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年決定は、具体的事案に関する判断として、K 巡査の制止 行為は、逮捕という強制処分には該当しない旨、判示している 70) 。

 この点、先に述べたとおり、逮捕という強制処分は、取調べを目的として、

相手方の意思に反して、身体・行動の自由という重要な権利利益を侵害する 処分である。しかしながら、これに対し、K 巡査の行為は、たしかに、相手 方の意思に反して、身体・行動の自由という重要な権利利益を侵害する処分 であるといえるとしても、それは、「呼気検査に応じるよう被告人を説得す るために行われたものであり」

71)

、したがって、K 巡査の制止行為を強制処 分としての逮捕行為と評価することはできないというべきであろう。

 そのうえで、最高裁昭和 51 年決定は、K 巡査の制止行為は、逮捕という 強制処分には該当しないとして、当該処分を任意処分として位置づけたうえ

      

70) 田宮裕「任意捜査において許容される有形力の行使の限度」警察研究 51 巻 6 号(1980 年)

76 頁参照。

71) なお、青沼潔「強制処分の意義及び任意捜査の限界―判例の読み方活かし方の一例を踏 まえて」法学セミナー 712 号(2014 年)122 頁、守屋克彦編『刑事訴訟法における学説 と 実務―初学者 の た め に』(2018 年)14-15 頁〔青沼潔〕参照。石山・前掲注 67)235-237 頁も参照。

で、任意処分の適否に関する判断枠組み(すなわち、法益侵害の質・程度と 当該手段方法の広義の必要性とが合理的権衡を保っており、具体的状況の下 で相当といえるか)

72)

を適用し

73)

、結論として、当該行為は「不相当な行為 ということはでき〔ない〕」と判示している。

 この点、本件では、身体・行動の自由の侵害の質・程度と広義の必要性と が合理的権衡を保っていて、具体的状況の下で相当といえるかが問題となる が

74)

、K 巡査の制止行為は「その程度もさほど強いものではない」のに対し て、他方で、広義の必要性として、被告人は「酒酔い運転の罪の疑いが濃厚」

であったこと、「被告人が急に退室しようとしたため、さらに説得のために とられた抑制の措置」であり、その必要性も充分に認められるだけでなく、

緊急性さえも認められることなどから、本件においては、法益侵害の質・程 度と広義の必要性とが合理的権衡を保ち、具体的状況の下で相当と評価され たものと見ることができよう。

 二 もっとも、これに対し、強制処分の定義に関する通説的理解を前提に した場合には、最高裁昭和 51 年決定の説明につき、困難が生じるように思 われる。

 先に述べた強制処分に関する通説的理解によれば、K 巡査の行為は、身体・

行動の自由という重要な権利利益を侵害する以上、逮捕という強制処分に該 当することになるようにも思われる。もっとも、このような帰結が、本決定

      

72) 井上・前掲注 52)47 頁、井上②・前掲注 51)7 頁、酒巻・前掲注 51)64-67 頁、酒巻③・

前掲注 28)72-73 頁、酒巻②・前掲注 19)33-36 頁。

73) なお、任意処分の意義およびそれに対する法的規律につき、拙稿「行政警察活動と捜査

―その統合的理解の試み―」『刑事法学の未来(長井圓先生古稀記念)』(2017 年)622-623 頁、拙稿「被疑者の留め置きについて―その適法性判断のあり方に焦点をあてて―」

横浜法学 27 巻 2 号(2018 年)56-57 頁参照。

74) 川出・前掲注 62)25 頁参照。なお、香城・前掲注 67)180、185 頁参照。

において採用されていないことは明らかである

75)

。問題は、そのことをどの ように説明づけるのか、という点にある。

 この点、第一に、K 巡査の行為は、身体・行動の自由を侵害するものでは ないとの説明が考えられる。すなわち、K 巡査の行為は「軽度で一時的な有 形力の行使であって」、身体・行動の自由という重要な権利利益を制約する に至っていないからだと理解されることになる

76)

。しかしながら、軽度で一 時的な有形力の行使であっても、身体・行動の自由の制約自体が発生してい ることは否定し難いように思われるのであり

77)

、このような説明は、いささ か強弁に過ぎよう

78)

 第二に、K 巡査の行為は、身体・行動の自由を侵害することは認めつつも、

その程度は軽微であるとして、逮捕という強制処分には該当しないとする説

      

75) なお、第 1 審判決参照。第 1 審の岐阜地裁は、K 巡査の制止行為について、「任意捜査 の限界をこえ、任意とは称しながら実質上逮捕するのと同様の効果を得ようとする強制 力の行使というべきであって、違法たるを免れない」と判示している。

76) 大澤裕「強制処分と任意処分の限界」井上正仁ほか編『刑事訴訟法判例百選(第 9 版)』(2011 年)5 頁。同旨、井田良ほか編『事例研究刑事法Ⅱ刑事訴訟法(第 2 版)』(2015 年)633 頁〔小川佳樹〕。

77) 葛野尋之「宅配便荷物のエックス線検査の適法性」法律時報 83 巻 2 号(2011 年)123 頁 参照。

78) また、K 巡査の行為は「軽度で一時的な有形力の行使であって」、身体・行動の自由と いう重要な権利利益を制約するものではないとする立場においても、当該行為を任意処 分と位置づけたうえで、法益侵害の質・程度と広義の必要性とが合理的権衡を保ち具体 的事情の下で相当といえるかを判断し、結論として「不相当な行為ということはでき〔な い〕」としたものと理解されることになる(大澤・前掲注 76)5 頁。同旨、井田ほか編・

前掲注 76)627、633 頁〔小川佳樹〕)。しかしながら、このような任意処分の適否の判断 枠組みが妥当するにしても、そこでは、いかなる法益侵害が想定されているのか、いか なる法益侵害を想定し得るのかは、必ずしも明らかではない(なお、井田ほか編・前掲 注 76)633 頁〔小川佳樹〕は、K 巡査の行為は「一定の法益を制約している」とするが、

その中身は必ずしも明らかにはされていない)。

明である

79)

。しかしながら、このような侵害の程度を考慮する説明の仕方は、

そもそも強制処分に関する理解の前提との矛盾・抵触を孕むものであり、説 明としてはきわめて困難であるといえよう

80)

 以上からすると、強制処分に関する通説的理解に立った場合には、K 巡査

の制止行為は逮捕という強制処分に該当しない、との最高裁昭和 51 年決定

が採用する帰結を説明づけることは困難というべきなのである。そして、こ

のことは、最高裁昭和 51 年決定が、強制処分に関して、通説的理解のよう

な考え方を採用していないことを示唆しているものともいえよう。