は じ め に
前編の
Part
では,数珠型球列モデルの連続近似をもちいて,地上から垂直にのびた有限な長さをもつ円柱 音源から生じる圧力波の式を導いた.本編では,この圧力波の式をジグザグに折れ曲がった稲妻に適用し,稲妻 からの雷鳴がなぜさまざまに聞こえるのか,その理由を示してみる.また,同じ稲妻からの雷鳴であっても,観 測位置によって雷鳴の聞こえ方が違ってくること,たとえば,すぐそばの落雷の音と遠雷の音がなぜ違った雷鳴 として聞こえるのかの理由も示してみる.まったく違うようにもみえるこの2つの現象は,つきつめるとただ1 つの基本的な理由から説明できる.稲妻からの雷鳴を求めるには,音源である稲妻の形を知っていることが必要となる.しかし,残念なことに我々 は稲妻の 実際の形 を知らない.現実の稲妻は3次元的なものであるが,目にする稲妻は常に平面に投影され た2次元形状でしかない.稲妻本来の形を知らずに,ただそれからやってくる雷鳴だけを耳にしているのが現状 である.したがって,ふだん目にする2次元的な稲妻のモデルにもとづいた雷鳴の考察は,果して実際の3次元 的な稲妻に適用できるかの疑問が残る.しかし,本編では雷鳴のパターンベクトルという新たな量を定義し,こ れが観測点を中心とした回転操作で不変であることを利用して,2次元稲妻モデルから得られた考察が実際の稲 妻にも適用できることを示してみる.
Part Ⅱ:折れ曲がりをもつ曲線音源で近似した稲妻からの雷鳴
4 .上空にある直線音源からの圧力波有限な長さと太さをもつ円柱状の音源が,地面に対し垂直あるいは傾いた状態で上空にあるとき,この音源か ら生じる圧力波を求めてみる.その際,Part (以下では, と略す)でおこなったように,円柱音源を球音源が 直線的に連なった数珠型球列とみなし,これを積分近似して圧力波を計算する.これ以降,このような直線状の 数珠型球列音源をたんに直線音源と呼ぶが,実際は有限な太さと長さをもつ円柱状の音源である.
4.1 上空にある地面に垂直な直線音源からの圧力波
まず,直線音源が地面に垂直な状態で上空にあるとき,これが破裂したときに生じる圧力波を求めてみる.図 7に示すように,直線音源の下端と上端はそれぞれ地面から
H
とH
の高さにあり,音源の半径をa
,音源真下 の地面の点と観測点のあいだの水平距離をr
とする.また, と同様に地面を完全反射面とし,観測点はこの反Shiro S
HINOZAKI(August 2000)
Acoustic Pressure Waves Characterized from a Finite Lightning Channel Part II:Thunder from a Tortuous Lightning Channel
篠 崎 志 朗
稲妻からの圧力波 Part Ⅱ
折れ曲がりをもつ曲線音源で近似した稲妻からの雷鳴
酪農学園大学 環境システム学部 経営環境学科 情報システム研究室
Department of Business Environment Studies (Information Systems),Rakuno Gakuen University,Ebetsu,Hokkaido 069‑
8501, Japan
酪農学園大学紀要 自然科学編,Vol.25, No.1, pp.65‑81 (2000)
節の番号は前編のPart からの連番とし,式と図についても同様とする.
射面にのってるものとする.
この場合の圧力は, の 2.5節に示した高さ
H
の垂直音源からの圧力波の式(5)を用いて簡潔に求められる.すなわち,圧力波のあいだでは重ね合わせの原理が成り立つから,観測点での圧力を求めるには,地面からのび た高さ
H
の垂直音源のつくる圧力から,図7の点線部分にある高さH
の垂直音源がつくる圧力を引けばよい.こうして,上空にある垂直音源が時刻
t
に観測点につくる圧力P
(r, t
)は, の(5)を用いて次のようになる.P( r, t)= d ζ
2
a p( r,t ζ
)−d ζ
2
a p( r, t ζ
)=
P
2
a d ζ r
+ζ−ctr
+ζθ
(a
−r
+ζ−ct)=
P
2
a d ξ( r coshξ
−ct)θ
(a
−r coshξ
−ct).なお,右辺の2行目から3行目に移るときに積分変数の変換
ζ
=rsinhξ
をおこない,積分端点であるξ
とξ
は それぞれH
+a=rsinhξ, H
−a=rsinhξ
をみたす値とした.この3行目のξ積分は の(5)と同じ形をしてい
る.そのため,(5)にあらわれた積分端点ξ
とξ
が,それぞれ上の積分式の積分端点ξ
とξ
に対応しているこ とを利用すると,このξ積分は容易に計算できる.すなわち,(5)から(6)を導く過程であらわれたすべての ξ
とξ
に対し,ξ → ξ,ξ → ξの置き換えをすればよい.その結果,観測点での圧力P( r, t)は, ct
の大きさで5 つの場合に分けられて次のようになる.1)ct<
r
+(H
+a) −aのとき,P( r, t)=0.
(14.1)2)
r
+(H
+a
) −act
<r
+(H
+a
) +aのとき,P( r, t)= P
2
a
(ct+a)−r
−(H
+a)+ct・ln H
+a+r
+(H
+a)ct
+a
+ (ct
+a
)−r
. (14.2) 3)r
+(H
+a
) +a ct<r
+(H
−a
) −aのとき,P
(r, t
)=P
2
a
(ct
+a
)−r
− (ct
−a
)−r
+ct
・ln ct
−a
+ (ct
−a
)−r
ct+a
+ (ct+a
)−r . (14.3) 図 7 上空にある地面に垂直な直線音源有限な太さをもつ直線状の音源が,地面に垂直な状態で上空にある.音源の下端と上端は,それぞれ地面からHとH の 高さにあり,音源の半径をa,音源真下の地面の点と観測点のあいだの水平距離をrとする.Part のときと同様に,地 面を完全反射面とし,観測点はこの反射面上にあるものとする.
4)
r
+(H
−a
) −a ct<r
+(H
−a
) +aのとき,P( r, t)= P
2
a H
−a− (ct−a
)−r +ct・ln ct−a
+ (ct−a)−r
H
−a+r
+(H
−a) . (14.4) 5)r
+(H
−a) +a ctのとき,P( r, t)=0.
(14.5)この式が妥当なものであることは,
H →
0,H
−a→ H
の置き換えによって の(6.1)〜(6.5)にもどることで確 かめられる.ここで(14.3)を導くときに留意すべきことがある.それは
H
とH
のあいだでr
+(H
+a) +a<r
+(H
−a) −a (15) が成り立つことを条件としていることである.しかし,この条件が常に成り立つとは限らず,(15)が成り立つた めには,H/r
1の状況のもとで近似的にH
>H
+4ar
, (16a
)あるいは,直線音源の長さを
l=H
−H とおいて,l
>H
+4ar
−H≡ L
(16b)の条件がみたされている必要がある.ここで(16b)の右辺を
L
とおき,これを高さH
にある音源の有効長と呼 ぶことにする.音源の長さ
l
が(16a)あるいは(16b)をみたさないとき,(14.1)〜(14.5)を求める積分計算の過程では,(15)の 不等号を逆転させたあらたな積分端点の設定が必要となる.ここではその計算の詳細を省略して結果だけを示す と,(14.2)〜(14.4)のct
の範囲および(14.3)の圧力式だけが変更されて,観測点での圧力P( r, t)は次のように
なる.1)
ct
<r
+(H
+a) −aのとき,P( r, t)=0.
(17.1)2)
r
+(H
+a
) −a ct<r
+(H
−a
) −aのとき,P
(r, t
)=式(14.2). (17.2) 3)r
+(H
−a) −a ct<r
+(H
+a) +aのとき,P( r, t)= P
2
a
(H
−a)−(H
+a)+ct・ln H
+a+r
+(H
+a)H
−a+r
+(H
−a) . (17.3) 4)r
+(H
+a) +a ct<r
+(H
−a) +aのとき,P( r, t)=式(14.4).
(17.4)5)
r
+(H
−a
) +a ctのとき,P
(r, t
)=0. (17.5)なお,(17.4)の
ct
の範囲が正しいためにはH
−H>2a
であればよく,これは音源の長さl=H
−H が音源の直 径 2a
より長いことを意味している.これまでの一連の計算は,直線音源を数珠型球列に近似することから出発し ているのであるから,当然l
=H
−H
>2a
がみたされているとしてよい.図8と図9には,(14.1)〜(14.5)および(17.1)〜(17.5)を用いて求めた圧力波を示している.図8と図9のそ れぞれにある3つの圧力波は,同じ音源を3つの異なった水平距離
r
にある地上点で観測した場合である.音源 は下端の高さH
=100m,上端の高さH
=200mで,その長さは 100m,半径aは 1m
である.図8では音源の 長さが有効長より長い場合を,図9では有効長より短い場合を示している.まず,図8にある3つの圧力波を比べてわかることは,同じ音源からの圧力波が観測点の位置によって違って いることである.これは同じ直線音源からの音であっても,位置によって音の聞こえ方が違うことを意味してい
図 8 音源が有効長より長いときの圧力波
下端の高さH=100m,上端の高さH=200mの上空にある長さ 100m,半径a=1mの音源からやってくる圧力波を,
(14.1)〜(14.5)を用いて求めている.縦軸は圧力P/Pの値で,最上(下)端の目盛りの値は+(−)0.004,目盛りの間隔は 0.0004で あ る.横 軸 はctの 値 で,目 盛 り の 間 隔 はa,最 初 の 目 盛 り は 圧 力 波 が 最 初 に 観 測 点 に 到 達 す る 時 刻 r+(H+a) −aをあらわす.これは⒜⒝⒞の3つの図とも同じである.⒜は観測点までの水平距離がr=1000mで,
このとき(18)で与えられる有効長は 18m,⒝はr=3000mで有効長 48m,⒞はr=6000mで有効長 84mの場合である.
同じ音源からの圧力波であっても,観測位置の遠近によって圧力変化の様相,すなわち音の聞こえ方と聞こえる経過時間 が違うことがわかる.遠方の観測点ほど,正負の圧力ピークの時間間隔が短くなってくる.音源が有効長より長いとき,
最大の圧力振幅は常に正の圧力側にある.
図 9 音源が有効長より短いときの圧力波
図8と同じ音源を,十分遠方にある観測点で観測したときの圧力波.⒜⒝⒞の3つの図ともrが十分に大きいため(16a)
を満たさず,有効長より短い音源からの圧力波の式(17.1)〜(17.5)を用いている.音源は半径a=1m,長さ 100mで,下 端は高さH=100m,上端は高さH=200mにある.縦軸は圧力P/Pの値で,最上(下)端の目盛りの値は+(−)0.004,
目盛りの間隔は 0.0004である.横軸はctの値で,目盛りの間隔はa,最初の目盛りは圧力波が最初に観測点に到達する時 刻 r+(H+a) −aをあらわす.これは⒜⒝⒞の3つの図とも同じで,かつ図8とも同じである.⒜は観測点までの水平 距離がr=12,000mで,このとき(18)で与えられる有効長は 140m,⒝はr=24,000mで有効長 225m,⒞はr=36,000 mで有効長 292mの場合である.観測点が遠方になるほど,正負の圧力ピークのあいだで圧力の相殺割合が高まり,しだ いに1個の球からのN波の形に似てくることがわかる.これは,たとえ有限な長さの直線音源であっても,これを十分に 遠方から観測するなら,半径aの1個の球音源で近似できることを示唆しており,このことは物理的にも適っている.音 源の長さが有効長より短いとき,圧力の最大振幅は常に負の圧力側にある.
る.このことは図9の場合も同様である.次に図8と図9の圧力波を比べてみる.図8の圧力波は正と負の2つ の滑らかなピークをもち,この2つのピークは観測位置が遠方になるにしたがって互いに接近する.このため,
観測位置が変わると全体の波形は大きく変化する.一方,図9の圧力波は鋭い形の2つのピークをもち,この2 つのピークの位置は観測位置が変化しても大きく変わらない.また,圧力の最大振幅は,音源が有効長より長い 図8では常に正の圧力側にあり,有効長より短い図9では常に負の圧力側にあることがわかる.
こうして,たとえ同じ音源からの圧力波であっても,直線音源の長さ
l
=H
−H
が(16a
)あるいは(16b
)をみた すか否かによって,観測点での波形が異質なものになることがわかる.ここであらためて,(16b
)の右辺であたえ られる長さをL
(r, a, H
)=H
+4ar
−H
(18)とおく.図7からわかるように,音源の中点と観測点を結んだ観測者の視線に対し,音源は傾いた状態にある.
そこで(18)の右辺であたえられる長さを, の 2.4節にある視線に垂直な音源の有効長にならって, 視線に対し 斜めに傾いた音源の有効長
L
と呼ぶことにする.この場合のL
は,音源から観測点までの水平距離r,音源
(を構成する球)の半径
a
,および下端の高さH
に依存している.そのため同じ音源を,r
の大きい観測点からみ た場合とr
の小さい観測点からみた場合とでは,L
の大きさが違ってくる.したがって,たとえ同じ音源であっ ても,観測点の位置によって音源の長さが(16b)を満たす場合もあれば満たさない場合もあり,それに応じて観測 点での圧力波をあらわす式が(14.1)〜(14.5)あるいは(17.1)〜(17.5)になる.なぜこのように圧力波の式を使い分ける必要があるのかは,図7によって(15)の意味を幾何学的に解釈してみ ると,その理由が推察できる.音源の最下端にある球の中心と観測点を直線で結び,この直線を観測点からみて 球の後ろ側に延長すれば球と交点をもつ.この交点部分がもつ初期圧力は,球の破裂と同時に圧力波を生じ,こ れが観測点まで伝播する時間
ct
は(15)の左辺で与えられる.一方,音源の最上端にある球の中心と観測点を直線 で結ぶと,この直線は観測点からみて球の前面で交点をもつ.球の破裂と同時に,この交点部分の初期圧力から も圧力波が生じ,これが観測点まで伝播していく所要時間ct
は(15)の右辺で与えられる.こうして条件(15)はct
<ct であること,すなわち,最下端にある球の後面の交点からはじまる伝播経路A
の長さが,最上端にある球 の前面の交点からはじまる伝播経路B
より短いことをあらわしている.そのため観測点では,最下端にある球か らのN
波の終端が到達したあとに,最上端の球からのN
波の先端がやってくることになる.したがって,(15)が 成り立つということは,音源の最下端と最上端にある2つの球の中心からやってくるN
波のあいだで,到着時間 に 2a
以上の差があるために圧力の相殺が生じないことを意味する.ここで, の 2.2節で述べた圧力波の到着直 後の 2a
時間で生じる轟音の発生機構を思い起こすと,音源の長さが有効長より大きいことに等価な(15)は,轟音 をつくる大きな圧力変動が,音源上端からのN
波の影響を受けずに 完全に つくられる条件でもあることがわ かる.しかし,(15)が成り立たず音源の長さが有効長より短くなると,2つの伝播経路
A
とB
の長さが逆転する.そ のため2つのN
波の到着時間差は 2a
より小さくなり,最上端にある球の中心から伝播してくるN
波の先端が,最下端にある球の中心から伝播してくる
N
波の後端より先に観測点に到達し,これらのN波のあいだで相殺が生 じる.したがって,最初のN波の到達直後につくられる大きな圧力変動は,(15)が成り立つときに比べて 不完 全な ものになる.以上の説明が,圧力波の式(14.3)と(17.3)の違いの背景である.この説明からわかるように,こうした圧力波 の違いが生じる根本要因は,音源が半径
a
であらわされる有限な太さをもつことにある.このことは,もし音源 がa
0とみなせるほどに十分に細いなら,a=0とおいた(15)は常に成り立つことからも推察できる.なお,条件式(16b)は,
H
=0,H
=H とおくと, の 2.5節の終わりで述べたl> 4 ar
=L にもどる.そこ で述べたように,ジグザグに曲がりくねった稲妻はさまざまな長さをもつ直線音源部分の集まりとみなせるから,(16b)を満たさない短い音源部分も多くあると考えてよい.とくに観測点までの距離
r
が十分に大きい場合,すな わち遠方にある稲妻からの圧力波を観測する場合,そのなかには(16b)を満たさない短い音源部分からやってく る圧力波が多く含まれるものと考えられる.したがって,ジグザグな稲妻からの圧力波を求めるには,(16b)を満 たさない短い音源からやってくる圧力波についても言及しなければ,雷鳴の考察は不十分なものになることがわ かる.(15)あるいは(16b)が成立するか否かによって,(14.1)〜(14.5)の圧力波,あるいは(17.1)〜(17.5)の圧力 波をもちいる意義はこの点にある.4.2 上空にある視線に平行な直線音源からの圧力波
図7の直線音源の配置は,見方を変えると,観測者の視線に対し音源を傾けて配置した場合とも考えられる.
したがって,(14.1)から(17.5)までの一連の式は,音源が観測者の視線に対して傾いているときの圧力波の式と して利用できる.ここでは音源の傾きの特殊な場合として,音源が視線に平行になるときの圧力波について述べ てみる.図7で観測点を音源の真下にある原点に移動させると,この観測点では長さ
l
の音源が視線に平行なとき の圧力波を観測する.このときの圧力波の式は,(14.1)から(15)までの一連の式において,r →
0,H → r
,H → r
+l
の置き換えをおこなうことで与えられる.こうして音源が視線に平行なときの圧力波の式は次のようにな る.1)
ct
<r
のとき,P( r, t)=0.
(14.6)2)r
ct<r+2 aのとき,
P( r, t)= P
2
a ct−r+ct・ ln r+a
ct+a
. (14.7)3)r+2
a ct<r+l−2 aのとき,
P( r, t)= P
2
a
2a
+ct・ln ct−a
ct
+a
0,a/ct ≪
1. (14.8) 4)r
+l
−2a ct
<r
+l
のとき,P
(r, t
)=P
2
a r
+l
−ct
+ct
・ln ct
−a
r+l−a
. (14.9)5)r+l のとき,
P
(r, t
)=0. (14.10)なお,この圧力波の式が利用できる条件(15)は,上に述べた置き換えによって
l>4 aに変わる.これは音源が2
つ以上の球からなっていなければならないことを示している.しかし,球列音源に積分近似が導入できるために は,音源が多くの球からなっていることを前提とするため,この条件はみたされているものと考えてよい.視線に平行な音源からの圧力波は単純な形をしており,ゼロでない圧力値をもつのは正と負の2つの圧力ピー クだけである.最初のピークは観測点に近い音源の端点からやってくるもので,(14.7)で与えられる時間幅 2
a
の 正の圧力値しかもたない.もう1つは,観測点から遠い端点からやってくるもので,(14.9)で与えられる時間幅 2a
の負の圧力値しかもたない.この2つの圧力ピークのあいだでは,N
波が互いに相殺しあってほとんどゼロと なる.この場合の最大圧力と最小圧力の値は,(12)と(13)を導いたときの近似をもちいると次のようになる.P
P
=a
4r
+ 34
a r
,P
P
=−a
4(
r+l)
+ 3 4a r+l
この式を で求めた視線に垂直な音源のからの最大・最小圧力の式(12)と(13)と比べると,視線に平行な音源の 場合の最大圧力は垂直な場合の(3/4)
a
/r
倍の小さな値でしかないことがわかる.たとえば,a=1m,r=1000m
の場合,視線に平行な音源からの最大圧力は,垂直な場合のときの約 1/40という小さな値になる.4.3 上空にある傾いた直線音源からの圧力波
ジグザグに曲がりくねった稲妻を,多くの直線音源の集まりで近似できるものする.すべての直線音源の太さ を一定とするなら,個々の直線音源(これ以降,直線音源を単に音源と呼ぶ)は,長さ,傾き,位置の3つの属性 をもち,その値はさまざまである.したがって,曲がりくねった稲妻からの圧力波を得る手順は,まず,さまざ まな属性値をもつ個々の音源からの圧力波を求め,次いで,これらを重ね合わせることになる.これをおこなう ためには,あらかじめ上空で斜めに傾いた1個の音源からの圧力波を求めておく必要がある.
図 10aに示すように,長さ
l
の音源が,その中点の高さがh
,鉛直上方より測って角度θだけ傾いた状態にあ
るとする.角度はz
軸の正の方向を0とし,これを基準に時計回りの方向を正とおく.また,音源の中点の真下 にある地面の点と観測点のあいだの水平距離をr
とする.ここでも前節と同じく音源の半径をa
,地面を完全反射 面とし,観測点はこの反射面上にあるものとする.傾いている音源からの圧力は,前節の(14.1)〜(14.5)あるいは(17.1)〜(17.5)を利用して求めることができる.
そのためには,図 10
b
に示すように,傾いた音源の右上方向を新しいz
軸の正の方向にとり,図 10a
の配置を前 節 4.1で求めた垂直音源からの圧力波の式が適用できる配置に変換すればよい.まず図 10a
の点線で示すよう に,音源の延長線上に観測点から垂線をおろす.次いで,観測点と音源の中点を結び,この直線距離をR,この
直線と垂線とではさまれる角をψ
とする.図 10a
から,ψ= π
2−θ−tan
r h
であることがわかる.ここで圧力式の表現を簡潔にするため,(15)の条件によって使い分けられる圧力式(14.1)
〜(14.5)と(17.1)〜(17.5)を一括して,P(
r, t ; H , H
)であらわす.図 10bの音源配置にP
(r, t; H , H
)を 適用するには,P
の変数r
を観測点からの引いた垂線の長さR cosψ
に置き換え,音源の高さH
とH
をそれぞ れR sinψ+l/2と R sinψ
−l/2に置き換えればよい.こうして,図 10aに示す傾いた音源からの圧力波は,P( r, t)=P
(R cosψ , t ; R sinψ+l/2 ,R sinψ
−l/2),R= r
+hで与えられることになる.ただし,圧力波が上の式の右辺で与えられるのは,図 10
a
からわかるようにl
/2R sinψ
のときに限られる.図 11aは
l/2>R sinψ
となる場合である.このとき,新しいz
軸のもとでの音源は点線で示した部分が(新し図 10a 傾いた直線音源
長さlの直線音源が,z軸から角度θだけ傾いた状態で上空にある.音源の中点の座標を(0,h),音源の半径をa,音源の 中点の真下にある地面の点と観測点のあいだの水平距離をrとする.地面を完全反射面とし,観測点はこの反射面上にあ るものとする.
図 10b 傾いた直線音源 を垂直音源の配置であらわした場合
図 10aの配置を,傾いた直線音源の右上方向を新たなz′軸として見直したときの配置.このような配置に変換すると,前 節 4.1で導いた垂直音源の圧力波の式が適用できる.
い)地面の下まで伸びており,このままでは
P
を適用できない.しかし,圧力波の間で重ね合せが成り立つこと から,地面の下の点線部分を折り返して地面の上にもってくることができる.したがって図 11aの音源は,地面 から垂直に伸びた長短2本の音源が新しいz
軸に沿って重なった図 11bの音源配置に等しくなる.(ただし,図 11bではこの2つ音源を分けて示している.)このように音源の配置を見直すと,2本の音源に対してそれぞれP を適用できる.まず,P
の変数r
は長短2つの音源とも,観測点からの引いた垂線の長さR cosψ
に置き換えら れる.一方,音源の高さH
とH
は音源の長短に応じて置き換えが違い,長い音源に対してはH
とH
をそれぞ れl/2+R sinψ
と 0に,短い音源に対してはl/2−R sinψ
と 0に置き換える.こうして,図 11aに示す傾いた音 源からの圧力波は,図 11bにある2本の音源からの圧力波の和として求めることができ,P( r, t)=P
(R cosψ , t ; l/2+R sinψ ,
0)+P
(R cosψ , t ; l/2−R sinψ ,
0) で与えられることになる.音源の傾きが負の場合についても,図 10aあるいは図 11aのように点線で示した垂線をおぎない,l/2と
R sinψ
の大小に応じて上に述べたような置き換えをおこなえばよい.また,図 10a
と図 11a
で観測点が遠方にあ るとき,観測点からの垂線は音源の上方で交わる.このときのψ
の式は,すでに示したψ
の式の右辺の符号を変 えたものに変わるが,Pの変数の置き換えは上と同様である.図 11b 傾いた直線音源を垂直音源 の配置であらわした場合
図 11aの配置を,傾いた直線音源の右上方向を新たなz′軸として見直したときの配置.このような配置に変換すると,図 11aの配置にある音源からやってくる圧力波は,あたかも地上から伸びた2本の垂直音源からやってくる圧力波の和とし て観測される.
図 11a 傾いた直線音源
長さlの直線音源が,z軸から角度θだけ傾いた状態で上空にある.音源の中点の座標を(0,h),音源の半径をa,音源の 中点の真下にある地面の点と観測点のあいだの水平距離をrとする.地面を完全反射面とし,観測点はこの反射面上にあ るものとする.この音源の場合,観測点から下ろした垂線は音源の下方で交わる.
以上の考察から,長さ
l
の音源の中点が(ρ , h
)にあって角度θ
で傾いているとき,この音源から観測点にやっ てくる圧力波P
(r, t
)は次のように与えられることがわかる.l/2 R sinψ
のとき,P( r, t)=P
(R cosψ , t ; R sinψ
+l/2, R sinψ−l/2).
(19.1)l
/2>R sinψ
のとき,P( r, t)=P
(R cosψ , t ; l/2+R sinψ,
0)+P(R cosψ , t ; l/2−R sinψ,
0). (19.2)ただし,
R
,ψ
,P
は次のように与えられる.R= ( r−ρ
)+h ,ψ=π
2−θ−tan
r
−h
. (19.3)P
(r, t ; H , H
)=式(14.1)〜(14.5),H
>H
+4ar
. (19.4)P
(r, t ; H , H
)=式(17.1)〜(17.5),HH
+4ar
. (19.5) なお,音源が視線に平行なとき,(19.1)でψ
=π/2とおくことによって視線に平行な音源からの圧力波を求める ことができる.次節では,実際の稲妻をジグザグに折れ曲がった直線音源の集まりに近似し,この稲妻からの圧力波を(19.1) から(19.5)をもちいて求めてみる.
5.ジグザグに曲がった音源で近似した稲妻からの圧力波
地上と雲あるいは雲と雲のあいだを走る稲妻 の形は3次元的なものである.しかし,実際に目する稲妻の形は いつも平面的で奥行きのない2次元的なものであって,これは稲妻本来の姿ではない.我々は実際の稲妻の形を 知らないと考えてよいだろう.稲妻の実際の形をとらえるには,同時多点観測が必要になる.だが,瞬時に天空 のどこで生じるか不明な稲妻の同時多点観測は,現実には困難である.そのため,1点観測ですむ2次元的な稲 妻の形と雷鳴のデータだけは容易に手にすることができるが,得られた雷鳴が本当のところどのような稲妻の形 と結びついたものであるかは不明 のままである.したがって,ある稲妻の形状モデルにもとづいて圧力波を求め たにしても,これを検証できる観測データが完備されていないのが現状と言える.このような状況を考えれば,
Ribner and Roy
の論文 にある一見精巧そうだが,しかし検証できえない稲妻の3次元形状モデルをつくることに果して意味を見出せるか否かの疑問がのこる.ここでは,実際の稲妻の形を単純化して観測点をふくむ平面内 で上下に走る1本のジグザグ形の音源に置き換え,これを用いて稲妻の形と雷鳴のあいだにある本質的な関係を 求めてみることに問題を限定する.
5.1 傾きが規則的に変化する直線音源群からの圧力波
同じ長さ
l
をもついくつかの直線音源がz
軸に沿って交互に傾けて配置されているとき,この規則的に折れ曲 がった音源から観測される圧力波を求めてみる.まず図 12a
に示すように,音源全体が4個の直線音源からなっ ている簡単な場合をとりあげる.個々の直線音源と折れ曲がり部分の屈曲点を識別するため,直線音源には地面 から上空に向かって順に1,2,3,4の番号をふり,屈曲点にはA, B, C
,D, E
の記号をつける.最下端の直線音源 1は端点A1と B1をもち, z
軸から+45度だけ傾いている.すぐ上の直線音源2は端点B2と C
2をもち,z
軸か ら−45度だけ傾いている.その他の音源についても同様で,音源は交互に±45度の傾きでz
軸に沿って配置され ている.なお,直線音源の中点はすべてz
軸上にあるものとし,これまでと同様に,観測点はz
軸から水平距離r
だけ離れた完全反射面上にあるものとする.音源の長さ
l=50 2m
,音源の半径a
=1m,観測点までの水平距離r=1000m
とおき,傾いた直線音源からの 圧力波を式(19.1)〜(19.5)によって計算した結果を図 12b
から図 12e
に示す.各図とも縦軸に圧力P
/P
を,横 軸に時刻ct
をとる.縦軸の目盛り間隔は 0.00015で,最大 0.0015までをあらわしている.横軸の目盛り間隔はa
で,最初の目盛りは,圧力波が観測点に最初に到達する時刻r
+(H
+a
) −aをあらわす.ただしこの時刻を与える式の
r
とH
には,直線音源1の方向を新しいz
軸として置き換えたときの値をもちいる.図 12a
の配置の 場合,端点Bが観測点にもっとも近いため,最初に観測点にやってくる圧力波は端点B
からやってくる圧力波で ある.そのため,横軸の最初の目盛りの値は図 12bから図 12eまですべて同じ値になる.図 12bは,直線音源1だけがあるときの圧力波である.最初の圧力ピークは,音源の端点
B1の部分からやっ
てくるN
波群だけでつくられるため,図では記号B
1としるしてある.また,2番目の負の圧力ピークは端点A
1の部分からのN
波群だけでつくられるため,図に記号A1としるしてある.最初の圧力ピークの始まりから2番
目の負の圧力ピークの終わりまでの時間幅は,図からほぼ 35aと読み取れる.したがって,音源1から聞こえる 音は 35/340 約 0.1秒の時間幅をもち,この短い時間のあいだに2回の圧力変動による音が続けざまに聞こえる ことになる.図 12cは,音源1と音源2だけが逆 く の字形に配置されているとき,この2つの音源からやってくる圧力 波である.図で記号
B1+B2としるしてある最初の圧力ピークは,音源1の端点 B1からの N
波群と音源2の端 点B
2からのN
波群が合わさってつくられている.このため圧力ピークの大きさは,図 12b
のときのほぼ2倍と なっている.また,2番目にある負の圧力ピークA1は音源1の端点 A1の部分からの N
波群だけでつくられ,3番目にある負の圧力ピーク
C2は音源2の端点 C2の部分からの N
波群だけでつくられる.最初の圧力ピーク の始まりから3番目にある負の圧力ピークの終わりまでの時間幅は,図からほぼ 38a
と読み取れる.したがって この図から,音源1と2からの音は 38/340 約 0.11秒の時間幅をもち,この短い時間のあいだに3つの圧力変動 に対応する音が続けざまに聞こえることがわかる.図 12dは,音源1,2,3の3つの音源からやってくる圧力波である.図 12cとの違いは,最初の圧力ピーク
B1+B2のすぐあとに音源3の端点 D3から生じる圧力ピーク D3があらたに加わることと,負の圧力ピーク C2
が音源3の端点
C
3からのN
波群も合わさって,ほぼ2倍の大きさをもつ負の圧力ピークC
2+C
3になることで ある.最初の圧力ピークの始まりから最後の負の圧力ピークの終わりまでの時間幅は,図 12cと変わらず約 0.11 秒である.しかし今度は,この短時間のあいだに4つの圧力変動に対応する音が続けざまに聞こえることになる.図 12eは,図 12aにある4つの直線音源すべてからやってくる圧力波である.図 12dとの違いは,圧力ピーク
D
3がこれに音源4の端点D
4からのN
波群も合わさって,ほぼ2倍の大きさをもつ圧力ピークD
3+D
4に変わ ること,および,音源4の端点E4からやってくる N
波群があらたに負の圧力ピークE
4をつくることである.最 初の圧力ピークの始まりから最後の負の圧力ピークの終わりまでの時間幅は,図から 45aと読み取れる.した
図 12a 規則的に折れ曲がった音源
一定の長さlをもつ4個の直線音源が,その中点をz軸上におき,交互に±45度の傾きでz軸に沿って配置されている.
個々の直線音源と折れ曲がり部分の屈曲点を識別するため,直線音源には地面から上空に向かって順に1,2,3,4の番号 を,屈曲点にはA,B,C,D,Eの記号をつける.最下端の直線音源1は端点A1とB1をもち,z軸から+45度だけ傾いてい る.すぐ上の直線音源2は端点B2とC2をもち,z軸から−45度だけ傾いている.その他の音源についても同様である.
これまでと同様に,観測点はz軸から水平距離rだけ離れた地面上にあり,地面を完全反射面とする.あとの図 12b〜12 eに示す計算結果ではl=50 2m,r=1000mとしているため,実際の観測点の位置はこの図で示すものより十分に右側遠 方にあることになる.音源全体の中点の高さは 100mで,この中点と観測点がつくる三角形に相似な三角形を図に示して ある.屈曲点のところに描いた直線は,観測点を中心とした円周の一部を直線で近似したもので,これは図の三角形の斜 辺に垂直になるように引かれている.この直線の配置から,観測点に近い屈曲点の順位はB,D,A,C,Eであることがわか る.
がって,4つの音源からの音は 45/340 約 0.13秒の時間幅をもち,この短い時間のあいだに5つの圧力変動に対 応する音が続いて聞こえることになる.
図 12
b
から図 12e
までに示した結果は,4つの直線音源ともその長さが(18)で与えられる有効長より長く,音 源からの圧力波が(19.1)で求められる場合である.しかし折れ曲がりをもつ音源のなかに有効長より短い直線音 源がふくまれるとき,圧力波の様相が違ってくる.このことは図9aから図9cで示した圧力波の様子から推測で きる.ここではその一例として,図 12aにある音源全体をz
軸の上方へ 1000mだけ平行移動し,音源の長さをl=10 2m
と短いものに変え,その他の条件は変えずに求めた圧力波を図 12f
に示してみる.この音源配置の場 合,音源の高さと観測点までの水平距離がほぼ等しいため,音源1と音源3の2つは視線にほぼ垂直,音源2と 音源4の2つは視線にほぼ平行になる.いまの場合,音源1と音源3の2つだけが有効長より短くなり,また,音源1からの圧力波のみが(19.2)で,残りの音源は(19.1)で求められる.
図 12
f
にある最初の大きな圧力変動は,視線にほぼ垂直な音源1と視線にほぼ平行な音源2の端点B
2から やってくるN
波群でつくられる.また,2番目の大きな圧力変動は視線にほぼ垂直な音源3と視線にほぼ平行な 音源2と4の端点C2,D4からの N
波群でつくられている.最後にある小さな圧力のへこみはE4からのもので
ある.最初の圧力変動から最後の圧力のへこみまでの経過時間は,図から 21aと読み取れる.したがって,4つ
の音源からの音は 21/340 約 0.06秒のきわめて短い時間幅であり,この短い時間のあいだに2つの大きな圧力 変動に対応する音が続くが,人の耳にはおそらく1回の轟音としてしか聞こえないであろう.図 12fの場合,図 12bから図 12eまでの結果と違って,圧力の最大振幅が負の圧力側にあるという特徴をも つ.図 9
aから図 9 cで示したように,有効長より短い音源からの圧力波では,最大振幅が負の圧力側にあった.
したがって,音源の中に有効長より短い音源が含まれるとき,圧力の最大振幅が負の圧力側にあることが多くな る.一方,実際の雷鳴から観測される圧力波では,最大振幅が負の圧力側で観測 されることが多い.このことか ら,現実の稲妻には有効長より短い音源部分がある程度の割合で含まれているものと推測できる.
図 12b〜12e 規則的に折れ曲がった音源からの圧力波:4つの音源とも有効長より長いとき
音源の長さl=50 2m,音源の半径a=1m,観測点までの水平距離r=1000mとおき,傾いた直線音源からの圧力波を式(19.1)〜(19.5)に よって求めた.図 12bから図 12eの各図とも,縦軸に圧力P/Pを,横軸に時刻ctをとっている.縦軸の目盛り間隔は 0.00015で,最大 0.0015までをあらわす.横軸の目盛り間隔はaで,最初の目盛りのは圧力波が観測点に最初に到達する時刻 r+(H+a) −aをあらわす.
ただしrとH には,(19.1)によって置き換えられた値をもちいる.図 12bは音源1だけからの圧力波,図 12cは音源1と2からの圧力波,
図 12dは音源1,2,3からの圧力波,図 12eは4つの音源からの圧力波を示している.たとえば図 12bでは,最初の圧力ピークが音源の端 点B1の部分からやってくるN波群だけでつくられるため,最初の圧力ピークに記号B1をしるしてある.また,2番目の負の圧力ピークは 端点A1の部分からのN波群だけでつくられるため,記号A1としるしてある.最初の圧力ピークの始まりから2番目の負の圧力ピークの 終わりまでの時間軸は,図からほぼ 35aと読み取る.したがって,音源1から聞こえる音は 35/340 約 0.1秒の時間幅をもち,この短い時 間のあいだに2回の圧力変動による音が続けざまに聞こえることをこの図は意味している.
なお,図 12fでの最大・最小圧力の大きさが,図 12bから図 12eまでの最大・最小圧力よりも大きくなってい るは,音源1と音源3が観測者の視線に対してほぼ垂直なためである.前節 4.2で示したように,視線に垂直な 音源と視線に平行な音源の最大圧力振幅の比はほぼ(3/4)
r
/a
となる.いまの場合この比は約 28となり,視線に 平行な音源2と4からの圧力波は小さなものであることがわかる.ここで図 12bから図 12fに示した結果から,折れ曲がりをもつ音源から生じる圧力波の基本的な特徴をまとめ ると次のようになる.
1) 任意に傾いた1本の直線音源からの圧力波は,正と負の2つの圧力ピークをもつ.正の圧力ピークは観測 点に近いほうの音源端点から生じ,負の圧力ピークは観測点から遠い音源端点から生じる.
2) 圧力ピークのもつ最大振幅の大きさは,音源が視線に垂直になるときに最大となり,視線に平行になると きが最小となる.この最大と最小の比は,音源の長さを観測点までの距離にくらべて無視できるとき,音 源中心から観測点までの距離の 1/2乗に比例する.
3) 音源全体が折れ曲がった直線音源からつくられているとき,音源の屈曲部分からは大きな圧力ピークが生 じる.その際,観測点からみて手前に突き出た屈曲部分(たとえば,図 12aの屈曲点
B, D)からは,正の
圧力ピークがつくられ,観測点からみて遠くなる方の屈曲部分(たとえば,図 12aの屈曲点A, C)からは,
負の圧力ピークがつくられる.
4) 音源のなかに有効長より短い音源が複数あるとき,圧力の最大振幅が負の圧力側にある場合が多くなる.
5.2 稲妻を不規則なジグザグ音源で近似したときの圧力波
稲妻の形状を上下にはしる1本の不規則なジグザグ形で近似したとき,この音源から生じる圧力波を求めてみ る.まず,図 13
a
にその簡単な例を示す.この例では,ジグザグな音源全体は 26個の直線音源要素からなり,各 要素のもつ長さはいくつかの長さに区分され,これらが 90度の屈曲角で無作為に配列されている.乱数を利用し たジグザグな稲妻の形状の作り方,およびこの稲妻からの圧力波を求める手順の概略は次のようになる.1) 稲妻が直線的に進むことのできる最小単位の距離
l
,ジグザグに曲がるときの鉛直方向からの傾き角θ
,左 右どちらかに曲がるかを決めるための乱数の閾値q
の値を設定する.2) 稲妻をジグザグに進めるため,稲妻が単位距離
l
だけ進むごとに乱数を発生させる.発生させた乱数の値 図 12f 規則的に折れ曲がった音源からの圧力波:有効長より短い音源があるとき図 12aにある音源全体をz軸の上方へ 1000mだけ平行移動し,音源の長さをl=10 2mと短いものに変え,その他の条 件は変えずに求めた圧力波.この音源配置の場合,音源1と音源3の2つが視線にほぼ垂直で,かつ有効長より短くなる.
また,音源1からの圧力波のみが(19.2)で,残りの音源は(19.1)で求められる.最初の大きな圧力変動は,音源1とB2か らやってくるN波群でつくられ,N字型の部分がおもに音源1から,丸みをおびた部分がB2からつくられている.2番 目の大きな圧力変動は,音源3とC2,D4からのN波群でつくられている.最後にある小さな圧力のへこみはE4からの ものである.最初の圧力変動の始まりから最後にある圧力のへこみの終わりまでの時間幅は,21/340 約 0.06秒ときわめ て短く,この短い時間幅のあいだに2つの大きな圧力変動に対応する音が続く.なお,縦軸にある圧力の目盛り間隔は 0.0004で,最大 0.004までをあらわしている.有効長より短い音源が含まれるため,圧力の最大振幅は負の圧力側にある ことが特徴である.また,視線に垂直な音源1と3からの圧力の大きさは,視線に平行な音源2と4からの圧力にくらべ てかなり大きいことがわかる.
が
qより大きければ,稲妻は右上へ傾き角 θ
で進むものとし,この方向を+であらわす.また,乱数の値が
qより小さければ稲妻は左上へ傾き角−θで進むものとし,この方向を−であらわす.
3) 発生させる乱数の数,すなわち稲妻がジグザグに進むときの単位距離
l
の数n
を設定する.4) まず,原点を稲妻の出発点として乱数を発生させ,この値に応じて左上(−)あるいは右上(+)へ
l
だけ進 ませる.次にまた乱数を発生させ,この値に応じて左上(−)あるいは右上(+)へふたたびl
だけ進ませる.これを
n
回くり返して,1本の稲妻の経路をつくる.たとえば図 13aに示したジグザグな経路は{−−−++−+++−−− …… ++++−+}
とあらわされ,この場合は 50個の
l
からなっている.5) 上の4)で得られた経路から,同じ方向に進む
l
の集まりを1個の直線音源要素とし,1本の経路を音源要 素のデータの集まりに変換する.このとき,音源要素のデータには,要素の中心位置,傾き,長さの3つ の属性が与えられる.たとえば図 13a
の経路の場合,進む方向が変わるごとに区切り記号/を入れて要素に 区分すると,{−−−/++/−/+++/−−−/ …… /++++/−/+}
のように経路が 26個の要素に区分される.
6)各要素ごとに(19.1)あるいは(19.2)を用いて圧力波を計算し,これをすべての要素について重ね合わせる と,ジグザグ形の稲妻から生じる圧力波が求められる.
以上の手順で作られた稲妻の形状を図 13
a
に,この稲妻からの圧力波を図 13b
と図 13c
に示す.図 13aは
l=20 2m
,θ
=π/4,q
=0.5,n=50として求めた粗いジグザグ形状をもつ稲妻で,半径 a
=1mの 太さをもち,最上端の高さは 1000mである.地上に近い音源要素から順に1,2,3,4と要素番号をふると,最 上端の要素番号は 26となる.図には円の一部を2つ示してあり,内側の円は観測点と音源要素4の上端点を結ぶ 半径 996m
の円である.もう1つの外側の円は音源要素 24に接する円で,これについてはあとで述べる.この図 から,要素4と5の共通の端点からやってくるN
波が最初に観測点に到達し,次にやってくるのは要素1の下端 点からのN
波であることがわかる.図 13bには,図 13aに示したジグザグな音源からやってくる観測点での圧力波を示す.ただし,観測点は音源 要素1の右
r
=1000m
の地上にあり,地面はこれまでのように完全反射面としている.図の縦軸は圧力P
/P
, 横軸は時刻ct,縦軸の目盛り間隔は 0.003で最大 0.03までをあらわす.横軸の目盛り間隔は 5 a
で,最初の目盛 りの値は圧力波が観測点に最初に到達する時刻,すなわち要素番号4の上端点からやってくるN
波の到達時刻と図 13a 不規則な長さで折れ曲がった音源
乱数を利用して作った上下にはしる1本の不規則なジグザグ形をもつ簡単な稲妻.ジグザグな音源全体は 26個の直線音源 要素からなり,各要素のもつ長さはいくつかの長さに区分され,これらが 90度の屈曲角で無作為に配列されている.なお,
最小直線音源の長さl=20 2mとしている.音源要素には地面から上空に向かって順に 1,2,3,4の番号をつけ,最上端の 要素番号は 26である.この音源からの圧力波を観測する点は,z軸から水平距離r=1000mだけ離れた右側の地面上にあ る.図に円の一部を2つ示してあり,内側の円は観測点と音源を結ぶ最小半径 996mの円で,これは要素番号4の上端点 と観測点をむすぶ線分を半径としている.この図から,要素番号4の上端点からやってくるN波が最初に観測点に到達し,
次にやってくるのは要素番号1の下端点からのN波であることがわかる.
している.なお,時間幅 50
a
の 10目盛りごとに矢印を添えている.圧力波を観測する経過時間は約 310a
/340 0.9sで,この経過時間全体の圧力波を圧縮して1つの図に表示しているため,時間幅が数a
程度の圧力ピークは 横方向につぶれて線状となり,少々見づらい図となっている.そこで図 13cには,横軸の目盛り間隔だけを 5aか らa
に変え,図 13b
を時間方向に引き伸ばした圧力波を示してみた.この図から,経過時刻 275a
あたりで非常 に大きな圧力変動が生じていることがわかる.この圧力変動に寄与している音源要素をみるため,図 13aで観測 点から 996m+275m 1270mの半径の円を描いてみると,この円が要素番号 24だけにほぼ接していることがわ図 13c 不規則な長さで折れ曲がった音源からの圧力波:時間方向だけの拡大図 図 13bの横軸の目盛り間隔 5aをaに変え,図 13bの圧力波を時間方向に引き伸ばしたもの.この詳しい図から,経 過時刻 276aから大きな圧力変動が生じていることがわかる.また図⑴の到達直後の時刻にあらわれる2つの正の圧 力ピークのうち,最初のものは要素4と5の共通端点からのもので,次のものは要素1の下端点からのものである.
最初のピークは2つの端点からの重ね合せであるため,2番目のものより大きなピークとなっている.
図 13b 不規則な長さで折れ曲がった音源からの圧力波
縦軸は圧力P/Pの値をあらわし,目盛りの最大・最小値は±0.03である.横軸は時刻ctで目盛り間隔は 5a,最初の目盛 りの値は圧力波が観測点に最初に到達する時刻,すなわち要素番号4の上端点からやってくるN波の到達時刻としてい る.なお,時間幅 50aの 10目盛りごとに矢印を添えている.圧力波を観測する経過時間は約 0.9sで,この経過時間全体の 圧力波を圧縮して1つの図に表示しているため,時間幅が数a程度の圧力ピークは横方向につぶれて線状になっている.
(なお図 13cには,横軸の目盛り間隔だけをaに変え,図 13bを時間方向に引き伸ばした圧力波を示してある.)この図か ら,経過時刻 275aあたりで非常に大きな圧力変動が生じていることがわかる.この圧力変動に寄与している音源要素をみ るため,図 13aで観測点から 275+996 1270mの半径の円を描いてみると,この円が要素番号 24だけにほぼ接している.
したがって,観測者の視線に対しほぼ垂直な音源要素 24だけで,この大きな圧力変動がつくられていることがわかる.