備わっていない  も︑決して不合理な結論ではないように思われる︒もっとも︑

権利の移転をもって﹁財産の帰属﹂を認めるのだとすれば︑同  たとえそうであっても︑判例⑤・⑥のように﹁他人の事務﹂の

様に売買の目的物の所有権も契約時に買主に移転し︵民法一七  意義を拡張してしまうと︑一般的な債務不履行を排除しえない      ︵34︶六条︶︑売主の給付義務が﹁他人の事務﹂となってしまうので  との批判をもはや退けることはできないおそれがある︒

ある︒       五 続いて︑﹁他人の事務﹂を拡張してきた判例⑤・⑥とほ

 対抗要件の備わった権利の移転をもって﹁財産の帰属﹂とし  ぼ同時期またはそれ以降に現れた︑担保権侵害に関する諸判例

ないことには︑単なる債務不履行を背任罪の処罰範囲から除外  を概観することにする︒

することはできない以上︑もはや財産の帰属は﹁自己の事務﹂   ⑦最判昭和三一年一二月七日︵刑集一〇巻一二号一五九二       ︵29︶と﹁他人の事務﹂とを峻別する基準とはなり得ない︒このこと  頁︶は︑Aと根抵当権設定契約を締結した後︑未登記のうちに

は判例⑥についてもいうことができ︑条件付売買によって売主  Bのために第一番抵当権の登記を完了したという二重抵当の事

が負う﹁勝手に負担付のものにしない義務﹂や﹁許可があれば  案で︑﹁抵当権設定者はその登記に関し︑・これを完了するまで

登記に協力する義務﹂といった債権的拘束を﹁他人の事務﹂と  は︑抵当権者に協力する任務を有し︑同任務は主として他人で       ︵30︶呼ぶのであれば︑同様の問題が生じるのである︒    .   ある抵当権者のために負う︒﹂と判示する︒

 これらの判例では︑背任罪特有の成立要件を満たすか否かと   ここでも︑﹁抵当権者に協力する任務﹂が抵当権設定者にとっ

いうことよりも︑他の犯罪との関係が重視されているように思  て﹁自己の事務﹂であるか﹁他人の事務﹂あるかが問題となる

われる︒すなわち︑判例⑤の判示からは︑動産・不動産の二重  が︑最高裁は﹁主として他人である抵当権者のために負う﹂か       ︵31︶譲渡に横領罪が成立することとの均衡が多分に意識されている  ら登記協力義務の違反が背任罪を構成するとしている︒﹁主と

ことがうかがえるし︑判例⑥についても︑引渡前の土地に売主  して﹂という表現により︑登記協力義務が抵当権設定者自身の

(9)

︒霧であ鍵同時に︑抵当権者の霧でもある.﹂とが示されて ば︑抵当権者に無断で登記の抹消をして他の者のために先順位

いるのである︒ただし︑目的不動産の登記済権利証等の登記に  抵当権登記を備えた場合にも背任罪が成立する可能性がある︒       ︵36︶必要な書類は抵当権設定者がすでに交付しているので︑この場   他方︑⑨広島地判平成一四年三月二〇日︵判ダ一一一六号二

合の登記協力義務は︑抵当権設定者の具体的な積極的な行為を  九七頁︶が︑事実上の担保的期待を侵害しても背任罪は成立し

要求するものではなく︑抵当権者が登記を完了することを妨げ  ないと判断した近時の裁判例として注目される︒事案は次のと

 ︵37︶       ︵38︶

ないという不作為を内容とする消極的義務である︒       おりである︒B社にマンション建設を発注したA社の代表取締

 また︑⑧東京高判昭和四八年五月一七日︵金法七=号三五  役である被告人は︑B社に請負代金を弁済するにあたって︑マ

頁︶は︑被告人がA銀行から預金担保貸付を受けるためにBか   ンション購入者に対する住宅金融公庫の融資金を代理受領する

ら借り入れた二〇〇万円でA銀行に定期預金口座を開設し︑こ  ために指定されたA社名義預金口座の通帳と印鑑をB社に引渡

れを流用しないことを約する目的で当該預金債権に質権を設定︐ し︑融資金の入金が完了し次第B社がこれを払い出して右代金

し定期預金証書と印鑑をBに交付したが︑同口座を無断で解約   の支払に充当するという内容の取り決めをした︒しかし︑その

し質権を消滅させたという事案で︑﹁被告人は右﹇質権設定契  後被告人は融資金の振込先に別の口座を指定し︑入金された金

約﹈にもとづき︑Bの右債権を実行あらしめるため︑右預金債  銭をB社とは別の債権者に対する弁済に充てた︒広島地裁は︑

権を担保として確保すべき義務があったといわなければならな   ﹁そのような双務契約上の対向的な義務の一方の履行を確保す

い︒﹂として背任罪の成立を認めた︒       るための手段としては︑例えば法的担保を提供する旨の約定

 この事案がこれまでのものと異なるのは︑預金債権に設定さ  や︑手形を振り出す旨の約定など︑種々のものがあり︑またそ

れた質権の対抗要件が具備された後に任務違背行為がなされて  のような約定は対向的な契約関係に通常随伴することの多いも

いる点である︒右判示によれば︑質権を設定し対抗要件を具備  のであって︑そのような履行確保のための約定に基づく義務が

した後も︑質権設定者は︑債務の弁済するまで質物を﹁担保と  常に背任罪における他人のための事務であるとすれば︑一般の

して確保すべき義務﹂を質権者のための﹁他人の事務﹂として︑ 債務不履行と背任との区別がほとんどなくなり︑背任罪におけ

負うことになる︒そして︑このような義務は︑質権に限られた  る事務の他人性についての範囲があいまいとなって︑不当にそ

ものではなく︑抵当権の場合にも想定することができる︒例え   の成立範囲を拡大するものとの批判を免れ難いというべきであ   ︑

担保権侵害と背任罪の成否       ︐      ︵都法四十五ー二︶ 四六五

(10)

四六六

る︒⁝債権の履行確保のための手段︑約定としては種々の  るだけの事実上の担保と対比したとき︑﹁債権確保のための対

ものがあるところ︑そのような約定に基づく債権確保のための  象財産に対する債権者側の管理支配権能﹂が物権的なものであ

対象財産に対する債権者側の管理支配権能が︑単なる債権的な  る場合とは︑抵当権や質権︑譲渡担保のような物的担保が設定

ものにとどまらず物権的なものであれば︑その管理︑保全は︑  されている場合を意味するのである︒

単に債務者のための事務というにとどまらず︑債権者のための   六 これらの判例のうち︑特に⑦については︑前掲の判例

事務としての性格が強いといえ︑その義務に違背する行為は︑  ⑤・⑥による﹁他人の事務﹂の拡張傾向の一環と目されること

背任罪における他人の事務についての任務違背行為ということ  が多い︒そして︑⑤・⑥と同様に︑一般の債務不履行を背任罪       ︵39︶ができるとともに︑また︑そのような基準であれば︑一般の債  の成立範囲から除外しえないとの批判がある︒しかし︑結論か

務不履行との区別の基準としても︑明確性に欠けるところはな  らいえば︑担保権侵害に関するこれらの判例は﹁他人の事務﹂

いと思われる︒⁝被告人とBとの間には未だ物権的な信任   の無限定な拡張傾向とは一線を画するものであり︑そのような

関係はなく︑被告人の行為は︑債務不履行にはなっても︑背任  批判はあたらない︒

罪にいう任務違背行為とはならないというべきである﹂と判示   まず判例⑦の二重抵当については︑登記の完了は原則として       ︵40︶した︒      登記義務者である抵当権設定者の協力なしにはできず︑抵当権      ︵41︶ 履行確保のための約定に基づいて預金通帳等が交付されたこ  設定者にとって﹁自己の事務﹂であるとする立場もある︒しか

とで︑譲渡担保権ないしそれに類似する非典型担保権が設定さ  し︑抵当権設定登記の完了は抵当権者の権利保全行為の一部で

れたとする検察官の主張に対し︑広島地裁は﹁本件指定ロ座の  あることを理由に︑抵当権設定者にとって﹁他人の事務﹂にあ      ︵42︶普通預金債権については︑譲渡禁止及び質権設定禁止の特約が  たるとするのが通説といってよい︒そして︑この見解を採る論

付ざれていた上︑担保であることを公示する手段もなく︑預金  者の一部は︑権利移転の登記・登録などが譲受人自身の権利保

通帳と印鑑を預けたのみでは優先弁済権を確保したともいえ  全行為の一部であることを一般論として認め︑譲受人の財産を

ず︑⁝事実上︑弁済を確保するためのものであって︑これ  左右できる地位にある場合には譲渡人は事務処理者にあたると

をもって何らかの担保権を設定したと認めることはでき︵な  して︑判例⑦のみならず︑前掲の判例⑤・⑥を含め︑これら一      ︵43︶・い︶﹂としている︒そして︑そのような契約関係に通常随伴す  連の判例を支持する︒

(11)

 ただ︑この論理によると︑給付義務の不履行についても︑目  期預金を解約した判例⑧のように︑目的債権の担保価値を失わ

的物の給付はすでに所有権を取得している買主の権利保全行為  せることができる︒したがって︑質権を設定し対抗要件を具備

の一部であり︑債務者は債務を履行するか否かによって買主の  した後も︑質権設定者は︑質権の実行段階までその担保価値を

財産を左右できるといえるので︑やはり﹁他人の事務﹂が無限  保持しなければならないという担保保持義務を質権者のための

         ︵44︶       −      

定となるおそれが生じる︒むしろ︑判例⑦では︑抵当権設定者   ﹁他人の事務﹂として負うと解されるのである︒このような担

が登記に必要な書類をすでに交付していることに注目するべき  保保持義務は︑質権のように担保権者が目的物を占有・保管す

である︒必要書類の交付とそれに伴う代理権の授与によって︑  る占有担保において特に妥当するが︑非占有担保である抵当権

抵当権設定者自身の履行義務は果たされ︑抵当権者単独でも登  の場合にも想定することができる︒例えば︑抵当権者に無断で

記を完了することができるようになる︒その時点に至ってはじ  登記の抹消をして他の者のために先順位抵当権登記を備えた場

めて登記完了は抵当権者自身の権利保全行為としての性質を帯  合にも背任罪が成立する可能性がある︒

びると考えるならば︑売主の履行義務が果たされていない判例   以上より︑︵i︶担保権設定者は︑登記完了の事務を相手方

⑤・⑥との区別化を図ることは可能であろう︒こうして︑抵当  に委ねるために一定の措置を講じた場合には︑登記が完了する

権設定者は自身の履行義務を果たした後も︑相手方の第一順位  までこれを妨げないという担保保全義務を負うので﹁他人の事

抵当権を害さないという消極的義務を登記の完了まで負うこと  務﹂を処理する者にあたる︑︵・11︶担保権設定者は︑担保権が

になる︒これを担保保全義務と呼ぶことができる︒       有効に成立し対抗要件が備わった後も︑目的物の担保価値を保

 他方︑対抗要件が具備された後も担保権設定者が一定の義務  持する義務を﹁他人の事務﹂として負う︑︵⁝m︶ただし︑侵害

を負うことを示したのが判例⑧である︒対抗要件が備わったこ  の対象となる担保は物的担保でなければならない︑という三つ

とにより質権者の権利は保全されたといえるので︑右記の論理   の結論が導かれることになる︒

をそのまま用いることはできない︒もっとも︑質権者にしてみ   七 株式質権︵商法二〇七条︶は︑株券の交付を効力発生要

れば︑対抗要件を備えた後こそ債権の回収不能という事態に備  件︑その占有の継続を対抗要件とするので︑各株券をBに交付

えて目的物・債権の担保価値を保持することが必要となる︒他 しその占有にかからしめたことで︑質権の設定にあたって本件

方︑質権の目的物の処分権限を失っていない質権設定者は︑定  被告人がなすべき義務は完了している︒しかし︑本決定は﹁株

担保権侵害と背任罪の成否      ︵都法四十五⊥一︶ 四六七

(12)

四六入

券を質権者に交付した後であっても︑融資金の返済があるまで  は︑抵当権設定者が当該登記に必要な書類を抵当権者に交付し

は︑当該株式の担保価値を保全すべき任務を負︵う︶﹂として  た後でも︑抵当権者において未だ登記を完了していない場合に

おり︑担保権設定者の任務が︑弁済による被担保債権の消滅ま  は︑登記に関して抵当権者に協力する任務があるという趣旨で

で継続することを明記しているのである︒たしかに︑質権者B  あり︑本件のように︑質権者に当該株券を交付した後の質権設

は株券の担保価値を維持するためその占有を継続することにな  定者の保全任務については直接判示するものではない︒﹂と判

るので︑株券の保管はB自身の事務であるといえる︒他方︑会  示しているように︑︵i︶に該当する二重抵当と︵・11︶に該当

社が保有する株主名簿上の名義人は被告人のままであるから︑  する本件とでは︑そもそも任務の内容が異なるのである︒

被告人はその形式的資格に基づいて除権判決を得て株券を失効   また︑本件控訴審が﹁︵二重抵当︶の事案では︑抵当権者に

させ︑その担保価値を失わせることがができる︒このような状  第三者に対する対抗要件を具備させるのを妨げた抵当権者設定

況の下では︑被告人は︑質権者Bが株券の担保価値を維持し続  者の行為を背任罪に問うているところ︑本件の株式質権の場合

けられるよう︑株券を失効させてはならないという消極的義務  には︑株券の交付は質権設定の有効要件であり︑その株券を失      ︵45︶を負うと解されるのである︒本決定は︑︵・11︶の結論に沿うも  効させ︑いわば単なる紙切れにしてしまうことは︑第三者に対

のであるといえる︒      する対抗力どころか︑質権自体を消滅させてしまうのであるか

 この点︑被告人の控訴趣意および上告趣意の一つとして︑対  ら︑登記協力任務を背任罪の前記任務に該当すると解する以上

抗要件が具備されている本件に背任罪の成立を認めることは︑  は︑その理は︑本件のような保全任務についてより一層妥当す

抵当権設定者が登記を完了するまで抵当権者に協力する任務を  るというべきなのである︒﹂と判示しているように︑担保権そ

負うと述べた最判昭和三一年一二月七日︵判例⑦︶に違反する  のものを消滅させてしまった本件では︑順位の利益を侵害する

と論じるものがある︒しかし︑本件控訴審が︑﹁所論引用の二  二重抵当よりも侵害の度合いが大きいといえるから︑判例⑦と

重抵当について背任罪の成立を認めた最高裁判例︵最判昭和三  の均衡という観点からも︑背任罪の成立を認めた本決定の結論       ︵46︶一年一二月七日刑集一〇巻一二号一五九二頁︶が︑﹃抵当権設  は支持されるべきである︒

定者はその登記に関し︑これを完了するまでは︑抵当権者に協   八 本件は︑二重抵当に背任罪が成立するとした判例⑦に続

力する任務を有することはいうまでもない﹄と判示しているの  いて︑担保権侵害が背任罪を構成することを最高裁が認めた第

(13)

二の事例として注目される︒そして︑質権設定者の行為によっ  岡手段により第一順位の根抵当権を放棄させた場合に二項詐欺

て質物の担保価値が損なわれたという事案としては︑判例⑧と  罪の成立を認めている︒本件でも︑被告人は虚偽の理由を申立

同様のものであり︑担保権の対抗要件が具備された以降も担保  てることで除権判決を得ているので︑裁判所を被欺岡者とする

権設定者において事務処理者の地位が存続するという︵・11︶の  詐欺罪の成立が考えられる︒背任罪と詐欺罪の関係について︑

類型を最高裁が初めて認めたものとしても︑重要な意義を有す  最判昭和二八年五月八日︵刑集七巻五号九六五頁︶は﹁他人の

ると思われる︒      −      委託によりその事務を処理する者が︑その事務処理上任務に背

 本決定の判断は︑売渡担保の約定違反という点で同じく担保  き本人に対し欺岡行為を行い同人を錯誤に陥れ︑よつて財物を

権侵害にあたる判例①・②を実質的に変更したものといえる︒ i 交付せしめた場合には詐欺罪を構成し︑たとい背任罪の成立要

そして︑判例③から⑥までの傾向とは異なる判例⑦・⑧の流れ  件を具備する場合でも別に背任罪を構成するものではないと解

を汲むものである︒すなわち︑対向的取引関係一般に関する③  すべきである﹂としている︒しかし︑本件控訴審は﹁本件行為

から⑥の判例の事案においては︑登記をめぐる債務者の履行義  が︑仮に裁判所を被欺岡者とし︑質権消滅を財産上の不法の利

務がそもそも完了していないのに対して︑判例⑦・⑧および本  益とする二項詐欺罪を構成するとしても︑そのことゆえに︑本

件では︑登記に必要な書類あるいは担保の目的物などが相手方  罪の成立が妨げられるものでもないし︑また︑本罪により処罰

に交付されたことで︑担保権設定者の履行義務はすでに果たさ  する必要性がないとすることもできない︒﹂として︑詐欺罪の

れているのである︒また︑判例⑧および本件では対抗要件の具  成否に関係なく背任罪の成立が認められることを示し℃いる︒

備が完成しているのであるから︑二重売買や二重抵当とは事案  本件上告審はこの点についての肯否を決することなく原判決の

の性質が根本的に異なる︒したがって︑これらの判例が全て  判断を維持しているので︑現在の最高裁の立場は必ずしも明ら

﹁他人の事務﹂を拡張するという同一の傾向にあるとの理解の  かではない︒

下に︑判例⑤・⑥に含まれる問題点をもって本決定を批判する

ことには慎重となるべきであろう︒       ︵1︶ 民法上︑例えば﹁抵当権侵害﹂とは︑第三者による抵

 なお︑担保権侵害に他の犯罪の成立が考えられる場合もあ     当不動産の不法占拠等を意味する︒ここでは︑財産犯罪

る︒最決平成一六年七月七日︵裁時=二六七号二〇頁︶は︑欺      ︵主に背任行為︶によって︑担保権者の把握すべき担保

担保権侵害と背任罪の成否       ︵都法四十五−二︶ 四六九

(14)

四七〇

 利益︵財産上の利益︶が侵害された場合を﹁担保権侵     であり︑背任罪が成立すると考えることに特に問題はな

 害﹂と呼ぶことにする︒なお︑芝原邦爾﹁財産犯罪の体     いものと思われる︒

 系と背任罪の理解﹂団藤重光ほか編﹃刑法と科学・法律   ︵3︶ 本件に関する評釈として︑廣上克洋﹁判批﹂研修六二

 編︵植松博士還暦祝賀論集︶﹄五八九頁︵一九七一年︶︑     五号二四頁︵二〇〇〇年︶︑内田幸隆﹁判批﹂早法七七

 山口厚﹃刑法各論﹄三一八頁︵二〇〇三年︶参照︒       巻二号二八一頁︵二〇〇二年︶︑前田雅英﹃最新重要判   ︐

︵2︶ 二重抵当や本件事案においては︑担保権侵害の主体は     例捌︹第四版︺﹄一九四頁︵二〇〇二年︶︑伊藤渉﹁判

 担保権設定者である︒しかし︑担保権侵害にも様々な形     批﹂法教二七八号二一二頁︵二〇〇三年︶︑山本輝之﹁判

 態があり︑その主体は担保権設定者であるとは限らな     批﹂平成一五年度重判一七一頁︵二〇〇四年︶︒

  い︒例えば︑大判明治四四年一〇月二二日刑録一七輯一   ︵4︶ 背任罪の罪質について明示的に言及した判例はない

  六九八頁は︑質権者Aから委託を受けて質物を保管して     が︑伝統的な権限濫用説が法的代理権の濫用という法律

  いる者が︑その質物を所有者に交付した事案に﹁其所為     行為に限定していたのに対して︑事実行為にも背任罪を

  Aの質権に侵害を加へたるものにして・・◆即ち刑法第     成立させてきたことから︵大判明治四四年一〇月二二日

  二四七条の犯罪を構成する﹂とし︑大判大正一三年=      刑録一七輯一六九八頁︶︑背信説に立つものと考えられ

  月=日刑集三巻七八八頁も︑銀行の支店長が担保とし     ている︒もっとも︑売買契約に基づく給付を行わないな

  て受け入れていた株券を債務者に返還した場合に背任罪     どの一般的な債務不履行について背任罪の成立を認めた

  が成立するとした︒また︑大判昭和九年六月一九日刑集     判例は存在しないので︑全く同一の立場とは解せられな

  =二巻八二九頁は︑債務者が債権者の代理人としてその     い︒少なくとも︑本人と行為者との間に一般的にどのよ

  債務を担保するため第三者の提供する質物の引渡を受け     うな信任関係が存在すればよいと裁判所が考えているの

  て保管し質権設定の効力を発生存続させるべき任務があ     かは必ずしも明らかでない︒

  るにもかかわらず︑その第三者と通謀して質物を売却処   ︵5︶ 滝川幸辰﹁背任罪の本質一信義破壊か権限濫用か﹂

  分したという事案で︑背任罪の成立を認めた︒ただ︑こ      ﹃滝川幸辰刑法著作集・第四巻﹄四六六頁︵一九八一

  れらの事案は行為者が質物の保管を委託されている場合     年︶︒

(15)

    ︵6︶ 近時の学説状況を概観した文献として︑山口厚﹃問題     頁−︵一九九三年︶は︑事務処理者の意義を﹁他人に対す

      探求刑法各論﹄一九二頁以下︵一九九九年︶︑斉藤豊治     る内部関係で一定の任務に従って他人の事務を処理すべ

      ﹁背任罪の諸問題﹂現刑一二号六〇頁︵二〇〇〇年︶︑︑    き法的義務を有する者﹂としながらも︑二重抵当につい

      山本輝之﹁背任罪における事務処理者の意義﹂刑法の争     ては背任罪の成立を肯定する︒抵当権設定者と抵当権者

      点︹第三版︺一九八頁︵二〇〇〇年︶など︒      との関係を﹁内部関係﹂として考える趣旨であるかは不

    ︵7︶ 背信説とは一線を画する立場からの主張も有力であ︑    明である︒

      る︒平野龍一﹁横領と背任︑再論1﹃背信説﹄克服のた   ︵9︶ 曽根威彦﹃刑法各論︹第三版︺﹄一七七頁︵二〇〇一

      めにー︵一︶﹂判時一六八九号三〇頁︵一九九九年︶は︑     年︶︒なお︑林幹人﹃刑法各論﹄二六七頁︵一九九九年︶

      背任罪の主体が﹁本来その他人が行い得ることをこれに     は︑信任関係が高度のものとなるためには︑何らかの

      代わって︑その他人の事務として行う者﹂に限定される      ﹁特別の事情﹂が必要であるとする︒例えば︑二重抵当

      とする︒また︑上罵二局﹃背任罪理解の再構成﹄二四五      については︑﹁抵当権設定者は︑抵当権者のために目的

      頁︵一九九七年︶は︑本人の財産処分についての意思内     物を管理する継続的な義務を負い︑かつ︑その管理にあ

      容決定過程そのものに関与する者と︑意思内容決定その     たっでは抵当権を侵害しない限度で裁量をもつ﹂といっ

      ものには関与しないがその決定過程を監督する者が事務     た説明がなされるが︑最判昭和三一年一二月七日で存在

      処理者となりうるとする︒なお︑内田幸隆﹁背任罪の系     ・する︑抵当権者に対して抵当権設定登記に必要な書類を

      譜︑およびその本質﹂早誌五一巻一四一頁︵二〇〇〇     交付済みであるといった事実の存在が︑背任罪の主体と

      年︶参照︒    .       なるための要件であるとする︒

    ︵8︶ 平川宗信﹃刑法各論﹄三八九頁︵一九九五年︶︑団藤   ︵10︶ 植松正﹃全訂刑法概論n各論﹄四五二頁︵一九五八

      重光﹃刑法綱要各論︹第三版︺﹄六五一頁︵一九九六  ︐  年︶︑藤木英雄﹃刑法講義各論﹄三四三頁︵一九七六

\     年︶︑斉藤・前掲注︵6︶六四頁︑山口・前掲注︵6︶     年︶︑大塚仁﹃刑法概説各論︹第三版︺﹄三一六頁︵一九      二〇一頁︒なお︑土本武司﹁不動産の二重抵当﹂阿部純     九六年︶︑川端博﹃財産犯論の点景﹄一四〇頁︵一九九

      二ほか編﹃刑法基本講座・第五巻︵財産犯論︶﹄二八六     六年︶︑内田文昭﹃刑法各論︹第三版︺﹄三四四頁︵一九

担保権侵害と背任罪の成否   ︑      °  ﹁       ︑︵都法四十五ー二︶ 四七一

(16)

四七二

   九七年︶︑前田雅英﹃刑法各論講義︹第三版︺﹄二七〇頁     平﹃刑法各論︹第三版増補︺﹄二八七頁︵二〇〇二年︶︒

   ︵一九九九年︶︑大谷實﹃刑法講義各論︹新版追補版︺﹄   ︵16︶ 平野・前掲注︵7︶二九頁︑山口・前掲注︵1︶一一二

   三二四頁︵二〇〇二年︶︑木村光江﹃刑法︹第二版︺﹄三     九頁参照︒

   四〇頁︵二〇〇二年︶︒      ︵17︶ 藤木・前掲注︵10︶三四四頁︑大塚・前掲注︵10︶三

 ︵11︶ 他人の事務を処理するにいたる原因としては︑後見   ゜ 二〇頁︑前田・前掲注︵10︶二七三頁︑川崎一夫﹃刑法

   人.破産管財人など法令の規定による場合も想定され     各論﹄二三四頁︵二〇〇〇年︶︑曽根・前掲注︵9︶一

   る︒大塚仁ほか編﹃大コンメンタール刑法︹第二版︺﹄     八一頁︑木村・前掲注︵10︶三四〇頁︑福田・前掲注

   一七七頁︵二〇〇〇年︶参照︒       ︵15︶二八七頁︑山口・前掲注︵1︶三一六頁︒なお︑

 ︵12︶ 団藤.前掲注︵8︶六五一頁︒       林・前掲注︵9︶は︑﹃他人の事務﹄と解すべき必然性

 ︵13︶ 土本・前掲注︵8︶二八三頁も︑﹁民事上適法とされ     は︑背任罪の主体となりうるためには︑他人から一定の

   ることが刑事上違法となる事態はなるべく避けなければ     権限を与えられていなければならないという前提に立っ

   ならない︒﹂とされている︒民事上の責任を負わない行     た権限濫用説からの帰結であるとして︑背信説に依拠す

   為をもって﹁適法﹂とするのであれば︑団藤博士と同趣     る場合は﹁自己の事務﹂で足りるとする︒しかし︑﹁そ

   旨であると思われる︒       の﹂はその前の﹁他人﹂にかかっているのであるから︑

 ︵14︶ 山口.前掲注︵1︶三一八頁も︑現行法の解釈上困難     たとえ背信説の立場をとるとしても︑日本語の自然な読

   であるとしながらも︑担保権侵害事例を処罰することを     み方として﹁他人の事務﹂を意味すると考えるべきであ

   立法論としては否定しない︒       る︒

︐︵15︶ 平川・前掲注︵8︶三九三頁︑大塚・前掲注︵10︶三   ︵18︶ 大判明治四五年六月一七日刑録二〇輯八六〇頁︑大判   .

   二一頁︑団藤.前掲注︵8︶六五二頁︑林・前掲注︵9︶     大正一二年三月二一日刑集二巻二四七頁︑大判昭和=

   二七一頁︑曽根・前掲注︵9︶一八一頁︑中森喜彦﹃刑     年二月三日刑集一五巻八七頁︑福岡地判昭和五四年四月

   法各論︹第二版︺﹄一七〇頁︵一九九六年︶︑前田・前掲     一七日刑月二巻四号二八六頁︑広島地判平成一四年三

   注︵10︶二七四頁︑木村・前掲注︵10︶三四二頁︑福田     月二〇日判タ=一六号二九七頁など︒

(17)

      ︵19︶ 売渡担保は︑現在では譲渡担保と同義とされている︒     め其事務を処理する者﹄の意義﹂﹃刑法解釈論集H︵刑

        しかし︑かつては︑売却代金を債務の弁済に充てるため     事法学研究・第四巻︶﹄二〇一頁︵一九九〇年︶︑平野龍

        に目的物を売り渡し︑ただし債務者が一定の金員を債権     一﹁横領と背任︑再論1﹃背信説﹄克服のために1

        者に支払えばこれを買い戻すことができるとするのが売     ︵一︶﹂判時一六八〇号八頁︵一九九九年︶︑西田典之

        渡担保で︑被担保債権を存続させつつ︑担保の目的を      ﹃刑法各論︹第二版︺﹄二四七頁︵二〇〇二年︶︑山口.

        もって目的物を譲渡するのが譲渡担保であるとされてき    前掲注・︵1︶三一六頁︒      ・

        た︒大判昭和八年四月二六日民集一二巻七六七頁参照︒   ︵23︶ 平川・前掲注︵8︶三九五頁︑大塚・前掲注︵10︶三

        つまり︑︑両者をあえて区別するとすれば︑目的物の所有     二三頁︑大谷・前掲注︵10︶三二八頁︑曽根.前掲注

        権を移転するに伴って被担保債権が存続するか否かに求      ︵9︶一八二頁︒

        められることになる︒現在では︑再売買契約や買戻し特   ︵24︶ 会社の取締役等による不正貸付行為には商法上の特別

        約などが︑このような厳密な意味での﹁売渡担保﹂・と類︑   背任罪が適用されるので︑﹁他人のためその事務を処理

︑       似の機能を果たしている︒      する者﹂の要件は問題とならない︒しかし︑特別背任罪

      ︵20︶ 大判大正三年一〇月一二日では︑﹁売券担保﹂となって     の主体に該当しない信用組合の本店長︵東京高判昭和五

        いるが︑大判大正七年四月=日民録二四輯五五三頁が     三年三月二九日東高刑二九巻三号五九頁︶や信用組合の

         ﹁売券担保は売渡担保或は売渡抵当とも称せられ﹂と述     ・専務理事︵最決昭和六〇年四月三日刑集三九巻三号二ニ

        ベているので︑同義と考えてよい︒      一頁︶が﹁他人のためその事務を処理する者﹂にあたる

      ︵21︶ 上鳥・前掲注︵7︶一六二頁も︑﹁判例は︑他人に対     とされた例もあり︑会社から業務執行等の権限を付与さ

        する財産の移転が完了して︑その後それを行為者が管理     れた者が刑法上の背任罪の主体にあたることは疑いない

        するという関係になってはじめて︑行為者を背任に問う     であろう︒

        ことができるど考えた﹂とされる︒       ︵25︶大阪地判昭和五五年一〇月二二日判時一〇二二号一三

      ︵22︶ 藤木英雄﹃総合判例研究叢書・刑法︵一一︶﹄一〇八     九頁︒

        頁︵一九五八年︶︑大谷實﹁背任罪における﹃他人の為  ︵肪︶平野龍一﹃刑法概説﹄二二九頁︵一九七七年︶︑福田.

担保権侵害と背任罪の成否      .     ︵都法四十五−二︶ 四七三

(18)

四七四

  前掲注︵15︶二八〇頁︑曽根・前掲注︵9︶一八一頁︑     了している判例⑤・⑥はこれに該当するとする︒当該契

  山口・前掲注︵1︶三一六頁︒二重抵当の事案で︑大判     約関係の具体的事情に着目して﹁財産の帰属﹂を柔軟に

  大正元年一一月二八日刑録一八輯一四三一頁が第二抵当     解釈する趣旨であろう︒しかし︑債権譲渡においては︑

  権者を被欺岡者とする詐欺罪の成立を認める一方で背任     債務者への通知または債務者による承諾がなされない限

  罪の成否には言及していないことも︑大審院が﹁他人の     り譲り受けた債権を債務者には対抗できず︵民法四六七

  事務﹂を限定的に考えていたことをうかがわせる︒       条︶︑これを完了していない第一譲受人が目的債権の実

︵27︶ 東京高判昭和四二年九月一四日判タニ一六号一九二頁     質的処分権限を取得したとはいえない︒また︑農地売買

  参照︒      ・  には︑都道府県知事の許可が所有権移転の効力要件であ

︵28︶ 刑集=巻一五四六頁︒また︑大正六年二月五日民録     るという特殊性が認められ︑たとえ代金の支払いが完了

  二三輯二三七頁参照︒       ・していたとしても︑許可前に買主が農地の実質的処分権

︵29︶ 上罵.前掲注︵7︶一七三頁参照︒なお︑香城敏麿﹁背     限を取得したと考えることはできない︒相手方当事者の

  任罪の成立要件﹂阿部純二ほか編﹃刑法基本講座・第五     履行状況いかんで﹁自己の事務﹂か﹁他人の事務﹂かを

  巻︵財産犯論︶﹄二五三頁︵一九九三年︶は︑﹁他人のた     区別するのは困難であるように思われる︒

  めにする自己の事務﹂と﹁他人のためにする他人の事   ︵30︶ 藤井一雄﹁判解﹂﹃最高裁判所判例解説刑事篇・昭和

  務﹂とを識別するにあたって︑﹁売買等に基づき代金︑     三八年度﹄一〇九頁︵一九六四年︶は︑﹁本件の場合は︑

  融資金の授受が終わるなどしてすでに財産の実質的処分     代金受領後︑商品の引渡債務を負っているにすぎない売

  権限が買主等に移転した以後は︑形式的処分権限︵処分     主のように︑単純な︑自己の財産処分行為のみを怠って

  能力︶を持つ売主等は︑その財産を買主等のために保全     いるものではなく︑登記義務者の協力なしには︑買主へ

  する義務を負い︑その義務の履行は︑他人たる買主等の     の所有権移転登記も完成しないという趣旨での︑買主の

  ため代行する事務となると解すべきであるから︑二重売     ための任務を前提として︑しかも︑この任務と相容れな

  買︑二重登記等の保全義務違反行為は︑背任罪の対象と     い作為を︑あえてしたという場合であるから︑単なる債

  なる﹂という基準を判例が立てており︑代金の授受が完     務不履行をもって目することができる案件ではない﹂と

参照

関連したドキュメント

認するようである。ところで、相殺が可能であるといいうるためには、民法の原

の利息は元本の蓮韓に函

UCC第九編の﹁警告登録制度﹂を理解するためには︑ 本稿の検討からも明らかなように︑

第三十一巻 第三号   ︵三四〇︶ 八六  

44) Kummer, FS Kirchhof, 2003, S.. ンフェアな〉債務者の財産移転の規律としての債務者に関連する否認 46)

しか し,原債権が実質的に求償権 を担保す る機能を有す るとして も,法的に は,求償権 と原債権 とが別個の債権であることを前提 とす る以上,主債務者が 自らの物

債権者保護がもっぱら債権者異議手続によって図られることによる問題は顕在

偽計業務妨害罪に該当し,威力を使用して業務を妨害した場合は,威力業務妨