物上保証人 に対す る不動産歳売手続の開始後 に 代位弁済 した保証人 による差押債権者の
地位承継の申出 と求償権の時効中断
斎 藤 由 起
最高裁平成1
8年1
1月
14日第三小法廷判決 ( 平成1
7年 ( 隻)第1
594号,求償権請 求事件,破棄 日刊)民集6
0巻
9号3
402頁,裁時1
423号1 1 頁,金法1
794号42 頁, 判
夕1227号
116頁,金判1
260号21 頁,判時1
954号3
9頁
【 事実
】A信用金庫は,B l有限会社 ( 代表取締役 B 2)に対する貸付債権 を 担保するため, Cお よびY l (
Cお よび
YlはB 2と同一の姓である。 )所有 の不動産に根抵当権 ( 以下では 「 本件根抵当権」という。 )の設定を受け,また,
B 2,C,Y l,Y 2,Y 3の
5名 と連帯保証契約 を締結 し
,Blに対 して3
000万円を貸 し付 けた ( 以下では 「 本件債務」 という
。) 。 この頃
,Ⅹ信用保証協会 は ,B lか ら保証の委託を受け ,A との間で本件債務 を連帯保証する旨の契約 をし,また,B 2,C,Y l,Y 2,Y 3 の
5名は,本件保証委託に基づ くB
lのⅩに対する求償債務 を連帯保証 した。
その後, B lは佐賀手形交換所の取引停止処分 を受け,A との約定に基づ き 本件債務の期限の利益 を喪失 した。A が本件債務にかかる残元本債権その他の 貸付債権 を被担保債権 とし,本件根抵当権 に基づ き
,Cらに対 して不動産競売 ( 以下では 「 本件競売」 とい う。 ) を申し立てたところ,佐賀地方裁判所は競 売開始決定 をし,同決定正本はB l,B 2,C,Y l に特別送達郵便物 として 送達 された。上記競売手続中 ,X は A に対 して本件債務の残元本および利息の 合計25
00万8
412円を代位弁済 し,同 日
, Aか ら本件根抵当権の一部移転の付 記登記 を受けた。数 日後
,Ⅹ は,佐賀地方裁判所 に債権届出書等 を提 出 し,
〔229〕
230
商 学 討 究 第
58巻 第
2・3号
Aの差押債権者の地位の一部承継 を申 し出,同裁判所の裁判所書記官は,民事 執行規則 ( 平成1
5年最高裁判所規則第2
2号 による改正前の もの)
17
1条に基づ き, 上記の とお り承継があった旨をB l,B 2,C,Y l に普通郵便で通知 したが, この郵便 は,いずれ も転居先不明のため到達 しなかった。 しか し,本件競売手 続 は適法に続行 され ( 民事執行規則
3条
1項,民訴規則
4条
5項参照) , Ⅹは3
32万
2197円の配当を受け,本件競売手続 は終了 した。
上述代位弁済か ら約 6 年 8 カ月後 , Ⅹは,本件求償債務の連帯保証人である
Y l,Y 2,Y 3の
3名 に対 して,求償残元金21
04万
1215円お よび遅延損害金 について連帯保証債務の履行 を請求 し,本訴 を提起 した。
一審 ( 佐賀地判平成1
6年1
0月25 日) は,いわゆる欠席判決によ り
,Ⅹの請求 を全て認容 した。 これに対 して,Y 2 のみ控訴 し
,Ylお よびY 3については 判決が確定 した。
原審 において
,Y2は
,Xの主張事実 を認めた うえで,本件求償権 はⅩによ る代位弁済の 日か ら
5年の経過 によ り時効消滅 したため,ⅩのY 2 に対す る連 帯保証債権 も時効消滅 した旨を抗弁 として主張 した。 これに対 して
,Ⅹは差押 債権者の地位の一部承継の申出による時効中断の再抗弁 を主張 したO
原判決 ( 福 岡高判平成1
7年
4月27 日民集6
0巻
9号3
422頁) は,原債権 と求償 権 とは別異の法律 関係 に基づ く債権であることを理由に
,Ⅹの上記地位承継の 届出によ り,本件求償権お よび本件連帯保証債権 について 「 差押 え」 ( 民法1
47条
2号)がなされた とはいえない として
,Y2の控訴 を認容 した。
Ⅹは上告受理 を申 し立て, これが受理 された。
【 判 旨】 破棄 自判 「 債権者が物上保証人に対 して申し立てた不動産競売につい
て,執行裁判所が競売開始決定 を し,同決定正本が主債務者に送達 された後に,
主債務者か ら保証の委託 を受けていた保証人が,代位弁済を した上で,債権者
か ら物上保証人に対す る担保権の移転の付記登記 を受け,差押債権者の承継 を
執行裁判所 に申 し出た場合 には,上記承継の申出について主債務者 に対 して民
法1
55条所定の通知が されな くて も,次の とお り,上記代位弁済 によって保証
物 上 保
証人 に 対
する 欄 産競売
報の 開始後 に 代
位楠し た 保 証
人に よ
る差
押債 権 者
の地 位 経 の
申出
と求 償
権の 糊中断
231
人が主債務者 に対 して取得す る求償権の消滅時効 は,上記承継の申出の時か ら 上記不動産競売の手続の終了に至 るまで中断す ると解す るのが相当である
。ア 保証人は,上記代位弁済によって,主債務者に対 して求償権 を取得す ると ともに,債権者が主債務者に対 して有 していた債権 ( 以下 「 原債権」とい う。) と上記担保権 を代位 によ り取得す るところ ( 民法501 条),原債権 と上記担保権 は,求償権 を確保することを目的 として存在す る付従的な性質を有す るもので あ り ( 最高裁昭和
58年 ( オ)第881 号 同61 年
2月20 日第一小法廷判決 ・民集40 巻
1号43 頁参照),保証人の上記承継の申出は,代位 によ り取得 した原債権 と 上記担保権 を行使 して,求償権 の満足 を得 ようとす るものであるか ら,これに よって,求償権 について,時効中断効 を肯認するための基礎 となる権利の行使 があった もの とい うべ きである ( 最高裁平成
3年 ( オ)第1
493号同 7 年
3月2
3日第一小法廷判決 ・民集49 巻
3号98
4頁)。
イ 物上保証人に対す る不動産競売の開始決定正本が主債務者に送達 された場 合 には,原債権の消滅時効 は,同決定正本が主債務者 に送達 された時か ら上記 不動産競売の手続の終了 に至 るまで中断す るが ( 最高裁平成
7年 ( オ)第37
4号同年
9月
5日第三小法廷判決 ・民集49 巻
8号27
84頁,最高裁平成
5年 ( オ) 第1
788号同
8年
7月
12日第二小法廷判決 ・民集5
0巻
7号1
901頁参照), この こ とは,途中で,代位弁済による差押債権者の承継があった場合 も異 な らないの で,差押債権者の承継は,一般 に,原債権の消滅時効 について主債務者 に不利 益 を生 じさせ るものではない。そ して,上記の とお り,原債権 は求償権 を確保 することを目的 として存在す るものであるか ら,このことは,同時に求償権の 消滅時効 について も当てはまるものである。
また,保証人に保証の委託 を していた主債務者 においては, 自ら弁済す るな どして上記不動産競売の手続の進行 を止めない限 り,保証人が代位弁済 をして 差押債権者の承継 を申 し出るとい うことは,当然に予測すべ きこととい うべ き である。
民法1
55条 は,時効の利益 を受ける者 ( 以下 「 時効受益者」 とい う。)以外の
者 に対 して時効 中断効 を生ずる行為が された場合 に,時効受益者が不測の不利
232
商 学 討 究 第
58巻 第
2・3号
益 を被 るこ とが ない ように,上記行為が あ った こ とを時効受益 者 に通知すべ き こ とを定 め た規 定 で あ るが ( 最 高裁 昭和47 年 ( オ)第7
23号 同5
0年11月21 日第 二小法廷判 決 ・民集29 巻
10号1
537頁参照),既 に物上保証 人 に対 す る不動 産競 売 の開始 決定正本 の送達 を受 けて時効 中断効 を生ず る行為 が あった こ との通知 を受 けてい る時効受益者 た る主債務者 につ いて は,上記 の とお り,一般 に差押 債権者 の承継 に よって原債権 の消滅時効 ひいて は求償権 の消滅時効 につ いて不 利益 を被 る こ とはな く, また,保証 人が代位弁済 を して差押債権者 の承継 を申 し出 るこ とは当然 に予測すべ きこ とであ るか ら,上記承継 の 申出が あ った こと の通知 を受 けなけれ ば不測 の不利益 を被 る とい うこ とはで きない。
そ うす る と,民 法
155条 の法意 に照 らし,上記承継 の 申出 につ いて は,時効 受益者 たる主債務者 に対す る時効 中断の問題 に関す る限 り,主債務者 に通知す るこ とを要 しない とい うべ きであ る。
り 以上 に よれば,前記 の場合 には,前記代位弁済 に よって保証 人が主債務者 に対 して取得す る求償権 の消滅 時効 は,前記承継 の 申出の時か ら前記不動 産競 売の手続 の終了 に至 る まで 中断す る とい うべ きであ る。」
【 評釈
】Ⅰ.問題点 と本判決の意義
債権者 の物上保証 人 に対 す る不動産競売 申立 ては,被担保債権 に関す る消滅 時効 の中断事 由
(「 差押 え
」〔 民法1
47条
2号〕
)であ り,被担保債権 の債務者 に対す る消滅時効 の中断効 は,物上保証 人 に対 して 申 し立 て られた不動産競売 の 開始決定正本が債務者 に送達 され,それが到達 した時
(「 通知
」〔 民法1
55条
〕)か ら不動産競売手続 の終 了時 まで継続す る との立場 が通説 であ る。
あ る債務 を担保す るため,上述 の物 的担保 のほか に保証人があ る場合 ,保証
人が保証債務 を履行す る と,主債務者 に対 して求償権 を取得す る ( 民法459 条 ・
462条)。他 方 で,この求償権 の効力 を確 保す るため に,民法 は,代位弁済 に よっ
て客観 的 に消滅 した債権 ( 以下 で は 「 原債権 」 とい う) を観 念上存続 させ ,代
位弁済 した保証 人 ( 求債権者) が原債権 を求償権 の範 囲内で行使 す るこ とを認
物 上 保
証人 に 対
する 欄 産競売
報の 開始後 に 代
位楠し た 保 証
人に よ
る差
押債 権 者
の地 位 経 の
申出
と求 償
権の 糊中断 2 33 める ( 弁済による代位 〔 民法
499条以下〕
)。弁済 による代位 によれば,代位弁 済 した保証人 は法律上当然 に債権者 に代位 し ( 法定代位 〔 民法
500条〕
),債権 者の有 していた原債権 を行使することがで きるが ( 民法
501条), この とき,原 債権 は代位弁済 した保証人に 「 移転する」 と解す るのが,わが国の支配的見解 である1 ) 。そ して,債権者の もとですでに生 じていた原債権 に関す る消滅時効 の中断効 は,代位弁済者 に移転 した後 もその効力 を変 じない。 したがって,債 権者が物上保証人に対 して申し立てた不動産競売の開始決定正本が主債務者 に 送達 された後 に代位弁済 をした保証人は,差押債権者の地位 を承継 した旨を主 債務者 に改めて通知す るまで もな く,すでに生 じていた原債権の時効 中断効 を 承継す る ( 民法
148条)
0では,上述の場合 において,求償権 に関す る消滅時効 は中断するだろうか。
本件では,債権者が物上保証人に対 して申 し立てた不動産競売の開始決定正本 が主債務者 に送達 された後 に代位弁済をした保証人が差押債権者の地位の承継 を申し出た場合,( 丑原債権 を被担保債権 とす る担保権 に基づ く競売手続 におけ る差押債権者の地位の承継の申出 ( 原債権お よびその担保権の行使) は,求償 権 に関す る消滅時効 を中断す るか,②( 丑を肯定するとして,求償権の時効中断 効 を主債務者 に及 ぼすためには,民法
155条に基づ き,差押債権者の地位の承 継の申出について主債務者への通知が必要か,とい う点が争われた。本判決は, ( 丑については,破産手続 における破産債権 ( 原債権)の債権者の地位承継 に関 す る最‑小判平成
7年
3月
23日 ( 後掲判例
【3】 ) を踏襲 して本件の事案 にお いて もこれを肯定 し,② については,差押債権者の地位承継 についての主債務 者への通知 を不要 とした。本判決は,これ らの問題 について最高裁 として初め て判断 した ものであ り,債権管理の観点か ら実務上重要な意義 を有す るととも に,理論的な問題 を含 む判決であると考 えられる
。以下では,原債権 と求償権 との関係 (Ⅰ)お よび原債権の行使 による求償権
1)
我妻栄 『 新訂債権総論』 ( 岩波書店,昭和
39年)
247頁,最三小判昭和
59年
5月
29
E I 民集
38巻
7号
885頁 ( 後掲判例
【1】 ) 。
234
商 学 討 究 第
58巻 第
2 ・3号
の時効 中断効 の有無 ( Ⅱ) につ いて従 来の最 高裁 の立場 お よび学説 を中心 に検 討 し,民法
155条 に関す る立法者意思 ,従 来 の学説 お よび最 高裁判例 の判例法 理 を検 討 し ( Ⅳ),本判 決 を従 来 の判例 の流 れ に位置 づ け る。 そ の うえで,本 判 決 の判 旨につ いて若干 の検 討 を加 え ( Ⅴ),本判 決 の射程 ( Ⅵ)お よび残 さ れた問題 ( Ⅶ ) につ いて論 じる。
Ⅰ.原債権 と求償権 との関係
原債権 と求償権 との関係 につ いて は,別異性 を強調す るか密接性 を強調す る か に よって,個 々の問題 に対す る結論 が異 なって くるため,最三小判 昭和
59年
5月
29日民集
38巻
7号
885頁 ( 判例
【1】 )が 出 され る前後 か ら判例 お よび学説 において大 い に議論 されて きた。
前述 (Ⅰ) の ように,原債権 は債権者 の有 す る債権 ( 本件 で は貸付債権)が 代位弁 済 に よって代位弁 済者 に移転 した ものであるの に対 して,求償権 は本件 で は保証委託契約 に基づ く費用償還請求権 であ り,両者 は発生原 因 も性 質 も額 も異 なる別個 の権利 と して,いず れ も代位弁 済 を した保証人 に帰属す る。 しか し, と りわけかつ ての信用保証協会実務 においては,代位弁済 に よって原債権 が消滅 し,求償権 は消滅 した原債権 に とって代 わ る と して,求償権 と原債権 と の同一性 を強調 す る見解
(「 接 木説」)が一般 的であ った
2)。
これ に対 して,最高裁 は,判例
【1】以 降,接木説 を否定 し,求償権 と原債 権 とが別個 の債権 であ り,主従 的競 合 関係 に立つ こ とを明 らか に した
3)。最 高
2)
塚原朋‑ 「 弁済による代位をめ ぐる最高裁判例の概観 と展望」金法
1143号 ( 脂 和
62年)
6頁,八木良一 「 判例
【3】解説
」『 最高裁判例解説民事篇平成
7年度』
( 法曹会)
363頁以下
,367頁,村 田利喜弥 「 弁済者代位の実務上の問題点
」『 担 保法理の現状 と課題 ( 別冊
NBL31号) 』 ( 平成
7年,商事法務研究会)
187頁,村 田利喜弥 「 判例
【3】判批」銀法
510号 ( 平成
7年)
15頁以下,村 田利喜弥 「 消 滅時効における原債権の確定等求償権 との関係」 ジュリ
1130号 ( 平成
10年)
120頁以下。
3)
最‑小判昭和
59年
10月
4日金判
71 1 号
3頁, 最二小判昭和
59年
11月1
6日判時
1140号
74頁,最三小判昭和
60年
1月
22日金判
71
7号
3頁,最‑小判昭和
61年
2月
20日
民集
40巻
1号
43頁 ( 判例
【2】 ),慕‑小判昭和
61年1 1 月
27日民集
40巻
7号
1205頁。
物 上 保
証人 に 対
する 欄 産競売
報の 開始後 に 代
位楠し た 保 証
人に よ
る差
押債 権 者
の地 位 経 の
申出
と求 償
権の 糊中断 235 裁判例 の到達点 とされ る最‑小判 昭和
61年
2月
20日民集
40巻
1号
43頁 ( 判例
【2
】 ) は,原債権 の取立訴訟 にお ける求償権 の表示が問題 となった事案 に関 す る判決であ り,両債権 の関係 について次の ように述べ る
。「 弁済 による代位の制度 は,代位弁済者の債務者 に対す る求償権 を確保す る ことを 目的 として,弁済 によって消滅す るはずの債権者 の債務者 に対す る債権 ( 以下 「 原債権」 とい う。)及 びその担保権 を代位弁済者 に移転 させ,代位弁 済者がその求償権 を有す る限度で右 の原債権及 びその担保権 を行使す ることを 認め る ものである。それゆえ,代位弁済者が代位取得 した原債権 と求償権 とは, 元本額,弁済期,利息 ・遅延損害金の有無 ・割合 を異 にす ることによ り総債権 額が格別 に変動 し,債権 としての性 質に差異があることによ り別個 に消滅時効 にかか るな ど,別異 の債権 ではあるが,代位弁済者 に移転 した原債権及 びその 担保権 は,求償権 を確保す ることを 目的 として存在す る附従的な性質 を有 し, 求償権が消滅 した ときはこれによって当然 に消滅 し,その行使 は求償権の存す る限度 によって制約 されるな ど,求償権 の存在,その債権額 と離れ, これ と独 立 してその行使が認め られ るものではない」。
判例
【2】か らは,①原債権 と求償権 とは別異 の債権 であ り,②原債権 は求 償権 を確保す ることを 目的 とす る附従 的性 質 を有 し,③ 原債権 は求償権 に対 し て独立性 をもたない, とい う
3つのテーゼが導かれ, これは 「 主従的競合」 関 係 といわれるが,判例
【2】で重視 されていたのは,原債権 は求償権があって は じめて存在 し,求償権 と切 り離 して移転 も存在 もしない ことである
4)。
両債権 の関係 を判例
【2】と同様 に理解す る学説 もあるが
5),判例
【1日 2】4)
塚原朋‑ 「 判例
【2】解説」『 最高裁判例解説民事篇昭和
61年度 』 ( 法曹会)
25頁以下
,31頁参照。
5)
林良平は,「 今 日の民法の体系では,まず,求償権が存立する場合に,それの
強化 ・保障として弁済者の代位がある」 とした上で ( 林良平 「 弁済による代位に
おける求償権 と原債権 一 信用保証委託契約を中心 として‑」金法
1100号 ( 昭和
60年)5
2頁以下
,52頁),「 原債権はその固有の成立根拠 と権利内容を有 し,求償
権 もまた固有の成立根拠をもちその権利内容をもっている。両者はなんら相関係
するところはない。ただ,代位による移転により,求償権の存続する限 りで原債
236
商 学 討 究 第
58巻 第
2・3号
の担 当調査官 であ る塚 原朋‑ お よびそれ に追随す る学説 は,原債権 は求償権 を
「 確保 す る」 とい う文言 ( テーゼ② ) に 「 担保 す る とい う趣 旨」 を読み込み, 弁 済者代位 を「 債権 とい う権利 の譲渡の方法 に よる法定担保 制度」と理解 し了求 償権 は原債権 の被担保債権」 であ る との意味 をこめて 「 主従 的競合」 とい う表 現 を用 いてお り
6),これが学説 の主流 になってい る といって も過言 で はない
7)0
現在 の最高裁 は,一見す る と判例 【2】を維持 してい るかの よ うにみ えるが, その実 質 は上述 の学説 の影響 を受 けて変容 してい る ともい え
が )。例 えば,最
‑小判平成
7年
3月
23日民集
49巻
3号
984頁 ( 判例
【3】 ) は,原債権 と求償権 との関係 につ いて,判例
【2】 を参照 し,原債権 は 「 求償権 を確保す るこ とを 目的 と して存在す る附従 的 な権利 である」 としてテーゼ( むのみ を引用 し,原債 権 を 「 保証 人が いわば求償権 の担保 と して取得 した」 ものであ る と述べ る。判 例
【3】 にお いて は,原債権 は 「 権利」 と表現 され, 「 債権」 とい う文言 は用 い られてお らず,原債権 の担保権 と しての性 質が強調 されてい る。
本判決 も,原債権 と求償権 の関係 につ いて,判例
【3】 と同様 の理解 の上 に 立 っている と思 われ る。
権 ( 効力 ・担保) も存続 し,求償権の範囲内で, しか し,原債権固有の法理で原 債権が行使 されるのである。原債権 と求償権は完全に切断されている」 と述べる
( 林良平 ・前掲注
5)金法
1100号
56頁) 0
6)
塚原朋‑ 「 保証人 と債務者及び保証人 と物上保証人 との間で成立 した特約の第 三者に対する効力」手研
368号 ( 昭和
60年)
10頁以下
,12‑13頁,石田喜久夫 「 他 の利害関係人に対する求償権 と代位権の関係」金法
1143号 ( 昭和
62年)
13頁以下,
14頁 ( 接 ぎ木説か ら改説) 。判例
【3】の後の学説 として,山野 目章夫 「 求償債 権 と原債権の関係 一 相互性仮説の検証」 ジュリ
1105号 ( 平成
9年)
138頁以下。
7) なお,学説においては,代位制度の歴史的研究をふまえて,弁済者代位制度を 弁済者 と被求償者 との間の内部的法律関係に基づ く国有の求償権の存否 を詮索せ ずに,弁済の事実を要件 とする求償制度 としての機能を内在 させる制度 として理 解する見解 ( 寺田正春 「 弁済者代位の機能 と代位の要件 ・効果」椿寿夫編 『 担保 法理の現状 と課題 ( 別冊
NBL31号) 』 ( 平成
7年,商事法務研究会)
135頁以下,
136頁)や上記見解 を支持 しなが ら代位制度が求償制度を内在的に取 り込んでい ると理解する見解 ( 潮見佳男 「 求償制度 と代位制度」中田裕康 ・道垣内弘人編 『 金 融取引 と民法法理』 ( 平成
12年,有斐閣)
235頁以下
,252‑258頁)が有力に主張
されているが,判例の採るところには至っていない。
8)
潮見佳男 ・前掲注
7)238‑242頁 もこのことを指摘する。
物 上 保
証人 に 対
する 欄 産競売
報の 開始後 に 代
位楠し た 保 証
人に よ
る差
押債 権 者
の地 位 経 の
申出
と求 償
権の 糊中断
23 7
Ⅲ.原債権の差押債権者の地位承継の申出による求償権の時効 中断効の有無 原債権 の行使 に よって求償権 の消滅時効が中断 されるかについては,原債権 と求償権 との関係 について判例
【2】の示 した 「 主従的競合」 の理解 を前提 と す ると,債権者 の意思解釈 を通 じることによって可能である として も
9),従 た る債権 である原債権 を行使 しただけでは,論理的には,主たる債権であ る求償 権 に関す る時効 中断効 を生 じない と解す るのが 自然 であ る
10)。求償権 と原債 権 との主従関係か らすれば,原債権の行使が求償権 に時効 中断効 を生 じる とい
うのは主従関係 に逆行す るか らである。
これに対 して,原債権 を求償権 の担保 である と理解す る見解 においては,担 保権 の行使 によって被担保債権 の時効 は当然 に中断 され るとして,原債権 の行 使 に よる求償権 の時効 中断 を当然 に肯定す る立場が多数 を占め る 11) 。 この見 解 の論者 の中には,原債権 の消滅時効が中断 した ときに求償権 の時効が中断す ることを肯定す る理由 として,①原債権 と求償権が当事者 を同 じくす ること,
② 原債権 の行使 には求償権 を主張す る意味が客観的 に含 まれる ( 論理の必然で ある) こと,③ 原債権 と求償権 についてそれぞれ別個の権利主張行為 を期待す ることが法律上 または事実上の見地か ら合理性 を欠 くこと,以上の
3つの要件 を満 たす こ とを挙 げ る もの 12) や,代位 弁済 を行 って求償権 を獲得 した者が原 債権 を行使 して抵 当権 に基づ き競売 を申 し立てる際 には, 申立書 に確保 される べ き求償権があわせ て表示 されるので, この場合 には求償権 を行使す る意思が
9)
林良平 ・前掲注
5)金法
1100号
57頁。
10)
上野隆司 ‑佐久間弘道 ‑塩崎勤
‑山野 目章夫 「〔 座談会〕不動産競売 と時効管 理をめ ぐる実務上の留意点」金法
1469号 ( 平成
8年)2
3頁以下
,31頁 〔 塩崎勤発 言〕,潮見佳男 ・前掲注
7)243頁も同旨。
ll)
塚原朋一 ・前掲注
6)手
桝368号
16頁,石田喜久夫 ・前掲注
6)金法
1143号
14頁, 岡本坦 ‑塚原朋‑ ‑田井雅巳‑江口浩一郎 ‑上野隆司 「〔 座談会〕時効中断の各 種手続 と実務上の諸問題」金法
1398号 ( 平成
6年)
6頁以下
,32頁 〔 塚原朋一発 言〕
,33頁 〔 上野隆司発言〕 ,上野隆司‑佐久間弘道 ‑塩崎勤 ‑山野 目章夫 ・前掲 注1 0 )金法
1469号
31頁 〔 山野日章夫,佐久間弘道,上野隆司発言〕 。
12)
山野 目章夫 「 判例
【3】判批」判評
443号
199頁以下
,201‑2頁,山野 目章夫 ・
前掲注
6)ジュリ
1105号
140頁。山野 目章夫 「 本件判批」金法
1812号 ( 平成
19年)
26頁以下は,この要件に従って本判決の正当性を論証する。
238
商 学 討 究 第5
8巻 第
2 ・3号
明示 され てい る とい え るか ら,求償 権 の時効 中断効 を肯 定 す る こ とには問題 が ない と した うえで, 「もっ と一般 的 に,原債 権 を行 使 した と きは, これ に よっ て そのい わ ば被 担保債権 で あ る求償権 につ いて時効 中断 の効 力 が あ る」 とす る
もの
13)が あ る。
さ らに,原債権 と求償権 の経 済 的 ・実 質的一体性 また は密接 な関係 を根 拠 と して原債 権 の行使 を求償 権 自体 の行 使 と同視 す る説 明 す る見 解
14)や , 当事 者 間の公平 を根 拠 に説 明す る見解
15)もあ る
。この よ うななか ,最 高裁 は,判 例
【3】 にお いて,債権者 が主債務者 の破 産 手 続 にお いて債 権全 額 の届 出 を し,債権 調査期 日の終 了後 に債権 全 額 を代位 弁 済 した保 証 人 が,破 産裁判 所 に届 出債権 ( 原債 権) の届 出名 義 の変更 を 申 し出 た場 合 16) にお い て求 償 権 の消 滅 時効 の 中 断 の有 無 が 問題 とな った事 案 に関 し て,次 の よ うに述べ て,求償権 の消滅 時効 は原債権 の届 出名義 の変更 時 か ら破 産手続 終 了時 まで 中断す る と判示 した。
弁 済 した保 証 人 が代 位 に よって取得 す る原債 権 は, 「 求償 権 を確 保 す る こ と を 目的 と して存 在 す る附従 的 な権 利 で あ るか ら‑‑・ ,保 証 人 が い わ ば求償権 の 担保 と して取得 した届 出債 権 につ き破 産裁判所 に対 して した右届 出名 義 の変 更
13)
塚原朋一 ・前掲注
6)手研3
68号1
6頁。
14)
伊藤進 『 信用保証協会保証法概論』 ( 平成
4年,信 山社)27
6頁,清水暁 「 判例
【3
】判批」判評425 号1
92頁,福 田泰明 「 判例
【3】判批」金法1
476号 ( 平成
9年)1
6頁以下,1
7頁。
15)
野村豊弘 「 弁済者の代位 と消滅時効 ( 名古屋地判平成
3年1
2月
4日お よび名古屋地判平成
4年
9月1
4日
)」判
夕824号 ( 平成
5年)35 頁,39 頁。
16)
破産債権の届 出 ( 新破産法1
11条) によって,当該破産債権 について,破産手
続終了 まで時効中断の効果が生 じる ( 民法1
52条)。届出後 に生 じた破産債権の移
転に基づいて行われる届出名義の変更は,届 出期間等 について特別の制限を受け
ず,新 たに破産債権 を取得 した者が一定の方式によって届出名義の届出書 を提出
することによってなされる ( 新破産法1 1
3条,破産規則35 条)。届出名義の変更は,
当該破産債権の時効中断効 との関係では,新債権者 ( 代位弁済 した保証人)は,
当該破産債権 ( 原債権) についてすでに生 じている時効中断効 を承継するにす ぎ
ないが,届 出後に破産債権 を取得 した新債権者にとって,破産債権の届出 と同様
の意義 を有すると解 される ( 伊藤其 『 破産法 〔 第4版補訂版〕 』 ( 平成1
8年,有斐
閣)
434‑438頁)0
物 上 保
証人 に 対
する 欄 産競売
報の 開始後 に 代
位楠し た 保 証
人に よ
る差
押債 権 者
の地 位 経 の
申出
と求 償
権の 糊中断 2 39 の 申出は,求償権 の満足 を得 ようとしてす る届 出債権 の行使 であ って,求償権 につ いて,時効 中断効 の肯認 の基礎 とされ る権利 の行使 があ った もの と評価 す るのに何 らの妨 げ もない」。
判例
【3】の直後 の最 三小 判平成
9年
9月
9日判夕956号
160質 ( 判例
【4】)ち,主債務者 の破 産後 ,債権調査期 日終了前 に代位弁 済 した保証 人が債権調査 期 日終 了後 に債権届 出名義 の変更 を申 し出た事案 において,同様 の判 断 を した。
判例
【3】が,破 産債権 ( 原債権)の届 出名義 の変更 に よって,求償権 の 「 時 効 中断効 を肯認す るための基礎 となる権利」 が行使 され る と して求償権 の時効 中断効 を肯 定 した点 につ いて,判例
【3】 を担 当 した八木 良一調査官 は,原債 権 の届 出名義 の変更 は求償権 自体 の行使 で はな く,原債権 の破 産手続参加 が,
「いわ ば求償権 の担 保権 の実行 が あ った もの と同視」 され る と し
17),求償権 につ いての時効 中断事 由 を,求償権 自体 の破 産手続参加 ( 民法1
52条)で はな く, 差押 え ( 民法
147条
2号) と解 す る
18)。
本判決の原審 ( 民集6
0巻
9号3
433‑3434頁参照) は,原債権 と求償権 とが別個 の債権 であることに着 目し,物上保証人 に対す る競売手続 における差押債権者 の 地位承継の申出によって,求償権 を直接行使せず とも求償権 の時効 中断効 を生 じ る とす ると,求償保証人は,本来保証委託契約が履行 された結果生ず る求償権 を 保証す るに もかかわ らず,実質的には原債権 を担保 しているの と同 じことになっ て しまうとして,本判決の事案では求償権の時効 中断効 は生ぜず,破産手続 の事
17)
八木良一 「 判例
【3】解説
」『ジュリス ト最高裁時の判例 Ⅲ
』180頁以下,1
81頁, 前掲注
2)370頁Oこれに対 して,高橋
最 (「 弁済者代位における原債権 と求償権 一 消滅時効に関連 して」銀法6
55号 ( 平成1
8年)
16頁以下,2
0頁)は,判例
【3】は破産債権者の地位承継の申出によって,原債権 とともに求償権 も行使 したと評 価 していると解する。
18)
この場合の時効中断事由について,松久三四彦
(「 判例
【3】判批」 リマーク
ス1
3号
(1996年 〔 下
〕)1 1 頁以下,1
4頁)は,判示か らは,原債権の担保的性質
か ら,債務者 自身が設定 した担保権の実行 と同様に扱い,差押 えに準ずる外に 「 破
産手続に伴 う求償権行使の制約」 をも根拠 として破産手続参加 ( 民法1
52条)に
準ず るという万が素直であろうか」 と述べるが,八木調査官 ( 前掲注
2)376頁
注1
0)
)は 「求償権 自体は破産手続に何 ら参加 していない」としてこれを否定 し,
中断事由を差押え ( 民法1
47条
2号) とする。
240
商 学 討 究 第5
8巻 第
2・3号
案に関する判例
【3】の法理の射程は本判決の事案に及ばないとの立場であった。
これに対 して,本判決は,原債権 についての差押債権者の地位承継の申出は,
「 求償権の満足 を得 ようとす るもの」であ り,求償権の 「 時効中断効 を肯認す るための基礎 となる権利の行使」であるとして,これによって求償権の時効中 断効が生 じるとした。 したがって,本判決は,判例
【3】の射程が破産手続 に おける破産債権者の届 出名義の変更の申出の事案にとどまらず,物上保証人に 対する競売手続における差押債権者の地位承継の事案に及ぶことを明らかにした。
しか し,原債権が実質的に求償権 を担保す る機能を有す るとして も,法的に は,求償権 と原債権 とが別個の債権であることを前提 とす る以上,主債務者が 自らの物 に設定 した担保権 を実行す る場合 ( 民法
147条
2号) と単純 に同視す ることはで きない。 また,原債権の破産債権者の届 出名義の変更が,求償権の
「 時効中断効 を肯認す るための基礎 となる権利の行使」であるとい う抽象的な 理 由づけだけでは,「 普通保証人 を訴 えた ときに も主債務の時効の中断効が認 め られかねない ( 民法
456・434条参照) 」 との判例
【3】に対す る批判
19)は, 本件事案 にも妥当するように思われる。
この点,執行実務 においては,代位弁済によ り原債権お よび抵当権が弁済者 に移転 した旨の付記登記 を行い,その付記登記の記載 された登記簿謄本 を添付 して原債権の差押債権者の地位承継の申出が行われている。 ここで,原債権の の差押債権者の地位承継の申出には時効 中断 と関連 して
2つの側面があると考 えられる。 1つは,原債権 について,原債権者がすでに生 じさせていた時効中 断効 を承継するとい う側面である。 もう
1つは,求償権の行使 「的」側面であ る。す なわち,求償権 自体 を行使 しているわけではないが,上述の執行実務 を 前提 とす ると,上記登記簿謄本の添付 によって 自らが求償権 を有す ることを明 示 した うえで,求償権の確保 に向けて行為 しているとい う側面である。 この第 2 の側面 に着 目して原債権 の差押債権者の地位承継の申出
20)を求償権 に基づ
19)
松久三四彦 ・前掲注
18)リマー クス1
3号1
4頁。
20)
原債権の差押債権者の地位承継の申出は,執行法の観点からは,競売開始決定
物上保証人に対する欄 産競売報 の開始後に 代位楠 し た保証人による差押債権者の地位経 の申出と 求償権の糊 中断 241 く 「 差押 え」 ( 民 1 47 条 2 号) に準 じる もの と評価す ることによっては じめて原 債権 の差押債権者の地位承継の 申出による求償権の時効 の中断効が正当化 され るように思 われる
21)0
Ⅳ.
民法
155条
前述 ( Ⅱ)の ように原債権 の差押債権者 の地位承継の 申出によって求償権 の 時効が中断す ることを認め るとして も,本件差押債権者 の地位承継の 申出は物 上保証人に向けて行 われているため,債務者 に対 して求償権の時効 中断効 を生
じるためには 「 通知」 ( 民法
155条)が必要 となるかが問題 となる。
1.立法経緯 および起草者の見解
民法1
55条 は
,旧民法証拠編11
7条
3項 「 時効 ノ利益 ヲ受 クル者 二対 シテ差押 ヲ為 ササ ル トキハ其差押ハ此者 二告知 シ タル後 二非サ レハ 中断 ノ効力 ヲ生 セ ス」 に由来す る。 同条 は,ボアソナー ドの発案 による ものであ り,法典調査会 において参照条文 としてイ タリア民法21
25条
1項が挙 げ られるのみの,立法例 としては珍 しい条文である。 ボアソナー ドは債権者が債務者 の債権 を差 し押 さ える場合 を例 として考 えていた
22)。法典調査会 において,起草者梅謙次郎 は,
①債務者の第三債務者 に対す る債権 に対す る差押 え,② 第三者の占有下 にある 債務者の物の差押 え,③
Aの財産 を もっていった
Bがその財産 を
Cに貸 し渡 し てお り
,Cに対 してその物が差 し押 え られた場合 ,以上
3つの例 を念頭 にお き
23), これ らの場合 には,「 何 レノ場合 二於 テモ未 ダ本人 ガ知 ラヌデ居 ル,本 人ノ知 ラナイデ居 ル間二時効 ガ中断セ ラ レテ居 ル ト云 フコ トハ何 ウモ私共ニハ
後に代位弁済により執行債権を取得 した保証人にとって,差押えと同様の意義を 有する。
21)
なお,原債権 と求償権 との関係および原債権の行使による求償権の時効中断効 の有無の問題に関しては,未だ私見が固まっていない。 したがって,本稿では, 従来の判例における最高裁の考えを正確に理解することを目指すにとどめ,上記 の問題の検討は別稿に譲 りたい。
22)
なお,この例は現在では民法1
55条の問題として捉えられてはいない。
23)
法務大臣官房司法法制調査部監修 『 法典調査会議事民法速記録
1巻 』 ( 商事法
務研究会,昭和
58年)45
3頁 〔 梅謙次郎〕 。
242
商 学 討 究 第5
8巻 第
2・3号
酷 ノヨウニ思ハ レ」 ることを理由に同条 を提案 した
24)。 したが って,梅 に よ れば,時効の利益 を受ける者が中断事由の存在 を知 り得 ることを前提 とす るの で,時効が中断する時点は,差押 えの申立ての時点ではな く通知の時点であ り, この ようにするために同条が必要であるとい う
25)0
これに対 しては,箕作麟禅か ら,上記①の例 において, ( 旧)民事訴訟法59
8条
3項が 「 差押ハ第三債務者二対スル送達 ヲ以テ之 ヲ為 シタルモノ ト看倣 ス」
と規定するにもかかわ らず,通知の送達時点で時効中断効が生 じるとすると, 第三債務者 に対 して差押 えをしたが債務者 に対 して通知が届かない段 階で時効 が完成 して しまうことにな り,せっか く第三債務者 に対 してな した差押 えが役 に立たな くなること
26),第三債務者 に対 して権利行使 の意思 を表明 した以上 は, このことを債務者が知 らな くて も時効の中断の効力 を生ず るのは当然であ ること
27),以上 に基づ き,時効の利益 を受 ける者が中断事 由を知 らな くて も 中断効 を生 じさせ るべ きであるとして削除案が出されたが,採決によ り否決 さ れた 28) 0
④物上保証人所有の抵当不動産への差押 えまたは仮差押 えの例 は,梅の旧民 法の講義録 に登場 し,梅 は,証拠編1
17条
3項 について,被担保債権の消滅時 効が中断 しない とすると債権者 に酷であ り,直ちに中断するとしては債務者不 知の場合 に穏 当ではないので,その中間の最 も適当な方法 を規定 した ものであ ると説明 し
29),その後の民法要義においては,この例 を上記例③ とともに挙 げ, 上記 と同様 に説明 していた 30) 。
この ように,立法時においては,いずれの見解 も 「 通知」( 民法1
55条)によっ
4)
前掲注
23)453頁 〔 梅謙次郎〕 。
5)前掲注
23)455頁 〔 梅謙次郎〕 。
6)前掲注
23)452‑3頁 〔 箕作麟祥〕 。
7)前掲注
23)455頁 〔 箕作麟祥〕 。
8) 箕作の削除案については,横田,高木,長谷川が支持,削除案に反対 したのは 梅,磯部であった。
29)
梅謙次郎講述 『 時効法 全 〔 和仏法律学校第四期講義録
〕』 ( 和価法律学校講義 録出版部)7
7‑78頁。
30)
栴謙次郎 『 初版民法要義巻ノー総則編』 ( 明治
29年,和仏法律学校)
330頁。
物 上 保
証人 に 対
する 欄 産競売
報の 開始後 に 代
位楠し た 保 証
人に よ
る差
押債 権 者
の地 位 経 の
申出
と求 償
権の 糊中断 2 43 て時効中断効 ( 相対効の原則
〔148条〕
)を人的に拡張す ることを前提 とす る点 で一致 しているが,拡張 に際 して 「 時効 ノ利益 ヲ受ケル者」が差押 え等の中断 事由を知 らなければな らないか どうかについては争いがあ り, 差押 申立時説 ( 長 谷川喬),民事訴訟法 による差押 えの効力発生時説 ( 箕作麟禅,高木豊,横 田 園臣)そ して債務者への通知の到達時説 ( 梅謙次郎,磯部四郎) とに分かれて いた。 しか し,民法
155条が立法 に至 った以上,立法者意思 は債務者‑の通知 の到達時であると解 されるべ きであろう。
また,民法
155条の適用範囲は,立法時に想定 されていたのは上記
4つの例 のみであることか ら,民法
155条 によって中断効 をいかなる者 に対 して も無制 限に拡張 し得 るのではな く,同条の適用範囲は限定的に解 されるべ きである
。2.
学 説
その後の学説においては, もっぱ ら④物上保証人の不動産に対す る差押 えの 場合 を例 として,民法
155条の趣 旨は時効中断効の相対的効力 ( 民法
148条)の 拡張 または例外 と解 され
31),同条の必要性 は,「 強制執行 は請求権の義務者以 外の者に対 しても行われることが多い,ということによる」と述べ られている
32)0
被担保債権の債務者 に対す る時効中断効の発生時点は,一般的に,差押 え等 について債務者が了知 し得 る状態に置かれた時点であると解 されている。その 理由 としては,差押 え等が通知 されない うちに時効中断効が発生す ると,一般 的には,債務者が差押 え等 に対す る異議 を述べ る機会 を奪われ,債務 を弁済 し た者が時効期間満了後 に安心 して受取証 などを破棄することによって,債務者 等 に酷 になることが挙 げ られ る
33)。 これに対 して,債務者 に対す る通知が制
31)
川島武宜 『 法律学全集 民法総則』( 昭和
40年,有斐閣)
496頁,川島武宜編 『 注 釈民法
(5)総則
(5)』 ( 昭和
42年,有斐閣)
〔川井健執筆〕も同旨,我妻栄 『 新訂民法 総則』( 昭和
40年,岩波書店)
469‑70頁,松坂佐一 『 民法提要 総則 〔 第三版〕( 脂 和
49年,有斐閣)
340頁,四宮和夫 『 民法総則 〔 第四版補正版
〕』 ( 平成
8年,弘 文堂)31
8頁, 山本敬三 『 民法講義 Ⅰ総則 〔 第二版
〕』( 平成
17年,有斐閣)
496頁。
32)
川島武宜 ・前掲注
31)496‑7頁。
33)
星野英一 「 判例
【5】判批」法協
94巻
3号42
0頁,三村量‑ 「 判例
【3】解説」
『 最高裁判例解説民事篇平成
7年度』 ( 法曹会)
886頁。
244
商 学 討 究 第
58巻 第
2・3号
度 と して 自動 的 にな され る もので あ る ときは 申立 時説 に分 が あ る との見解
34)や 「 他 の時効 中断の時期 とのバ ラ ンス上」差押 え等 の 申立時 と解 す るのが妥 当 だ とす る見解3 5 )もあ る。
物上保 証 人 に対 す る競 売 申立 ての場合 に民法
155条 を適用 す る こ とにつ いて は,肯定す るのが通説 であ り,その理 由 と して,物上保証 人 に対 して競売手続 を進 め る債権者 に,時効 中断のため に債務者 に対す る訴 えの提起等 の措置 を と る こ とを期待 す るの は無 理 で あ る と述べ る ものが あ る
36)。 これ に対 して,法 律 上 の当事者 として債務者等以外 の者 を相 手 に差押 え等 が な された場令 ,一片 の通知 を もって債務者 に も中断の効力 を生ぜ しめ るの は中断の人的相対効 の原 則 ( 民法
148条) を逸脱す る解釈 であ り, また, これ を認 め る と,保証 人 に対 す る差押 えが主債務者 に通知 された場合 に も主債務者 に対 して中断す るこ とに な って しま うと して,民法
155条 は,執行手続 が事 実上 第三者 に対 して な され た場合 ( 前記例②) に限定 して適用 され るべ きであ る とす る反対説が あ る
37)。 また, 「 時効 の利益 を受 け る者」 ( 民 法
155条) の意味 は,時効 の援用 権者 と し ての 「当事者」 ( 民法
145条) にお ける 「 時効 の利益 を ( 直接)受 け る者」 の概
なお,判例
【5】および星野評釈の出された当時,旧競売法の下で物上保証人 への競売開始決定についての債務者への通知は義務づけられていなかったので, 債務者への通知なされない場合に,債務者が,①差押 えについて異議 を述べる機 会を奪われること,②時効期間満了を信 じて受取証 を破棄する可能性,以上
2つ の不利益 を回避することが民法
155条の通知の必要性 として指摘 されていたが, その後 ( 昭和
55年)施行 された民事執行法が債務者への通知 を義務づけている以 上,( 丑の問題は民事執行法上解決されてお り,時効中断のために要求 される通知
( 民法
155条) との関連では,②の問題のみが考慮 されるべ きである。
34)
松久三四彦 「 高松高判平成
5年
7月
19日刊批」リマークス
1995( 上)
10頁以下,
13頁,石悶穣
(『 民法総則』 ( 平成
4年,悠々社)
582頁。
35)
石田穣 ・前掲注
34)582頁。
36)
石田穣 ・前掲注
34)581頁。
37)
薬師寺志光 『日本民法総論新講 下巻 ( 改訂版) 』( 昭和
42年,明玄書房)
1082‑3頁。幾代通 『 民法総則 ( 第二版) 』 ( 昭和
59年,青林書院新社)
576頁 も,物上保 証人に対する差押 えの場合に民法
155条を適用することに 「 疑問を残 してお きた い」 と述べる。
これに対 して,保証人に対 して差押 えがなされた場合 にも民法
155条 を類推適
用すべ きであるとの見解 も主張 されている ( 石田穣 ・前掲注
34)58ト2頁) 0
物上保証人に対する欄 産競売報 の開始後に 代位楠 し た保証人による差押債権者の地位経 の申出と 求償権の糊 中断 245 念 とは無 関係 ではない として,物上保証 人 も 「時効 の利益 を受 ける者」 に含 ま れ,その者 に対 す る差押 え等 について民法
155条 は適用せず,同条 は時効 の利益 を受 けない者 に対す る差押 え等の場合 に限定す るとの解釈 も主張 されている 38) 。
なお,最近 の多 くの基 本書 ・概 説書 にお いて,民法
155条 に関す る詳細 な記 述 はみ られ ない。物 上保 証人 に対 す る差押 え事例 にお け る民 法
155条 適用 の可 香 , 「 通知」 あ り方 や時効 中断の時点 につ いて は,昭和
50年 以 降の諸判 決 お よ びその評釈等 に よって明確化 されている。
3.
従来 の最高裁判例
物上保証 人所有 の不動産競売 の 申立 て を債務者 に通知す るこ とに よって債務 者 に対 して被担保債権 の消滅時効 が 中断す るか につ いて,最二小判 昭和
50年
11月
21日民集
29巻1
0号
1537頁 ( 判例
【5】) は,民法
148条 は時効 中断効 の相対 的 効力 を定 め るが,物上保 証 人所有 の抵 当不動産 の競 売 の 申立 て は,「 被担保債 権 の満足 のための強力 な権利実行行為 であ り」,債務者本 人 に対 す る差押 え と
「 彼 此差 等 を もうけ るべ き実 質上 の理 由 はな」 く,民法
155条 は, 「同法
148条 の前記 の原則 を修正 し,時効 中断の効果が 当該 中断行為 の当事者及 びその承継 人以外 で時効 の利益 を受 け る者 に も及ぶべ きこ とを定め る とともに, これ に よ り右 の ような時効 の利益 を受 ける者が 中断行為 に よ り不測 の不利益 を被 るこ と の ない よう,その者 に対す る通知 を要す るこ ととし, もって債権者 と債務者 と の間の利益 の調和 を図 った趣 旨の規定であ る」 と述べ て, これ を肯 定 した。
「 通知」 ( 民法
155条) の方法お よび主体 につ いて,判例
【5】 は,執行裁判 所 が競売 開始 決定正本 を主債務者 に送達す る こ とで十分 であ り, この通知が債 権者 か ら発せ られ なければな らない とす る理 由は見 出 し難 い とす る
39)。
38)
金山直樹 「 東京高判平成
5年
7月
19日 ( 判例 【7】の原審)判批」判評
428号 ( 辛 成
6年)
231頁以下
,236頁。
39)
判例
【5】は旧競売法時代の判決であ り,その後の民事執行法 ( 昭和
55年
10月
1日施行)によって競売開始決定正本を所有者および債務者に送達することが義
務づけられたので ( 民執法
188条
・45条
2項
・46条
1項),民法
155条の通知は手
続法上 も整備 され,この判例法理の妥当性はいっそう高められている。
246
商 学 討 究 第
58巻 第
2・3号
通知 に よる中断効 の発生時点 につ いて,物上保証 人 に対 す る不動 産競売 申立 時 とす る下級裁判所裁判例 もあ り( 例 えば, 高知高判平成
5年
7月19日刊時1
484号80 頁 〔 判例
【7】 の原審〕
), この よ うに解 す る学説 もあ るが
40),最 二小 判 平 成
8年
7月1
2日民集5
0巻
7号
1901頁 ( 判例
【7】 ) は,物 上保 証 人 に対 す る 不 動産競売 申立 てか ら競売 開始 決定正本 の債務者‑ の送達 までの間に被担保債 権 の消滅時効期 間が満了す る とい う事案 において, 中断効 の発生時点 を競売 開 始 決定正 本 の債務者‑ の送達 時 と解 し,その理 由 を, 「 債権者 が競売 の 申立 を した ときに さかのぼって時効 中断の効力が生ず る とすれ ば,当該競売手続 の開 始 を了知 しない債務者 が不測 の不利益 を被 るお それが あ り,民法1
55条が時効 の利益 を受 け る者 に対 す る通知 を要求 した趣 旨に反す る ことになる」と述べ る。
債務者 が所在不 明の場合 につ いて は,書留郵便 に付 された競売 開始 決定正本 が債務者 に受領 され る こ とな く返送 された事例 につ いて,最三小判平成
7年
9月
5日民集49巻
8号
2784頁 ( 判 例
【6】 ) は,手続 法上 の送達 の効力 と実体 法 上 の通知 の到達 の効力 は別個 の問題 であ り,競売手続上 は競売 開始決定正本 の 発送 時 に送達 の効力 が発生 す るが,実体法規 であ る民法1
55条 の適用 に際 して は, 「 債務者 が右正本 の到達 に よ り当該競 売手続 の 開始 を了知 し得 る状態 に置 かれ るこ とを要す る」との考 えを示 した。これ に対 して,新民事訴訟法施行 ( 平 成1
0年
1月
1日)後 に所在不 明の債務者 に対 す る競 売 開始決定正本 の送達が公示送達 に よってな された事例 につ いて,最二小判平成1
4年1
0月
25日民集56 巻
8号1
942頁 ( 判例
【8】 ) は,新 設 された民訴訟
113条 の立法趣 旨は,表意者が, 訴状 等 の公示 送達 とは別 に民法97 条 ノ
2( 現
98条 一 引用者 注)所 定 の意思表 示 の手続 を重 ねて とる二 度手 間 を解 消 す る点 にあ る と し,民 訴法11
3条 の類 推 適用 を認 め,競売 開始決定正本の債務者 に対す る公示送達 に よって民法
155条の
40)