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『浜松中納言物語』:巻三注釈(一)

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『浜松中納言物語』:巻三注釈(一)

著者

浜松中納言物語の会 巻三分会

雑誌名

日本文藝研究

71

1

ページ

1-22

発行年

2019-10-30

URL

http://hdl.handle.net/10236/00028329

(2)

一 九 九 六 年 に 活 動 を 開 始 し た ﹁ 浜 松 中 納 言 物 語 の 会 ﹂ は 、 二 〇 一 二 年 に ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 巻 一 注 釈 ﹄ を 上 梓 し た 後 、 巻 二 分 会 と 巻 三 分 会 に 分 か れ 、 活 動 を 継 続 し て き た 。 そ の う ち 、 巻 三 分 会 は 二 〇 一 七 年 以 降 、 関 西 学 院 大 学 を 会 場 ︵ 責 任 者 星 山 健 ︶ と し て 、 こ れ ま で そ の 注 釈 の 検 討 作 業 を 行 っ て き た が 、 今 回 は そ の 成 果 の う ち 、 冒 頭 部 か ら ﹁ ⋮ ⋮ こ の 御 消 息 を 奉 り 給 へ ﹄ と て 、 取 ら せ 給 へ り 。 ﹂ ま で の 範 囲 ︵ 小 学 館 新 編 日 本 古 典 文 学 全 集 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 一 九 九 頁 一 行 目 ∼ 二 〇 五 頁 十 一 行 目 に 該 当 ︶ を 、 こ の 場 を 借 り て 公 表 す る 。 こ の 間 の 参 加 者 は 、 星 山 健 ︵ 本 学 教 授 ︶ ・ 松 浦 あ ゆ み ︵ 京 都 女 子 大 学 非 常 勤 講 師 ︶ ・ 八 島 由 香 ︵ 花 園 大 学 非 常 勤 講 師 ︶ ・ 横 山 恵 理 ︵ 大 阪 工 業 大 学 講 師 ︶ の 四 名 で あ る 。 な お 、 各 区 分 の 担 当 者 は 以 下 の と お り で あ る が 、 い ず れ も 参 加 者 全 員 に よ る 討 議 を 経 た も の で あ る 。 凡 例 一 、 本 稿 は 、 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ ︵ 現 存 ︶ 巻 三 の 注 釈 で あ る 。 既 に 刊 行 し て い る 、 浜 松 中 納 言 物 語 の 会 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 巻 一 注 釈 ﹄ ︵ 私 家 版 、 一 九 九 六 年 ︶ の 続 稿 で あ る 。 本 稿 の 底 本 に は 、 国 立 国 会 図 書 館 蔵 榊 原 芳 野 旧 蔵 本 を 使 用 し た 。 直 接 に は 左 記 の 影 印 に よ り 、 校 訂 を 施 し た 。 底 本 影 印 の 使 用 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 一

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を 許 可 し て く だ さ っ た 笠 間 書 院 に 謝 意 を 表 す る 。 池 田 利 夫 編 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 、 笠 間 書 院 、 一 九 七 二 年 そ の 他 に も 、 国 立 国 会 図 書 館 H P ﹁ 国 立 国 会 図 書 館 デ ジ タ ル コ レ ク シ ョ ン ﹂ の 底 本 巻 三 画 像 ︵http ://d l.n dl. go .jp /in fo :n dljp /p id / 2575506 ︶ を 参 照 し て い る 。 二 、 巻 三 で は 本 文 を 適 宜 分 け 、 各 区 分 ご と に ︻ 区 分 番 号 ︼ ・ 区 分 題 ・ 底 本 と 先 行 注 釈 書 の 対 応 頁 行 ︵ 各 書 名 と 略 称 は 凡 例 六 で 記 す ︶ を 付 し た 上 で 、 本 文 ︵ 凡 例 三 参 照 ︶ ・ ︹ 校 異 ︺ の 欄 ︵ 凡 例 四 参 照 ︶ ・ 注 釈 欄 ・ ︻ 参 考 ︼ 欄 ︵ 以 上 二 欄 は 凡 例 五 参 照 ︶ を 設 け た 。 三 、 底 本 の 本 文 校 訂 に つ い て 先 行 注 釈 書 ︵ 凡 例 六 参 照 ︶ の 校 訂 本 文 を 適 宜 参 照 し つ つ 、 濁 点 ・ 句 読 点 ・ 会 話 の ﹁ ﹂ を 付 し 漢 字 を あ て 、 通 常 の 歴 史 的 仮 名 遣 い に 改 め 、 反 復 記 号 ︵ ゝ ・ ! " ︶ や 宛 字 を 普 通 の 表 記 に 改 め る な ど 、 よ み や す さ を 優 先 し た 。 会 話 は 改 行 し 一 字 下 げ 、 和 歌 ︵ 底 本 で も 改 行 ︶ は 二 字 下 げ に し た 上 で 、 そ れ ぞ れ 話 者 ・ 詠 者 の 人 物 名 を 細 字 で 注 記 し た 。 あ て た 漢 字 が 底 本 の 表 記 と か け 離 れ て い る 場 合 は 、 底 本 の 表 記 を ふ り が な で 示 し た 。 た だ し 、 本 注 釈 で は 唐 土 を 舞 台 と し た 作 中 設 定 と 使 用 語 彙 と の 兼 ね 合 い に 注 目 し た 関 係 上 、 以 下 の 通 り 定 め た 。 ① 唐 土 の 地 名 ・ 建 築 物 ・ 固 有 人 物 名 の 場 合 漢 字 を あ て た 場 合 は 底 本 の 表 記 を ふ り が な で 示 し た 。 た だ し 、 ﹁ や う き ひ ﹂ の よ う に 通 常 の 歴 史 的 仮 名 遣 い に な っ て い る 人 名 か う や う け ん さ ん い う え う し う ち や う り や ﹁ 河 陽 県 ﹂ ﹁ 山 陰 ﹂ ﹁ 雍 州 ﹂ ﹁ 丁 里 ﹂ の よ う に さ ま ざ ま な 表 記 が あ っ て も 頻 出 す る 地 名 の 場 合 は 、 本 文 中 漢 字 表 記 の み に し た り 、 ふ り が な を 統 一 表 記 に し た 。 ② 字 音 語 の 場 合 音 読 み ・ 訓 読 み 両 方 が 想 定 さ れ る 語 ﹁ 大 臣 ﹂ ﹁ 内 裏 ﹂ ﹁ 日 本 ﹂ ﹁ 故 郷 ︵ ま た は 古 郷 ︶ ﹂ ﹁ 内 々 ﹂ ﹁ 御 前 ﹂ ﹁ 琴 ﹂ な ど の 場 合 、 底 本 の 字 音 表 記 は 漢 字 を あ て た 上 で 底 本 の 表 記 を ふ り が な で 示 し 、 漢 字 の み の 表 記 で は ふ り が な を 付 さ ず 、 一 方 で 底 本 表 記 が そ れ ぞ れ ﹁ お と ど ﹂ ﹁ う ち ﹂ ﹁ ひ の も と ﹂ ﹁ ふ る さ と ﹂ ﹁ う ち う ち ﹂ ﹁ お ん ま へ ﹂ ﹁ こ と ﹂ の 場 合 は ふ り が な で 示 し 、 同 じ 漢 字 表 記 の 中 で 区 別 あ い し ゑ し や く へ ん げ ん れ う と う げ い す ざ う が ん ろ う だ い し た 。 ま た 、 ﹁ 愛 子 ﹂ ﹁ 会 釈 ﹂ ﹁ 変 現 ﹂ ﹁ 竜 頭 鷁 首 ﹂ ﹁ 象 眼 ﹂ ﹁ 楼 台 ﹂ な ど も 、 底 本 の 表 記 を ふ り が な で 示 す か 、 注 釈 欄 で 示 し た 。 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 二

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四 、 ︹ 校 異 ︺ 欄 に つ い て 各 区 分 の 本 文 の 直 後 に 設 け た 。 底 本 の 校 訂 の 際 に 仮 名 遣 い の 違 い を 問 わ ず 、 字 句 自 体 を 改 め た も の に 限 っ て 、 本 文 中 の 各 該 当 部 分 の 最 初 に 番 号 を 傍 記 し た 上 で 、 校 訂 前 の 底 本 表 記 を 注 記 し た 。 五 、 注 釈 欄 ・ ︻ 参 考 ︼ 欄 に つ い て 注 釈 欄 で は 、 各 区 分 の 本 文 中 の 語 句 を 立 項 し た 。 文 意 の 概 略 や 主 語 ・ 目 的 語 な ど を わ か り や す く 示 し 、 先 行 研 究 を 踏 ま え つ つ 新 見 を 示 す よ う 努 め た 。 ま た 、 区 分 に よ っ て は 、 各 末 尾 の ︻ 参 考 ︼ 欄 に お い て 適 宜 、 資 料 ・ 先 行 研 究 の 紹 介 や 独 自 の 考 察 を 記 し た 。 注 記 す べ き 点 は 次 の 通 り で あ る 。 ① 散 逸 首 巻 の 推 定 内 容 に つ い て 本 文 の 該 当 箇 所 の 注 で は 各 推 定 内 容 を 記 し た が 、 散 逸 首 巻 全 体 と し て の 復 元 内 容 は 、 先 行 注 釈 書 ︵ 凡 例 六 参 照 ︶ で 掲 出 の 各 梗 概 を 参 照 さ れ た い 。 ② 引 用 し た 古 典 作 品 な ど の 本 文 に つ い て は 、 左 記 の 校 訂 書 本 文 を 元 に 、 さ ら に よ み や す く 漢 字 を あ て 表 記 を 改 め た 。 歌 集 ・ 歌 合 ・ 歌 謡 ・ 歌 学 書 類 八 代 集 │ ﹁ 岩 波 新 日 本 古 典 文 学 大 系 ﹂ ﹃ 万 葉 集 ﹄ │ 佐 竹 昭 広 他 ﹃ 万 葉 集 本 文 編 ﹄ 塙 書 房 ﹃ 漢 故 事 和 歌 集 ﹄ │ 池 田 利 夫 ﹁ 漢 故 事 和 歌 集 の 成 立 に 就 い て ﹂ ︵ ﹁ 鶴 見 女 子 大 学 紀 要 ﹂ 二 所 載 ︶ の 翻 刻 ﹃ 物 語 後 百 番 歌 合 ﹄ │ 樋 口 芳 麻 呂 校 注 ﹃ 王 朝 物 語 秀 歌 選 ︵ 上 ︶ ﹄ 岩 波 文 庫 所 載 の ﹃ 物 語 二 百 番 歌 合 ﹄ 催 馬 楽 │ ﹁ 小 学 館 新 編 日 本 古 典 文 学 全 集 ﹂ 歌 集 類 ︵ ﹃ 和 漢 朗 詠 集 ﹄ を 含 む ︶ │ ﹁ 新 編 国 歌 大 観 ﹂ デ ー タ ベ ー ス 使 用 歌 学 書 類 │ ﹁ 日 本 歌 学 大 系 ﹂ 物 語 ・ 説 話 ・ 随 筆 ・ 日 記 類 ﹃ う つ ほ 物 語 ﹄ │ 室 城 秀 之 校 注 ﹃ う つ ほ 物 語 ﹄ お う ふ う ﹃ 有 明 の 別 れ ﹄ │ 大 槻 修 校 注 訳 ﹃ 対 訳 日 本 古 典 新 書 有 明 の 別 れ ﹄ 創 英 社 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 三

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﹃ 唐 物 語 ﹄ │ 池 田 利 夫 編 ﹃ 校 本 唐 物 語 ﹄ 笠 間 書 院 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 二 以 降 ・ ﹃ 古 今 著 聞 集 ﹄ │ ﹁ 岩 波 日 本 古 典 文 学 大 系 ﹂ ﹃ と り か へ ば や 物 語 ﹄ ﹃ 三 宝 絵 詞 ﹄ ﹃ 宝 物 集 ﹄ ﹃ 江 談 抄 ﹄ │ ﹁ 岩 波 新 日 本 古 典 文 学 大 系 ﹂ そ れ 以 外 の 物 語 ・ 説 話 ・ 随 筆 ・ 日 記 類 │ ﹁ 小 学 館 新 編 日 本 古 典 文 学 全 集 ﹂ 律 令 ・ 六 国 史 ・ 古 記 録 ・ 故 実 書 類 ﹁ 新 訂 増 補 国 史 大 系 ﹂ ・ ﹁ 大 日 本 古 記 録 ﹂ ・ ﹁ 新 訂 増 補 故 実 叢 書 ﹂ 経 典 類 ﹁ 大 正 新 修 大 蔵 経 ﹂ デ ー タ ベ ー ス 使 用 古 辞 書 類 ﹃ 和 名 抄 ﹄ │ 京 都 大 学 文 学 部 国 語 学 国 文 学 研 究 室 編 ﹃ 諸 本 集 成 倭 名 類 聚 抄 ﹄ 臨 川 書 店 六 、 注 釈 書 や 校 本 な ど の 参 考 書 類 に つ い て は 、 本 注 釈 に お い て 常 時 度 々 言 及 す る 必 要 上 、 簡 便 に 引 用 す る た め 略 称 を 次 の 通 り 用 い た 。 ︵ 左 記 以 外 で 論 文 集 な ど の 参 考 文 献 は 、 本 注 釈 に お い て 関 係 箇 所 で 随 時 掲 出 し た 。 ︶ ① 先 行 注 釈 書 宮 下 清 計 校 注 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 新 註 国 文 学 叢 書 大 日 本 雄 弁 会 講 談 社 一 九 五 一 年 復 刻 版 ︵ 物 語 文 学 叢 書 8 ︶ ク レ ス 出 版 一 九 九 九 年 ︿ 松 尾 聡 校 注 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 日 本 古 典 文 学 大 系 岩 波 書 店 一 九 六 四 年 ︿ 久 下 晴 康 ︵ 裕 利 ︶ 編 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 桜 楓 社 ︵ お う ふ う ︶ 一 九 八 八 年 ︿ 池 田 利 夫 校 注 訳 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 新 編 日 本 古 典 文 学 全 集 小 学 館 二 〇 〇 一 年 ︿ 中 西 健 治 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 全 注 釈 ﹄ 和 泉 書 院 二 〇 〇 五 年 ︿ 浜 松 中 納 言 物 語 の 会 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 巻 一 注 釈 ﹄ ︵ 私 家 版 、 一 九 九 六 年 ︶ ︻ 区 分 番 号 ︼ な ど ② 校 本 、 諸 本 本 文 、 語 彙 ・ 人 物 ・ 和 歌 の 各 索 引 小 松 茂 美 編 ﹃ 校 本 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 二 玄 社 一 九 六 四 年 尾 上 八 郎 ・ 松 尾 聡 編 ﹃ 尾 上 本 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 春 陽 堂 一 九 三 六 年 池 田 利 夫 編 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 総 索 引 ﹄ 武 蔵 野 書 院 一 九 六 四 年 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 四

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鈴 木 弘 道 編 ﹃ 平 安 末 期 物 語 人 物 事 典 ﹄ 和 泉 書 院 一 九 八 四 年 ︿ 堀 口 悟 他 編 ﹃ 平 安 後 期 物 語 引 歌 索 引 狭 衣 寝 覚 浜 松 ﹄ 新 典 社 一 九 九 一 年 ︿ み よ し の ︻ 一 ︼ 中 納 言 、 唐 后 の 文 箱 を 携 え 、 深 吉 野 を 訪 問 す る 。 ︵ 担 当: 星 山 健 ︶ │ 底 本 一 オ ① 、 新 註 二 一 四 ① 、 大 系 二 六 四 ① 、 桜 楓 九 七 ① 、 新 全 集 一 九 九 ① 、 全 注 釈 五 二 七 │ み よ し の 世 の 中 の 深 き た め し に は 、 吉 野 の 山 と 名 に 流 れ た る よ り も 、 な ほ 奧 な る 深 吉 野 と い ふ 所 な り も ろ こ し か ひ け れ ば 、 唐 土 に 渡 り し は 、 さ る べ き 人 あ ま た し て 、 言 ふ 効 な く 漕 ぎ 離 れ に き 、 忍 び や か に 人 少 な に て 分 け 入 り 給 ふ ほ ど 、 世 に 知 ら ず も の 心 細 き に 、 頃 は 三 月 の 二 十 日 の ほ ど な れ ば 、 雪 こ そ ① 積 も ら ね 、 谷 の 底 な ど に は な ほ う ち 消 え と ま り つ つ 、 都 に は 皆 青 葉 に な り に し 花 の 梢 、 今 盛 り ひ ら も ろ こ し に 開 け 、 散 り 残 れ る も 風 に 知 ら せ む 、 惜 し げ に 見 え 渡 さ る る に 、 唐 土 の こ と の み 思 し や ら れ て 、 中 納 言 み よ し の 恋 し さ は 遅 れ ざ り け り 深 吉 野 の 山 よ り 深 く 思 ひ 入 れ ど も か く て お は し 着 き た れ ば 、 山 の 方 に 堂 い と を か し う 建 て て 、 わ が 居 所 は 、 廊 だ つ 物 を い と か ね り そ め に 造 り て 住 ま ひ た る あ り さ ま 、 鳥 の 音 だ に 世 の 常 な る は 聞 こ ゆ べ う も あ ら ぬ 世 界 に 、 呉 中 納 言 竹 を 隔 て て ぞ 人 の 家 は 見 ゆ る 。 ﹁ 誰 か は か か る 住 ま ひ す る 人 の あ ら む ﹂ 、 見 つ つ 入 り 給 へ ば 、 聖 思 ひ も 寄 ら ず 、 あ さ ま し げ に 思 ひ 驚 き た る さ ま 限 り な し 。 弟 子 ど も な ど 立 ち 騒 ぎ 清 め し 、 よ き お ま し 御 座 な ど 参 り て 入 れ 奉 り け り 。 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 五

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︹ 校 異 ︺ ① 積 も ら ね │ 底 本 ﹁ つ も ら ぬ ﹂ 注 釈 ○ 世 の 中 の 深 き た め し に は │ 世 間 で 言 う 奥 深 い 土 地 の 典 型 例 と し て は 、 の 意 。 ﹃ 落 窪 物 語 ﹄ 巻 四 ﹁ 女 の 男 に 思 は れ た ま ふ た め し 例 に は 、 こ の 北 の 方 を し た て ま つ る べ し ﹂ 。 な お 、 こ の 巻 頭 は 巻 一 ・ 二 と 同 じ く 旅 中 の 場 面 か ら 始 め ら れ て い る 。 特 に 巻 一 と は 異 境 へ の 旅 と し て 共 通 す る 。 ○ 名 に 流 れ た る │ 名 高 い の 意 。 ﹁ 名 に 流 る ﹂ は 巻 五 に も 一 例 あ る 。 ﹁ い と う た て 乱 れ が は し く 、 け し か ら ぬ 名 に 流 れ ぬ べ き を ﹂ 。 同 語 は ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ に 用 例 が 無 い の に 対 し 、 ﹃ 夜 の 寝 覚 ﹄ に は 二 例 見 ら れ る 。 ﹁ 名 に 流 れ た る 人 な れ ば ぞ か し ﹂ ︵ 巻 一 ︶ 、 ﹁ 名 に 流 れ た る 曙 の 空 霞 み わ た り ﹂ ︵ 巻 四 ︶ 。 み よ し の ○ な ほ 奥 な る 深 吉 野 と い ふ 所 │ 巻 二 ︻ 四 七 ︼ ﹁ 吉 野 の あ な た に 深 吉 野 と い ふ と こ ろ ﹂ を 承 け る 。 ○ 唐 土 に 渡 り し は 、 さ る べ き 人 あ ま た し て 、 言 ふ 効 な く 漕 ぎ 離 れ に き │ 挿 入 句 。 ﹁ さ る べ き 人 あ ま た ﹂ は 、 ︿ 大 系 ﹀ 補 注 の 説 く と お り 、 今 の 吉 野 行 き を 語 る 以 下 の ﹁ 忍 び や か に 人 少 な ﹂ と 対 比 さ せ て い る の で あ ろ う 。 し か し 、 ﹁ 言 ふ 効 な く 漕 ぎ 離 れ ﹂ は ﹁ 世 に 知 ら ず も の 心 細 き ﹂ と む し ろ 心 情 的 に 近 く 、 対 比 の 関 係 に な っ て い な い 。 な お 、 渡 唐 時 の 心 境 を 回 想 す る に 際 し 、 巻 一 ︻ 三 七 ︼ 若 君 を 連 れ て の 帰 国 を 決 意 す る 際 に は 、 ﹁ た け う 漕 ぎ 離 れ に し は 、 言 ふ 効 な く て 過 ぐ さ れ ず や は ﹂ と さ れ て い た 。 ○ 頃 は 三 月 の 二 十 日 の ほ ど │ 巻 一 ︻ 三 一 ︼ に ﹁ 帰 ら む こ と は 、 九 月 つ ご も り と 定 め ら る る に ﹂ と あ っ た 。 お そ ら く 中 納 言 は そ の 予 定 ど お り に 唐 土 を 発 ち 、 年 内 に 帰 国 し た と 思 わ れ る が 、 こ こ ま で 日 付 表 記 が な い 。 こ こ は そ の 翌 年 ︵ 物 語 四 年 目 ︶ で あ る 。 ︿ 新 全 集 ﹀ は ﹁ 旧 暦 な の で 現 在 の 四 月 下 旬 ほ ど の 感 覚 ﹂ と す る が 、 太 陰 太 陽 暦 に お い て は 、 た と え ば 立 春 に し て も 、 一 二 月 一 六 日 か ら 一 月 一 五 日 の 間 の ど こ に 来 る か 不 定 で あ り 、 そ の よ う な 特 定 は 出 来 な い 。 田 中 新 一 ﹃ 平 安 朝 文 学 に 見 る 二 元 的 四 季 観 ﹄ ︵ 風 間 書 房 一 九 九 〇 年 ︶ 参 照 。 た だ し 、 以 下 の 描 写 か ら 夏 に ほ ど 近 い 晩 春 と い う 設 定 は 十 分 に 読 み 取 れ る 。 な お 、 ︿ 全 注 釈 ﹀ は 、 ﹁ こ の あ た り は 源 氏 物 語 ・ 若 紫 巻 の 冒 頭 箇 所 と 通 う 描 写 が あ る ﹂ と 指 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 六

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摘 す る 。 ○ 風 に 知 ら せ む │ 諸 注 と も ﹃ 拾 遺 抄 ﹄ 巻 一 ﹁ あ し ひ き の 山 が く れ な る さ く ら 花 ち り の こ れ り と 風 に し ら す な ﹂ ︵ 春 ・ 四 五 ・ 小 弐 命 婦 ﹃ 拾 遺 集 ﹄ は ﹁ し ら る な ﹂ ︶ に 拠 る 表 現 と す る 。 ○ 唐 土 の こ と の み 思 し や ら れ て │ こ こ で 唐 土 を 想 起 す る 理 由 は 、 一 義 的 に は 今 、 唐 后 の 母 の も と を 訪 れ よ う と し て い る こ と に 拠 る と 思 わ れ る 。 た だ し 、 巻 一 ︻ 一 八 ︼ 、 唐 后 と 逢 瀬 を 交 わ し た 山 陰 の 描 写 に 、 ﹁ 川 に 沿 ひ た る 山 の 麓 な る 家 ﹂ ﹁ 花 い と 前 近 く 面 白 き ﹂ と あ っ た こ と を 考 え る な ら ば 、 中 納 言 は 吉 野 の 花 を 契 機 に 唐 后 を 想 起 し た と も 考 え ら れ る か 。 そ う で あ る な ら ば 、 風 物 の 類 似 か ら 過 去 の 女 性 を 思 い 出 す 点 に お い て 、 巻 一 ︻ 一 ︼ の 大 将 大 君 の 場 合 と 同 じ 。 ○ ﹁ 恋 し さ は ⋮ ⋮ ﹂ の 歌 │ 中 納 言 の 独 詠 歌 。 唐 后 へ の 恋 し さ は 身 に つ き ま と っ て 来 る こ と だ 、 彼 女 の こ と を 深 く 思 い な み よ し の が ら 、 深 吉 野 の 山 の 奥 ま で 深 く 分 け 入 っ て 来 た が 、 の 意 。 ︿ 新 全 集 ﹀ は 散 逸 首 巻 に あ っ た と 思 わ れ る ﹃ 風 葉 集 ﹄ 巻 八 所 収 歌 ﹁ 身 に 添 へ る 面 影 の み ぞ こ ぎ 離 れ 行 く 波 路 と も 遅 れ ざ り け り ﹂ ︵ 離 別 ・ 五 三 五 ・ は ま ま つ の 中 納 言 詞 書 は ﹁ も ろ こ し に わ た る と て 、 道 よ り 女 の も と に つ か は し け る ﹂ ︶ を あ げ る 。 本 作 品 に あ っ て 同 じ く ﹁ お く れ ざ り け り ﹂ と 中 納 言 の 歌 に 詠 ま れ る 対 象 が 、 大 将 大 君 の 面 影 か ら 唐 后 へ の 恋 し さ へ と 変 わ っ た こ と が う か が え る 。 な お 、 時 代 は 下 る が 、 ﹃ 詞 花 集 ﹄ 巻 七 に ﹁ 堀 河 院 御 時 、 百 首 歌 た て ま つ り け る に よ め る ﹂ の 詞 書 で 、 ﹁ わ が 恋 は 吉 野 の 山 の お く な れ や 思 ひ い れ ど も あ ふ 人 も な し ﹂ ︵ 恋 上 ・ 二 一 二 ・ 修 理 大 夫 顕 季 ︶ と い う 歌 が あ る 。 み よ し ○ わ が 居 所 は 、 廊 だ つ 物 を い と か り そ め に 造 り て 住 ま ひ た る あ り さ ま │ 巻 二 ︻ 四 七 ︼ ﹁ も ろ こ し に 渡 り た り し 聖 ﹂ の 深 吉 の 野 で の 住 ま い 。 堂 に 繋 が る 渡 殿 の よ う な 場 所 に 仮 ご し ら え の 居 住 空 間 が 設 け ら れ て い る 。 ○ 鳥 の 音 だ に 世 の 常 な る は 聞 こ ゆ べ う も あ ら ぬ 世 界 │ 鳥 の 声 さ え も 世 間 で 普 通 の も の は 聞 こ え る は ず も な い と こ ろ 、 の 意 。 つ ま り 、 都 で は 聞 い た こ と の な い よ う な 鳥 の 鳴 き 声 が す る と い う こ と で あ ろ う 。 よ っ て 、 諸 注 が 引 く ﹃ 古 今 集 ﹄ 巻 一 一 ﹁ と ぶ 鳥 の 声 も き こ え ぬ 奥 山 の ふ か き 心 を 人 は 知 ら な む ﹂ ︵ 恋 一 ・ 五 三 五 ・ よ み 人 し ら ず ︶ や ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ 総 角 巻 ﹁ 鳥 の 音 も き こ え ぬ 山 と 思 ひ し を 世 の う き こ と は 尋 ね 来 に け り ﹂ は 、 こ の 歌 と は 発 想 と し て 直 接 つ な が る も の で は み よ し の な い 。 な お 、 こ こ で の ﹁ 世 界 ﹂ は 、 深 吉 野 の こ と 。 巻 一 で は 唐 土 を 指 し た 言 葉 で あ っ た が ︵ 巻 一 ︻ 一 一 ︼ ︶ 、 巻 三 以 降 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 七

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み よ し の で は 、 異 郷 的 な 場 所 と し て の 深 吉 野 を 表 現 す る 言 葉 と な っ て い る 。 ○ 呉 竹 を 隔 て て ぞ 人 の 家 は 見 ゆ る │ ︿ 桜 楓 ﹀ に 、 ﹃ 夜 の 寝 覚 ﹄ 巻 一 ﹁ 東 に 、 た だ 呉 竹 ば か り を 隔 て た る 所 に 、 ︵ 略 ︶ 渡 り て 尼 に な り に け る ﹂ と ﹁ 共 通 情 景 が み え る ﹂ と の 指 摘 が あ る 。 ︻ 二 ︼ 中 納 言 、 吉 野 聖 と 対 面 、 唐 后 の 消 息 を 伝 え る 。 ︵ 担 当: 星 山 健 ︶ │ 底 本 二 オ ⑥ 、 新 註 二 一 五 ② 、 大 系 二 六 五 ② 、 桜 楓 九 八 ① 、 新 全 集 二 〇 〇 ⑨ 、 全 注 釈 五 三 五 │ お い び と 聖 は 年 六 十 ば か り に て 、 も と 人 柄 は 口 惜 し き 際 に は あ ら ざ り け れ ば に や 、 な げ の 老 人 と も 見 い や え ず 、 も の 清 げ に さ ら ぼ ひ て 賤 し か ら ず 、 住 ま ひ な ど 汚 げ な ら ず し な し て 、 堂 ど も あ ら ま ほ し げ な り 。 吉 野 聖 ま づ う ち ま も り 奉 り て 、 ﹁ 仏 な ど の 変 じ あ ら は れ 給 へ る に や ﹂ と 見 驚 か れ て 、 う ち 泣 き つ つ 、 年 頃 の 御 物 語 申 し 、 我 も の た ま は せ て 、 中 納 言 唐 后 ﹁ 唐 土 の 三 の 宮 の 御 母 后 、 ﹃ し か じ か の 聖 に 御 消 息 聞 こ え し を 、 い か が な り に け む 。 そ の 人 は ま だ 世 に や お は す る と 、 そ の 聖 に 会 ひ 奉 り て 、 必 ず 尋 ね 聞 こ え よ ﹄ と の た ま は せ て 、 御 消 息 伝 へ 給 へ る を 、 帰 り ま う で 来 し す な は ち も 、 え 尋 ね 出 だ し 奉 ら ず 。 ま た い と も の 騒 が し ま ぎ く 、 紛 ら わ し き こ と ど も の み 侍 り て 、 今 ま で に な り 侍 り に け る を 、 か ら う じ て な む 、 こ の 山 に お は す る と 聞 き つ け 奉 る ま ま に 、 喜 び な が ら ﹂ な ど の た ま ふ 。 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 八

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注 釈 ○ 聖 は 年 六 十 ば か り に て │ ︿ 新 全 集 ﹀ は ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ 明 石 巻 、 明 石 の 入 道 に 関 す る 条 を あ げ る 。 ﹁ 年 は 六 十 ば か り に な り た れ ど 、 い と き よ げ に 、 あ ら ま ほ し う 、 行 ひ さ ら ぼ ひ て 、 人 の ほ ど の あ て は か な れ ば に や あ ら む ⋮ ⋮ も の き た な か ら ず よ し づ き た る こ と も ま じ れ れ ば ﹂ 。 波 線 を 施 し た 、 人 物 の 形 容 が 建 物 の そ れ に 置 き 換 え ら れ て い る も の も 含 め る な ら ば 、 き わ め て 多 く の 語 の 一 致 が 見 ら れ る 。 直 接 的 な 影 響 関 係 が 想 定 さ れ よ う 。 辺 境 に 住 ま う 、 出 自 賤 し か ら ぬ 僧 の イ メ ー ジ を 持 た せ よ う と し て い る か 。 ま た 、 渡 唐 後 、 吉 野 に 隠 棲 す る 、 特 殊 な 能 力 を 持 つ 聖 と し て 、 ﹃ と り か へ ば や 物 語 ﹄ 吉 野 宮 へ の 影 響 が 従 来 指 摘 さ れ て い る 。 ○ な げ の 老 人 と も 見 え ず │ ﹁ な げ ﹂ は 一 般 的 に ﹁ な げ や り な さ ま ・ い い 加 減 な さ ま ﹂ を 表 す 。 ﹁ な げ の 言 の 葉 ﹂ ﹁ な げ の あ は れ ﹂ と い っ た 用 例 が 多 く 、 人 を 形 容 す る 例 は 珍 し い 。 こ こ で は 、 ﹁ 取 る に 足 ら ぬ 老 人 と は 見 え な い ﹂ の 意 。 ○ 仏 な ど の 変 じ あ ら は れ 給 へ る に や │ ﹁ 仏 の 変 ず ﹂ と い う 用 例 は ︿ 全 注 釈 ﹀ が 指 摘 す る よ う に ﹃ 浜 松 ﹄ 内 に 計 四 例 見 ら れ る 。 一 例 は 中 納 言 と 唐 后 の 子 で あ る 若 君 、 残 り 三 例 は 中 納 言 を 賛 美 す る も の で あ る 。 表 現 は 異 な る が 、 ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ 蓬 生 巻 、 末 摘 花 の 兄 禅 師 が 光 源 氏 を 賛 美 す る ﹁ 仏 、 菩 薩 の 変 化 の 身 に こ そ も の し た ま ふ め れ ﹂ も 同 趣 旨 で あ る 。 ○ 唐 土 の 三 の 宮 の ⋮ ⋮ 喜 び な が ら │ 巻 一 ︻ 三 八 ︼ に お け る 唐 后 か ら の 依 頼 を 受 け て の 、 聖 に 対 す る 中 納 言 の 発 話 。 日 本 に 暮 ら す 母 宛 の 手 紙 を 以 前 渡 唐 僧 に 託 し た が 、 そ の 後 音 信 が 無 い の で 確 認 し て ほ し い と の 依 頼 が 、 唐 后 か ら 中 納 言 に な さ れ て い た 。 ○ そ の 人 │ 唐 后 の 母 。 ○ す な は ち も │ こ の 語 の 用 例 は 少 な い 。 ﹃ 蜻 蛉 日 記 ﹄ 下 巻 ﹁ こ の 除 目 の 徳 に や と 思 ひ た ま へ し か ば 、 す な は ち も 聞 こ え さ す べ か り し を ﹂ 、 ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ 宿 木 巻 ﹁ 例 な ら ず ゆ る さ せ た ま へ り し よ ろ こ び に 、 す な は ち も 参 ら ま ほ し く は べ り し を ﹂ 。 こ れ ら の 例 か ら 見 て も 、 下 に ﹁ 参 ら ま ほ し く は べ り し を ﹂ な ど が 省 略 さ れ て い る と す る ︿ 新 全 集 ﹀ の 理 解 は 妥 当 で あ ろ う 。 ○ い と も の 騒 が し く 、 紛 ら わ し き こ と ど も │ 大 将 大 君 と の 関 係 を は じ め と す る 家 庭 問 題 を 暗 に 匂 わ せ る 。 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 九

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○ か ら う じ て な む │ ﹁ 聞 き つ け 奉 る ﹂ に 係 る 。 や っ と の こ と で 聖 の 所 在 を 見 つ け た と 、 中 納 言 は 述 べ て い る 。 た だ し 、 巻 二 ︻ 四 七 ︼ の 記 述 か ら は 、 中 納 言 が 聖 を 探 し 始 め た の は 帰 国 後 し ば ら く 経 っ て か ら と 思 わ れ 、 ま た 、 そ の 居 場 所 を 探 し 出 す の に 難 儀 を し た 様 子 も う か が え な い 。 ︻ 三 ︼ 吉 野 聖 、 唐 后 の 母 ︵ 吉 野 尼 君 ︶ の 所 在 を 語 る 。 ︵ 担 当: 松 浦 あ ゆ み ︶ │ 底 本 三 オ ③ 、 新 註 二 一 五 ⑩ 、 大 系 二 六 五 ⑬ 、 桜 楓 九 八 ⑨ 、 新 全 集 二 〇 一 ⑧ 、 全 注 釈 五 三 六 │ 聖 、 吉 野 聖 あ ん な い ﹁ か の 国 に 侍 り し ほ ど 、 案 内 申 し し か ば 、 常 に 召 し つ つ 、 泣 く 泣 く こ の 母 宮 の 御 こ と を の た ま は せ て 、 い み じ う ね ん ご ろ に 仰 せ 言 侍 り て 、 御 消 息 つ け お は し ま し た り し は 、 確 か に 伝 へ 吉 野 尼 君 申 し 侍 り き 。 ﹃ い か な る 便 り し て 、 こ の 御 返 り を 申 さ む ﹄ と 、 悲 し び 思 し た れ ど 、 い づ こ の 便 り か は 侍 ら む 。 渡 り お は し ま す よ し を 、 そ の ほ ど と 承 ら で 、 こ の 御 返 り 言 を 告 げ 申 さ ず な り 侍 り し こ と を 、 い と ほ し う 思 ひ 給 へ り し に 、 い と う れ し う 候 ふ こ と か な ﹂ こ た と 答 へ 聞 こ ゆ 。 中 納 言 ﹁ い づ ち に か も の し 給 ふ ﹂ と 問 ひ 給 へ ば 、 吉 野 聖 ひ ん が し ﹁ こ の 東 に な む も の し 給 ふ ﹂ と 言 ふ に 、 驚 き 給 ひ て 、 中 納 言 ﹁ い と さ し も 深 き 住 ま ゐ を ば 、 い か に し 給 ふ ぞ 。 も と は 何 人 の い か な る つ い で に 、 さ る 世 に ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 一 〇

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め づ ら し き 契 り は も の し 給 ひ け る ぞ ﹂ と 問 ひ 給 へ ば 、 注 釈 ○ か の 国 に 侍 り し ほ ど │ 吉 野 聖 が 唐 土 に 滞 在 し て い た 時 。 以 下 ﹁ 御 消 息 つ け お は し ま し た り し は ﹂ ま で は 、 渡 唐 時 の 吉 野 聖 に 唐 后 が 母 の 話 を 懇 望 し 手 紙 を こ と づ け た 時 の 説 明 。 ○ 案 内 申 し し か ば 、 常 に 召 し つ つ ⋮ ⋮ の た ま は せ て │ 吉 野 聖 が 唐 后 に ﹁ 案 内 申 す ﹂ つ ま り 母 の 様 子 を あ れ こ れ と 知 ら せ た の に 対 し 、 后 が 絶 え 間 な く 傍 に 呼 び 寄 せ て く わ し く 尋 ね て い た こ と 。 ﹁ 泣 く 泣 く ﹂ と い う 唐 后 の 様 子 は 、 母 と 幼 時 に 生 き 別 れ た 思 い の 表 れ で あ ろ う 。 巻 一 ︻ 八 ︼ で 唐 后 は そ の 時 の こ と を 、 ﹁ 聖 の 渡 り た り し に も 、 い み じ う の た ま ひ 思 し し に ﹂ と 回 想 し て お り 、 母 ︵ 吉 野 尼 君 ︶ 本 人 に 対 し て も 、 中 納 言 に 託 し た 巻 二 ︻ 四 四 ︼ の 手 紙 で 、 聖 が 母 に つ い て し る し ﹁ 親 し う 知 り 聞 こ え た る よ し ﹂ を 語 っ た こ と に つ い て ﹁ 夜 昼 念 じ 奉 り し 仏 の 御 験 な め り ﹂ な ど と 喜 び を 伝 え て い る 。 な お 、 ︿ 桜 楓 ﹀ は 、 吉 野 聖 が 唐 后 の 母 の 情 報 を 提 供 す る に 至 る ま で の 事 情 と し て 、 后 が 日 頃 か ら 渡 唐 の 日 本 人 か ら の 情 報 を 探 っ て い た 背 景 を 推 測 す る 。 ○ 母 宮 │ 唐 后 の 母 ︵ 吉 野 尼 君 ︶ 。 ○ 御 消 息 │ 唐 后 が 吉 野 聖 に こ と づ け た 、 母 へ の 手 紙 。 ○ い か な る 便 り し て 、 こ の 御 返 り を 申 さ む │ 娘 の 唐 后 へ 返 信 を 届 け る つ て の な い 母 の 悲 嘆 。 唐 后 の 方 も 巻 一 ︻ 三 八 ︼ で ﹁ こ れ よ り 後 、 さ る べ き 風 の 便 り に も あ り が た く こ そ ﹂ と 母 の 消 息 を 得 る こ と を 半 ば 諦 め て い た と 中 納 言 に 語 っ て い た 。 な お 、 ︿ 全 注 釈 ﹀ は 、 当 該 箇 所 の 心 情 は 、 既 に 唐 后 の 母 が 娘 へ の 手 紙 を 認 め て い た こ と を 念 頭 に 置 い た 表 現 と す る 。 ○ い づ こ の 便 り か は 侍 ら む │ 吉 野 聖 の 諦 観 。 唐 土 へ 手 紙 を 届 け る つ て な ど ど こ に も ご ざ い ま せ ん 、 の 意 。 本 作 品 の 成 立 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 一 一

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当 時 の 日 本 に お け る 稀 な 渡 唐 事 情 に つ い て は 、 巻 一 ︻ 三 八 ︼ ﹁ か の 世 界 の 人 は ⋮ ⋮ ﹂ 項 注 参 照 。 ○ 渡 り お は し ま す よ し を 、 そ の ほ ど と 承 ら で │ 中 納 言 の 渡 唐 の 時 期 を 吉 野 聖 が 知 ら な か っ た と い う こ と 。 お そ ら く は 唐 み よ し の 土 か ら 帰 国 し た 後 、 現 在 の 深 吉 野 の 地 に 終 始 隠 棲 ・ 勤 行 し て い た た め と 推 察 さ れ る 。 ○ い と ほ し う 思 ひ 給 へ り し に 、 い と う れ し う │ 中 納 言 が こ の 度 、 唐 土 か ら 唐 后 の 手 紙 を も た ら し た こ と に つ い て 、 こ れ ま で 娘 の 后 が 返 事 を 得 ら れ な い で い た の を 気 の 毒 に 思 っ て い た 母 の た め に 、 吉 野 聖 が 喜 び を 表 す 。 な お 、 ︿ 大 系 ﹀ は 、 元 の 本 文 が 現 在 の ﹁ 思 ひ 給 へ り し に ﹂ つ ま り 四 段 の 尊 敬 ﹁ 給 ふ ﹂ で は な く 、 ﹁ 思 ひ 給 へ し に ﹂ つ ま り 下 二 段 の 謙 譲 ﹁ 給 ふ ﹂ で あ っ た 可 能 性 を 示 す 。 こ の 場 合 、 唐 后 の 母 を 話 者 の 吉 野 聖 が 気 の 毒 に 思 う 、 の 意 と な り 、 わ か り や す い 。 み よ し の ○ ﹁ こ の 東 に な む も の し 給 ふ ﹂ と 言 ふ に 、 驚 き 給 ひ て │ こ の 深 吉 野 の 堂 の 東 隣 に 吉 野 尼 君 が 住 ん で い る と 吉 野 聖 が 返 答 す る の に 対 し 、 驚 く 中 納 言 の 反 応 。 巻 一 ︻ 三 八 ︼ で は 、 帰 国 二 日 前 に 母 宛 て の 文 箱 を 託 し た 唐 后 か ら 、 ﹁ 大 内 山 と い ふ 所 に 尼 に て な む お は す ﹂ と い う 渡 唐 時 の 吉 野 聖 か ら の 情 報 を 聞 か さ れ て い た の で あ る 。 池 田 利 夫 ﹁ 浜 松 中 納 言 物 語 の 構 成 と 構 想 ﹂ ︵ ﹃ 更 級 日 記 浜 松 中 納 言 物 語 攷 ﹄ 武 蔵 野 書 院 一 九 七 〇 年 初 出 ︶ で は 、 当 初 の 構 想 か ら の 変 更 を 指 摘 す み よ し の る が 、 深 吉 野 へ の 移 住 は 吉 野 聖 の 帰 国 後 に 起 こ っ た 出 来 事 で あ る 。 巻 三 の 時 点 で 新 た な 展 開 が 明 か さ れ る 手 法 で あ ろ う 。 後 の 区 分 ︻ 五 ︼ に お け る 唐 后 の 母 の 出 家 説 明 の 各 注 参 照 。 み よ し の ○ い と さ し も 深 き 住 ま ゐ を ば 、 い か に し 給 ふ ぞ │ 唐 后 の 母 が 女 の 身 で こ ん な 深 い 深 吉 野 の 住 ま い へ ど ん な 経 緯 で 移 っ て き た の か 問 う 。 以 下 ﹁ も の し 給 ひ け る ぞ ﹂ ま で 、 中 納 言 か ら 吉 野 聖 へ の 問 い か け 。 ○ も と は 何 人 の ⋮ ⋮ さ る 世 に め づ ら し き 契 り は も の し 給 ひ け る ぞ │ ︵ 吉 野 尼 君 が ︶ 元 来 ど う い う 出 自 で 、 ︵ 唐 后 の 母 で あ り な が ら ︶ こ の よ う な 深 山 に 隠 棲 す る に 至 っ た 類 稀 な 宿 縁 を 持 ち な さ っ て い る の か 。 ︿ 新 註 ﹀ ︿ 新 全 集 ﹀ ︿ 全 注 釈 ﹀ は ﹁ ︵ あ な た ︿= 聖 ﹀ と ︶ そ の よ う な 世 に も 珍 し い 関 係 に お な り に な っ た の で す か ﹂ と 解 す る 。 中 納 言 は 、 既 に 在 唐 時 巻 一 ︻ 二 六 ︼ の 蜀 山 の 唐 后 の 父 大 臣 ︵ 秦 の 親 王 ︶ 訪 問 時 に 、 日 本 を 離 れ る 幼 い 唐 后 と 母 の 別 れ の 様 子 を 聞 い て い た が 、 み よ し の 本 区 分 で 唐 后 の 母 の 深 吉 野 隠 棲 を 聞 く に 及 ん で 、 改 め て 彼 女 の 数 奇 な 運 命 と 素 性 を 知 り た い 思 い に 駆 ら れ た 。 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 一 二

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︻ 四 ︼ 吉 野 聖 、 吉 野 尼 君 の 素 性 を 語 る ① 。 ︵ 担 当: 松 浦 あ ゆ み ︶ │ 底 本 三 ウ ⑧ 、 新 註 二 一 六 ⑥ 、 大 系 二 六 六 ⑫ 、 桜 楓 九 八 ⑰ 、 新 全 集 二 〇 二 ⑥ 、 全 注 釈 五 四 〇 │ 吉 野 聖 か ん つ け ① ﹁ 本 体 は 、 お の づ か ら 聞 か せ 給 ふ や う も 侍 ら む 。 上 野 の 宮 と 申 し し 人 、 世 に お は し き 。 身 の お ほ や け す 才 な ど こ の 世 に は 過 ぎ て 、 い と か し こ う お は せ し ほ ど に 、 公 の 御 た め 直 ぐ な ら ぬ 愁 へ を 負 ひ 給 つ く し ひ て 、 筑 紫 に 流 さ れ 給 ひ け る に 、 母 も お は せ ざ り け る 娘 、 一 所 お は し ま し け れ ば 、 と ど む べ き く だ 方 な く 思 し わ び つ つ 、 し ひ て 下 り 給 へ り け る を 、 か し こ に て 父 宮 亡 せ 給 ひ に け れ ば 、 心 は か な お ほ や け き 乳 母 一 人 に つ き て 、 筑 紫 に お は し け る ほ ど に 、 后 の 父 の 大 臣 は 、 公 の 御 使 ひ に て 渡 り も の し さ い 給 ひ け る ほ ど に 、 い か が あ り け む 、 乳 母 の 入 れ た り け る と か や 、 か の 后 は 生 ま れ 給 ひ て 、 五 歳 た う 父 大 臣 り う わ う に て な む 、 唐 に 率 て 渡 り 給 ひ け る 。 ﹃ 女 通 は ぬ 道 を 、 い か が せ む ﹄ と 嘆 き 悲 し み て 、 海 の 竜 王 海 の 竜 王 に 、 い み じ く 祈 り 行 ひ 給 ひ け る 夢 に 、 ﹃ こ れ は か の 国 の 后 な り 。 と く 率 て 渡 り ね ﹄ と 見 て 、 渡 り 給 ひ に け る な り ﹂ ︹ 校 異 ︺ ① お は し き │ 底 本 ﹁ お は し の ﹂ 注 釈 ○ 本 体 は │ 唐 后 の 母 の 素 性 は 。 ﹁ 本 体 ﹂ の 用 語 の 性 格 に つ い て は 本 注 釈 巻 一 ︻ 七 ︼ 注 参 照 。 吉 野 聖 に よ る 以 下 の 素 姓 説 明 の う ち 、 本 区 分 は 、 巻 一 ︻ 七 ︼ の 唐 后 の ﹁ 本 体 ﹂ 説 明 と 重 な る 内 容 ・ 表 現 。 中 西 健 治 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 の 研 究 ﹄ ︵ 大 学 堂 書 店 一 九 八 三 年 ︶ 第 一 編 第 二 章 及 び ︿ 全 注 釈 ﹀ ︵ 以 下 中 西 論 ︶ や 金 治 幸 子 ﹁ ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 論 │ 中 納 言 の 母 性 希 求 と 唐 后 の 造 型 を め ぐ っ て ︵ 下 ︶ ﹂ ︵ ﹁ 日 本 文 芸 学 ﹂ 三 八 、 二 〇 〇 二 ・ 二 、 以 下 金 治 論 ︶ の 指 摘 通 り 、 巻 一 で 唐 后 の 父 系 中 心 の 紹 介 だ っ た の が 、 巻 三 の 当 該 箇 所 で は 母 系 中 心 に 詳 細 な 情 報 が 加 え ら れ 、 母 吉 野 尼 君 の 苦 難 の 人 生 、 唐 后 及 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 一 三

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び そ の 異 父 妹 吉 野 姫 君 と の 母 娘 の 絆 と し て 語 り 直 さ れ て い る 。 ○ 上 野 の 宮 と 申 し し 人 │ 上 野 の 宮 と 申 し 上 げ た 人 。 以 下 ﹁ 筑 紫 に 流 さ れ 給 ひ け る に ﹂ ま で 、 唐 后 の 母 の 父 に つ い て の 紹 介 。 才 に 優 れ た 人 と な り ・ 筑 紫 配 流 の 原 因 と 共 に 、 巻 三 で 新 た に 加 わ っ た 情 報 と し て 、 巻 一 ︻ 七 ︼ で の ﹁ 筑 紫 に 流 さ み こ れ 給 へ り け る 皇 子 ﹂ よ り も 詳 し く 、 社 会 的 立 場 や 具 体 的 な 人 物 像 が 述 べ ら れ る ︵ 中 西 論 ︶ 。 ︿ 桜 楓 ﹀ は 学 才 ・ 人 格 な ど 王 位 継 承 に 相 応 し い と す る 。 ﹁ 上 野 の 宮 ﹂ は 上 野 国 ︵ 群 馬 県 ︶ の 太 守 で あ る 親 王 の 名 誉 職 。 由 緒 あ る 社 会 的 地 位 で あ ろ う が 、 同 じ 親 王 職 の 史 実 例 で 比 較 し た 場 合 、 中 務 宮 ・ 式 部 卿 宮 ・ 兵 部 卿 宮 ほ ど 重 い 格 と は 言 え ず 、 立 坊 ・ 即 位 の 史 実 例 も な い 。 本 作 品 の 成 立 期 に 実 際 の 在 任 例 も 見 出 せ な い ︵ 松 浦 あ ゆ み ﹁ ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ に お け る ︿ 渡 唐 体 験 ﹀ 考 ﹂ ︿ ﹁ 立 命 館 文 学 ﹂ 六 三 〇 二 〇 一 三 年 三 月 ﹀ 参 照 ︶ 。 ま た 一 方 で 、 配 流 の 史 実 例 も な い こ と を 中 西 論 は 指 摘 す る 。 先 行 物 語 の 上 野 宮 の 例 と し て は 、 ﹃ う つ ほ 物 語 ﹄ あ て 宮 巻 な ど や ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ 宿 木 巻 に 見 え る 。 ○ 公 の 御 た め 直 ぐ な ら ぬ 愁 へ を 負 ひ 給 ひ て 、 筑 紫 に 流 さ れ 給 ひ け る │ ﹁ 直 ぐ な ら ぬ ﹂ は 正 し く な い 、 邪 悪 な 、 の 意 に 解 せ る が 、 諸 注 が 指 摘 す る 通 り 、 平 安 期 仮 名 作 品 例 が 他 に 見 受 け ら れ な い た め 、 正 確 な 語 義 は 定 め 難 い 。 ﹁ 愁 へ ﹂ は 愁 訴 と も 、 悲 嘆 の 原 因 と な る 心 配 事 と も 、 両 意 に 解 せ る 。 こ の こ と か ら ﹁ 直 ぐ な ら ぬ 愁 へ ﹂ は 、 偽 り の 愁 訴 の 意 に と り 、 こ の 場 合 は 、 上 野 宮 に 謀 反 の 濡 れ 衣 を 着 せ る 讒 言 と 解 し て お く ︵ ︿ 新 註 ﹀ ︿ 大 系 ﹀ ︿ 全 注 釈 ﹀ ︶ 。 た だ し 、 ﹁ 愁 へ ﹂ を 密 告 な ど の 意 に 用 い た 例 や ﹁ 愁 へ を 負 ふ ﹂ な ど の 用 例 は 、 本 作 品 の 他 の 箇 所 や 他 の 作 品 に 見 当 た ら ず 不 審 。 ︿ 新 全 集 ﹀ で は 、 朝 廷 に 邪 心 あ り と の ︵ 上 野 宮 本 人 に 着 せ ら れ た ︶ 罪 科 と 解 す る が 、 ﹁ う れ へ ︵ 愁 へ ・ 憂 へ ︶ ﹂ の 語 義 に は そ ぐ わ な い 。 お お や け 巻 一 で は ﹁ 筑 紫 へ 流 さ れ 給 へ り け る ︵ 御 子 ︶ ﹂ 、 後 の 区 分 ︻ 一 八 ︼ で は ﹁ 公 に 罪 せ ら れ 給 ひ て 、 筑 紫 へ 放 た れ お は せ し に ﹂ と の み 述 べ ら れ て い る 。 具 体 的 に は 、 政 権 抗 争 ︵ ︿ 桜 楓 ﹀ ︶ や 立 坊 を め ぐ っ て の 擁 立 運 動 ︵ ︿ 新 全 集 ﹀ ︶ 等 に 巻 き 込 ま れ て の 配 流 な ど が 考 え ら れ る 。 な お 、 ﹁ 筑 紫 ﹂ へ の 配 流 と い う 点 で 大 宰 員 外 帥 と な っ た 可 能 性 も 指 摘 さ れ て い る ︵ 中 西 論 ︶ 。 ○ 母 も お は せ ざ り け る 娘 、 一 所 お は し ま し け れ ば │ ﹁ 娘 ﹂ は 、 唐 后 の 母 ︵ 吉 野 尼 君 ︶ の こ と 。 彼 女 の 母 ︵ 唐 后 の 祖 母 ︶ の ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 一 四

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不 在 ︵ お そ ら く 死 別 ︶ は 巻 三 で 新 た に 加 わ っ た 情 報 。 巻 一 ︻ 七 ︼ で は 父 の 死 去 か ら 述 べ ら れ て い た 。 ○ と ど む べ き 方 な く 思 し わ び つ つ 、 し ひ て 下 り 給 へ り け る を │ 上 野 宮 が 母 の 亡 い 娘 ︵ 吉 野 尼 君 ︶ を 都 に 残 し て お け ず に 苦 慮 の 末 、 配 流 先 の 筑 紫 へ 苦 難 を 承 知 で 無 理 に 同 行 し た 事 情 が 、 巻 三 で 新 た に 説 明 さ れ る 。 ○ 心 は か な き 乳 母 一 人 │ 唐 后 の 母 ︵ 吉 野 尼 君 ︶ の 乳 母 の こ と 。 巻 一 ︻ 七 ︼ で ﹁ い と か す か な る ︿= 貧 乏 な 、 微 力 な ﹀ 乳 母 ﹂ と 記 さ れ て い た の に 比 べ 、 精 神 的 に 頼 り に な ら な い 浅 慮 の さ ま が 強 調 さ れ る 記 述 。 ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ 橋 姫 巻 に お け る 宇 治 中 の 君 の 場 合 と 同 様 、 前 の 部 分 に 述 べ ら れ て い た 母 の 不 在 が こ う し た 乳 母 の 選 定 へ と 繋 が っ て い よ う 。 ○ 后 の 父 の 大 臣 │ 唐 后 の 父 大 臣 ︵ 秦 の 親 王 ︶ 。 ○ 公 の 御 使 ひ に て 渡 り も の し 給 ひ け る ほ ど に │ 唐 后 の 父 大 臣 の 素 性 と 渡 日 の 事 情 に 関 し て は 、 巻 一 ︻ 七 ︼ で 詳 し く 説 明 お お や け さ れ て い た 。 ︿ 全 注 釈 ﹀ 当 該 注 の 補 説 は 、 前 の 部 分 で 上 野 宮 が ﹁ 公 の 御 た め ﹂ に 配 流 さ れ た こ と と の 対 照 性 を 指 摘 す る 。 ○ い か が あ り け む │ ︵ こ の 場 合 は 唐 后 誕 生 に 至 っ た 秦 の 親 王 と の ︶ 逢 瀬 ・ 結 婚 の 成 立 を 仄 め か す 朧 化 表 現 。 同 様 の 表 現 が 、 ﹃ 伊 勢 集 ﹄ 冒 頭 歌 詞 書 に お け る ﹁ 女 ﹂ と ﹁ 后 の せ う と ﹂ の 逢 瀬 成 立 や 、 ﹃ 蜻 蛉 日 記 ﹄ 上 巻 に お け る 兼 家 と の 結 婚 成 立 、 ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ 葵 巻 に お け る 光 源 氏 と 紫 上 の 新 枕 等 に 用 い ら れ て い る 。 ○ 乳 母 の 入 れ た り け る と か や │ 唐 后 の 母 が 秦 の 親 王 と 逢 瀬 に 至 っ た 原 因 は 、 乳 母 の 導 き だ っ た と の こ と だ 、 と い う 伝 聞 。 こ の 乳 母 が 、 前 の 部 分 で ﹁ 心 は か な き ﹂ と 評 さ れ て い る こ と と の 関 連 も よ み と れ る ︵ 中 西 論 、 鈴 木 紀 子 ﹁ ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ の 乳 母 た ち ︵ 二 ︶ ﹂ ︿ ﹁ 京 都 橘 女 子 大 学 研 究 紀 要 ﹂ 一 九 一 九 九 二 ﹀ ︶ 。 巻 一 で 唐 后 の 両 親 の 単 な る 馴 れ 初 め し か 語 っ て い な か っ た の に 対 し 、 巻 三 で は こ の 伝 聞 を 加 え る こ と で 、 唐 后 の 母 の 立 場 か ら 意 に 染 ま な い 事 情 を 描 く ︿ 女 の 物 語 ﹀ の 傾 向 も 窺 え よ う 。 な お 、 後 ろ だ て の 有 無 や 社 会 的 立 場 な ど 状 況 は 異 な る が 、 ﹃ 栄 花 物 語 ﹄ た ま の む ら ぎ く 巻 、 前 斎 宮 当 子 内 親 王 ︵ 三 条 院 皇 女 ︶ と 藤 原 道 雅 ︵ 通 称 荒 三 位 ︵ あ ら ざ ん み ︶ 、 伊 周 の 息 子 ︶ と の 密 通 を 、 当 子 内 親 王 の 乳 母 で あ る 中 将 の 乳 母 が 手 引 き し た 類 例 も あ る 。 ○ か の 后 は 生 ま れ 給 ひ て 、 五 歳 に て な む 、 唐 に 率 て 渡 り 給 ひ け る │ 以 下 、 本 区 分 末 尾 ﹁ 渡 り 給 ひ に け る な り ﹂ ま で は 、 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 一 五

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巻 一 ︻ 七 ︼ に お け る 唐 后 の 誕 生 以 来 の 美 質 や ﹁ さ せ ま ろ ﹂ の 伝 説 の 叙 述 を 踏 ま え て 、 略 記 さ れ て い る 。 巻 一 の 同 区 分 た う 注 参 照 。 ﹁ 唐 ﹂ は 、 人 物 の 来 歴 に 関 す る 説 明 を 人 前 で す る 時 な ど に 用 い ら れ る 、 日 本 に 対 し 唐 土 の 国 家 を 意 識 し た 改 ま っ た 呼 称 か 。 本 作 品 で 、 ﹁ も ろ こ し ﹂ が 土 地 や 親 子 関 係 の 記 述 に 用 い ら れ 、 ﹁ か ら く に ﹂ が 男 性 側 と り わ け 中 納 言 が 思 慕 す る 唐 后 や 恋 人 関 係 の 記 述 に 用 い ら れ て お り ︵ 前 掲 書 中 西 健 治 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 の 研 究 ﹄ 第 二 編 第 一 章 第 二 節 ︶ 、 正 式 呼 称 と し て の 語 感 は 窺 え な い の と 、 対 比 さ れ よ う 。 漢 字 表 記 の ﹁ 唐 ﹂ 及 び 平 仮 名 表 記 の ﹁ た う ﹂ は 元 来 、 ﹃ 小 右 記 ﹄ ﹃ 御 堂 関 白 記 ﹄ な ど の 古 記 録 類 ︵ ﹁ 唐 ﹂ ︶ 及 び 本 作 品 と 同 時 期 成 立 の ﹃ 成 尋 阿 闍 梨 母 集 ﹄ ︵ ﹁ た う ﹂ ︶ に お い て は 、 各 書 の 成 立 時 代 に 実 在 し て い た 国 家 宋 王 朝 を 含 む 中 国 の 総 称 と し て 用 い ら れ て い る 。 作 り 物 語 に お い て 、 ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ に は 用 例 が な い 語 。 本 作 品 で は 当 該 箇 所 を 含 め 三 例 で 、 他 に 巻 一 ︻ 七 ︼ の ﹁ 唐 の 太 宗 ﹂ ︵ 唐 后 の 祖 先 と さ れ る 実 在 の 唐 王 朝 の 皇 帝 、 地 の 文 で の 素 姓 説 明 で 使 用 ︶ 、 巻 五 の ﹁ 唐 の 親 王 ﹂ ︵ 作 中 人 物 唐 帝 の 三 の 皇 子 で 中 納 言 の 故 父 宮 の 転 生 、 会 話 中 の 素 姓 説 明 で 使 用 ︶ の 称 が 見 出 せ る 。 当 該 箇 所 で の 使 用 は 国 の 設 定 と し て は 巻 五 の 例 と 同 様 、 本 作 品 の 成 立 時 代 に 実 在 し た 宋 を 念 頭 に 置 い た 虚 構 の 唐 土 の 称 で あ ろ う が 、 巻 一 の 例 に お け る 実 在 す る 古 代 の 唐 王 朝 の イ メ ー ジ も 帯 び て い る 側 面 も 考 え ら れ よ う 。 ︻ 五 ︼ 吉 野 聖 、 吉 野 尼 君 の 素 性 を 語 る ② 。 ︵ 担 当: 松 浦 あ ゆ み ︶ │ 底 本 四 ウ ⑤ 、 新 註 二 一 七 ① 、 大 系 二 六 七 ⑥ 、 桜 楓 九 九 ⑨ 、 新 全 集 二 〇 三 ④ 、 全 注 釈 五 四 一 │ 吉 野 聖 く だ ﹁ そ の 頃 、 母 方 の 御 を ぢ に 、 兵 衛 の 督 と 聞 こ え け る 人 の 、 大 弐 に な り て 下 り 給 ひ に け る が 、 の ぼ そ つ 尋 ね 取 り 聞 こ え て 、 率 て 上 り 奉 り 給 ひ に け る に 、 帥 の 宮 の 忍 び て 、 い と ね ん ご ろ に 通 ひ 渡 り 吉 野 尼 君 給 ひ け る を 、 ﹃ お の れ 、 い と 世 に 知 ら ず 心 憂 き 契 り 悲 し き 身 な れ ば 、 世 の 常 の 、 人 に 見 え 知 ら れ む と 思 は ざ り つ ﹄ と 泣 き 悲 し み て 、 尼 に な り て 隠 れ つ つ 、 逢 ひ 給 は ざ り け れ ば 、 こ の 宮 は ら も 、 行 方 も 知 ら ず 嘆 き て や み 給 ひ に け り 。 そ の ほ ど に 孕 ま れ 給 ひ に け る は 、 尼 に な り て 後 、 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 一 六

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む あ い し ふ 生 ま れ 給 へ り 。 女 に て も の し 給 ふ な る べ し 。 心 憂 し と て も 、 愛 執 の 煩 悩 離 れ が た き も の な れ ま ぎ ば 、 紛 る る 方 な き 山 の 隅 に も 、 見 知 る べ き 人 な け れ ば 、 身 に 添 へ て お は し ま す な る べ し 。 そ む か し ら お の 君 生 ま れ 給 ひ て 後 、 ひ た ぶ る に 頭 下 ろ し て 、 法 師 の や う に 行 ひ て 、 お の れ を 頼 も し き 者 吉 野 尼 君 に 思 い て 、 こ の 山 に 堂 建 て て 籠 り 侍 り に し ほ ど 、 ﹃ 我 も な ほ 、 世 に か く て あ ら じ と 思 ふ な り ﹄ と て 、 入 り 給 ひ に し な り 。 故 宮 の 御 世 に 、 親 し う 参 り 通 ひ 侍 り し を 、 后 の 御 消 息 、 伝 へ 申 し 侍 り に し よ り 、 い と ど 頼 み 思 い た る も 、 あ は れ に ぞ 見 給 ふ る ﹂ 注 釈 ○ そ の 頃 │ 以 下 、 次 区 分 ︻ 六 ︼ ま で は 、 再 び 唐 后 の 母 ︵ 吉 野 尼 君 ︶ へ 視 点 を 転 じ 、 夫 ・ 娘 の 渡 唐 後 に お け る 彼 女 の 人 生 を 語 り 起 こ し た も の で 、 巻 一 に は な い 内 容 。 ﹁ そ の 頃 ﹂ は 、 ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ で は 完 全 な 話 題 転 換 に 用 い ら れ る の に 対 し 、 本 作 品 の 当 該 例 で は 、 一 連 の 叙 述 場 面 に お け る 視 点 ・ 話 題 の 転 換 に 用 い ら れ て い る 。 そ れ は 、 巻 一 ︻ 一 六 ︼ ︻ 一 七 ︼ に お い て 山 陰 の 一 夜 の 逢 瀬 に 至 る 場 面 で 中 納 言 ・ 唐 后 の 各 言 動 に 視 点 を 転 じ る 各 一 例 と も 共 通 す る 。 本 作 品 で は 他 に 、 新 た な 話 題 に 転 じ る 語 と し て 巻 一 ︻ 一 二 ︼ の 区 分 最 初 で ﹁ そ の 時 ﹂ も 用 い ら れ て お り ︵ 巻 一 の 同 区 分 の ︿ 全 注 釈 ﹀ 参 照 ︶ 、 ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ の ﹁ そ の 頃 ﹂ に 近 い 用 法 で あ ろ う 。 ○ 母 方 の 御 を ぢ に 、 兵 衛 の 督 と 聞 こ え け る 人 の 、 大 弐 に な り て 下 り 給 ひ に け る が │ 唐 后 の 母 ︵ 吉 野 尼 君 ︶ が 身 を 寄 せ て い た 母 方 の お じ の 説 明 。 兵 衛 督 を 経 て 、 大 弐 に な っ て い た 。 円 融 朝 ∼ 白 河 朝 歴 代 の 大 弐 ︵ 含 ・ 大 弐 の 通 称 も 適 用 さ れ る 帥 中 納 言 ︶ の う ち 、 前 官 が 兵 衛 督 だ っ た 人 物 は 、 寛 弘 元 年 ︵ 一 〇 〇 四 ︶ に 五 十 五 歳 で 任 命 さ れ た 藤 原 高 遠 の み で あ る 。 松 浦 あ ゆ み ﹁ ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ の 大 弐 考 ﹂ ︵ ﹃ 平 安 後 期 物 語 の 新 研 究 ﹄ 新 典 社 二 〇 〇 九 年 ︶ 参 照 。 ○ 帥 の 宮 の 忍 び て 、 い と ね ん ご ろ に 通 ひ 渡 り 給 ひ け る を │ ﹁ 帥 の 宮 ﹂ は 大 宰 府 の 長 官 だ が 、 親 王 任 官 の 名 誉 職 。 唐 后 の 母 の お じ 大 弐 ︵ 大 宰 府 の 次 官 ︶ の 上 官 。 直 前 の 部 分 、 お じ 大 弐 が 唐 后 の 母 ︵ 吉 野 尼 君 ︶ を 引 き 取 っ て 上 京 し た 記 述 ﹁ 尋 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 一 七

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ね 取 り 聞 こ え て 率 て 上 り 奉 り 給 ひ に け る に ﹂ と の つ な が り か ら は 、 お じ 大 弐 の 関 与 に よ っ て 、 ﹁ 帥 の 宮 ﹂ の 通 い が 行 わ れ た よ う に も 受 け と れ る 。 た だ し 、 ︻ 一 八 ︼ に な る と 、 二 人 の 逢 瀬 は お じ 大 弐 の 死 後 し ば ら く 経 っ て か ら の こ と と し て 、 詳 細 が 明 ら か に さ れ る 。 ○ お の れ 、 い と 世 に 知 ら ず 心 憂 き 契 り 悲 し き 身 な れ ば 、 世 の 常 の 、 人 に 見 え 知 ら れ む と 思 は ざ り つ │ 唐 后 の 母 ︵ 吉 野 尼 君 ︶ の 嘆 き 。 ﹁ 世 の 常 ﹂ の よ う に 、 ﹁ 人 ﹂ つ ま り 男 性 ︵ 帥 宮 ︶ と 、 意 に 反 し て 逢 瀬 を 結 ん だ こ と を 嘆 く 。 ﹁ 見 え 知 ら れ む ﹂ は 、 ︿ 新 全 集 ﹀ で ﹁ 男 に 身 を ゆ だ ね る こ と で 自 分 の 実 体 が 何 も か も 相 手 に わ か っ て し ま う こ と ﹂ と 解 す る が 、 こ の 場 合 は 男 女 関 係 を 深 く 結 ぼ う と す る 意 の み で は な い か 。 巻 一 ︻ 三 三 ︼ ︻ 三 四 ︼ で は 、 山 陰 女 が ﹁ 跡 絶 え て 、 見 え 知 ら れ じ ﹂ と 再 度 の 逢 瀬 を 断 固 と し て 拒 ん で 行 方 を く ら ま し て い る 可 能 性 を 中 納 言 が 想 像 し て い る 。 当 該 箇 所 の 唐 后 の 母 は 、 た だ で さ え 、 父 の 配 流 先 の 筑 紫 で 父 ま で も 失 い 、 乳 母 の 手 引 き に よ り 思 い が け ず 異 国 の 人 秦 の 親 王 と 契 り 、 幼 い 娘 の 唐 后 共 々 日 唐 両 国 に 生 き 別 れ る と い う 、 前 代 未 聞 の 宿 命 を 背 負 っ て い る の に 、 こ の 上 ま た も や 不 本 意 に も 世 俗 の 男 女 関 係 を 帥 宮 と 結 ん で し ま っ た こ と を 厭 う 。 ○ こ の 宮 も 、 行 方 も 知 ら ず 嘆 き て や み 給 ひ に け り │ ﹁ こ の 宮 ﹂ は 、 吉 野 尼 君 ︵ 以 降 は 出 家 の 身 ︶ の 逢 瀬 の 相 手 で あ る 帥 宮 。 二 人 の 関 係 が そ の 後 続 か な か っ た い き さ つ を 述 べ る 中 で 、 吉 野 尼 君 が 嘆 い た の と 同 様 に 、 ﹁ こ の 宮 も ﹂ 、 吉 野 尼 君 の 行 方 不 明 を 嘆 い た こ と を い う 。 ︿ 全 注 釈 ﹀ は 帥 宮 も 、 世 間 一 般 の 人 も 一 緒 に 嘆 い て い た 、 と 解 す る 。 ○ 尼 に な り て 後 、 生 ま れ 給 へ り 。 女 に て も の し 給 ふ な る べ し │ 唐 后 の 異 父 妹 で あ る 吉 野 姫 君 の 、 当 時 と し て は 極 め て 異 例 な 誕 生 事 情 。 ○ 心 憂 し と て も 、 愛 執 の 煩 悩 離 れ 難 き も の な れ ば │ ﹁ 愛 執 の 煩 悩 ﹂ は こ の 場 合 、 吉 野 尼 君 の 道 心 を 妨 げ る 、 娘 の 吉 野 姫 君 へ の 愛 情 。 姫 君 の 誕 生 自 体 も 、 前 掲 ﹁ 心 憂 き 契 り ﹂ の 延 長 上 で ﹁ 心 憂 し ﹂ と 受 け 止 め て い た の で あ ろ う 。 ○ 紛 る る 方 な き 山 の 隅 に も │ 仏 道 修 行 を し て も ﹁ 愛 執 の 煩 悩 ﹂ が 紛 れ よ う も な い 山 の 片 隅 に お い て も 。 ︿ 新 全 集 ﹀ ︿ 全 注 み よ し の 釈 ﹀ で は 、 ﹁ 山 奥 ﹂ と 訳 す る 。 こ の 場 合 の ﹁ 山 ﹂ は 、 吉 野 尼 君 が 深 吉 野 に 籠 も る 前 に 隠 棲 し て い た ﹁ 大 内 山 ﹂ ︵ 現 京 都 市 右 京 区 の 、 仁 和 寺 の 北 に あ る 山 ︶ で あ ろ う 。 ﹁ 大 内 山 ﹂ に つ い て は 、 巻 一 ︻ 三 八 ︼ 注 参 照 。 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 一 八

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○ 見 知 る べ き 人 な け れ ば 、 身 に 添 へ て お は し ま す な る べ し │ 吉 野 尼 君 が 剃 髪 後 の 生 活 に も 娘 吉 野 姫 君 を 伴 っ て い た 事 情 を 、 語 り 手 の 吉 野 聖 が 推 測 し て い る 。 ○ そ の 君 │ 吉 野 姫 君 。 ○ ひ た ぶ る に 頭 下 ろ し て 、 法 師 の や う に 行 ひ て │ こ の 場 合 の ﹁ 頭 下 ろ す ﹂ は 、 前 の 文 で ﹁ 尼 ﹂ に な っ た 後 の 描 写 ゆ え 、 ︿ 桜 楓 ﹀ ︿ 新 全 集 ﹀ ︿ 全 注 釈 ﹀ が 指 摘 す る 通 り 、 完 全 剃 髪 で 坊 主 頭 に な っ た の で あ ろ う 。 ﹁ 法 師 ﹂= 男 性 の 修 行 僧 同 様 に 厳 し い 修 行 を 行 う た め の 出 で た ち で あ り 、 厳 し い 修 行 へ 向 か わ せ る 熱 意 を 表 し て い る 。 女 性 の ﹁ 頭 下 ろ す ﹂ は 、 ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ 作 中 の 二 例 で も 御 法 巻 の 死 直 後 の 紫 上 、 手 習 巻 で 語 ら れ る 浮 舟 の よ う に 尼 削 ぎ の 表 現 と し て 用 い る の が 一 般 的 で あ る 。 作 り 物 語 に お け る 完 全 剃 髪 の 例 は 、 類 似 語 句 を 含 め て も 数 少 な い ︵ 本 作 品 中 で 他 に 出 家 す る 大 将 大 君 や 五 の 君 も 尼 削 ぎ ︶ 。 女 性 の 完 全 剃 髪 の 歴 史 上 例 な ど に つ い て は 、 勝 浦 令 子 ・ 小 林 美 和 子 ら の 研 究 に 詳 し い ︵ ︿ 全 注 釈 ﹀ ︶ 。 み よ し の ○ こ の 山 に 堂 建 て て 籠 り 侍 り に し ほ ど │ 主 語 は 吉 野 聖 。 ﹁ こ の 山 ﹂ は 深 吉 野 。 吉 野 聖 が 唐 土 か ら 帰 国 し た 後 で あ ろ う 。 み よ し の み よ し ○ 我 も な ほ 、 世 に か く て あ ら じ と 思 ふ な り │ 吉 野 聖 の 深 吉 野 入 り に 吉 野 尼 君 も 同 行 を 希 望 し て 語 っ た 言 葉 。 尼 君 の 深 吉 の 野 入 り の 動 機 は 、 そ の 当 時 隠 棲 し て い た ﹁ 大 内 山 ﹂ を 含 む ﹁ 世 ﹂ を 厭 う 気 持 ち と い う こ と に な る 。 ﹁ 大 内 山 ﹂ に つ い て 、 ﹃ 大 和 物 語 ﹄ 三 十 五 段 で は ﹁ 高 き 山 な れ ば 、 雲 は 下 よ り い と 多 く 、 立 ち 上 る や う に 見 え け れ ば ﹂ と 高 さ が 強 調 さ れ み よ し の て い る が 、 都 近 く で あ る た め 俗 世 と の 交 渉 が 多 く 、 厳 格 な 修 行 に 不 向 き な 所 だ っ た か 。 そ れ ゆ え 、 吉 野 尼 君 は 深 吉 野 同 行 を 希 望 し た の で あ ろ う 。 ○ 故 宮 の 御 世 に 、 親 し う 参 り 通 ひ 侍 り し を │ 吉 野 聖 が 吉 野 尼 君 を 親 し く 知 っ て い た の は 偶 々 で な く 、 父 上 野 宮 存 命 時 の 昔 か ら で あ る こ と が 、 巻 三 の 当 該 箇 所 で 初 め て 明 か さ れ る 。 ○ 后 の 御 消 息 、 伝 へ 申 し 侍 り に し よ り 、 い と ど 頼 み 思 い た る │ 吉 野 聖 が 唐 土 か ら 帰 国 後 に 唐 后 の 手 紙 を 伝 え た こ と が 、 み よ し の 吉 野 尼 君 の 信 頼 を 渡 唐 以 前 よ り も 更 に 高 め た 様 子 。 こ れ が 後 に 、 吉 野 聖 に 同 行 し て の 、 大 内 山 か ら 深 吉 野 へ の 移 住 に 繋 が っ た の で あ ろ う 。 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 一 九

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︻ 六 ︼ 吉 野 聖 、 吉 野 尼 君 の 素 性 を 語 る ③ 。 ︵ 担 当: 横 山 恵 理 ︶ │ 底 本 五 ウ ⑦ 、 新 註 二 一 七 ⑬ 、 大 系 二 六 八 ③ 、 桜 楓 一 〇 〇 ③ 、 新 全 集 二 〇 四 ⑪ 、 全 注 釈 五 四 二 │ 吉 野 聖 ﹁ さ る べ き 人 と 申 せ ど 、 い と か う 世 に た ぐ ひ な き 契 り お は す る も 侍 り け り 。 さ れ ば 、 后 の 、 ① す さ ふ ら か の 国 に 、 飾 り 据 ゑ ら れ 給 へ る 御 お ぼ え あ り さ ま な ど は 、 御 覧 ぜ ら れ け む 、 い と い み じ う 候 か げ さ き む く ひ き な 。 さ る 御 娘 の 蔭 に も え 隠 れ 給 は ず 、 前 の 世 の さ る べ き も の の 報 ひ に こ そ は と ぞ 見 え さ く ち を の ち せ 給 へ る 。 こ の 世 は 口 惜 し う お は し け る 人 の 、 後 の 世 は し も 、 必 ず か な ひ 給 ひ な む と す 。 女 お こ な ざ へ ② ふ か の 身 に て は 、 い と い み じ う か し こ う 行 ひ 勤 め て 、 才 な ど も い と 深 う ぞ も の し 給 ふ べ か ん め る ﹂ 中 納 言 か へ な ど 、 聞 き 所 多 く 語 り 聞 か せ 奉 る を 、 ﹁ げ に 、 こ の 世 に め づ ら し く あ り が た き 御 契 り は 、 返 す 返 す 背 き て も こ と わ り な り け る 御 身 か な ﹂ と 、 聞 く も い と あ は れ に て 、 中 納 言 た づ ま ゐ と ほ ﹁ わ ざ と か く 尋 ね 参 り た る を 、 遠 う も の し 給 は ま し か ば 、 ま た と か く 尋 ね 参 ら ま し ほ ど も 、 心 も と な か ら ま し を 、 い と う れ し か り け る わ ざ か な 。 さ ら ば 、 か く な む 参 り た る と て 、 こ の せ う そ こ 御 消 息 を 奉 り 給 へ ﹂ と て 、 取 ら せ 給 へ り 。 ︹ 校 異 ︺ ① 飾 り 据 ゑ ら れ │ 底 本 ﹁ さ り す へ ら れ ﹂ ② い と 深 う ぞ │ 底 本 ﹁ い と ふ か □ そ ﹂ ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 二 〇

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注 釈 ○ さ る べ き 人 と 申 せ ど │ し か る べ き 前 世 か ら の 因 縁 が あ る 人 、 の 意 。 ○ い と か う 世 に た ぐ ひ な き 契 り お は す る も 侍 り け り │ こ の よ う に 世 に 類 い 稀 な る 宿 縁 が お あ り の 方 も お い で に な り ま し た よ 、 の 意 。 ○ さ れ ば │ 本 作 品 に お け る 接 続 詞 ﹁ さ れ ば ﹂ の 用 法 は 三 例 で 、 い ず れ も 男 性 の 会 話 文 中 に 用 い ら れ て い る 。 な お 、 ﹁ さ れ ば よ ﹂ と い う 感 動 詞 的 用 法 は 六 例 、 ﹁ さ れ ば こ そ ﹂ は 一 例 あ る ︵ ︿ 全 注 釈 ﹀ 参 考 ︶ 。 ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ で の ﹁ さ れ ば ﹂ 用 例 は 五 例 あ り 、 そ の う ち 四 例 が 本 作 品 と 同 様 に 男 性 の 会 話 文 中 で 用 い ら れ 、 浅 か ら ぬ 宿 縁 を 連 想 さ せ る 場 面 で 用 い ら れ て い る 。 ﹃ 夜 の 寝 覚 ﹄ で の ﹁ さ れ ば ﹂ 用 例 は 三 例 あ り 、 こ の う ち 二 例 は 権 中 納 言 の 会 話 文 中 で 用 い ら れ て い る 。 た だ し 、 そ の 用 法 は ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ お よ び 本 作 品 と 異 な り 、 特 に 宿 縁 が 深 い 女 性 に 対 し て 用 い て い る わ け で は な い 。 ○ 后 の 、 か の 国 に ⋮ ⋮ い み じ う 候 ひ き な │ 唐 后 が 、 あ ち ら の 国 で 飾 り 据 え ら れ て い ら っ し ゃ る 御 寵 愛 の 有 様 な ど は 、 あ な た が 御 覧 に な っ た 通 り で 、 大 変 す ば ら し い こ と で あ り ま し た よ 。 巻 一 ︻ 二 四 ︼ に ﹁ 天 に あ ら ば 比 翼 の 鳥 と な り 、 地 に あ ら ば 連 理 の 枝 と な ら む ﹂ と 、 唐 帝 が 唐 后 の こ と を 思 い 長 恨 歌 の 一 節 を 朗 唱 す る 場 面 が 描 か れ る 。 ○ か の 国 │ 唐 土 の こ と 。 ○ 飾 り 据 ゑ ら れ 給 へ る │ 底 本 ﹁ さ り す へ ら れ 給 へ る ﹂ を 他 伝 本 に 従 い ﹁ 飾 り 据 ゑ ら れ 給 へ る ﹂ に 改 め る 。 な お 、 本 作 品 に お け る ﹁ か ざ り す う ﹂ の 用 例 は こ の 一 例 の み 。 他 作 品 で も 用 例 は 見 つ か ら な い 。 ﹁ 飾 り 据 ゑ ら れ 給 へ る ﹂ と い う 表 現 は 、 巻 一 ︻ 七 ︼ ﹁ そ の の ち 、 か た は ら に ま た 人 あ り と も お ぼ し た ら ず 、 父 の 宰 相 も 大 臣 に な し 、 后 も 十 六 に て 皇 子 生 み 給 ひ に け れ ば 、 や が て 后 に な し て 、 並 び な く 時 め か し 給 ふ に ﹂ と 同 様 に 、 唐 土 に て 帝 に 寵 愛 を 受 け る 様 子 を 強 く 印 象 づ け る か 。 ○ さ る 御 娘 の 蔭 │ そ の よ う な 唐 土 の 后 に な っ て い る 娘 の 恩 恵 。 以 降 の 文 章 で は 、 母 宮 が 、 唐 土 で 帝 の 寵 愛 を 賜 る 娘 の 恩 恵 を 蒙 る こ と が で き な い の は 、 前 世 の し か る べ き 報 い な の で あ ろ う と 、 吉 野 聖 は 考 え て い る 。 ○ こ の 世 は ⋮ ⋮ か な ひ 給 ひ な む と す │ 現 世 で は 不 本 意 な 境 遇 で い ら っ し ゃ る 人 の 、 来 世 こ そ は 必 ず 願 い が か な っ て 成 仏 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 二 一

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で き る で し ょ う 、 の 意 。 ﹁ 後 の 世 が か な ふ ﹂ は 極 楽 往 生 す る 、 来 世 で 成 仏 で き る こ と を い う 。 ○ 後 の 世 │ 吉 野 聖 に ﹁ 前 の 世 ﹂ ﹁ こ の 世 ﹂ ﹁ 後 の 世 ﹂ と 順 に 語 ら せ 、 仏 教 的 な 因 縁 を 強 調 し た 表 現 と な っ て い る 。 本 作 品 に お け る ﹁ 後 の 世 ﹂ の 用 例 は 十 三 例 で あ る 。 そ の う ち 九 例 が 吉 野 尼 君 を 中 心 と し て 女 性 が 極 楽 往 生 を 願 い 仏 道 修 行 に 励 む 様 子 に 関 し て 用 い ら れ て お り 、 女 性 と ﹁ 後 の 世 ﹂ と の 関 わ り が 強 く 意 識 さ れ て い る 。 ○ 女 の 身 に て は │ ︿ 全 注 釈 ﹀ が 指 摘 す る 通 り 、 女 性 の 往 生 に は 男 性 に 比 べ て 障 害 が 多 い こ と を 意 識 し た 本 文 で あ る 。 ︻ 一 九 ︼ に は ﹁ 竜 女 が 成 仏 な り け む に も 劣 ら ざ ら ま し 。 い み じ か り け る わ が 後 の 世 を 妨 げ む ﹂ と あ り 、 女 性 の 成 仏 の 困 難 さ に つ い て 述 べ ら れ て い る 。 ○ 才 な ど も い と 深 う ぞ │ ﹁ 才 ﹂ は 仏 典 に 関 す る 学 識 の こ と 。 ○ 聞 き 所 多 く 語 り 聞 か せ 奉 る を │ 聖 か ら 中 納 言 に 聞 く 価 値 が た く さ ん あ る よ う に 語 っ て 、 お 聞 か せ 申 し 上 げ る の を 、 の 意 。 本 作 品 に お け る ﹁ 聞 き 所 ﹂ の 用 例 に つ い て は 、 ︿ 全 注 釈 ﹀ お よ び 中 西 健 治 ﹁ 語 彙 ・ 語 句 に 関 す る 論 考 ﹂ ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 の 研 究 ﹄ ︵ 大 学 堂 書 店 一 九 八 三 ︶ に 詳 し い 。 ○ め づ ら し く あ り が た き 御 契 り │ 吉 野 尼 君 の 数 奇 な 運 命 。 本 作 品 に お け る ﹁ あ り が た し ﹂ 用 例 は 三 十 六 例 あ る 。 ○ 背 き て も こ と わ り な り け る 御 身 か な │ 吉 野 尼 君 が 俗 世 を 背 い て 尼 に な ら れ る の も 道 理 で あ る 御 身 の 上 で あ っ た な あ 、 と 中 納 言 が し み じ み と 感 じ 入 っ て い る 。 ○ わ ざ と か く 尋 ね 参 り た る を ⋮ ⋮ 心 も と な か ら ま し を │ 吉 野 尼 君 が 遠 く に い ら っ し ゃ る の で あ れ ば 、 再 び あ ち こ ち 尋 ね て お 伺 い し よ う と 思 っ て も 不 安 な 気 持 ち が す る で し ょ う に 、 と い う 意 。 ○ 御 消 息 │ 唐 后 が 日 本 に 渡 っ た 母 ︵ 吉 野 尼 君 ︶ に 宛 て た 手 紙 。 こ の 後 の 本 文 ︵ ︻ 七 ︼ ∼ ︻ 九 ︼ ︶ で も ﹁ こ の 御 消 息 ﹂ と 繰 り 返 さ れ る 。 巻 二 ︻ 四 四 ︼ ︻ 四 五 ︼ で 中 納 言 が 見 た も の と 同 じ で あ る 。 ﹃ 浜 松 中 納 言 物 語 ﹄ 巻 三 注 釈 ︵ 一 ︶ 二 二

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