<論説>被疑者の留め置きをめぐる議論の動向とその分析―東京高裁平成22年11月8日判決を素材として―
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(2) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). 第一章 はじめに 一 覚せい剤自己使用罪の捜査は、挙動不審者に対する職務質問を端緒と することが少なくなく、職務質問を通じて同罪の嫌疑が高まった被疑者に対 して、鑑定のため、尿の提出が求められ、応じなければ、そのための説得が 行われることになる。また、説得を行っても、任意提出に応じない場合には、 強制採尿令状の請求、発付を経て、強制採尿が行われることになる。このよ うな職務質問を端緒とし強制採尿に至る覚せい剤自己使用罪の捜査において 問題となるのが、上記の過程における被疑者の留め置きの適法性である 1)。 この問題をめぐっては、近時、議論が活発化しているように見えるが、本 稿は、東京高裁平成 22 年 11 月 8 日判決 2)を素材として取り上げ、本判決の 位置付けを確認するとともに、ひいては、被疑者の留め置きの適法性に関す る議論のあり方について理論的考察を加えようとするものである。 二 本稿の構成は、以下のとおりである。まず、東京高裁平成 22 年 11 月 1)大澤裕「強制採尿に至る被疑者の留め置き」研修 770 号(2012 年)3 頁、自見武士「職務 質問・所持品検査―検察の立場から」三井誠ほか編『刑事手続の新展開(上) 』 (2017 年) 266-267 頁、安東章「違法収集証拠排除法則の展開(覚せい剤事犯における被疑者の留め 置きを中心として) 」高嶋智光編集代表『新時代における刑事実務』 (2017 年)148-149 頁 【以下、 「安東①」として引用】 、安東章「刑事事実認定重要事例研究ノート(第 7 回)違 法収集証拠について」警察学論集 67 巻 7 号(2014 年)143-144 頁、 小川佳樹「被疑者の 『留 め置き』について」研修 839 号(2018 年)3 頁、高橋省吾「職務質問に伴う被疑者の『留 め 置 き』の 適法性」山梨学院 ロー・ジャーナ ル 10 号(2015 年)27-28 頁、吉田純平「実 例捜査セミナー 覚せい剤使用事案における強制採尿に至るまでの留め置きの適法性が 問題となった事例」捜査研究 759 号(2014 年)36 頁、 坂田正史「最新・判例解説(第 5 回) 」 捜査研究 725 号(2011 年)60 頁、川出敏裕「採尿のための留め置き」警察学論集 71 巻 8 号(2018 年)140-141 頁【以下、 「川出①」として引用】 、 川出敏裕『刑事手続法の論点』 (2019 年)56-57 頁【以下、 「川出②」として引用】 、内藤惣一郎ほか編『覚せい剤犯罪捜査実務 ハンドブック』 (2018 年)126 頁など。 2)東京高判平成 22 年 11 月 8 日高刑集 63 巻 3 号 4 頁。 174.
(3) 被疑者の留め置きをめぐる議論の動向とその分析. 8 日判決の概要を確認する(第二章) 。続いて、強制処分と任意処分の区別 に関する議論に検討を加える(第三章) 。最後に、被疑者の留め置きの適法 性に関する議論に対して分析を加えることにする(第四章)。. 第二章 東京高裁平成 22 年 11 月 8 日判決の概要 本判決の事案は、以下のとおりである。 B 巡査部長らは、平成 22 年 2 月 5 日午後 3 時 48 分ころ、警ら用無線自動 車で警ら中、対向車線を走行中の普通乗用自動車を運転する被告人が、B の 顔を見て顔を背けたこと、被告人車両に傷があったことなどから、不審事由 があると認め、同車を追尾して、午後 3 時 50 分ころ、ホテル T 前路上で、 同車を停止させ、被告人に対して職務質問を行った。 B らは、被告人の運転免許証の提示を求め、犯罪歴等の照会をし、麻薬及 び向精神薬取締法違反の前歴があることが判明したため、被告人を降車させ、 腕の注射痕の有無を確認したところ、左腕肘内側に真新しい注射痕を発見し た。その際、被告人は、そわそわし、手が震え、足ががくがくしていた。注 射痕について質問された被告人は、エイズ検査をしたと答えたが、このよう な被告人の態度に規制薬物使用の疑いを強めた B は、尿の任意提出を求め た。これに対し、被告人は、当初は仕事や待ち合わせがあるなどと言い、次 に、妊娠中の彼女が出血したので、すぐに行かなければいけないなどと説明 を変えて、これを拒んだ。B は、被告人の携帯電話機で被告人の彼女と話し、 出血はしておらず、緊急性がないことを確認した。そこで、B は、被告人に 対して、さらに尿の任意提出を求めたが、被告人がこれに応じようとしなかっ たため、午後 4 時 30 分ころ、被告人に対して、強制採尿令状を請求するか ら待つように言って、令状請求のため新宿警察署に戻った。この間、被告人 が自車に乗り込もうとしたことから、B が、話が終わっていないので待つよ う求めたことがあったが、立ち去らないように身体を押さえ付けたり引っ 175.
(4) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). 張ったりしたことはなかった。また、被告人が、後から警察に行くから、今 は行かせてくれと言ったこともあったが、B は、被告人の言動、態度、前歴 等から、被告人が後に警察署に出頭するとは思われなかったことから、強制 採尿令状の請求をすることにしたという経緯があった。 その後、C 巡査部長が尿の任意提出をするよう促すと、被告人はこれを拒 否し、午後 5 時前ころ、自車の運転席に乗り込んだ。そこで、他の警察官 が、被告人が車両を発進して移動することはできるものの、そのために切り 返しをする間に近寄って説得ができるようにするために、被告人車両の前約 2.5m の位置にパトカーを駐車させた。被告人車両の後方には、当初車両は 駐車していなかったが、午後 5 時 30 分過ぎころに応援のため到着した D 警 部補が、後方約 10m にパトカーを駐車した。また、警察官 3、4 名が、車の 周囲に 1m から 2m 程度離れて待機したり、遊動したりしていた。被告人は、 その後、降車することなく、自車の運転席で携帯電話で話をしたり、たばこ を吸ったりしており、運転席から 1m 程度離れて待機する D に、3 回くらい、 「まだか。」などと尋ねたことがあったが、D が「待ってろよ。 」と答えると、 それ以上、帰らせてくれとか、行かせてくれと求めることはなかった。 午後 7 時ころ、東京簡易裁判所に対し強制採尿令状の請求がなされ、午後 7 時 35 分にそれが発付された上、午後 7 時 51 分ころ、同令状が被告人に呈 示された。被告人は東京警察病院に連行され、午後 8 時 43 分ころ、医師に より強制採尿が実施された。 本判決は、本件においては、被告人に対する職務質問が開始された午後 3 時 50 分ころから強制採尿令状が被告人に呈示された午後 7 時 51 分までの 間、約 4 時間にわたって、警察官らが被告人を職務質問の現場に留め置いた 措置の適法性が問題となるとしたうえで、その判断方法について次のように 述べた。 「本件におけるこのような留め置きの適法性を判断するに当たっては、午 後 4 時 30 分ころ、B 巡査部長が、被告人から任意で尿の提出を受けること 176.
(5) 被疑者の留め置きをめぐる議論の動向とその分析. を断念し、 捜索差押許可状(強制採尿令状。以下「強制採尿令状」ともいう。) 請求の手続に取りかかっていることに留意しなければならない。すなわち、 強制採尿令状の請求に取りかかったということは、捜査機関において同令状 の請求が可能であると判断し得る程度に犯罪の嫌疑が濃くなったことを物語 るものであり、その判断に誤りがなければ、いずれ同令状が発付されること になるのであって、いわばその時点を分水嶺として、強制手続への移行段階 に至ったと見るべきものである。したがって、依然として任意捜査であるこ とに変わりはないけれども、そこには、それ以前の純粋に任意捜査として行 われている段階とは、性質的に異なるものがあるとしなければならない。」 そのうえで、まず、純粋に任意捜査として行われている段階については、 次のように述べた。 「B 巡査部長らが被告人に対して職務質問を開始した経緯や、被告人の挙 動、腕の注射痕の存在等から尿の任意提出を求めたことには何ら違法な点は ない。そして、注射痕の理由や尿の任意提出に応じられないとする理由が、 いずれも虚偽を含む納得し得ないものであったことや、後に警察署に出頭し て尿を任意提出するとの被告人の言辞も信用できないとして、午後 4 時 30 分ころの時点で強制採尿令状の請求に取りかかったことも、 ・・・妥当な判 断というべきである。そして、この間の時間は約 40 分間であって、警察官 から特に問題とされるような物理力の行使があったようなことも、被告人自 身述べていない。これらに照らすと、この間の留め置きは、警察官らの求め に応じて被告人が任意に職務質問の現場に留まったものと見るべきであるか ら、そこには何ら違法、不当な点は認められない。」 次に、強制手続への移行段階については、次のように述べた。 「〔強制採尿〕令状を請求するためには、予め採尿を行う医師を確保するこ とが前提となり、かつ、同令状の発付を受けた後、所定の時間内に当該医師 の許に被疑者を連行する必要もある。したがって、令状執行の対象である被 疑者の所在確保の必要性には非常に高いものがあるから、強制採尿令状請求 177.
(6) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). が行われていること自体を被疑者に伝えることが条件となるが、純粋な任意 捜査の場合に比し、相当程度強くその場に止まるよう被疑者に求めることも 許されると解される」 。そのうえで、 本件では、 ① B は、午後 4 時 30 分ころに、 被告人に対して、強制採尿令状の請求をする旨告げて、同令状の請求の準備 を開始しており、その時点から強制採尿令状が発付されるまでの留め置きは 約 3 時間 5 分、同令状執行までは約 3 時間 21 分かかっているものの、手続 の所要時間として、特に著しく長いとまでは認められないこと、②この間の 留め置きの態様も、警察官が被告人に対し、その立ち去りを防ごうと身体を 押さえつけたり、引っ張ったりするなどの物理力を行使した形跡はなく、せ いぜい被告人の腕に警察官が腕を回すようにして触れ、それを被告人が振り 払うようにしたという程度であったこと、③その間に、被告人は、被告人車 両内で携帯電話で通話をしたり、たばこを吸ったりしながら待機していたと いうのであって、この段階において、被告人の意思を直接的に抑圧するよう な行為等はなされておらず、駐車車両や警察官が被告人及び被告人車両を一 定の距離を置きつつ取り囲んだ状態を保っていたことも、強制採尿令状の請 求手続が進行中であり、その対象者である被告人の所在確保の要請が非常に 高まっている段階にあったことを考慮すると、そのために必要な最小限度の ものにとどまっていると評価できること、④警察官らは、令状主義の要請を 満たすべく、現に、強制採尿令状請求手続を進めていたのであるから、捜査 機関に、令状主義の趣旨を潜脱しようとの意図があったとは認められないこ となどの事情を考慮すると、強制手続への移行段階における留め置きは適法 であるとした。. 第三章 強制処分と任意処分の区別 本章では、被疑者の留め置きの適法性に関する議論を分析する前提として、 強制処分と任意処分の区別に関する問題を扱う。まず、憲法との関係におけ 178.
(7) 被疑者の留め置きをめぐる議論の動向とその分析. る刑訴法の位置付けを確認する(第一節) 。それを踏まえて、捜査の定義に ついて検討し(第二節) 、逮捕・勾留の趣旨・目的について論じる(第三節) 。 そのうえで、最後に、強制処分の定義に関して検討する(第四節)。 第一節 憲法との関係における刑訴法の位置付け 第一款 憲法 13 条の意義・趣旨 一 憲法とは、いかなる性格を有するものであるのか、換言すれば、憲法 とは、いかなる関係性を規律するものであるのか。この点については、憲法 は、国家と国民との関係を規律する法規範である、との理解に、およそ異論 はないであろう 3)。 それでは、このような憲法の性格に関する理解を前提とした場合、憲法 13 条の規定の意義ないし趣旨は、どのように理解されることになるであろ うか。 憲法 13 条によれば、すべて国民は「個人として尊重され」、「生命、自由 及び幸福追求」に対する権利、すなわち、幸福追求権を保障されている 4)。 そして、この幸福追求権については、 「14 条以下に規定される個別人権を生 み出す源泉・母胎としての性格を有する権利であり、個別人権すべてを包括. 3)山本敬三 『公序良俗論の再構成』 (2000 年)19 頁 【以下、 「山本①」 として引用】 、 山本敬三 「現 代社会におけるリベラリズムと私的自治(1)―私法関係における憲法原理の衝突―」法 学論叢 133 巻 4 号(1993 年)2、8 頁【以下、 「山本②」として引用】 、山本敬三「憲法と 民法の関係―ドイツ法の視点」法学教室 171 号(1994 年)48 頁【以下、 「山本③」として 引用】 、 大石眞『憲法講義Ⅰ(第 3 版) ( 』2014 年)9 頁、 君塚正臣『憲法の私人間効力論』 (2008 年)4-5、9 頁、道垣内弘人『プレップ法学を学ぶ前に』 (2010 年)51-52 頁、川﨑政司『法 律学の基礎技法』 (2011 年)64、194 頁、 田中成明『法学入門(新版) 』 (2016 年)25 頁など。 4)芦部信喜(高橋和之補訂) 『憲法(第 5 版) 』 (2011 年)118 頁、高橋和之『立憲主義 と 日 本国憲法(第 3 版) 』 (2013 年)137 頁、 山本①・前掲注 3)24 頁、 大石眞『憲法講義Ⅱ(第 2 版) 』 (2012 年)47、56 頁など。 179.
(8) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). するとともに新しい人権の根拠となるもの」5)と一般に考えられているので ある 6)。 このように、憲法 13 条は、個人、すなわち、個別的具体的な意味におけ る国民に対して基本的人権を保障しているのであるが、先に述べた憲法の性 格に照らし合わせるならば、このことは、国家が、個別的具体的な意味にお ける国民に対して基本的人権を保障すべき義務を負うことを意味しよう 7)8)。 もっとも、他方で、憲法 13 条は、このような国家が負うべき義務を規定 しているとしても、憲法 13 条から抽出される国家の義務は、これに限られ るわけではない。むしろ、憲法 13 条は、それにとどまらず、国家は、「公共 5)高橋・前掲注 4)137 頁。 6)芦部・前掲注 4)118-119 頁も、 「個人尊重の原理に基づく幸福追求権は、憲法に列挙され ていない新しい人権の根拠となる一般的かつ包括的な権利」であり、 「個別の基本権を包 括する基本権である」とする。また、大石・前掲注 4)57 頁もまた、幸福追求権は、 「明 示的に列挙された諸権利」だけでなく、 「広くそれら以外の権利・自由をも包括的に保障 する意味をもつ包括的な基本権の保障規定」としている。そのほか、同様の指摘をする ものとして、伊藤正己『憲法(第 3 版) 』 (1995 年)90、228-229 頁、髙井裕之「幸福追求 権」大石眞 = 石川健治編『憲法の争点(新・法律学の争点シリーズ 3) ( 』2008 年)92-93 頁、 浦部法穂『憲法学教室(第 3 版) 』 (2016 年)44-46 頁、渋谷秀樹『憲法(第 2 版) 』 (2013 年)184 頁、渋谷秀樹 = 赤坂正浩『憲法 1 人権(第 5 版) 』 (2013 年)247-248 頁〔赤坂正 浩〕 、安西文雄 ほ か『憲法学読本(第 2 版) 』 (2014 年)84 頁〔巻美矢紀〕 、松井茂記『日 本国憲法(第 3 版) 』 (2007 年)336 頁、 小嶋和司 = 大石眞『憲法概観(第 7 版) 』 (2011 年) 86-87 頁、 芦部信喜『憲法学Ⅱ人権総論』 (1994 年)328 頁、 芦部信喜編『憲法Ⅱ人権(1) ( 』1978 年)137-138 頁〔種谷春洋〕 、 小山剛『 「憲法上の権利」の作法(新版) ( 』2011 年)93 頁など。 7)高橋・前掲注 4)111、115、123 頁、市川正人『憲法』 (2014 年)ⅰ頁。な お、山本①・ 前掲注 3)64、86、199、248、293 頁、山本②・前掲注 3)17 頁、山本敬三「現代社会 に おけるリベラリズムと私的自治(2・完)―私法関係における憲法原理の衝突―」法学論 叢 133 巻 5 号(1993 年)7-8、26 頁、山本③・前掲注 3)48-49 頁参照。 8)もちろん、このことは、国家自身が基本的人権を侵害してはならないという消極的な意 味をも当然に含んでいる。このようなことを認めることは、上述したような国家自身が 負うべき義務と明らかに背理・矛盾するからである。 180.
(9) 被疑者の留め置きをめぐる議論の動向とその分析. の福祉」を維持すべき義務、すなわち、国民全体、ないし、一般的抽象的な 意味における国民に対して基本的人権を保障すべき義務を負うことを規定し ているものと見るべきであろう 9)10)。 二 以上からすると、憲法 13 条は、国家に対して、個人の基本的人権を 保障すべき義務を負わせているだけでなく、それに加えて、公共の福祉を維 持すべき義務を負わせているものと解される。 もっとも、問題は、その先にある。このように、国家は、個人の基本的人 権の保障と公共の福祉の維持という二つの義務を負うものとするならば、国 家が負うべき二つの義務の間において対立・矛盾が生じることは、容易に 想定できよう。このことは、憲法 13 条それ自体が、すでに認識していたも のと考えられる。すなわち、憲法 13 条は、国家が負うべき二つの義務の間 に矛盾・対立が生じることを前提としながら、その相対立する二つの憲法上 の義務の間の調整が図られるべきことを要請しているものと解すべきである 12)13) (いわゆる「比例原則」11)) 。換言すれば、憲法 13 条に基づき、国家は 14)、. 9)高木光『プレップ行政法(第 2 版) 』 (2012 年)61 頁参照。 10)なお、公共の福祉の意味については、人権相互の矛盾・衝突を調整するための原理とし て一般に捉えられてきた (高橋・前掲注 4)120-121 頁、 曽我部真裕ほか編『憲法論点教室』 (2012 年)70 頁〔曽我部真裕〕 、辻村 み よ 子『憲法(第 4 版) 』 (2012 年)147 頁) 。そ の 背景に戦前の反省があったことはもちろんであるが(宮沢俊義『憲法Ⅱ』 (1974 年)234235 頁、曽我部真裕 ほ か 編『憲法論点教室』 (2012 年)70 頁〔曽我部真裕〕 ) 、こ の よ う に、公共の福祉を調整原理として機能的に捉えることは、そもそも、公共の福祉という 文言、あるいは、憲法 13 条の規定の仕方からして、疑問が持たれよう。公共の福祉の 意味をめぐる議論の詳細に関しては、 高橋・前掲注 4)115 頁以下、 曽我部真裕ほか編『憲 法論点教室』 (2012 年)69 頁以下〔曽我部真裕〕 、芦部・前掲注 6)186 頁以下など参照。 11)比例原則の法的根拠として憲法 13 条を指摘するものとして、芝池義一『行政法総論講義 (第 4 版補訂版) 』 (2006 年)84 頁、藤田宙靖『行政法総論』 (2013 年)102 頁、小早川光 郎『行政法(上) 』 (1999 年)144 頁、今村成和(畠山武道補訂) 『行政法入門(第 8 版補 訂版) 』 (2007 年)90 頁、大浜啓吉『行政法総論(第 3 版) 』 (2012 年)24、278 頁、曽和 俊文ほか 『現代行政法入門(第 2 版) ( 』2011 年)162 頁〔亘理格〕 、 宮田三郎『警察法』 (2002 年)70 頁、宮田三郎『実践警察法』 (2012 年)39 頁、高木光「比例原則の実定化―『警 察法』と憲法の関係についての覚書―」 『現代立憲主義の展開(芦部信喜先生古稀祝賀) 181.
(10) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). 個人の基本的人権の保障と公共の福祉の維持という二つの義務の間の調整を 図るべき憲法上の義務を負っているのである。憲法 13 条が、幸福追求権に ついて、「公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊 重を必要とする」と規定するのは、その趣旨であろう 15)。 第二款 刑訴法の位置付け 一 さて、憲法 13 条の意義・趣旨についての理解は、先に述べたとおり であるが、その趣旨は、刑事手続の領域においても妥当することになる 16)。 (下) 』 (1993 年)228 頁、 渋谷・前掲注 6)264-265 頁、 渋谷秀樹『日本国憲法の論じ方(第 2 版) 』 (2010 年)154 頁、 北村和生ほか『行政法の基本(第 5 版) 』 (2014 年)19、176 頁〔高 橋明男〕 、阿部泰隆『行政法解釈学Ⅰ』 (2008 年)395 頁、高田敏編『新版行政法』 (2009 年)42-43 頁〔高田敏〕 、藤井俊夫『行政法総論(第 5 版) 』 (2010 年)13 頁、宇賀克也編 『ブリッジブック行政法(第 2 版) 』 (2012 年)30 頁〔横田光平〕 、宍戸常寿『憲法解釈論 の応用と展開(第 2 版) ( 』2014 年)24 頁など。なお、 比例原則一般については、 萩野聡「行 政法における比例原則」芝池義一ほか編『行政法の争点(第 3 版) 』 (2004 年)22 頁、川 上宏二郎「行政法における比例原則」成田頼明編『行政法の争点(新版) 』 (1990 年)18 頁、須藤陽子「比例原則」法学教室 237 号(2000 年)18 頁〔須藤陽子『比例原則の現代 的意義と機能』 (2010 年)所収〕など参照。 12)そして、このように理解することによって、憲法 13 条が比例原則を規定することの意 味を適切に捉えることができるように思われる。 13)上述したように、比例原則とは、二つの義務の間の調整が図られるべきことを要請する ものであり、それ以上でも、それ以下でもない。その意味で、抽象的な規範にとどまる のであって、憲法それ自体が、比例原則の名のもとで、具体的な基準を用意しているわ けではないのである。 14)ここには、立法府だけでなく、もちろん、国家機関である以上、裁判所も含まれる。市川・ 前掲注 7)65 頁参照。 15)高木・前掲注 11)228 頁、藤田・前掲注 11)102-103 頁、宇賀編・前掲注 11)30 頁〔横 田光平〕 。 16)鈴木茂嗣「憲法と刑事訴訟法との関係」松尾浩也編『刑事訴訟法の争点』 (1979 年)4、 6 頁〔鈴木茂嗣『続・刑事訴訟 の 基本構造(上巻) 』 (1996 年)所収〕 【以下、 「鈴木①」 として引用】 、鈴木茂嗣『刑事訴訟の基本構造』 (1979 年)5 頁【以下、 「鈴木②」として 引用】 、 鈴木茂嗣『刑事訴訟法(改訂版) 』 (1990 年)17 頁【以下、 「鈴木③」として引用】 、 鈴木茂嗣『刑事訴訟法の基本問題』 (1988 年)4-5 頁【以下、 「鈴木④」として引用】参照。 182.
(11) 被疑者の留め置きをめぐる議論の動向とその分析. すなわち、刑事手続に即していうならば、憲法 13 条は、刑事手続に関し、 国家は、個人の基本的人権を保障すべき義務、および公共の福祉を維持すべ き義務、換言すれば、犯人を特定して処罰すること(刑法の具体的な実現・ 執行)を通じて、国民一般の生命・身体・財産等の権利利益を保護(将来の 犯罪の防止・抑止)すべき義務 17)を負うことを前提としながら、その相対 立する二つの義務の間の調整が図られるべきことを要請しているのであり 18)、 国家は、そのような調整を図るべき憲法上の義務を負っているのである。 もっとも、他方で、憲法 31 条は、 「何人も、法律の定める手続によらなけ れば、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」 と規定している。これが、刑事手続に関し、適正手続を保障したものである との理解自体は、異論なく認められているといってよいが 19)、問題は、この 17)長沼範良「刑事訴訟法の目的」法学教室 197 号(1997 年)26 頁、長沼範良ほか『刑事訴 訟法(第 5 版) ( 』2017 年)5 頁〔長沼範良〕 、 棚町祥吉『逮捕(改訂) ( 』1992 年)ⅴ頁参照。 平川宗信『刑事法の基礎(第 2 版) 』 (2013 年)104-109 頁、 山口厚『刑法(第 2 版) 』 (2011 年)4-6 頁、 山口厚『刑法総論(第 2 版) ( 』2007 年)2-6 頁、 西田典之『刑法総論(第 2 版) 』 (2010 年)30-31 頁、林幹人『刑法総論(第 2 版) 』 (2008 年)12-13 頁なども参照。 18)鈴木②・前掲注 16)5-7、19、140 頁、鈴木③・前掲注 16)17 頁、鈴木④・前掲注 16) 4-5 頁、鈴木①・前掲注 16)4 頁参照。井上正仁『刑事訴訟における証拠排除』 (1985 年) 371 頁も参照。 19)芦部・前掲注 4)235 頁、芦部・前掲注 6)139 頁、高橋・前掲注 4)265 頁、浦部・前掲 注 6)304-305 頁、野中俊彦 ほ か『憲法Ⅰ(第 5 版) 』 (2012 年)410 頁〔高橋和之〕 、辻 村・前掲注 10)269 頁、松井・前掲注 6)517 頁、長谷部恭男『憲法(第 6 版) 』 (2014 年)254-255 頁、赤坂正浩『憲法講義(人権) 』 (2011 年)170 頁、大石・前掲注 4)102 頁、 櫻井敬子 = 橋本博之『行政法(第 4 版) 』 (2013 年)23-24 頁、鈴木②・前掲注 16)2 頁、 井上・前掲注 18)371 頁、 田宮裕『刑事訴訟法(新版) 』 (1996 年)4-5、65、301 頁【以下、 「田宮①」として引用】 、田宮裕『捜査の構造』 (1971 年)120 頁、松尾浩也 = 田宮裕『刑 事訴訟法 の 基礎知識』 (1966 年)1 頁、白取祐司『刑事訴訟法(第 9 版) 』 (2017 年)79 頁、三井誠『刑事手続法Ⅱ』 (2003 年)408 頁、三井誠「刑事訴訟法の基本原理」松尾浩 也 = 井上正仁編『刑事訴訟法 の 争点(第 3 版) 』 (2002 年)9 頁、福井厚『刑事訴訟法講 183.
(12) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). 憲法 31 条と憲法 13 条の関係について、どのように理解されるべきなのか、 である。 この点については、憲法 31 条は、憲法 13 条と同旨のものと見るべきであ ろう。すなわち、この憲法 31 条のいわゆる適正手続条項 20)は、憲法 13 条 に基づく比例原則が刑事手続に対しても妥当することを、特に確認ないし強 調したものとして理解されるべきである 21)22)。 義(第 5 版) 』 (2012 年)13 頁、 池田修 = 前田雅英『刑事訴訟法講義(第 6 版) 』 (2018 年) 17 頁、安冨潔『刑事訴訟法(第 2 版) 』 (2013 年)2 頁、上口裕『刑事訴訟法(第 4 版) 』 (2015 年)6 頁、 上口裕ほか『刑事訴訟法(第 5 版) 』 (2013 年)17 頁〔後藤昭〕 、 長沼ほか・ 前掲注 17)2 頁〔長沼範良〕 、渡辺直行『論点中心刑事訴訟法講義(第 2 版) 』 (2005 年) 6 頁【以下、 「渡辺①」と し て 引用】 、渡辺直行『刑事訴訟法(第 2 版) 』 (2013 年)3 頁 【以下、 「渡辺②」として引用】 、渥美東洋『全訂刑事訴訟法(第 2 版) 』 (2009 年)12 頁、 小林充(植村立郎監修、前田巌改訂) 『刑事訴訟法(第 5 版) 』 (2015 年)1 頁、加藤康 榮『刑事訴訟法(第 2 版) 』 (2012 年)2 頁、 井戸田侃『刑事訴訟法要説』 (1993 年)2 頁、 村井敏邦編『現代刑事訴訟法(第 2 版) 』 (1998 年)26 頁〔大出良知〕 、椎橋隆幸編『ブ リッジブック刑事裁判法』 (2007 年)12 頁〔椎橋隆幸〕 、平川・前掲注 17)209 頁、酒巻 匡「捜査に対する法的規律の構造(1) 」法学教室 283 号(2004 年)59 頁【以下、 「酒巻①」 として引用】 、酒巻匡「刑事手続の目的と基本設計図」法学教室 355 号(2010 年)36 頁、 酒巻匡『刑事訴訟法』 (2015 年)2-3 頁【以下、 「酒巻②」として引用】 、安西ほか・前掲 注 6)197 頁〔宍戸常寿〕 、 宍戸・前掲注 11)38 頁、 市川・前掲注 7)190、192-193 頁など。 なお、最判昭和 53 年 9 月 7 日刑集 32 巻 6 号 1672 頁も参照。 20)田宮裕「最近のデュープロセス論争」研修 340 号(1976 年)3 頁、 上口・前掲注 19)6 頁、 小田中聰樹『刑事訴訟法の変動と憲法的思考』 (2006 年)368 頁、市川・前掲注 7)97 頁、 三井誠ほか編『入門刑事法(第 4 版) 』 (2009 年)104 頁〔三井誠〕参照。 21)その意味で、適正手続は、利益衡量を本質とするものである(鈴木②・前掲注 16)6-7 頁、 井上・前掲注 18)371 頁、田宮・前掲注 20)8 頁参照) 。さらにいえば、適正手続と比例 原則は同義であり、互換性のあるものといってよく、そうだとすれば、それを適正手続 と呼ぶか、比例原則と呼ぶかは、せいぜい言葉の問題にすぎないともいえよう(例えば、 現に、憲法 13 条を適正手続の問題として論じるものとして、大石・前掲注 4)62-63 頁、 高橋・前掲注 4)147、266 頁、 曽和俊文「行政手続(1)憲法上の適正手続・行政手続法」 法学教室 386 号(2012 年)83-84 頁、曽和俊文『行政法総論 を学ぶ』 (2014 年)303-304 頁 など参照。 184.
(13) 被疑者の留め置きをめぐる議論の動向とその分析. 二 それでは、以上のような憲法 13 条ないし憲法 31 条に関する理解を前 提にすると、憲法 13 条ないし憲法 31 条と刑訴法とは、いかなる関係にある のか、換言すれば、憲法 13 条ないし憲法 31 条との関係において、刑訴法は どのように位置づけられることになるのであろうか。 この点、憲法 13 条ないし憲法 31 条は、国家に対して、刑事手続に関し、 個人の基本的人権の保障と公共の福祉の維持という二つの義務の間に調整を 図るべき義務、つまり、適正手続を保障すべき義務を負わせているところ、 刑訴法(の制定・定立)は、 そのような憲法上の義務を負うべき国家(立法府) が、そのような義務を担保する、ないし履行するために講じられた手段ない し措置として位置づけられるべきである 23)。すなわち、刑訴法は、刑事手続 22)すでに述べたように、憲法 31 条が適正手続を保障するものであることは異論を見ない。 もっとも、憲法 31 条については、それと並んで、手続法定主義なる原則が指摘ないし 強調されることがある(酒巻①・前掲注 19)59 頁、酒巻匡「捜査手続(1)総説」法学 教室 356 号(2010 年)65 頁、酒巻②・前掲注 19)22 頁、田宮①・前掲注 19)4 頁、長 沼ほか・前掲注 17)2 頁〔長沼範良〕 、白取・前掲注 19)79 頁、福井・前掲注 19)4-5 頁、 上口・前掲注 19)2 頁、平川・前掲注 17)213 頁、芦部・前掲注 4)235 頁 な ど) 。た し かに、憲法 31 条は「法律の定める手続」と規定しており、このことは故なしとしない。 しかしながら、憲法 31 条が適正手続を保障しているとすれば、その要請を具現化する ものとしての法律が制定されなければならないのは当然のことである(憲法 41 条参照) 。 憲法 31 条の重点ないし核心は、むしろ適正手続の保障に置かれているのであって、殊 更手続法定主義なる原則を措定し、それを指摘ないし強調する必要は必ずしもなく、ま してや、それに特段ないし格別の意味内容を含ましめることは避けるべきであろう。な お、大石・前掲注 4)64 頁参照。 23)国家、すなわち、立法府はもちろん、裁判所もまた、個人の基本的人権の保障と公共の 福祉の維持という二つの義務の間の調整を図るべき義務を負うが、第一義的には、立法 府が法律の制定という形で義務を履行することになる。他方で、裁判所による、いわゆ る法創造という形での義務履行は二次的なものであり、補充的な位置付けにとどまる も の で あ る。な お、田中・前掲注 3)105、154 頁、田中成明『現代法理学』 (2011 年) 289、463-466 頁、山本①・前掲注 3)53、78、86、248-249、293 頁、西村健一郎ほか『判 例法学(第 3 版) 』 (1997 年)8 頁〔西村健一郎〕 、佐藤幸治ほか『法律学入門』 (1994 年) 204-205、210-211 頁〔田中成明〕参照。 185.
(14) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). に関し、国家が負うべき二つの義務の間の調整のあり方についての具体的か つ基本的な枠組みを提示しているのであって 24)、この趣旨は、刑訴法 1 条が、 この法律は、 「公共の福祉の維持」と「個人の基本的人権の保障」とを全う するものと指摘していることにも示されているものといえよう 25)。 第二節 「捜査」の位置付けとその定義 一 捜査 26)とは、いかなるものか、それは、どのように定義されるべき ものなのか。本節では、 「捜査」という基本的な概念に関する理解を検討し、 その意義を確認することを目的とする 27)。 二 従来の議論においては、捜査とは、公訴の提起・追行を目的とする活 動である、と定義されるのが一般的であり 28)、このような理解が通説として 24)井戸田・前掲注 19)2 頁、鈴木③・前掲注 16)4 頁参照。宮下明義『新刑事訴訟法逐條 解説Ⅱ』 (1949 年)4 頁 も 参照。な お、泉徳治「司法 が 担 う 役割」法政法科大学院紀要 5 巻 1 号(2009 年)16 頁、泉徳治「法律家 の 役割」大東 ロージャーナ ル 6 号(2010 年) 10-11 頁も参照。 25)鈴木茂嗣「刑事訴訟法の基礎理論」松尾浩也 = 井上正仁編『刑事訴訟法の争点(新版) 』 (1991 年)14 頁〔鈴木茂嗣『続・刑事訴訟の基本構造(上巻) 』 (1996 年)所収〕参照。 26)刑訴法 189 条 2 項、191 条参照。 27)なお、捜査の定義とそれに関連する問題の検討については、拙稿「捜査の定義について ―その再検討の試み―」横浜法学 26 巻 2 号(2017 年)71 頁以下参照。 28)平野龍一『刑事訴訟法』 (1958 年)82 頁、団藤重光『新刑事訴訟法綱要(7 訂版) 』 (1967 年)317 頁、高田卓爾『刑事訴訟法(2 訂版) 』 (1984 年)312 頁、平場安治『改訂刑事訴 訟法講義』 (1955 年)325 頁、三井誠『刑事手続法(1) (新版) 』 (1997 年)75 頁、白取・ 前掲注 19)87 頁、福井・前掲注 19)72 頁、田宮①・前掲注 19)40 頁、寺崎嘉博『刑事 訴訟法(第 3 版) 』 (2013 年)101 頁、池田 = 前田・前掲注 19)68-69 頁、小林・前掲注 19)66 頁、 安冨・前掲注 19)39 頁、 安冨潔『刑事訴訟法講義(第 4 版) 』 (2017 年)40 頁、 寺崎嘉博編『刑事訴訟法講義』 (2007 年)9 頁〔加藤克佳〕 、庭山英雄 = 岡部泰昌編『刑 事訴訟法(第 3 版) ( 』2006 年)19 頁〔庭山英雄〕 、 長井圓『LS ノート刑事訴訟法』 (2008 年) 7 頁、 酒巻①・前掲注 19)59 頁、 酒巻・前掲注 22)63 頁、 酒巻匡「捜査手続(2)総説(続) ・ 186.
(15) 被疑者の留め置きをめぐる議論の動向とその分析. の地位を占めてきたものといってよいであろう 29)。 たしかに、捜査は、公訴の提起・追行に資するものであり、公訴の提起・ 追行の前提となるものであることからすれば 30)、このような捜査に関する定 捜査 の 端緒」法学教室 357 号(2010 年)74-75 頁【以下、 「酒巻③」と し て 引用】 、酒巻 ②・前掲注 19)19、38-39 頁、酒巻匡「 『捜査』の定義について」研修 674 号(2004 年) 3 頁、川出敏裕「行政警察活動と捜査」法学教室 259 号(2002 年)73 頁、緑大輔『刑事 訴訟法入門(第 2 版) 』 (2017 年)28 頁、 伊藤栄樹ほか『注釈刑事訴訟法(新版) (第 3 巻) 』 (1996 年)5 頁、 〔伊藤栄樹 = 河上和雄〕 、後藤昭 = 白取祐司編『新・コンメンタール刑 事訴訟法(第 3 版) 』 (2018 年)442 頁〔多田辰也〕 、456 頁〔後藤昭〕 、石丸俊彦ほか『刑 事訴訟 の 実務(上) (3 訂版) 』 (2011 年)203 頁〔川上拓一〕 、平場安治 ほ か『注解刑事 訴訟法(中巻) (全訂新版) 』 (1982 年)3 頁〔高田卓爾〕 、 柏木千秋『刑事訴訟法』 (1970 年) 32 頁、 横川敏雄『刑事訴訟』 (1984 年)95 頁、 関正晴編『刑事訴訟法(第 2 版) 』 (2019 年) 7 頁〔関正晴〕 、 川端博 = 田口守一編『基本問題セミナー刑事訴訟法』 (1994 年)61 頁〔垣 花豊順〕 、佐々木正輝 = 猪俣尚人『捜査法演習(第 2 版) 』 (2018 年)198 頁〔猪俣尚人〕 、 小暮得雄「現行犯 の『制止』 」法律 の ひ ろ ば 21 巻 5 号(1968 年)52 頁、大澤裕「強制 捜査と任意捜査」法学教室 439 号(2017 年)58 頁、 廣瀬健二『コンパクト刑事訴訟法(第 2 版) 』 (2017 年)31 頁、光藤景皎『刑事訴訟法Ⅰ』 (2007 年)187 頁、岩下雅充ほか『刑 事訴訟法教室』 (2013 年)58 頁〔亀井源太郎〕 、 宇藤崇ほか 『刑事訴訟法(第 2 版) ( 』2018 年) 29、36 頁〔松田岳士〕 、高田昭正『基礎から学ぶ刑事訴訟法演習』 (2015 年)3 頁、福井 厚編『ベーシック マ ス ター刑事訴訟法(第 2 版) 』 (2013 年)40 頁〔緑大輔〕 、多谷千香 子「公訴時効と捜査」河上和雄編『刑事裁判実務大系 11 犯罪捜査』 (1991 年)595-596 頁、 中武靖夫 = 高橋太郎編『捜査法入門』 (1978 年)170 頁〔藤原寛〕 、三浦正晴 = 北岡克哉 編『令状請求の実際 101 問〔改訂〕 』 (2002 年)208 頁、大谷直人「死者を被疑者とする 令状発付の可否」新関雅夫ほか『増補令状基本問題(上) 』 (1996 年)31 頁、 植村立郎『骨 太刑事訴訟法講義』 (2017 年)53 頁など。 29)石丸ほか・前掲注 28)208 頁〔川上拓一〕 、平場ほか・前掲注 28)3 頁〔高田卓爾〕 、川 端 = 田口編・前掲注 28)61 頁〔垣花豊順〕 、 『例題解説刑事訴訟法(四) 〔三訂版〕 』 (1999 年)25-26 頁、山口裕之「捜索差押許可状等 の 発付 の 可否」平野龍一 = 松尾浩也編『新 実例刑事訴訟法 [ Ⅰ ] 捜査』 (1998 年)222 頁、井戸田・前掲注 19)25 頁、石川才顯『刑 事訴訟法講義』 (1974 年)90-91 頁、石川才顯『通説刑事訴訟法』 (1992 年)91 頁、河副 弘「死者を被疑者とする捜索・差押許可状発付の可否」書研所報 29 号(1979 年)218 頁。 30)井戸田・前掲注 19)25-26 頁参照。 187.
(16) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). 義づけは、自然なものであったようにも思われる。 もっとも、このような通説的理解に対しては、 「不起訴処分で終結する場 合にも捜査はその目的を達したというべきであるから妥当ではない」31)との 指摘がなされているところであり、捜査について、 「起訴・不起訴の決定と、 起訴した場合の公判の準備」を目的とする活動である 32)、さらには、「公訴 を提起しあるいは維持すべきかどうかを決するため」の活動である 33)、との 理解も示されているのである 34)。 三 さて、捜査の定義をめぐる従来の議論は、このような様相を呈してい るが、しかしながら、そこでの議論が、果たして、真の意味で、捜査の定義 に関する議論であったのかどうかは、疑わしい。むしろ、一見、捜査の定義 に関する議論がなされているように見えて、実のところ、捜査の定義それ自 体については、何も語られていないように思われるのである。 それでは、捜査の定義は、どのように理解されるべきであろうか。この点. 31)鈴木③・前掲注 16)59 頁。 32)鈴木③・前掲注 16)59 頁。鈴木茂嗣「捜査 の 本質 と 構造」石原一彦 ほ か 編『現代刑罰 法大系 5 刑事手続Ⅰ』 (1983 年)127 頁も参照。同旨、田口守一『刑事訴訟法(第 7 版) 』 (2017 年)36 頁、上口・前掲注 19)55 頁、渡辺②・前掲注 19)23 頁、渡辺修『基本講 義刑事訴訟法』 (2014 年)29 頁、上口 ほ か・前掲注 19)36 頁〔渡辺修〕 、宇藤 ほ か・前 掲注 28)29 頁〔松田岳士〕 、加藤・前掲注 19)18 頁、長沼 ほ か・前掲注 17)43 頁〔田 中開〕 、 岩下ほか・前掲注 28)22 頁〔辻本典央〕 、 黒木忍 = 川端博編『刑事訴訟法』 (1993 年) 31 頁〔山田道郎〕 、佐々木 = 猪俣・前掲注 28)18 頁〔猪俣尚人発言〕 、伊丹俊彦 = 合田 悦三編『逐条実務刑事訴訟法』 (2018 年)347 頁〔加藤俊治〕 、吉開多一「基礎から学ぶ 取調べ(第 1 回) 」捜査研究 822 号(2019 年)40 頁。 33)鈴木③・前掲注 16)59 頁。 34)なお、捜査は、起訴・不起訴の決定を目的とするものであるとの見解もあるが(井戸田・ 前掲注 19)25-26 頁、 井戸田侃「捜査の構造」高田卓爾 = 田宮裕編『演習刑事訴訟法』 (1972 年)67 頁) 、これに対しては、 「起訴後の捜査もあり得るから、疑問」 (鈴木③・前掲注 16)59 頁)との指摘がなされている。 188.
(17) 被疑者の留め置きをめぐる議論の動向とその分析. については、むしろ、憲法との関係を意識した議論が必要であろう。 国家は、公共の福祉を維持すべき義務、すなわち、具体的には、犯人を特 定して処罰することによって、国民一般の生命・身体・財産等の権利利益を 保障すべき義務を負っていることは、先に述べたとおりであるが、国家によ る捜査活動は、まさに、国家がこのような義務を担保ないし実現するための 手段・措置として位置づけられるべきものである 35)。このような理解を前提 にすれば、捜査に関しては、犯人を特定し処罰するための証拠を収集・保全 するための活動であると定義しておくのが妥当であるように思われる 36)。そ して、捜査というものが、このように定義づけられるものであるとすれば、 結局のところ、捜査の定義に関して行われてきた従来の議論は、捜査の定義 それ自体について真正面から論じるものではなく、むしろ、実質的には、そ のような捜査の結果ないし効果・機能、すなわち、そのような捜査が行われ 35)なお、最判昭和 44 年 12 月 24 日刑集 23 巻 12 号 1625 頁参照。 36)なお、厳密に言えば、捜査を行うのは、必ずしも国家機関に限られるものではなく、私 人にもその可能性が認められる。上述した捜査の定義には、そのような限定を加える契 機は存在しないし、刑訴法 189 条 2 項、および刑訴法 191 条もまた、捜査権限が認めら れている国家機関(福井・前掲注 19)72 頁、酒巻②・前掲注 19)20 頁、長沼ほか・前 掲注 17)44 頁〔田中開〕 、 松尾浩也『刑事訴訟法(上) (新版) 』 (1999 年)35 頁、 鈴木③・ 前掲注 16)64 頁、光藤・前掲注 28)41 頁、高田卓爾・前掲注 28)316 頁)を 規定 し て いるに過ぎない。そして、実際にも、刑訴法 213 条は、私人による現行犯逮捕を認めて いるのである。なお、中川孝博『刑事訴訟法の基本』 (2018 年)4 頁、平野・前掲注 28) 82 頁参照。これに対し、捜査を行うのは捜査機関であるとして、私人による現行犯逮捕 は捜査ではないとする見解も見られるが(田宮①・前掲注 19)40 頁、白取・前掲注 19) 87 頁、上口・前掲注 19)55-56 頁、小林・前掲注 19)67 頁、植村・前掲注 28)53 頁、 高田卓爾・前掲注 28)313 頁、伊丹 = 合田編・前掲注 32)433 頁〔東山太郎〕 、後藤 = 白取編・前掲注 28)442、539 頁〔多田辰也〕 、伊藤 ほ か・前掲注 28)6 頁〔伊藤栄樹 = 河上和雄〕 、186 頁 〔藤永幸治〕 、 河上和雄ほか編 『大コンメンタール刑事訴訟法 (第 2 版) (第 4 巻) 』 (2012 年)19 頁〔河上和雄 = 河村博〕 ) 、この見解は、むしろ論理が逆転している ようにも思われる。 189.
(18) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). たことの結果として、検察官は、いかなる対応ないし措置をとり得るのかを 4. 4. 4. 論じているにすぎないというべきであろう。このことは、捜査が「不起訴 4. 4. 4. 4. 4. 4. 4. 4. 4. 処分で終結する場合にも捜査はその目的を達したというべき」 (傍点は筆者) とする、先述した指摘からも窺い知ることができるのである。 第三節 逮捕・勾留の趣旨・目的 一 さて、刑訴法上、被疑者に対し、逮捕・勾留という身柄拘束処分が規 定されている 37)。この身体・行動の自由を侵害・制約する逮捕・勾留という 処分をめぐっては 38)、逮捕・勾留の目的いかん、すなわち、そもそも逮捕・ 勾留は何のために存在しているのか、という基本的な問題が提起されてきた 39)。 それでは、この点について、どのように考えるべきであろうか。 逮捕・勾留という処分が、それ自体として独立した捜査処分としての性格 ないし性質を有していることは明らかであり、異論のないところであろう 40)。. 37)酒巻匡「行政警察活動 と 捜査(1) 」法学教室 285 号(2004 年)49 頁【以下、 「酒巻④」 として引用】 、 酒巻匡「身柄拘束処分に伴う諸問題」法学教室 291 号(2004 年)94 頁【以 下、 「酒巻⑤」として引用】 、酒巻匡「捜査手続(3)被疑者の身柄拘束」法学教室 358 号 (2010 年)67 頁【以下、 「酒巻⑥」として引用】 、酒巻②・前掲注 19)53、94 頁、長沼ほ か・前掲注 17)67 頁〔田中開〕 、中川・前掲注 36)44 頁、椎橋隆幸ほか『ポイントレク チャー刑事訴訟法』 (2018 年)84 頁〔洲見光男〕など。 38)酒巻④・前掲注 37)49、51 頁、酒巻⑤・前掲注 37)94 頁、酒巻⑥・前掲注 37)67 頁、 酒巻②・前掲注 19)53、94 頁、長沼ほか・前掲注 17)68 頁〔田中開〕 、椎橋ほか・前掲 注 37)84 頁〔洲見光男〕 、宇藤ほか・前掲注 28)67 頁〔堀江慎司〕など。 39)三井・前掲注 28)9 頁、白取・前掲注 19)170-171 頁、福井・前掲注 19)111-112 頁、高 田卓爾・前掲注 28)349 頁など参照。 40)酒巻①・前掲注 19)60 頁、長沼 ほ か・前掲注 17)61 頁〔田中開〕 、田口・前掲注 32) 42 頁、上口・前掲注 19)63 頁、池田 = 前田・前掲注 19)77 頁、藤永幸治ほか編『大コ ンメンタール刑事訴訟法(第 3 巻) 』 (1996 年)156 頁〔馬場義宣〕 、河上ほか編・前掲注 36)162 頁〔馬場義宣 = 河村博〕 、椎橋隆幸編『よくわかる刑事訴訟法(第 2 版) 』 (2016 190.
(19) 被疑者の留め置きをめぐる議論の動向とその分析. そして、逮捕・勾留が捜査処分としての性格を持つとするならば、それは、 犯人を特定し処罰するための証拠を収集・保全するための処分として位置づ けられなければならないはずである。 このように考えると、結局のところ、逮捕・勾留は、供述証拠の収集・保 全に向けられた処分、すなわち、取調べを目的とする処分であると解するの 年)32 頁〔大野正博〕 、亀井源太郎ほか『プロセス講義刑事訴訟法』 (2016 年)16 頁〔岩 下雅充〕 、 高田卓爾編『基本法コンメンタール刑事訴訟法(第 3 版) ( 』1993 年)172 頁〔井 戸田侃〕 、三井誠 = 酒巻匡『入門刑事手続法(第 7 版) 』 (2017 年)21 頁、平良木登規男 『刑事訴訟法Ⅰ』 (2009 年)98 頁、渡辺・前掲注 32)37 頁、平川・前掲注 17)15、252 頁、 安冨・前掲注 28)43 頁、 山口直也 = 上田信太郎編『ケイスメソッド刑事訴訟法』 (2007 年) 120 頁〔徳永光〕 、 安冨潔『やさしい刑事訴訟法(第 6 版) ( 』2013 年)10 頁、 河上和雄編『み ぢかな刑事訴訟法』 (2003 年)18 頁〔近藤和哉〕 、村井編・前掲注 19)6 頁〔村井敏邦〕 、 安西温(河村博補筆) 『刑事訴訟法(上) (改訂第 7 版) 』 (2010 年)171 頁、 古江賴隆『事 例演習刑事訴訟法』 (2011 年)11 頁【以下、 「古江①」と し て 引用】 、古江賴隆『事例演 習刑事訴訟法(第 2 版) 』 (2015 年)13 頁【以下、 「古江②」として引用】など。 41)捜査実務では、逮捕・勾留は取調べのためのものとして理解されているとされる。平川・ 前掲注 17)233、253 頁、石井一正「違法逮捕と勾留」佐伯千仭編『続・生きている刑事 訴訟法』 (1970 年)59 頁参照。また、犯罪捜査規範 120 条 3 項は、 「被疑者を緊急逮捕し た場合は・・・身柄を留置して取り調べる必要がないと認め、被疑者を釈放したときに おいても、緊急逮捕状の請求をしなければならない」としており、逮捕の趣旨・目的は 取調べにあることを前提ないし示唆しているように見える。 42)刑訴規則 143 条の 3 は、 「逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等」と規 定しているが、 「逃亡する虞」や「罪証を隠滅する虞」は取調べの必要性を基礎づける 類型的事情の例示と見るべきであり、 「等」とは、その他の取調べの必要性を基礎づけ る類型的事情がないことを意味するものと解すべきであろう。したがって、逆に言えば、 「逃亡する虞」 、 「罪証を隠滅する虞」 、ないし、その他の取調べの必要性を基礎づける類 型的事情の存在が、逮捕の要件として必要となるものというべきである。 43)逮捕・勾留が認められると、取調べのための身柄拘束が行われることになるが、公共の 福祉の維持と個人の基本的人権の保障の調整という見地から、取調べのための身柄拘束 は、一定の期間に制限されている。したがって、あくまでも、起訴前の身柄拘束期間は、 取調べのための期間として位置づけられるべきものである。なお、最判昭和 37 年 7 月 3 191.
(20) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). が妥当であるように思われる 41)42)43)。 二 もっとも、これに対し、学説上は、逮捕・勾留の要件として、逃亡の 虞および罪証隠滅の虞が掲げられていることを論拠として 44)、逮捕・勾留は、 逃亡や罪証隠滅の防止を目的とする処分であると理解する見解が一般的であ るといってよいであろう 45)。 日民集 16 巻 7 号 1408 頁は、刑訴法 208 条 2 項の「やむを得ない事由」につき、 「事件 の複雑化、証拠収集の遅延もしくは困難等により、勾留期間を延長して更に取調をしな ければ起訴もしくは不起訴の決定をすることが困難な場合をいう」と判示しており、起 訴前の勾留期間は、取調べのための期間であることを前提にしているように見える。こ れに対し、逮捕・勾留の目的に関する通説的立場からの起訴前の身柄拘束期間の趣旨に 関する理解については、例えば、松尾・前掲注 36)54-55、104 頁、川出敏裕『別件逮捕・ 勾留の研究』 (1998 年)68-69 頁【以下、 「川出③」として引用】 、川出敏裕「別件逮捕・ 勾留と余罪取調べ」刑法雑誌 35 巻 1 号(1995 年)4 頁【以下、 「川出④」として引用】 、 酒巻匡「供述証拠の収集・保全(3) 」法学教室 290 号(2004 年)79 頁【以下、 「酒巻⑦」 として引用】 、酒巻匡「捜査手続(4)供述証拠の収集・保全」法学教室 360 号(2010 年) 63 頁【以下、 「酒巻⑧」と し て 引用】 、酒巻②・前掲注 19)96 頁、高野隆 = 長沼範良 = 後藤昭「論争・刑事訴訟法(16)接見交通権と取調べ」法学セミナー 579 号(2003 年) 92-93 頁〔長沼範良〕 、長沼範良 ほ か『演習刑事訴訟法』 (2005 年)97 頁〔大澤裕〕 、101 頁〔佐藤隆之〕 、佐藤隆之「別件逮捕・勾留 と 余罪取調 べ」井上正仁編『刑事訴訟法判 例百選(第 8 版) 』 (2005 年)41 頁、長沼範良「別件逮捕・勾留 と 余罪取調 べ」井上正 仁ほか編『刑事訴訟法判例百選(第 9 版) 』 (2011 年)40 頁など参照。 44)なお、刑訴規則 143 条の 3 の「等」の理解につき、三井・前掲注 28)10 頁、福井・前掲 注 19)111 頁、小林・前掲注 19)85 頁、後藤昭『捜査法の論理』 (2001 年)62 頁、佐々 木史朗「逮捕・勾留の必要性」新関雅夫ほか 『増補令状基本問題(上) ( 』1996 年)102 頁、 小林充「正当な理由のない捜査官への不出頭を理由とする逮捕の可否」新関雅夫ほか 『増 補令状基本問題(上) ( 』1996 年)110 頁、 渡辺修『被疑者取調べの法的規制』 (1992 年)7 頁、 平良木・前掲注 40)113 頁、長井・前掲注 28)38 頁、椎橋 ほ か・前掲注 37)85 頁〔洲 見光男〕など参照。 45)上口・前掲注 19)94、108、127 頁、白取・前掲注 19)170-171 頁、田口・前掲注 32)69 頁、長沼 ほ か・前掲注 43)93 頁〔長沼範良〕 、97-98 頁〔大澤裕〕 、池田 = 前田・前掲注 19)126 頁、福井・前掲注 19)177 頁、福井編・前掲注 28)84 頁〔山田直子 = 福井厚〕 、 192.
(21) 被疑者の留め置きをめぐる議論の動向とその分析. しかしながら、このような見解が採用する論理には、根本的な疑問がある。 すなわち、逮捕・勾留は何のために存在しているのか、という逮捕・勾留の 目的に関わる問題と、逮捕・勾留はどのような場合に行うことが許されるの か、という逮捕・勾留の要件に関わる問題とは、別個の問題であって、理論 的には明確に区別されるべきであるにもかかわらず、上記見解においては、 それらが混同されているように思われるのである。逮捕・勾留の要件という ものは、まさに、逮捕・勾留の「要件」にすぎないのであって、そこから、 逮捕・勾留の「目的」に関して、一定の帰結が直ちに導かれるわけではない。 逮捕・勾留の要件として、逃亡の虞および罪証隠滅の虞が掲げられていると. 安冨・前掲注 19)88 頁、酒巻⑦・前掲注 43)79 頁、酒巻⑤・前掲注 37)94 頁、酒巻⑥・ 前掲注 37)69 頁、酒巻⑧・前掲注 43)62 頁、酒巻②・前掲注 19)56、94 頁、田宮①・ 前掲注 19)74 頁、光藤・前掲注 28)53 頁、椎橋編・前掲注 19)67 頁〔洲見光男〕 、寺崎・ 前掲注 28)168 頁、松尾・前掲注 36)52 頁、鈴木③・前掲注 16)77 頁、鈴木④・前掲 注 16)72 頁、 小林・前掲注 19)84 頁、 椎橋編・前掲注 40)60 頁〔滝沢誠〕 、 三井 = 酒巻・ 前掲注 40)27 頁、三井・前掲注 28)132 頁、井戸田・前掲注 19)95 頁、椎橋隆幸編『プ ラ イ マ リー刑事訴訟法(第 6 版) 』 (2017 年)87 頁〔香川喜八朗〕 、水谷規男『疑問解消 刑事訴訟法』 (2008 年)55-56、67、81 頁、山本正樹ほか『プリメール刑事訴訟法』 (2007 年)43 頁〔松田岳士〕 、渡辺①・前掲注 19)65 頁、渡辺②・前掲注 19)136 頁、多田辰 也「刑事訴訟における被疑者取調べの地位―取調べの比重軽減化への一試論―」刑法雑 誌 35 巻 1 号(1995 年)17 頁、 井上正治「捜査の構造と人権の保障」日本刑法学会編『刑 事訴訟法講座(第 1 巻) 』 (1963 年)119 頁、熊本典道「被疑者取調べ―弁護の立場から」 三井誠 ほ か 編『刑事手続(上) 』 (1988 年)192 頁、渥美・前掲注 19)51-52、73 頁、村 井編・前掲注 19)53 頁〔大出良知〕 、川出③・前掲注 43)20 頁、川出④・前掲注 43)3 頁、川出敏裕「身柄拘束制度の在り方」ジュリスト 1370 号(2009 年)107、114 頁、三 神正一郎「身柄拘束被疑者の取調べ受忍義務について」山梨学院大学法学論集 65 号(2010 年)131 頁、 山口 = 上田編・前掲注 40)130、138、144、177 頁〔正木祐史〕 、 関正晴編『刑 事訴訟法』 (2012 年)50、58 頁〔滝沢誠〕 、 緑大輔「 『被疑者・被告人の身柄拘束の在り方』 をめぐって」法学教室 398 号(2013 年)4 頁など。なお、最大判昭和 58 年 6 月 22 日民 集 37 巻 5 号 793 頁は、 「未決勾留は、刑事訴訟法の規定に基づき、逃亡又は罪証隠滅の 防止を目的として、被疑者又は被告人の住居を監獄内に限定するもの」と判示している。 193.
(22) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). しても、そのことは、逮捕・勾留の目的は逃亡や罪証隠滅の防止にあるとの 帰結を導く論拠には必ずしもなり得ないのである 46)47)。 そもそも、逮捕・勾留の目的はいかなる点にあるのか、という問題は、そ れ自体として正面から検討されるべき性質のものであり、そこでは、逮捕・ 勾留の捜査としての性格というものに着眼して論じられる必要があるという べきなのである 48)49)50)。 46)したがって、同様に、逮捕・勾留の要件として逃亡の虞および罪証隠滅の虞が挙げられ ているとしても、そのことは、逮捕・勾留の目的は取調べにはないとの帰結(上口・前 掲注 19)95 頁、田口・前掲注 32)69 頁、渡辺①・前掲注 19)65 頁、渡辺②・前掲注 19)136 頁、後藤・前掲注 44)62 頁、安冨・前掲注 19)233 頁など参照)を導く論拠に は必ずしもなり得ないのである。 47)このように、従来の通説が、理論的に問題を抱えているにもかかわらず、なお通説たり 得ているのは、逮捕・勾留によって、逃亡の防止や罪証隠滅の防止が図られているとい う側面があるからかもしれない。たしかに、逮捕・勾留にそのような側面があることは 否定できないであろう。しかしながら、それは、逮捕・勾留がなされることの結果とし て生じる事実上の効果にすぎないのであり、これをもって、逃亡および罪証隠滅の防止 を逮捕・勾留の目的とすることは本末転倒というべきであろう。 48)なお、被疑者の任意同行であっても、身柄拘束と評価される事態に至れば、それは実質 的に逮捕がなされたものと一般に考えられている(長沼ほか・前掲注 17)92 頁〔田中 開〕 、田口・前掲注 32)122-123 頁、上口・前掲注 19)81-82 頁、安冨・前掲注 19)45 頁、 光藤・前掲注 28)22-25 頁、松尾・前掲注 36)66 頁、白取・前掲注 19)114-115 頁、平 良木・前掲注 40)107-108 頁、河村博『公判に強い捜査実務 101 問(改訂第 4 版) 』 (2009 年)92-93 頁、佐々木 = 猪俣・前掲注 28)223-243 頁〔佐々木正輝〕 、増井清彦『犯罪捜 査 101 問(補訂第 6 版) 』 (2010 年)94-95 頁、渡辺①・前掲注 19)87 頁、渡辺②・前掲 注 19)115-116 頁、酒巻匡「供述証拠 の 収集・保全(2) 」法学教室 288 号(2004 年)71 頁【以下、 「酒巻⑨」として引用】 、酒巻⑧・前掲注 43)56、59 頁、酒巻②・前掲注 19) 82、88-89 頁、酒巻匡「任意取調べの限界について―二つの最高裁判例を素材として―」 神戸法学年報 7 号(1991 年)288 頁、長沼 ほ か・前掲注 43)64 頁〔大澤裕〕 、佐藤隆之 「在宅被疑者の取調べとその限界(一) 」法学 68 巻 4 号(2004 年)1 頁、鈴木③・前掲注 16)72-73 頁、 鈴木④・前掲注 16)59-60 頁、 渡辺咲子『刑事訴訟法講義(第 7 版) ( 』2014 年) 56 頁、長井・前掲注 28)52 頁、松尾浩也監修『条解刑事訴訟法(第 4 版増補版) 』 (2016 194.
(23) 被疑者の留め置きをめぐる議論の動向とその分析. 年)376 頁、小田健司「任意同行と逮捕の始期」新関雅夫ほか『増補令状基本問題(上) 』 (1996 年)131 頁、福井編・前掲注 28)48 頁〔緑大輔〕 、浅田和茂「宿泊を伴う取調べ」 松尾浩也 = 井上正仁編『刑事訴訟法判例百選(第 6 版) 』 (1992 年)17 頁、宇藤 ほ か・ 前掲注 28)104-105、107 頁〔堀江慎司〕など) 。他方で、任意同行の目的は取調べにあ ると考えられている(高野 = 長沼 = 後藤・前掲注 43)92 頁〔長沼範良〕 、上口・前掲 注 19)127 頁、安冨・前掲注 19)44 頁、光藤・前掲注 28)95 頁、松尾・前掲注 36)64 頁、松尾浩也「刑事訴訟法 を 学 ぶ(第 2 回) 」法学教室 3 号(1980 年)49 頁、田宮①・ 前掲注 19)128 頁、三井・前掲注 28)83-84、128 頁、鈴木④・前掲注 16)59 頁、渡辺 咲子『刑事訴訟法講義(第 7 版) 』 (2014 年)56 頁、 酒巻匡「供述証拠の収集・保全(2) 」 法学教室 288 号(2004 年)70 頁、川端博 = 辻脇葉子『刑事訴訟法(新訂版) 』 (2007 年) 86 頁〔辻脇葉子〕 、加藤・前掲注 19)85 頁、木藤繁夫「任意捜査の限界と実質的逮捕の 始期」警察学論集 34 巻 1 号(1981 年)163 頁、頃安健司「任意捜査 と 自由 の 制限」石 原一彦ほか編『現代刑罰法大系(5)刑事手続Ⅰ』 (1983 年)162 頁、河村博『公判に強 い 捜査実務 101 問(改訂第 4 版) 』 (2009 年)92 頁、佐々木 = 猪俣・前掲注 28)222 頁 〔佐々木正輝〕 、宇藤ほか・前掲注 28)104、107 頁〔堀江慎司〕など) 。そうだとすれば、 そこでは、逮捕の目的は取調べにあることが暗に認められていたようにも見える。仮に、 逮捕の目的は逃亡や罪証隠滅の防止にあると考えるのであれば、この点との整合性も問 われることになろう。少なくとも、逮捕の目的は逃亡や罪証隠滅の防止にあると考える 限り、被疑者の任意同行が身柄拘束と評価される事態に至ったとしても、実質的に逮捕 がなされたものとの評価を与えることは困難といわざるを得ないように思われる。 49)なお、関連して、従来から、学説上、逮捕・勾留という身柄拘束処分の対象になってい る被疑者につき、取調べのための出頭・滞留義務、すなわち、取調べ受忍義務の肯否と いう問題が議論されている。この点、身柄拘束中の被疑者については、刑訴法 198 条 1 項但書を反対解釈することにより、取調べ受忍義務を肯定するのが素直な解釈の有り様 であり、また、このように解することによって、逮捕・勾留は取調べを目的とするもの であるとの上記理解とも理論的整合性をとることが可能になるものと思われる。もっと も、これに対しては、取調べ受忍義務と供述拒否権(黙秘権)の保障(刑訴法 198 条 2 項、憲法 38 条 1 項)との整合性といった観点からの疑問もあり得よう。すなわち、取 調べ受忍義務を課すことは、供述拒否権(黙秘権)を侵害し、供述拒否権(黙秘権)の 保障と抵触するというのである(平野・前掲注 28)106 頁、平野龍一『刑事訴訟法概説』 (1968 年)70 頁、白取・前掲注 19)196 頁、三井・前掲注 28)132-133 頁、渡辺①・前 掲注 19)99 頁、渡辺②・前掲注 19)129 頁、上口・前掲注 19)127 頁、熊本・前掲注 45)192 頁、高田昭正『被疑者 の 自己決定 と 弁護』 (2003 年)98 頁、田宮①・前掲注 195.
(24) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). 19)131 頁、田口・前掲注 32)124 頁、安冨・前掲注 19)233 頁、鈴木④・前掲注 16) 69-70 頁、光 藤・前 掲注 28)98-99 頁、福井・前掲注 19)177 頁、福 井 編・前掲 注 28) 104 頁〔山田直子 = 福井厚〕 、椎橋編・前掲注 19)105 頁〔洲見光男〕 、椎橋編・前掲注 40)61 頁〔滝沢誠〕 、水谷・前掲注 45)80-81 頁、後藤・前掲注 44)152 頁、山本 ほ か・ 前掲注 45)64 頁〔松田岳士〕 、井上・前掲注 45)118 頁、村井編・前掲注 19)52 頁〔大 出良知〕 、平川・前掲注 17)233 頁、渕野貴生「被疑者取調べの課題」法律時報 79 巻 12 号(2007 年)44 頁、庭山 = 岡部編・前掲注 28)74 頁〔徳永光〕 、黒木 = 川端編・前掲 注 32)62 頁〔山田道郎〕など) 。しかしながら、取調べ受忍義務を課すか否かという問 題と、供述拒否権(黙秘権)を侵害するか否かという問題は別個の問題であり、理論的 には明確に区別すべきものであって、身柄拘束中の被疑者に取調べ受忍義務を課したと しても、そのことから直ちに、供述拒否権(黙秘権)を侵害するとの帰結が導き出され るわけではないはずである。このように考えると、取調べ受忍義務と供述拒否権(黙秘 権)の保障との整合性といった観点からの疑問は成り立ち得ないというべきであろうと 思われる。最大判平成 11 年 3 月 24 日民集 53 巻 3 号 514 頁も、 「身体の拘束を受けてい る被疑者に取調べのために出頭し、滞留する義務があると解することが、直ちに被疑者 からその意思に反して供述することを拒否する自由を奪うことを意味するものでないこ とは明らかである」と判示している。なお、学説のなかには、逮捕・勾留の目的は逃亡 および罪証隠滅の防止にあるとしながらも、取調べ受忍義務を肯定する見解もある(井 上清「逮捕・勾留の目的と被疑者の取調べ」河村澄夫 = 古川實編『刑事実務ノート(第 3 巻) 』 (1971 年)133 頁、上口ほか・前掲注 19)76 頁〔渡辺修〕など) 。この点、 「刑訴 法(198 条 1 項但書)が直接、拘束中の被疑者について付与した法的効果である」 (井上 清「逮捕・勾留の目的と被疑者の取調べ」河村澄夫 = 古川實編『刑事実務ノート(第 3 巻) 』 (1971 年)133 頁。同旨、 頃安健司「身体拘束中の被疑者の退出権」河上和雄編『刑 事裁判実務大系(11)犯罪捜査』 (1991 年)458 頁、 上口ほか・前掲注 19)76 頁〔渡辺修〕 、 佐々木 = 猪俣・前掲注 28)502-503 頁〔猪俣尚人〕 )と説明されるが、これは、結局のと ころ、刑訴法が取調べ受忍義務を認めているからだということを述べているにすぎない。 問題は、このような取調べ受忍義務が逃亡および罪証隠滅の防止を目的とする逮捕・勾 留との関係において何故に認められるのか、その実質的・理論的根拠である。少なくと も、逮捕・勾留の目的を逃亡および罪証隠滅の防止に求めながら、取調べ受忍義務を肯 定することは、困難であるといわざるを得ないように思われる(上口・前掲注 19)127 頁、小田中聰樹『ゼミナール刑事訴訟法(下) 』 (1988 年)74 頁など参照) 。取調べ受忍 義務の肯否をめぐる議論については、拙稿「在宅被疑者の取調べの許容性について(2・ 完)―その違法性の実質に関する議論を中心に―」横浜国際経済法学 19 巻 2 号(2010 年) 41-43 頁も参照。 196.
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