本大会のシンポジウムは,以下の企画趣旨に基づき行われた.「子育て支援」とは,社会構造,とりわけ家 族,地域のあり方の変化の中で,「子育て」という営為を,保護者個人・家族内の問題にとどめず,地域・社 会の課題として捉え直し,子どもと家族の福祉の向上を目指す活動といえるだろう.この社会的活動は,現 在,模索的段階から,国,地方自治体レベルでガイドラインが策定される段階に至っている.そのプロセス で着実な実績をあげてこられた,NPO 法人新座子育てネットワーク代表理事の坂本純子氏に基調講演をいた だく.それを受けて,熊谷市地域の活動の現状と課題を,熊谷市子育て支援拠点連絡会「くまっしぇ」代表・
ことぶき花の木保育園副園長の高田綾氏に話題提供いただく.それらの内容につき,家族支援の観点から安 達映子氏に,ニュージーランドとの比較の観点から大竹智氏(いずれも本学社会福祉学部)に指定討論をい ただき,議論を深めていきたい. (企画:本学社会福祉学部 矢澤圭介)
基調講演「期待される子育て支援とは
―子どもを軸に,家族,地域,社会へ―」
基調講演は「期待される子育て支援とは ―子ども を軸に,家族,地域,社会へ―」とのタイトルで坂本 純子氏(NPO 法人新座子育てネットワーク代表理事)
にお話しいただいた.はじめに,活動の状況,親の置 かれている状況,国の政策の変遷についてご説明があっ た.新座市は東京都との境にある東京のベッドタウン であり,人口15万人,毎年1400人くらいの子どもが生 まれている.保育園22園,幼稚園12園,地域子育て支 援拠点が保育園併設のもの8か所,1か所は児童セン ターにあるあそびの広場であり計9か所の拠点がある.
支援拠点とは在宅で子育てをしている親子が集う場所 であり,国は地域子育て支援拠点を小学校区または中 学校区に1か所の設置を目指し,最終的には1万か所 の設置を計画しているが,新座市では中学校区に1か 所の設置が整っているとのことである.
「NPO 法人新座子育てネットワーク」は,子育ての 孤立化が問題になりつつあった1999年に発足した.現 在は新座市にある栄保育園内に併設されている子育て 支援センター「Rhuen(るーえん)」など2か所の事業 運営を行っている.ここでは,利用者がリラックスし
て日ごろの子育ての様子を見せてくれる.経済的にも 安定して夫の協力もあり幸せそうに子育てしている親 子もいれば,夫が単身赴任中,子どもが育てにくい,
母親自身が子どもを上手く扱えない家庭なども利用し ており,さまざまな特別なニーズをもった親子への対 応も求められる.自然な親子の姿をみる中でスタッフ が先に個性に気づくこともある.ニーズを発見したと きにどういった支援へとつなげていくのかということ も課題となる.発達に課題をもった親子を対象とする
「ゆっくり育つ MOZAIC サロン」や「若いママたちの ためのサロン」「ワーキングマザーのためのサロン」な ども行い,一人ひとりの子育てを必要とする支援とつ なげていくことを目指している.その他,父親に直接 働きかける活動として「お父さん応援プロジェクト」
を実施していることなどが紹介された.
次いで,人口減少,初婚年齢・第一子出産年齢の上 昇,生涯未婚率の上昇といったデータを示しながら子 育て環境や子育て事情の変化についても触れ,かつて は生活の支えあいの中で親としての営みを学んでいっ たこと,それをあたたかく見守る環境があり,助け合 いの精神があったが最近ではそういった環境つくるこ とが困難になっていることを指摘された.
また,子育て中心世代となる世代の所得が低下して いる問題や,待機児の問題も大きな家族問題であるこ 立正社会福祉研究 第12巻2号(2011)51~54
立正大学社会福祉学会第12回大会 シンポジウム報告
「子育て支援・家族支援のあり方をめぐって」
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とをあげ,共稼ぎで寄り添って家庭を作っていくのも 現代の家族であるならば,社会の助けが必要であると 述べられた.
10年間で地域の子育て環境は充実してきたが,それ 以上に社会の変化が大きかった.現在,少子化対策は 子どもを中心にした視点に少しずつ戻されているとい う.子どもをみつめて,子どもが主人公になるような 計画を策定し,社会全体で子育てを支えるという視点 をしっかり持っていくことが目指される.現在の親た ちには,核家族化・都市化・高度情報化の中で,希薄 な群れ遊びの体験,少ない兄弟姉妹,表層コミュニケー ション,いじめ,不登校,ひきこもり,男女共同参画 世代,右肩下がりの経済といった問題を抱え,堅実傾 向をもつものも多い.これらの特徴をもった親たちに 対して,地域はどのような支援をしていけばいいのだ ろうか.支援の側にいる人間が自身の子育て時代の記 憶をそのまま現代の親に当てはめることを見直し,現 在の子育て当事者の親たちをとらえた議論を行うこと が必要であるとして基調講演を終えられた.
話題提供「熊谷市子育て支援拠点の現状と課題」
つづいて「子育て支援・家庭支援の在りかたをめぐっ て」というテーマのもと,話題提供を「熊谷市子育て 支援拠点の現状と課題」をテーマに髙田綾氏(熊谷市 子育て支援拠点連絡会「くまっしぇ」代表)よりいた だいた.
髙田氏は,熊谷市の子育て支援拠点についてお話下 さった.熊谷市内には16か所の支援拠点があり,12か 所は民間保育所(法人立保育園)に併設,4か所は公 民館・児童館・保健センター内に開設される公設の支 援拠点である(2010年10月1日現在)という.16か所 の支援拠点は市内の中学校区(17区)に合わせておお むね設置されている.各支援拠点では,おもに就学・
就園前の子どもとその保護者が気軽に立ち寄り,子ど も同士・保護者同士がコミュニケーションを図れる場 所であるように,親子の遊び場の提供,育児相談,情 報提供などを中心にそれぞれの利用者の実情に合わせ た活動を行っているとのことだ.
市内の就学前児童数は,全就学前児童数6824人,全 年齢保育所入所3294人(28.1パーセント)幼稚園入園 児2942人(25.1パーセント)計11730人となっている.
3歳未満児をみると,保育所入所児1226人(24.9パー
セント),就学前児童数4906人である.3歳以上児で は,保育所入所児2068人(30.3パーセント),幼稚園在 園児2942人(43.1パーセント)である.支援拠点の対 象はすべての未就学児とされているが実際の利用者は 保育所を利用していない者が90パーセントを占めてい る.未就園児の割合から,とくに3歳未満児において 家庭保育下にある子ども達の数は少なくない.支援拠 点利用者の声からも市内の子育て家庭の支援拠点への ニーズは高いと思われる.利用する理由として,1位
「子どもを遊ばせる」(71.3%),2位「子どもの友達を つくる」(63.5%),3位「自分の友達をつくる」(38.7%),
4位「子どもが退屈する」(36.9%),5位「利用者か ら情報収集」(25.2%)のため,との結果となっている.
これらの現状を踏まえ課題を考えると,家庭で子ど もと二人きりの状況での閉塞感,子育ての悩みなどを 聞く相手がいないことが育児をやりにくくしている問 題がある.親が上手に子育てをできるようにするため に子育て家庭を応援し,知識・技術を含めた子育て力 を育てる場所が支援拠点であると考え活動している.
しかし,現在子育てサークルの減少,母親同士のつな がりづらさ,支援拠点スタッフへの強い依存心,コミュ ニケーションが苦手な母親などが問題となっている.
子育てサークルが解散,自然消滅することがあり減少 している現状があるが,地域に支援拠点ができ始めた ことにより子育てサークルの利用状況が少なくなって きたという.自分で労力を払わなくても地域の支援拠 点にいけばスタッフが温かく迎え入れてくれる.自分 たちが時間をかけ,時間を合わせるという労力を使う 必要がなくなってきているのも背景にあるのかと子育 てネット熊谷の人から伺うことがあった.利用者同士 をつなぐことのむずかしさを感じざるを得ないという.
この課題を解決するために子育て支援専門職としての 技術,達成感の保障,支援職同士の支えあいが求めら れている.平成21年11月に熊谷市内の民間保育所に併 設された12か所の支援拠点が初めて連携して取り組む 活動の機会に恵まれてたという.これを機に支援拠点 担当者同士のつながりが築かれたのが熊谷市子育て支 援拠点連絡会「くまっしぇ」である.月に1回程度の 定例会をおこない各支援拠点間の情報交換,課題の共 有等を通じて,それぞれがおこなう支援活動の質の向 上を図っている.市内には複数の支援拠点を利用する 親子も多く,支援拠点間での利用者についての情報交 換は各支援拠点担当者の連帯感と支援職者としての自
「子育て支援・家族支援のあり方をめぐって」
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覚を強め,互いの励みになっているそうだ.また,す でに市内で活動していた子育てネットワーク(子育て ネット熊谷)との協力・支援関係も深まっている.各 支援拠点における,それぞれの利用者をそれぞれの担 当者が支援しようとする1対1の関係から,熊谷市内 の子育て家庭を市内の支援職者全体でサポートしよう という機運が高まりつつあるように思われる.
各支援拠点での活動が連携を図りそれぞれの質の向 上を目指している中で,子育て支援活動が効果をあげ ているか否かを測る指標はなにか,ということを検討 すると,支援拠点の利用者数や利用者の感想のなかに だけそれを求めることでは充分でなく,また,地域内 で悲惨な虐待事件等が起こらないということだけが効 果の指標であってはいけないという.支援拠点の課題 のひとつは,その具体的な対象が利用者に限定されて しまいがちであるということにある.支援を必要とし ていながら支援拠点を利用していない家庭の存在を視 野に入れた活動の展開を考えていかなければならない.
また,利用者に対しては,ただ居心地の良い場所を提 供することに終始しない利用者同士が支え合える環境 づくりの仕組みを作る工夫が必要である.支援拠点の 効果の指標は,「家庭の子育て力をはぐくむ → 子育て 家庭が支援を必要としなくなる → 支援拠点が必要なく なる」というように,究極には地域の子育て家庭が支 援拠点を必要としなくなるということにあるのではな いだろうか,と話題提供と締めくくられた.
指定討論①
「ニュージーランドとの比較」
本学社会福祉学部大竹智氏からは,ニュージーラン ドの子育て文化について紹介があった.ニュージーラ ンドでは養育問題が起きた時,先住民族マオリの文化 から取り入れられた,「ファミリーグループカンファレ ンス」を行うこととなっているとこである.イギリス 文化から寄付の精神なども根付いており,それぞれの 文化に差異はあるけれども優劣は存在しないとニュー ジーランド首相も語っているように英語とマオリ語の 両方が公用語として使用され文化を尊重し合っている という.1988年の「ピコット報告」では,「効果的な行 政システムは可能な限り単純であるべきであり,政策 決定は可能な限り現場に近いところでなされるべきで ある」という報告がされている.教育委員会は撤廃さ れ,学校の運営は理事会を持っておこない,バザーな
どの利益で行事を行うこともあるなど,日本とは異な る文化をもっていることが紹介された.
子育て支援については,精神科医キング博士によっ てつくられた,プランケット協会があると説明された.
プランケット夫人は「母親が本能的に子育てを知って いるというのはナンセンス,子育てを教えていかなけ ればいけない」との言葉を残しているという.診療所 での無料相談,チャイルドシートの貸出等の活動も行っ ている.ニュージーランドでは,8歳未満の子どもの 学校の送迎が推奨されており,14歳未満の子どもを家 に置いておくとネグレクトとなり通報されると法律で 決まっている.そのため,仕事を早く切り上げて帰る ことが当然である状況になっている.ベビーシッター として働くための講座の整備や子どもの長期休暇中に は様々なプログラムが用意さているという.国の方針 が明確に示されており,それを支える社会のシステム が子どもを中心に整備されていることをご説明下さっ た.
指定討論②
「家族支援の観点から」
本学社会福祉学部安達映子氏は,基調講演と話題提 供の内容から,新しい現代の親をしっかり見据えて支 援をしていく必要性があり,当事者の価値観にそって 支援をしていくことが原則であるとまとめられ,以下 の3つの論点を挙げられた.
1つ目は,家族支援を行うとき,子どもと,ケアを 担う人の利害が一致するとは必ずしもならない現状が ある.対立するときにどのように対応するのかという ことである.
2つ目は,現在の日本で男性が子育てに密に取り組 むことは難しい現状があるが,子育て支援センターで はどのような支援を考えているのかということである.
3つ目は,拠点にこない人に対する支援をどのよう に行うかという課題である.
質疑応答
上記の論点をうけ,高田氏は特に男性への支援に関 して夏休み中に「パパの日」をつくりお父さんの参加 を呼び掛けたが参加者は母親がほとんどであったとい う現状を紹介下さった.また,坂本氏は,父親はセン ターに来られない人の代表であり,すべての親といっ たとき50%は父親であり,それを支援しないわけには 立正社会福祉研究 第12巻2号(2011)
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いかないと考えている.しかし父親はアクセスするチャ ンスが低いのが現状である.昨年,子ども未来財団で,
地域における父親支援の実態調査を全国1,000か所の支 援センターに行った.結果,父親の平均利用割合は3.9%
であった.父親のための支援を行っているセンターも 数は少ないが存在している.父親がセンターを利用す るためには土日オープンしていることが絶対条件であ る.日本の子育て支援は母親向けに行われてきたので お母さんが居心地がよい空間がつくられている.父親 も居心地のよい空間を作っていく必要があるかと思う.
特に埼玉県のような核家族が多く,夫婦が協力して子 育てにあたらなければならない地域では,この問題は 重要な問題であると思う,と答えられた.
また,フロアから貧困化が進んでいる中で,子育て 支援が有料化されてきている.児童館の有料化,子育
て広場の有料化,は貧困化を助長しているのではない か.保育所のありようが変わってきていている.保育 園では一人親や貧困家庭の割合が多いように感じる.
支援はどのように行っていく必要があるのか.親の力 を育てるとはどのようなことか,どのように考えてい るのか,それが本当に支援であるのか,といった意見 や質問が出され活発な意見交換が行われた.
最後にコーディネーターの本学社会福祉学部迫田圭 子氏が「こうあるべきだということだけでなく,子育 て家庭が何を必要としていて,何を行わなければなら ないのかしっかり見極めていく必要がある」と述べら れ,支援する側のあり方を会場内で確認しシンポジウ ムを終了した.
(構成 橋本理子)
「子育て支援・家族支援のあり方をめぐって」
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