症例報告 ミニプレートタイプの矯正用インプラン
トアンカーを用いて小臼歯非抜歯で治療した叢生症
例 : 大臼歯を遠心移動する場合の治療ゴールの設
定に関する一考察
著者
八幡 葉子, 五十嵐 薫
雑誌名
東北大学歯学雑誌
巻
30
号
1
ページ
21-29
発行年
2011-06-30
URL
http://hdl.handle.net/10097/54262
小臼歯非抜歯で治療した叢生症例
-大臼歯を遠心移動する場合の治療ゴールの設定に関する一考察-八 幡 葉 子,五十嵐 薫東北大学大学院歯学研究科 口腔保健発育学講座 口腔障害科学分野 (主任:五十嵐薫教授)
Non-extraction onhodontic treatment of a crowding case uslng miniplate anchorage
Consideration of treatment goa一 setting by distal movement of mo一ars
-I
Kaoruko Yahata and Kaoru lgarashi
Division of Oral Dysfunction Science, Departmem of Oral Health and Development Sciences,
わhoku UniveIS巧y G胎duate School of Dentistγ
(Chief ・'Prof. Kaoru lgarashI)
Abstract : A case of crowding in the upper and 一ower anterior teeth was ohhodonticaiiy treated without extracting premoiars, using miniPiates imp一anted in the basai bones of the upper and 一ower molar regions aS an abso一ute anchor for distai movement of moIars・ As a resu一t, good a一ignment and occiusion of the anterior teeth were estab一ished and the son tissue profi一e was improved・ A一though the posterior occIusion was a一so improved, the mo一ar re一ationship showed siight Angie C一ass Ⅲ on both sides, due to an insu冊cient amount of distai movement of 一ower moIars. The occiusion is stab一e one year a什er debonding. When distai expansion of denta一 arch with miniPiate anchorage is pianned言t is impohant to set an attainab一e treatment goa一 based on the exact estimation of possib一e distal movement of mo一ars.
Key words : miniPiate anchorage, treatment goa一, non-extraction, distaIization of mo一ars
緒 看 近年,矯止用インプラントアンカー(以下インプラントア ンカー)を暫間的に用いた矯正治療が広く行われるようにな り,良好な治療結果が多数報告されるようになったl)。しかし, 治療ゴー)レの設走法や具体的な治療の進め方に関する情報は 少ない。 今回提示するのは,上下顎前歯部叢生を大臼歯の遠心移動 により小日商非抜歯で改善した症例である。上下顎臼歯部基 底骨にプレートタイプのインプラントアンカーを埋大して確 実な固定源を設定したものの,下顎大臼歯の遠心移動量が不 十分となり,臼歯部の近遠心的岐合関係の改善に制限を及ぼ す結果となった。本報告では,インプラントアンカーを用い た矯正治療の予知性をさらに高め,より確実な治療結果を達 成するための一助となるよう,本症例の治療経過を振り返り, 特に大臼歯を遠心移動する場合の治療ゴールを設定する際の 留意点について考察した。 21 症 例 初診時年齢16歳4カ月の男子で 凹凸歯および前歯が較 み合わず,物を噛み切ることができないことを主訴として来 院した。既往歴として, 3歳の時に全身麻酔下にて石庚化上 皮種摘出手術を受けたことがあるが その他に特記すべき事 項はなかった。家族歴としては,父,柿,妹が叢生であり, 姉と妹は矯正治療を行っている。本人も, 10歳8カ月時に 一度矯正治療を始めたが本人の非協力により中一正している。 1,顔貌所見(図1) 正貌は左右対称,側貌はStraighttypeで 口唇閉鎖時にわ ずかに顕部の緊張が認められた。 2,口腔内所見(図2)
臼歯関係は両側ともAngle C一ass liI, Ove蒔tは6mm,
Overbiteは2mmであった。上下顎前歯部に軽度から中等度
の叢生を認め,上顎右側側切歯,犬歯と下顎右側中切歯,犬 歯が反対岐合を呈し,顔面正中に対して上顎歯列正中線は
22 八幡薫子ほか 東北大学歯学雑誌
図1.初診時顔貌写真
・∴:鶏/∴ 劔 劔 メ 辻メモ ヘゥEXヲノvィトHシ ∴∵∴ 一緒-一宮= ∴∴ ーtrg-懸- 鰭 オ N[i:ヌイヨ辻メィ鮎 Δリ曳ネ ∴ ∵: 響 i議畿 凵轡糞i 劔∴- 灘 8+Y:mDhJ 剴蘋_
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図2,初診時口腔内写真
1 mm,下顎歯列正中線は3mmの右方偏位を示していた。 上顎左側側切歯と下顎左側犬歯にごく軽度の早期接触があっ
たか 下顎の偏位は認められなかった。 Arch 一ength
discrep-ancy(ALD)は,上顎が-6,5mm,下顎が-7.6mmであった。
3,側面頭部X線規格写真分析結果(図3,秦)
骨格系では,上下顎骨の前後的位置はANB 2,20, AB to OP
d肝erence -0,8 mm, CdGn-CdA41,2 mmと, skeietai C一ass
Ⅲ 傾向を示しており,上顎骨は, AノーPtm′ 51,0mm, ∠SNA 86,20と,大きさはやや小さく位置は前方位で 下顎骨は Gn-Cd 138,9mm, ∠SNB 84.00と,大きさは大きく位置は 前方位であった。菌糸では, UltoSNが120,50と2SDを超 えて唇側傾斜しており, Ll to Mand,pi.は88.80で-1 SDを 超えて舌側傾斜を示していた。 4,パノラマX線写真所見(図4) 上下顎両側第三大臼歯の存在が確認された。その他,歯の 形態,数の異常等は認められなかった。 5,手根骨X線写真所見
sesamoid bone (+), MP3 i stage, Radius iJ stageであり,
Tanner-Whitehouse 2 HW2)法でBone ageはAdultと判定さ
れた。
診断,治療方針および治療経過
I,診断
きメ 子ヽ 剞ッ i … ∼ ∴∴
88弼 劍
EX
千_ 氏 千 ? + Cーoes一 級 上下顎両側第三大臼歯を抜去し,上下顎両側白歯部基底骨に埋大したミニプレート(ORTHOANCHOR⑧ SMAP system,
Dentspiy Sankin, Japan)を固定源として上下顎両側臼歯部の
遠心移動を行うこととした。遠心移動により得られたスペー スを利用して,上下顎前歯部の叢生,上顎中切歯の唇側傾斜, 右偏した上下顎正中線の改善をはかり,両側ともにCIassi の岐合を獲得する。 ∴ @ 剪 剪 徹 儼 唸 i}澱 梭R 劔 -i遷繊一一i織1.a .∴∴ i愁--、 Δノ章子 一編 ∴一言∴/「.∴ 劔 ・∴∴/〟 ケdィ h クョ ゥEV抹 襄 劔 劔 図3.平均顔面頭蓋図形(CDS)分析結果 表 側面頭部X線規格写真分析結果 図4,初診時パノラマX線写真 計測項目 標準値 SD 初診時 動的治療終了時 保走開始1年後 ∠SNA ∠SNB ∠ANB Mand.pI.to SN FH to SN Ul toSN Ll to mand.pi Gonial angie AB to OcclusaI pi Wits) (Cd-Gn)-(Cd -A) N-Me N-ANS ANS-Me A'- Ptm′ Is-Is Mo-Ms Gn-Cd PogノーGo Cd-Go iHi′ Mo-Mi - - - m m m m m m m m m m m m m r・I。-9-9-バード バーI。-m m m m m m m m m m m m m 82,6 80,3 2.2 31.8 5.8 105,8 94.7 120,7 137,3 61.7 76.5 52.9 31.7 26.5 130,9 83,7 69,6 48,0 37,7 5 3 2 2 8 8 0 0 3 3 2 6 2 6 5 7 3 」 」 0 」 3 」 3 3 6 2 5 3 5 3 3 2 4 4 5 2 2 * * * * 2 0 2 3 5 5 8 0 8 2 4 9 7 0 7 4 9 2 0 7 7 6 4 2 0 1 0 8 3 0 1 5 5 0 1 3 7 8 9 0 8 6 8 8 3 1 2 8 2 一 4 4 6 8 5 3 2 3 8 7 4 3 i- 01 ○ ー ○ ー **** 2 」 2 6 5 3 2 7 4 3 7 0 9 0 8 0 8 4 9 7 6 6 4 2 0 1 2 5 2 4 3 8 6 3 1 5 8 0 9 1 9 8 8 8 3 1 1 9 2 一 4 4 6 8 5 3 2 4 8 7 4 3 ○ ー ○l O1 01 * * * * 3 6 7 3 4 4 5 3 3 7 8 8 2 3 5 6 6 0 5 8 6 6 3 2 1 1 2 5 2 3 3 0 6 5 2 6 8 3 2 2 9 8 8 8 3 1 1 9 2 一 4 5 6 8 5 3 2 4 9 7 4 3 o1 01 ○S ○1 *FHtoSNの値が2SDを超えて大きかったため,補正値を示している。
24 八幡薫子ほか /- 0 - ;'閥 ( i !∴一、- ヾヽ ヽ †千千 ヽJ ∼,節 I1.:′ 1.5mm 章 ′ 千 ヽ I \∴ー 憧 ヨメ 図5.初診時と治療ゴールの重ね合わせ(側面頭部X線規格写真トレースとオクルゾグラム) 皿 治療ゴール(図5) 上顎は中切歯を1,5mm舌側-移動させたところをゴール とし,叢生を解消しつつ配列することを考慮して大臼歯部で 2mmの遠心移動量とした。下顎は上顎に合わせて適切な前
歯部の被蓋とAngie C一ass iの較合を獲得するため,正中を
補正した上で中切歯を1 mm唇側にフレアさせた位置をゴー ルとし,大白歯部においては右側で4mm,左側で2mmの 遠心移動量を設定した。 1V 治療経過 上下顎両側第三大臼歯抜去後,上下顎にマルチブラケット 装置を装着し, ieveiingとaiignmentを行った。装置装着か ら4カ月後に,上下顎両側臼歯部基底官にミニプレートの 埋人を行い,プレートの安定を確認した後に臼歯部を一塊と した遠心移動を開始した。上顎白歯部の遠心移動を行う際の 大臼歯の捻転を防ぐためトランスパラタルアーチ(precision iinguaiarch)を装着した。上顎は右側が4カ月,左側が7カ月, 下顎は右側が6カ月,左側が6カ月で遠心移動を終了し, 前歯部叢生の改善,正中の補正,大臼歯部の適切なbuccai jetの付与を行った。下顎臼歯部の遠心移動が遅延し,大臼 歯関係の改善が不十分であったが,下顎第二大白歯と下顎枝 前縁との位置関係(図6)や同歯遠心部の軟組織の状態(図7) から,これ以上の遠心移動は不可能と判断し,治療を終了し た。動的治療期間は2年11カ月であった。保走には,上顎 にcircumferentiai typeの可撒式リテ-ナ-を,下顎犬歯問に 東北大学歯学雑誌 戴∴ -∴ 剪 剔ヤ一一_轡i轡 ∴∴∴ :/∴∴∴「 劔 ;bメメメメヨ侭 F ノネ倥「メ貞 ロメ 澱 :∴∴∴∴ .一蹴聞離籍輪湖態 劔剄剥_一-i績 --,:i:一一一1-: 劔劔 I.-.銀.一、---- 図6.治療中パノラマX線写真 図7.治療中口腔内写真
図8,動的治療終了時顔貌写真 I 「. :∴ -∴ iI_41 劔X耳エF舒轡ノ ∴∴ 瀕. ノ 〕∴∴仁多勿 劔劔 剪 騒腰轢 劔劔劔 響 劔劔 ∴∴ ∴∵ 劍 h+ク h 劔劔劔 剿佝耳耳示 カ ∴: 一%:∴: 凵 劍 Κ HエXトId嬰B ク モ ル*「 劔
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∴∴ -i'源一--一一 劔 図9。動的治療終了時口腔内写真 0 N ワr r " ョ ツ ツ 鳴 メ褶ヨ定カ ネ ツ ( "イ 園田 " H 咾リ 8 ツ Bツ i 、←、一一、 jB ("ZHク H-cメ粨 ?v ぴリぺ 一 ′∴ヽ 綏リ" "( " r 92 m 了ニこ 唸 " ニ 爾 r ツ 尾ル イ ∼ 捕 図10,初診時と動的治療終了時の重ね合わせ(側面頭部X線規格写真トレースとオクルゾグラム)
26 八幡葉子ほか リンガルボンデッドリテ-ナ」を用いた。 V 治療結果 ー 1,顔貌所見(図8) 上唇の突出感が軽減され,口唇閉鎖時の緊張もなくなった。 2,口腔内所見(図9) ove蒔t 2mm, Overbite 2,4mmとなり,上下顎歯列の正 中線は顔面正中に一致した。叢生は解消され,前歯部の岐合 関係は正常となった。一方,大臼歯関係は改善されたものの わずかにAngieCiass iiiを呈した。 3.側面頭部X線規格写真分析結果(表) 骨格系の変化として, Gn-CdとCd-Goがそれぞれ約2 mm増大し,それに伴いN-MeとANS-Meがそれぞれ約3 mm増大した。上顎骨に関しては,サイズ,位置ともに変化 は見られなかった。一方,歯系の変化としては, UltoSNが 120,50から112,30と1 SD内の値になり, Ll toMand,pLは 図11.動的治療終了時パノラマX線写真 東北大学歯学雑誌 88.80から95.20と適正歯軸になった。 4,初診時と動的治療終了時の重ね合わせ(図10) 上顎では,中切歯は初診時と比較して3,5mm舌側に傾斜 移動し,大臼歯部では2mmの遠心移動が確認された。下顎 では,下顎骨が垂直的な残余成長を示し,それに伴い下顎大 白歯都南の増大が認められた。中切歯は唇側にフレアするこ となくその位置を維持し,大臼歯部では右側が3mm,左側 が1 mmの遠心移動が確認された。 5,パノラマX線写真所見(図11) 歯根の平行性に問題はなく,歯槽骨レベルの変化なかった が,上顎両側側切歯根尖部に吸収像が認められた。 Vl。保定中の変化(図12-15) 動的治療後1年が経過した時点で 下顎官にわずかな残 余成長が認められたものの,骨格系ならびに歯系の変化はほ とんど認められず,岐合状態は安定している。 黎繋ノ ニ蘭∴∴ 勍∴∴∴∴∴ 劔劔 剪 ∴∴ ら:∴ 剴ャ} 唸 i+ ぺ ぺ Sル ケ>Ygツ 剪 発議^---i----a 凵 /ケ∴ 剋] ∴∴ ∴∴-:轡「 剪 :∴ クヒ ケ4イⅶ繭I 劔獲ー_響 i憶測 ∴∴: 剪 」Cィ 價驃リ 耳耳爾 剴ィ 唸x hx トB ・〟 iB__- 剔fし感 「∴ 源熱源饗一, 澱犠轟-繊泡 ∴ メ貳V椎 ) り ィ馗」B 緩 轢 Z" 図12,保走開始1年経過時顔貌写真 ∴∴∴ 劔 剽E馬i 藤懸擬駿1- 剪 劔 :.:/∴ ・/〟 劔 イ 冓---護綴透 劔
ーri} 劍コリ褪 > >R iF一議 ii轡 亦リノツメメヤ坪リ翰 剩X議ー ぴテゥ-Bツ 劔劔 ・% し,tt_i 劔ルクノツ剪ソ::一十一 劔劔 i,-_-.__醗 劍トI:ネトB ∴ Κ ・4, 劔劔 -鰭- 麗欝闇欝※轍彊 劔劔劔 劔 リス育 鰭J-fF " ∴夕鶴∴ ir-.g 麟 Hリハ$討 ∴: b 鰻iiき 堰 槌舒B 亦 -B シ oB トィ 2 剪 4!∴;∴∴ 梯 劔 冰i>R 劍 剪 ィ 醗躍艶麗曝露一一灘J-*-- :∴∴: 劔劔剪 ∴-!∴∴∴∴∴〟 Y>ァメ ぺ R Κ h …`銀製塑 藤懸'∴∴「.〟 闘職責 鶴.∴∴ 饗懸 aI.Irー ∴ 劔劔鐙 ぴ Δ イ ∴∴轡 願姦灘潤一一.. i憾窪、i 襲嬢BJ---.i 劔仆 「 図13.保定開始1年経過時口腔内写真
図14.保定開始1年経過時パノラマX線写真 ヽ bA 5 - - ヽ ヽ I _ノー-一一-一十 図15.動的治療終了時と保走開始1年経過時の重ね合わせ (側面頭部X線規格写真トレース) 考 察 本症例は,前歯部の凹凸および岐合不全が主訴であったた めに,上下顎両側臼歯部基底骨にミニプレートを埋大して臼 歯部の遠心移動により小臼歯非抜歯で配列を行うプランと上 下顎両側第-小臼歯を抜歯して前歯部の配列を行うプランの 2つを提示した。小臼歯抜歯プランの方が上顎前歯の唇側傾 斜をより改善できるゴー)レではあったものの,患者はプレー ト埋入プランを選択したため,小臼歯非抜歯で岐合を確立す る治療ゴールを設定した。臼歯部の遠心移動量については, 上顎は両側第二大臼歯の遠心に移動可能なスペースが認めら れたため大きな支障はないと判断した。一方,下顎は下顎枝 の立ち上がり部位から見て下顎臼歯の遠心移動量に限界があ ると判断し,無理のない移動量にする必要があった。また, 下顎は右側側切歯と犬歯の取り込み,右偏している歯列正中 している上顎中切歯が舌側に入りきらず,上顎中切歯軸を適 正範囲内にもっていくことが困難になる。しかし, skeietal C一ass ili傾向があるため,上顎中切歯軸に唇側傾斜が残って いても軟組織側貌を悪化させないと判断した。 治療前後の側面頭部X線規格写真トレースの重ね合わせ では,下顎第三大臼歯の抜歯によって低下すると期待してい た歯槽骨頂は実際にはほとんど下がらず,下顎大臼歯はアッ プライトされながら両側平均2mmほど遠心移動し,上顎大 白歯は2mm遠心移動して上顎切歯は3,5mm舌側に傾斜移 動していた。大臼歯の遠心移動量が大きくないにも関わらず 上顎中切歯軸の唇側傾斜が予想より改善したのは, V字型を 呈していた上顎歯列弓の拡大によるところが大きいと思われ る。上顎が予定の遠心移動量を達成できたのに対して,下顎 では両側1mmずつ少ない移動量となってしまった。その結 莱,左右の大臼歯関係は初診時に比べて改善したが, C一ass
liI傾向が残る結果となった。患者のTooth size ratioはoveraii
ratioで90,9%と標準に近い値を示しており,左右の臼歯関 係にCiass iii傾向が残ったのは遠心移動量が不十分であった ためと考えられる。本症例では下顎大白歯がそれ以上遠心に 移動しなかったことと,それに伴う治療期間の延長を鑑みて, 治療を終了することとした。それに対して,左右の犬歯関係 がほぼCiassiであるのは,犬歯の傾きや歯冠形態によるも のと考えられる。上顎切歯が3.5mm舌側に傾斜移動したた め, Ul to SNは2,2SD唇側傾斜から, 1SDの範囲内にま で改善した。これに伴い, AB to OP d冊erenceは-0℡8mm から-4,4mmへと減少し,値的にはCiassiii傾向が強くなっ た。これは唇側傾斜していた上顎中切歯が舌側-の傾斜移動 によって適正歯軸になり, Overbiteが深くなったことで岐合 平面がsteepになったことによるものと思われる。治療前後 での骨格的な変化は,下顎官の残余成長によるGn-Cd, Cd-Goの増加が認められた。 Pog/-Goならびに∠SNBの値 に変化は認められなかったことから,下顎骨は前後的な成長 を示さず 垂直方向への成長を呈したことがうかがえる。下 顎の垂直的成長に伴い,遠心移動した下顎臼歯が挺出して低 位であった下顎の臼歯部高も,治療後に適正範囲内に収まっ た。本症例では,下顎の残余成長が垂直方向のみであったこ とは,結果的に良い方向に働いた。今回患者の初診時年齢は 16歳4カ月であったが,経年的な身長増加量の推移と,手 根骨の骨年齢の計測により,成長はほぼ終了したと判断した。 しかし,下顎の残余成長が加わった場合,患者の骨格パター ンがよりCIass liIに近づくことになり,たとえ下顎大臼歯遠 心移動が予想通り達成できても上顎切歯における治療ゴール が甘くなってしまう。そのため,大臼歯の遠心移動を確実に
28 八幡葉子ほか コントロールできるメカニクスが必要不可欠である。 インプラントアンカーを利用した矯正治療に関する臨床報 告は1969年ごろからなされており2),その後ミニプレート やミニスクリューなどが用いられ,矯正治療に適した形態に 改善され,発展してきた。ミニプレートはミニスクリューに 比較して安定性に優れ,かつ,より強い力をかけることので きることから,様々なタイプの不正較合の治療や大臼歯の三 次元的移動に応用されている3 5)。しかし,その埋入,撤去 手術における外科的侵製が大きく,術後の感染管理に注意を 要するとされている6)。 sugawaraらは,ミニプレートによる大臼歯の平均遠心移 勤量は,上顎で3.8mm,下顎で3.5mmとしている7i8)。こ れは個別の治療ゴー)レに基づいて大臼歯の遠心移動を行った 結果であり,下顎大臼歯を最大7,1 mm遠心移動したという 症例もある7)。大臼歯遠心部に移動できる骨のスペースがあ る限りは,遠心移動は可能であるとされている。しかし,骨 があるからといって大きく遠心移動させるプランを立てるこ とが好ましいかというと必ずしもそういうわけではない。彼 らの報告では,上顎では平均19(8-36)カ月,下顎では 28.9 (21-39)カ月と,約2年前後の治療期間を要しており7,8), 大臼歯の遠心移動量に比例して治療期間は長くなることが予 想される。さらに,大白歯を遠心へ移動すればするほどブラッ シングが困難な不潔域へ入っていくことになり,治療後のメ ンテナンスをも考慮しなければならない。まだ 下顎前歯部 の歯槽骨が薄いCiass iiiの症例においては,たとえ臼歯を大 幅に遠心移動させることが可能であったとしても,切歯を無 理に移動してapicai baseを超えてしまう場合には歯周組織 に及ぼす影響や安定性が危惧される9)。これらいくつかの要 素を踏まえつつ,慎重に大臼歯の遠心移動量の決定を行って いく必要がある。 今回の症例において治療ゴー)レを決定する際の手順は,ま ず上顎切歯の垂直的および前後的な位置を歯軸,軟組織(特 に上蜃)との関係を考慮して設定し,次いで下顎切歯の位置 東北大学歯学雑誌 を決定する方法をとっている。設定した上下顎切歯の治療 ゴールの位置を基準としてセットアップモデルやオクルゾグ ラムを製作し,非抜歯で配列した場合の大臼歯の位置からそ れらの遠心移動量を求め,それを実現するだけの空隙が第二 大臼歯遠心部に存在するか否かを検討する。もし設定した遠 心移動量に無理があれば 小臼歯抜歯,もしくは顎矯正外科 手術など-,他の治療計画の立案が必要となってくる。このよ うな手順においては,上顎切歯や下顎切歯の限界を超えて ゴー)レを設定してしまうということにはなりにくく,無理の ない治療計画を立てることが可能である。それでも,本症例 のように期待された遠心移動量を実現できない場合もあり, 今後さらに遠心移動量の予測精度を高めていく必要があると 考えられる。現在,遠心移動量を予測する際に多く用いられ ている資料は,パノラマX線写真,側面頭部X線規格写真, 平行模型などである。特にパノラマX線写真は,上下顎と もに最後臼歯後方のスペースを評価しやすく,下顎において は側面頭部X線規格写真よりも遠心移動の予測に関する情 報は得やすいと考えられている10)。まだ パノラマX線写真 において上顎洞底が臼歯歯根間に入り込んでいるような場 令,遠心移動が困難であったり,遅延したりすることも予測 できる。最近では,コンビ-ムCT(CBCnの導入が矯正治 療に対しても盛んに行われており,歯を移動させる際の骨の 解剖学的形態の把握や,下顎のみならず上顎にインプラント アンカーを塩入する際の確認などに用いられている11,12)。こ れによって第二大臼歯遠心部の骨董や骨質,移動歯の歯根形 態などをより詳細に,三次元的に把握することが可能となっ ている。特に,上顎と比較して遠心の利用可能なスペースを 把握しにくい下顎において,顎骨の水平断面像における最後 日商の遠心根と下顎骨歯槽部後端との距離を測ることで さ らに確実な遠心移動量を見積もることができる。設定した遠 心移動量が達成可能か, CBCTから得られる解剖学的な情報 とすりあわせて治療計画を立てることが より確実な治療 ゴールの達成に結び付くものと思われる。 内容要旨:上下顎前歯部叢生症例に対して,上下顎両側臼歯部基底骨にミニプレートを塩入し,大日商の遠心移動に よる小臼歯非抜歯の矯正治療を行った。その結果,叢生は解消され,適切な前歯部の較合関係と良好な軟組織側貌を獲 得することができたが 下顎大臼歯の遠心移動量が予定した量に届かず,大臼歯関係は改善されたもののわずかに AngIeCiassiiiを呈した。動的治療後1年を経過し,岐合は安定している。ミニプレートタイプのインプラントアンカー を用いて歯列弓の後方拡大を行う際には,大臼歯遠心移動の限界量をできるだけ正確に評価した上で 達成可能な治療 ゴールを設定することが重要である。 文 献
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